●リプレイ本文
●the BREED’s raid〜敵群襲来し/能力者参戦す
「こちら監視部隊。敵、捕捉しました! その数‥‥判断不能! 群れを成し東方よりこちらへ進軍中!」
「来たか‥‥総員配備!」
報告を受けた唯太は手早く部隊へ指示を出す。それに従い隊員達が戦闘に備えるが‥‥
(「くそ‥‥此処では一般人が多すぎる‥‥っ」)
これまで平和過ぎた町。軍から警戒するよう通達は出していたが、通りには普段通り多くの住民が出歩いていた。そこへ‥‥
「さて‥‥手早く片付けますわよ」
ラピス・ヴェーラ(
ga8928)の声に隊員達が一斉に振り向く。
「特殊作戦軍8名、ただ今到着しました」
「本部から話は聞いている。援軍感謝する」
丁寧に一礼する御崎緋音(
ga8646)に、敬礼で応じる唯太。そこへクライブ=ハーグマン(
ga8022)が一歩進み出て同様に敬礼する。
「避難場所・避難路はそちらの指示に従います。それで、何人か人間を貸していただきたい」
「わかった。第三小隊、彼らの指示に従え」
「中尉に言われた人間は、私についてきてくれ」
(「ふむ‥‥頼もしいな」)
クライブの早速の行動にこの戦いの勝利へ自信を抱く唯太。
「‥‥ところで中尉」
「ん?」
避難誘導へ向かわんとしていたクライブがふと振り返り言う。
「後で少し話があるのだが、よろしいかな?」
「‥‥ああ、構わんが」
唯太が返すと、クライブは微笑み、緋音と共に第三小隊を引き連れ避難誘導へと向かう。唯太が首を傾げていると、そこへ別行動を取っていたレイアーティ(
ga7618)が到着した。
「北に広場があります。そこを主戦場にしましょう」
「皆さん、行きますわよ」
ラピスが応じると、能力者たちは一斉に広場へと向かう。
「よし、我々も作戦開始だ!」
呼応し唯太も部下へ指示を出すと、能力者の背中を見送った。
「‥‥頼んだぞ」
「落ち着いて避難してくださ〜いっ!」
シエラ・フルフレンド(
ga5622)がメガホンを片手に大声で避難を呼びかけつつ、敵を迎えるべく東方へと向かう。大急ぎで向かっているはずなのだが、避難の指示に懸命になりすぎ右に左にふらふら蛇行してしまっているのは御愛嬌だ。
「ぜったい結婚式に間に合わせましょ〜〜っ」
女性は寂しがり屋だ。せめて結婚式はちゃんと出席させあげようと、プルナ(
ga8961)が先を急ぐ。その想いは煉威(
ga7589)も同じだった。私情より仕事を優先させるのは当然のこと。それは煉威とて分かっていた。しかし‥‥
「やっぱ納得いかねェよなァ‥‥正しい事って、一体なんなんだろうなッ」
想いを吐き捨てて、煉威は敵を待ち構えるべく広場へと駆けた。
●the BLOOD’s boil〜精神は高ぶり/生命は激動す
「群れるタイプなのはある意味幸運でしたね。探索の時間が省けますから」
真っ先に敵を視認した旭(
ga6764)が呟く。ひとりきりの式だなんてロマンに欠ける。人の恋路を邪魔するキメラは自分が斬り捨てる。想いを込めて旭は覚醒する。
「鬼さんこちらですっ、私をほっておいたら痛い目にあいますよ〜っ?」
続々と到着する能力者達。シエラが敵をあからさまに挑発する。ゴムパイン達がイラっとした表情を見せた‥‥ような、気がした。全員で一斉に北の広場へと逃げる。ゴムパインは一塊の大きな弾丸のように固まりながら能力者たちを追う。
広場では煉威が仲間たちの、そして敵の到来を待ち構えていた。
「来やがったか‥‥手榴弾型の敵、射撃のいい練習になりそうだぜッ」
煉威が両手の二丁拳銃から連射を放ち、まずは先手を取る。その銃声を合図に、レイアーティが反転し盾を構え敵へと突っ込む。その突撃が当たる寸前、ゴムパインが自爆する。最短で敵を撃破するべく、自爆を誘う‥‥レイアーティの思惑通りに事が進む。
無論、敵もただやられるばかりではない。一体のゴムパインが前衛のプルナへ体当たりを仕掛ける。が、ラピスの超強化を受けたプルナは素早くそれを回避し、ゴムパインは覚醒により長く伸びたプルナの髪の先を掠めるのみだ。
「バカじゃない。ボクのが早いし」
冷たく言い捨てると、プルナは黒色の爪をゴムパインへと突き立てる。そのプルナへ更に別のゴムパインが攻撃態勢に入るが‥‥
「この弾丸からは逃げられないですよ〜っ」
浮遊するゴムパインを後方からシエラが的確に撃ち落とす。
「一体が体当たりを仕掛けると、別の一体が次の一撃を狙うべく浮き上がるようですわね‥‥」
自陣の中央からラピスが敵の動きを分析し、仲間へ伝える。
「なるほど。行動さえつかんでしまえばこちらのものです」
安心して背中は任せられる。そう判断し旭は敵へと突っ込み、存分に敵を斬る。
戦力では此方が圧倒していた。しかし、こちらの優勢が強まるに連れ、敵は統率を失い、動きを予想することが難しくなっていく。ラピスが無線機を手に取る。
「もしかしたら敵がそちらへ流れるかもしれませんわ‥‥緋音ちゃん、気をつけて」
「わかりました。‥‥クライブさん、戦闘班より、はぐれキメラに注意するようにとの連絡です。」
「了解。‥‥さあ、そこを右に曲がって。大丈夫、味方を信じなさい」
ラピスの連絡を受け、緋音とクライブは避難を急いでいた。そこへ‥‥
「クライブさん、来ました!」
言うよりも速く、後方から彼らを追うように現れたゴムパインを緋音はスコーピオンで撃ち抜く。
「糞‥‥! 貴様ら、民間人連れて先に行け! 後はこの通りを突っ切るだけだ! 急げ急げ急げ!」
覚醒したクライブが壁となり、正規軍に退避の指示を出す。敵が此処まで追って来た‥‥否、逃げて来たということは、戦いも終盤に入ったということだろう。スコーピオンを下ろし、緋音が無線機を取る。
「こちらは大丈夫です。ラピスさんたちも気をつけて!」
2人の予想通り、戦況は終結を迎えようとしていた。敵の動きは完全に混乱の様相を呈している。能力者たちもまた、終結を急ぎ総力戦の体制に入っている。
「ラピス‥‥回復して‥‥ほしいんだけど」
「くっ‥‥こっちもお願いします」
「治療は得意分野ですわ。お任せくださいませ」
ラピスに治療を施されると、プルナと旭はすぐさま再び敵へと突っ込む。レイアーティも自ら回復を施しながら、敵を薙ぎ払う。最早前衛も後衛も無くなっていた。煉威の後方からゴムパインが迫る。しかし煉威はすかさず振り向き様にそれを撃ち落とす。
「甘いッ!」
そして遂に最後の一体。逃げると見せかけ、後衛のシエラを自爆の巻き添えにせんと突撃する。しかし‥‥
「近寄ったら勝てると思うと大間違いですっ」
シエラはいつのまにか持ち替えていた100tハンマーでゴムバインを地面へ叩きつけた。
ハンマーの下から乾いた爆発音。それを最後に、広場には再び静寂が訪れた。
●the BLADE’s back〜剣を収め/士、帰還す
「君達のおかげで、無事この街の人々を守ることが出来た。協力、感謝する」
感謝の言葉を述べると、唯太は剣を収めながらクライブを振り向いた。
「それで‥‥話とは?」
「ああ‥‥とりあえず、危機は去ったな。中尉、後は部下に任せて、君は早くお嫁さんのところに行ってあげなさい」
「お嫁さん‥‥? 君達は‥‥」
「中尉、この町はもう大丈夫です。‥‥彼女、あなたをきっと待ってますよ。二人にとって一生に一度の大事な日です。今からでも遅くないです、行ってあげて下さい」
目を見開く唯太に、レイアーティが続ける。
「なるほど‥‥そういうことか。いや、おかしいとは思ったんだ。こんな辺境の町へ特殊作戦軍が派遣されるというから‥‥」
唯太は事を悟り、小さく息を吐いた。その複雑な表情からは、彼の感情は読み取れない。
「しかし、それは出来ない。私にはこの街の人々を守るという任務がある」
「責任者が必要ならば、私が残ろう。コレでも退役大尉だ」
被せるようにクライブが言う。
「‥‥こんな仕事を続けているとね、家族の存在と言うのは、思いのほか大きいものだ、特に妻の存在はね。自分の伴侶を悲しませてはいけない‥‥さあ、行きなさい」
「しかし‥‥」
「新郎不参加の結婚式‥‥あんな悲しいものは、二度と見たくない」
唯太の言葉を聞かず、クライブは強い語調で言った。結婚式当日に死んだ部下がいた。式に参加したくとも、どうしても叶わぬ者を彼は知っていた。
「‥‥‥」
何かを察した唯太は俯き唇を噛む。
「一生に一度の結婚式なんですよ? 行ける状況にありながら行かないでどうするんですか」
無線機から旭の声が聞こえる。どうやらスイッチが入ったままになっており、会話が聞こえているようだ。
「貴方の信念もわかります。けど、それって彼女さん以上に大切にするべきものなんですか?」
緋音が問う。
「それは‥‥」
「女の子にとって結婚式って、人生で一番重要な儀式なんですから‥‥さあ」
ぽん、と緋音が唯太の背中を押す。俯いていた唯太は少しよろめき、よろめいた反動で顔が上がる。そして‥‥唯太はもう俯かなかった。
「‥‥わかった。行こう」
3人の無線機の向こうから、わあ、と幾つもの歓声が上がる。どれも能力者たちの声だ。
「そうと決まれば早く乗りな」
レイアーティが思いっきり真顔で冗談っぽく言った。誰の声か、無線機から吹き出す声が聞こえた。
4人はクライブのジーザリオへ乗り込む。エンジンを噴かせながら、クライブが助手席の唯太に話しかけた。
「ここだけの話‥‥私も式に遅れかけた口でね」
ふたりは顔を見合わせると、ぶっ、と吹き出し笑った。
「やれやれ‥‥行ったようだな」
走り去る車を見送る煉威。車が見えなくなると、煉威はふと無線機のスイッチを切り替えた。通信先は、正規軍。煉威はひとつ大きく息を吸うと、声を張り上げた。
「総員に告ぐ! これより唯太中尉が結婚式を挙げる。各員、直ちに現場にいる能力者達と共に式場へ向かい、中尉らを祝福せよ!」
オウーッ!! と無線機越しに男達の雄叫びが響く。
「中尉さんの結婚を祝っていただける方〜っこちらに集合してください〜!」
集合を掛けるシエラが、煉威を振り返り、ぐっじょぶ、と親指を立てる。男のうちの一人が、そんなふたりの背中をバシッと叩いた。
「おまえら‥‥最高だぜっ」
真黒に日焼けした大男が、白い歯を見せニカッと笑う。シエラと煉威も、大男にニカッと白い歯を見せた。
「よっしゃーッ! 派手に式場へ向かうぜッ!」
●the BRIDE’s tear/花嫁の涙
教会では牧師が聖書を読みあげていた。
「‥‥総てを我慢し、総てを信じ、総てを期待し、総てを耐え忍びます。愛は決して絶えることがありません」
由乃はその言葉ひとつひとつを噛みしめる。ひとつひとつを自分と重ね合わせる。
そして式は、誓いの言葉へと移る。
「その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
「誓います」
誓う相手は今ここにはいない。しかし由乃は、ひとりきりの結婚式を我慢し、唯太を信じ、未来に期待し、今を耐え忍ぶ。愛は決して絶えることはない。
そう、愛は絶えることはない。だから、誓いの言葉だって、絶えないのだ。
教会の扉が開く。そして、逆光の向こうから声が響く。
「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、由乃を愛し、由乃を敬い、由乃を慰め、由乃を助け、この命ある限り、真心を尽くすことを、私は誓います」
声を聞いて、涙が溢れた。一粒、また一粒と、由乃はいつまでも涙を流した。
笑顔のふたりが、並んで教会から出てくる。そこに‥‥
「Congratulations〜っ♪」
「オウーッ!」
シエラがCAFE:UVAから持って来たありったけのお米が、ライスシャワーとなりふたりに降り注ぐ。ついでに男達の野太い声も降り注ぐ。由乃は降り注ぐライスシャワーを見上げ満面の笑みとなり、唯太は部下たちの予想外の祝福に苦笑した。式場が皆の笑顔に包まれる。
「おめでと〜〜ございます〜〜〜っ♪ 幸せのお手伝いができて、ボクも嬉しいです〜っ♪」
「おめでとうございます。幸せになってくださいませね」
プルナとラピスが祝福の言葉をかける。
旭も笑顔で手を叩く。ふたりには、周囲をも幸せにするほど、幸せになって欲しい。ふたりの幸せの前に立ちはだかるものがいれば、誰かが必ず力を貸してくれるはずだ。
「レイさん‥‥私たちも‥‥いつか‥‥」
ふたりの笑顔を見ながら、緋音がレイアーティに微笑みかける。
「ええ‥‥緋音君、いつか私たちもこんな思い出に残る式を挙げましょうね‥‥」
レイアーティはそっと緋音の手を取る。
そんな仲睦まじいふたりの様子に気づいているのかいないのか。煉威は教会の片隅で紅茶を飲みながら休憩しているシエラの隣へ座り、
「いずれは俺達も‥‥だなー」
わざわざ隣へ行っておきながら、聞こえないように小声で言った。
「ん? レンイさん、何か言いましたか?」
「なッ、なんでもねェよッ!」
焦った煉威は盛大な音を立てて椅子から転げ落ちる。
「‥‥煉威ク〜ン? 神聖な結婚式なんだから、おとなしくしてなきゃだめだよ?」
物音に反応して緋音がイイ笑顔で煉威を窘める。その隣では、レイアーティが何故か手錠を手にしていた。
カタカタと怯える煉威を余所に、シエラは紅茶に口をつけると、笑顔に囲まれる由乃と唯太を見遣った。
「お二人の幸せを、心よりお祈りしますっ♪」