●リプレイ本文
最上 憐(
gb0002)は荒涼とした月面を見回し、呟く。
「‥‥ん。月面。ウサギキメラとかは。居ないのかな?」
エイミー・H・メイヤー(
gb5994)はレオポールを素通りした後、スーザンへ向かって挨拶した。にこやかに。
「やあスーザン嬢、久しぶりだね。それにしても機械的な動きしかしないんだな、あの敵は」
「ええ、そのようですね。人工知能の容量が極端に少ないみたいで」
バイザー越しに手をかざし、揃って接近してくる隊列を見る宵藍(
gb4961)は、彼女らの意見に深く頷いた。
「数は多いけど動きは単純だから、余程うっかりしない限りは、まぁ倒せそうだよな」
言いながらうっかりをやらかしそうな人物に注意を向けると、早くも月面基地の方角へ後退していきつつある。
「へぇ‥‥これだけガッチリ見張られてながら、まだ逃げようとか、ある意味凄ぇわ」
呆れと感心を織り混ぜる宵藍が取った行動は、「ターミネーター」での射撃だった。
「おっと手が滑った、悪いな」
レオポールは急停止する。ワンワン鳴く。
宵藍は爽やかな笑みで応えた。
「逃げようとしたらまた手が滑りそうなんだが、そんな事はしないよな?」
続けて終夜・無月(
ga3084)が、レオポールの前に立ちはだかる。
「たかが百の敵に怯んで如何するのですか‥‥」
「たかがじゃないよ、多いよ! 何かビーム出てるし、ビーって出てるし! 当たったらオレ爆発するよ!」
「大丈夫、せいぜい黒焦げになるだけです。問題なしです」
「大問題だろ!」
そうして騒いでいると、楊 雪花(
gc7252)が近づいてきた。
「おヤ、そこに居るのはレオポールではないカ?」
彼女は憐憫の眼差しを相手に注ぎ、首を振る。
「こないだ詐欺に引掛かたと思たラ、とうとう月まで来てしまたのだナ‥‥可哀想にきとモウ生きて地球に帰れないヨ。ジャ◯ラになるしかないネ」
「〇ャミラ!? オレ〇ャミラになっちゃうの!?」
「そウ。あのキメラの怪光線を人が浴びるト、苛酷な宇宙環境下でも生きて行けル異形へ変貌を遂げてしまうのだヨ。是非ワタシも出演したいものダ‥‥宇宙怪獣を迎え撃つ一般人としテ」
脅すだけ脅して満足した雪花はキメラたちに視線を戻し、しみじみ呟く。
「インベーダーゲーム‥‥昔はこれさえ有れバ、大儲けだたと聞いたことあるヨ。ワタシもあやかりたいネー。スコア更新した客ニ、コーヒー出すだけ丸儲ケ‥‥」
ジャ◯ラ化を恐れレオポールは、なお勢いづいて逃げようとした。
「オレ地球に帰るうぎゃふ」
その上に御名方 理奈(
gc8915)が、勢いつけて飛び乗ってくる。
子供な彼女はレオポールの姿を見て、大興奮しているのだ。
「わあ! わんわんだ! わんわんだ! 後で抱きついてもふもふしたいな♪」
更に上からフェンダー(
gc6778)も落ちてくる。
「おー体が軽いのじゃ‥‥これは馴れないと危ないのう。おぉ‥‥レオポール、とうとう月面上陸かや。パンダ殿も喜んでいると思うぞよ。ここで頑張って勲章の一つでもゲットすれば、子供にも一目置かれ奥さんも惚れ直すのじゃ」
「降りろおおおお」
月の砂埃を舞い上げる犬男の姿に、大垣 春奈(
ga8566)は舌打ちした。
「あの犬のおっさん、うざいし邪魔なんだけど」
お月様にいるというウサギを探してみたがおらず、代わりにヘタレた半端犬が見つかっただけなので、彼女はとても機嫌が悪い。武器の「釘バット」を振り回している。
憐はその姿を横目に、レオポールの元へ跳ねていく。
彼は月面に穴を掘って隠れようとしていたが、襟首を無月から掴まれ、引っ張り出されているところだった。
そこへ寄り、こそっと忠告。
「‥‥ん。レオポール。念の為に。言っておくけど。あまり。ヘタレだと。敵より。恐ろしい攻撃が。多分。味方から。飛んで来るよ?」
レオポールは周囲を見回し、しくしくやり始める。重力の乏しい月面で涙は滝となって流れず、ヘルメットの中でふわふわゆっくり落ちる。
無月は嘆息した。
「まぁ‥‥良いでしょう‥‥今日は敵も丁度良いので良き戦いと言うものを御見せしましょう‥‥」
憐もそれなりに指導してやった。
「‥‥ん。レオポール。とりあえず。敵の。側面とか。背後とかに。回れば。攻撃は。来ないよ。しっかりしないと。爆弾を付けて。中心に。投げ込むよ?。必殺の。レオポール・ボム」
エイミーは小銃「S−01」を相手に渡した。
「数が多いだけでシンプルな敵だ。怖いなら前衛は任せて敵の射程外から撃っていればいいだろう」
続けて真空に浮かぶ地球を指さす。
「奥様やお子さん達が帰りを待ってるんだ、ライカ犬の様にはなりたくないだろう?」
最後に春奈がひょいと脇から口を出す。
「おっさん。まともにやんねえとバットでぶっとばして衛星軌道に乗せるぜ」
月面では遠吠えも響かなかった。
●
横に25、縦に4。指折り数えて憐は地を蹴り、敵陣の側面に回り込む。
作業は比較的簡単だった。何しろ向こうは分散した敵に対し、全然反応しない。ひたすら行列を組んで進むのみ。振り返りもしなければわき見もしない。
ある意味天晴れな前向き精神だ。
まあそれはともかく、近接し観察してみた彼女は、ビームの特徴に気が付いた。どれも虫の口から直に発射されておらず、宙からわいて出ている――ように見える。
「‥‥ん。何ゆえ。空間を。あけて。撃ってるの。かな?」
首を傾げつつ「ハーメルン」で、側面の無防備なキメラを狩っていく。
軽い重力内でものを振り回すと自分までも振り回されそうになり、加減が難しかったが、やがて段々慣れてきた。なので背後に回るついで、高速移動の能力も使用してみる。
直後、やはり地球と違う環境だと思い知らされる結果となった。なにしろ力を入れた瞬間敵陣を通り越し、用もないはるか後方まで進んでしまったのだ。
急いでブレーキをかけ、砂煙を巻き上げながら引き返す。
「‥‥ん。行き過ぎ。行き過ぎ」
彼女が帰ってくるのを待たず、無月は「ターミネーター」2丁を構え、レオポールに言い聞かせていた。
「見てて下さい‥‥」
接近してくるキメラ部隊の中央にぴたり照準を合わせ、正確無比な銃撃を行う。
中央列の縦列4匹が一気に殲滅され、きれいに穴が空いた。
「分かりましたか。簡単でしょう。こういうふうにすればいいんです」
「出来ねえよ。人間業じゃねえよ今の早撃ち‥‥そんでフェンダー、雪花、理奈、なんでオレを前にする!」
「そちはこのかわゆき我を守る陣地役、最後の砦じゃで当たり前じゃ。なに、心配はいらぬ。どうやら奴らは原作に忠実じゃ。見るがいい、ちゃあんと1マスあけてビームを放っておる」
「しかリ。原作通りならあの必殺技、名古屋撃ちが可能なハズヨ。敵を極限まで引き付けるネ、レオポール。そこにハイスコアの活路は見いだされル。多分UFOも横切ったりするハズネ。見逃さないようにしなくてハ」
「あっ、やっぱりそれですよね。UFOだったら、一気に高得点稼げるかも」
盛り上がっている彼らをさておき、数を減らされたキメラたちは、さっと前後左右が移動し列を埋めた。どうあっても解散する気がないものらしい。
「なんつーかなあ‥‥もちっと考えりゃいいのにと思うけど‥‥」
宵藍は敵の頑固さにそんな評価を下しつつ、「ターミネーター」で攻撃する。意外と堅いので、1体ずつ。
前方にいるスーザンの射撃を目に、口笛を鳴らす。
「へぇ、正確無比ってのはこういうのを言うんだろうな。凄ぇじゃん」
続けて眉をひそめ、横のエイミーへ話しかけた。
「――なあ、なんかあいつら数が減ってから、動きが早くなってきてねえ?」
一拍置き肯定が返ってくる。
「なってますね‥‥まるでシューティングゲームです」
彼女は「シエルクライン」を「蛍火」に変え、接近攻撃に移る。ビームの届く範囲内では正面を回避し、側面、背面を取る。端々から甲殻に守られたキメラを斬り倒して行く。
春奈もまた、果敢にキメラを潰し回っていた。手にした釘バットで、背中からめった打ちだ。
「キメラはこれでも食らってろ!」
相手がひしゃげたところ、今度は両手にバットでフルスイング。名付けてハルナ葬らん。
「ぶっ飛びやがれ!」
言葉どおりキメラは、地球では出来ないだろうほど高く高く上昇し‥‥なかなか落下してこない。本当はレオポールに向け飛ばしたかったのだが、そこはうまくいかないようだ。
なんとなく当てが外れた気持ちではあったが、とりあえず次の台詞はインカムごしに怒鳴っておいた。
「おっさん! にげんじゃねー! こんなんでビビってんじゃねーよ!」
レオポールはわたわたしつつ射撃を行っていたが、あんまり当たってないみたいだし、見るからに逃げ腰だった。
「あいつらスピード上がってるよ、なんで!?」
など泣き言を言っている。フェンダーがそれを、自信満々にたしなめる。
「落ち着くのじゃレオポール、これが奴らの仕様なのじゃ。さて、あの並び‥‥我の秘奥義を見せる時が来たようじゃな!」
彼女は「ホーリーナックル」を両手に、近接してきた敵の前へ飛び出した。叫びながら。
「必殺! 炎の〇マ!」
回転しつつ直接攻撃。
単純運動しかしない相手には、かなり有効な技だ。実際効いた。ではあるが。
(うっ‥‥回転が止まらないのじゃ‥‥)
地球と違う重力の中では、体がなかなか思いどおりにならない。
だがフェンダーは狼狽を表に出す事なく、さらに回転を増した。
「真空ハリ〇ーン斬り!」
そして回りながら戻って来、膝をつく。
「うぇ‥‥ぷ‥‥タッチじゃ‥‥うむ、ちょっと酔った‥‥」
戦闘力を無くした彼女に代わり、今度は雪花と理奈が組んで攻撃を受け持つ。レオポール陣地を最大限活用して。
「フフフ‥‥アーケードで鍛えたワタシの名古屋撃ちは半端ないネ!」
雪花は「スコーピオン」で、規則正しく近づいてくる最前列のキメラを撃破。むろん陣地の後ろから。
フェンダーの攻撃ではっきりしたが、どんな次第かこのキメラ、あまりにも接近している対象には射撃が出来ないという、妙な仕様になっているのだ。なんのためにか全く不明。どう考えても不利になるだけなのに。
「頑張ろうね、リンスちゃん♪」
『任せておけい! 妾にかかれば斯くの如きゴミ虫共なぞ鎧袖一触じゃ』
「ビスクドール」と一人二役を演じる理奈は、撃ち漏らされた弱っていそうな個体目がけて、次々電磁波を放つ。
『ふはははは! 楽勝だったであろう!』
「さっすがリンスちゃんだね♪」
その時、キメラたちの背後を高速で何かが横切った。
春奈がそれにぶつかられ、地面に倒され、怒り狂って起き上がる。
「いって! なんだこらボケえ!」
と言った瞬間、何かは彼方から戻ってきた。今度は彼女も避ける。
そいつは同じく高速で去って行き、また戻ってくる。他の動きはしない。
よくよく見れば――ものすごく陳腐な形をしたUFOだった。
「‥‥地道過ぎて飽きてきたとこだったんだけど‥‥えーと、これは一体どういうことかな」
「月詠」の手を止め、宵藍がぼやく。
スーザンとエイミーは顔を見合わせ、頷きあう。
「なるほど。やはりアレが来ましたか」
「そろそろタイミング的に出るんじゃないかとは思ってましたが」
(え‥‥なんか常識なのか、これって‥‥俺が知らないだけ?)
不安になってこなくもない宵藍に関心を払わず、理奈が、もといリンスがUFOに戦いを挑む。
『喰らえ、我が灼熱の息吹を!』
だがUFOはとにかく早い。彼女の攻撃が追いつかない。
「くっ‥‥難易度高いです!」
『理奈、一時後退じゃ!』
攻撃をあざ笑うように高速浮遊するUFOはしかし、次の瞬間真っ二つに切り裂かれ爆発した。月面での移動要領を飲み込んだ憐の、「ハーメルン」によって。
「‥‥ん。ハイスコア。獲得」
Vサインをする彼女に、一同拍手を贈る。真空では響かないけど。
無月は両手にした「ターミネータ」を振り上げ、残っているキメラの群れの上へ跳躍し、ど真ん中に着地した。
行動の意図を悟った仲間は一斉に離れる。
かくして残っていたキメラたちは全滅し――いや、1匹だけまだよろよろ前進している。
無月はレオポールの元に歩み寄り、にっこり促した。
「はい‥‥真似してみて下さい‥‥」
「え? 真似って‥‥ナニ?」
エイミーがぽんと彼の肩を叩く。
「お義父様やお子様に、アマブル氏は宇宙で果敢に闘っていましたと良い報告をしたいものですね」
背後に回り、宵藍がどーんと背中を押した。キメラ目がけて。
「大丈夫だって、弱ってるから。それ、行ってこーい」
確かに弱ってはいる。
そう見て取ったレオポールは勇気を出し、近寄り、止めをさそうとした。
だが次の瞬間キメラは最後の力を振り絞り、渾身のビームを放つ。
「あ」
かくして月面に小爆発が起きた。
もうもう煙を上げる小さなクレーターの底に降りて行き、憐は、やや焦げたレオポールを担ぎ出す。
「‥‥ん。レオポール。救援料として。後で。何か。宇宙食を。奢ってね?」
●
月面基地「崑崙」の食堂。宵藍はメニューを見ている。
「あー、腹減った。けど崑崙ってメシマズって噂だったよな‥‥」
無難なのは何だろう。
迷ったあげく彼は、キツネうどんにしておいた。これなら大幅に外すこともなかろうと。
離れた一隅に目を向けると、コリー人間がオウオウやっている。
「だから‥‥だから爆発するって言ったじゃん‥‥」
「るせーなーおっさん。こんなの唾付けときゃ治るって」
「秘技! ムーンサルトもふり&エレクトリックサンダーもふりじゃ!」
「わんわんだ、わんわんだ!」
前を見ると憐が山盛りカレーを食している。ハイスコア記念として雪花から貰った、雪花軒謹製月餅を片手に。
「‥‥ん。宇宙でも。やっぱり。カレーは。美味」
そして従業員にこう言っている。
「‥‥ん。お代は。あそこの。大きい。犬に。付けておいて」
(レオポールも大変だな)
思いつつ宵藍は、特に異を唱えようと思わなかった。
「はい、キツネうどんお待ち」
だがキツネうどんを持ってきたおばちゃんに、器の中へ指が入っていた件について異を唱えたいとは思った――結局言えなかったけど。
「皆、月面に来たついでに記念写真撮らないカ。宵藍サンもどうかネ?」
「あ、うん。ちょっと待ってくれ、すぐ食べ終わるから」
宵藍は急いでうどんをすする。無月とエイミーの会話を耳にしながら。
「ま、ついでですから戦闘訓練しておきましょう。よろしいですね、レオポールさん」
「それはいいな。あたしも手伝ってやろうレオポール殿」
月にて、犬が鳴く。