●リプレイ本文
東京湾に布陣した空母艦隊群から飛び立ったKVは、
編成と足並みを揃えながら東京上空に侵入した。
正規軍を合わせた総数は200を越える。
傭兵達はこれらの中において、最も危険な敵本拠地である東京都庁攻撃を担った。
空に上がったKVは総数103機。
過去の大規模ならば一戦域を満たす大戦力ではあったが、それでも勝利への道は定かでは無い。
「全機発艦終了。作戦開始時刻に合わせ、東京へ移動します。
敵との接触予想時刻まで、残り約600秒」
α(
ga8545)の透き通るソプラノに合わせて、各機にカウントが表示される。
この表示はこれまでの戦闘で築き上げてきた情報から弾き出した信頼できる数字だ。
動き出した時間にじわじわと緊張が走る。
「‥‥東京、か。戻ってくる事は無いと思ってたんだがな」
龍鱗(
gb5585)は小さく呟いた。
その声を拾って聞いていたのは周波数を合わせていた周辺の機体のみだが、
同じ思いを抱く者たちはそれぞれに想いを馳せる。
真っ先に答えたのは綿貫 衛司(
ga0056)だった。
「ですが、私達は帰ってきました。待った甲斐があったと言う物ですよ」
言葉以上に、彼らにとっては万感の想いがあるだろう。
専守防衛という理念を掲げながらも、祖国を守ることの出来なかった。
あの日ズタズタに破壊された矜持を胸に、彼らは生きてきたのだ。
「ヌキぃ、気持ちはわかるが感傷に浸ってる暇はねぇぞ」
「その通りだ。まずは仕事をする。それからだ」
声をかけたのは同じく元自衛官の井筒 珠美(
ga0090)と伊藤 毅(
ga2610)だ。
気負ってはいない、と見せてやはりそれぞれに思うところがあるのか、
似た出身の人間の気持ちはわかるらしい。
そんなやり取りを見ながら龍鱗(
gb5585)は恋人の里見・さやか(
ga0153)のことを思った。
彼女は別の目標を目指して別部隊として進軍しているが、同じ空の下で同じような事を想っているのだろうか。
こんな時に側に居れない自分に、少しだけ胸が痛んだ。
「まもなく敵の防空圏内に入ります。電子支援開始」
ハンナ・ルーベンス(
ga5138)の報告と共に、参加していた電子戦機が出力をあげる。
受けていたジャミングが軽減され、レーダーが少しばかり通るようになる。
それまで曖昧にしか表示されていなかった敵と味方がその数まで表示されるようになった。
住吉(
gc6879)はレーダーの表示を見て、不敵に笑った。
「おぉ、さすが東京の新宿区、敵も味方も盛り沢山‥‥賑わってますね〜」
傭兵達の反応はそれぞれに違ったが、怯え竦むような者は少数だった。
「やれやれ揃いも揃ってゾロゾロと‥‥悪ィが、日本の首都は返して貰う―」
天原大地(
gb5927)は武装の安全装置を外す。
それが合図だったかのように、次々と武装のセーフティが外されていく。
ユーリ・クルック(
gb0255)はその熱気に当てられていた。
「敵もすごい数ですけど、こっちもこの数なら‥‥‥これなら敵のエースだって‥‥‥!」
これまでの戦闘を振り返るのならば、確かにこの数なら難しくはないだろう
熱気は熱気を呼び、徐々に空舞う人々の士気を高める。
だが希望の半分以上は幻想だ。
熱源の確認、多数の機体に警報。
その真っ只中に居たハミル・ジャウザール(
gb4773)は、撃墜されるその瞬間まで何が起きたか理解できなかった。
「ハミルさん、かわして!」
神棟星嵐(
gc1022)が叫ぶが間に合わない。
「え‥‥?」
2条の光が空を薙ぐ。
ハミル機と ロック・ヘイウッド(
gb9469)機の反応がロスト
西王母が2機、何も出来ないまま撃墜された。
横列に展開していたため被害はそれだけで済んだが、
絶望を植え付けるには十分だった。
西王母の直掩をしていた東野 灯吾(
ga4411)は目を疑った。
それはディメントレーザーによる超長距離狙撃だった。
彼の他何名かは敵の動向を探っていた分、変化に気づくことができた。
地上と空中で閃光がひとつずつ。
片方は空のゼダ・アーシュ、片方は陸のユダのものだった。
ゼダ・アーシュのほうは電子支援を受けての狙撃のようだったが、
ユダは陸上からというハンデを差し引いてなおこの精度を維持していた。
多くの人間がディメントレーザーを、ユダを甘くみていたことを思い知らされる。
兆候を探して、範囲外に逃げて‥‥。
そんな悠長な行動だけで回避できる一撃ではない。
撃たれたら最後、狙われないことが唯一の生き残る道だ。
そもそも今回、傭兵達がよく知る兆候はみられなかった。
「‥‥今の一撃、どうやら航空機形態から発射されていたようです」
電子支援機で前線に近かった菱美 雫(
ga7479)の言葉に、動揺が走る。
「なるほど。人型でなくても撃てるのか。らしくなってきたじゃないか」
グロウランス(
gb6145)が苦笑する。
「推測ですが、彼らはチャージ中の隙を減らす為に変形しているのかもしれません」
「そうであれば、確かにこの距離で我が輩達を相手に変形する意味はないのだろう〜!」
例外の事例を見たことへの喜びか、ドクター・ウェスト(
ga0241)は少し嬉しそうだった。
D・レーザー直撃から十数秒後、同じ方向から数条の光が飛んだ。
さっきと違い、カバーに入った機体もあったせいで流石に何発かは外したようだが、
光はまだ残っていた西王母のうちラサ・ジェネシス(
gc2273)機を貫き破壊する。
ユダからの、D・レーザーではない通常火器による狙撃だった。
威力は先ほどの半分もないが、それでもなおKVを破壊して余る。
狙われたのは全て西王母だった。
これで西王母、残り1機。
受けるはずの補給は行き渡ることはない。
「目立つ機体からやられたか‥‥」
消えた光点を眺めつつ、飯島 修司(
ga7951)はそう判断した。
名のしれたエースの機体は被害がない。
敵が識別できないとも思えないが、特徴的なカラーや装備ばかりの傭兵達の機体から
エースの機体を判別できなかったのかもしれない
「今更作戦に変更はない。突入する」
アルヴァイム(
ga5051)の言うとおり、既に後戻りはできない。
全機がブーストを起動する。
敵の攻撃が休止した間隙を縫い、残った距離を一気につめた。
◆
空陸に分かれた部隊はバグア軍の前衛と接触する。
陸は赤の部隊とユダ、空は青の部隊が主な相手となった。
陸上に展開したKV部隊に対して、赤の隊は真正面から突撃を敢行する。
「目標正面、撃ち方用ー意、てぇーっ!」
Infantry小隊の綿貫の号令と共に井筒、
アルクトゥルス(
ga8218)、常世・阿頼耶(
gb2835)、篝火・晶(
gb4973)の
5機のKVが一斉に攻撃を開始する。
第一射の着弾に関する情報を物部・護矢(
ga8216)が報告し、
修正された砲撃は徐々に密度を増していく。
「全機! あんまし前に出ちゃだめだよ!」
それに並んで臨時小隊【SW】も火力を集中させる。
【SW】は安藤ツバメ(
gb6657)をリーダーに全8名の集団だ。
臨時ゆえに纏まりにはかけるが、人数分だけ火力は強い。
前衛に集まった者達はそれぞれに火力を正面に集中し、赤の隊を迎え撃つ。
しかし、黒の隊の支援砲撃と白の隊の電子支援もあり、大きな被害を与えることができない。
赤の隊の迎撃に向かっていた者達の一部で黒の隊に牽制を行なわなければならず、
最終的に赤の隊の接近を許してしまった。
ここまでくれば赤の隊の本領発揮だが、使用可能になるオプションの数では人類側が勝った。
「そっちだけジャミングは不公平だな! キャンセラー起動、あポチっとな」
館山 西土朗(
gb8573)がイビルアイズのロックオンキャンセラーを起動させる。
人類側からの動的なジャミングでは最も出力が高い。
このおかげでなんとか第一波攻撃を凌ぐ。
「‥‥っ‥‥。怪我さえなんとかなっていたら」
赤崎羽矢子(
gb2140)は歯噛みした。
グレネードやバルカンで敵を迎え撃つが、体が動かないことがもどかしい。
後衛の雨守 時雨(
gc4868)、ラナ・ヴェクサー(
gc1748)ら情報支援機を守っての戦いだが、乱戦になれば持たないだろう。
この戦場は思い入れの強い者も多く、彼女のように怪我を押して参戦するものも多かった。
狙撃に集中する赤月 腕(
gc2839)も同様で、特に生への執着のなさでは赤崎以上に酷かった。
接近した赤の隊が一斉に傭兵達のKVに飛び掛る。
1機は安藤の機体目掛けて大鉈を大上段から振り下ろした。
安藤は射撃に専念していたため、すぐには回避行動に移れない。
「やば‥‥」
「させるか! 究極‥‥!」
機関砲で弾をばらまいて間に割り込んだのはゲシュペンスト(
ga5579)のリッジウェイだった。
ゲシュペンストはリッジウェイを加速、敵の直前で人型形態に変形。
脚部を螺旋状に変え、ブーストで僅かに宙を舞う。
「ゲシュペンストキィィィィック!!!!」
タロスは回転するドリルを胴体にまともに食らい吹っ飛ぶ。
「今だ!」
「了解!」
答えて、態勢を立て直した安藤機が跳んだ。
超伝導アクチュエータが唸りをあげ、レーヴァティンが走る。
「ゼロッ! ブレイカー!!」
態勢を立て直す前のタロスにレーヴァテインが直撃。
刀身の小型ブースターを使い、強引に相手を真っ二つに切り落とす。
「‥‥これで1機‥‥」
傷つきながら敵を撃破したが、戦線は変わらない。
敵の1機1機の錬度が異様に高い。
普段の戦場なら今の機体は小隊長クラスだったろう。
それでも勝機はあった。
藤村 瑠亥(
ga3862)のスカイセイバーはタロスに向かって突撃する。
エアロダンサーとアグレッシブトルネードで高速の連撃を見舞い、態勢を崩したタロスを遠倉 雨音(
gb0338)の黒鋼がスラスターライフルで追い撃つ。
ギリギリのところでタロスは逃げ切ったが、この攻防で何人かの傭兵達は確信を抱いた。
「どうやら、仲間を庇う気はないらしい」
「そのようですね」
個別の質は高く連携もしないではないが、基本的におざなりだ。
連携の密度では傭兵達が勝っている。
後は如何に連携を維持するかだが、そう簡単には物事は運ばない。
赤の隊長機は歪な形の斧剣を振り上げて、傭兵達の陣形を散々にかき乱していく。
集まっていた【SW】はこの猛攻に耐え切れなかった
「護ってみせる!」
月野 現(
gc7488)のNロジーナが盾を構えて突進する。
少しでも相手を遠ざけ、味方が持ち直す時間を稼ぐ。
だが圧倒的な破壊力がそれを許さない。
「‥‥! 腕が!?」
振り下ろされた斧剣は盾を持っていた右腕ごと両断する。
最大の装備を失った月野機をティターンは蹴りで弾き飛ばす。
「離れろっ!」
同じく【SW】の前衛であった山下・美千子(
gb7775)の竜牙:マックスが機槍を構え突撃する。
肩を掠めた機槍は引き戻す前にティターンに捉えられてしまった。
「‥‥う‥‥」
その一瞬でティターンは密着距離に踏み込み、マックス目掛けて斧剣を振り下ろす。
振り下ろされた斧剣はその直前で止まった。
斧剣を受けたのは何の変哲もないディアブロのハイディフェンダー。
何の変哲もないように見えて、その出力は並みのKVの比ではない。
「やれやれ。ようやく突破したぞ」
パイロットの飯島は不敵に笑う。
指揮官を抑えるつもりが最初に接触した2機のタロスに迎撃され、今まで足止めを食っていたのだ。
彼を迎撃したタロスは2機とも既に撃破されていた。
赤いティターンは飯島機の剣を押し返して距離を取る。
そのティターンを覆うように黒い影。
カルマ・シュタット(
ga6302)のウシンディがシヴァを振り下ろす。
ティターンが飛び退った場所を、シヴァは大きく抉った。
「ここは俺達で抑える。皆は指揮官機を頼む!」
ネオ・グランデ(
gc2626)の言葉を聞き、
空陸で白・黒の部隊と砲戦をしていた者達が赤の隊の横をすり抜け突破していく。
駆け抜けて行ったのはいずれもLHを代表する猛者達だ。
赤の隊はすりぬけるKV部隊に向かおうとするが、残った者達がそれを許さない
損害の少なかった【SW】の面々は赤の隊とにらみ合う。
「仲間はやらせない‥‥! 絶対にだ!」
ヘイル(
gc4085)が吼えた。
一瞬の間隙の後、戦闘は再び激しさを増していった。
◆
青の部隊は主に空に展開し、赤の隊と同期して人類軍の前衛に襲いかかった。
どの機体も平均的な機体に比べて圧倒的な速度を備えていたが、特に隊長機であるティターンはその中でも飛び抜けていた。
全身が青白く発光させたティターンは、一発も被弾することなくKV部隊をすり抜けていく。
形状が本来のティターンから変化しており、どうやら機械融合しているらしいとわかった。
「ドラゴン2、被弾した! 野郎、なんて速さだ!」
三枝 雄二(
ga9107)は火を噴く機体を必死に安定させながら飛ぶ。
落ちていった機体も皆無ではない。
集中攻撃を受けた犬坂 刀牙(
gc5243)の機体は完全に機能停止していた。
「わふーっ!?」
と少々抜けた声をあげて犬坂は落ちていった。
脱出しさえすれば、仲間が拾ってくれるだろう。
「くっ‥‥ならこいつで!」
セラ・インフィールド(
ga1889)は旋回しつつプラズマライフルを放つ。
連続発射して回避行動を取るHWにギリギリで命中。
機動の歪んだHWにソーニャ(
gb5824)のエルシアンがAAEMで追撃。
エネルギーの爆発がHWを飲み込み、機体は空の青に散っていった。
「う‥‥」
傷が痛む。それでも操縦桿は離さない。
空を飛ばないことに比べたら、傷の痛みなど大したことはない。
ソーニャは声を飲み込むと戦列に戻っていった。
青の隊は再び方向を変え、KV部隊に向かってくる。
「‥‥擦れ違いざまの一撃離脱は向こうのほうが得意か」
ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)は手元の計器を見ながら呟く。
ミサイルもショルダーキャノンもかなり消費したがどうにも上手く当てた手ごたえがない。
ソードウィングを使うという方法もあるが、その場合はかなり博打になるだろう。
「速いけれど、動きは単調ね。次は迎撃するわよ」
ロシャーデ・ルーク(
gc1391)が敵の展開を見ながら呼びかける。
タイミングさえあえば彼女の機体のラージフレアは十分に仕事をするだろう
「了解だ。援護は任せろ、コゼット」
リック・オルコット(
gc4548)が答え彼女の後方につく。
他の者も続々と周囲に集まってくる。
「ドラゴンアイより各機、タイミングを合わせてくれ。こちらから敵の予測進路を出す」
秋月 祐介(
ga6378)のワイズマンがタクティカルプレディクションを起動。
敵機の機動を演算する。
「予測の材料となる情報を認識し、そこから最善手を導く‥‥。
見せてみろワイズマン‥‥望むべき未来を‥‥」
全ての武装を開け放ち、今か今かとKVの群が牙をちらつかせる。
接触まで4秒となった瞬間、全ての演算が終了した。
「ここだ!」
秋月からデータが送信され、青の隊との間の虚空が示される。
その意図を全員がすぐに理解した。
「くっくっくっ‥‥。こうなれば的と同じということだね」
「了解だ。盛大に撃つとするか」
その空間に向けて錦織・長郎(
ga8268)と御山・アキラ(
ga0532)はK−02を連続発射。
他の機体も各々最大の火力でそこに続く。
青の隊は減速しきれないまま、その火力の真っ只中に飛び込んだ。
爆発の煙が一帯を覆いみえなくなっても、傭兵達は手持ちの火力をありったけ注ぎ込む。
「折角だ。腹の中身は全部くれてやる」
グロウランスはロケットからミサイルまで全て撃ちこみ、
残ったガトリング砲を更につぎ込んだ。
青の部隊が空域に飛び込んでから3秒。
多大な損害を受けながらも青の隊は生きていた。
あの噴煙の中で、それでも攻撃を回避していたのだ。
先頭を切って飛び出したティターンの目が異様なまで鋭く光っている。
再び、青の隊の蹂躙が始まった。
◆
デチューンしたユダは未完成品だ。
人類との戦闘の中で、まともに稼働したことは数えるほどしかない。
そんな中で、このユダは最もオリジナルに近かっただろう。
コードの制約があり空を飛ぶことは出来なかったが、それを補って余りある性能だった。
赤の隊、青の隊所属のタロスにケーブルの一端を運搬・護衛させつつ、
ユダは前衛として傭兵達の部隊と激突した。
赤の隊全てと比較してもなお劣らぬ暴威で、KVの前線部隊を薙ぎ払う。
何機かのKVはこの衝突だけで撃墜されたが、その暴威を止めるべく、傭兵達も戦力を集中させる。
「よし、今だね〜! いくよ、マロウ君」
「了解だ、ドクター」
ウェストとジョー・マロウ(
ga8570)が呼吸を合わせ、低空よりユダにG放電装置により攻撃を仕掛ける。
G放電装置の高い命中補正を利用した基本とも言える連携攻撃だ。
放たれたプラズマが容赦なくユダを襲う。
幾重にも重なった放電は容易にはかわせないはずだが、ユダは身じろぎすらしなかった。
閃光が飛沫になって消し飛んだ後には、FFの赤い光をまとうユダが何事も無かったかのように立っていた。
「効いてないわね」
パラディンを駆る葵 宙華(
ga4067)が無機質に報告する。
G放電装置の攻撃は、牽制にすらならなかった。
視線を動かしたユダは、集まった集団にフェザー砲を放つ。
小バエを払うかのような軽い動作で、ウェストの機体は後部が吹き飛んでいた。
「てめえ、やめろぉぉぉっ!!」
砕牙 九郎(
ga7366)の爆雷牙が突撃する。
グレートザンバーの重量に任せた渾身の一撃を振り下ろす。
ユダは懐から伸縮する棒状の武器を抜く。
細身に見えるそれで爆雷牙の一撃をあっさりと受け止めた。
「ぐ‥‥」
「砕牙! 離れろ!」
アンジェリナ・ルヴァン(
ga6940)が叫んだ。
僚機を守るためとはいえ、ここまで圧倒的な相手に接近戦は危険すぎる。
砕牙は剣を弾いて後ろに下がる。だが逃げきれない。
追いかけるように跳んだユダのレーザーソードが、砕牙機の左肩から腰までを両断していた。
排出された砕牙を守るように全機一斉射撃、ユダはケーブルを守りつつ後ろに下がった。
その隙にアンジェリナが砕牙を確保。コクピットの補助シートに押し込み、そのまま居並ぶKVの列に戻った。
鷹代 由稀(
ga1601)がその撤退を支援。
アハト・アハトでFFを展開するユダを狙い撃つ。
レーザーはFFを貫通して装甲に着弾したかに見えたが、
光学迷彩による画像のぶれであらぬ方向に突き抜ける。
「助かった」
「お互い様よ。‥‥それにしても手強いわね」
鷹代は態勢を立て直し、再びフェザー砲の光を拡散させるユダを睨みつけた。
傭兵達はねらい通りレーザーを防ぐことは出来た。
分散した相手にはチャージの隙に見合う効果は得られない。
それでもなお、脅威が減ったようには見えなかった。
鷹代達の居る場所とは別の方向から数千発の弾丸が着弾、
続けてユダ近辺を焼き払うかのようにグレネードが数発着弾する。
ユダは先程と同じくケーブルを守って後ろに下がった。
ゼンラー(
gb8572)機のマルコキアスと、
ミリハナク(
gc4008)機の榴弾砲の時間差攻撃だった。
「ふふふ、心躍る地獄が目の前に広がっていますのね。
ここで戦い、生き延びることが出来ればとても楽しいでしょうね」
絶望か悲壮な決意かと言った者が多い中で、彼女は喜色満面の様子だった。
カグヤ(
gc4333)の西王母から弾丸の供給を受けつつ、ユダに容赦なく榴弾を撃ち込み続ける。
カグヤは「たーまやー、かーぎやー」と盾越しにのんびりした様子で状況を見守っていた。
「効いていない訳では無いようだねぃ。活路は必ずあるよぅ」
「‥‥って言われてもねえ」
鷹代はうめく。
今の状況は何分も持つような編成ではない。
烈火のような攻勢にもユダは対応しつつある。
ユダが再び攻勢に出ようとした時、横合いからミサイルの雨が着弾した。
「ライアーが落ちた。正規軍の到着だ」
斎(
gc4127)が告げる頃、傭兵達の周りに続々と正規軍のKVが着陸した。
先頭に立っていたのは榊 兵衛(
ga0388)の忠勝。
「‥‥待たせたな。足止めを食らっていた正規軍の勇者達をこの通りエスコートしてきたぜ」
忠勝はライアーとの戦闘後であるはずだが、目だった傷はなかった。
これに遅れてUNKNOWN(
ga4276)の黒い機体がユダの前に立ちはだかる。
「すまない。こいつをもいでいたら時間がかかった」
UNKNOWNは右手に掴んでいたライアーの頭を見せた。
ラインホールドに似せたとはいえ所詮でかいだけのワーム。
ラストホープの精鋭達には手も足もでなかったのだ。
ゾディアック専用機にも単機で被害を与えうる機体。
その援軍をもってしても、なおユダの脅威は大きかった。
「動力炉へ攻撃をかけた部隊から入電。動力炉前に居たバグアと交戦中、5分待て。とのこと」
「‥‥結局、やるしかないということだ」
アンジェリナ機は錬剣を抜く。
怪我に呻く砕牙をちらりと見て、心の中で詫びる。
これからの5分は、これまでにない激戦になるだろうから。
集まったKVを前にユダが吼えた。
プロトン砲がユダの前を薙ぎ払う。
5分が如何に長いか、彼らは思い知ることになった。
◆
前線部隊が傭兵の部隊に足止めされた隙に、一部の者は後列への攻撃を敢行した。
前進するCWの妨害電波を受ければ、戦線の維持どころではない。
先頭きって突入したノエル・アンダーソン(
gb5887)は、CWの先頭の1機に狙いを定めた。
CWに向けて発射された弾丸は、横滑りした敵機の表面を僅かに削るにとどまった。
「うそっ!?」
彼女の狙ったCWの他、幾つかの機体は直撃弾を避ける程度に改良されていた。
それだけならまだ対処しやすかったのだが、この近辺では白の隊の電子支援が相乗的にかかっている。
周りをみれば他の機体も苦戦していた。
「‥‥速いだけではないようだな」
漸 王零(
ga2930)が苦々しくつぶやく。
彼は一撃を命中させはしたが、撃墜にはいたらなかった。
彼が狙った機体は、本体を歪ませながらも未だに機能を失っていなかった。
とはいえそれらのCWが無敵の防御能力を得たわけでは決して無い。
硬い、速い、と今までの常識外のCWだが総合的な戦力はそれでも低い。
鳳覚羅(
gb3095)と鳳由羅(
gb4323)は同じ箇所に火力を集中させていたため、容易にCWを撃破した。
「的なのには変わらないけど‥‥」
「時間がかかりそうだね」
「姉さん、第一波攻撃での敵の損害、10%にとどまりました」
鳳 螺旋(
gb3267)が済まなそうに答える。
最初の攻撃で落ちたのはほんの数機。
多くの物が一撃必殺と疑っていなかったため、攻撃に波が出来てしまったのだ。
セツナ・オオトリ(
gb9539)は状況の変化を受け、必要な火力の再計算を行なっている。
アルヴァイムは破壊されなおも前進するCWを見つめる。
妨害電波の展開は、そのまま敵の攻撃範囲と予想できた。
「敵の砲撃が来るぞ。各位、回避行動を」
次の瞬間、黒の部隊の砲撃が傭兵達のKVを襲った。
プロトン砲、曲射フェザー砲、ミサイルや迫撃砲、など多様な砲弾が降り注ぐ。
「ここまで近いのに‥‥歯がゆい」
狭間 久志(
ga9021)は旋回しながら敵部隊との間合いをはかる。
一撃必殺の攻撃を仕掛けるにはこの集団は隙が無い。
黒の部隊が強固であること自体は想定されていたが、
CWの怪音波を最大限活用した敵の戦術が、傭兵達に予想以上の苦戦を強いていた。
「これは‥‥ケーブル切りに行くどころじゃないわね」
冴城 アスカ(
gb4188)はCWへの攻撃を続けながら、
彼女を中心に桐生 水面(
gb0679)、エクリプス・アルフ(
gc2636)、天空橋 雅(
gc0864)
天原、BEATRICE(
gc6758)などはユダのエネルギー供給そのものへの攻撃を加えようと画策していた。
そのためにも一歩踏み込んで後衛部隊と接触し、CWを攻撃しながら設備を調べるという算段は正解だったが
白の部隊と連携した黒の部隊の攻撃は彼女達の予想以上に苛烈だった
ケーブルを切りに向かうことは叶わず、そのまま僚機と共に迎撃に向かう。
「タワーのジャミングが切れてからと思いましたが、そうもいきませんね」
BEATRICEは応戦する味方の後方からK−02を発射。
固まっている敵に対して早期殲滅を図る。
CWの装甲の厚さに対抗して、火力は薄く広くから厚く狭くとシフトする。
降り注ぐミサイルの爆撃がようやく晴れてきた頃、部隊の更に後列からゼダ・アーシュが姿を現した。
「来たか」
リヴァル・クロウ(
gb2337)は、憎悪の籠もった目でゼダ・アーシュを凝視した。
「リヴァル、わかってると思うが‥‥」
「あの相手に約束できないな。‥‥すまんが、俺の最後の頼みに付き合ってほしい」
アレックス(
gb3735)は肩を竦めてルノア・アラバスター(
gb5133)の機体をみた。
ルノアは一瞬だけアレックス機のほうに頭部カメラの向けて答える。
誰の目からみても、今のリヴァルは正常じゃない。
「ここは私達の故郷。あれが東京を支配するバグアだって言うなら、
悪いけど落ち着いてなんか居られないわ」
言って、鹿島 綾(
gb4549)も操縦桿を強く握り締める。
「アレを倒して、生きて帰りましょう」
灯華(
gc1067)は強い眼差しでゼダ・アーシュを見据えた。
故郷を取り戻そう。
そのイメージが傭兵達を今一度団結させる。
「ミスターS‥‥この地は返して貰う! ‥‥行きましょう!」
終夜・無月(
ga3084)の白皇 月牙極式が突出し、他の機体も次々に続いていった。
「散開しつつ援護します」
「邪魔はさせないっ」
ユーリ・クルックの誘導を元にキョーコ・クルック(
ga4770)の修羅皇がプラズマライフルを放つ。
突撃する数機を阻むタロスを押さえ、至近距離での砲撃戦となった。
砲狙撃戦を得意とする機体はそのポジションから黒の部隊を振り切れない。
ならばと覚悟を決めて黒の隊にぶつかっていく。
突撃したリヴァルと別れたルノアは周防 誠(
ga7131)と共に黒の部隊と真っ向から撃ち合った。
マルコキアス、スラスターライフル、十式バルカンと3種の弾丸を惜しげもなく前面に展開。
轟音・噴煙を撒き散らしながら数千発の弾丸で黒の隊へ応酬する。
彼女の機体を狙う者は周防のゲイルIIがインターセプト。
狙撃銃で強力な一撃で確実に敵を足止めする。
「黒のティターン、隊長機か。アレを抑えて砲撃連携を断つ」
周囲に呼びかけたのは月影・透夜(
ga1806)だった。
クラーク・エアハルト(
ga4961)は素早く周囲のKVの機数を数える。
可もなく不可もなく程度だ。
「‥‥いけると思います?」
「重装甲での砲撃部隊、懐に入り込んでしまえば他と変わりはしない」
それはまっとうな理屈に聞こえた。
一抹の不安はあるが、賭けをしてみる価値はある
「わかりました。功刀さん、BLADEさん、フォローお願いします」
「了解だ!」
功刀 元(
gc2818)は月影機を付け狙う機体を狙撃銃で追い返すように撃つ。
BLADE(
gc6335)は無言で小さく前進を繰り返しながら銃を撃ち、牽制に徹した。
3機の作った隙間に、月影の機体がすりこんでいく。
狙うは大将首ひとつ。
ブーストを使用しての最高速度で飛び込んでいく。
「装甲を固めたとしても、砲身ならどうだ!」
振り上げた刀身は、しかし振り下ろされることはなかった。
危険を察知した月影はKVを急制動で後退させる。
月影が居た場所を、散弾が通り過ぎた。
再び攻撃を仕掛けようとする月影機に、TWの砲撃が飛ぶ。
月影機は回避してさがり、元の位置まで押し戻された。
クラーク機が掃射して敵の頭を抑え、ようやく月影機は態勢を立て直した。
「自身の弱点は克服しているということですか‥‥」
月影機は建御雷を構えなおす。
確信はした。相手にとって苦手な攻撃であることには違いない。
「もう一度行くぞ!」
「了解‥‥しました‥‥」
ルノアが答えて更に弾幕が厚みを増す。
更に強力な支援を引き寄せつつ、月影は突貫した。
一方、ゼダ・アーシュとの戦闘は熾烈を極めていた。
勢いをあげて傭兵達のKVは接敵したが、その圧倒的な火力で押され続けていた。
「どうしました? 随分皆さん、シャイなんですね」
通信を介してミスターSが挑発してくる。
だがそれに乗るわけにはいかなかった。
「どうなってるんだ‥‥」
ゼダ・アーシュの放った弾丸はビルを貫通する。
それはまるでバターを溶かすように容易く通り過ぎたが、
単純に衝撃が大きいだけにも見えない。
終夜機はゼダ・アーシュに接近した際に刀ごと腕を切り落とされたが、
受けに使った刀も腕部の装甲も、ビルと同じように溶けるように切り落とされた。
「当たらなければ良い。数の多いうちに押し込むぞ!」
「アレックスの言うとおりだ。怯むな!」
鹿島は灯華を連れて前に出る。
各機は散開してゼダ・アーシュを取り囲んだ。
火力に優れる機体相手に先手を取らせてはいけない。
再び弾幕がゼダ・アーシュを覆いつくした。
◆
空は混迷を極めていた。
前進した赤と青、2隻のBFは空戦を行なうKV部隊に同時に攻撃を開始する。
2隻は内部の格納庫にキメラなどを抱えては居なかったが、
両艦とも部隊の支援に適した砲台を備えていた。
赤の隊のBFは大型のプロトン砲、青の隊のBFはフェザー砲を搭載している。
単艦であれば単調になりがちな装備ではあるが、青の部隊のHWと組むと途端に厄介な火力に化けた。
「‥‥こいつは手強いな」
部隊後方を飛び支援に徹していたジャック・ジェリア(
gc0672)が呟く。
敵は近い。強引に近づいて一撃を与えることはできる。
だが不用意に近づけば高速HWからの追撃を受けることも確実だ。
位置が悪ければティターンも襲来しかねない。
八尾師 命(
gb9785)が追跡してくれてはいるが、それも完全ではない。
「でも、やるしかない。兄貴、ジャック、知世のフォローお願いっ! 全員生きて帰るよ!」
「了解だ」
綾河 零音(
gb9784)を先頭に知世(
gb9614)、柳凪 蓮夢(
gb8883)、
布野 橘(
gb8011)、六堂源治(
ga8154)が続く。
布野と柳凪、ジャックが直掩機を相手どる間に残りがBFに肉薄した。
高出力のプロトン砲をかわしながら全火力を正面に集中。
榴弾、ミサイル、レーザーとありったけの火力をぶち込む。
全機体が横をすり抜けたあとにはもうもうと爆発の噴煙が残っていた。
「‥‥まだ生きてる」
知世はうんざりした顔をしていた。
BFは無傷とは行かなかったが、撃墜には程遠かった。
前線での任務に耐えるようにするためか、異様に防御が厚い。
「でもどうやら、逃げに入ってるみたいっすね」
「なら、続けるわ!」
六堂の言葉に後押しされ、BFを狙う一団は反転。
更に攻撃を仕掛けていった。
BFと徐々に切り離されることで、電子支援の効果も薄れていく。
何度目かの攻撃で傭兵のKV部隊は大打撃を受けたが、
ダメージを受けているのはバグア側も同じだった。
一撃離脱を繰り返すため変化は緩慢だが、確実に状況は収束しつつあった。
何度目かの迎撃を潜り抜け、何度目かの反撃がKV部隊を襲う。
一撃一撃は軽くても、何度も食らえばバカにならない。
今回、青のティターンの正面に立っていたのはウラキ(
gb4922)だった。
一瞬の交差に賭けて迎撃するがかわされ、愛機クレヴラの背面にフェザー砲による攻撃を受ける。
何発かはコックピット周囲を通り過ぎ、飛び散った破片を頭部に受けて血まみれになる。
死には至らないが、目に入った血で視界がぼやける。
そして意識も‥‥。僚機のセラの声が遠い。
失速した機体は徐々に速度を増しながら地面へと加速していく。
「地面が恋しいのか‥‥クレヴラ。
だが、まだ早い‥‥飛んでくれ‥‥ 」
ウラキは計器に拳を叩きつける。
その行為がどこに作用したのか、ウラキのロジーナは失速状態から機体を立て直す。
だが瀕死には変わらない。
狙うならば最善の1手を狙う。
「獲ったと思ったか‥‥」
ブーストで姿勢制御を、強引に狙いを安定。
残ったミサイルを全弾、青のティターンに向けて解き放つ。
「!」
ティターンはその復活は予期できなかった。
榊 刑部(
ga7524)へ攻撃を行なっていたが慌てて回避行動を取る。
普段よりも雑にならざるを得なかったそれが、命取りとなった。
ミサイルを全て回避しきったティターンを、高出力のレーザーが貫いた。
里見のアハトアハトによる狙撃だ。
態勢を崩すティターンを龍鱗機のソルダードが追い討ち。
「逃がさないぞ‥‥!」
この位置ではシステムテンペスタを回避しきれない。
「余所見しすぎです」
「もらった!」
近くにいた刑部がスカイセイバーを空中変形、ソードウィングを叩きつける。
防御して完全に動きが鈍ったティターンをセラのプラズマライフルが直撃。
青の部隊のティターンはきりもみしながら地上に向けて落下をはじめ、
地上に着くまえに爆発した。
幹線道路確保に向かっていた日下アオカ(
gc7294)、月居ヤエル(
gc7173)は
青の隊が徐々に瓦解するさまを地上から見上げていた。
彼女達の確保した長い滑走路は主に戦闘ではなく救助に使われた。
KV以外にも通常の戦闘機や戦闘ヘリが、一時の退避場所として利用している。
この近辺で戦闘に対応しているのはソウマ(
gc0505)ぐらいだろう。
「勝ってるのかな‥‥。負けてるのかな?」
「わかりませんわ。まだ終わりそうには‥‥‥あら?」
唐突にレーダーがクリアになる。
見ればタワーのバリアが失われていた。
突入部隊がジャミングの解除に成功したのだ
タワーの足元で繰り広げられていた戦闘も今は終結している。
そして2人は大きな変化に気づく。
ある一点の喧騒が、嘘のように静まりかえっている。
それは最も激しい戦闘が繰り広げられていた、ユダの居る場所だった。
◆
赤のティターンは凶暴な咆哮をあげると仰向けに倒れこんだ。
前衛部隊に対して暴威の限りを尽くすも、数の不利に徐々に押され、遂に力尽きた。
「戦況はどうなった」
赤の隊・隊長にトドメを差したカルマは、荒い呼吸をしながら周囲の情報を呼び出す。
赤の隊と青の隊は瓦解し、ユダは停止した。
新宿の戦力の半分はこれで沈黙したことになるが、
白の部隊と黒の部隊、ゼダ・アーシュは健在だった。
戦況は盤面の上では優位なように見えるが、恐らくはバグアに優位だ。
ユダの跳梁を許してしまった事が、戦局に大きく影響した。
消耗した各部隊は今なお余力を残すバグア軍を抑え切れないだろう。
各個撃破も時間の問題だ。
「酷い‥‥景色ですね」
綿貫は倒した敵を見ながら、破壊されつくした街並みを俯瞰してしまった。
長引いた戦闘はそれだけ多くの被害を街にもたらしていた。
そこかしこでKVからパイロットを救助する者が働いている。
守りたくても守れなかった故郷が、再び焼かれている。
自分の手で焼いた者も居るだろう。
何も出来ずに、燃え上がる街並みを眺めることしかできない者は、少なくない。
戦闘はそれでも続く。
ゼダ・アーシュ周囲の攻撃に向かったメンバーは、黒の部隊・白の部隊とユダの長射程兵器に挟まれる形となり、これまでの間に甚大な被害を受けていた。
ユダの攻撃は頻繁にあったわけではないが、挟まれているという状況では前面への集中は不可能であり、
それがじわじわと傭兵達の首を締め上げていた。
ユダが撃破され、途中御鑑 藍(
gc1485)他、正規軍の兵士も加わったが状況はかわらない。
一度傾いてしまった状況は、そう簡単に覆すことはできない。
双方で何機もの機体が大破し、その周囲に屍のように折り重なっていた。
「せめてお前だけでも! 鹿島、灯華、アレックス。手を貸して欲しい‥‥!」
「了解!」
「後ろは任せて!」
灯華とアレックス、2機のシラヌイSが高速で機動しつつ弾丸をばらまく。
撹乱する2機の援護を受けて鹿島とリヴァルが2方向から突っ込んでいった。
リヴァルがK−02をゼダ・アーシュ単機に向けて放ち、
それを追いかけるように鹿島機が突貫する。
「ここには、多くのモノがあった。私達の家、私達の思い出、私達の家族――!
私達は今こそ、それらを取り戻す。それが例え、二度と元に戻らないものだとしても!」
モーニング・スパローが巨大な篭手であるG・シュラークを装着。
ブースターを起動させ、機体の最高速度でゼダ・アーシュにぶつける。
ゼダ・アーシュはそれを右の手の平で真っ向から受け止める。
受け止めた一瞬を使い、鹿島機にフェザー砲を連射。
鹿島機が次の行動に移る前に撃破する。
「‥‥リヴァル!」
苦痛に悶絶しながら叫ぶ鹿島の機体の陰から、リヴァルの電影が飛び出した。
ブーストで旋回し、ゼダ・アーシュの背面を取る。
「これで、終わりだ!!」
至近距離からリニア砲を放つ。ゼダ・アーシュの装甲表面で爆発が起こり、噴煙が起こる。
リヴァルは手を緩めずに同じ距離からリニア砲を弾が切れるまで撃ち続けた。
至近距離からの一撃は、確かに手応えがあった
爆風があたりを覆う。
普通の機体なら間違いなく撃墜したであろう一撃だ。
だが‥‥。
「‥‥!!」
煙の中から飛び出してきた腕がリヴァル機の頭部を掴み上げる。
その腕を剥がそうと腕を伸ばすが、同じく煙の中から飛び出した小口径のフェザー砲が、
リヴァル機の腕や足を弾き飛ばした。
「惜しい。実に惜しい。この私のゼダ・アーシュにバリアを使わせるなんて。
いや本当に、見事なお手前でした」
そういってミスターSはコクピットの中で拍手をしていた。
真意の見えない笑みを浮かべて。賞賛の度が過ぎて、嘘のようにも見える。
煙が晴れた先に見えたゼダ・アーシュは何事もなかったかのように健在。
小さな傷はあるものの、装甲を掠める程度の損傷しかついていなかった。
ゼダ・アーシュはリヴァル機の頭部を握りつぶすと、その胴体を蹴ってリヴァル機を弾き飛ばした。
「リヴァル!!」
アレックスが叫ぶ。
リヴァルからの返事はない。
コックピット周りに着弾したレーザーの痕が、言いようのない不安を駆り立てる。
「さあ続けましょう。貴方達の本気はまだこんなものではないでしょう?」
歩み寄るゼダ・アーシュの目が、怪しく紅く光っていた。
◆
蓄積したダメージが人類軍の歩みを止めていく。
主要な攻略目標を制圧したはいいが、飛び交う情報は絶望的な内容ばかり。
新宿の攻防戦は敗退に終わろうとしていた。
それに対して、バグア側も状況は差して変わらなかった。
徐々に押し返しつつある戦況を見ながら、ミスターSは額に手を当て苦笑した。
「これはもう無理だな」
彼の思考が見渡しているのは、戦場だけではなかった。
静岡、横浜、八王子、埼玉などの前線基地を失い、
支配の要であるジャミング施設も失った。
ここで敵を壊滅させても、この土地の支配は確立できない。
負け戦の最後に手痛い一撃を見舞ったのだ。
もうこれ以上無理をする理由は無い。
「全部隊へ通達。所定の順序に従い撤退開始。廃墟の管理は人間が喜んでするだろう。
黒の隊は殿を。白の隊は赤・青の隊の生き残りを救助しろ。東へ抜けて海上から北海道側へ抜けるぞ」
「はっ」
部隊の動きは迅速だった。
動けない者は生きていたBFに載せられ、徐々に西へと進んでいった。
その様子は人類側からも見えていた
「勝ったの‥‥?」
キャメロ(
gc3337)は呟く。
目の前のタロスに向けていた槍を、まだ降ろせない。
タロスは既に遠い空にいるというのに。
「‥‥そんなワケねーって」
隣に居た恋・サンダーソン(
gc7095)はトリガーから指を離す。
敵は救助を担う部隊のすぐそこまで浸透していて、
前も後もなくどこもかしこも激戦だった。
「見逃してもらったのでしょうね」
立花 零次(
gc6227)のシュテルンはキャメロ機の槍をそっと下に向けた。
緊張の糸が切れると、徐々に周囲の音も聞こえてくるようになった。
地獄となった救護班で来栖 夢魔(
gc6950)、ステラ・レインウォータ(
ga6643)、
藤堂 媛(
gc7261)らが慌しく走り回っているのが見える。
「長い‥‥1日でした」
去り行くBFとHWを見つめながら、立花はぽつりと呟いた。
戦場の後には無残な廃墟と無数の残骸が残る。
変わり果てた街は、住人達の記憶を鋭く刺し続けている。
東京はバグアから解放された。
しかしそれを手放しに喜べる者は、この街には誰一人として存在しなかった。