●リプレイ本文
突然の襲撃に混乱する中、避難は思うように進まない。
押し寄せるキメラの群に、陸軍はM1戦車の火力を盾に防戦する一方だ。
それですらギリギリの戦闘だった。
携行できるロケット砲に限りがある以上、いつまでも戦闘は継続できない。
防戦は絶望との戦いだ。
異様に時間が長く感じられる戦場で、時が止まる。
十字路の陰からゴーレムが姿を現した。
指揮官達は心が折れないようにするだけで精一杯だった。
「くそ、ここまでか‥」
戦車から顔を出した陸軍中尉が呟く。
兵士達が絶望の中で決意を固め始めた頃、
巨大な影、F−201A・フェニックスが人々の上を通り過ぎた。
ピアース・空木(
gb6362)のフェニックスは、
低空をフライパスして音速波をゴーレムにぶつける。
FFの赤い光に音速波は弾かれるが、その直撃で生まれた一瞬の隙に、
3機のKV、乾 幸香(
ga8460)のイビルアイズ、飲兵衛(
gb8895)のナイチンゲール、
澄野・絣(
gb3855)の白いロビン『赫映』が道を塞ぐように降り立った。
姿形が人の心に与える影響は大きい。
それだけの変化で、人の混乱は収束を見せ始めていた。
◆
病院前では熾烈な砲戦が始まっていた。
近接戦闘ではクラリスに勝ち目がない以上、
少しでも可能性のある戦法はこれしかなかった。
とはいえ、時間の問題でしかない。
病院を後ろに控えている為、クラリスはまともに回避ができない。
的確に砲撃を加えることで相手を牽制してはいるが、残りの弾数が既に心もとない。
「あと‥何分も持たない‥」
残った力で何ができるか。
KVを自爆させることまで含めて考え始める。
気付くと、ゴーレムからの砲撃が途絶えていた。
光は全て空に向って放たれている。
何事かとクラリスが不審に思った直後、
龍深城・我斬(
ga8283)の雷電が地響きを立てて地面に着地した。
「やってくれるぜ‥。非戦闘員もお構いなしかよ」
ここまでの惨状を思い出し、龍深城が怒りを露にする。
龍深城機がチェーンソーを起動させ、吼える悪夢を下段に構える。
威嚇するように唸る雷電に、ゴーレムは向き直った。
「これ以上誰一人殺せると思うなよ!!」
4連のバーニアを吹かして突撃、すぐさま接触。
横薙ぎに振られたチェーンソーはゴーレムのFFを強引に引き裂き、
足の関節を断ち切った。
ゴーレムは慣性制御を使用して、チェーンソーの間合いから逃げる。
燃料消費は増えるが動けないことはない。
だがそれを許すほど傭兵達も甘くは無い。
ゴーレムが態勢を立て直そうとしたところを狙い、
空から降った二本のレーザーが容赦なく貫いた。
エンジンをやられたのかゴーレムはあっと言う間に大破炎上した。
「助かった‥?」
「よく頑張ったな、クラリス」
「‥大尉‥」
クラリスと病院を守るように、更に2機のKVが着陸する。
片方は赤崎羽矢子(
gb2140)のシュテルン、もう一機は見覚えのある背中。
ジゼル・ブランヴィル(gz0292)のロビンだ。
2機は着地すると同時に高分子レーザーで接近しつつあったHWを攻撃。
間断ない射撃でHWを追い返す。
「チェンバレン准尉、残弾は?」
「‥はい、大尉。予備合わせてマシンガンが58、対戦車砲が2です」
何時もなら計器を見て返答が5秒以上かかるところだが、ほぼ即答だった。
成長を喜んで良いのか悪いのか、ほんの少し逡巡していた。
「赤崎」
「予備マガジンよ」
赤崎機がマガジンを差し出す。
「小さいのは任せるよ。まだいけるね?」
「‥いけます!」
「よしっ」
赤崎機はクラリス機の肩を叩く。
バイパーの視線が一瞬だけ赤崎機を見た。
HWが態勢を立て直し、キメラと合流する。
まだ事態は危険域を出ない。
だが、希望の光を掴んだ感触があったのも確かだった。
◆
赫映の月光とゴーレムのブレードが火花を散らして衝突する。
弾いて距離を取ろうとするゴーレムに、赫映はマイクロブーストで追撃。
付かず離れず、ゴーレムを追い込んでいく。
「逃がさない‥。付き合ってもらうわよ」
追い込みながらレーザーバルカンでゴーレムの足元を掃射。
踏み込んで再度鍔迫り合いの持ち込む。
動きの止まったゴーレムを狙い、飲兵衛機がスナイパーライフルで狙い撃つ。
ゴーレムは更に下がって包囲を抜ける。
無人機特有の迷いの無い動きだった。
戦力としての脅威度は低いが、反応速度は厄介極まる。
「外したか」
撃破しそこないはしたが、ゴーレムは徐々に避難する住民から離れていく。
例え撃破できなくとしてもこれで十分だ。
ゴーレムがビルを遮蔽に逃げたところで、
HWと交戦していた乾機、ピアース機が帰還した。
「どうだった?」
「HWは何とかなります。でもキメラが‥」
乾の声には疲れが滲んでいた。
乾機はピアース機のカバーの陰でGPSh−30mm重機関砲の弾倉を交換する。
キメラ迎撃に使って残り2セットしか残っていなかった。
「けど頑張ったぜ。しばらくは歩兵に任しときゃ大丈夫だろよ」
乾機に代わってピアース機もマシンガンをリロード。
戦闘準備を整える。
「あそこまで離れれば、オメガレイも遠慮なく撃てるわね」
澄野機「赫映」は市街地で振り回せなかったオメガレイを構える。
4機は互いを見交わすと、HWとゴーレムを追撃した。
◆
足元のキメラを跳ね飛ばしながらアズメリア・カンス(
ga8233)の雷電が突入する。
その巨体では狭い街路での戦闘となるとHWのプロトン砲をかわせないが、
重装甲の機体にとってそんな事は問題にならなかった。
「並大抵の火力でこの機体を落とせるとは思わない事ね」
プロトン砲の光が円形の盾、あるいは雷電の装甲にぶつかり爆ぜる。
表面の塗装が焦げた程度でまるで効いていない。
押し留めようと光線を連射するが悪あがきにしかなっていない。
「一気に片付ける!」
ブースト、超伝導アクチュエータを起動。
巨体に似つかわしくない機敏な動きでアズメリア機はHWに肉迫。
すり抜けざまにソードウィングでHWの断ち切った。
「アズメリアさんのほうは終わったみたいだね。
こっちもテキパキ終わらせようか、ファンタ君」
「変なところで区切るんじゃねえっ!」
安藤ツバメ(
gb6657)に文句を言いながらも、
ブレードで牽制しながらゴーレムを広場へと誘導していく。
文句垂れながらもしっかり自分の役割をこなす辺り、
「合わせるぜ! どっちが先だ!?」
「フィニッシュは任せたよ!」
「おう、やってやらあ!」
ファンタスマ機が斜め後方に移動、速度を合わせてゴーレムに追撃する
G−M1マシンガン、フルオート。
狙いは上手いとは言えないが牽制の役は十分に果たしている。
ゴーレムが対応出来ずに足を止めた隙に、安藤機が急接近した。
「必殺! ゼロブレイカァァ!」
横薙ぎに振るわれた機剣「レーヴァテイン」はゴーレムの右腕に直撃。
付属のブースターで加速した剣は肩口から叩き切るように腕をもぎ取っていく。
「まだ終わりじゃねえぜ!」
よろけて後ずさったゴーレムにファンタスマ機が時間差の交差攻撃。
トゥインクルブレードで胴体を抉る。
既にダメージの蓄積していたゴーレムは耐え切れずに膝を突き、
二度と動き出すことはなかった。
「よし、決まった!」
安藤は崩れ落ちたゴーレムを見てガッツポーズ。
即席の連携だったが、安藤にとって遼機が慣れたバイパーだったことや、
使う装備の方向性が近いことが作用して驚くほど上手く稼動した。
ファンタスマの性格を的確に掴んだから、というのも大きいだろう。
「よう。相変わらず派手だな♪」
「なんだ、あんたか」
戦闘が終わったのか、ピアースから通信が来る。
ファンタスマの声は嬉しく無さそうだった。
男の声なんか幾ら聞いても、と言いたげだ。
言わないことを大人のマナーと心得ているようだが、声に出ていれば台無しである。
「無線で色々聞こえてたぜ。ちったぁ周りを気遣う様にゃなったか? くくく」
クラリスとの無線の話だった。
「はっ、何を今更。気遣いは出来る男の特権だぜっ」
「違いないわな」
くく、とピアースは笑う。
「アンタは強ぇ‥更に周りが見える様になりゃ、ホントのエースになれるぜ♪」
ファンタスマのバイパーが無言で親指を立てる。
単純明快な性格だがそれゆえの強さはある。
「他のところも方がついたみたい」
話が切れたところでアズメリアが割って入る。
各地点から戦闘終了の報告が次々に入ってきていた。
街からは未だに戦闘の残り火が立ち上っているが、
砲声や悲鳴はそのほとんどが聞こえなくなっていた。
◆
以後、傭兵達は残存する小型キメラの掃討を行いつつ待機。
後続の正規軍KV部隊到着を持って作戦を終了となった。
各機それぞれに被弾はあったものの、特に致命的な損害は無い。
降下時の迎撃での撃墜も一部は危惧されたが、
ロックオンキャンセラーやラージフレアなどを上手く運用して降下したことで、
損害は大きく軽減していた。
「周辺地域に致命的な損害は無かったそうだ。
しばらくは不便だろうが、復興できるらしい」
大隊本部から戻ってきたジゼルが駐屯部隊の報告を読み上げる。
何名かが安堵して胸を撫で下ろした。
傭兵は元が民間人であった人物も多く、キメラに対して苛烈に当たる者が多かった。
赤崎、乾、龍深城、飲兵衛などはゴーレムとの戦闘以後も、
念入りにキメラの掃討を行っていた。
復興可能という情報を何より待ち望んでいただろう。
「ここはいつもこんなに酷いんですか?」
飲兵衛の質問にジゼルは言葉を濁す。
今回の戦場もいつもどおりの戦場だった。
だからこそ基地内は慌てず騒がず、傭兵の手続きが行われていた。
「大尉、KVの引継ぎ作業、終わりました」
「御苦労」
敬礼し報告するクラリスにジゼルは形式的に敬礼を返す。
その時点で既に傭兵達が最初に見たクラリスとは大きく変わっていた。
「あ、クラちゃんおつかれー」
「クラちゃんっ!?」
そういうあだ名で呼び慣れていないのかびくっと反応するクラリス。
言い出した安藤始め、労いの声を皆して掛け始めるが、
緊張して返事するのが精一杯なようだ。
そうしていると本当に年相応の女の子といった風情だった。
「‥大尉さん、一つ余計なお節介をよろしいか?」
「何か?」
クラリスの子供然とした様子に不安を覚えたのか、龍深城が進み出る。
「個人的な考えですが、未熟な新米を本気で生き残らせるつもりなら盾を持たせるべきかと。
きっちり防御して銃で撃つ、コレだけ出来る様になるのが先です」
盾の使用はバイパーの余剰出力に見合う。
しかしジゼルは苦笑して、首を横に振るだけだった。
「陸戦特化の部隊ならそれでも良いが、私の部隊はKVは空陸共に運用する。
空戦で死重量になりやすい装備は申請が通らない。
そういうのはメトロニウムコートやミラーフレームなんかの追加装甲で間に合わせている」
ジゼルは大隊所属のKVに視線を向ける。
隊の中でも歴戦の能力者の機体はそれぞれ別のパーツを多様に取り付けてある。
逆に経験の少ない者の機体、バイパーなどになるほど装備は画一化されていく。
攻撃的な装備ではなく生存を重視した装備だ。
熟練になるまで生き残って欲しい。
しかし資金や物資には限りがある。
その試行錯誤がKVの装備に反映されていた。
「軍隊は私達みたいに仕事を選べないからね‥。傭兵と同じ思考は使えないか‥」
赤崎がクラリスを眺めている。
親近感か、郷愁か。
自身を眺めるような気持ちになっていた。
「ああいう子には、生きていて欲しいね。そのためにも強くなってもらわないと‥」
逃げ惑う市民とクラリスの違いは、力があるかないかの差しかない。
傭兵達であっても変わらない者は多いだろう。
任務は成功した。
それでも何が解決したというのか。
明るい未来が見えない現状が横たわっていた。