●リプレイ本文
●union’s recourse/愛好会の頼みの綱
「おおおおお! にいちゃんたちありがとなありがとうなー!」
暑苦しい夏空の下、暑苦しい全日本焼肉愛好会のメンバーが集まった能力者たちを取り囲む。
(「綺麗なおねーさんからなら兎も角‥‥」)
巨漢に囲まれ明らかに乗り気じゃない黒須 信哉(
gb0590)。しかし、ふと巨漢の後方に目をやると、そこにはてんこ盛りにされた肉、肉、肉‥‥
「焼肉祭は僕たちが守ります。だから、心置きなく準備して待ってて下さいねっ☆」
信哉がキラキラと満面の笑みで応える。分かりやす過ぎるぞ信哉。
他方、紅月・焔(
gb1386)の視線の先にあるのは、巨漢たちでもなく肉でもなく‥‥え、味方の女性陣?
「‥‥今回は女性陣が多い‥‥これは依頼を遂行する過程で成否を決める最も重要な事だ」
‥‥何か言っている。とりあえず焔は放っておこう。うん。
「何かタマネギキメラについての情報はないニャ?」
アヤカ(
ga4624)の至極真面目な質問により、なんとか場の空気が真面目になる。
「そうは言ってもなあ‥‥見つけたやつも見てすぐ逃げたし、分かってるのは前ににいちゃんに話したので全部。3メートルくらいのばかでかい玉ねぎってくらいだな」
巨漢のひとりが肩をすくめる。
「うーん‥‥3メートルあるってことは、新種の玉ねぎじゃなくてキメラだよねぇ‥‥」
門屋・嬢(
ga8298)が呟く。‥‥うん、まあ手足がある時点でもう玉ねぎじゃない。
「でもバグアって結構食べ物をキメラにしますねぇ」
ふと野良 希雪(
ga4401)が言う。
「増殖させたり巨大化させたり‥‥厄介だけどもっと出てきてくれて、捕獲できれば食糧事情は良くなるかな? あ、だけどキメラだから被害でるし‥‥うーん‥‥あー、食欲の神様私はどうすればー‥‥」
独り言を続けながら、気がついたら頭を抱えて蹲っている希雪。えーと、もしもし?
「たまねぎ〜‥‥ねぎ〜‥‥ねむ〜い〜〜‥‥」
その隣では寒河江 菜摘(
gb2536)が‥‥寝ている。大丈夫か君達。
「えーと、ともかく」
瓜生 巴(
ga5119)がこほん、と咳払いをする。
「楽しいお祭りを邪魔するものは許せませんわ」
木花咲耶(
ga5139)が続ける。よかった、なんとか話が着地した。
「即刻退治しましょう」
咲耶の掛け声を合図に、8人はたまねぎさまの元へと馳せた。
●onion’s course/たまねぎさまの進攻
広場の中央。駆け付けた8人の前に、たまねぎさまが堂々と居座っていた。
「特に罠とかはないみたいだね」
嬢が探査の眼で状況を確認する。
「こちらも準備完了です」
希雪が先鋒の武器に練成強化を施す。
「了解にゃ! それじゃ、行くニャよ〜☆」
アヤカがすちゃっとゴーグルを装備し(目に沁みないようの対策らしい)、たまねぎさまへと肉薄する。突然目の前に現れた敵に焦りを隠せないたまねぎさま。
「こっちニャよ〜☆」
たまねぎさまの周りをぐるぐる回るアヤカ。それに合わせてたまねぎさまもぐるぐる回転する。完全に撹乱されているたまねぎさま。どうやら知能はあまり高くないらしい。
「行って。合わせる!」
信哉の言葉に、咲耶が飛び出す。
「無双の刀の威力を味わわせてあげますわ」
たまねぎさまの側面へ回った咲耶が斬撃を撃ち込む。
「こっちだよ!」
ほぼ同時、反対側から信哉がたまねぎさまを流し斬る。
「華麗な連携も良いものですわ」
咲耶がふ、と笑みを零す。
咲耶と信哉の攻撃の隙に、巴がたまねぎさまの後ろへ回り込む。が‥‥
「どっちが前でどっちが後ろなの」
‥‥ごもっともなご指摘です。
「‥‥はっ! これはタマネギ型じゃない! 表裏対象の特異な形状の水陸両用モビルス」
巴が何か叫んだが、後半は大人の事情によりよく聞こえなかった。叫びはともかくとして、巴の超機械による攻撃はたまねぎさまに確実にダメージを与える。
「行きます〜‥‥眠いけど」
さらに正面から相変わらず眠そうな菜摘が接近していく。
「う〜‥‥‥‥」
目を擦りながら近寄る菜摘の黒髪が銀色に変じた。そのとき。
「‥‥‥‥死ねぇっ!!」
なんだか人格が変わってしまった狂戦士・菜摘さんが渾身の一撃を叩き込む。呆気にとられる一同。たまねぎさまも心なしかびびっているように見える。
もちろんたまねぎさまもただ攻撃されているばかりではない。アヤカに撹乱されぐるぐる回転したままバシャーっと酸を放出する。しかし‥‥
「甘いニャ☆」
アヤカと信哉はそれを跳ね避け、
「匂いもつきそうなので願い下げですわ」
咲耶と巴は盾で防ぐ。
「ぐあッ‥!」
わずかに逃げ遅れた菜摘が酸に焼かれる。
「大丈夫ですか!?」
すぐさま、希雪が治療を施す。
「くっ‥‥誰が酢豚の具になるか!」
菜摘がたまねぎさまを睨みつけ叫ぶ。‥‥うん、たまねぎさまから出たのは酢酸ではないと思うけど、そうだね、それはすごくすごくイヤだね。
「仕返しです。これでもくらいなさい!」
菜摘の仇とばかりに希雪がたまねぎさまへと振りかけたのは‥‥日本酒。
「‥‥」
ぽかんとする一同。たまねぎさまも首を傾げている。いや、首なんてないけど。
「‥‥えっと、玉葱切るとき濡らすと目に沁みるのを抑えられるそうなので」
希雪は律儀に解説までしてくれた。ありがとう希雪。
「意外と手強いね」
遠方から銃を構える嬢。
「でも、2人で上手く援護できれば早期退治できるかもね」
嬢が今回の作戦の相棒である焔を振り返る。
「‥‥うむ‥‥やはり戦う女性は美しいな」
焔は女性陣の雄姿を一生懸命目蓋に焼き付けていた。
「‥‥‥‥うん、あたしは何も見てない。何も聞いてない」
嬢は全力でスルーすることにしたらしい。賢明な判断だ。
「あたしが美味しく調理してあげるよ!」
見事焔をスルーした嬢がたまねぎさまへも見事な銃撃を放つ。そして隣で銃声を聞いた焔が、やっと自分の仕事を思い出す。
「‥‥ふむ」
事もなげにシエルクラインを構え、一発。
「‥‥あ」
なんとそんな焔の一発で、たまねぎさまは斃れてしまった。
「フ‥‥これが煩悩力者の力だ」
かっこつける焔。
(「か‥‥かっこよくない‥‥!!」)
どこからともなく心の叫びが聞こえた。
●reunion’s course/焼肉祭の成り行き
「おおおおお! にいちゃんたちありがとなありがとうなー!」
暑苦しい全日本焼肉愛好会のメンバーが到着時と同じ暑苦しさで感謝を述べる。気のせいか台詞まで同じな気がする。
「肉にっく〜♪」
信哉の目にもはや巨漢たちは映っていない。というかたぶん最初から映っていない。
(「でも、具材が肉だけって、それ焼肉祭じゃなくて肉焼き祭なんじゃ‥‥?」)
信哉が心の中で突っ込む。
「なんだと! 何か文句でもあるのか!?」
「なんで伝わったの!?」
恐るべし、巨漢。
一方、嬢はたまねぎさまの亡骸を前に腕組みをしていた。
「どうやって切ろうか? 刀持ってる人、誰か切ってくれない?」
「では私が」
咲耶が国士無双を構え、たまねぎさまをスライスしていく。
「これだけ大きいと匂いがすさまじいですね」
流石に顔をしかめる咲耶。ふぁいとだ。
「でもキメラだし、玉ねぎの味がするとも限りませんよね‥‥」
その様子を眺めながら、巴がつぶやく。
「最悪、中の肉質は最高級の松坂牛だったりとか」
‥‥最高じゃん。
かくしてたまねぎさまは美味しい玉ねぎ料理へと生まれ変わってゆく。希雪はオニオンスープを、嬢は玉ねぎの味噌汁を調理。汁物もばっちりだ。
「焼肉ニャ〜☆」
そしていよいよ焼肉祭の開幕。会場は開始早々戦場と化している。
「牛ホルモンも食べたいのニャ〜☆ ニャっ! 牛の脂に火がついたにゃっ!!」
最前線で戦うのはアヤカ。野菜で一生懸命牛脂を鎮火させている。
「秋刀魚も焼くニャ〜☆」
ポケットから秋刀魚を取り出し網に乗せるアヤカ。早くも焼肉ではなくなっている。ていうかどこから取り出してるんですかアヤカさん。
「椎茸ととうもろこしもあるよ」
嬢も網の上に次々と並べていく。
「椎茸も良いですね〜♪」
信哉が嬉々として箸を伸ばす。
「これを乗せるにゃ〜☆」
アヤカが網の上の椎茸ににんにく味噌を乗せていく。おお、美味しそう。
「飲み物が欲しくありませんか?」
そう訊くと、咲耶が仲間たちに冷えたビールを配っていく。
「ビールニャ〜☆」
アヤカがぐびぐびと呑み出す。
「やはり焼肉にはビールが一番ですわね」
その姿に咲耶もにこりと微笑んだ。
●onion’s curse/たまねぎさまの祟り
そして、ついに。
「どっさりいきますよ〜」
菜摘が巨大なボウルを網の上で傾ける。網を埋め尽くしたのは、スライスされたたまねぎさま。
「う‥‥」
巨漢たちが一斉にフリーズする。
「これもありますよ」
さらに巴がニンジンとピーマンで網の隙間を埋めていく。
「う゛‥‥」
「食べられないなんて言いませんよね」
「え゛‥‥え゛へ?」
ぎこちなく笑顔を作る巨漢たち。かなり嫌な光景だ。
「その玉葱とピーマンと人参を片付けないと、次の肉は配りません。肉が欲しければ野菜に勝ちなさい」
巴がびしっと言う。
「瓜生様、栄養のバランスに気をつけてらっしゃるのですね」
咲耶が微笑む。
「いえ、ただのいたずらですけど」
‥‥‥‥うん、まあ、いいけどさ。
10分経過。
巨漢たちは続々と肉を平らげていく。しかしたまねぎさまは一向に減る気配がない。
「残すんですか」
巴が巨漢たちに絶対零度の声色で訊く。
「ぁ‥‥ぅ‥‥」
巨漢たちが全然可愛くない声色で口ごもる。
咲耶がピシッと箸を置き、巨漢たちへ向き直る。
「あなた達は『勿体無い』という精神をご存じですか。この世の中に無駄なものはございません。好きや嫌いで判断して大切な食材を無駄にしてきた事を反省しなさい。祟り・祟りと騒ぐのであれば、供養するつもりでこの玉葱を肉と一緒に食べなさい」
とうとうと説教する咲耶。
「わかりましたか?」
凛として問う咲耶。
「‥‥はい」
巨漢たちは親に怒られた子どものようにしょんぼりとしている。繰り返し言うが、全然可愛くない。
「そう、これも世界平和のためです‥‥ひっく」
希雪が千鳥足で歩み出る。手にはたまねぎさまに振りかけていた日本酒の瓶。えっと‥‥希雪さん、酔ってらっしゃいますね?
「わかったのなら、たーべーなーさーいー」
希雪は巨漢の一人の鼻をつまむと、口に玉ねぎを無理やり放り込む。
「むがっ!?」
「ひっく‥‥私のたまねぎが食べれないと言うのでーすーかー?」
希雪は巨漢たちを一列に整列させ、順番に玉ねぎを放り込んでいく。ぐっじょぶ希雪。
「黒須様」
突然、咲耶が信哉に声を掛ける。
「はひっ!?」
なんだかすごく動揺した声色で、更に目まで逸らしながら答える信哉。
「玉ねぎ、食べてらっしゃいますか?」
機械仕掛けのように大げさにびくっと震える信哉。
「き‥‥嫌いって訳じゃ無いんですよ? ただ、誰にも苦手な物ってある訳で‥‥。ねっ?」
にへら、と笑うその笑顔は先ほどの巨漢の作り笑いに似ている。‥‥ああ、いや、ごめん。言い過ぎた。
気がついたら信哉は巨漢たちの列の一番後ろに並ばされていた。信哉、がんばれ。なんか『世界平和のため』らしいし。
焔はひとりそんな様子を‥‥いや、そんな様子の中の女性陣を眺めていた。
「ふむ‥‥こうみるとやはり美味しそうだな。‥‥‥‥焼肉の話だぞ?」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
「‥‥そこの人、玉ねぎと一緒に焼いちゃいましょうよ」
列に並んでいる信哉が八つ当たり気味に言った。いや、よくぞ言った信哉。
「ひっく‥‥そうですねー、焼いちゃいましょうー」
「焼かれてもしかたないのニャ」
「同情の余地はないですよね」
「紅月様‥‥自業自得という言葉、ご存じですか」
「ま、この人なら焼かれるくらい大丈夫かな?」
「ねむい〜‥‥好きにしていいよ〜‥‥ZZZ‥‥」
全員一致だった。
あ、焔が逃げた。
そんなわけで皆はお腹一杯お肉を食べて、信哉はさらに玉ねぎもお腹一杯食べて、女の子ばかり見ていた焔はお肉も食べず(女の子も食べられず)、各々帰途についたのであった。めでたしめでたし。