タイトル:ふくろうの娘マスター:錦西

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/12/16 14:22

●オープニング本文


 長期化する戦争の中で徴兵の年齢は徐々にだが下がっている。
 軍はそれでもまだ常識的な範囲で収めようと努力はしているのだろうが、
 残念なことに一部地域では少年兵は既に珍しくない。
 能力者の適性の有った者は更に酷いというのが現状だ。
 カンパネラ学園という存在がそれを証明する形になってしまっている。



 スタインベック大隊所属のKV隊は、近辺の部隊と比して頻繁に出動がある。
 大隊長の方針として浸透作戦への対処に特に重点を置くため、小規模な戦闘への参加が多い。
 結果として搭乗時間の長いメンバーが多く熟練パイロットも多い。
 だがそれは平均して、という話だ。中には例外も当然居る。
「次の戦闘はKVを使用しての市街地戦になる。
 装備は大隊の指定する単機戦闘用の陸戦装備に統一する。武装は規定の中から用意しろ」
 言われて軍服の似合わない小柄な少女、クラリス・チェンバレン准尉は必死に手元の資料をめくる。
 彼女用に用意された分厚い資料は、巨大さから既に彼女の手に余った。
「‥‥チェンバレン准尉、30ページだ」
「はっ‥はい!」
 少女は縮こまりながらも、必死にページをめくった。
 彼女は年齢の平均からみても体格の小さい。
 頼りない。背中を預けるに足りない。
 そう思いつつ、だが誰もその様子を咎めはしなかった。
「この作戦では西側は傭兵達の16機のKVに任せる。我々は‥」
 何事もなかったように作戦会議は進行する。
 逼迫する現状と能力者の適性が、子供から自由を奪っていく。 
 誰もが理解し、触れようとしなかった。




 競合地域からのキメラ掃討という定期的な簡易な任務の為、
 何事もなく作戦は終了する。
 ただ、やはり問題は解決しなかった。
「チェンバレン准尉は使い物になるか?」
「ダメですね。何かありゃ死にますよ」
「‥貴様から見てもそうか」
 昨日今日と採取した、クラリス・チェンバレン准尉のKV戦闘データは酷いものだった。
 AIのおかげで思い通りに動かせるとは言っても、
 最後は兵士として判断力が必須になってくる。
 チェンバレン准尉はその点において落第生だった。
 それでも射撃は機械の自動照準の機能に助けられ及第点を維持しているが、
 特に武器の切り替えと格闘戦が致命的だった。
 使い易い傑作武器のディフェンダーの扱いでさえまごついている。
「‥軍属にはまるで向きませんな。なにゆえ軍などに来ようと思ったのか‥理解に苦しみます」
「彼女にとっては軍しか選択の余地がなかったのだ。
 いや、スタインベック中佐しか居なかったというべきか‥」
「は‥?」
 グレッグ中尉は気の無い返事を返す。
 彼からすればそれこそ訳が分からない。
 どうしようもなく怖いことで評判の大隊長を選ぶ理由など思いつかない。
 ジゼルはその納得の行かない表情を見て、思わず苦笑していた。
「いずれ話す。‥それで、まだ試していない分野は?」
「はっ。あるにはありますが‥」
 専門分野ばかり。結果が出るのは長くかかるだろう。
「試そう。殺してしまうよりマシだ」
「了解です」
「チェンバレン准尉の予定はどうなっている?」
「現在、KV4機編成でキメラ掃討任務に参加中です」
 順調に終了すれば今日中にも帰還予定。
 明日以降は通常の訓練のみだ。
 組みなおす余裕は十分にある。
「では、手始めに‥」
 ジゼルの言葉を遮って警報が鳴り響いた。
「防衛基準態勢2を発令。繰り返す、防衛基準態勢2を発令。
 ビッグフィッシュが基地の南東50km地点にキメラを展開中
 各部隊は所定の‥」
 繰り返される言葉に、ジゼルは血の気が引く思いをした。
 そこに留まっているのは今しがた話をした新兵ばかりだったからだ。
 


 それはこの地域では定期便とも揶揄されるバグアの常套戦術だった。
 地域の生活基盤を破壊するために、市街地の一部にキメラを大量に放ち、
 ビッグフィッシュ自体はさっさと引き上げていく。
 慣性制御も使用する自由な機動を行えるバグアらしい、嫌な作戦だ。
「くそっ! 隊長機もやられたぞ!」
 街のどこかにるファンタスマの声が聞こえる。
 突出してゴーレムと切りあっては居るがその分キメラの駆逐に手が回らない。
 クラリスは荒くなる息を必死に抑えながらキメラを掃射する。
 遅い。何もかもが遅々として進まない。
 大人は偉そうなことを言う癖に、こんな時に助けてくれない。
 G−M1マシンガンでキメラの一団に制圧射撃を続行する。
 小型・中型のキメラはその砲火に耐え切れず血煙に変わるが、
 全てを防ぎきれるほどじゃない。
 キメラは街のそこかしこから侵入し、人を襲う。
「‥」
 HWとゴーレムの接近警報が鳴り響く。
 小型HWが1機、ゴーレムが1機だ。
 ファンタスマにも同数の機体が迫っている。
 ジゼル大尉やファンタスマならいざ知らず、彼女の腕では1対1でも押し負けるだろう。
 とても捌けるような数ではない。
「おい、クラリス! 敵が来てるぞ。大尉達が来るまで逃げろ!」
 それでも彼女は退かなかった。
「‥‥ママ‥!」
 『助けて』と言いたかった。
 そうしてしまった結果、何が起こったか。
 甦る記憶が少女に甘えを許さない。
 目を瞑っても、現実が変わるわけじゃない。
 それをイヤというほど思い知った。
 背後の大通りを画面に映すと、そこにはまだ逃げる人の群が居る。
 バイパーの立つ背後に建っている病院からは、未だに患者を搬送しおわっていない。
 恐れ、諦め、悲しみ、絶望。そして一縷の望みを託し、見上げる目。
「‥‥」
 下がったらダメだ。
 一体何人が、自分と同じ痛みに襲われるのか。
 考えたくも無い。
 クラリスは汗ばむ手で操縦桿を握りなおす。
「‥‥来るな‥」
 ドッドッドッと、軽妙に指きりバースト。
 バイパーはライフルの三点射で中型キメラを屠る。
 一体ずつ、確実に。
 弾丸だって無尽蔵じゃない。
 残った力で一体でも多く、一匹でも多く。
 クラリスは凄まじい集中力で目の前の敵を狙い、撃ち続けた。
 瞳は瞬きを失って猛禽を思わせる鋭さを帯び始める。
 自動照準オフ。AIの補正すら削ぎ落とし感覚を研ぎ澄ます。
「来るなっ!!」
 コックピットの中で覚醒の燐光が舞い上がった。

●参加者一覧

アズメリア・カンス(ga8233
24歳・♀・AA
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
乾 幸香(ga8460
22歳・♀・AA
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
澄野・絣(gb3855
20歳・♀・JG
ピアース・空木(gb6362
23歳・♂・FC
安藤ツバメ(gb6657
20歳・♀・GP
飲兵衛(gb8895
29歳・♂・JG

●リプレイ本文

 突然の襲撃に混乱する中、避難は思うように進まない。
 押し寄せるキメラの群に、陸軍はM1戦車の火力を盾に防戦する一方だ。
 それですらギリギリの戦闘だった。
 携行できるロケット砲に限りがある以上、いつまでも戦闘は継続できない。
 防戦は絶望との戦いだ。
 異様に時間が長く感じられる戦場で、時が止まる。
 十字路の陰からゴーレムが姿を現した。
 指揮官達は心が折れないようにするだけで精一杯だった。
「くそ、ここまでか‥」
 戦車から顔を出した陸軍中尉が呟く。
 兵士達が絶望の中で決意を固め始めた頃、
 巨大な影、F−201A・フェニックスが人々の上を通り過ぎた。
 ピアース・空木(gb6362)のフェニックスは、
 低空をフライパスして音速波をゴーレムにぶつける。
 FFの赤い光に音速波は弾かれるが、その直撃で生まれた一瞬の隙に、
 3機のKV、乾 幸香(ga8460)のイビルアイズ、飲兵衛(gb8895)のナイチンゲール、
 澄野・絣(gb3855)の白いロビン『赫映』が道を塞ぐように降り立った。
 姿形が人の心に与える影響は大きい。
 それだけの変化で、人の混乱は収束を見せ始めていた。



 病院前では熾烈な砲戦が始まっていた。
 近接戦闘ではクラリスに勝ち目がない以上、
 少しでも可能性のある戦法はこれしかなかった。
 とはいえ、時間の問題でしかない。
 病院を後ろに控えている為、クラリスはまともに回避ができない。
 的確に砲撃を加えることで相手を牽制してはいるが、残りの弾数が既に心もとない。
「あと‥何分も持たない‥」
 残った力で何ができるか。
 KVを自爆させることまで含めて考え始める。
 気付くと、ゴーレムからの砲撃が途絶えていた。
 光は全て空に向って放たれている。
 何事かとクラリスが不審に思った直後、
 龍深城・我斬(ga8283)の雷電が地響きを立てて地面に着地した。
「やってくれるぜ‥。非戦闘員もお構いなしかよ」
 ここまでの惨状を思い出し、龍深城が怒りを露にする。
 龍深城機がチェーンソーを起動させ、吼える悪夢を下段に構える。
 威嚇するように唸る雷電に、ゴーレムは向き直った。
「これ以上誰一人殺せると思うなよ!!」
 4連のバーニアを吹かして突撃、すぐさま接触。
 横薙ぎに振られたチェーンソーはゴーレムのFFを強引に引き裂き、
 足の関節を断ち切った。
 ゴーレムは慣性制御を使用して、チェーンソーの間合いから逃げる。
 燃料消費は増えるが動けないことはない。
 だがそれを許すほど傭兵達も甘くは無い。
 ゴーレムが態勢を立て直そうとしたところを狙い、
 空から降った二本のレーザーが容赦なく貫いた。
 エンジンをやられたのかゴーレムはあっと言う間に大破炎上した。 
「助かった‥?」
「よく頑張ったな、クラリス」
「‥大尉‥」
 クラリスと病院を守るように、更に2機のKVが着陸する。
 片方は赤崎羽矢子(gb2140)のシュテルン、もう一機は見覚えのある背中。
 ジゼル・ブランヴィル(gz0292)のロビンだ。
 2機は着地すると同時に高分子レーザーで接近しつつあったHWを攻撃。
 間断ない射撃でHWを追い返す。
「チェンバレン准尉、残弾は?」
「‥はい、大尉。予備合わせてマシンガンが58、対戦車砲が2です」
 何時もなら計器を見て返答が5秒以上かかるところだが、ほぼ即答だった。
 成長を喜んで良いのか悪いのか、ほんの少し逡巡していた。
「赤崎」
「予備マガジンよ」
 赤崎機がマガジンを差し出す。
「小さいのは任せるよ。まだいけるね?」
「‥いけます!」
「よしっ」
 赤崎機はクラリス機の肩を叩く。
 バイパーの視線が一瞬だけ赤崎機を見た。
 HWが態勢を立て直し、キメラと合流する。
 まだ事態は危険域を出ない。
 だが、希望の光を掴んだ感触があったのも確かだった。




 赫映の月光とゴーレムのブレードが火花を散らして衝突する。
 弾いて距離を取ろうとするゴーレムに、赫映はマイクロブーストで追撃。
 付かず離れず、ゴーレムを追い込んでいく。
「逃がさない‥。付き合ってもらうわよ」
 追い込みながらレーザーバルカンでゴーレムの足元を掃射。
 踏み込んで再度鍔迫り合いの持ち込む。
 動きの止まったゴーレムを狙い、飲兵衛機がスナイパーライフルで狙い撃つ。
 ゴーレムは更に下がって包囲を抜ける。
 無人機特有の迷いの無い動きだった。
 戦力としての脅威度は低いが、反応速度は厄介極まる。
「外したか」
 撃破しそこないはしたが、ゴーレムは徐々に避難する住民から離れていく。
 例え撃破できなくとしてもこれで十分だ。
 ゴーレムがビルを遮蔽に逃げたところで、
 HWと交戦していた乾機、ピアース機が帰還した。
「どうだった?」
「HWは何とかなります。でもキメラが‥」
 乾の声には疲れが滲んでいた。
 乾機はピアース機のカバーの陰でGPSh−30mm重機関砲の弾倉を交換する。
 キメラ迎撃に使って残り2セットしか残っていなかった。
「けど頑張ったぜ。しばらくは歩兵に任しときゃ大丈夫だろよ」
 乾機に代わってピアース機もマシンガンをリロード。
 戦闘準備を整える。
「あそこまで離れれば、オメガレイも遠慮なく撃てるわね」
 澄野機「赫映」は市街地で振り回せなかったオメガレイを構える。
 4機は互いを見交わすと、HWとゴーレムを追撃した。
 


 
 足元のキメラを跳ね飛ばしながらアズメリア・カンス(ga8233)の雷電が突入する。
 その巨体では狭い街路での戦闘となるとHWのプロトン砲をかわせないが、
 重装甲の機体にとってそんな事は問題にならなかった。
「並大抵の火力でこの機体を落とせるとは思わない事ね」
 プロトン砲の光が円形の盾、あるいは雷電の装甲にぶつかり爆ぜる。
 表面の塗装が焦げた程度でまるで効いていない。
 押し留めようと光線を連射するが悪あがきにしかなっていない。
「一気に片付ける!」
 ブースト、超伝導アクチュエータを起動。
 巨体に似つかわしくない機敏な動きでアズメリア機はHWに肉迫。
 すり抜けざまにソードウィングでHWの断ち切った。
「アズメリアさんのほうは終わったみたいだね。
 こっちもテキパキ終わらせようか、ファンタ君」
「変なところで区切るんじゃねえっ!」
 安藤ツバメ(gb6657)に文句を言いながらも、
 ブレードで牽制しながらゴーレムを広場へと誘導していく。
 文句垂れながらもしっかり自分の役割をこなす辺り、
「合わせるぜ! どっちが先だ!?」
「フィニッシュは任せたよ!」
「おう、やってやらあ!」
 ファンタスマ機が斜め後方に移動、速度を合わせてゴーレムに追撃する
 G−M1マシンガン、フルオート。
 狙いは上手いとは言えないが牽制の役は十分に果たしている。
 ゴーレムが対応出来ずに足を止めた隙に、安藤機が急接近した。
「必殺! ゼロブレイカァァ!」
 横薙ぎに振るわれた機剣「レーヴァテイン」はゴーレムの右腕に直撃。
 付属のブースターで加速した剣は肩口から叩き切るように腕をもぎ取っていく。
「まだ終わりじゃねえぜ!」
 よろけて後ずさったゴーレムにファンタスマ機が時間差の交差攻撃。
 トゥインクルブレードで胴体を抉る。
 既にダメージの蓄積していたゴーレムは耐え切れずに膝を突き、
 二度と動き出すことはなかった。
「よし、決まった!」
 安藤は崩れ落ちたゴーレムを見てガッツポーズ。
 即席の連携だったが、安藤にとって遼機が慣れたバイパーだったことや、
 使う装備の方向性が近いことが作用して驚くほど上手く稼動した。
 ファンタスマの性格を的確に掴んだから、というのも大きいだろう。
「よう。相変わらず派手だな♪」
「なんだ、あんたか」
 戦闘が終わったのか、ピアースから通信が来る。
 ファンタスマの声は嬉しく無さそうだった。
 男の声なんか幾ら聞いても、と言いたげだ。
 言わないことを大人のマナーと心得ているようだが、声に出ていれば台無しである。
「無線で色々聞こえてたぜ。ちったぁ周りを気遣う様にゃなったか? くくく」
 クラリスとの無線の話だった。
「はっ、何を今更。気遣いは出来る男の特権だぜっ」
「違いないわな」
 くく、とピアースは笑う。
「アンタは強ぇ‥更に周りが見える様になりゃ、ホントのエースになれるぜ♪」
 ファンタスマのバイパーが無言で親指を立てる。
 単純明快な性格だがそれゆえの強さはある。
「他のところも方がついたみたい」
 話が切れたところでアズメリアが割って入る。
 各地点から戦闘終了の報告が次々に入ってきていた。
 街からは未だに戦闘の残り火が立ち上っているが、
 砲声や悲鳴はそのほとんどが聞こえなくなっていた。



 以後、傭兵達は残存する小型キメラの掃討を行いつつ待機。
 後続の正規軍KV部隊到着を持って作戦を終了となった。
 各機それぞれに被弾はあったものの、特に致命的な損害は無い。
 降下時の迎撃での撃墜も一部は危惧されたが、
 ロックオンキャンセラーやラージフレアなどを上手く運用して降下したことで、
 損害は大きく軽減していた。
「周辺地域に致命的な損害は無かったそうだ。
 しばらくは不便だろうが、復興できるらしい」
 大隊本部から戻ってきたジゼルが駐屯部隊の報告を読み上げる。
 何名かが安堵して胸を撫で下ろした。
 傭兵は元が民間人であった人物も多く、キメラに対して苛烈に当たる者が多かった。
 赤崎、乾、龍深城、飲兵衛などはゴーレムとの戦闘以後も、
 念入りにキメラの掃討を行っていた。
 復興可能という情報を何より待ち望んでいただろう。
「ここはいつもこんなに酷いんですか?」
 飲兵衛の質問にジゼルは言葉を濁す。
 今回の戦場もいつもどおりの戦場だった。
 だからこそ基地内は慌てず騒がず、傭兵の手続きが行われていた。
「大尉、KVの引継ぎ作業、終わりました」
「御苦労」
 敬礼し報告するクラリスにジゼルは形式的に敬礼を返す。
 その時点で既に傭兵達が最初に見たクラリスとは大きく変わっていた。
「あ、クラちゃんおつかれー」
「クラちゃんっ!?」
 そういうあだ名で呼び慣れていないのかびくっと反応するクラリス。 
 言い出した安藤始め、労いの声を皆して掛け始めるが、
 緊張して返事するのが精一杯なようだ。
 そうしていると本当に年相応の女の子といった風情だった。
「‥大尉さん、一つ余計なお節介をよろしいか?」
「何か?」
 クラリスの子供然とした様子に不安を覚えたのか、龍深城が進み出る。
「個人的な考えですが、未熟な新米を本気で生き残らせるつもりなら盾を持たせるべきかと。
 きっちり防御して銃で撃つ、コレだけ出来る様になるのが先です」
 盾の使用はバイパーの余剰出力に見合う。
 しかしジゼルは苦笑して、首を横に振るだけだった。
「陸戦特化の部隊ならそれでも良いが、私の部隊はKVは空陸共に運用する。
 空戦で死重量になりやすい装備は申請が通らない。
 そういうのはメトロニウムコートやミラーフレームなんかの追加装甲で間に合わせている」
 ジゼルは大隊所属のKVに視線を向ける。
 隊の中でも歴戦の能力者の機体はそれぞれ別のパーツを多様に取り付けてある。
 逆に経験の少ない者の機体、バイパーなどになるほど装備は画一化されていく。
 攻撃的な装備ではなく生存を重視した装備だ。
 熟練になるまで生き残って欲しい。
 しかし資金や物資には限りがある。
 その試行錯誤がKVの装備に反映されていた。
「軍隊は私達みたいに仕事を選べないからね‥。傭兵と同じ思考は使えないか‥」
 赤崎がクラリスを眺めている。
 親近感か、郷愁か。
 自身を眺めるような気持ちになっていた。
「ああいう子には、生きていて欲しいね。そのためにも強くなってもらわないと‥」
 逃げ惑う市民とクラリスの違いは、力があるかないかの差しかない。
 傭兵達であっても変わらない者は多いだろう。
 
 任務は成功した。
 それでも何が解決したというのか。
 明るい未来が見えない現状が横たわっていた。