タイトル:退却戦マスター:KINUTA

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/03/08 04:55

●オープニング本文


 ユーラシア。敵勢力との一進一退な小競り合いが続いている、バグアとの競合地帯。
 現在とある現地部隊は占領された一帯の奪還を試み、失敗し、退却を始めている。



 バグア勢力は見積もりよりも、はるかに多く戦力を投入してきた。
 おかげで現地部隊総崩れ。これ以上被害を拡大させないためには出直すしかない。状況に対して能力者が足りなさすぎる。

「見方が甘すぎるんじゃないかって思ってたのよ‥‥」

 スーザン・高橋は愚痴りながら片腕を縛り上げた。幾らか被弾したのだ。
 そうしながら彼女は、ここに来る前に交わした、ミーチャとの会話を思い出す。

『そうか。そこはおれの生まれ在所だな。まあ、バグアが来る前にモスクワに引越したが‥‥行くなら少し頼まれてくれるか。余裕があればだが、まだ教会が残ってるかどうか確かめてきてくれるか? おれのじいさんは神父だったんだが、死ぬまで、ずっと気にしてたからな、そこんとこ。だから知るだけは知っておきたいと思って。重ねて言うが、余裕があったらでいいからな。危険ならすぐ引き下がれよ』

 教会は無かった。
 戦略的に意味があるのか、それとも単に遊びだったのか知らないが焼かれてしまって。
 村はゲリラの拠点と化していた。家屋の壁に銃弾がめり込み、缶詰や何やのゴミが散らばり、尋常でない薄汚さ。汚水溝のような匂いさえ充満していた。
 無理もない。
 あそこに住んでいるのは、一見したところ大多数が少年兵ばかりだった。周辺の環境をどうしようかなんて、そこまで頭が回らないのだ。また、教えられもしていないのだろう。

「‥‥」

 物思いにふけりかけた彼女は、次の瞬間体ごと振り向き、左斜め上の樹上を撃った。
 額を打ちぬかれ悲鳴も上げずゲリラ兵が落ちる。機関銃を抱えたまま。
 キメラが走り、迫ってくる。
 そうだ、何か考えている場合ではない。全部本営に戻ってからだ。



「投入部隊300名のうちおよそ180名がこちらに向かって退却を始めました」

「180だと! まだ始めて半日もたってないぞ、それなのにもう3分の1近くやられたのか‥‥」

「‥‥このままでは全滅もあり得ます。彼らを無事帰還させるため、即時増援を行いましょう。残念ながらこの作戦は失敗です」

「‥‥分かった。そのようにしよう」


●参加者一覧

ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
セレスタ・レネンティア(gb1731
23歳・♀・AA
蒼河 拓人(gb2873
16歳・♂・JG
美紅・ラング(gb9880
13歳・♀・JG
ハンフリー(gc3092
23歳・♂・ER
空言 凛(gc4106
20歳・♀・AA
那月 ケイ(gc4469
24歳・♂・GD
ラーン=テゴス(gc4981
17歳・♀・DG

●リプレイ本文

 敗走する第1陣の殿には、ロジー・ビィ(ga1031)、そして那月 ケイ(gc4469)がいる。そこへ恐竜型キメラが吠えながら、ぐんぐん近づいてくる。

(これ以上やらせない、やらせてたまるか‥‥!)

 キメラが立ち並ぶ幹の間に姿を現した瞬間を狙い、ケイが、「シエルクライン」での牽制を行う。キメラはそれを受け、枯れた木立を盾にするよう跳び下がった。
 すかさずロジーは「花鳥風月」で、その木のみならず、威力の届く範囲の木々をなぎ倒した。もちろん森の中なので、きれいに全てが地面に転がるとはいかなかったが、それでも視界が一気に開ける。キメラの位置も掴み易くなる。
 折よく潜んでいたゲリラが巻き添えをくって落下したらしい。ドサリと音がし、うめき声が上がった。

「これで奇襲の危険は少し下がりましてよ」

 ロジーは駆けながら、「M−121ガトリング砲」で掃射を行う。前方のキメラのみならず後方のゲリラをも近づかせまいと。先程声がした方を、無論重点的に。

(早く‥‥部隊を安全な本陣まで届けなければ。でも。焦りは禁物ですわね。こう言う時こそ、良く周りを見定めませんと)

 集団がばらばらになったらおしまいだ。まだ今のところ部隊は、潰走にまで陥っていない。しかし秩序は刻々変化する。油断はならない。
 回り込んでいたか、横合いから矢のように1匹キメラが滑り込んできた。
 一般兵の脇腹目がけて足を繰り出す前に、急遽ロジーが割り込む。鉤爪が浅く身を掠めるのをものともせず、相手の腹に刃を突き刺す。

「‥‥終わり、ですわ」

 間を置かず二撃に入り、喉を抉った。
 続けて複数キメラが向かってくる。右に左に激しくジグザグに走り、被弾を回避しようとしている。
 ケイはそれらの注意を自分に向けさせる。

「こっちだ!」

 3匹がケイに向け方向を変えた。
 迫り来る蹴りをケイが、「カミツレ」で迎撃する。ロジーのガトリングがもう1匹を砕く。
 セレスタ・レネンティア(gb1731)は「サブマシンガン」で、引き付けられなかったキメラ目がけ連射を行っている。

「追い付かれるとまずい、食い止めなければ!」

 支えの足を砕かれ前のめりになったところ、頭を狙う。雪の上に赤が弾けた。
 手榴弾が数個同時に飛んでくる。
 ハンフリー(gc3092)が「扇嵐」で突風を起こし、その軌道をそらす。手榴弾はあさっての方向で立て続けに爆発した。音無しに飛んでくるボウガンの矢も同じ方法で防ぎ、飛んできた方向を見定める。
 後ろ方向からではなく、横方向からだった。どうやら、通常攻撃の効かない能力者ではなく、一般兵をより意識して狙いを定めているらしい。
 部隊も同じことに気づいたかそちらへ銃口を向け、雨あられと乱射が始まる。

「あせるなあせるな! 無駄弾になるぞ! 列を乱すな! 移動を止めるな!」

 部隊長が叫んでいる。とはいえ兵は恐怖心にかられ過敏になっているのか、なかなか発砲が止まない。ハンフリーはそれを抑えるため、盛んに声かけを行なった。

「大丈夫だ、増援が必ず来る! もうこちらに向かっているとの連絡がある――」

 加えて周囲に潜んでいるゲリラの警戒も怠らない。子供なだけに、大人には入れないような場所に隠れられる可能性がある。

「――!」

 次の瞬間部隊の通過点目がけ、また手榴弾が投擲されてきた。日の光にきらきら光りながら。ハンフリーは竜巻を巻き起こす。
 ロジーがいくつか狙い撃ちを行い、落ちる前に爆破させる。
 ハンフリーは残りを竜巻にてばらけさせ、直撃を避ける。樹上の裏に隠れていたゲリラを叩き落とす。
 いっぱしに武装している8、9歳ばかりかと思われるゲリラは、落ちた衝撃で顔を歪めたが悲鳴一つ上げず迷いもなく、近づいてきたハンフリーに向け引き金を引こうとする。
 だがそのときにはすでに、「莫邪宝剣」に身を貫かれていた。

「嫌な目だな。陳腐な表現だが、安っぽいガラス玉のようだ」

 ゲリラは全身を激しく震わせ、白目をむいて崩れ落ちる。

「人生を楽しむ事を知らず、知ろうとする事すら知らず、ただ生きているだけか。哀れとは思わんが、気に食わん」

 吐き捨てるハンフリーは背後に向き直った。セレスタの以下の叫びに応じ、援護に回る。

「猛攻を受けています、援護を!」

 なるたけ負傷した兵に肩を貸し、一同先を急がせるも、キメラは後から後から引きも切らず追ってくる。



「ちっ。本当なら侵攻作戦第2陣として出撃するはずだったのによ」

 「リンドヴルム」に跨がるラーン=テゴス(gc4981)のぼやきには、同乗している美紅・ラング(gb9880)が応える。

「ふむ、侵攻も撤退もやることは同じである」

 先陣が脆くも崩れ去ったについての感想は、特にない。自分がやることやれることに変化はないのだから。
 バグアを狩る。これ以上殺させはしない。それが救援部隊における、美紅の至上命題だ。
 本部から狼煙が上がり続けているので、森にいる仲間も撤退の正確な位置を把握可能なはず。
 間欠的に爆発音が響いている。
 頭に叩き込んだ現場地理を元に彼女は、ゲリラ部隊の背後を突く作戦に打って出た。現段階での戦闘場所を大きく迂回し回り込む。現場から逐一情報は入っているので、敵の分布する位置は、おおむね当たりをつけられる。

「このへんでいいか?」

 目的の地点に達したところで降ろしてもらった美紅は、ぶっきらぼうに礼を述べた。

「移送協力感謝する。貴公の健闘を祈る」

「はいよ。そんじゃここから、あたしはあたしで行かせてもらう。2足歩行恐竜キメラ‥‥か。機動性高そうだな」

 言いながらラーンは「チェーンソード」を手に、キメラのいるだろう方向へとって返して行く。
 「ケルベロス」と「ブラッディローズ」を携えた美紅は、ゲリラの後を追い始める。
 彼女らがそうやって後方から仕掛けに行っている間、蒼河 拓人(gb2873)と空言 凛(gc4106)もまた行動していた。
 先行しているのは拓人だ。

「依頼で受ける仕事は久しぶりだね。自分のすることは何も変わらないけどさ‥‥っと、感傷に浸ってる場合じゃないね」

 双眼鏡を使い隠密移動を続ける彼は、無線で盛んに連絡をとる。

『こちら増援要員のLH傭兵だ。今から援護を行う』

 森の入り口に発煙筒を設置したので、退却路はより明確になったはずだ。友軍からもゲリラからも。

(早く助けに行ってあげなくちゃ‥‥ああ、あと次のためにも出来る限り敵も倒しておかないとね)

 拓人は友軍撤退路からそれた位置に、進路を取る。狙撃に適した場所を選びながら――狙うのはゲリラだ。
 凛は森のとばぐちでバイクを乗り捨て、増援部隊とともに、正面から向かって行く。

「180人を追う敵か。なかなか面白そうだな!」

 北海道出身の凛にとって、雪道など慣れたものだ。ましてそう深く積もってもいない。
 どん、とまた爆発音がした。

「おー、派手にやってんなぁ。遊撃はあっちに任せて、こっちは護衛でもするかな」

 凛は地面に注意深く視線を注ぐ。

「‥‥足跡があるな」

 今日は雪は降ってこない。だから踏みしめた跡が残る。仲間のものや自分のもの、それ以外のもの。

「泥混じりの雪道で、隠密行動ができると思ってんのか?」

 痕跡を紛らわせようとはしているが、何分子供と大人の足では大きさが違う。完全に同化させるのは難しい。雪や雨が降り続いているか、あるいは地面が露出して乾いているかであれば、また違うだろうが。
 思いながら凛は手持ちの閃光手榴弾のピンに指をかける。警戒しながら走って行く。



「皆前を向いていてください!」

 ケイが叫んだ後、場に光と音が炸裂した。閃光手榴弾が炸裂したのだ。
 屋外であり昼間であるということもあり、効果は絶大というほどではなかったが、それでもゲリラ前衛の足止めにはなった。目がくらみ足を止めてしまった彼らの額を、ロジーが撃ち抜く。
 視界がきかないまま突撃をしようとしてくる1人を、ケイは「カミツレ」で迎撃した。機関銃が真っ二つになる。持ち手と一緒に。
 そのまま彼は相手を、渾身の力でもって蹴り飛ばした。反射的に逆の手で手榴弾のピンを抜き、投げ付けてこようとしたのが見えたので。

「俺はまだ死ねないんだ‥‥悪いな」

 ゲリラは、自ら爆発に巻き込まれ吹き飛んだ。
 物音にも動揺することなく、キメラが乗り越えてくる。
 ハンフリーは蹴りをなるたけかわしつつ、そのアキレス腱目がけ、「莫邪宝剣」を振るう。転倒した所、急所にえぐりこむ。



 撤退最前線の横に位置した拓人は「アンチマテリアルライフル」を据え付け、早速攻撃を始めた。無線からの情報、地形、戦況を鑑みた上で撃つ。見えているものはそのまま、見えてない位置にいるものは、跳弾によって射貫く。
 それと時をほぼ同じくして、追いすがる敵のそのまた後方から騒ぎが起きた。
 ゲリラが隠密行動を半ば放棄したように接近してくる。美紅の銃撃に追い立てられて。
 美紅は貫通弾を使い、的確にゲリラを負傷させていた。殺しはしない。目的は個々の殺傷ではなく全体の撹乱にある。

「待てやばい、前に出るな!」

「だって出なきゃ‥‥あっ」

 自分たちの間近に迫ってきたゲリラに、キメラはぎろりと視線を向け、次の瞬間攻撃を始めた。単なる人間である彼らは兵士たちがそうであったように、手も無く八つ裂きにされてしまう。
 裂いた体を食うでもなく振り回して投げ飛ばし、キメラが高声で吠える。騒ぐ。どうやら、味方と敵の区別がほとんどついていないらしい。
 とにもかくにもこの一種の仲間割れは、退却部隊にとって有利に働いた。
 キメラの注意が一時的にそれている間、なお先を急ぐ。
 行く手で閃光弾が炸裂した。続けて木が、メキメキ倒される。

「ガキ共は少し黙ってな!」

 それは凛の声だった。どうやら潜んでいたゲリラ相手にやらかしたものらしい。

「手応えねぇな。ま、フツーの人間ならこんなもんか――さぁて、暴れるぜ!」

 増援部隊と共に合流してきた凛は、キメラに向かって「コーラルナックル」の拳を叩きつけた。拳で相手の肉をひしゃげさせ、骨を砕く。
 応援が来たので、セレスタはひとまず負傷者の援護を任せ、敵への攻撃に専念した。

「敵です、援護します!」

 顎を開いて至近距離まで跳躍してきたキメラを大型の「コンバットナイフ」で迎え撃つ。真っすぐ腹部に向け蹴り上げられてくる足を避け、顎の下から上に向け突き刺す。前足の爪が腕に食い込んだが、引かず押し込み、倒す。
 ゲリラ部隊の混乱が確認出来たところで美紅は、キメラへの攻撃に転じた。目を狙って撃つ。
 数匹命中し、群れの動きが鈍ってくる。目がつぶれたキメラが痛みのあまり混乱したか、同族に噛み付き蹴り上げる。
 そこへけたたましいチェーンソードの音とともに、ラーンが入り込んできた。

「ウイリィィィィ」

 ラーンの戦い方はシンプルかつ、すさまじかった。両手のチェーンソードによる斬撃は、めったぎりと称していいほどのものだ。対したキメラは、腹と言わず足と言わず刻まれ、雪の上を汚していく。
 追い立てられキメラと同空間に収まる羽目になっていたゲリラをもラーンは、いっしょくたに斬る。

「てめぇらは惨めに赤い染みになるんだよ」

 彼らは敵であり危険だ。助からないと分かった上でなら、死に物狂いでの特攻も仕掛けてくる。ナイフも機関銃もボウガンも手榴弾も、能力者には致命傷になり得ないが、そうでない人間には脅威。であれば、排除しなければ。
 ゲリラの追い上げに成功した美紅は、そのまま部隊の最後尾に合流し、防衛の一端を努めていた。貫通弾でキメラの顎から吹き飛ばしている。
 友軍と傭兵たちは森の出口付近まで来た。

「死にたくなければ全力で走れ。後ろを振り返る必要はない」

 うそぶく拓人は殿が通り過ぎて行った所で反転し、大急ぎで移動して行く。目星をつけた狙撃地点――本陣から上がる狼煙も部隊の位置も、追う敵の姿も、一望できる場所に。
 遠方射撃を阻止しようと考えたのだろう、拓人のいる方向へゲリラが、一部戦力を割き向かってきた。

「いたぞ、一人だ!」

「やっちまえ!」

 あれだけの攻撃を受けてまだ戦意が衰えていないらしい。異常といえば異常だが、戦場では極度に珍しいことでもない。恐怖や苦痛を感じさせないようにするすべを、敵は知っているはずだ。

「なるほど、キメラより道理は分かってるんだ。だけど、子供の浅知恵だな」

 拓人は即座に機動性のある「ターミネーター」に切り替え、雨あられと弾丸を浴びせた。あちら側から向かってくる通常兵器の弾丸を無視する如く。

「悪いな。君達には可能な限り死んで貰わないと困るんだ」

 先頭が森を抜けた。
 見通しのいい荒れ野。行く手には鉄条網と分厚いコンクリートの壁に守られた基地がうずくまっている。
 兵士たちはそこを目指して一目散に駆ける。
 最後尾の兵が森を抜ける。
 安全地帯に入るまで気は抜かないながら、傭兵もまた続けて脱出する。ロジー、セレスタ、拓人、ケイ、ラーン、美紅、ハンフリー、そして。

「よしっ、壊れてない!」

 バイクの回収を抜かりなく行う凛を筆頭に。
 ゲリラもキメラも、森から出て追いかけては来なかった。そういう命を受けているのか、単に敵地で不利だと思っているのか。射程の届く範囲の間だけ銃撃や投擲を行っていたが、やがてそれもすぐ絶えた。
 本部に着いたところでセレスタは、迎えに出た将官に敬礼し告げる。

「作戦終了です」



「――というわけで、教会は燃えてしまっていて、なかったわ‥‥」

「焼けてたか。バグアってのはしょうがねえな全く」

 スーザンの報告を聞きながら負傷兵の手当をしていたミーチャは、ふとケイの方を向いた。

「お前はどこかやられてないのか。顔色が悪いが。能力者と言っても人間だからな、通常の手当もおろそかにしないほうがいいぞ」

「‥‥あ、いえ。おかまいなく」

「そうか。まあなんかあったら早いうちに言ってこい」

 ミーチャはすぐ離れて行く。
 ラーンが代わって話しかけてきた。

「なんだ、ケイ、敵のことでも気にしてんのか。しゃあないじゃん。なんとか追加損耗を出さず戻ってきたんだからよしとしなきゃ。増援部隊に礼も言ってたじゃないか、さっき」

「‥‥ああ。そうだ。確かに」

 頷いたケイは長い間を置いて、ポツリと言った。

「もう慣れたと思ってたんだけど、な‥‥」

 それを聞いてラーンが肩を竦める。気にし過ぎだよと。それからこう続け、背を向ける。

「あたしに優しさなんて無いからね」