●リプレイ本文
鬱蒼と茂る密林の奥地にその基地はあった。
KV配備数20機、4大隊を常時備え、近辺では鉄壁と知られている。
照りつける太陽を物ともせず整然と整列する兵員はまさに鑑と言って良い。
しかしその実態は‥
「戦車中隊をここに配備すれば、ほら最もキルゾーンが広く‥」
「むむ‥! ならここに歩兵大隊が埋めれば‥」
「ぬう‥! それが最適‥‥ですな」
額に脂汗を滲ませ唸り声を上げながら、互いを追い詰めていく。
陸戦隊も大変だが、やはり頑張る方向を間違えている。
兵士達は揃ってみない振りだ。
「‥なんか凄い所に来たな」
この依頼が初の仕事という和 弥一(
gb9315)は、
口元を引きつらせて苦笑いしながらその光景を眺めていた。
「あそこに居る皆が怠けてるおかげでボクたちに仕事が回ってくるから、
文句ばかりも言えないけど‥」
カレン・ベル(
gb9446)が同じく溜息をつきながら腕組みをしている。
「処理能力ちょいと越えてるのは本当だよ」
テント下に居座ったままの能力者の中尉が答える。
だが答えに信憑が欠片も無い。
椅子にだらしなくもたれかかって煙草をプカプカふかしていれば当然だ。
「私達は3方に別れて迎撃する、で間違いないわね」
その様子に動じずアンジェラ・ディック(
gb3967)が淡々と確認する。
「ああそうだ。好きにやってくれ」
「了解です。中尉自身はどこの担当ですか?」
「俺はここで待機だよ。他の任務に障るからな」
「‥ちっ」
森里・氷雨(
ga8490)が聞こえよがしに舌打ちをするが、
中尉は聞こえない振りして欠伸をしながら尻をかいている。
根性の入った無能の振りに森里は中尉を巻き込むのを諦めた。
「わかったらさっさと‥‥ってちょっと! 何備品勝手に渡してるんだ!」
「え? いや、そのー‥」
突然跳ね起きた中尉が指差す先では、鼻の下伸ばした陸戦隊の面々が装備の融通をしている。
瀬上 結月(
gb8413)を中心に、荒神 桜花(
gb6569)と矢神小雪(
gb3650)まで加わって、
おべっかを使っては笑顔を振りまいている。
それ自体はそんなに慣れた風情ではないのだが、女性に接触の少ない兵士の忍耐が弱すぎた。
結局取り繕ってるのは兵隊まで同じという話である。
「‥上手く出来たら報酬も弾むから頼むよ」
面倒くさそうな風情を装って中尉は椅子に掛けなおした。
その椅子から中尉が立ち上がる姿を、傭兵達は最後まで見ることはなかった。
◆
傭兵達は3班にわかれ森林の開ける道沿いに各種のトラップを展開した。
「ハイヒールとストッキングと網タイツが静かに、迫る森の此処♪」
「‥ヤな歌だね。テンポあってなくない?」
「こういうのは気分が大事です」
弥一は気分なんか大事にする依頼じゃないとは思ったが、あえて結月の言動に突っ込まなかった。
今回の依頼は大規模作戦のど真ん中では確実に簡単な依頼だったが、少し後悔していた。
見せられた写真を思い返す。
何もこんな相手に実戦経験積まなくたって良かっただろうに‥
「これで良いかな‥」
荒神が地雷の類を設置し終える。
結月も地面に凹凸を作り、てきぱきとワイヤートラップを張り続ける。
少し不安はあったが二人ともそつがなかった。
北側も同じく罠の設置に余念がなかった。
慣れない分は丁寧に作ることで補い、罠の密度徐々に上げて行く。
「200m圏内の目標を探知‥。
目らしきものはないし、熱感知か、音波か振動か」
「だからってそれは有効なの‥?」
「え? 有効じゃないかな」
カレンが疑惑の眼でダグ・ノルシュトレーム(
gb9397)の作業を見つめる。
最初のほうこそ土をいじってロープを張ってと真面目だったのだが、
後半はタンスを置いてみたり、バナナの皮を設置してみたり、
『次でボケて』『こけるなよ、絶対こけるなよ』などと
下らない内容の書かれたフリップを設置したりとしている。
あのキメラは字が読めないだろう、とか読めても引っ掛からないだろうとか
色々突っ込みたいことは山ほど思い浮かぶが口に出していたらきりが無い。
「試してみるのは悪くないでしょう」
「森里さん‥。そういうきみはどこへ行ってたんですか?」
「着替えですよ」
服は先ほどと変わらずダークスーツにコートと変わらない。
何度見ても代わり映えしない服装に、どこを変えたのか聞こうとするが、
そこで作業は中止になった。
偵察に出ていた兵士から、ミサイルキメラ接近の報告が届いたのである。
◆
西側の戦闘は終始一方的だった。
罠の数、迎撃の武装などミサイル達に相性の悪い条件ばかりが続き、
近寄る前に全てが撃破された。
近寄ることが出来なかった分、荒神の出番がまるでなかったほどである。
「こんな単純なトラップに引っかかるとは‥。大したことありませんね」
瀬上が冷たく言い放ち、ショットガンを下に向ける。
目の前にはミサイルの先端部分を撃たれ撃破されたミサイルキメラが折り重なっていた。
「しかし‥バグアは何考えてこんな物作ったのか‥」
戦ってみてもその目的はさっぱり不明だ。
おおよそ暇つぶしか気の迷いか、碌な理由でなさそうな事は推察できる。
「片付いているかもしれんが、可能なら助けに行こう」
桜花は無線機に耳をあてる。
他の二箇所は未だに迎撃の最中であった。
◆
東側に伏せていた二人は苦戦していた。
罠は十分に効果を上げていたが、流石に2名では手が足りない。
着実に数は減らしているものの、徐々に距離を詰められてくる。
ライフルを握るアンジェラの額に汗が伝う。
「どうする、このままでは接近戦になるわよ」
「わかってる。こんなときこそ‥!」
小雪は足元でうろうろしていたペットの粉雪を掴み上げた。
「行ってこーい、走って敵をかき回してくるんだ〜」
粉雪が何事かと考えている隙に、小雪は全力で粉雪をミサイル達の真ん中へ投げ込んだ。
くるくると放り投げられ、ミサイルの足元に着地。
ミサイル達の興味は一斉に粉雪に向う。
粉雪とミサイルの眼(?)が合った。
粉雪が首を傾げる仕草でかわいこぶってみる。
が、かわいこぶっても逃がしてくれるわけもない。
ミサイルの一体が靴を脱いで、指で器用に粉雪を捕まえた。
しかし足だけのキメラがそれ以上に何もできるわけもないので、引き摺って群の中に。
じたばた逃げようとする粉雪が悲しそうな泣き声をあげる。
粉雪は見る見るうちに肉の壁に囲まれ、見えなくなっていく。
「ああ、粉雪がっ!」
投げ込んだのが誰かさっぱり忘れているような言動である。
「アンジェラさん、粉雪を助けて!」
「わかった」
アンジェラはすぐさま武器をSMGに持ち替え連射。
粉雪に集ったミサイルを一息に掃討する。
正確な狙撃と違い乱射したため、当然のように爆発が起こり、更に爆発を誘発させる。
集まっていたところを狙ったため、掃討は結果として上手くいった。
だが‥
「粉雪!」
小雪がキメラの残骸の真ん中で焦げている粉雪を拾い上げた。
全身の体毛がこげてちりちりになって、何か別の生き物のようだった。
黒い毬藻と言えば近いかもしれない。
「粉雪‥‥こんな‥酷い」
酷いのは誰だったのだろう。
「東側は掃討したほかはどうだ?」
無線機で他の班と連絡をとりながら、アンジェラは装備の弾倉を交換する。
見えない振りもまた賢い選択肢だろう。
一番賢い選択肢はこの依頼を受けないことだったろうが‥。
◆
北側の罠は意外なほど上手くはまっていた。
流石にフリップは有効ではなかったが、
各所に張り巡らされた罠が進行速度を鈍らせる。
「こっちに向ってくるなら軌道は読み易い」
すり抜けてきた一匹をダグがスパークマシンで片付ける。
徐々に抜けてきては居るが、まだまだ対応は追いつく。
「残念だが俺はアフロにはならn‥」
ちゅどーんっとギャグ漫画にアリガチな効果音で吹き飛んだ人物が若干一名。
油断か陰謀か、ダグは唐突に抜けてきた一匹の爆発に巻き込まれていた。
「ああ、ダグさんがやられたっ!」
「くっ‥!」
網タイツたちの機動性は恐るべきものだった。
ハイヒールに比べれば動きは俊敏にもなる。
伏せ撃ちの姿勢のままカレンは一匹ずつ確実にしとめようとするが、
乱数回避に照準が合わさらない。
リロードの間さえ惜しい。
隙間をぬってキメラが迫り、あわやアフロに‥。
と、目を閉じて自分の情けない行く末を案じたその時だった。
「待て!」
物陰から飛び出した森里がカレンを庇う。
それだけならよかったのだが‥
「お前達の相手はこの俺だ!」
何を思ったかスーツのズボンを脱ぐ。
下には何故か網タイツが装備されていた。
カレンへの向っていたミサイル達は、間を置いて森里へと標準を定める。
対抗を意識を燃やしているのかどうか知らないが、なぜか地団駄を踏むものも居る。
次の瞬間には、ミサイル達は一斉に森里を追いかけ始めた。
「よし、俺がひきつける。今の内に撃て!」
ひらりひらりとミサイルの突撃をかわしながら言う森里。
コートと網タイツという姿でなかったらどれほど様になったかわからない。
「‥うん、わかった」
カレンは呆然としながら引き金を引いてミサイルたちを片付け始めた。
途中何度となく森里を撃ちかけたが、その事実は墓場まで持っていくことにした。
◆
1人と1匹の尊い犠牲をだしながらも基地は守られた。
3本のルートは片付けるのも面倒なキメラが死屍累々という有様だったが、
そこから先は軍隊の仕事、傭兵はもう見なくても大丈夫だ。
「さすがラストホープの傭兵。手際が素晴らしい」
参謀は上機嫌に褒めるだけ褒めてくれる。
リップサービスはタダ。
そんな言葉を連想させるに十分な祝辞の嵐だった。
傭兵は揃って話し半分どころか全部を聞き流している。
そして一方では‥
「に‥似合うよ‥‥すごく‥‥ぷっ‥!」
「‥くっ」
見事なアフロになって帰ってきたダグを、結月が指差しながら大笑いしていた。
粉雪は丁寧に梳いてもらっているというのに、酷い待遇の差だった。
「‥やっぱりアフロになるのか。戦わなくて良かったぜ」
じんわりと嫌な汗を流しながら、中尉は呟く。
「‥やはり無理にでも巻き込めばよかった」
森里がやはり聞こえよがしに言う。
中尉は今度も聞かないふりをする。
こうして見た目が精神的ブラクラまがいというキメラ掃討は成功に終わった。
誰の心にも嫌な記憶が残ったが、誰も補償できないのは言うまでもない。