タイトル:【Woi】蝙蝠の街マスター:錦西

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/07/24 00:51

●オープニング本文


●南米陽動作戦
「新型機の目撃情報?」
 UPC南中央軍、陽動作戦の準備に忙しい前線基地司令部にもたらされた情報は「紫色の航空機」の目撃情報であった。
「依頼で現地に赴いた傭兵も目撃しており、ヘルメットワームや今までに確認されている機体でないことを確認しています」
 オペレーターが報告の詳細を伝える。
 北米での大規模作戦「War of independence 」に呼応する形で、南米大陸のUPC南中央軍も陽動の為に大きな動きを見せようとしていた。その前段階として戦闘予想地域に割拠する武装勢力の取り込みが行われ、その中には傭兵に託された依頼もあったのである。
「同じく傭兵からの情報ですが、親バグア派の航空機用のエンジンを運んだという話もあるそうです」
「航空機用のだと? 地球製のか? マトゥラナーナさん。まさか、あんたの差し金ではあるまいな?」
 オペレーターの話を聞いた士官は、振り向いてメルス・メス社の営業担当であるリカルド・マトゥラーナに疑いの目を向ける。この作戦における武装勢力の取り込みには、メルス・メス社の協力、とりわけリカルド個人の人脈に依るところも大きい。その為、フラフラとあちらこちらに出入りしているリカルドを無碍に追い出すこともできないのだ。
「いやいやいや。俺はバグア相手に商売するほど肝はすわってないですって。ただ、この大陸はバグアと人類の境界線が一番曖昧な土地柄ですからね。いくつかの組織を経由すれば、見つかんないようにバグアとの取引もできなくはありませんな」
 リカルドは手を大きく振って否定するが、不可能ではないとも告げる。
「いずれにせよ、実力のわからん相手がいるのは不気味だ。作戦は予定通り進めるにしても、新型機警戒に割く戦力が必要だな」
 南米での陽動作戦は予定通りに開始され、傭兵に対しても支援の依頼が出されることになる。
「傭兵は正規軍を援護しつつ、敵新型機が出現した場合には速やかにこれに対応せよ。撃退が主任務であるが、可能な限り新型機に関する情報を集めるように」




「要は棍棒外交だ。キメラを撒かれて全滅するか、言う事を聞いて首輪付きで生きるか、二つに一つ‥」
 小高い丘の上から煙のたなびく街を見下ろし、
 フェリックスはそうこぼした。
 この狭い街で起こった戦闘は一様の収束と成ったが、
 火種が無くなったわけじゃない。
 時刻は昼を回った頃、戦火の跡と同程度に不穏な影も見え隠れしている。
「それで僕達が呼ばれたんですね?」
 双眼鏡で街の細部を確認していたトニがフェリックスを見上げる。
「ああそうだ。支持者ごと街を焼かれたら流石に活動できないからな」
 武装勢力の一派がその警告を受けたのが3日前。
 すぐさまUPCに援軍が要請され、この地に一個中隊と傭兵が召集された。
 だが事態は彼らの最初の報告ほど簡単なものではなかった。
「東西に流れる川を挟んで南側が人類側、北側がバグア側の武装勢力が陣取ってるが、この二つは元は同じグループだ。どっちつかずにパイプを持って2重スパイをした結果がこれだ」
 フェリックスは溜息をついて座り込む。
「で、バグアでスパイをしていた我々の仲間も助けて欲しい、ってのが連中の要求だ」
「‥‥虫の良い話、ですね」
 フェリックスはそれには答えなかった。
 本当にそう思っても、フェリックスは口には出せない。
 どんな内容にせよ仕事だ。
 結果として馬鹿の尻拭いをして部下が死んでも文句を言えない。
 助けるべきと上が判断した以上、助けなければならない。
「俺達はここで警戒、待機だ。到着した傭兵達の誘導は頼む」
 トニの表情は複雑だった。
 守るべき相手を間違えていると、そう目で訴えかけてくる。
 フェリックスは視線を街に戻した。
「トニ、俺の部下でいる間は手を抜くな」
「‥それぐらいわかってます」
「なら良い。行ってこい」
 表情を変えぬままトニは振り返ることもなく、そそくさと隊から離れていく。
 駆け足なのは失望ゆえだろうか。
 フェリックスは、確かめられるものなら確かめたいとも思ったが、
 やはり口に出せるようなことではなかった。




 街の一角にある倉庫群の中の一つに、親バグア派武装勢力の拠点はあった。
 港からの交通の便の良さもあるが、
 人通りの少なさがなにより二重スパイには都合が良かった。
 その拠点となっている倉庫の中に、
 迷彩服や防弾チョッキなどで武装した一団が集まっている。
 全員がこの武装勢力の主だったメンバーだが、
 今日は一様に硬い顔つきだった。
「能力者‥確かに貴方がたでは手に負えませんね」
 武装した一団の真ん中、場違いとも言えるような白いスーツを着た男が一人立っていた。
 傍らには筋骨たくましい2m近い男と人の胸ほどまでの背がある黒い犬が2匹。
 黒い犬は見間違いようもなく、キメラだ。
 武装した男達は畏怖するような目で白いスーツの男を見ている。
「じゃあ、こうしましょう。追加にケネスさんとこのキメラを置いていきます。彼らは僕の護衛だから戦力としては申し分ないですよ」
「‥‥良いんですか?」
「ああ、構わないよ。僕らは同じくバグアを助ける仲間じゃないか」
 声を上げた男に振り返り、男は屈託の無くそれでいて邪悪な笑みを浮かべた。
「その代わり、前にも増して、バグアへの忠誠を示して欲しいな。僕も上に説明しないとダメだからね?」
「それは‥‥もちろん」
 否定できずに肯定する。
 仲間殺しをしろと男は言う。
 おそらく、二つの集団の関係を分かった上で言っているのだろう。
 そして、残った男も護衛というよりは監視者だ。
 下手な行動は出来ない。
 武装した髭の男は、白いスーツに従う男、ケネスを見上げる。
 ケネスはそれに気付くと、にやりと笑った。
「じゃあ、ケネスさん。あとはよろしくおねがいしますね」
「ああ。任せておけ」
 朗らかに笑う二人を、武装勢力の一団は黙って見つめていた。

●参加者一覧

藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
木場・純平(ga3277
36歳・♂・PN
リュドレイク(ga8720
29歳・♂・GP
ハイン・ヴィーグリーズ(gb3522
23歳・♂・SN
クラリア・レスタント(gb4258
19歳・♀・PN
リア・フローレンス(gb4312
16歳・♂・PN
ウラキ(gb4922
25歳・♂・JG
フィルト=リンク(gb5706
23歳・♀・HD

●リプレイ本文

 仕事への不平は無い。
 困難な仕事を選らんだ事自体は自分の責任の範疇でもある。
 しかしそれとは別に僅かながらに状況への嫌悪が見え隠れする者も居た。
「モール‥二重スパイの保護まで、となると厄介な仕事ですね」
 多分外に聞こえても通じないだろうとリュドレイク(ga8720)がぼそっと漏らす。
 待ち合わせの建物は作りが荒くて外から中からと音が筒抜けだが、
 英語をしゃべる人間はあまり居なかった。
「蝙蝠のほうが適当じゃないかな」
 藤田あやこ(ga0204) が地図を畳みながら言う。
「都合の良いときに人類側だったり、バグア側だったり、ってことね」
「‥そこまでにしよう。誰か来たみたいだぞ」
 ハイン・ヴィーグリーズ(gb3522) が雑談に膨らみそうな会話を制止する。
 遠くからは誰かの話し声が聞こえてきていた。
 近くなる足音に傭兵達は居住まいを正す。
「遅れました。すみません」
 現れたのは完全武装のトニだった。
 愛用のファングとスコーピオン、そして双眼鏡やマチェット他、野戦の装備などもぶら下げている。
「お久しぶりです、トニさん」
 フィルト=リンク(gb5706)が笑顔で迎える。
「‥お久しぶり、です」
 トニの顔は俯きがちで沈んでいるように見えたが、
 ぱっと笑顔に変わる。
「‥どうかしました?」
「いえ、何でもないです」
 小さな異変に気付いたのは以前に会ったことのあるフィルトだけだった。
 ほんの僅かな表情の乱れから、作り笑いに気付く。
「トニ・バルベラ軍曹です。皆さんよろしく」
 敬礼している彼は既に自然体にもどっていた。
 フィルトは違和感を抱えながらも、何がどうおかしいのか自分でもわからなかった。




 9人で話し合った結果、4人が陽動、5人が街の防衛を行うという方針が早々と決定した。
 しかしその後、現地の勢力との協力という段階で少し揉めることになる。
 藤田と他が主張する、
「私達が奇襲に向うことは黙っておいたほうが良い」
 と言う意見に クラリア・レスタント(gb4258)が反対したのだ。
「嘘を付くわけじゃないですよ」
 リア・フローレンス(gb4312)がフォローするが、クラリアは納得はできない。
 メモ帳に急ぎ文字を書いていく。
(私はそういうことして、後悔したくないです)
 守りたい誰かに嘘をつく、という行為を理屈で理解できても、それだけでしかない。
 これから仲間になる誰かとしっかり握手をする自信が無い。
「敵とか仲間とかそういう認識が曖昧だから、そういうのは黙っててくれた方が良い」
 誰に怒っているのか、トニの言葉はきつい。
「‥それに、これは向こうのリーダーの人からも同じように聞いている。この街は余所者が必要なんだ」
 クラリアはさすがに主張を引っ込めざるを得なかった。
 了解の上でなら仕方ない。
 でも、できる限りのことはしたいのは本当だ。
 クラリアはそれだけを考えようと、頭を切り替えることにした。



 日が落ちて1時間。
 風は穏やかで空には雲も少なく、星が綺麗に映える。
 本来なら消えない街の明りや喧騒で見えないはずのものが、
 戒厳令と不穏な空気の中で明瞭に移り変わる。
 人通りが無くなった街路に残ったのは銃を持った男だけだ。
 男は懐中電灯を手に街を進む。
 道が大通りに差し掛かりかけた瞬間、
 突然何者かに背後から右腕をひねりあげられ、喉元を腕で固められた。
「ケネスはどこだ?」
 襲撃者‥、目立たないようボロ布を纏った木場・純平(ga3277)が囁きで詰問する。
「‥‥あんたらは何だ?」
「質問してるのはこっちだ」
 木場が冷たく言い放ち、硬質化した腕に力を込める。
 勿論手加減はしているがそれでも覚醒した能力者の腕力だ。
 締めて殺してしまうのは容易い。
「‥ケネスならA列の12番の倉庫だ。そこを寝床にしている」
 男は観念したのか気負いの無い声で答える。
「‥妙にあっさり喋るな?」
「嘘に聞こえたか?」
「いや、少し前に捕まえた奴と同じ答えだ」
 締める腕を緩め、答えを促す。
 男の眼は周囲から現れる3人の能力者を見回すが、特に恐怖を感じてはいないようだった。
「俺達にはあいつを庇う義理も理由も無い」
 嫌悪が声からあふれ出していた。
「ただ、何も無いのは困る。どこかに消える前に気絶させてもらえると助かるよ」
 やはりそれも同じ答えだった。木場は驚かない。
 木場が黙って頷き物陰に合図すると、トニが素早く飛び出し男のみぞおちに拳を打ち込んだ。
 男の意識はあっさりと暗転した。



 攻撃開始6時間前。
 ケネスは黒い犬を引き連れて各バリケードに小型キメラを配置してまわっていた。
 明朝日の出を待って攻撃開始になる。
 その前に最後の脅しをかける意味もあった。
 道が開けて倉庫が並ぶ通りに出る。
 少し歩くと、黒い犬が2匹揃って唸り声を上げ始める。
「どうした?」
 唸る猛犬の睨む先には影が三つ。
「ちっ‥能力者どもか‥」
 来るとは思った。
 もしもの時は犬にまたがって逃げる算段もしていたが、
 3人ならやれる。
 ケネスはそう判断した。
「やれ!」
 合図と共に2匹の黒い犬が3人に襲い掛かった。



 木場とトニは襲い来る黒い犬に飛び掛る。
 夜闇に視認しにくい木場のゼロが犬の皮膚を引っ掻く。
 キメラはギリギリのところで避けてくる。当たりが浅い。
 すれ違い軌道の逸れた黒い犬に藤田がエネジーガンを連射する。
 黒い犬は小さく跳び退ってかわそうとするが、5発のうち3発が体を掠める。
 動きに支障のある傷にはならなかったがダメージは無視できない。
 もう一匹はトニに足止めされている。
 スコーピオンとファングを駆使して牽制に徹するトニ。
 どちらも致命傷を与えられずに、にらみ合うこともしばしばだ。
 だが能力者側には錬力という限界が存在する。
 それまでに決着が付かなければ勝ち目は無い。
 戦いは膠着しながらも終焉に向って推移していた。


 距離90m。
 入り組んだ街の特性、またSES搭載の武器の特性から考えて、
 これ以上の距離は取れない。
 SESの効果が薄れる距離でもあるが、人間一人を殺すには十分すぎる威力がある。
 ウラキ(gb4922) は月明かりの下で一人、
 照星をケネスに合わせじっとタイミングを見計らう。
「‥‥‥‥」
 ほんの僅かに思考に躊躇。
 人を撃つことを躊躇わない自分への戸惑い。
「‥‥‥」
 思考を締め出す。自分が失敗して被害を受けるのは仲間達だ。
 冷静に冷徹に、ウラキは引き金に指を掛けた。


 黒い犬2匹は能力者3人相手に善戦している。
 ‥と言いたいところだが、劣勢になりつつあるのは外から見ているケネスにもわかった。
 藤田のエナジーガンと木場のゼロが一匹を着実に追い込まれ、
 もう一匹はトニと戦って動けない。
「ユ‥UPCの豚野郎のくせに、なかなかやるじゃねえか‥」
 ケネスは少し震える指で手元のリモコンを操作する。
 ボタンが数個しか付いていない機械のため、
 何をしているのか能力者達からはわからない。
「だが、てめえらもここで終わりだ。30匹のキメラでなぶり‥」
 勝ち誇るケネスの言葉を、一発の銃声が物理的に遮る。
 ケネスの額の真ん中には穴が開いていた。
 ウラキの狙撃だ。
 何が起こったのかもわからぬまま、ケネスは絶命し仰向けに倒れた。



 戦線は転げ落ちるように移り変わる。
 コントロールを失ったキメラを撃破するのは容易かった。
 負傷していた一匹を木場がゼロで滅多斬りに。
 最後は喉元を深く抉った一撃が致命傷となり、黒い犬は動かなくなった。
 トニが抑えていた一匹は藤田のエナジーガン連射が致命傷となった。
「手間取ったな」
「ウラキさんに狙撃に回ってもらって正解でしたね」
「いや、位置が良かったんだ」
 木場は呼吸を整えながら返り血を拭う。
 木場やトニは黒い犬と激しく格闘したため一部は自分の血も混じっているが、
 藤田の練成治癒のおかげで傷自体は既にふさがっている。
「ケネスがキメラを呼んだそぶりがあった。急いで移動しよう」
「そうだな」
 歩き出そうとした刹那。
 ウラキは不意に不穏な感覚に襲われ、背後を振り返った。
 冷たい手に心臓をわしづかみにされるような気持ち悪い感触。
 誰も居ない。あたりを見回しても違和感も何も無い。
 ケネスとキメラの死体が転がっているだけだ。
 どんなに探しても不安の要素が見つからない。
 吹き抜ける風の音だけが聞こえる。
 理由の判然としない焦燥が加速度的に思考に積み重なっていく。
「ウラキさん、どうかしました?」
 肩に触れた手に心臓が跳ね上がる。
 それがトニの手ということに気付くのに1秒ほど掛かった。
「あ‥ああ。何でもない」
「‥そうですか? なら良いのですが‥」
 ウラキは不安を胸のうちに押し込め、逃げるように他の3人に追随した。



 戦闘が起こった場所から2kmはなれた建物の屋上。
 爽やかに笑う白いスーツの男が一人、双眼鏡片手に戦場を俯瞰していた。
「ケネスさん、もうちょっと保身が上手い人だと思ったのにがっかりだなぁ」
 さして残念そうでもない口調だった。
 例えるなら「袋菓子が無くなった」程度の落胆にしか聞こえない。
「でもキメラは結構善戦しましたね。
 これは収穫でした。黒いワンちゃんはもうちょっと注文しておきましょう」
 彼の背後で爆発。火の手があがる。
 指揮を失った小型のキメラ達が、無差別攻撃を始めたのだ。
 そこかしこでレーザーの走る音と、苦痛と断末魔の悲鳴が聞こえる。
「‥混沌とした良い夜です」
 白いスーツの男は笑みを浮かべながら、足を中空へと進ませる。
 建物の屋上から身を躍らせる。
 喧騒と混乱に紛れて、彼の足跡は誰一人として追えなかった。



 親バグア派武装勢力の篭るバリケードは惨事の只中にあった。
 ケネスが死亡したのと契機に、小型のキメラ達が無差別に人を襲い始めたのだ。
 キメラの見た目は妖精のよう、とは形容するが正確には円環を背負った小人、が正しいだろう。
 背中に広がる円環が青白く発光し放電する。
 どういう原理かは不明だが小型のキメラはそれによって浮力を得ているようだ。
 小型キメラは大して強力なフォースフィールドを持っているわけではなかったが、
 小柄ゆえに携帯ロケット砲などが当て辛く、已む無く自動小銃で応戦するしかない状態になっている。
 それに対してキメラのレーザーは出力は低いものの正確無比で、
 遮蔽に逃げ損ねた者を背中から次々と焼いてゆく。
 自分達を守るバリケードも無く、次々と兵隊が倒れていく。
 武装勢力のリーダーは混乱の中からようやく指揮系統を復活させたが、
 じわりじわりと悪くなる状況を変える事は出来なかった。
「隊長、向こう岸の連中が!」
 遮蔽に隠れて弾を込めながら、橋の方を見やる。
 橋向こうに布陣していたはずの兵隊が大挙して向ってきていた。
 先頭には見慣れない機械の鎧纏う何者か。
 おそらく能力者だろう。
「こんなときに‥!」
「もうダメか‥」
 迫り来る武力に諦めかける。
 しかしいつまで経っても、最後の一瞬は訪れなかった。
「集中砲火を!」
 先頭を走る鎧、リンドヴルムを装備したフィルトは号令と共に小銃「ルナ」で小型キメラを狙撃する。
 一撃を受け、キメラは溜め込んでいた電圧を巻きながら墜落する。
「数が多いだけです」
「一匹も逃がすな!」
 続いてハインとリュドレイクのSMG、追随する武装勢力の一団の小銃が弾幕を作る。
 バラバラと墜落するキメラの群れ。
 残った小型キメラは慌てて急上昇しようとするが‥。
「ここカラ逃がさない‥」
 3階建ての屋上にはリアとクラリアがそれぞれに剣を構え、待ち構えていた。
 3人が友軍と足並みを揃える中、迅雷を駆使して屋根の上を進んで先回りしていのだ。
 リアは屋上から剣を振りかぶる。
 エアスマッシュのスキルで生み出された衝撃波が次々と逃げるキメラを屠る。
 更に距離を離そうとするキメラはクラリアが迅雷で追いすがりながら切り刻んだ。
「UPCが俺達を助けるのか‥?」
 移り変わる光景に呆然とするリーダーを見つけ、傭兵達が走り寄る。
「他のキメラはどこだ?」
「えっ‥?」
「他のキメラはどこに布陣してるかと聞いてる!」
 咄嗟のことに要領を得ないリーダーを引き寄せ、詰問するハイン。
 時間が惜しいがここは他人の街だ。
 道案内無しに移動するには複雑すぎる
「‥案内する」
 迷いは一瞬だった。
 男達は頷きあって、傭兵を街の中心へと誘った。


 夜明け前、ようやく火の手が消える。
 街のあちこちにまだ煙が立ち上ってはいるが、全ての戦闘は収束していた。
 街の中央にある広場には仮設のテントが並び、多くの負傷が運び込まれた。
「どれぐらいの被害でした?」
 ようやく一息ついたリーダー達に木場が問う。
「死者57名。‥ほとんどが最初に背中から撃たれて‥」
 一様に暗い顔の男達の一人が、溜息混じりに答えた。
 戦端が開かれた場所の関係で非戦闘員には被害が無かったものの、
 少なくない犠牲が出ていた。
「兵隊が140人は残った。任務は成功、ですね」
「はい。報告などはこちらで行っておきます」
 藤田をはじめ、木場とウラキは淡々と事後処理にもどる。
 トニもそれに応じるが、彼の場合はそれ以上に無関心であるように見える。
 それとは逆に、惨状を直視できない者もやはり居た。
 クラリアは特にそうだった。
 あちらこちらから聞こえる嗚咽や悲鳴に記憶がフラッシュバックする。
 言葉を紡ぐだけの力があれば、同じように声を上げていたかもしれない。
「クラリアさん、私達は精一杯できることをしました。それで十分です」
 リアがそっと背中を撫でる。
「フィルトさん」
「何ですか?」
 二人の様子を見ていたトニが小さな声で呼びかける。
「僕は‥‥非情な人間になってしまったのでしょうか?」
 問いかけながらもトニは暗い顔でクラリアを見ている。
「どうして?」
「クラリアさんみたいに、純粋に人の死を悲しむ事が出来ないんです‥」
 フィルトは否定も肯定も出来なかった。
 一言で済ませてしまうには重く、かといって百万言費やして正しい答えが探せる気もしない。
「それを言うなら僕もです。‥慣れていく自分を自覚するのなんか止めたほうが良いです」
 聞いていたウラキがぼそりと告げる。
 言葉はそれ以上続かない。
 朝日がゆっくりと街を照らし始めるのを眺めるだけだ。
 周囲を守る中隊が迎えに来るまで、まともな会話にはならなかった。