タイトル:【JTFM】蠢く影マスター:錦西

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/27 12:43

●オープニング本文


 水槽の部屋に主は居ない。
 あるのは二つの異形の気配のみ。
 片方は身長3m近い人型のハエのようなバグア、バスベズル。
 6本の腕を器用に腕組みさせたまま巨大な地下水槽を眺めている。
 人間らしい服装を着込んでいるのが何かの冗談にしかみえない。
「少々改造してやったところで所詮は人間、というところか」
 もう片方の声はスピーカーから聞こえてきた。
 しかし気配は室内から濃密に溢れており、この部屋をくまなく監視している。
 コロンビア司令のバグア、ティルダナだ。
「見てのとおりバカどものおかげでメデジンはこの様だ。
 敵の策を一時は看破しておきながらあの失態。ほとほと地球人という種に愛想が尽きるよ」
 テイルダナは嘲笑する。
 メデジンの戦力はUPCの戦力に分断・撃破され、
 残りは20機程度のゴーレムやレックスキャノンが残るのみだが、
 さほど残念そうには聞こえなかった。 
「それで‥私を呼び寄せた理由は?」
「ボリビアに不穏な動きがある」
 中立国ボリビア。
 クーデターで成立した新しい政権が牛耳る国だ。
 今は15才の国王を据え、摂政が政治を取り仕切っていたはずだ。
「UPCの攻勢が成功したことでどちらに付くか。決めかねているそうだ。
 くれぐれも愚挙を起こさぬよう、懐柔してきてくれないかね。
 貴様なら丁度良い手駒を持っているだろう?」
 恫喝せよとの仄めかし。
 それが当たり前と言わんばかりに二人に変化が無い。
「グリフィスなら今は別任務だぞ」
「貴様自身でも構わんさ」
「私が困る。まだまだ内務が多くてね」
「グリフィスは無理だが何人か派遣しよう。
 そこまで強くはないが暗殺は本業だ」
「頼むよ」
 くぐもった声で邪に嬉しそうに笑う。
「私もじきここを去る。‥今回の件の借りを返すためにもね」
 水槽からは生き物達が減っている。
 どこに消えたのか誰も知らない。
 声は徐々に遠くなり、いつの間にか気配も何も霧散していた。



 UPCが戦力を秘密裏にボリビアに送り込む事は容易ではなかった。
 これまでも中立を貫いていた以上、強硬に物事を運べない。
 今回、一個大隊規模とはいえ、戦力をボリビアに入り込ませることが出来たのは、
 状況の変化やコルテス大佐の政治的な差配もさることながら、
 大佐の補佐官であるソフィア・バンデラス准尉の働きが大きかった。
「摂政を暗殺して国王を武力で脅せば、容易に国の意見は変わります。
 バグアの拠点に変えてしまうのに労力は掛かりません」
「‥軍の方は、そういう考え方で動くのですね」
「戦略を考える階級の方々はそうです」
 フェリックス大尉は溜息を吐いた。
 激戦地での活躍を評価され昇進したのはいいが、
 権限は増えないまま仕事は分量も困難さも増えるばかりだ。
 本来なら大佐の補佐官であるソフィアの前で、こういう態度を見せるのは宜しくないのだが、
 それを考える余裕さえ今は無い。
「摂政は私の部隊と傭兵達が、国王は一之瀬隊が防衛する予定になっています」
「3人だけで大丈夫ですか?」
「鉄木中尉と高円寺少尉はこの類の仕事は本職だそうです。
 嘘か真かは知りませんが、元ロイヤルガードと言っていました。
 ゾディアック未満までなら足止めできる、
 と一之瀬大尉が言っているのですから問題ないでしょう」
 ソフィアは以前に引き合わされた十字傷の巨漢の顔を思い出した。
 能力者にとって体格というのは基準にならないが、
 重量のある武装を軽々と扱う彼の姿は確かに安心する。
 小柄な女性のほうは‥‥怖くて直視できなかったので記憶に残っていない。
「本命は摂政のマガロです。国王は傀儡にするほうが使いやすいでしょうが、
 摂政は暗殺するか誘拐するかしたほうが楽になります。
 連中は必ず現れると思って良いでしょう」
 命が惜しいかと問われれば、何かを為そうとする人物であれ誰であれ惜しいだろう
 しかしボリビア軍には暗殺を物理的に防ぐ手立てが無い。
 能力者どころかSES内蔵の武器すらないのだから、
 強化人間1人を排除できるかさえ怪しい。
 中立のボリビアにとってUPCの助力を得るのは苦渋の選択だった。


 ソフィアに配置の説明をしている間に、迷彩服を着た少年兵が駆け込んできた。
 胸元には真新しい曹長の階級証が付けられている。
 フェリックスの大尉の片腕、トニ・バルベラだ。
「大尉、部隊の配置が終わりました。傭兵達もじきに到着するようです」
「わかった」
 トニは報告してから、フェリックスの隣に経つソフィアに目を向ける。
「曹長、こちらは大佐の補佐官でもあり、使節でもあるソフィア・バンデラス准尉だ」
「‥トニ・バルベラ曹長です」
 トニはわずかに遅れて、ソフィアに向けて敬礼する。
「曹長は若いですが歴戦の兵士です。私が居ない間に何か問題があれば、彼に頼ってください」
「わかりました。宜しくお願いします、バルベラ曹長」
「‥はっ」
 微笑むソフィアに対してトニはぴくりとも笑わない。
 意識を排除して任務に専念している、といえば聞こえは良いかもしれないが、
 表情は排他的な雰囲気を帯びていた。
 茫洋とした目は、睨むわけでも無視するわけでもなく、ソフィアを見ている。
 敬礼を交わすと、トニはそそくさと仕事にもどっていった。
「‥私、何か彼に悪い事したかしら?」
「え? トニですか? いえ、そのような事はありませんよ」
「誰にも口外しないません。プライベートな質問だと思ってください」
 にこやかに即答する大尉に、負けずソフィアは食い下がる。
 フェリックスは少し考えてから、口を開いた。
「‥私達の多くは祖国を守るために、軍へ入隊しました。
 間接的とは言え、他人の国を守るために命を捨てたいと思う者はいません」
 ソフィアは母国の為に無理を通したわけではない。
 UPCにとってそれが有益だと判断したからこそ、
 ボリビアへの駐留に賛成し、その仲介の為に行動した。
 それでも、罪悪感に似た感情がどうしても沸き起こってくる。 
「ですが、任務は任務です。皆それはわかっています。
 何があろうと全力で仕事をしますし、させます」
「すみません、大尉‥」
「私も任務ゆえここに居ます。そういう言葉は不要です」
 気遣いであり、彼の事実でもあった。
 亡国の危機は誰にとっても同じ。
 戦わなければならない現実を共有している。
 それだけで今は十分だった。

●参加者一覧

翠の肥満(ga2348
31歳・♂・JG
三島玲奈(ga3848
17歳・♀・SN
OZ(ga4015
28歳・♂・JG
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
優(ga8480
23歳・♀・DF
遠倉 雨音(gb0338
24歳・♀・JG
狐月 銀子(gb2552
20歳・♀・HD
クラリア・レスタント(gb4258
19歳・♀・PN
サンディ(gb4343
18歳・♀・AA
ウラキ(gb4922
25歳・♂・JG

●リプレイ本文

 年を越えた頃、要人護衛の主力ともいえる傭兵達がボリビアに入国する。
 戦力だけならば強化人間であっても迎撃可能になったわけだが、
 それとは別にソフィアの悩みは増えるばかりだった。
 傭兵は出身も考え方も千差万別。
 その事実を身を持って知ることになった。
 宿舎で1週間分の荷物を開封する傭兵達の様子を見て、
 ソフィアは思わず顔を覆う。
 原因となったのは傭兵の1人だ。
「OZさん、ここはこの国の首脳部です。
 護衛の品位は護衛される側の品位とも取られかねないんです。
 もう少し節度を持っていただけませんか‥?」
「あ?」
 呼ばれてOZ(ga4015)が面倒そうに顔を上げる。
 彼は部屋に入って荷物をその辺に投げるように置き、
 机に腰をかけて用意されたワインとチーズをがつがつと貪っていた。
 宿泊の際の間食にと用意されたこの国の品で、食べる分には問題はないが、
 流石に行儀が良くなかった。
「なにそれ? 上品にしろって?
 うぜーよ、そういうの」
 嫌そうな顔で話をさえぎり、OZは再び机の上に盛られたくだものを食べ始めた。
「あ、傭兵ってこんな人間も居ますから気にしないほうが良いですよ?
 私も似たようなものですし」
 ソファーでぐでーっと寝転んでいた翠の肥満(ga2348)が、大きくあくびをしながら言う。
 彼自身も今回の参加理由は高額の報酬と言い切っている。
「ですが‥」
「仕事は完遂する。それなら文句ないだろう?」
 ソフィアは声の主がアルヴァイム(ga5051)であったことを確認して、絶句する。
 まさかアルヴァイムがOZを擁護とは思わなかった。
「お互い、仕事をこなすという一点では信頼している。
 彼に限らない話だ。人間性の話じゃない」
 ソフィアは視線をずらしてOZを見る。
 用意した食べ物がほとんど食べつくされていた。
「必要経費ですって。気にしちゃダメダメ。
 あ! OZさんちょっと僕にも残しておいてくださいよ!」
「知るかよ。早いモン勝ちだろ?」
「なんてお行儀の悪い人なんですかっ、あんたって人は!」
 VIPルームで好き放題する傭兵と、それを咎めない傭兵。
 実力があるのはわかるが、それ以上ではない。
 もやもやした不安がじんわりと胸に広がるのを、ソフィアは感じていた。




 政治を担う官僚達が、続々と官庁に現れる。
 警備は物々しいが首脳部としては平常業務だ。
 ただいつもと違い、その場に少なくない数の外国人が混ざっている。
 UPC陸軍の将兵とLHから来た傭兵達だ。
 混成された人の列の間に緊張が走る。
 官僚達に混じり、マガロ・アルファロが現れたのだ。
 穏やかな表情の人物だが、それゆえに表情は読めない
 サンディ(gb4343)は護衛たちに混じり、こっそりとマガロの歩みを眺めていた。
「彼が‥ですね?」
「ああ、護衛対象の摂政様だ」
 サンディには、彼は普通の少し品の良い中年男性にしか見えない。
 彼女はその出自故に、今回の護衛の重要さもいまいち理解できていなかった。
 大事なこと自体はわかっても、それを言葉に出来るほどではない。
「政治って‥そんなに大事なものですか?」
「人が人として生きる以上はな。人と付き合うことの延長線上だから、
 誰だってそういう事はする。‥まあ、無意識な奴は多いけどな」
「‥それはそれでわからないです」
 サンディは眉根を寄せて考え込む。
 その様子を見て、フェリックスはクスリと笑った。
「隣に居るのは国王陛下、ですか?」
「そう‥みたいですね」
 優(ga8480)の疑問に、遠倉 雨音(gb0338)は視線で示し確認する。
 摂政の隣にはまだ若い国王が立っている。
 彼には既にUPCからの護衛として、一之瀬隊のメンバーが張り付いており、
 今は黒いスーツを着こなした鉄木が側に立っていた。
 鉄木は元ロイヤルガードと言う話だったが、
 それを信じさせる程に、要人を誘導する動きにそつがない。
「あちらのほうは心配しなくても良さそうですね」
 遠倉は見知った軍人を見つけ、そちらの情報を頭の中で区切る。
 遠倉は今回作戦に関係する各部隊に一度以上参加したことがあり、
 おおよそ全員の戦力も把握している。
 生身での戦闘力は見た事は無かったが、少なくとも無理をする人物じゃない。
「‥あとは、あの白服の男みたいな強化人間が現れないことを祈るばかりです」
 雨音の言葉に、何名かが過去の惨状を思い出す。
 強化人間と戦うにはまだ能力者は弱い。
 その上で今回は防戦だ。
 苦しい戦いになることは容易に想像できた。



 傭兵達が集まったことで、徐々に護衛の準備が動き始めていく。
 何名かは到着すぐに直衛に入り、何名かは地所内に細工をほどこしていく。
「‥トラップですか‥?」
「はイ。古典的でスが」
 トニ・バルベラ(gz0283)はクラリア・レスタント(gb4258)の手元を覗き込む。
 彼女はウラキ(gb4922)と共に黙々と二重三重の鳴子を設置している。
 巧妙に隠された鳴子は、あることがわからなければ能力者でも回避は困難だろう。
「貴方も?」
「私はちょっと別件かな」
 狐月 銀子(gb2552)は壁を調べてまわっている。
 トニは特に何とは聞かなかった。
 乱暴で且つ有効な手立てなことは理解できた。
 確認だけ淡々と、トニは済ませていく。
「‥浮かない顔だね?」
「‥そうですか?」
 顔を合わせたメンバーは口にしなかっただけで、
 初対面の三島玲奈(ga3848)から見ても覇気が無い。
 こちらの国の話をしようと思っていた三島だったが、声をかける雰囲気ではなかった。
「政治家の護衛ってのは、気に入らないかもだけど。
 これも地球を守ることに繋がるんだ。頑張っていこうよ」
「‥わかってますよ。それぐらい」
 トニは三島の言葉に溜息で答える。
 ウラキはその様子を黙ってみていた。




 異変は4日目の夜に起こった。
「‥何だ?」
 帽子を目深に被ったスナイパーの男、ハヴィエルが顔を上げる。
 同じ場所に待機していたウラキも耳を澄ます。
 聞こえるか聞こえないかのレベルで、銃声が聞こえる。
「警報を!」
「敵襲だ!」
 ウラキが無線に叫ぶ。
 きっかり1秒後、護衛対象の寝室正面を固める傭兵達の前に、
 黒尽くめの衣装をまとった男が現れた。
「絶対に通すな!」
 アサルトライフルの火線が走る。
 強化人間は脅威的な反射速度で銃弾をかわすと、素早く通路に身を隠した。
「こっちの動きから銃弾を見切ってるのか‥!」
「サンディさん、マガロ氏を連れて移動してくれ!」
「わかった!」
 無線から応答の声。
「2対1か‥」
 ハヴィエルが応戦しながら、苦々しく言う。
「いや、3対1だ」
 ウラキは淡々と否定する。
 その言葉を裏付けるように、壁を破って銀色のバハムートを着た狐月が戦闘に割り込んでくる。
 位置は丁度、強化人間を挟撃する位置にある。
 狐月はエネルギーガンで身を隠している強化人間に一斉射。
 強化人間は慌てて射線をかわし、更に後退した。
「ごめんごめん。撃ち損じちゃった」
「いや、上出来だよ。これで時間が稼げる」
 強化人間には既に当初の鋭さは無い。
 見れば床に血痕が付いている。
 何かの拍子に一発くらったらしい。
「護衛対象は?」
「任せてきた。私が一緒だとエンジンの音で煩いからね」
 他にも敵が居る。
 暗に彼女はそう言った。
「だから、ここはなんとしても足止めするわ!」
 バハムートの眼が光る。
 狐月はエネルギーガンを牽制に、閃光手榴弾を投げ込んだ。



 サンディ、OZ、クラリアが護衛対象を部屋から連れ出した直後、
 強化人間が多方向から襲撃を仕掛けてきた。
 三島の用意したメトロニウムの盾が遮蔽となり、多少の足止めにはなったが、
 彼女が想定する以上に正攻法であったために大きな成果はあげなかった。
 クラリアが設置した鳴子も数の少なさから全て回避され、警報装置として作動しなかった。
 だが、この二人の働きは初動を防ぐという意味では十分とも言える。
 少なくとも、傭兵達が気付くだけの時間を得ることは出来た。
 サンディとクラリアは追いついた優と合流し、入り込んだ敵に応戦する。
 強化人間は銃剣付きのライフルを時に槍として、時に銃として振り回す。
 単純な速度なら追いつくことも出来る3人だが、間合いの狭さゆえに攻めあぐねた。
 だがそれで持ったのは数十秒だけだった。
 銃剣付きライフルを小器用に振り回したはいいが、弾が切れたらただの槍でしかない。
 クラリアが突き出された銃剣を弾き、遂に致命的な隙が生まれる。
「サンディさん!」
「サイクロンストライクっ!」
 隙を突いて繰り出された剣が強化人間の右の肩口を捉える。
 剣は深く肉を抉りながら肩を潰すが、強化人間も負けてはいない。
 突き飛ばされそうな衝撃に耐え、サンディを睨みつける。
「むんっ!」
 密着距離のサンディの手を掴むと、
 まだ辛うじて動く右手で腰のポケットで何かを動かす。
 手が出てきた時に持っていたのは何かのピン。
 ぞわりと、嫌な感触がサンディの背筋に走る。
「させませんっ!」
 優が飛び込むように剣を振るい、サンディを掴む腕を切りつける。
 血を吹き上げ力を失った右手がサンディを解放する。
 優は強化人間を蹴り飛ばし、サンディを引き戻す。
 地面を転がった強化人間が立ち上がる前に、強化人間の腹部に仕込んでいた爆弾が炸裂。
 轟音と共に周りの一帯に金属片と彼自身の肉片を撒き散らし、絶命した
「‥そんな‥」
 あまりにも簡単に命を捨ててしまったことに頭が追いつかなかった。
 こんな争いの元になる人間達が、本当に大事なのか。
 本当に人を幸せにするのか。
 サンディは自身に掛かった血をぬぐいながら、わずかに潤む目を誤魔化した。



 
 3人目の強化人間は逃げるマガロを追うように現れた。
 わざと二人に対応させ戦力を削り、護衛対象を狙う算段だったのだろう。
 護衛にはOZの他に遠倉とアルヴァイムが合流したが、
 3人がかりでも苦戦した。
 警備についていた歩兵達も合流していたが、彼らは壁になるのが精一杯。
 ライフルから連射される薄青の光線が能力者たちをすり抜け、
 マガロの前に立つ兵士達を次々に撃ちたおしていく
「ちっ‥つええ!」
 思わずOZが悪態をつく。
 傭兵達は銃で応戦するが、巧みに銃弾をかわされる。
 まともに戦うだけなら話は別だが、護衛対象が足枷になって思うように戦えない。
 光線は徐々に兵隊の壁を崩していく。
 崩された壁を縫うように、光線がマガロを狙う。
「‥!」
 アルヴァイムがマガロと強化人間の間に割り込む。
 何発もの光線がアルヴァイムの身体を貫き、節々から血が流れる。
 だがそのおかげで、マガロ氏へは一発たりとも光線は届かなかった。
「肉の壁になるか。だが、いつまでも耐えられまい?」
「いや、耐える必要は無い」
 アルヴァイムが宣言するように告げる。
 次の瞬間、激しい銃撃が強化人間を襲った。
「!」
 追いついた三島、翠の肥満、トニの一斉射撃が、強化人間を捉えていた。
 体の至るところを吹き飛ばし、左腕などは消し飛んで炭化し血も流れていない。
 腕を失った強化人間は、左腕がもう無い事を確認すると、
 足元に転がっていたまだ息の有る兵士を引っつかんだ。
「‥!」
 盾にするように構えた。
 ほとんど全ての人間の手が止まる。
 強化人間は人を盾のように構え、護衛対象に突っ込もうとして‥
 銃声に意識を刈り取られた。
「‥なっ!?」
 一瞬の躊躇もない射撃が5射。
 胸を3発の銃弾に貫かれ、強化人間は絶命する。
 残り2発は盾にされた兵士の命を奪っていた。
 銃弾は、OZの持つアサルトライフルから放たれたものだった。
「ひゃっは。バカっじゃねーの。
 んなもん盾になるかよ」
 OZは倒れ付して絶命した強化人間を指差し笑う。
 他の者はその笑い声にようやく我に返った。
 無事任務達成。
 しかし、何人かの顔は苦いままだった。




 襲撃は一度きりで、それ以降は何事もなく日が過ぎた。
 予定通りUPCから交代の能力者が派遣され、
 傭兵達とフェリックス隊の面々は帰路につくことを許される。
 張り詰めた1週間だったが、幸いにも部隊から死者は出なかった。
 その事自体は喜ばしいことだが、浮かない顔の人間が増える一方だった。
 トニも変わらず覇気が無い。
「‥僕も昔は国を守るために戦った」
 ウラキが見かねて口を開く。
「もどかしさは‥わかるつもりだよ」
 言いながら、自分を誤魔化しきれないと思っていた。
「‥でも、戦う理由と戦う場所が一致する人は多くない。
 そんなものだよ」
 疑問は押し隠す。
 今の自分は何のために戦っているのか。
「全ての出会いに感謝を。
 それは理由にならないか?」
「え?」
 黙々と作業していたアルヴァイムが顔を上げ、ウラキとトニをみていた。
 感情を抑えた眼は、機械と生物を混ぜたような不思議な色合いをしていた。
「知っているか? 古今東西、戦争に出た兵士が戦う理由はそこに収束する。
 自分の仲間を思い返してみると良い。理由はきっと、そこにある」
 アルヴァイムは言いたいだけ言うと、荷物の詰め込みを再開する。
 それきり視線を戻すことはなかった。
 黙って作業は続く。
 ある者は考え込んだまま、ある者は答えを得たように。
 状況は誰に対しても、答えを迫るばかりだった。