●リプレイ本文
街から街へと移動していたフェリックス隊だったが、
囮部隊の襲撃を機に増援が来るまで待機となっていた。
本部からの返答はいつもの通り丸投げ気味で、
作戦に変更はなし、能力者10名と追加の車輌を送る、
増援が到着次第出発せよ。
こんな感じで愛想も何も無い。
面倒そうに喋る一之瀬の部下に八つ当たりしそうになるが、
彼女も連日の哨戒任務で疲れているようで無理は言えなかった。
本部の無理難題にもいい加減慣れた。
と言ってしまうのは嘘になるだろうか。
戦争で部下を失うたびに神経が麻痺していくような幻覚を覚える。
「お久しぶりです、中尉さん」
「今回も宜しくお願いします」
顔上げたフェリックスの前に立っていたのは、
遠倉 雨音(
gb0338)、優(
ga8480)、フィルト=リンク(
gb5706)だった。
その場その場で人を募っているはずが、二人も見覚えのある顔が並ぶ。
それが幸か不幸かわからない。
傭兵達はそれぞれに出立の準備を進めているが、挨拶周りらしい。
「‥懲りないな、君達も」
「そういうお仕事ですから」
優が素っ気無く答える。
「‥助かるよ。宜しく頼む」
フェリックスは諦めたように、力なく笑った。
「護衛対象は今どこに?」
装備を積んで戻ってきた白鐘剣一郎(
ga0184)達に問われて、
フェリックスは後ろの車輌を指す。
護送車の窓からはルイス横顔が見えた。
冴城 アスカ(
gb4188)はそれを見るとつかつかと歩み寄り、窓をノックする。
「社長さん元気にしてた?」
ルイスの顔に複雑な表情が浮かぶ。
強化ガラス越しで声は届かないが、その表情はよく見えた。
自分を捕縛した人間を頼らなければ命が無い。
自分の行いがこういう形で跳ね返るなど、予想もしていなかっただろう。
「出発は明日朝になります。今日は装備の点検が終わり次第、ゆっくり休んでください」
トニ・バルベラ(gz0283)が仮の宿舎になった部屋を割り振って回る。
寝ても醒めても地獄は同じだったが、
今日の地獄はすこしはマシかもしれない。
フェリックスはそうやって強引に納得することにした。
◆
旧高速道、そして軍事用に新設された道路を通りながら
一行はわき目もふらずブエノスアイレスへ。
増員した警備のおかげか1日2日と順調にすすむ。
変化が起きたのは3日目の夕刻。
次の街まで残り50kmを切った頃。
風を切り唸りを上げ、三つの光源が傭兵達の後背に現れた。
「‥来たぞ。物騒な連中のおでましだ」
最後尾を走っていたブレイズ・S・イーグル(
ga7498)が覚醒、背中に背負っていた大剣を片手で抜き放つ。
オーラの輝きがダークレッドの車体に反射して、人機一体の装いが唸りを上げた。
ブレイズに後追いするように全員が覚醒、視線は後方へ向けられる。
Vの時の陣形で包むように生体バイクに乗った強化人間が迫る。
「作戦通りに行くぜっ!」
ディッツァー・ライ(
gb2224)が重火器使いへフルカウルのバイクを寄せる。
ブレイズ、冴城、山崎 健二(
ga8182)・フィルトのペアは大剣使いへ、
優は中央のリーダーへ照準を合わせる。
護衛となった2台の装甲車はバイクの軌道を遮るように並んで護衛対象を守る。
雪村・さつき(
ga5400)と白雪(
gb2228)の乗る側が白いバイクへ、
白鐘と遠倉の乗る側が重火器を持った強化人間に向う。
上空を飛ぶサイレントキラーは既に手出しを出来ずに、距離を離すのを待つことしかできない。
強烈なライトに照らされるなか、夜の高速道で危険な追走戦闘が始まった。
◆
弾幕とソニックブームが白い二輪を襲う。
地面を穿ち、コンクリートに刃のあとをつけながらも、
白い二輪には致命傷らしいダメージは与えられない。
優が前面のレーザー砲を早い段階で破壊したため、
追突しながらのレーザー射撃は防いだものの、
今度は搭乗者の武器に手を焼いていた。
赤い生体装甲は腕と一体化した巨大なマシンガンで辺りをなぎ払う。
「くっ‥!」
優は咄嗟にバイクを傾けて強引な旋回で回避。
しかし装甲車はそうも行かない。
ばら撒かれた弾丸が装甲を貫通し、搭乗者に跳ねる。
固定していたさつきの大口径ガトリング砲は基部をやられ使用不能になっていた。
「‥んなろッ! ふざけやが‥」
壊れた砲を外そうとしてさつきの表情が固まる。
離れた位置からもう一台の装甲車を狙っていた強化人間が、
リボルバーランチャーの狙いを変えていた。
「白雪! 逃げろ!」
ディッツァーが叫ぶ。
「さつきさんっ!」
身を乗り出していた白雪が銃座からさつきを外に引き上げる。
直後、装甲車の側面にグレネードが着弾。
衝撃に煽られバランスを崩す車輌に更にもう一発。
車輪が破壊された装甲車は横転し、ぶつかった路肩で燃料か何かに引火して炎上した。
「! ‥てめぇ!!」
ブレイズがバイクを急加速させて重火器使いに切りかかる。
白雪とさつき達が乗っていた装甲車のポジションには、
白鐘と遠倉の乗る装甲車が割り込み、白いバイクに牽制をかける。
傭兵達は決して相手を侮ったわけではなかった。
だがそれを上回る性質の悪さで白いバイクは猛威を振るう。
旋回性の悪さを感じさせない機動で易々と傭兵達の攻撃をいなす。
「来るぞ、気をつけろ!」
優はソニックブームで更に牽制放つ。
遠倉、白鐘もそれに合わせて十字砲火。
だが手が足りない。
じわじわと白いバイクが寄せてくるのを防ぎきれなかった。
◆
大剣を使う強化人間はフィルトと健二のペアに翻弄されていた。
「おらおらっ! もっとかかってこい!」
挑発しながらも健二がクロムブレイドで切り結ぶ。
大剣使いは受け太刀をする一方だ。
本来なら大剣使いのほうが技量も腕力も上で切り結ぶのに支障はないのだが、
たったひとつだけ、地に足をつけて戦うときと違う条件があった。
「行きますっ」
健二に合図してフィルトがバイクを少し離し、
剣撃の隙間を埋めるようにSMG「スコール」を撃つ。
クロムブレイドを払った直後の態勢では受けることもできず、
バイクの速度を落として交わすのが精一杯。
先ほどからずっとこの調子だ。
それどころか途中から大剣使いのこの悩みを察知して、
二人の攻勢は強まるばかりだ。
慎重に切り込んでいた健二が今は大胆に大振りまで交えてくる。
大剣使いは状況を変えようとバイクを離そうとするが、
「ほらほらっ! 避けないとひどいわよっ!」
反対側から迫った冴城がゴールド・クラウンで大剣使いの足を狙う。
取り回し上、防御できずバイクを操る足に命中。
速度を落として距離を取ろうとする。
「健二さん、あれを」
「おう」
不穏な空気を悟って大剣使いが前を見ると‥
「!?」
健二がフィルトに代わって『100t』と、
わざとらしく書かれたハンマーを投げる。
大剣使いはバイクを逸らしてギリギリ回避。
態勢を立て直そうとするが間髪居れず‥、
「次はこれを」
「おう」
何かアルコール臭しかないものを撒き始めた。
撒きつつビンの口付近に着火、撒いたスブロフが燃え始める。
これも慌てて回避。
フォースフィールドのおかげでダメージも入らないが視界をふさがれるのは困る。
「‥貴様ら良い加減に‥!」
銃声。大剣使いの足から感覚が失せる。
「だから言ったじゃない。避けないとひどいって」
見れば冴城のゴールド・クラウンから煙が立ち上っていた。
「これで終わりだっ!」
足の感覚が効かない大剣使いに更に併走するAUKVから健二が切りかかる。
大剣使いには、それを受けるだけの力が既に無かった。
◆
ディッツァーとブレイズに挟まれた重火器使いも、
ソニックブームの乱舞をかわせずほどなくして撃沈。
横転して夜の高速道の暗闇に見えなくなった。
大剣使い、重火器使いの二人が脱落したことで戦況は一変する。
生体装甲を着たバイク乗りは離脱しようとしたが既に遅く、
傭兵達の集中砲火に下がることも進むことも出来なくなっていた。
だが、流石にリーダーだけあって手ごわい。
難なくとはいかないがそれでも巧みに攻撃をかわし、
時に受け、時に反撃さえするほどだった。
「埒があかん。ブレイズ、合わせろ!」
「おう!」
白鐘とブレイズの体が赤いオーラに包まれる。
白鐘は居合いの構え、ブレイズは大剣を背負うように構えながら力を溜める。
生体装甲の強化人間は両側からの異様な空気を察知するが、
「そう易々とチギれると思うなッ!?」
遠倉の射撃や、ディッツァーと優のソニックブームを避けるだけで手一杯。
錬力に余裕のあったディッツァーが更に深く切り込むため、強引な手は帰って自滅にもつながりかねない。
籠の中に追い詰められるように、徐々に距離がつまる。
「灰燼へ誘う炎獄の刃(レーヴァテイン)ッ!」
「『奥義』断空牙!!」
振り下ろされる暴力の渦、鋭く薙ぎはらう剣閃。
一撃必殺のソニックブームの十字砲火を白いバイクはかわせない。
白い装甲が大きくさけ、タイヤが弾ける。
バランスを崩した白いバイクは、大きく横転しながら乗り手ごと後方に転がっていった。
「うわー‥助からないな、あれは」
視界の外に消えていく強化人間を見ながら、健二がげっそりした声で呟く。
それほど酷い横転の仕方だった。
「確認は取ったほうが良い。‥白雪さん達のこともある」
「わかりました。サイレントキラーのパイロットに連絡してみますね」
遠倉は銃座から降りて無線機を手に取った。
街の明りが近づき、車輌のエンジン音が響くだけの静かな夜に戻った。
10分後、次の街に入る直前に折り返しの連絡が来る。
装甲車に乗っていた2名の兵士はそのまま車の中で死亡。
さつきと白雪は身を乗り出してなんとか助かり、
サイレントキラーに回収された。
◆
護衛開始から一週間後の昼。
南中央軍の拠点、ブエノスアイレスに一行は到着した。
やはり物々しい警備の中、護送されたルイスが引き渡される。
装甲車の中から出てきたルイスは、ここ数日の騒動のせいか覇気が無かった。
ただ誘導されるままに、兵士達に連れられていく。
「権力者の末路か」
冴城が感慨深げに呟く。
コロンビアでそれなりの権勢を得ていた人物が、
これから殺風景な部屋で何年過ごすことになるか。
「相応しい末路、というには少々辛いですね」
「‥くだらねえ。生きてるだけでも儲けもんだろ」
一抹の同情を抱く白鐘と対照的に、切って捨てるブレイズ。
機嫌がどうにも悪いのは、彼自身の相棒が今の病院で治療中というのもあるだろう。
言葉を否定された白鐘だったが、その感覚は痛いほどわかる。
特に何も言わず、苦笑いで誤魔化した。
「お疲れさん。今回の仕事はこれで終わりだ」
戻ってきたフェリックスが一同を見回して言う。
手にはUPC軍のロゴが入った封筒を持っている。
次の任地への辞令だろうということは、傭兵達にもなんとなく想像がついた。
「‥コルテス大佐は本気だ。ボゴタ基地を攻略次第、
カリとメデジンに駐留するバグアを一掃する気らしい」
慌しく軍人達が過ぎる。
この警戒はルイスの為だけに用意されたものではなかった。
コロンビアを飲み込もうとする大きなうねり。
南中央軍にとって初めての攻勢へ向けたものだ。
「あれを無事に送り届けたおかげでまた激戦区へ転戦だ。‥生きてたらまた会おう」
それぞれに複雑な思いを抱く傭兵たちを他所に、
フェリックス中隊の一同は規律正しく敬礼を送った。