タイトル:恐怖のGマスター:KINUTA

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/12 23:58

●オープニング本文


 会社員Aは、その日残業があって遅く帰路についた。
 家は郊外、車で45分。
 幸いにも明日は休日だ。ゆっくり休もう。
 そんなことを思いながら国道を走らせていたときである。彼は、何ものかの視線を背後から感じたような気がした。
 回りは田圃の広がる田舎道。対向車はあるが、歩いている人はほとんどいない。
 ふと生臭い匂いがしてきたような気がして、彼は眉を潜めた。
 ちらりとバックミラーを覗いてみる。
 もちろんなんにも映っていない。
 馬鹿な。何を恐がっているんだおれは。怪談話なんか信じる年頃でもあるまいに。
 妙な想像をしてしまった己を恥じ、それを打ち消すためカーステレオの音量を大にした。
 この道は毎日行き帰りしている道なのだから、特別なことのあろうはずがない。
 ほら、もうすぐ見慣れたファミレスの看板が見えてくる‥‥。
 瞬間、目の前がいきなり暗くなった。
 彼は見た。
 フロントガラス一杯に、逆さになった巨大な虫の顔が張りついているのを。

 「うわああああああ!?」

 男は絶叫し頭に血を上らせ、アクセルを踏み込んだ。
 虫が驚いたのかさっと離れて飛んでいったのを、彼が見ることはなかった。ファミリーレストランの駐車場に突っ込み、そこから出ようとしていた車と衝突してしまったので。
 たちまちのうちあたりは騒然となった。
 ほどなくしてサイレンを響かせ、警察車両と救急車がやってくる。


 昨晩**地区**番町のファミリーレストラン「ギャスト」某店駐車場にて自動車事故がありました。加害者、被害者ともに病院に運ばれましたが、両者ともに重症であり、取調べは回復を待ってからのことに‥‥

「恐いわね。あなたも気をつけなくちゃ駄目よ」

 主婦Bは、リビングでテレビを見ている夫にそう言い置き、ゴミ袋を手に玄関へ向かう。

「おいお前、ゴミの日は明日じゃないのか」

「かまわないわよ、どっちにしろ出さなきゃいけないんだから。うちの地区のゴミ捨て場にはちゃんと蓋のついたゴミ箱が置いてあるんだから、野良犬にも野良猫にもとられやしないわよ」

「しかしお前、決まりは守らないと」

「いいのよ、大体私が出しに行くときには、誰かが先にもう出してるんだから、気にすることないの」

 彼女はかように言い残し、交差点の近くにあるゴミ捨て場へ向かっていった。
 幸い休日で朝早いので、やかましそうなご近所さんは誰もいない。
 喜びつつ彼女は箱の蓋を開け、袋を入れ込んだ。
 そして鍵を閉めようとしたところ、後ろからふっと影が差し、背中をつつかれる。
 やだわ、風紀の眼鏡ババアかしら。
 そんなことを思いながら、彼女は愛想よく振り向いた。

「あら、お早うございまギャアアアアアア!」

 なりふりかまわぬ、雑巾を破くような悲鳴が上がる。
 無理もない。軽自動車位の大きさのゴキブリに触覚で背中をつつかれていると知ったら、誰だってそうなるだろう。
 彼女は一目散に逃げた。ゴキブリはそれを見ていたが、追いかけることなく、ゴミ入れに足をかけ引き倒し、出てきたものをもりもり食べ始めた。
 そこにカサカサ音を立て、どこからともなくもう一匹がやってくる。
 ブーンと更に一匹が、あさってから飛んでくる。
 仲良く生ゴミを食べ、それがなくなると三匹は、カサカサ大通りに向かって移動し始めた。
 通りの隙間、塀の影、ビルの間などから平べったい同族が続々出てきて参加していく。
 その数最終的には20匹に上る。
 休日の穏やかな眠りから醒めつつあった町が、たちまちのうち阿鼻叫喚の場となる。主に女性の。


 ULT受付C氏。
「え?なんですって、はあ、巨大なゴキブリが町に? 食料品店や外食産業の店を次々襲っていると‥‥今朝いきなり現れたと‥‥もしもし、どうしました? え、窓目掛けて飛んできた? 飛ぶんですか? それでこっち見てるから早く来てくれ? 分かりました、落ち着いてください。まずは住民方々戸締まりをきちんとしてですね、極力入られないように近づかないようにですね、気を確かに持ってください。ええっと、とりあえずですね、見られないようにブラインドを降ろしてみたりカーテンを引いてみたりしてはいかがかと‥‥」

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
真上銀斗(gb8516
21歳・♂・JG
ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA
LEGNA(gc1842
22歳・♂・FC
シクル・ハーツ(gc1986
19歳・♀・PN
イレイズ・バークライド(gc4038
24歳・♂・GD
夜咲 紫電(gc4339
20歳・♀・FC

●リプレイ本文

 お昼前、能力者たちは現場のデパートに到着した。
 そこでは警戒線が既に引かれ、警察車両が多数待機している。聞けば、デパートに居合わせていた人間は、売り場の関係者含めて全員退避させたとのこと。
 報告を受け皆は胸を撫で下ろし、店内に乗りこんでいく。
 そのうちの最後尾を行きながら、夜咲 紫電(gc4339)が呟いていた。己に言い聞かせるように。

「怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない‥‥忘れちゃ駄目だ、ボク」



 裏口からデパート内に侵入すると、日用品売り場のエリアであった。いたる所ものが倒れたり落ちたり散らばっていたりしている。人々が逃げたときの名残だろう。

「ひとまず、エレベーターが動くかどうかですね」

 真上銀斗(gb8516)の懸念は皆の懸念であった。もし電気が通じていなかったなら、最上階まで階段で上らねばならない。それは大変な時間のロスだ。
 しかし幸い、付近にあったエレベーターは生きていた。
 一同急いでそれに乗り込み、直通で屋上を目指す。

「いやあ〜我輩ゴキメラを見るのは初めてなのでね〜なかなかに期待しているのだよ〜」

 手を擦り合わせながらドクター・ウェスト(ga0241)が、そんなことを口にしている。能力者であると同時に研究所所長であるこの男、キメラに対する恐れより興味の方が先立つらしい。
 シクル・ハーツ(gc1986)は上につくまで壁に寄りかかり、一人首を傾げている。

(‥‥そもそも、ゴキブリとはそんなに気持ちの悪いものなのだろうか?)

 彼女は北国生まれのため、脅威を未だ直に目にしたことがなかったのである。
 隣でひときわ長身なムーグ・リード(gc0402)が、天井に頭をつかえさせるようにしながら、幡多野 克(ga0444)の質問に答えている。

「ムーグさん、それは‥‥何ですか?」

「アア‥‥コレ、は‥‥中華ナベ、デス。エサ、を温メヨウト、思いマシ、テ‥‥」

「なるほど‥‥その場で温めればさらに匂いが増しますからね‥‥」

 そう言う克もまた、G対策用の餌を持ってきている。
 いや、彼ばかりではなくLEGNA(gc1842)、そしてイレイズ・バークライド(gc4038)も同様である。
 とりあえず、おびき寄せ作戦の材料は豊富なようだ。



 屋上の子供遊園地、五階の家具売り場、四階の家電売り場まで敵はいなかった。
 いや、正確には一度来たけれど、得るものがなかったので撤退して行ったという方が近いか。あちこち齧り回った痕跡があったからには。
 さて次なる三階。
 足音潜め階段を降りて行くと、そこには、見るも無残な食い荒らされっぷりを呈しているグルメタウンがあった。
 ひっきりなし、カサカサ、カサカサという足音がする。
 しかし、姿を見せない。こちらの気配を感じ取っているのか。
 気のせいか、ブーンという微かな羽音も聞こえたような。
 どこだ、どこにいるんだ奴らは。
 お台所で奥様が感じる緊張感を覚えながら、ともあれムーグは鍋を取り出し、グルメ通りの真ん中辺りに設置し、ぐつぐつ肉を煮込み始めた。

「‥‥食べ物、ヲ、粗末、ニ、シテイル、カモ、シレマセン‥‥ガ‥‥」

 克もその近くにビーフシチューをぶちまける。

「‥‥ビーフシチュー‥‥もったいない‥‥。こんな風に床に‥‥撒かなきゃいけない‥‥なんて‥‥」

 二人は食べ物を使うことに、少々しょんぼりしている。
 だが、イレイズとLEGNAはそんなこともなく、てきぱきと自分たちの手持ちを配置して行った。
 それが済むと、皆また引っ込み待ち伏せをする。
 かくして数分で、五匹のGが出てきた。
 黒く光って油っぽく、お腹のへんだけ妙に柔らかそうな彼ら。触覚がとっても長い彼ら。あり得ない透き間から出てくる薄い体のナイスガイ。

「う〜む、大きすぎるためか、ゴキブリの嫌悪感というより巨大生物の威圧感という感じだね〜‥‥」

 顔しかめつつドクターは面白そうにしている。
 克はしかし、ちっとも面白がれなかった。大きなGホイホイがあればいいのにと、心底願う。そんな都合のいいものはないと知りつつも。

「‥‥でかいな」

 一人ごちたイレイズが、固まっているところに向けてソニックブームを放った。
 ほぼ同時に、銀斗が照明弾を放つ。
 急な光と衝撃にキメラたちは引っ繰り返る。そして素早く起きて走りだす。
 予め前方に待機していたLEGNAが飛び出し、正面から切り込む。
 一匹の背中に刀が食い込んだ。
 途端、彼に向かって胃酸が吐かれた。避けたが、数滴腕に当たる。じゅっと生地が溶けて煙が上がった。皮膚も少し焼けた。
 そこにシクルの矢が飛んできて、キメラの腹部に刺さる。
 そいつは青緑の体液を垂らしながら飛び上がり、天井に張り付いた。
 そこをドクターのエネルギーガンが撃つ。
 黒焦げになった奴が落ちてきた。天井の一部も焦げて落ちてきた。

「しまった、コレでは強すぎたね〜」

「おい、なにしてるんだドクター! 頼むから弁償は一人でしてくれよ!」

 叫ぶイレイズは、先のより好戦的な一匹と争っている。
 大きな顎を鳴らしつつ立ち上がってきたのを、蛍火、天魔の交差で防ぎ、押し返す。既に背部を切り裂かれているのに、驚くべき耐久力だ。
 銀斗も銃撃を加えつつ、彼らの素早さに舌を巻く。壁や天井を三次元で走り回るのだから、とてもやりにくい。気をつけていても当て損ね、照明器具をいくつか壊してしまった。

「‥‥ナント、イウ、生命力‥‥デショウ」

 そこはムーグも同じだ。甲殻の隙間に間違いなく当てているのだが、なかなか死なない。動きは遅くなるもののまだ活発だ。どうやら脳を破壊して初めて、ちゃんと動かなくなるらしい。

「どうしたの? 来るなら来なよ、キメラ。バラバラにしてあげるよ」

 紫電は幾度か攻撃した結果そのことを知り、動きの鈍くなったのに止めをさしていく。胃酸をそのへんに転がっていたスープ鍋の蓋で防御しつつ、切り刻む。
 青緑の跳ね返りを浴びたその姿、惨憺たるものである。まあ、やられているのはあくまでも虫なのであるが。
 一方シクルは、弓とエアスマッシュを駆使し、なるべくのこと彼らには近づかないように戦っている。ほかの虫にはないそのヌメヌメ感とテラテラ感が、何というか、触りたくないといった感情を喚起したおすので。
 彼女は今生まれて初めて、Gの恐ろしさを肌で感じていた。



 三階にいた五匹は倒した。
 しかし奴らは、なかなかFFを消さない。つまり生命反応がある。しまいには頭だけになっているのに、平気で(本人的にはどうだか知らないが)歯を鳴らし続けて、それだけで小刻みに動いてさえいる始末。
 そこと離れている体も筋肉組織がなかなか死なないのか、ぴくぴく痙攣を続け、なにかの拍子にブブブと羽を鳴らす。

「終わりだ」

 LEGNAはそれを見ても動じず脳髄へ弾を打ち込み止めをさし、ドクターは喜々として細胞を回収していたが、シクルは早くも挫けそうになってきた。諸々が嫌すぎて。
 ものすごく強いというわけでもないのだが、これだけ相手したくないという気持ちに襲われるキメラがこれまでいただろうか。
 そんな彼女を励まし、銀斗とムーグは言う。

「行きましょう、奥様方や主夫の方々の為に‥‥」

「‥‥余さズ、逃さズ、狩り尽くシ、マショウ‥‥。街、ノ、平和、ト‥‥衛生、ノ、タメ、ニ‥‥」

 そうだ、彼らを倒さなければ明るい未来はない。
 彼女は心を奮い立たせ頷き、皆とともに服飾関係の二階から雑貨食料品の一階へ、調査を進めながら降りて行く。

「とにかくさっきので、やり方のこつは掴めてきたからな」

「そうですね‥‥餌を置いたらすぐ寄ってくるようですし‥‥おびき寄せるのは簡単みたいですからね」

 イレイズと話しながら行く克の耳に、カサカサとまた足音が聞こえてきた。
 今度の奴らは食品売り場に潜んでいた。
 肉類、そしてお総菜コーナーの被害が著しい。そのへん軒並み壊されている。
 しかしグルメタウンのように店舗が並んでいるわけではないため、見通しはつけやすかった。隠れている奴の長い触覚が棚の裏側から突き出されてゆらゆら動いているのも、すぐ目に入る。

「ひいふうみい‥‥どうやらここは三匹かね」

 柱の影に身を潜めながら、ドクターはカウントした。
 より見通しを利かせるため吹き抜けの待ち合い広場に一旦下がり、そこへ先程の様に餌を配置し、待ち伏せる。
 漂う匂いに誘われて、キメラが透き間から、カウントどおり三匹出てきた。
 群がり寄ったところで照明弾が閃光を放つ。
 銀斗、ムーグの銃が火を吹く。
 黒い体にいくつも穴が空く。
 そのまま逃げ出そうとした奴をイレイズは追い、袈裟切りにした。腹が半分千切れそうになったが、それでもかまわずまだ走ろうとするので、頭部を切り離す。
 LEGNAがそれに止めを刺し、別の一匹に円閃をかけた。足先が何本か落とされる。

「なるほど、パーツを先に外していくってのはいい案だな」

 それを横目にしながら克は、相手している奴の透き間に突っ込んだ刃を、全力で引き戻していた。うかうかしていると、殻の間を縮めて抜けないようにされるので。

「上から来るよ!」

 紫電が叫んだ。
 吹き抜けの天窓付近に張り付いていたらしい二匹が、上から突っ込んでくる。

「させるか!」

 嫌悪感も手伝い、シクルは居合を行った。咄嗟のこととて、羽の後ろを切ったに終わる。しかしそれでバランスを崩し、一匹不時着する。
 紫電がそこへ駆け寄り、食いついて来た相手の口の中目がけ蛍火を突っ込んだ。
 吐こうとしていた胃酸がそれを伝って落ちてくる。
 ぴりぴりした刺激を手に覚えながら、彼女は低く吐き捨てた。

「レディに噛み付くなんて、キメラの中でも駄目な奴だね」

 直後、ムーグの射撃がキメラの首の透き間に当たった。顎が緩む。
 その頭部に彼女は、形がなくなるまで攻撃を加える。
 一方もう一匹は、壁に張り付きざま階段をサーッと駆け降りて行った。
 多分、何発か銃弾は当たったものと思われるのだが。

「シマッタ‥‥地下、に、入ラレ、マシタ‥‥」

「いやいや、気にすることはないと思うよムーグ君〜。どうせ行くところだし、それに地下ならば天井が低いから、さっきのような飛行攻撃も使いにくいかろう〜。次のステージの方が簡単だと我輩は思うよ〜」



「か‥‥数が多い」

 何が簡単だというのか。
 シクルは先ほど上で聞いたドクターの言葉を思い出しながらうめいた。
 デパ地下には最も多く黒い奴らが動き回っている。もはや隠れようとさえしていない。
 きっと極上中華に夢中なんだろう。フェアの真っ最中だったみたいだから。
 フカヒレも酢豚も北京ダックも高級肉まんも小竜包も、奴らの攻撃を免れたものはなさそうだ。
 どいつもこいつも腹をパンパンに膨らませ、余計脂ぎってきている。
 帰りたい。
 そんな弱気な心を彼女は、頭を振るって追い出した。

「し、仕方がないか。ええとドクター、後何匹なんだ」

「んん〜、大体10、11ってとこかなあ〜。動いているからよくわかんないけどね〜。でも反射とかは鈍くなってると思うよ〜。あれだけ食べてればね〜」

「そう願いたいね‥‥うん‥‥まあそれじゃあ‥‥行こうか」

 ごちそうが軒並み台なしにされているのに悲しみを覚えながら、克は己に言い聞かせた。これがすんだら帰ってシャワーが浴びられるのだからと。
 ひとまず地下へ通じる扉をすべて閉鎖し、キメラたちが逃げられないようにし、おびき寄せる労もとらなくてよさそうなので、そのまま殲滅作業を始める。
 手初めは、シューマイの屋台に乗り掛かっていた一匹である。
 ドクターが初手を受け持ち、エネルギーガンをぶっ放す。むろん屋台が焦げた。しかしもう誰も止めない。上の階でもある程度そうだったが、ここはまた更に全てを破壊し尽くされていたからだ。
 下半身の焼けたゴキブリは驚いて飛び、別の仲間に激突する。その仲間がまた飛び始める。他のも浮足だって天井に張り付く壁を走る。逆さになったまま急に立ち止まってこちらと目を合わせ、触覚を振る。
 どれもこれも視覚的に我慢ならない光景だ。
 ここまで来たら前衛も後衛もあまり関係がない。
 シクルが多少錯乱気味になりながら、彼らに向けて弓を乱発し、風鳥を振るっている。
 イレイズは背中から二つに切り裂いた半々が、引っ繰り返ってバタバタするのを目にするに至って、こうぼやかずにいられなかった。

「頼むから素直に死んでくれよ‥‥」

 とにかく戦士たちは最後の力を振り絞るようにして、この最終決戦に挑んだ‥‥。



「‥‥普段、ハ、余り、疲れナイ、DEATH、ガ‥‥」

 ムーグを先頭に一階へ戻ってきた面々は、出てくるやその場に座り込んでしまった。
 皆虚脱感を漂わせている。ドクターだけが生き生きしている。

「いやあ〜とりあえず素晴らしい生命力、耐久力ではあるね〜。全く本物のGに勝るとも劣らないよ。イレイズ君が殻竹割りした一匹研究所に持ち帰り、もっと詳しく調べてみることにするよ〜。あんなになってまだ生きていられるとはね〜残存FFも検出されたし、これで繁殖能力も確認されれば、以前報告されていたのと同タイプ、もしくはその進化系ってことだね〜」

 どこかでまだカサカサと胴体部分「だけ」が動く音が密かにするが、もう聞かなかったことにしようと誰もが決めていた。
 静かな赤い光が窓から差して来ている。
 それを目にLEGNAは、予定通り殲滅作業を終了させられたことに、満足感を覚えていた。これで知らない誰かの人生を少しましにすることは出来ただろうかと。
 紫電は呟きながら、呆けたように青緑まみれの武器を拭い続けている。

「それでもボクは、怪物なのかもね‥‥どう思う、ボク?」

 シクルも一人で呟いている。

「う、噂通りだった‥‥な‥‥」

 虚ろな笑みを浮かべる彼女の心には今や、拭いようのないGへの嫌悪感が刻まれていた。

「‥‥思ったが、あのGの死骸、誰が始末するんだ?」

「さあ‥‥まあ気にしなくてもいいのではないでしょうか‥‥デパート的には結構な損害でしょうが‥‥全館消毒‥‥必要ですよね‥‥」

 イレイズと銀斗のやり取りを耳に、克も瞼に浮かべた。各階でぐちゃぐちゃのめちゃめちゃになっているキメラたちの姿を。

「もうGは‥‥暫く見たくないよ‥‥」

 彼の嘆きはきっと、本日町全体が共有していたものであっただろう。

 かくして戦い終わって−−日が暮れる。


 事後報告になるが、幸いゴキメラたちの卵は発見されず、生殖能力の有無も判明しなかったようだ。