●リプレイ本文
●キメラ到着前。
「匂いだけでももの凄いな‥‥。‥‥コレ食べんのか‥‥まあ、構わんけどね」
鈴木庚一(
gc7077)はティム・ルーバス(
gc7593)を見る。
彼はマイスプーンとマイフォーク、マイナイフも持ってきており、準備万端ぬかりない様子。カラフルな粉砂糖てんこもりのドーナツを口に、顔中でにこにこしている。
「僕の故郷の味だーっ! この焼け付くようにあま〜いのが堪らないんだよねっ」
蕾霧(
gc7044)も檄甘党の名に恥じず、蜂蜜とホイップクリームをあしらった座布団のごときパンケーキを食していた。
「レオポールには感謝だな、懐具合を気にする事無く、存分に甘味を食せる機会をくれたのだからな」
そのレオポールといえば、ドリンクスタンドの前で毛を白くし、鼻先をコーヒーカップに突っ込んでいる。
「なんでなに食っても同じ味なんだよ‥‥」
一方月読井草(
gc4439)は。
「あまーい! 甘すぎる! 砂糖は甘い、佐藤は私、苦くてなんぼ、苦くてなんぼ、苦くてなんぼのコーヒー豆ぇぇ!」
多少錯乱気味だった。コーヒーで口を落ち着けたものの、息の荒さは止まらない。
緑だの青だの紫だの食欲を減退させる色彩の中まだマシかと思われる黄色に手をつけてみたのだが、噛み締めた途端スポンジの中で溶け切ってないザラメが、じゃりじゃり音を立てた。クリームも激烈に甘く、しかもミント風味がした。
このケーキを壁に向かって投げつけるってのは有りだろうか。
そんな誘惑に駆られつつ彼女は、闊歩しているイベント関係者の袖を引く。
「酒とツマミは無いの? 無いですか‥‥」
そんな会場入り口にはいつのまにか、『どんなにスイーツを食べても太らない薬! 無料お試し会』という看板が楊 雪花(
gc7252)によって設置されている。
「皆ガ身体に悪いものヲ食べてワタシが薬を売ル。これぞWinWinの関係ネ。ヤクはやるもんじゃなくテ、売るもんだてドンが言てたヨ。全くアメリカは音に聞こえたサプリ大国ネ」
小声で本音を漏らしながら準備を終えた彼女は、早速呼び込みを始めた。
目指すのは秘薬の市場調査(人体実験とも言う)――薬が効くかきかないかより、売れるか売れないかを重要視しての。
「ハイハイ今日だけ特別、フェスティバル中今だケ特別大幅値引き、大幅値引きネ。限定500個、限定500個。中国奥地の少数民族だけガ知る漢方薬を無料お試し中ヨ。嘘だと思うなラ薬飲んでケーキ食べてみるヨロシ。脂肪分は吸収されず体の外に出て行き、身についた分も燃焼されるヨ!」
「WAO! そいつは本当かいジェシー、僕には信じられないよ!」
ちなみに隣で合いの手を入れているアメリカ人は、彼女が会場で密かに買収したサクラだ。
「YES! 薬草ハ本物、無添加にして純度100パーセントを保証するネ、ジョン! なんとこの薬効にハ、あのFBIも大注目しているコトヨ!」
馬鹿に陽気な通販トークに引かれてか、薬はすぐさま売れ出した。
そこに、遅れたメンバーが到着する。
まず門鞍将司(
ga4266)。大の甘党である彼は、甘いものが食べられるバイトという触れ込みに引かれ、やってきたのだ。うかつにも彼、乱立するポップな色合いに不信感を抱かない。
「美味しそうですねぇ。正直言いますとぉ、男ひとりで食べるのはちょっと恥ずかしいですねぇ‥‥と思いましたがぁ、他にも男の方がいるので安心しましたぁ」
腹の肉が余っている人ばかりのような気がするが、それはともかく片隅に佇んでいる知り合いに声をかける。
「レオポールさん、お久しぶりですぅ」
「‥‥おう‥‥」
「毛色がよくないですねぇ。どうしましたぁ?」
「‥‥まあ、お前もすぐに分かる」
脱色された毛を、続いて来たフェンダー(
gc6778)が挨拶がわりもふりにかかった。
「この我を誘うとは天性があるのう。スイーツ食べ放題で報酬まで出るのか、太っ腹じゃのう」
最後の最上 憐 (
gb0002)はケーキ食べ放題、おやつ代を節約出来ると意気込んでいた。物量で圧倒しようとする会場を見回し、どピンクな二段重ねケーキに挑む。
「‥‥ん。切らなくて。いいよ。丸ごと。かぶり付くから」
両手で持ち上げかぶりつくその姿は、まさしく剛の者。
「‥‥ん。甘くて。量も。良い感じだね。今日の。おやつは。ココだけで。事足りそう」
そうこうしているところに、キメラがやってきた――。
●キメラ到着後。
「おお、レオポール殿がキメラを圧倒しているのじゃ。目頭が熱くなる、強くなったのう‥‥我が育てたわけではないが」
「キメラをひとりで倒せるようになったとはぁ、随分成長しましたねぇ。その調子でぇ、どんどんやっつけちゃいましょうねぇ」
などと言っているフェンダー、将司と違い、井草はレオポールが小芝居していることにさっさと気づいた。意図についても。
「‥‥あたしも一口乗っておこうっと」
止まるところを知らないスイーツに己も辟易していたところだったので、即協力に馳せ参じる。
「こいつら相手に一人は無茶だよ犬刑事さん! ここはワンニャンで手を組もう!」
目と目で通じ合う2匹というか2人。ちょうどその時アリが細い前足で突いてきたので、レオポールは自分から転がってみた。
「ぐおおお! 油断したああ!」
すかさずその前に井草が飛び出す。
「大丈夫!? ここはあたしが!」
「サタン」の切っ先に相手の触覚を押し当て、いかにも力比べをしていますという風に演じてみる。
憐は彼らが本気ではないことを悟っていたが、ひとまず被害を拡大させないため、主催者や客等を会場の奥に移動させた。
「‥‥ん。念の為に。護衛するから。コッチに。来て。集まって」
その中にちゃっかり雪花が交じり、ビデオカメラなど回している。
「頑張るネレオポール。いい感じに撮るからサ、後でこのテープ買てネ」
「‥‥ん。一応、傭兵なんだから。戦って」
「アイヤ、ばれてしまたカ」
頼まれたならアバウトにでも戦うか。
思いはするものの雪花は、いまいち「ティルフィング」を持って飛び出す気になれなかった。誰の目にも明らかな位、敵が弱そうだったので。
「‥‥あー‥‥デカイ蟻つーのも、中々に見目が凄いやね」
といっても庚一はだれることなく、「アルファル」でちゃんと真面目に攻撃している。
「‥‥って弱いねコイツら‥‥まあ、適当にやるさ。数は多いからな。万が一被害が大きくなっても困るだろ」
この上なく簡単に倒れて行く敵の姿に、思わず知らず呟く。あのレオポールがレオポールの癖に余裕っぽい相手なんだから、当然かも知れないが。
「わぁ‥‥やっぱり庚一おにーさんは凄いなぁ」
感嘆しつつティムは、「リンドヴルム」を羽織る。
このキメラ、数は多いが的として大きいし、動きも特別早くない。落ち着いてやれば大丈夫。
「ボクも頑張らなくちゃ!」
「クロススタッフ」で、近場にいるのからまず狙いを定め、思い切って脳天に一撃振り下ろすと、コロリと倒れた。
気が抜ける強度だが、呆れているわけにもいかない。数を頼みにがさがさあれこれ食い荒らし始めているので。
「わわ‥‥あちこちに居るよーぅ。でも頑張って全部退治しちゃうぞ」
その時レオポールは、茶番をいっそう盛り上げようと吠えて威嚇していた。じりじり下がりながら。
「ここはいったん引いて態勢を立てなおそうz」
その後退が即座に止まる。蕾霧が立て続けに「梓」で2本も撃ち込んできたのだ。直に刺さりはしなかったが、それでも十二分脅しとなる近さに。
「レオポール! 貴様、真面目に戦わんか! ケーキの鮮度が落ちる! アイスが溶ける! その責任を取らせるぞ!」
「な、なんだよう、オレ真面目に‥‥」
レオポールは続けて何も言えなかった。彼女がキメラよりよっぽど怖い形相をしていたので。
耳を伏せくんくん鼻を鳴らす彼の肩を、将司がポンと叩く。
「レオポールさん、最後までちゃんと戦ってください。手抜きしたり、だらけていたらお義父さんに今日のことを全部お話しますよ。皆さんもサポートしますので、ガンガンいきましょう」
どうやら引きのばしもここまでのようだ。
憂鬱になるレオポールを、フェンダーがまたけしかける。
「アリキメラを倒さないと報酬がもらえないのじゃ。主様も言っている、金はキメラより重いと‥‥我も加勢するのじゃ!」
そしてえへんと咳払いをし、キメラの足止めを行った。
次の歌は自信作だ。メロディは「森の熊さん」
「ある日♪ アリが♪ キリギリスに♪ 話しかけましたー♪ 最近どうだい(アリボイス)♪ わりとギリギリっす♪(キリギリスボイス)」
‥‥‥‥‥‥。
皆の視線が痛い。
フェンダーがそう気づいたのは数秒後だった。
「この頭脳明晰容姿端麗国士無双の我が滑った‥‥だと‥‥馬鹿なっ! 認めぬ、認めぬわあ!」
居たたまれない恥ずかしさの憂さ晴らしに、フェンダーは「ホーリーナックル」でアリを片端から殴り倒す。
彼らはぽこぽこ倒れた。
「時間が勿体無い、さっさと全滅しろ、蟲ども」
蕾霧の矢によってもぱたぱた倒れた。
将司が練成強化でサポートし、レオポールと井草も渋々本気で戦い、雪花もそこそこ手伝い、憐も奥の方に来た分を軽く「ハーメルン」で殴りつけ――結果、飛び入り参加してきた敵は、あっさり全滅した。
●
「キメラ退治が終わりましたのでぇ、甘いものがゆっくり食べられますねぇ。ではぁ、いただきますぅ」
将司は合掌し、早速小皿に切り分けられたチョコレートケーキを食するとした。
「ケーキなんてぇ、クリスマスと誕生日、いただきものとして貰ったものを食べる程度ですからねぇ」
一口ぱくり。
甘い甘いチョコレートスポンジの中から濃密に濃いチョコレートクリームがねっとり吹き出し口中で広がる。
言葉が出るまでに間があった。
「‥‥すごく甘いですぅ」
それよりほかの感想は、ちょっと思い浮かばない。
「あのぉ、コーヒーを濃い緑茶に替えてもらえませんかぁ? ‥‥え? ない? そうですかぁ。いえ、来たからには全部食べますぅ。バイト代いただきますよぉ」
意気揚々練乳並のチーズケーキに挑んだフェンダーもまた、彼と同意見であった。
「‥‥って甘いのじゃ、凄く甘いのじゃ、超ドレットノート級甘いのじゃ。だが、慣れれば‥‥やっぱり甘いのじゃ」
少し考えた後彼女は、沈みがちなレオポールを力の限りもふりに行った。気分転換のために。
「月読殿も〜もふらせるのじゃ〜とりゃー!」
モカロールケーキという触れ込みのものを食べ、即喫煙ルームに逃げた庚一は、だいぶ間を置いて戻ってくる。
何の迷いもなくスイーツを食べているティムを眺めるその表情には、驚嘆がかいま見える。
「美味いか?」
「うん! 庚一おにーさん! これ、美味しいよっ」
お勧めを受けたのは、赤、橙、黄色、黄緑、緑、深緑、青、7色が交錯するレインボーケーキ。ホームセンターで売られているカラー粘土によく似たテリと鮮やかさ。
「‥‥‥‥」
しかし差し出されたら受け取らない訳にはいかない。
食べるとクリームの味は同一。揺るぎなく甘さを追求しているだけだ。カラーを変えたならどうして後一工夫してフルーツフレーバーでも混ぜようとしないのか。そこがとても残念だ。
「‥‥あー‥‥甘いな‥‥ティムはこういうの食って育ったのか?」
「そうだよ。えへへ‥‥何だかアメリカに戻ったみたい! もっとあま〜いのが有っても良いのになぁ‥‥それにしてもこんなに美味しいのが食べ放題だなんて‥‥幸せっ!」
無言でコーヒーをすする庚一は、再度一服しに出ようかと迷い、結局止めた。
「‥‥あー‥‥まあ、腹くくって食べますか。慣れりゃまあ、食べれない事も‥‥ない気もする様な錯覚も覚えるね‥‥」
ところでティムと同様全くへこたれていないのは、憐。次から次へと胃袋に消し、ペースが落ちてきたかと思いきや、カレーのレーションを流し込む。
「‥‥ん。微妙に。味に。飽きて来た。カレーを。飲んで。一服する」
ばかりかお皿にもあけ、そこへ投入し始めた――バニラアイスケーキを。
「‥‥ん。カレーを。掛けてみる。ケーキカレー。新しい。カレーの。可能性が。ココに誕生」
蕾霧はアレンジを加えず、超甘党の矜持を保ち、超高速であるものをあるがまま食していた。
カロリーが半端無さそうなのだが太らない体質だから、その辺一切気にしない。
「アイスケーキは外せんな‥‥チョコも当然‥‥ふふふ♪」
山盛りバニラとチョコのアイスケーキを取り分けた彼女は、隅でコーヒーの器ばかりなめているレオポールの元へ、歩いて行った。
そしていきなり長い口に、クラッシュナッツ入り特大キャラメルチョコバーを突っ込んだ。
「何すんだお前! おえっとなったぞ今!」
「いや、甘味の素晴らしさを教えようとな。来たからには食え」
諭すそこに憐もやって来た。
「‥‥ん。レオポール。沢山。食べないと。大きく。なれないよ? ‥‥人間性的な。意味で」
「うるせえよ。大体お前自分だけカレー食ってずるいぞ」
「‥‥ん。レオポール。ちゃんと。食べないと。バイト料。出ないよ?」
「もういい。家族に贈るのはお手伝い券にする」
「‥‥ん。レオポール。あーんして。口を開けて。‥‥開けないと。捻り込むよ」
「止めろ! これ以上食ったら顎が溶ける!」
「非科学的なことを言うものじゃないぞ。さあ遠慮なくこのワッフルを食え。カラメルをからめたバナナとメープルシロップとカスタードクリームのトッピングがこたえられんぞ。ホイップは増量自由だからな、おまけにつけてやろう」
言うが早いか蕾霧は、ヘアクリーム状容器に詰められたホイップクリームを、ワッフル自体が見えなくなるほどかけた。もはや優美さや可憐さなど問題にしていない。純然たる力技――それこそがアメリカンスイーツの醍醐味なのだ。
「いらねえええ!」
きゃんきゃん悲鳴を上げる犬男。
さえない顔で気に入ったケーキだけちょっとずつついて消化していく井草。
フェンダーはこっそり雪花に相談を持ちかけている。
「楊 雪花殿、我は充分痩せているのでもっとこう ボン・キュッ・ボンになる薬は無いかのう?」
「モチロンあるヨ。中華四千年を見くびらないでほしいネ。だけど‥‥また別料金になるネ。ローン組めるかナ? しかし殺人的スイートネ‥‥体のためとか微塵も考えてなさそうヨ」
結局このフェスティバルを心置きなく楽しめたのは、アメリカ出身のティム、終了時「美味かったが、少し食べ足りんな」と言い放った蕾霧、そして残り物をすべてお持ち帰りした憐だけ。後の人間はそれから3日後くらいまで、強固な胃もたれに悩まされたのであった。