タイトル:【JTFM】赤光の騎士2マスター:錦西

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/04/10 13:48

●オープニング本文


 2011年 3月 クルゼイロ・ド・スウル基地
「ソフィア・バンデラスは逃したもののカリ基地での包囲戦は我々の大勝だ。これだけの損害を与えればバグアももうコロンビアへ干渉するだけの余力はないだろう」
 ジャンゴ・コルテス大佐はブリーフィングルームに集まっている兵士達に向けて告げる。
「よって、こちらからも攻め手に入る。被害があるのはこちらも同じであるため、先ずは現状を片付けていく」
 大きなテーブルの真ん中に広げられた地図に駒を置いてコルテス大佐は説明を続けた。
「現在のところ逃亡中のキメラ四天王などを片付ける。コロンビアでのことはここで清算して次の勝負へと出る」
 ニヤリと片方の口元だけを上げたコルテス大佐の顔に思わず笑いをこぼすものもいる。
「そして、今後はコロンビアから逃走先であろうエクアドルへと軍のKVの修繕を済ませて出撃を行う。これにはグランマーゴイも投入し、決着に向けて一歩優位に立つべく動くぞ。作戦は以上だ、休めるものは休み、エクアドルへの出撃体制を整えてくれ」
 大まかな南米戦線『JTFM』の終わりまでの道筋が見えてくる。
 密林の覇者となるのは、人か、バグアか‥‥。



 カリからティルダナが帰還したことに合わせ、本城は司令室に呼び出された。
 司令の部屋は随分と閑散としていた。
 いつもなら部下となるバグアや強化人間が、もっと数が居たのだが‥。
「他の者には前線の防衛に回ってもらった。
 ここにはもう何人も残って居ない」
 人にあらざる声が人の言語を喋る。
 そろそろその声にも慣れてきた。
 暗い水槽の中央に浮かぶ巨大な黒いオウムガイ、ティルダナ司令だ。
「私もそうした方が良いのかしら?」
「いや、貴様にはフェリックスの後を継いでもらう。
 貴様には新たに専用のティターンと、残存するフェリックスの部下の全てを与える」
「‥‥正気?」
「勿論だとも」
 一々確認はしなかったが、本城が洗脳処理を受けていないことは彼も知っている。
 だというのに、彼から見ればいつ寝返るかもしれない人間に指揮官の権限を与えると言っている。
 幾ら戦力として十分な資質を持っていたしても、正気の沙汰とは思えない。
「‥どうして? 何故私に?」
「わからん。わからんが‥」
 ティルダナは言葉を濁す。
 言葉を捜すように逡巡しているのか、触手がうねうねと意味もなく動く。
「私は、長年部下だったフェリックスを理解したいのかもしれない」
 フェリックスだったらこんな時、どうするか。
 何を考えるだろうか、何を見ていたのか。
 行動をなぞることで何かわかれば良い。
 そう考えているのだろうか。
「わかったわ。‥作戦行動は好きにして良いのかしら?」
「基本的な方針に沿っていれば問題ない。
 差し当たっては‥ゼーファイド殿に送る増援を選抜しろ。
 防戦一方らしい。急ぐように」
 それだけ言うと、ティルダナは水槽の奥へ消えていった。
 これまで感じていた覇気がまるで無い。
 彼なりに部下の死にショックを受けているのだろうか。
 本城は頭を振って考えを締め出すと、水槽に一礼して部屋を去った。



 バグア・人類双方にとって、カリ包囲戦のダメージは甚大であった。
 どちらも戦力の再建の為に時間をかける以外に選択肢がなく、
 自然と戦場は小規模且つ広範なゲリラ戦へと移行していった。
 単体の戦力に勝るバグアではあったが、
 名の知れるエースの多くを失ったために統率を失い、
 戦局は一進一退のまま推移していた。
 この近辺の土地は戦略的な要地とは遠く、
 バグアも機動兵器を配備せずにキメラを防衛戦力の主力としていた。
 対する人類側も些少な戦力にKVを配備するほどの余裕は無く、
 自然と戦闘は小規模なものが主流となった。
 戦車が十数輌、ヘリが1台、兵士が2個中隊程度。
 両軍が街を挟んで対峙し人類側が優勢。
 あと1日もすれば人類側が街を制圧するというところまで来たが、そこで誤算が生じる。
 バグア側に強力な援軍が到着したのだ。
「ゼーファイド殿に来て頂き、助かりました。本当にありがとうございます」
「頭ヲ下ゲナクテモ良イ。我ラハ仲間デハナイカ」
 ゼーファイドに肩を叩かれ、軍人をヨリシロとしたバグアが更に恐縮する。
 今のゼーファイドは返り血に塗れ、装甲は傷だらけとなり凄みを増していた。
 弱小のバグア兵達にとっては、これ以上ないぐらい頼もしい存在に見えただろう。
 ゼーファイドはこの戦局になった頃から、単身で各地での遊撃を始めていた。
 KVもHWも無い戦場を片っ端から崩すことで人類側を警戒させ、
 広範囲にわたって侵攻を食い止めている。
 彼自身の飛行能力もあり、人類側は撃つ手が無い状態だった。
 今日の戦闘はひとまず終了し、ゼーファイドは武具を外す。
 手入れは欠かさず使ってきたが、流石にボロボロだ。
 ゼーファイドが武具を感慨深げに見つめていると、バグアの一人が顔を出した。
「ゼーファイド殿、本部からお客様がお見えになっています」
「‥私ニカ? 通シテクレ」
 バグアに連れられてやってきたのは3名の強化人間だった。
 先頭に立つ小柄な女性が頭を下げると、背後の長身の男性二人も揃って頭を下げる。
「私はアリスン、彼はエドゥアール、彼がクリストです。
 ティルダナ司令配下の本城女史から、以後貴方と共に行動するようにと承っています」
「ティルダナ司令ノ‥」
 珍しい話もあるものだとゼーファイドはすこし驚いた。
 ティルダナはゼーファイドとはあまり馬が合わない。
 同じバグアではあるが直接支援を受けたのは初めてだ。
「ゼーファイド殿の替えの装備も運ばせて‥‥‥どうかしましたか?」
「‥イヤ、何デモナイ。ソノ装備モ有リ難ク使ワセテ貰ウゾ」
 敗北が団結を促したのか、それとも彼自身に心変わりがあったのか。
 ゼーファイドも同じバグアではあるが、
 ヨリシロに精神性まで影響される以上、彼を慮るのは難しかった。



 日が昇り再び落ちた頃、戦端は再度開かれた。
 キメラ、強化人間、そしてバグアを徐々に追い詰めるUPC軍。
 その彼らの前に、装いを新たにした一人の騎士が従者を引きつれ現れた。
 赤い鎧、角のような兜、光る単眼、そして胸にはゼッケン‥。
「我ガ名ハゼーファイド。キメラ闘技場ノバグア四天王、ゼーファイドダ!」
 夜の街に木霊する声に、兵士は一斉に下がる。
 戦車を何台並べたところで敵う相手ではない。
 指揮官である中年の大尉は急ぎ部隊を散開させる。
「出てきたな、ゼーファイド。傭兵達を呼べ」
 戦術で覆せない以上、切り札をぶつけるしかない。
 ここで負ければこの戦場自体が敗北だろう。
 大尉は悔しそうに「くそっ」と吐き捨てた。

●参加者一覧

御影・朔夜(ga0240
17歳・♂・JG
時任 絃也(ga0983
27歳・♂・FC
エマ・フリーデン(ga3078
23歳・♀・ER
イリアス・ニーベルング(ga6358
17歳・♀・PN
アンジェリナ・ルヴァン(ga6940
20歳・♀・AA
遠倉 雨音(gb0338
24歳・♀・JG
鳳覚羅(gb3095
20歳・♂・AA
加賀・忍(gb7519
18歳・♀・AA
ジャック・ジェリア(gc0672
25歳・♂・GD
ラナ・ヴェクサー(gc1748
19歳・♀・PN

●リプレイ本文

 月明かりに照らされた街を、異星の住人が闊歩する。
 先頭を歩くゼーファイドは周囲を油断なく見回してはいるが、
 敵を見つけても積極的に追うことは無い。
 それが自身に傷ひとつつけることもなく、また抵抗する気力も残っていないと知っているからだ。
 左右を固める女性の剣士と男性の槍使い、右斜め後方の屋根の上を渡る男性の弓使いも同様だ。
「‥あれが噂のバグア四天王の一人か‥」
 鳳覚羅(gb3095)が少し呆れたように呟く。
 赤い装甲、はともかく胸のゼッケンは誰も間違えようがない。
「油断しないように。あんな見かけですが、実力は本物です」
 前回戦闘をして生き残ったラナ・ヴェクサー(gc1748)の言葉に、
 時任 絃也(ga0983)が無言で頷き同意する。
 周囲が開けているため前回よりは優位に戦えるが、今回は護衛が3名居る。
 いずれも相当の実力があるのは間違いない。
「前回の報告書は読ませていただきました。中々の強敵のようですね」
 遠倉 雨音(gb0338)はSMGを確認する。
 相手の技量を考えれば小さなミスであれ、敗北に繋がりないだろう。
「貴様達ガ、ソチラノ代表ダナ?」
「そうよ。手ごたえがありそうで嬉しいわ」
 加賀・忍(gb7519)は答えながらも嬉しそうに笑った。
 笑みの理由は正面のゼーファイドには理解できなかったが、
 おそらく同じ傭兵でも理解できるものは少ないだろう。
 闘争への愉悦と、加虐を望む思考は本来なら人類にとって危険なものだ。
「お久し振りです、ゼーファイドさん」
「ム‥‥。貴様ハ何時ゾヤノ‥‥」
 イリアス・ニーベルング(ga6358)が集団から前に出た。
 イリアスの胸には簡易式のゼッケンがついており、『「渡鴉所属」 いりあす』と明記されていた。
 隣に立っているジャック・ジェリア(gc0672)は微妙な顔だ。
「あ、それ本気だったんだ?」と言いたげな顔で2人のやりとりを見守っている。
「‥一戦、お願いしても良いですか?」
「勿論ダ。此方トシテモ望ム所! 存分ニ戦オウデハナイカ!」
 盛り上がっている二人の間に時任が間に入る。
 雑談をしにきたわけではない、と言外に告げる。
「一戦始める前に提案だが‥」
「この戦いは所謂決戦だ、故に小細工無しに互いの戦力での全力勝負を願いたい。返答やいかに」
 ゼーファイド本人に小細工という考え方がないことを利用した誘導だったが、今回は通用しなかった。
「はっはっはっはっ。小細工なし? 何を言うかと思えば‥‥」
 明るく、だが嘲笑するような笑い声を上げたのは後方の弓使いだった。
「狙撃手の本領は汚い不意打ちや、せせこましい小細工と相場が決まっている。
 正々堂々と戦いたければ、私達の大将と好きなだけすればいい。小賢しいだけの私は遠慮させてもらうよ」
 全く動じることはなかった。
 ゼーファイドだけならばいざ知らず、3人の護衛は常識を弁えている。
 おそらくは一般的な戦術もだろう。
「私はそれでも構いません。私は貴方と戦いたかったんです。
 貴方の言葉が‥、「強くなれ」と言ってくれた事が嬉しかったから」
 再びイリアスが前にでた。
 視線は護衛ではなく、目の前の赤い巨人にのみ注がれている。
「貴方は私の目標で憧れなんです」
 師を仰ぐような声でイリアスは言い放つ。
 傭兵はお互いの内面には干渉しないが敵への純粋な好意に、驚いている者も多かった。
「‥‥おいおい」
「早まるな、考え直せ。君はどうかしている」
 クリストは呆れて二の句が継げず、エドゥアールは母親か何かのように説得にかかり、
 アリスンは反応に困って苦笑いしている。
 唯一、建物の陰に伏せている御影・朔夜(ga0240)だけが
「やはりな‥」と言いたげな顔をしていた。
「‥‥ツマリハ‥‥ドウイウ事ダ?
 私ハ道徳観念上、特別ナ事ヲ言ッタツモリハナイノダガ‥‥目標?」
 その手の感情に疎いゼーファイドは面白くない反応をしていた。
「‥‥つまりはだ、大将。アレはあんたの獲物ってことだ。
 俺達は手出ししねえから存分に戦ってやってくれ」
「ナルホド。心得タ。私ハ彼女ト存分ニ戦エバ良イノダナ」
 喋ったのはクリストだけだったが、アリスンも共にゼーファイドから散開。
 万が一にも横取りしないように距離をとる。
 とはいえ少し距離を離した程度。残りを許すとは一言も言っていない。
「剣士は任せてもらおう」
「なら、俺達は槍使いを受け持とう」
 アンジェリナ・ルヴァン(ga6940)と加賀が左翼、剣士へ。
 時任と鳳が右翼、槍使いへ狙いを定める。
「バックアップは任せてください。作戦は事前に伝えたとおりで」
 朧 幸乃(ga3078)は腕に取り付けた爪をかざし、戦列に加わった。
 本来はエレクトロリンカーだが、装備だけみればグラップラーと誤認されやすいだろう。
 しばらくは奇襲に使えるかもしれない。
 バグア側の4人は十分待ったとばかりに動き出した。



 最初に仕掛けたのは遠倉だった。
 屋根の上で弓を構えるエドゥアールに牽制の三点射。
 続いてジャックを先頭にイリアス、ラナ、朧の順でゼーファイドへの突撃を敢行した。
 向かい来る4人に対してゼーファイドは先手を打つ。
 構えた大剣を横薙ぎに振り払う。
「フンッ!」
 ソニックブームが発射されるが、ジャックを盾にその攻撃をやりすごす。
「‥‥やっぱりきついな」
 構えた盾には大きな傷が付いていた。
 そう何度も受け止め切れる攻撃ではない。
 だが裏を返せば、数回ならば受け止めることができる。
 ここまでは想定通りだ。
 イリアス、ラナは揃ってゼーファイドの側面へ回るが‥。
「!?」 
 ラナを狙ってエドゥアールの矢が飛来する。
 阻まれて背面まで回りきることは出来なかった。
 遠倉が牽制に徹しているが、家屋の陰を巧妙に利用する弓使いに一歩分があった。
 5人は攻めあぐねるが、ゼーファイドへの支援は唐突に途切れる。
 エドゥアールは御影が伏せた方面を見据え、そちらに向かっていった。
 気を逃さず遠倉がゼーファイドの頭部目掛けて銃を乱射。
 ゼーファイドの視界を防いだ隙に瞬天速でラナが後方へ、
 朧とイリアスが側面へ回り込む。
「とった!」
 背を取ったラナがライガークローを振り下ろす。
 回避も受けも出来ないゼーファイドだったが、外套は切ることはできなかった。
 刃は布にやんわりと弾かれる。
「ナルホド、コレハ良イ」
 驚いているのはゼーファイドも同じだった。
 新しい外套には防刃防穿刺加工を施されており、
 生半可な衝撃では破ることができなかった。
「ソコカッ!」
 強引なスイングで大剣が背後のラナを襲う。
 咄嗟に爪で受けるが、大きく弾き飛ばされてしまった。
 付随したソニックブームの勢いは止められず、肩から胸を大きく裂かれる。
 ジャックとイリアスがゼーファイドを足止めする間に、
 朧はラナに練成治療をかけた。
「‥朧さん、良いんですか?」
「構いません。‥‥もう、ばれてるでしょうから‥‥」
 朧が察した通り、ゼーファイドとエドゥアールは気づいていた。
 見た目では露呈しなかったが、接近戦用のスキルを使わない事で疑念を生む。
 そこから確信に至るまでは早かった。
「良イ腕ダ。楽シマセテクレル」
 ゼーファイドは嬉しそうに大剣を正面に構える。
 未だ致命傷には至らないが、ジャックは勝機を見つけていた。
 マントが破れなくてもこのメンバーなら攻撃を当てることは出来る。
 攻撃が当たりさえすれば弱点の明確なゼーファイドを撃破するのは容易だ。
 あとはそれまで、自分が持ちさえすれば良い。
 ゼーファイドの渾身の一撃が振りおろされ、地面を砕く。
 散開した5人は再度包囲と攻撃に移った。



 一方、エドゥアール。
 背中の矢筒とは別の場所から違う矢を抜き放ちつがえる。
 先端には矢としては機能不全を起こしそうな巨大な鏃。
 矢をつがえると構えは充填射のスキルに酷似していた。
「甘いな。後衛の役目は前線のサポート。‥気づかないと思ったか?」
 他のメンバーから離れて奇襲の為に伏せていた御影は、自身を襲った嫌な予感を信じ、その場を全力で離れた。
 飛来した矢は着弾と同時に溜弾のように爆発して、御影が隠れていた家屋ごとあたりを吹き飛ばした。
 同じ場所に入れば直撃を受けていただろう。
「‥‥連中の弾頭矢か」
 この破壊力はスキルを使用しているせいもあるだろうが、普段傭兵が使う物よりも格段に破壊力が大きい。
「いつまそうして居られるかな?」
 第二射の構えに入るエドゥアール。
「ちっ!」
 御影は走った。
 奇襲は既にかなわないが、自身がここで戦い続ける限り、敵の支援火力を絶つ事が出来る。
 ますは自身の銃の射程まで詰め寄る。
 そこからが勝負だ。

◆ 

 槍使いクリストとの戦いは一方的になりつつあった。
 クリストは連続で強烈な突きを繰り出し、鳳を追い詰めていく。
「はっ! だせぇな。自分の武器に振り回されてんなら世話ぁないぜ!」
「‥くっ!」
 単純な破壊力では覚羅に分があったが、他の全てでクリストが上回っていた。
 特に速度と間合いが致命的で、攻勢に出ることが出来ない。
「させるか!」
 時任が瞬天速で一気に間合いを詰め、相手の懐に飛び込む。
「っ‥!」
 クリストはイオフィエルを槍の柄で受ける。
 反撃にと槍をなぎ払うが、既に時任は間合いの外に逃れていた。
「すまないね」
「硬く一撃が重いが、攻撃を掻い潜れば問題ない」
 呼吸を整えた鳳が並ぶ。
「彼に時間を費やす暇は無いんだけど‥」
「もう一度仕掛ける。後は頼んだ」
 2人は互いに意思だけ確認すると、同時にクリストに突っ込んだ。
 時任が前衛となりクリストに攻撃をしかける。
 彼の攻撃は軽く致命傷になり辛いが、鳳の攻撃さえ当てれば勝てる。
 時任は再び瞬天速で距離を詰め爪を振り下ろす。
「‥!?」
 クリストは時任の攻撃を避けない。
 肩口にヒットした一撃を強引に無視する。
「甘いぜ!」
 時任を突破したクリストが槍を構える。
 赤く輝いた穂先が攻勢に移ろうとした鳳を胸を捉えていた。
「‥ガハッ‥!」
 串刺しにされ、血を吐く鳳。
 クリストは槍を引き抜くと、鳳はそのままうつ伏せに倒れこんだ。
「腕は悪くないが、即席の連携で倒せるほど俺は甘くないぜ」
 クリストは槍を振るって血を払うと、時任に視線を向けた。
 既に勝負は決した以上、彼に出来るのは時間稼ぎのみ。
 時任は覚悟を決め、クリストに真っ向から視線を返した。



 アンジェリナと加賀、アリスンの勝負は互いに決め手を欠くままに推移した。
 アンジェリナとアリスンが切り合う横から、加賀の剣はアリスンの足元を狙う。
 アリスンは慌てず、さっと飛び退って回避。
 アンジェリナはすかさず流し切りで飛び込むが、剣で受け流されてしまう。
 数十合、この調子である。
 アリスンは下がり続けるように見えて位置取りだけは常に確保し、
 押し続ける二人に隙を見せることはなかった。
 何度目かの攻防のあと、両者は距離をとる。
 傭兵2人は何度か手傷を負いはしたが、致命傷に至る傷は無い。
「‥あえて言わせて貰おう」
「‥む?」
 アンジェリナの言葉にアリスンが僅かに剣を下げる。
「あなたには疾さが足りない」
 間合いは見切った。そう確信したアンジェリナは挑発の言葉をはく。
 これで冷静さを失わせれば更にペースを崩していける。
「‥‥それは失礼した、ならば全力で生かせてもらおう」
 アリスンは両手で剣を握り直し十字に振るう。
 切っ先からは光の飛沫が飛び散っていた。
「はぁぁぁぁぁぁっ!!」
 アリスンの剣を中心に光が溢れ、バチバチと放電の音が夜の街に響きわたった。
「ただただ速いだけの無粋な技だが、望みとあらばくれてやろう!」
 振りかぶった剣を、金色に輝くオーラごと振りおろした。
 一振り目が分身するような錯覚。高速の8連撃。
 元になったのはおそらくはペネトレイターの連剣舞のはずが、扱う者が変わればその威力も大きく変わる。
「!!」
 一気に間合いをつめられ一撃をかわすことも出来ず、アンジェリナは切り刻まれる。
 攻撃はアンジェリナの鎧をかわして、的確に急所を抉っていた。
 苦痛の悲鳴さえも出せない。
 光の飛沫が消し飛んだ頃、体の至る所から鮮血を飛び散らせ、
 アンジェリナはその場に膝をついた。
「次は貴様だ。初見でない以上は見事に避けて見せろ」
 アリスンの剣は加賀を指す。
 2人で敵わない相手である以上、結果は見えていた。



 両側面が瓦解してしまった以上、態勢を立て直すこともできない。
 アリスンがラナを、クリストがジャックをねらい詰め寄る。
 ゼーファイドの猛攻を受けていた二人はそれをいなす余裕もなく、あっと言う間に地に伏した。
 援護の無くなったイリアスも、ゼーファイドの上段からの一撃で胴を薙がれる。
 3人の前に残ったのは朧と遠倉だけとなった。
「どうする? 続けても良いが、全員命は置いてってもらうぜ」
 残ったのは遠倉と朧だけ。
 朧はジャックの治療に専念しているが、傷の具合を考えればこの場では命を繋ぐのが精一杯だ。
「返答を‥」
 どさっと、倒れ込むように着地する音がする。
 アリスンの声が途切れた。
 振り返ったアリスンが見たのは、傷だらけになり、右肩を押さえるエドゥアールの姿だ。
「どうしたっ!」
「みっともないところを見せた‥。すまないが押さえきれなかったよ」
 エドゥアールを追うように、屋根の上から御影が飛び降りる。
 同じく至るところに怪我をしていたが、こちらはまだ余力を残している。
 御影はただ一人で勝利していた。
 序盤こそ長射程に苦しんだものの、
 接近以後は火力に優れた御影に分があった。
「前回の借りはまだ返していないからな」
「はっ。いいぜ。死ぬ覚悟は‥‥‥」
 ふと何かに気づいて、クリストは近くに倒れているイリアスを見た。
 息はしているが、流血が止まらない。
 放っておけばこのまま死に至るだろう。
 クリストは構えを解いた。
「‥‥大将、今回は引き上げねえか?」
「何故ダ?」
「この面白い嬢ちゃんを死なせるにはちっと惜しくてね」
 目配せをすると、他の2人も同意見のようだった。
 ゼーファイドのような好意ではなくあからさまな興味本位だったが、
 ある意味で気に入られたのは確からしい。
「おい、そこの!」
「‥私ですか?」
 急に声をかけられ朧は驚く。
 クリストの声からは獰猛な戦意は消えていた。
「そうだ。今日はこの嬢ちゃんに免じて許してやる。
 残りも連れて今日は帰りな」
「‥‥‥‥」
 誰もがうなづくことしか出来ない。
 全員殺されるだけの状況で見逃してもらえるのだ。
 バグア側は返事も聞かずに御影の横を通り過ぎていった。



 傭兵達はバグア側のきまぐれで生き延びた。
 バグア側はそれ以降、積極的な攻勢にでることはなかったが、
 切り札である傭兵を欠き、UPC軍の進軍は大きく滞った。