タイトル:バーニングレンジャーマスター:北国18式

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/28 22:30

●オープニング本文


●大炎上

 その地ではちょっとした小金持ちだった夫婦が開いたパーティー。楽しい一時、優雅なBGMや笑い声はいつの間にか悲劇の真っ只中、阿鼻叫喚の嵐に変っていた。美しい白塗りだった壁面も徐々に煤に塗れ、ひび割れ、内部では既に崩壊が始まっている。

 その豪邸は、今や炎に包まれていた。

 消火活動を行っていた消防隊に、内部へ突入した隊員から慌しく無線が飛び込んでくる。

「こちら1階! 凄い燃え方をしているぞ! とても鎮火出来そうにない! 救助者の捜索と救助を最優先する!」
「2階は既に煙の中だな‥‥1メートル先も視認出来ない。幸い炎は容易に消火出来そうだが、兎に角視界が悪い」
「おい、怪物だ! 怪物がいやがる!」
「こっちにも異形を確認! こんな話し聞いてないぞ!」
「でかい蟷螂だ、それに一人、いや、あれは人間か?」
「人を‥‥食っていやがる‥‥人を‥‥人を!」
「来たぞ、下がれぇ! 俺たちの手に負える相手じゃない!」
「逃げろ逃げろ逃げろ!」
「階段が落ちてるじゃねえか‥‥逃げろって、どこにだよおおぉっ!」

 その数秒後、少ない悲鳴や苦悶の声を挟み。窓ガラスを破りいくつかの塊が地面へ投げ落とされた。それは何度か地面をはね、隊員たちの前へ転がってくる。

「‥‥なんてこった」

 それは、切り落とされた隊員の首だった。口や鼻、耳からわらわらと無数の小蟷螂が這い出してくる。

「首だ! 首が降ってきた!」
「ジョーシュッ! 畜生ぉおおおっ!」

 仲間の仇を討つべく隊員が蟷螂を踏み潰すとマグマの様な体液が溢れ、次にはそれが発火した。その隊員は火達磨になり、叫びながら転げまわる。

「バカ野郎っ!!」

 隊長が声を上げながら手に持ったショットガン型の放水機、通称「インパルス」を向けトリガを引く。独特の音と共に強烈なガス圧により発射された霧の散弾が炎と小蟷螂を隊員の体から吹き飛ばす。

「やっこさん、インパルスが有効だ。各員装填を忘れるなよ」

 隊長が耳にかけられた無線機に指を当て、隊員に連絡を入れる。それを受け、周りでもインパルスによる小蟷螂の鎮圧に成功。極めて迅速な対応だった。これほど小さいサイズであれば人類に手を焼かせるフォースフィールドも意味を成さないようだ。

 未だ炎上する勢いを失わない豪邸を見上げ、隊長は舌打ちをする。既に自分達の仕事の範疇を超えていると認識した。それがどれ程までに誇りを傷つけた事か。

 間もなく。傭兵へ緊急依頼が出された。



●ブリーフィング

 緊急にも拘らず集まった傭兵達は火災現場のすぐ側に設けられた拠点に集められ、まず隊長が頭を下げ、宜しく頼むと続ける。

「見ての通り、自体は一刻も争う。ざっとブリーフィングをするが状況が大きく変っている可能性もある。その場合はあんた達の起点の良さと身体能力の高さを信じさせて貰う、各々の方法で対処してくれ」

「OK、隊長さん。さっさと説明に入ってくれ」

 そこには集められた傭兵の他、プラチナとクロムメタルカラーのボディにファイヤーパターンのペイントを施したAU−KV「リンドヴルム」に身を包むドラグーン2名が参加していた。

 声や身の素振りから察する限りはプラチナの方が男性で、クロムメタルの方は女性の様だ。どちらにせよ随分と場慣れしている様に見て取れる。しかしそれでも、微塵も気を緩めてはいなかった。彼らは傭兵業をこなす傍ら、困難な救助活動において自首的に協力する事で一部では有名なタッグだった。

「今回あんたらには目の前で派手に燃えてくれてる豪邸に突入し、救助者の救出に当たってもらう。自力で脱出した者、既に我々が救出した者の人数とパーティー参加名簿を照らし合わせ、残されているであろう救助者の人数は10前後と推測される」

 大分時間が経っているが、と最後に小さく付け加えた。とても辛そうに。

「どちらにせよ、生きている奴を助ける。その事に全力を尽くす」

 二つのAU−KVが傭兵たちに向き直る。プラチナ機、筋肉質な体型に日に焼けた肌。髪型は短いオールバックの男が口端をにゅっと曲げて口を開いた。

「OK、兄弟。俺の名前はフレイ・ハードバースト。現場ではタンクと呼ばれてる。宜しく頼むぜ」

 続いてその隣に凛として直立したクロムメタル機。スリムながら胸の大きめな、白銀の長髪、青い瞳を真っ直ぐに向け女性が自己紹介。

「サファイア・ブルースフィア。同じく現場ではランナーと呼ばれています。宜しく」

 次に今回の作戦について説明がされた。

 まず現場の内部構造、出入り口は正面玄関と裏口の2箇所。建物は2階建てで正面玄関から入るとホールがあり、そこに大きな階段。左右に分かれた階段からそれぞれ2階へ上がる事が出来る。2階への階段はその他に左右の隅に。イベントホールは右側1階にあるとの事。

 そして、貸し出される道具について。

 まずはインパルスと呼ばれている携帯放水機だ。トリガする事により高圧力で霧状の散弾が発射される。射程は短いが、一時的な消火効果は折り紙付き。ただし1発づつしか装填出来ないうえ、再装填に時間がかかる。あくまで突破口を切り開く為の用途に特化したものとなる。幸い弾は十分余裕を持って配られる。
 続いて酸素ボンベ付きマスク。マスクは全員に自分の分と救助者の分、予備と3人分が付いている。

 最後にキメラと、未確認の人物、通称「X」の存在の説明がされた。
Xについては詳細は得る事は出来なかったが、あの状況の中、平気で突っ立っている事。更には遭遇した隊員から連絡が途絶えた事だけで十分危険視するには値した。
 これらの対処については絶対ではなく、後続する処理班がすでに現地に向かっている。ここに居るメンバーはあくまで救助者の救出が目的となる。

「俺が1階を、サファイアが2階を担当するつもりだが、依頼を受けたのはお前さん方だ。もし要望がある様なら、よっぽどの事がない限りそれに従う」

 フレイが酸素ボンベを4本‥‥12人分を背負いながらそう告げた。親指で自分を指されたサファイアが少し考えてから口を開いた。

「私は機動力、フレイは力押しが得意です。壁の一つや二つ、この男なら平気でぶち抜く。使ってあげて」

 言い切らない内に、爆発音。何事かと顔を向ける全員の目の先には建物右側の一部が天井から壁にかけて吹き飛んでいた。瓦礫や元はなんだったのか想像したくもない欠片がぱらぱらと飛び散る。

「爆発‥‥だと」
「出入り口がもう一つ増えたな。なんてな」

 フレイが笑えない冗談を言うが、その目は全然楽しそうではなかった。文字通り、一刻を争う。

「‥‥なんて事を。行きましょう」

 サファイアがヘルメット部分を装着し、ローラーダッシュで現場へ向かう。それを追う様に、傭兵とフレイが奔る。

 残された隊長が地獄へ向かう者達の背中を見つめ続け、ぽつりと呟いた。

「頼んだぞ‥‥勇敢なバーニングレンジャー達よ」

●参加者一覧

九条・命(ga0148
22歳・♂・PN
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
比企岩十郎(ga4886
30歳・♂・BM
グリク・フィルドライン(ga6256
27歳・♀・GP
狐月 銀子(gb2552
20歳・♀・HD
ミリー(gb4427
15歳・♀・ER
浅川 聖次(gb4658
24歳・♂・DG
クーナー(gb5669
17歳・♂・FC

●リプレイ本文

●突入

 進入口である正面玄関と裏口の扉が勢いよく吹っ飛ぶ。正面玄関はホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)がインパルスによる高圧力を生かして。裏口では狐月銀子(gb2552)が豪快に蹴り破りったのだ。そのまま全員が内部へと突入した。

「では手早く行こうか」

 比企岩十郎(ga4886)が無線で全員に声をかける。内部はすでにかなりの高温になっており、炎に直接接触せずともじりじりと身を焼かれていく。だが彼らはしっかりとその対策を怠る事なく、ほぼ完璧に行って来た。短時間であれば十分にもつと数人が確信をもった。



 設けられた僅かな間、ブリーフィングにおいて彼らは十分な役割分担、打ち合わせを行う事が出来た。現場経験の有無に関わらず、命を賭けた経験が1度や2度ではないであろう彼らだからこそ、柔軟かつ適格にそれを行えたと言える。

 まず彼らは見取り図を要請し、間取りを頭に叩き込んだ。そうする事でどちらに道があるのか、どこに部屋があるのか、的確なルートの確保、優先するべき探索箇所のあたり付け等、重要な情報を得た。当然プロではない故に抜けた穴は存在する。そこは経験者であるフレイとサファイア2名が出過ぎない程度に助言を行った。彼らはその助言に頷き、自分らの作戦に加味し、次々とその穴を塞いで行く。

 彼らのプランはまず大きく1階と2階に半数に分かれ、更に半数を救助者の救助と搬送を担当する役割に、半数を捜索と救助者を搬送する間、それを護衛する役割の二つに分ける方法だった。明確な役割分担を行う事で作戦や行動に無駄がなく、臨機応変に対応が出来るというものだ。



ドラグーン2名が止まる事なく車輪走行で駆け抜ける銀子が叫んだ。
立ちふさがる障害物を蹴り飛ばし、迫り狂う炎を構わず突っ切りばく進する。

「躊躇った一秒が、未来を変えてしまうのよ!」
「業火の中に取り残された人とキメラとX、ですか‥‥とにかく要救助者の救出を急ぐとしましょう」

その後ろを離されない様に追従し、見逃しがないように周囲へ気を配る浅川聖次(gb4658)。この2名は1階の救出を担当するペアだった。だが救出以前に発見出来なければ意味がない、二人は燃え盛る廊下を突き進み、扉を蹴り破りながら進んでいく。

「目指すはイベントホールよ!」



無線から飛び込んでくる銀子の声に口の端を上げ、ミリー(gb4427)がホアキン、フレイと共に足を進める。
このペアは1階の探索と護衛を担当する事となる。

「キメラを使った放火かな‥‥?」
「慌てずに…でも迅速に行動して救出しましょう」

 ホアキンの疑問に誰も明確な答えを返す事は出来ない。ただ、やるべき事は決まっていた。

「OK、兄弟。イベントホールはこっちだったな、行こう」

 フレイが親指で右奥の通路を指した。爆発した部分も建物右側だった。嫌な考えがよぎるのをミリーは頭を振って追い払った。今ここに苦しんでいる人がいる。救出に全力を尽くす、それだけだった。

「こちら1階班、2階班聞こえているかな?」

 ホアキンが突入後、階段を上っていった仲間へ無線で声をかけた。



「こちら九条、感度良好だ」

 それに返したのは5人揃って2階へ上がった2階班の先頭を歩く九条・命(ga0148)だった。階段が用をなさず少々手間だったが、身のこなしの軽いメンバーは容易に2階に到達していた。

「上下揃って探索を行おう、端から順番にしらみつぶしに」
「了解」

 簡潔な再確認を行い通信を終了させる。
 言うは易し、求めるは易し。だが、簡単ではない。決して簡単ではないのだ。

「炎上する屋敷にキメラと10人程度の逃げ遅れ‥‥厄介な事態だな」

 命が言うように現状は楽観視出来るような物ではなかった。その隣で岩十郎が同じく難しい顔をしていた。彼らは2階の探索と護衛を担当する。話には聞いていたがその煙の濃度は濃く、視界1メートルと言う狭さを再認識した。手を伸ばすとその指先が映らないのだ。ともすれば容易に救助者の存在を見逃してしまえる。と、それを気にしてかどうか、後の二人が前向きな言葉を発する。

「久しぶりの依頼が救助とは‥‥重大です。がんばらないといけませんっ。にしても‥‥体が丈夫な能力者でよかったって思います」
「皆で‥‥頑張って、皆さんを救出しましょう‥‥私たちなら、出来ますよ、ね」

 グリク・フィルドライン(ga6256)とクーナー(gb5669)。救出を担当する2名。グリクは持ち込んだ複数の刀を腰から吊り下げている。クーナーの語気は緩いが、意志は強い。胸の前で拳を握り、震えながらも微笑んだ。

「その通りです。そして私達がそれをしなければ最悪の結果を招いてしまう。慎重になっても恐れてはいけません」

 最後に締めるようにサファイアが凛と言い放った。

「特に偉大なUltimate Rescueの称号、それを持つお二方には噂通りの活躍を期待しています」

 目の前の命と無線を通して1階を疾走する聖次に発破までかける始末だ。

「さあ、全員イベントホールへ向けて移動開始だ。一人も見逃すなよ!」

 岩十郎が無線で全員へ連絡し、本格的な活動が始まった。



●救出

「出たわね、化け物」

 細く激しく燃え上がる通路の中、銀子たちは炎を気にもせず、ゆっくりと近づいてくる蟷螂キメラと対峙していた。すでに互いに存在を確認し、臨戦態勢だ。だが二人はそれを避けた。銀子が壁に片足の車輪をかけ駆動させる。次には自身の体を回転させながら壁を駆け上がり山なりの機動でキメラを飛び越えた。壁には8の字のタイヤ痕が焼きつき、煙をあげる。キメラが去りゆく銀子に注意を寄せている隙を聖次がキメラを踏みつけ、車輪走行で体の上を磨り潰しながら一気に駆け抜けた。

 更に銀子のその先に、もう一匹。銀子は怯む事無く龍の翼で飛び越える。

「幾らアンタ等が人間の脅威でも、天の怒りの前じゃ些事なのよ」

 銀の粉を宙に漂わせ、颯爽と離れて行くドラグーンをキメラは追いかける事は出来なかった。

「それぞれの階に1匹では無い様です。注意して下さい」



「予想以上だな」

 命が誰に言うでもなく、漏らした。2階の状況は直接的な被害は少ないとはいえども、とにかく探索活動においては1階よりも遥かに困難だと言わざるを得ない。悪視界の上、2歩先の足場の安全すら保障されないというのは下手なお化け屋敷や絶叫マシーンの比ではない。その近くで岩十郎がバックドラフトの対策を行ってから部屋の中を改める。ビンゴ、と聞こえた気がした。

「救助者を3名発見。家族の様だ。多少煙を吸って燻されてるが、命に別条はなさそうだ」

 無線の向こうから安堵の声が届く。すぐ傍にいたグリクとクーナーが救出するべく2名を抱きかかえるが、残された一人の扱いに躊躇してしまう。その時、通路からドンッという音が聞こえた。

「キメラが接近。撃ち落としました。また昇ってきます、急いで」

 インパルスを構えたままのサファイアの言う通り、彼女の目の前の手摺には鎌の跡が刻まれていた。彼女が装填を行う間を補う様に命が壁を登っているキメラの頭にブラッディーローズを2発撃ちこみ、ぐらりと揺れたところを蹴り落とした。だが、まだとどめを刺しきれてはいない。昆虫の生命力の高さに驚き、どうしたものかと戸惑っているクーナーと「こっちにきたら喰っちまいますよー! ガチで! なんだかうまそうですもの!」とキメラの方を向いて威嚇しているグリクに岩十郎が大胆な方法を提案する。

「その二人を抱いて窓から外へ飛び降りろ。最後の一人は俺がここから投げ渡す」

 猶予はなかった。一瞬驚き、それは‥‥と思ったが、結局のところそれが最も早く救助者を助けられる方法だと認めてしまったからだ。クーナーは予備の軍用防火耐熱ジャケットで救助者を包み込み、グリクと顔を合わせ頷き、飛びだした。

「さて脱出超特急だ」

 残された最後の救助者を二人が受け止める準備を完了したのを確認してからゆっくりと外へ投げ渡す。



「3名救助、完了!」

 外で待機している消防隊からの知らせは全員の耳に届いた。自分たちのやっている事はきちんと身を結んでいる。その事を実感し、少し折れかけていたこころに力が湧いてくる。これが救助者がバラけている可能性が高いホテル等であれば全員救出は絶望的だっただろう。だが、パーティーと言う催しに呼ばれて集まってきているなら、数人がまとまっている可能性も高く、それだけ助けだせる可能性は高くなる。

 その後もキメラをやり過ごしながらの探索と救助活動は続き、1階で2人、2階で更に1人の救助に成功した。

 ホアキン、ミリー、フレイの3人はイベントホールの目の前にまで到達していた。だがそこで運悪くキメラと遭遇し、戦闘せざるを得ない状況に追い込まれていた。

 ホアキンがブリーフィングで蟷螂について発言していた。簡潔に言うと、昆虫は同サイズ比すると最強の生命体であり、その中でも蟷螂は最強と言われている存在にあたる。つまり、人と同サイズであれば余裕で人を屠り、ましてや3メートルもの巨大なものとなれば‥‥

「だったらイけるぜ‥‥っ!」

 フレイが意味不明な事を口走ったと同時、キメラに向かって突撃し、取っ組み合う。キリキリと音をたてて硬直する。フレイの両脇から二人がインパルスを伸ばし、腹部に零距離で撃ち込んだ。キメラはバランスを崩し、その隙をフレイが車輪走行で強引にキメラを押し、目の前の扉をぶち破った。次には炎が龍の方に部屋の中から噴き出した。バックドラフト現象と呼ばれるそれだった。

「フレイ!」
「行け! こいつは俺が相手をする!」

 未だ炎を吐く部屋の中からフレイの声が飛び出す。助けにいこうにも、いくら対炎対策を取っているとはいえ生身の人間がその中に飛び込むのは自殺行為と言えた。だからこそ、二人は。もう一つの扉へ向かった。

 その数秒後、背後で爆発音が鳴り響いたが、振り返る事は出来なかった。



●バーニングレンジャー

 銀子と聖次、ホアキンとミリーがそれぞれの扉からほぼ同時にイベントホールへと突入した。ドラグーン2名は円上の激しいルートとなっていたのか、AU−KVの所々がすすこけ、煙を上げている。

 部屋の中央に、生死不明の救助者が5名を確認出来た。すぐにでも駆け寄りたいがその傍に立つ一人の男の存在がそれを封じていた。明らかに人とは違うであろう気配を放つその男は、4人を確認するも驚く事はなく救助者の周りをゆっくりと歩く。

「何者だ?」

 ホアキンがエネルギーガンを構えながら訪ねた。ほかの3名もとり囲むように配置する。全員の動きが止まったのを見てから男が気味の悪い笑い声を漏らす。

「きひひ、なんだ能力者か? 俺のお楽しみの邪魔をするんじゃねえっ!」

 言い終わるや否や、飛びかかり襲おうとした次の瞬間。ホアキンのイアリスから放たれたソニックブームが男を吹き飛ばした。だが男は空中でくるりと回転して態勢を整え、本来激突するはずだった壁をまるで地面のように走り、銀子に飛びかかる。だが、それも銀子のファルクローによって落とされ床に転がる。

「アンタの事は仲間に任せてるの。意味、解る? 御呼びじゃないってのよ、どきなさい!」

 上から見下ろし、睨みながら叫ぶ銀子の下で男がぶつぶつと呟く。

「おかしい‥‥こんな‥‥では‥‥俺は‥‥強く‥‥体‥‥改造‥‥」

 バグアに強化改造を受けたと思われる男はダメージよりも精神的なショックにより腰を抜かしていた。

「学校で習わなかったのか? バーニングレンジャーは無敵だ」

 声の方に全員が振り向くとグリクとクーナーに支えられた血だらけのフレイが立っていた。

「人命の救助の為に、あらゆる障害を乗り越え必ず救って見せると言うその意思力。甘く見られては困ります」

 2階から続く吹き抜け部分に命、岩十郎、サファイアが到着していた。それぞれの手には武器が握られている。

「万事休す、諦めなさい」
「はひ‥‥きひひ‥‥ひははははは!」

 何かがキレたように笑いだすと、天井から無数の小さな蟷螂がまるで雨のように降り注ぎ出した。そして、激しい炎をあげ一瞬のうちにイベントホールは赤くライトアップされる。

「救助者を確保するんだ! そいつに構う必要はない!」

 銀子と聖次、グリクとクーナーが救助者のもとへ駆け寄り確保する。ミリーとホアキンがそれを護る。全員最悪の状況は免れていたのが幸いだった。周囲のキメラをインプレスで吹き飛ばしながら退路を徐々に確保していていると、そこに男が飛びかかるが2階からベアリングで降りて来た命がそれを超機械による攻撃で止めた。

「俺たちが殿を務める」

 棍棒でとんとんと肩を叩きながらの岩十郎の言葉に命が再装填を行いながら静かに頷く。サファイアもその後ろで短刀を逆手に持ち、足爪を後ろ脚に下げ万全の態勢を取った。イベントホールを駆け抜ける。障害物を吹き飛ばし、炎は銀子が大量に持ち込んだインパルスで使い捨ての要領で即座にかき消して退路を確保していく。一丸となり、突き進むも、もう少しと言うところで今まで振り切って来たキメラが集まって来る。最初の数体は護衛班が撃退出来たがじわじわと取り囲まれているのは明白で、救助者の子供が絶望し、銀子の腕の中で震え泣きだす。笑顔で優しく声をかけた。

「安心して、君には幸運の女神がついてるわ」

 迫る包囲網に押され、ついには壁に背をして防戦一方にまで追い込まれた。形成は完全に逆転していた。遠くから男の笑い声が聞こえる。これしかないと覚悟を決めた銀子と岩十郎が頷き、壁に向き直る。ホアキンが背中を血で濡らしたまま無線でどこかへと連絡を入れた。

「生き延びる方法を教えてあげるわ。死ぬと思わない事よ‥‥」

 ぴたりと壁に手を当て、深呼吸をひとつ。

「道は、自ら切り開くもの。あたしはそう習ったわ!」

 銀子の気合と同時に龍の咆哮と獣突が炸裂する。
 大きな音を立てヒビ割れていく。熱せられ膨張した建物内の気圧がそれに拍車をかけ、はじけ飛ぶように壁が吹き飛んだ。





 その後。間を置かずして到着したキメラ討伐班によりキメラの殲滅に成功。
 現場検証により救助者も全員が無事救出されていたと報告が入り、全員が安堵した。
 だが唯一の心残りであるX。彼は姿を消していた。



「俺たちはあの男を追っているんだ」

 包帯に巻かれた上半身を晒したままフレイが漏らした。

「彼の名前はイングウェイ。音速のイングウェイと呼ばれていたかつての仲間です。そして‥‥私の、兄」

 サファイアが俯き、重ねた自らの手を見ていた。

「あの男のテロルは今回の様に独特でな、経験者ならわかっちまう。また機会があったら会おうや兄弟。はは、かっこよかったぜ!?」



 後日。救助された子供からメッセージが送られてきた。



  助けてくれてありがとう! おにいさん、おねえさん!
  ボクも大きくなったら、誰かを助ける人になりたい!