タイトル:爆走!ミサイルキメラ!マスター:錦西

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/11/14 13:02

●オープニング本文


 密林地帯某所。
 夜に紛れて一隻のビッグフィッシュが飛ぶ。
 護衛は中型4機だが、武装は平易なものばかり。
 緩衝地帯気味に近い密林の上空だが、戦闘の意思はなかった。
 ビッグフィッシュはそのまま地表に降りると、
 格納庫の中から100体ものキメラを出撃させた。
 暗くてキメラの全貌は見えない。
 辛うじて二足歩行という点だけが見えた。
 ビッグフィッシュは全てのキメラが出撃すると、
 また飛来した時と同じように静かに夜空へと去っていった。



 密林某所の陸軍基地は朝から緊急で会議が召集された。
 基地指令、参謀、各部隊を代表する中隊の隊長達が呼び出される。
 皆一様に固い顔つきで報告に眼を通していた。
「これが今朝方、0515頃に発見されたキメラの群です」
 スクリーンに映ったキメラを見て、一同は嫌な気分になった。
 キメラの概観を一言で表すならば、ミサイルの中ほどに人間の足を足したような見掛けだった。
 人間の足はどれもこれも筋肉と体毛がびっちりついていて、
 なぜかハイヒールやら網タイツやらストッキングやらを履いていた。
「現在、基地の東、西、北の3方向から時速5kmの速度で進行中です」
「迎撃部隊はどうなってる? その出現地点ならほかの部隊もいたはずだが?」
 能力者のみの小隊を率いる30代ぐらいの中尉が、手元の地図を確認する。
「‥迎撃されました」
「なんだと‥」
「その時の映像を見せます」
 カメラは基地に来る途上にある検問所の物だった。
 カメラは固定された位置からキメラの群を正面から写している。
 その画面の端の茂みの中にスナイパーライフルの先端が見えた。
 銃口は道を歩くキメラが近づくのを待ち続けている。
 徐々にキメラがキルゾーンに近づく。
 このまま射撃が始まるかと思ったその時、射程圏内に入る直前のミサイルキメラが、
 スナイパーのほうにぱっと向き直り、
 ばしゅーーー!
 と噴射炎を上げて、その反動で走り出した。
 キモイ動きが単純に早送りのように加速して余計にキモイが、
 バカに出来る速度じゃない。
 キメラはそのままスナイパーの潜んだ茂みに突っ込み‥。
「あ‥」
 ずどーんっ!
 と、頭から突っ込んでアニメか何かような効果音を立てて自爆した。
「半径200m圏の敵を察知して、近くの一体がそれを仕留めに走るようですね」
 良く見ると細かく蛇行して乱数回避までしている。
 鬱陶しい仕様だ。
 げんなりする。
「ちなみに、能力者のスナイパーは無事です」
 キメラが悠々と通過する横で、兵士達が潜んでいたスナイパーを助け起こしている。
 助け出されるスナイパーの男は見事なアフロだった。
 元からそういう髪型だったのだろう。そうに違いない。
 突っ込みたくて仕方ないがこれも止めた。
 決して写真つきの履歴書だけはのぞくまいと固く誓う
「これが本当の撃ちっぱなし機能付きミサイルか‥。バグア、恐るべし‥」
「はい、司令。まさしくそのとおりですな」
 司令が言うとなぜか参謀が追従する。
 説明を終えた参謀は腰巾着様に戻っていた。
 最後まで真面目にやっていればどれだけ世の中平和になるか‥。
 それはそれとして中尉の予想は司令とは違った。
 これは単にバグアが処理できない産業廃棄物を捨てていっただけだろうと思う。
 理由は無いが確信に近い直感があった。
 今なら1000kmの距離を越えてアスレードと理解しあえる気がする。
 妄想かもしれないがそれ以上考えるのも億劫なので、そういうことにして納得した。
 目の前の危機は純然としてそこに存在する。
 既に各隊長が頭をつきあわせて‥、
「戦車隊が一斉砲撃をかければ‥」
「いやいや、狙撃中隊で先頭を一体ずつだね」
「それよりは歩兵隊が罠を貼れば‥」
「KVを使いましょう。ガトリング掃射で一発です」
 それぞれ勝手に自分以外の隊を推薦しはじめていた。
 他人に押し付けるために有用な案を素早く醸成していく様は褒めるべきか怒るべきか。
 確かに今回ばかりは押し付けたい気持ちも良く分かるが、
 だがいい加減に鬱陶しくなってくる。
「わかった。ならばこうしよう」
 司令の一言に場が静まり返る。
 各隊長の顔を見ましてから、基地司令は重々しくうなずいた。
「傭兵に頼もう」
「さすが、司令。素晴らしいお考えです」
 腰巾着でイエスマンの参謀が手早く手続きを始めた。
 こんな時だけ有能な働き者だ。腐ってやがる。
 とはいえ傭兵に頼むなら自分の部隊は会わなくて済む。
 しばらく無能者の振りをしよう。
 あと、こいつらを御せる司令の出現を待とうと思った。

●参加者一覧

森里・氷雨(ga8490
19歳・♂・DF
矢神小雪(gb3650
10歳・♀・HD
アンジェラ・D.S.(gb3967
39歳・♀・JG
荒神 桜花(gb6569
24歳・♀・AA
瀬上 結月(gb8413
18歳・♀・FC
和 弥一(gb9315
30歳・♂・FC
ダグ・ノルシュトレーム(gb9397
15歳・♂・SF
カレン・ベル(gb9446
14歳・♀・HG

●リプレイ本文

 鬱蒼と茂る密林の奥地にその基地はあった。
 KV配備数20機、4大隊を常時備え、近辺では鉄壁と知られている。
 照りつける太陽を物ともせず整然と整列する兵員はまさに鑑と言って良い。
 しかしその実態は‥
「戦車中隊をここに配備すれば、ほら最もキルゾーンが広く‥」
「むむ‥! ならここに歩兵大隊が埋めれば‥」
「ぬう‥! それが最適‥‥ですな」
 額に脂汗を滲ませ唸り声を上げながら、互いを追い詰めていく。
 陸戦隊も大変だが、やはり頑張る方向を間違えている。
 兵士達は揃ってみない振りだ。
「‥なんか凄い所に来たな」
 この依頼が初の仕事という和 弥一(gb9315)は、
 口元を引きつらせて苦笑いしながらその光景を眺めていた。
「あそこに居る皆が怠けてるおかげでボクたちに仕事が回ってくるから、
 文句ばかりも言えないけど‥」
 カレン・ベル(gb9446)が同じく溜息をつきながら腕組みをしている。
「処理能力ちょいと越えてるのは本当だよ」
 テント下に居座ったままの能力者の中尉が答える。
 だが答えに信憑が欠片も無い。
 椅子にだらしなくもたれかかって煙草をプカプカふかしていれば当然だ。
「私達は3方に別れて迎撃する、で間違いないわね」
 その様子に動じずアンジェラ・ディック(gb3967)が淡々と確認する。
「ああそうだ。好きにやってくれ」
「了解です。中尉自身はどこの担当ですか?」
「俺はここで待機だよ。他の任務に障るからな」
「‥ちっ」
 森里・氷雨(ga8490)が聞こえよがしに舌打ちをするが、
 中尉は聞こえない振りして欠伸をしながら尻をかいている。
 根性の入った無能の振りに森里は中尉を巻き込むのを諦めた。
「わかったらさっさと‥‥ってちょっと! 何備品勝手に渡してるんだ!」
「え? いや、そのー‥」
 突然跳ね起きた中尉が指差す先では、鼻の下伸ばした陸戦隊の面々が装備の融通をしている。
 瀬上 結月(gb8413)を中心に、荒神 桜花(gb6569)と矢神小雪(gb3650)まで加わって、
 おべっかを使っては笑顔を振りまいている。
 それ自体はそんなに慣れた風情ではないのだが、女性に接触の少ない兵士の忍耐が弱すぎた。
 結局取り繕ってるのは兵隊まで同じという話である。
「‥上手く出来たら報酬も弾むから頼むよ」
 面倒くさそうな風情を装って中尉は椅子に掛けなおした。
 その椅子から中尉が立ち上がる姿を、傭兵達は最後まで見ることはなかった。



 傭兵達は3班にわかれ森林の開ける道沿いに各種のトラップを展開した。
「ハイヒールとストッキングと網タイツが静かに、迫る森の此処♪」
「‥ヤな歌だね。テンポあってなくない?」
「こういうのは気分が大事です」
 弥一は気分なんか大事にする依頼じゃないとは思ったが、あえて結月の言動に突っ込まなかった。
 今回の依頼は大規模作戦のど真ん中では確実に簡単な依頼だったが、少し後悔していた。
 見せられた写真を思い返す。
 何もこんな相手に実戦経験積まなくたって良かっただろうに‥
「これで良いかな‥」
 荒神が地雷の類を設置し終える。
 結月も地面に凹凸を作り、てきぱきとワイヤートラップを張り続ける。
 少し不安はあったが二人ともそつがなかった。
 北側も同じく罠の設置に余念がなかった。
 慣れない分は丁寧に作ることで補い、罠の密度徐々に上げて行く。
「200m圏内の目標を探知‥。
 目らしきものはないし、熱感知か、音波か振動か」
「だからってそれは有効なの‥?」
「え? 有効じゃないかな」
 カレンが疑惑の眼でダグ・ノルシュトレーム(gb9397)の作業を見つめる。
 最初のほうこそ土をいじってロープを張ってと真面目だったのだが、
 後半はタンスを置いてみたり、バナナの皮を設置してみたり、
 『次でボケて』『こけるなよ、絶対こけるなよ』などと
 下らない内容の書かれたフリップを設置したりとしている。
 あのキメラは字が読めないだろう、とか読めても引っ掛からないだろうとか
 色々突っ込みたいことは山ほど思い浮かぶが口に出していたらきりが無い。
「試してみるのは悪くないでしょう」
「森里さん‥。そういうきみはどこへ行ってたんですか?」
「着替えですよ」
 服は先ほどと変わらずダークスーツにコートと変わらない。
 何度見ても代わり映えしない服装に、どこを変えたのか聞こうとするが、
 そこで作業は中止になった。
 偵察に出ていた兵士から、ミサイルキメラ接近の報告が届いたのである。




 西側の戦闘は終始一方的だった。
 罠の数、迎撃の武装などミサイル達に相性の悪い条件ばかりが続き、
 近寄る前に全てが撃破された。
 近寄ることが出来なかった分、荒神の出番がまるでなかったほどである。
「こんな単純なトラップに引っかかるとは‥。大したことありませんね」
 瀬上が冷たく言い放ち、ショットガンを下に向ける。
 目の前にはミサイルの先端部分を撃たれ撃破されたミサイルキメラが折り重なっていた。
「しかし‥バグアは何考えてこんな物作ったのか‥」
 戦ってみてもその目的はさっぱり不明だ。
 おおよそ暇つぶしか気の迷いか、碌な理由でなさそうな事は推察できる。
「片付いているかもしれんが、可能なら助けに行こう」
 桜花は無線機に耳をあてる。
 他の二箇所は未だに迎撃の最中であった。




 東側に伏せていた二人は苦戦していた。
 罠は十分に効果を上げていたが、流石に2名では手が足りない。
 着実に数は減らしているものの、徐々に距離を詰められてくる。
 ライフルを握るアンジェラの額に汗が伝う。
「どうする、このままでは接近戦になるわよ」
「わかってる。こんなときこそ‥!」
 小雪は足元でうろうろしていたペットの粉雪を掴み上げた。
「行ってこーい、走って敵をかき回してくるんだ〜」
 粉雪が何事かと考えている隙に、小雪は全力で粉雪をミサイル達の真ん中へ投げ込んだ。
 くるくると放り投げられ、ミサイルの足元に着地。
 ミサイル達の興味は一斉に粉雪に向う。
 粉雪とミサイルの眼(?)が合った。
 粉雪が首を傾げる仕草でかわいこぶってみる。
 が、かわいこぶっても逃がしてくれるわけもない。
 ミサイルの一体が靴を脱いで、指で器用に粉雪を捕まえた。
 しかし足だけのキメラがそれ以上に何もできるわけもないので、引き摺って群の中に。
 じたばた逃げようとする粉雪が悲しそうな泣き声をあげる。
 粉雪は見る見るうちに肉の壁に囲まれ、見えなくなっていく。
「ああ、粉雪がっ!」
 投げ込んだのが誰かさっぱり忘れているような言動である。
「アンジェラさん、粉雪を助けて!」
「わかった」
 アンジェラはすぐさま武器をSMGに持ち替え連射。
 粉雪に集ったミサイルを一息に掃討する。
 正確な狙撃と違い乱射したため、当然のように爆発が起こり、更に爆発を誘発させる。
 集まっていたところを狙ったため、掃討は結果として上手くいった。
 だが‥
「粉雪!」
 小雪がキメラの残骸の真ん中で焦げている粉雪を拾い上げた。
 全身の体毛がこげてちりちりになって、何か別の生き物のようだった。
 黒い毬藻と言えば近いかもしれない。
「粉雪‥‥こんな‥酷い」
 酷いのは誰だったのだろう。
「東側は掃討したほかはどうだ?」
 無線機で他の班と連絡をとりながら、アンジェラは装備の弾倉を交換する。
 見えない振りもまた賢い選択肢だろう。
 一番賢い選択肢はこの依頼を受けないことだったろうが‥。



 北側の罠は意外なほど上手くはまっていた。
 流石にフリップは有効ではなかったが、
 各所に張り巡らされた罠が進行速度を鈍らせる。
「こっちに向ってくるなら軌道は読み易い」
 すり抜けてきた一匹をダグがスパークマシンで片付ける。
 徐々に抜けてきては居るが、まだまだ対応は追いつく。
「残念だが俺はアフロにはならn‥」
 ちゅどーんっとギャグ漫画にアリガチな効果音で吹き飛んだ人物が若干一名。
 油断か陰謀か、ダグは唐突に抜けてきた一匹の爆発に巻き込まれていた。
「ああ、ダグさんがやられたっ!」
「くっ‥!」
 網タイツたちの機動性は恐るべきものだった。
 ハイヒールに比べれば動きは俊敏にもなる。
 伏せ撃ちの姿勢のままカレンは一匹ずつ確実にしとめようとするが、
 乱数回避に照準が合わさらない。
 リロードの間さえ惜しい。
 隙間をぬってキメラが迫り、あわやアフロに‥。
 と、目を閉じて自分の情けない行く末を案じたその時だった。
「待て!」
 物陰から飛び出した森里がカレンを庇う。
 それだけならよかったのだが‥
「お前達の相手はこの俺だ!」
 何を思ったかスーツのズボンを脱ぐ。
 下には何故か網タイツが装備されていた。
 カレンへの向っていたミサイル達は、間を置いて森里へと標準を定める。
 対抗を意識を燃やしているのかどうか知らないが、なぜか地団駄を踏むものも居る。
 次の瞬間には、ミサイル達は一斉に森里を追いかけ始めた。
「よし、俺がひきつける。今の内に撃て!」
 ひらりひらりとミサイルの突撃をかわしながら言う森里。
 コートと網タイツという姿でなかったらどれほど様になったかわからない。
「‥うん、わかった」
 カレンは呆然としながら引き金を引いてミサイルたちを片付け始めた。
 途中何度となく森里を撃ちかけたが、その事実は墓場まで持っていくことにした。




 1人と1匹の尊い犠牲をだしながらも基地は守られた。
 3本のルートは片付けるのも面倒なキメラが死屍累々という有様だったが、
 そこから先は軍隊の仕事、傭兵はもう見なくても大丈夫だ。
「さすがラストホープの傭兵。手際が素晴らしい」
 参謀は上機嫌に褒めるだけ褒めてくれる。
 リップサービスはタダ。
 そんな言葉を連想させるに十分な祝辞の嵐だった。
 傭兵は揃って話し半分どころか全部を聞き流している。
 そして一方では‥
「に‥似合うよ‥‥すごく‥‥ぷっ‥!」
「‥くっ」
 見事なアフロになって帰ってきたダグを、結月が指差しながら大笑いしていた。
 粉雪は丁寧に梳いてもらっているというのに、酷い待遇の差だった。
「‥やっぱりアフロになるのか。戦わなくて良かったぜ」
 じんわりと嫌な汗を流しながら、中尉は呟く。
「‥やはり無理にでも巻き込めばよかった」
 森里がやはり聞こえよがしに言う。
 中尉は今度も聞かないふりをする。
 こうして見た目が精神的ブラクラまがいというキメラ掃討は成功に終わった。
 誰の心にも嫌な記憶が残ったが、誰も補償できないのは言うまでもない。