●リプレイ本文
メデジン最後の将は強力だった。
傭兵達が現場に向う間にも、次々と良くない報告が飛び込んできている。
言葉に含まれるのは多量の焦り、不安、恐れ。
それと反するようにある種の昂揚が電波に乗って伝わってきた。
彼の打倒が誰にとっても明確な目標であるからに他ならない。
「まったく、最後の最後まで粘るわね」
無線を聞きながら忌々しげに言ったのは冴城 アスカ(
gb4188)だった
「最後に切り札が残っていたとは。早急に片を付けてましょう」
遠倉 雨音(
gb0338)が続いた。
基地の内部は、進めば進むほどに有機的なものに変わっていく。
進む道にはKVやキメラ、その他バグアの兵器が重なり合うように横たわっていた。
どちらも満身創痍という言葉がしっくり来るような惨状だった。
「アンラ・マンユの初陣「ATEAFESSE」の試運転にはちょっと荒事すぎるかな」
漸 王零(
ga2930)は周囲を眺めながら呟く。
体の震えが止まらない。
恐れではなく、荒々しい戦の気配に期待にするがゆえだ。
「ゼンラーに散歩だと誘われてきたが。デートには中々刺激的な処、だな」
それぞれに感じることがある最中、UNKNOWN(
ga4276)は、
その光景にも余裕を崩さず平然としたものだった。
歴戦ゆえの余裕か、それとも言葉通り刺激的な散歩としか捉えていないのか。
「負けられない戦。ここで一歩足を進めるための一助になれたら、とねぃ」
誘ったというゼンラー(
gb8572)にも気負いは無い。
気負っていないが‥。
(「ナナハンの働きを、お偉いさんに見てもらって忘れられないようにとか、
思ってないですよぅ? うん」)
心の中でこっそり呟く。
確かに南中央軍でヘルヘブン750は導入してない。
そういう別の思惑があるのも傭兵らしいといえば傭兵らしい。
すくなくとも悲壮感漂う南中央軍より、
彼らの方が兵士としてリラックスできているとも言えるだろう。
◆
激戦の気配へ誘われるまま、地下へと降りた面々は、
ついに指揮官機をレーダーに捉えた。
直後、コックピット内に多数の警報が鳴り響く。
「レーザーが来るわよ!」
澄野・絣(
gb3855)が叫び、同時に傭兵達が散開する。
その瞬間に間髪入れず光の束が襲った。
報告にあったゴーレム3機に大型キメラ5匹、そして小物が十数体。
10機は乱数機動で接近してはいたが、流石に交わしきれるものではなかった。
前列に立っていた遠倉機:黒鋼の機体が傾ぐ。
「うっ」
なんとか態勢を立て直し、突撃を敢行する。
「戦闘に支障は?」
少尉の言葉は状況確認のみの淡々とした呼びかけだけだった。
「ありません。予定通り仕掛けます。バックアップを」
「了解した」
接触まで50mというところで、UNKNOWN機と黒鋼が広域に煙幕を射出。
バグア側の視界を塞ぐ。
散漫になった光線の隙間を縫い、傭兵達は三方に飛び出した。
傭兵達の戦術は対キメラ、対エースに分けて構成された。
左翼のキメラをウラキ(
gb4922)と一之瀬が、
右翼のキメラを遠倉と高円寺が対処し、
中央のキメラをUNKNOWNとゼンラーが抑える間に、
エースに対応する4機がすり抜ける算段だった。
左翼はウラキのゼカリアが後方、一之瀬大尉の破暁が前衛となった。
キメラの発する大小のレーザーを、破暁はかわし、ゼカリアは喰らいながらも直進する。
破暁が横に大きく飛び、ゼカリアの前方にキメラが収まった。
「吼えろゼカリア、ここで終わらせる!」
回転する420mm砲が群れるキメラを捉え、必殺の一撃を放つ。
ある者は胴体に直撃して絶命し、ある者は腕をもがれる。
辛うじて回避しても爆風の余波で姿勢を崩す。
「隙だらけだなっ!」
一之瀬機のスラスターライフルの直撃を受ける。
小物を含め、左翼のキメラは肉片と化した。
2機とも最新鋭機。如何に強力でもキメラ程度では止められない。
ほかの方面も同様になっていた。
右翼は遠倉を内側に、2機が並列して進軍する。
極度に接近戦に特化したシラヌイSは、遠倉の射線をかわすように機動。
煙幕を飛び出した黒鋼は、接近と同時に大量のミサイルで絨毯爆撃する。
キメラ達はもはや回避するとかしないとか、そんな話ではなくなっていた。
数発は光線で迎撃、数発は手持ちの斧を盾に防ぐが、何の足しにもならない。
FFのおかげで致命傷を受けはしないものの、致命的な隙を生んでしまう。
着弾の爆風が収まらないなか、立ち上がる煙を裂いて高円寺のシラヌイSが切り込む。
異様な切れ味の機刀が一体、また一体キメラの胴や首を薙ぎ払う。
ようやく応戦に出たキメラも黒鋼の真ツインブレイドで切り裂かれた。
中央は敵が集結しやすく、数は最多だったが殲滅はもっとも早かった。
最初に飛び出したのはUNKNOWNのK−111だった。
煙幕の中から飛び出した槍が異様なまでの正確さでキメラを穿つ。
払う間も無く抵抗する間もなく、槍は持っていた斧ごとキメラの胴を貫いた。
もしかしたら、キメラが理解する間もなかったかもしれない。
煙幕の中から現れた漆黒の機体が槍を引き抜くと、キメラはそのまま仰向けに倒れた。
「おや?」
不思議そうにUNKNOWNが呟く。
一瞬送れて煙幕から飛び出たゼンラーが、その周囲に居た小型キメラの散らす。
その背後を、4機の機体がすり抜けていく。
「拙僧の出番が無くなってしまったねぃ」
エース対応に向った4機を見送り、ゼンラーが呟く。
ゼンラーのMilestoneは右手のグングニルを所在無さげに上下させている。
薙ぎ払いに使ったのはハイディフェンダーで、必殺の威力を発揮する場がなかった。
「おお、すまん。武器だけ壊すつもりだったのだが」
武器を狙ったらついでに胴体まで破壊してしまった。
煙幕から飛び出た直後で加減が効かなかったのだろう。
「なにはともあれ‥成仏、するんだよぅ」
ゼンラーがコックピットの中で合掌する。
怪しい、と言ってしまえば正しくもあり失礼でもあるが、
生物に対する心構えは本物だった。
「さて、何を隠しているのだろう、ね?」
余裕のできた二人は戦況を、そして広い空間を見渡す。
「罠‥天井か、地面の崩落か、自爆あたりかねぃ」
「うむ。気をつけねば」
2機は武装を構えなおすと、更に近寄るキメラとの戦闘に突入した。
◆
中央のキメラに対応した2機の後背をすり抜けて、
エース対応と役割分担した4機は、一斉にゴーレムに飛びかかる。
敵3機に対して味方は4機。
どちらもエースばかりであり、激戦は必至だった。
「こいつの足止め‥任せてもらおう」
副指令の左隣の機体を神撫(
gb0167)が右隣の敵を冴城が押さえ、
王零と絣が副指令機と激突した。
キメラ対応班ほど、4機の動きはうまくいかなかった。
南米は僻地で新型は皆無だったが、それでもエースには違いない。
はじめに押され始めたのは冴城だった。
プロトン砲の撃ちにくい距離にもぐりこんだまでは良かったが、
そこから先は相手のペースだった。
牽制にスラスターライフルとガトリングナックルを撃ち込んでは見るが、
そのほとんどが易々とかわされ、至近距離まであっと言う間につめられてしまう。
ゴーレムが幅広のサーベルを大上段に振り下ろす。
冴城のソードフィッシュは機槍で辛うじていなすが、
横薙ぎに変化したサーベルが機槍を直撃。
内蔵していた戦車砲の火薬に火花が引火したのか、大きく爆発する。
「こいつ!」
「終わりだな」
近接武器の無いソードフィッシュでは捌ききれない。
ゴーレムはとどめを刺そうとサーベルを振り上げ、
次の瞬間には後ろに跳ねるように下がっていた。
ゴーレムが居た地点を数発の光線が通り過ぎる。
赫映のプラズマライフルの光だ。
「アスカ、大丈夫?」
漸が副指令との戦いが安定しているため、救助の為に戻ってきた。
冴城が崩れた場合、挟撃されてしまうからだ。
「ありがとっ、なんとかね‥。こいつ、かなりやるわよ」
「ええ、わかるわ」
冴城が態勢を建て直し、赫映がオメガレイを構える。
それに相対するゴーレムもプロトン砲を構えなおす。
2対1の射撃戦が始まった。
神撫は単機でよく戦ったといえるだろう。
「俺の速さと、貴様の腕どっちが上か‥‥勝負!」
スラスターライフルをフルオート。
弾幕で牽制しつつ、一気に懐に飛び込んだ。
対するゴーレムは慌てず騒がず、喰らいつくように襲い掛かる弾丸を回避。
ブレードを抜き放ち、 神撫のシラヌイS:昇陽を迎え撃つ。
「はあっ!!」
昇陽の主兵装、機刀「建御雷」とゴーレムのブレードが激突する。
風切るような音で高速で乱舞する建御雷、風を押しつぶすように唸るブレード。
数十合打ち合い、勝利したのは‥
「‥っ!」
ゴーレムがブレードの腹で建御雷をいなす。
受け流したブレードがそのまま昇陽を抉るように軌道を変える。
昇陽は辛うじて交わすが、反撃できずにいた。
速度では拮抗する両機だったが、攻撃の鋭さにおいて昇陽は遅れを取っていた。
「無理はしないが‥‥無茶はするしかないな!」
離れてしまえば更に遅れを取ってしまうのは明白だ。
攻めるしかない。
超伝導アクチュエータが起動し、背中の5対10枚の羽が振動し始める。
継戦能力になら、自信はある。
「おおおおっ!!」
神撫は自身の腕と自身の機体を信じ、再度ゴーレムに突撃した。
副指令ティルダナと漸の一騎打ちは互いを破壊しながらも長きに渡った。
神撫と親衛隊の戦いとは逆に、彼らは互いの攻撃をかわせない。
「やるな、人間風情が」
「我は悪を断裁する悪だ。人間風情と捉えるのはやめてもらおうか?」
「ほざけぇ!」
肉厚のブレードが振り下ろされ、アンラ・マンユのジャイレイトフィアーと激突する。
打ち払い離れた両機は鏡合わせのような動きで互いに巨大な剣を振りぬく。
互いの肩に激突し、メトロニウムの装甲がはじけ飛ぶ。
そんなやり取りを数度。
それでも両者は倒れていない。
再度、2機の剣が互いに必殺の一撃を叩き込もうとした時だった。
「チェック・メイト」
「!」
K−111の放ったスナイパーライフルの一撃が、ゴーレムの左膝を砕く。
動きの止まったゴーレムにアンラ・マンユの機杭が、かち上げるように命中。
ゴーレムを持ち上げ、頭上にかざす。
「これで‥!」
「これで?」
ゴーレムの腕が漸にまで伸ばされる。
そのまま必殺の一撃を見舞おうとした漸は、機杭を振ってゴーレムを投げ捨てた。
直後、ゴーレムは大爆発を起こす。
傭兵達が想像したとおりの自爆攻撃だった。
黒い装甲の破片が無残に散らばる。
中に乗っていた者は生きてはいないだろう。
「終わりか‥?」
取り巻きもキメラも既に沈黙している。
傭兵達が各々の武器を下ろした頃だった。
全員に直接、本部からの通信が入る。
「敵出現!」
「なに? どこだ!?」
「地上施設に多数の箱持ちムカデと‥エースが2機!
六本の腕を持つゴーレムと、副指令機と同じの黒いゴーレムが‥!」
オペレーターの声に足元がぐらつくような感触を覚える。
「こいつが囮だったのか‥」
漸が悔しげに呟く。
「‥どうやらそれだけじゃないみたいだねぃ」
ゼンラーが神妙な口調で言う。
KVの拾う音に耳をすますと、緩やかな崩壊の音が聞こえてくる。
「走れっ!」
予期していた傭兵達の判断は早かった。
傭兵達のKVは一斉に崩れる出口に向って機体を向わせる。
直後、辺りの床や壁、天井までが至るところで爆発と噴煙をあげる。
基地は下層から急激に崩壊を始めていた。
新鋭機ゆえの足の速さと頑丈さで、傭兵達はトラップを切り抜けていくが、
助かったのは彼らぐらいだった。
M−1戦車や歩兵などは逃げきれるわけもなく、
同じKVでも損傷していたR−01や数合わせの水中戦用機体などはひとたまりもなかった。
「くっ‥!」
何名かが振り返る。
手を差し伸べたい。
だが、手を差し伸ばせば自身も共に埋葬されるしかなくなる。
引き裂かれるような痛みを残したまま、傭兵達は外に飛び出る。
基地の戦闘は再び激化し、混乱していた。
グローリーグリムの再出撃と死亡したと思われた副指令の再登場。
そして見慣れない6本腕と、逃げる箱持ちムカデ。
メデジンの戦闘は、まだその終わりを見せていなかった。