タイトル:昆虫採集 IN 密林マスター:錦西

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/03/26 12:45

●オープニング本文


 昔、日本の通勤ラッシュの映像を見た。
 似たような顔、似たような服装の人間が詰め込まれるさまをみて
「うわっ、こいつら超キメェ」
 とか失礼なことを考えた。
 だが目の前に現れた本物はそんな物の比じゃなかった。
「「「初めまして、マルセロ中尉」」」
「塩田です」
「甘粕です」
「油川です」
「「「どうぞよろしく」」」
 マルセロ中尉には目の前に立っている角刈りで四角い顔の3人の見分けが、
 まったくつかなかった。
 ネクタイだけそれぞれ違う色だが、違いはその程度だ。
 笑みの作り方から、声のはもりのタイミングまで差異が無い。
 三つ子が能力者になったのか、それとも三つ子に仕立て上げたのか。
 どちらにしても似すぎている。
 東京の通勤ラッシュは滅んだというのに、
 まだこんなところで棲息してるなんて思わなかった。
 いや、棲息しているだけなら良い。
 キメラ以外ならゴキブリにだって生きる権利を認める度量はある。
 だからこんな南米の密林奥地にある前線基地まで来てほしくなかった。
「で、お前ら何しにきたの?」
「キメラの」「情報収集のため」「サンパウロより派遣されました」
「南米のキメラの」「生態系は」「非常に特殊です」
「何卒」「調査に」「ご協力ください」
 別々に引き継いで喋るんじゃねえ。
 中尉は心の中で悪態をつきながら、
 書かれた名前だけが違う代わり映えしない名刺を、
 ひったくるように受け取った。
 同じ組織なら名刺なんて名前以外違うような物は配布されないが、
 そういう根本的なことに気付く余裕は今の中尉にはない。
「なるほどね。で、どんなサンプルが居るんだよ」
「それに関しては」「こちらに資料を」「用意しました」
 紙媒体、CD、読み取り用のパソコン。
 塩田が資料のまとめであるページを開き、甘粕がパソコンの立ち上げ準備、
 油川は電源含めて配線をチェック。
 今回だけは三人の手際の良さに感嘆する。
 騙されるな、俺。
 ちょっと優しい気分になりかけた自分を叱咤する。
「‥資料ね。ふむ‥」
 PCを起動させる間に渡された資料の次のページを開く。
「‥‥‥‥なにこれこわい」
 8本足の太った芋虫のような何かに頭に人間の顔っぽい何かがついている
 眼だけが昆虫の複眼になっており、気持ち悪いどころの話ではない。
「これを捕獲してください」
「やだよっ!」
「美味でしたよ」
「食ったのかよ。てか、お前らだけでやれよっ!」
 机をばんばん叩きながら一々突っ込んでみたがびくともしない。
 叫びすぎて思わず加えていた煙草を落としかける。
「「「問題点があります」」」
「このキメラ、周囲のキメラを養う餌のような役割を担っているようでして」
「まともに近づけば一帯を縄張りとする大型キメラを呼び寄せてしまいます」
「人数が必要です。傭兵を集める資金も用意しました」
 三人が取り出したのはキメラがキメラを食う写真、
 上空を飛ぶ竜を模した大型キメラの写真、
 そして目の前には必要な資金の詰まった黒いアタッシュケース。
「‥そういう権限は確かにうちの管轄だな。申請しておくよ」
「「「ありがとうございます」」」
 中尉は淀んだ目で三人を眺めてから、机に突っ伏した。
 こいつらが目の前からさっさと居なくなるなら何でも良いや、
 としか考えてなかった。

●参加者一覧

瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
ロゼア・ヴァラナウト(gb1055
18歳・♀・JG
龍鱗(gb5585
24歳・♂・PN
アクセル・ランパード(gc0052
18歳・♂・HD
湊 獅子鷹(gc0233
17歳・♂・AA
ファリス・フレイシア(gc0517
18歳・♀・FC
ファタ・モルガナ(gc0598
21歳・♀・JG

●リプレイ本文

 ラストホープに住む傭兵達は世界中を飛びまわってキメラ討伐を行っている。
 ここ、南米の密林地帯に限らず北米、アジア全域、欧州、
 果てはグリーンランドと場所を選ばない。
 だからちょっと期待した。
 恐ろしい物を見慣れた傭兵達ならきっと、きっとなんとかしてくれる。
 ‥という風にマルセロ中尉が期待するのは勝手な話で、
 基地まで呼び出された傭兵達の反応も、
 半分ぐらいはマルセロ中尉と変わらなかった。
「‥‥うわぁ、ナニコレ」
 ファタ・モルガナ(gc0598)がげっそりと呻くように言う。
 目深なフードで目元は見えないが、どんよりしてたかもしれない。
「慣れたら平気ですよ」
 ファリス・フレイシア(gc0517)は特に気にする風もなく、貰った写真を戻す。
「‥‥ん。昆虫キメラ。美味と聞いた。楽しみ」
「そ‥‥そうだね」
 最上 憐 (gb0002)の爆弾発言に、
 アクセル・ランパード(gc0052)が苦笑いしつつ頬を掻く。
「場所はだいたいわかってるのかな?」
 瓜生 巴(ga5119)は早々と写真から目を逸らして、地図を確認しながら言う。
 ちょっと声が硬い。
「土地勘無い連中にここで探し物させるほど酷くはねーさ。
 近くまで送ってやるから安心しな」
「では、皆さん」「現地へご案内します」「どうぞ、こちらへ」
 三つ子が外で待機している三台のジーザリオを示す。
 ジーザリオには籠も満載されている。
 その数だけ捕まえろということなのだろうか。
 仕事が始まったばかりだというのに何名かは既にげっそりとしていた。




 事前に知らされていたとはいえ、
 翼竜との戦闘はかなりの苦戦を強いられた。
「‥あ、当たらない‥!」
 ロゼア・ヴァラナウト(gb1055)がライフルで中空を飛ぶ翼竜狙うが、一向に命中しない。
 翼竜の高度は30m程度。
 向うの攻撃もまた傭兵達に命中することは無かったが、
 集中力が途切れれば容易に焼かれてしまうだろう。
 密林の湿気で火災はまだ起きていないが、いつ着火するとも限らない。
 また一つ火炎弾が降り、ファタの近くに着弾する。
 木々が吹き飛び、地面に小さなクレーターができる。
「あんなの受けたら、もやしっ子の私は死んじゃうっての!」
 泣き言を言いながらもファタはしっかりと木々の陰に隠れていた。
 反撃とばかりに湊 獅子鷹(gc0233)は翼竜にソニックブームを何度か放ったが、
 どれもかすりもしなかった。
「ちぇっ。届きゃしねえや」
 彼の腕前以前に距離が遠すぎるのだ。
 こうなると接近武器主体の彼では手の出しようが無かった。

 そして問題がもう一点。
 密林迷彩の皮膚を持つ小型肉食恐竜が彼らを悩ませていた。
「やれやれ、早いな」
 龍鱗(gb5585)は木々の隙間から飛び出してきた竜の爪を雲隠で受け、
 いなすように攻撃をずらすと、捻りと回転を加えた蹴りで顔を張り倒す。
 竜は「ギャッ」と鳴き声をあげて転がるが、すぐさま立ち上がってすばやく森へと逃げかえっていく。
 最上が鎌で斬ろうと走り寄るが、わずかに届かない。
「どうします? 埒が明きませんよ」
「中尉は‥」
 荷物の乗った大八車のようなものを引っ張りながら、煙草で一服中だった。
 到着後、「後で晩酌ぐらい付き合うから。簡単なもんでしょ?」
 とファタに言われて荷物持ちぐらいなら、と参加した中尉だったが、
 この状況で腰の番天印を抜きもしない。
 それでも油断無く周囲を警戒してはいる。
 荷物番の仕事は十分に果たしていた。
 ‥荷物番の仕事しかしていなかったのはこの際、多めにみるべきだろうか。
「‥どうします? 閃光手榴弾はちょっと使いにくいですよ」
「そうだな‥」
 キメラの襲撃はタイミングも場所も完全にランダムだ。
 それに閃光手榴弾をあわせることはできない。
「‥なんか俺、良く狙われるね」
「そういえばそうですね」
 龍鱗の言葉にアクセルが頷く。
 周囲を取り巻くキメラ達はランダムで攻撃をしかけてくるが、
 狙う対象は龍鱗の場合が多い。
「武器の間合い‥でしょうか?」
 ファリスが龍鱗を見て分析する。
 そしてそれは恐らく正しいだろう。
 他のメンバーに比べ、彼だけ間合いが狭い。
「利用しない手はないですね」
「あ‥やっぱりそうなる?」
 龍鱗は諦めたような顔で雲隠を納刀した。


 
 案の定、次の襲撃も龍鱗を狙ったものだった。
 小型の竜は竜鱗の肩に食らいつこうと、勢いをつけて飛びかかってくる。
「つ‥!」
 龍鱗はわざと噛み付きをうける。
 痛みに耐えながら、竜の首を掴み上げた。
「今だ!」
「はいっ」
 アクセルのベオウルフが唸りをあげる。
 遠心力も加えた一撃が小型竜の胴を薙いだ。
 小型竜は心臓まで深く抉られて絶命する。
 それを見て助けに飛び出たほかの個体も居たが、
「あら、しょうがありませんね」
 迎撃準備は万端、ファリスがセベクで応戦。
 振り上げるような一撃は跳ねて逃げようとした竜の足を切り、返す刃が頭を潰す。
 戦法が崩れてしまえば大したキメラではない。
 中型キメラが駆逐されはじめた頃、翼竜との戦いも決着がつきはじめていた。
 翼竜の火炎弾で周囲が焼けて視界が開けたことで、翼竜への攻撃が命中し始めたのだ。
 最初のうちはダメージに耐えていた翼竜だったが、
 瓜生のエネルギーガンの一撃に耐えかね、バランスを崩し、
 地上すれすれまで降下してしまう。
「バサバサ飛ぶんじゃないっ!」
 すかさずファタが大口径ガトリング砲で滑空する翼竜を撃つ。
 大量の銃弾が翼膜に穴を開け、風を受け止められなくなった翼竜は地に向けて落ちる。
 木々を倒しながら落ちた翼竜はそれからピクリとも動かなかった。
 墜落の衝撃で死んだのか、それともガトリング砲の直撃で死んだのかは定かではないが、
 傭兵達の興味を失わせるには十分だった。



 中型キメラ、大型キメラ共に無事駆逐され、
 あとはわかりやすくうろうろしている昆虫(?)キメラを捕獲するだけだった。
 目の前にまず5体、探せばその辺にもたくさん居る。
 網をかけてでかい籠に引き摺りこめば良いところまで行きながら、
 傭兵達は直ぐには手を出さなかった。
「‥‥あれが最後の飛竜キメラとは思えません。
 周辺の警戒は任せてください」
 最初に根をあげたのは瓜生だった。
 棒読み気味に言うと銃を逆手で持って、離れて行く。
「瓜生さん、確かにこれ見るのも触るのもイヤなぐらいキモいけど‥
 仕事は最後までやろう‥キモいけど」
 そういう龍鱗も鞘で突っついてネットを持ってる組のほうに追い立ててるだけだ。
 たまに強くついてしまって、
「うわぁ‥‥何かぶにぶにしてんだけど‥」
 とか泣き言を言っている。
 以上のように何名かが心に浅くない傷を受けつつも、
 気にしてない面々と貧乏籤気味に作業を引き受けたアクセルらのおかげで、
 作業は順調に進んでいた。
 嫌々に作業する者、渋々する者、淡々とこなす者、三者三様な風景だったが、
「カブトムシカブトムシっと」
 湊ほど嬉々として作業したものはいなかっただろう。
 童心に帰って虫を籠に入れていく。
 1mのきもい虫で童心に帰れるなんてなんて都合の良いやつ、とは誰も言わなかった。
 実際のところは「虫を籠に」と書くと語弊だらけである。
 1mもあるものを専用の籠に投げ入れているのだから、
 巨大な大根を収穫しているといったほうがまだ正しい。
「‥よっしゃ、こんだけ集めれば数は十分だ」
 煙草吸いながら見てただけのマルセロが言うと、
 ほとんどのメンバーは嬉しそうな顔をした。
「え、もう帰るのか? 探せばもっと‥」
「帰るんだ」
 1人楽しそうな湊にきっぱり告げる中尉。
 それは玩具売り場を離れない子供を言い聞かせるような言い方にも聞こえた。



 三つ子達はニコニコと上機嫌だった。
「ありがとうございます」
「これで研究がはかどります」
「お世話になりました」
 ペコリと頭を下げるタイミングまで一緒。
 芋虫入りの籠を満載したジーザリオに、全く同じタイミングで乗り込んで、
 エンジン音までハモらせて帰って行く。
 よく訓練されている。感動的だな。だが無意味だ。
 もう来ないで欲しい。
 マルセロ中尉はやる気のない風で手を振って。さようならと心で呟いた。
「胸を撫で下ろしてるところ悪いんですけど、こっちはどうするんです?」
「あ?」
 瓜生に肩を叩かれ振り返り、愕然とした。
「何してんの、お前さんがた」
「‥‥ん。おなかへったから」
 最上が振り返って答える。
 だからって何も芋虫を掻っ捌いて調理しなくてもいいじゃないか。
 ほら、調理してる人間も嫌そうな顔してる。
「あ、俺は食べないから。そっちのキメラを貰います」
 なるべく淡々と調理していた龍鱗は視線で道路の脇を指し示す。
 いつの間に回収したのか、ブルーシートの上にキメラ2種の腿らしき肉が転がっていた。
 アクセルが手伝いで皮を剥いでいる。
「‥‥ん。生でも。いけるかな? 焼いた方が。おいしいかな?」
 最上が興味津々に龍鱗の手際を眺めている。
 龍鱗はその視線に気付き、芋虫キメラの肉を薄く切り取って最上に差し出した。
 ちょっと無表情気味にうけとった最上は、小さな肉片をゆっくり咀嚼する。
「‥‥ん。おいしい」
「‥良かったね」
「でもちょっと、お塩ほしい」
「はいはい」
 龍鱗はちょっと苦笑気味の笑顔で作業を続ける。
 嫌々ながらも手際だけはそつがない。
 最上はその様子を見ながら、なんとなく幸せそうだ。
「まずそーだから俺、パスね」
 湊は宣言して帰宅の準備をそそくさと始める。
 そもそも「まずそう」以前の問題なので誰も止めはしなかった。
「ファタさん」
「はい?」
「酌とかいいわ、俺もう今日は報告書書いたら寝るから」
「そ? 残念♪」
 ファタはぺろっと舌を出してげっそりしたマルセロを見送った。

 その後『報告書書いた後寝る』などという自由が彼に許されたかは定かではない。
 今回の結果に喜んだULT南米支部が、また三名の調査員を派遣したそうだが、
 それに関してはまた別件の話になるだろう。