タイトル:【JTFM】鯨狩りマスター:錦西

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/12/02 07:59

●オープニング本文


 コロンビアで活動する強化人間達の間で恐れられている物がひとつある。
 水槽の部屋、と呼ばれるコロンビア司令の私室だ。
 この部屋に招待される事は彼の幕下であれば3度ある。
 一度は強化人間として初めて任務に赴く前日。
 二度目は致命的な失敗をして弁明に向う時、
 三度目は二度目の訪問で与えられた機会を生かせなかった時だ。
 勿論のように三度目は生きて帰れない。
 戻ってきたとしてもその時には既にヨリシロとなり、肉体を使いまわされる程度だ。

 陥落したボゴタの基地司令がこの部屋を訪れるのはこれで2度目になる。
 何時見ても気味の悪い部屋だと思った。
 調度品は簡素なものばかり。あるのは中央に執務机と両脇に本棚。
 そして部屋の名称の由来ともなる、執務机の後ろ一面に広がる巨大な水槽。
 中身には地球上で見たことの無い生物が我が物顔に回遊している。
 何億年も前に滅んだ生き物達に似ていると言えば似てなくも無いが、
 どこを見ているかわからない大きな目玉は神経に障る。
「さて、弁明を聞かせて貰おうか」
 コロンビア司令が威圧するように口を開く。
 水槽からの光源で逆光になって顔の見えない。
「純粋な戦力不足です」
 自由に動かせるラストホープの精鋭を招いての総攻撃。
 総勢79機と機体の数自体は3分の1程度だったが、
 バグア側のエース機を一蹴するような強力な機体も多数含まれており、
 且つ電子戦装備もこれ以上無い程に充実していた。
 平凡な装備しかもたない220機は気付けばそのほとんどが破壊され、
 基地には何一つ戦力が残らなかった。
 説明を終えたボゴタ基地司令は顔を上げられずに居た。
 沈殿する空気に食い殺されるかのような錯覚を覚える。
「メデジン基地の戦力を使い、カリ基地へ救援に向え。方法は任せる。
 UPCの奇襲には十分注意せよ」
 跳ね上がるように顔を上げる。
 最後の機会だ。
 彼は最敬礼をすると、慌しく外に歩き去った。
「‥アレは失敗するな。もう用済みか」
 誰も居なくなった後に嘲笑が響く。
 黒い影を更に覆うように、黒いオウムガイが通り過ぎた‥。



 ルイス・モントーヤからの情報によって、コロンビアで最大規模であるボゴタ、
 カリ、メデジンの3基地の戦力が明らかにされた。
 このうちボゴタはその情報を元に傭兵達を投入して既に攻略済み。
 ジャンゴ・コルテス大佐率いるコロンビア攻略軍の主目標は、
 残る2つの基地へと向けられた。
 しかし‥
「南中央軍の現有戦力ではまず勝ち目はありませんね」
 KV部隊を率いる一之瀬大尉がばっさりと切り捨てる。
 並み居る佐官に怯む事も無い。
 事実として戦力不足がある以上、反論する者もまたいなかった。
 今回の作戦でUPC南中央軍本部から導入できたKV隊は総勢125機。
 うち50機はチリの海兵隊の所属でテンタクルスとアルバトロスが大半であり、
 残る75機もS−01、R−01、岩龍などが主体だ。
 一之瀬大尉のように周辺地域からKV隊を率いて参加する部隊も含めれば
 更に戦力は上乗せ出来るが、どうみても同数以上のヘルメットワームを相手に出来る戦力ではない。
 判明しているだけでもカリ基地の戦力はキメラ800匹に小型HW180機、
 メデジン基地の戦力はゴーレム、アースクエイク、レックスキャノンなどが総勢200機以上
 残った資金で傭兵を投入しても、片方を落とすのが精一杯だ。
「カリ基地へは既に浸透作戦が進行していますが、カリ基地を攻略しても
 メデジン攻略の戦力は残っていないでしょう。
 今の内にメデジンの戦力少しでも削っておかなければ
 他地域からの援軍が来てここまでの成果が無駄になってしまいます」
 一之瀬の総括に佐官達は頭を悩ませる。
 各々が近くの席の者とああでもないこうでもないと会話が溢れ始めた。
「宜しい。諸賢の意見は承った」
 明朗な声が響いた。
 場は静まり返り、会議室奥に視線が集まる。
 そこには白髪交じりのオールバックの偉丈夫が鎮座していた。
 年を経て尚年輪のように分厚い筋肉をきっちり着こなした軍服で隠している。
 密林戦線のジャンゴ・コルテス大佐だ。
「ならば、こういう策はどうだろう?」
 コルテス大佐は良く通る声で語り始めた。




 カリ基地への総攻撃という情報を流し、
 呼応したメデジン基地の手と成る部隊を叩く。
 それがコルテス大佐の示した戦略だった。
「‥そんなに上手く行きますか?」
「少なくとも動きはある」
 不安がるトニ軍曹に鉄木兼定中尉は硬く明朗な口調で答えた。
 ここはメデジン基地とカリ基地の丁度中間あたりに位置する山間部。
 トニを加えた一之瀬隊は前述の作戦を信じて待機の最中だ。
「動きの無い相手や縮こまって守りを固める相手には策は使い辛い。
 柔道と同じだよ」
「‥そういうものですか」
 戦略戦術の話ではあったがどちらかというと、
 この巨漢に小器用に投げられたり極められたりした記憶が浮かぶ。
 丸まって逃げたはずが持ち上げられたりしたこともあった。
「‥ふむ。例え話は所詮例え話だ。真実そのままではない。
 分からなければ分かるまで頭の片隅で寝かせれば良いさ」
 鉄木は沈黙を別の意味に取る。
 訂正するほどのこともないのでトニは「了解」とだけ呟いた。
「もし動きが無い時は?」
「カリ基地をそのまま総攻撃するだけだな。
 ‥状況に手を拱いているのは無能の証拠だ。
 メデジンの戦力は強引に捻じ伏せるごとは出来ないが、できる手段は数限りないだろうさ」
 鉄木は笑った。
 嘲笑するような暗い笑いでなく、爽やかな声だった。
 想定される敵戦力は40機以上だというのに、少しも気負っていない。
 改めてこの部隊の錬度の高さを思い知った。
 ただ、ふと疑問が沸く。
 何故彼らは『日本に居られなくなった』のか。
 彼らにまつわる噂は最後まで納得行かないが、確かめるわけにもいかない。
「兼定さん、傭兵たちが集まったよ。作戦会議を始めるって」
 トニが延々と物思いに沈んでいると、天幕を開いて小柄な女性が入ってきた。
 高円寺少尉だ。
 肩で切りそろえた美しい黒髪にちいさくまとまった顔立ち、
 と日本人らしい特徴をよく備えている。
「了解した。先に行っててくれ」
「うん。わかった」
 鉄木と応答してから、高円寺の視線がトニに向く。
 瞬間、トニは寒気のような何かを感じた。
 高円寺少尉が睨んでいる。
「雅、止めろ」
「‥わかった」
 見かねて鉄木が止めに入る。
 不満げに言うと高円寺少尉は渋々と言った体で身を翻した。
 文字通り口を尖らせる様は年相応で可愛らしいとは思ったが、
 その一瞬前の異様な殺気を考慮に入れれば台無しである。
 彼女の好意は目の前の巨漢以外に向わないのだろう。
「さ、一之瀬大尉を待たせると怖い。急ごう」
 困ったような顔で鉄木はまた笑う。
 トニはその笑みに、根の深い何かを感じ取った。 

●参加者一覧

時任 絃也(ga0983
27歳・♂・FC
新居・やすかず(ga1891
19歳・♂・JG
狭間 久志(ga9021
31歳・♂・PN
赤宮 リア(ga9958
22歳・♀・JG
遠倉 雨音(gb0338
24歳・♀・JG
カララク(gb1394
26歳・♂・JG
冴城 アスカ(gb4188
28歳・♀・PN
鹿島 綾(gb4549
22歳・♀・AA
フィルト=リンク(gb5706
23歳・♀・HD
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD

●リプレイ本文

 アンセルマ近辺の背の低い植生が広がる斜面にKVを隠せるほどの遮蔽は無い。
 しかし今回のように上空1000mを越えてしまうような相手ならば、
 高低差のある地形を利用すれば不可能ではない。
 出撃を待つ機体は全て緑のシートに覆われ、空からの一瞥では判別は難しいだろう。
 自身の機体のカモフラージュを終え、傭兵達が続々と集まってきていた。
「一之瀬大尉、お久しぶりです」
「久しいな、遠倉。元気にしていたか?」
「はい。大尉、また共に戦えることを嬉しく思います」
「固いな、貴様は」
 義腕義足の女傑は遠倉 雨音(gb0338)に近づくと大きく腕を開いて遠倉を抱きしめた。
 遠倉は日本人らしからぬ反応に驚きながらもおずおずと手を伸ばす。
 現地の風景に染まってしまったのだろうと、頭の片隅で考えていた。 
「あら? 私達には?」
「ん? ああ、くれてやるさ」
 今度は冗談交じりに言う冴城 アスカ(gb4188)とハグ。
 そしてとばっちりでソーニャ(gb5824)とフィルト=リンク(gb5706)も捕まってしまった。
 ソーニャは身長差もあって、抱き上げられるような形になってしまっていた。
「今、部下を呼び戻した。戻り次第会議をしよう。
 それまでに機体のカモフラージュを確認してくる」
 ソーニャを降ろした一之瀬は忙しそうに駐機するKVに向っていった。
「ソーニャさん、どうかしました?」
 フィルトがソーニャの小さな異変に気付く。
「‥わかんない。ちょっとドキドキしてる」
 ソーニャにとってそれはあまり知らない感覚だった。
 未知への不安と何か良く分からない感情が混ざっている。
 その様子をみて、冴城は直感的に何かに思い当たる。
「なんだか、子供を抱きかかえているみたいな感じだったかしら。
 ラストホープだとああいうタイプの人は少なかったわね」
 既に子供を持つ人間特有の慣れた抱きかかえ方だった。
 彼女自身の相方が似たような状況だったので機微が見えた。
 同時に依存に傾倒する危うさも見えた気がした。
 


 偵察として丘の上に登っていた鉄木中尉とトニ・バルベラ(gz0283)が降りてくる。
 降りてくるなり、鉄木は妙な顔つきになった。
 こうすると十字傷のいかつい顔にも愛嬌がある。
「傭兵のKVは外装まで自由か」
 鉄木は個別のカラーに塗り替えられた機体を物珍しげ見上げる。
 遠倉の黒い雷電、赤宮 リア(ga9958)の赤・金のアンジェリカ、
 鹿島 綾(gb4549)の白・金のディアブロ、ソーニャの明るい青のロビン。
 南米ではそもそも高級機が珍しい上に、個人の改装は更に稀だ。
「綾姉さまのモーニングスパローです。白い塗装が素敵ですよね」
 赤宮が嬉しそうに言う。この塗装自体も真新しいらしい。
「‥軍じゃあんまりこういう改造は推奨されないのか?」
 カララク(gb1394)が赤宮の機体を指す。
 単純に赤や白の塗装ならばディアブロ、ディスタンの例もあるので見つかるだろうが、
 金装飾まで施す機体はLH以外では極少数だろう。
 きらびやかな装飾の機体は空からでも目立つため最も奥の木々の陰に配されていた。
「それもあるが、俺達は長くても3ヶ月に一度のペースで機体を誰かに譲ってしまうからな」
 部隊方針から専用装備は推奨されない。
 更に言えば地味な色や森林迷彩のほうが好まれる。
 実務的な反応は南米の密林戦線を戦い続けてきた人間に良くある反応だった。
「俺達は‥恵まれてるのかな?」
「さあな。物の自由と心の自由、どちらが良い?」
「‥人それぞれとだけ」
 鉄木の言葉にカララクは言葉を濁す。
 一体どちらが物や心を得ていたのだろう。
 誰しも自由に戦えない。
 地獄を進むのに優遇も不遇も無いのだ。




 作戦開始までおおよそ2分。
 起動させたKVが徐々に熱を帯びる。
 山陰の高速道はぎりぎり直線50mを維持しているため、
 全ての機体が問題なく離陸できる。
「HWを初撃でか‥。一口に小型のHWと言っても、能力の差はかなりある。
 見掛けでは判別できんが強化型や有人機なんかはサイズの問題もあってかなり強力だ。
 強力な物は極少数だが、そういう機体が混ざっていた場合でも突破する自信はあるか?」
 鉄木の不安はどちらかというと
「勿論です。無理な場合でも弱い機体を減らしてしまえば対応は可能です」
「ふむ。では君達を信じよう」
 鉄木の不安は単純に自身の小隊の戦力不足にあった。
 幾ら最新鋭機とはいえ調整の完全でない機体だ。
 フィルトは安心させるようにうなずきかえした。
「では決まりだな。前方をA、後方をBと呼称。
 作戦は話し合ったとおり、最初の攻撃はHW殲滅を最優先とする」
 一之瀬の確認に口々に了解との答え。
「よし、行こう。作戦開始だ!」
 弾ける様に傭兵達はそれぞれの機体に駆け足で乗り込んでいく。
「綾姉さま」
「なんだ?」
「今日も頼りにしてますね」
「ああ。俺も頼りにさせてもらうよ」
 鹿島は小さくウィンクして答える。
 遠くの空には巨大な鯨の影。
 あとは網に掛かるのを待つばかりだ。
 


 ビッグフィッシュを発見したKV隊はブーストで急上昇し接触、交戦開始。
 全機ほぼ同時にHWをレーダーロック。
「行きます!」
 新居・やすかず(ga1891)のS−01Hが集団中央のHWに向けて3発の多弾頭ミサイルを射出する。
 ミサイルはそれぞれが100発もの小型ミサイルを放出、
 噴射の軌跡で一気に空を白い斑に染める。
 本来は単一目標に対する武装だが、密集した陣形では当然のように他の機体に誤爆が発生する。
 レーダーロックの無い軌道で予測不可能なミサイル攻撃に、HWは散開し回避行動を取る。
「今だ、蹴散らすぞ!」
 時任 絃也(ga0983)にあわせて狭間 久志(ga9021)、遠倉、冴城、カララク、フィルトが本命のミサイルを放出する。
 時任の機体は南米軍でも主力のR−01、狭間の機体は既に旧式となったハヤブサであったが
 2年の調整を経た両機体は既に現行最新鋭機を上回る性能を誇っていた。
 ミサイルに付与された強力なSESがHWのFFを砕く。
 この二人だけで撃墜数4。更に他4名で3機撃破。
 残り3機は迂遠な回避行動でミサイル攻撃をかわし、態勢を整えるが‥
「まだまだ!」
 残った鹿島機、赤宮機、ソーニャ機、更に一之瀬隊の4機が逃げるHW3機に肉迫する。
 鹿島はソーニャと共に逃げるHWに旋回しながら追いすがり、ショルダーキャノンとレーザーガンで執拗に攻撃。
 二重の攻撃に逃げ場を失ったHWを数秒で爆散させる。
 赤宮機はすれ違いざまに旋回させた高分子レーザーの砲塔でHWを狙う。
 大出力のレーザーはFFごとHWの装甲をあっさりと貫通し、こちらも数秒で決着。
 残りの一機も最新鋭機4機に囲まれ数秒で破壊される。
 交戦開始10秒かからず護衛のHWは文字通り全滅していた。
「ビッグフィッシュは?」
「降下を開始している。急ごう!」
 14機のKVは左右二手に別れ、それぞれの目標に襲い掛かった。
 

 
 
 フィルトはオメガレイでビッグフィッシュの胴体に穴を開けつつ、至近距離をすり抜けた。
 同時に十数本の橙色の光線がフィルトのロビンを掠める。
 本来ビッグフィッシュは非武装の輸送艦だが、
 メデジン基地の2隻には大小様々な口径のプロトン砲が機体のいたるところに備え付けられていた。
 直接攻撃からミサイルの迎撃まで、通常のビッグフィッシュに比べて格段に脅威であった。
「何度見ても圧倒されますね‥」
 間近で見るビッグフィッシュはやはり圧迫感がある。
 ユニバースナイトに比べればそれでも小さいが、バグアはこれが標準サイズの艦だ。
 これが幾つも空に浮かんでいるのは心臓に悪い。
「HW対応班はこのまま砲台を潰す」
「ビッグフィッシュの後方に4基のプロトン砲を確認」
「了解。データを受領しました。攻撃開始します」
 カララクと新居、狭間と時任がビッグフィッシュの各所に設置された砲台を次々に破壊していく。
 数十を越えるプロトン砲は傭兵達のKVの接近を阻むが‥
 持ったのは20秒と言ったところだった。
「主砲と呼べる武装がないだけ戦いやすいけど‥‥ん?」
 前方のハッチが観音開きになる。
 内部には銃を構えるゴーレムと砲を外に向けるレックスキャノンの群が見える。
「狭間さん!」
「ああ、見えてる! このタイミングを待ってたんだ!」
 狭間のハヤブサが急旋回、ブーストを使ってビッグフィッシュの前方に入る。
 ハッチからの対空砲火をかわしながら更に接近。
 狭間機は胴体下の兵装を解き放つ。
「100発全部、持って行けッ!!」
 I−01「パンテオン」発射。
 僅かな時間差で発射されるミサイル群は航空母艦カーゴ内のレックスキャノンに襲い掛かる。
 前方に露出していたゴーレムは慌ててミサイルの迎撃を行うが、間に合わない。
 次々と内部へと命中した。
 その上方に小さな影が映る。
「フィルト、ソーニャ。Gプラズマ弾を投げ込む!」
「了解。エルシアン、貫け!」
 HWに対応予定だった4機が取り囲む正面上方から3機のKVが急降下する。
 フィルトとソーニャは鹿島機を狙う対空砲を撃ち抜いて援護。
 2機の後方から降りた鹿島機は対空砲火の穴を抜けてGプラズマ弾を投下する。
 弾頭は艦橋をへし曲げ破裂、放電で艦を丸ごと焼き払う。
 ビッグフィッシュが傾いだ。
 護衛も無ければまともな主砲も無い。
 そんな艦の末路は古今東西、人類同士が戦っていた時代から少しも変わらなかった。




 後方の艦が落ちなかったのは単に接触の時間差だけが原因だった。
 前方を移動していた艦が火を噴き墜落しようとしていた頃、
 既に遠倉と冴城によって銃座はそのほとんどが沈黙しており、
 ゴーレムの攻撃のみが唯一の反撃だった。
 だがビッグフィッシュの元々の強固さもあり、撃墜には至っていなかった。
「赤宮さん、艦橋らしき位置を発見しました」
 遠倉から赤宮、そしてほかのメンバーにデータが送信される。
「じゃあ、あれを使うわけね」
「はい。援護をお願いします」
「了解。じゃあ、暴れさせてもらうわ!」
 冴城は艦前方から攻撃を続けるゴーレムの部隊に攻撃を開始する。
 ロケットランチャー、重機関砲、ホーミングミサイルG−02。
 もてる火器を惜しみなく撃ち込んでいく。
 一之瀬隊も同期してミサイル発射。
 動きの制限されるゴーレム部隊は降下もできずに防空に精一杯といった状態だ。
「赤宮さん、後はお願いします」
「了解です。SESエンハンサー起動」
 放熱用冷却索を開きながら熾天姫がビッグフィッシュ目掛け急降下。
 一部の対空砲が迎撃にプロトン砲を撃つが当たらない。
 熾天姫はそのままビッグフィッシュの前方部分にGプラズマ弾を投下し、
 艦体をすり抜けて下方へと出た。
 Gプラズマ弾はビッグフィッシュに直撃。
 上面の装甲を破ってめりこみ、大出力の放電を艦の内部に直接叩き込んだ。
「これは‥ひとたまりも無かったようですね」
 フレア弾の投下を狙っていた遠倉が、ビッグフィッシュの様子を見て呟く。
 声には若干の恐れや慄きが含まれていた。
 バグアに同情するわけではないが、艦一つを電撃の渦で包むような一撃は流石にショックだった。
 放電が止んだ後、ビッグフィッシュの全ての銃座と慣性制御が機能を停止する。
 ビッグフィッシュは静かに傾ぎ、速度を上げながら地面へと向っていった‥。




 ビッグフィッシュの中から出られずに居たバグアの陸戦兵器は、
 このまま母艦と心中するよりはマシとばかりに無理矢理飛び降りる。
 慣性制御とフォースフィールドの集中を行えば、もしかしたら生きて着陸できるかもしれない。
 儚い希望に縋るバグアに旋回するKV隊は容赦なく襲い掛かった。
 慣性制御を持たずただ落下するレックスキャノン、そして慣性制御を使いながらも戦闘より着陸を優先して急降下していくゴーレムに、
 次々とビッグフィッシュに使い損ねたミサイルや大口径砲を撃ち込んでいく。
 一定方向にしか動かない相手を狙うのは、HW戦に慣れた能力者にとっては止まった的を狙うも同然。
 ある者は地面に降り立つ間もなく破壊され、ある者は地面に激突して大破した。
「報告します。ビッグフィッシュは2機とも撃墜。
 小型HW、レックスキャノン、ゴーレムは全滅です」
 高度を落として確認に向っていたトニから予想通りの報告が届く。
 空からは落ちたビッグフィッシュの上げる噴煙が見えた。
 作戦は成功。友軍には大きな損害もなく、完勝と言って差し支えない戦果だ。
 ただグズグズはしていられない。ここはまだ敵制空権内だ。
 HWが集まってくれば今度は駆逐される側になってしまう。
「飛べない者は居ないようだな。流石だ。
 ではこれより南東のボゴタ基地跡へ進路を取り、南中央軍のKV隊と合流する。
 ブーストを使用して一気に駆け抜ける。燃料には十分注意しろ。‥行くぞ!」
 先導して一之瀬のフェニックスがアフターバーナー全開、
 一息に機体を最高速度まで持ち上げる。
 続いて一之瀬隊の3機、そして傭兵達の10機のKVが続く。
 快晴の空に整然と14筋の白線を引き、傭兵達は凱旋した。