●リプレイ本文
陸軍本隊と共に行動していた傭兵達は事情が鮮明になる前に行動させられていた。
移動しながらオペレーターの説明を受ける。
その間にKVの地図情報が少しずつだが更新された。
HWの数、ゴーレムの進行方向などが次々と追加される。
最後に最もデータ量の多い画像が映し出された。
ファンタスマのバイパーは未だに健在。
大立ち回りの真っ最中だった。
「調子にのって落ちた奴の先に敵‥‥バグアも不運だな」
月影・透夜(
ga1806)は溜息を吐く。
ファンタスマとバグアのどちらを同情すべきか、僅かに判断しかねた。
「‥あの馬鹿は‥連絡はあれほど密にしろと‥!」
解説を代わったジゼル・ブランヴィル(gz0292)が怒気交じりに
「今のままだとただの問題児かな。まあ、見殺しにはできないから助けないとね」
「問題児ねえ。俺ぁ好きだけどな♪」
アーク・ウイング(
gb4432)は不満そうに
ピアース・空木(
gb6362)は楽しそうに述べる。
腕の良さはデータから分かるものの、自信過剰極まりない彼への感想は、傭兵達の中でも別れていた。
概ね否定的ではあるが気にしない者も居るのは、傭兵らしい感性ではあった。
「大尉、ファンタスマ少尉のことはお任せください。必ず助けます」
リゼット・ランドルフ(
ga5171)は好意的見解というよりは、
人の死を恐れるという。
「‥すまんな、心配をかける。そちらは任せた」
ジゼルからの通信が途切れる。
空では戦闘が更に激化していた。
パワーバランスが崩れはすぐさま、戦線の崩壊に繋がるだろう。
KVの走る長い道路の先には動き始めたバグア軍の姿が見え隠れしている。
8機のKVは更に速度を上げ、バグアの伏兵部隊に突入していった。
◆
「そぃやぁぁぁぁ!!」
トウィンクルブレードが竜を模したキメラを袈裟懸けに切り倒す。
深々と胴を割かれ、キメラは動かなくなった。
残りキメラ2匹にHW1機。
そうそう撃破される気もなかったが、剣一本では有効射程距離の短さが補えない。
ガトリング砲を失ったことがじわりじわりと聞いていた。
「ち‥。面倒くせえ。‥‥ん?」
風切り音、2発の着弾。
横合いからの砲撃が2匹のキメラを屠る。
「手こずっているようだな」
ブロント・アルフォード(
gb5351)のディアブロが、
装輪走行でファンタスマ機の横に滑り込む。
手には銃口より煙を上げる115mmの滑腔砲があった。
HWはビルの陰に退避。
追う側から追われる側へと移り変わる。
「はっ。んなわけあるかよっ。俺1人で十分だったぜ!
けど、礼は言うぜ」
ファンタスマ機はトゥインクルブレードを構えなおす。
ブロント機も邪断刀を抜き放った。
「小型が一機。‥相手が悪かったな」
2機はタイミングを僅かにずらして切り込む。
ディアブロが右から、バイパーが左から。
交差するように剣が閃き、HWを切り裂く。
FFの輝きが消え、慣性制御を失ったHWが、
地面に落ちて大破炎上した。
「‥一撃で落とし損ねたか。まだ俺も、所詮は未熟者だな」
ブロント機は背面に邪断刀を固定する。
次の獲物を探して未だ砲火が鳴り響く戦場を見渡した。
◆
街の上空まで上昇し、空の戦場へ進行方向を変える頃合で、
HWの群は傭兵達の部隊に捕まった。
向ってくるのは3機。
月影のディアブロ、アークのシュテルン、アレックス(
gb3735)のフェニックスという編成だ。
陸戦から上がってきたためかK−02ミサイルを装備する機体はなかったが、
ソードウィング、スラスターライフルと空戦用の強力な装備には欠いていない。
HW4機は反転し迎撃することを決める。
逃げるには相手が悪すぎた。
「来たっ!」
アークが叫ぶ。
ぼんやりと視界に移るだけのHWに発光が見えた。
プロトン砲の一斉射撃が放たれる。
三機は各々にバレルロール、高度を落としながらも速度を殺さず距離を詰める。
「ターゲット、インサイト! 攻撃開始」
3機はそれぞれに搭載していたミサイルを先頭のHW1機に向けて集中砲火。
2本のUK−10AAMを受けて態勢を崩したところに8式螺旋弾頭ミサイルが直撃する。
他3機が散らばるなか、HWはなすすべなく爆散した。
「指揮官機、俺はやつを抑える。周りを頼んだ!」
「おうっ!」
「了解!」
傭兵達は散らばった3機にさらに追いすがる。
アークはPRMシステムを起動、搭載されたSESの出力を向上させ、
UK−10AAMを小型HWに撃ち込んだ。
以前はキルレシオ3:1とまで恐れられたHWだが、
最新鋭機のシュテルンともなればその範疇ではない。
一発、二発、三発とミサイルを避けきれず全弾命中。
4発目をダメ押しに撃とうとアークがHWを捉えたときには、
既にHWは廃棄都市へと落下していた。
勝敗の決着はアレックスの側も同じだった。
フェニックスはUK−10AAMを放つが、数発命中したのみでは致命傷には至らない。
HWは慣性制御で残りのミサイルをすり抜けるとエースの援護に走る。
「させるかっ!」
フェニックスは赤い力場を発生させ空中変形、
強引にすれ違おうとするHWに対して無理矢理ロンゴミニアトを突き刺した。
HWはフェニックスの重量でバランスを崩し、高度を下げていく。
「行くぜ! オーバー・イグニッション!!」
刺さったロンゴミニアトの液体火薬に点火。
HWを内部から破壊、機体を大きく二つに割る。
アレックス機は外れた槍を抜き放つとHWの残骸を蹴って空中へ。
空中変形して態勢を立て直した。
そして、敵エースは‥。
「このっ!」
2発の8式螺旋弾頭ミサイルに追いかけるようにスラスターライフル、
ショルダーキャノンを連射。
砲弾が逃げるHWを追って雨のように降り注ぐ。
流石に指揮官機だけあってその半分を回避するが、
フォースフィールドでダメージを吸収しきれない。
強化はされているが、元は小型だ。
装甲は大した強度ではない。
反撃をする余裕もなく逃げる他無い。
アークとアレックスが追いつくと、勝敗はゆるぎないものとなった。
「呆気無かったな」
月影は落ちていく白いHWを見る。
だが、最初のプロトン砲の一撃は強力だった。
他の小型機も含めて武装の出力は高く調整されていたのだろう。
放っておけば空戦部隊に大きな被害を出していただろう。
「ゴーレムに向ったメンバーは?」
アレックスが廃棄都市の中央部にカメラを向ける。
まだ戦闘の光が断続的に瞬いていた。
◆
陸戦は膠着状態に陥っていた。
ピアースとリゼット、キヨシ(
gb5991)の3人がゴーレム2機・HW2機と対峙するが、
速度を重点において強化されていたバグアの兵器相手に決め手を欠いていた。
「どうやぁっ!」
の雷電が試作型機槍黒竜でゴーレムに突きを繰り出す。
が、ゴーレムは下がりながら回避。
もう一機のゴーレムがフェザー砲で牽制に入る。
リゼットがヘビーガトリング砲で援護に入るが、
建物を盾に取られて致命傷となるほどの傷を与えられない。
密集した建築物の隙間という環境で、3:4という数の差が響いていた。
「てこずってンなぁ〜」
「ああ、敵が早いからな。捕まえられへん」
下がって態勢を立て直すキヨシ機の背後をピアース機が守る。
敵の足は早いが、武器の火力は弱い。
3機とも機体に何度か攻撃を受けていたが、機能にはまだ障害は出ていなかった。
「カルマさん、なんとか援護に入れませんか?」
「無理です。まだキメラを殲滅し切れていません」
カルマ・シュタット(
ga6302)は見晴らしの良い丘のようになった場所に陣取っていた。
最初は支援を行う予定だったが、キメラの群が陸軍へ直接攻撃をかけようとしたため
その対応に追われていた。
ツングースカでキメラを着実に減らしてはいるものの、
キメラは建物の陰などを渡り砲撃をかわすため中々数は減ってくれない。
「なんとか数をへらさんと‥‥」
攻撃を避けてビルの陰に入ったゴーレムが、何者かに切られて仰向けに倒れる。
建物の陰からは赤褐色の刀身がのぞいていた。
「これで5対3だな」
合流したブロントとファンタスマの機体だった。
形勢逆転。囲まれたゴーレムとHWは攻撃を避けきれずに墜落。
カルマが迎撃していたキメラも空戦から戻った3機が合流してあっさりと殲滅。
終わってしまうときはいつも一瞬だ。
全ての敵を撃破した頃には、バグアの前線が崩壊したという報告が傭兵達に届けられた。
◆
ほかの人間の心配を他所に、
バイパーのコックピットから悠然と降りてくるファンタスマ。
「いやー、諸君。援護ごくろう」
相変わらず態度がでかい。
一部が心配していた大きな怪我は無く、まだまだ余裕の体だった。
その代わり機体は大きな負担がかかっていたようで、
ファンタスマが降りるとすぐさま整備に回されていった。
「ファンタスマ少尉」
どうしようも無い態度に我慢できずに絡んで行ったのは月影だった。
「俺から言うのも筋が違うのかも知れないけどな、
上を目指す気があるなら周りに目を配れ。
調子にのって突っ込んでると、いつか死ぬぞ」
「ああ? なんだそりゃ?
他人に合わせてもらってエースに成れってか?」
上官への不遜な態度は改めるべきだが、ファンタスマは与えられた役割は確実にこなしている。
大型HWのプロトン砲をかわせなかったが、出来の悪い新米では対応すらできなかっただろう。
「じゃあ、お前にとってエースって何だ?」
隣で聞いていたアレックスが問う。
エースの単語を強調するファンタスマに、少し興味が沸いた。
「そりゃあ決まってるだろ。圧倒的な技量の持つヒーローのことさ」
呆れてなにもいえない人間が何名か。
キヨシだけは聞いていないのでカウントしないだろう。
話が噛みあってないのか、かみ合わせる気が無いのか。
整備班の班長の指示の怒鳴り声がやたらうるさく聞こえる。
気が付くと、こつこつと靴音がこちらに近づいていくるのが聞こえてきた。
「あ、大‥」
「ファンタスマ! なにをもたもたしている!
デブリーフィングにはさっさと来いと伝えたはずだ!」
「も、申し訳ありません! 今すぐ!」
「さっさと行け!」
久しぶりに切れそうになっているジゼルの剣幕に押され、
ファンタスマが転がりそうになりながら走って行く。
それを見送ってから、ジゼルは大きく溜息を吐いた。
「心配してもらうのはありがたいが、そういう余計な事は良い」
「余計って‥」
「考えを否定はしない。だが、言葉でわかるものでもないだろう?」
ジゼルはアークの言葉を遮る。
言って聞こえないという意味でもあり、
また理解は感覚でするしかないという意味でもあった。
「下手な干渉は誰の為にもならへんよ。特に今日あったばかりの俺らじゃあな」
片付けをすっかり終えたキヨシが口を挟む。
くわえた煙草に火をつけようとライターを探している。
「‥とはいえ、今回は助かった。礼を言う。
依頼の話でもあるし、少尉を助けたことも含めてだ」
ジゼルは少し笑みを作る。
少なくとも部下1人が助かった、彼女にとってそれが全てだ。
崩した表情がそれを物語っていた。