タイトル:【徳島】園児達を守れ!マスター:紀藤トキ

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/27 12:32

●オープニング本文


前回のリプレイを見る


『キドンよ。智将キドンよ。作戦は失敗に終わったようだな』
 徳島沖の海中要塞内部に、重々しい声が響いた。
「はは‥‥っ。面目もありませぬ」
「フン、口ほどにもない」
 悔しげに顔をしかめるキドンへ、壁際にもたれたままのモリンがニヤニヤと嘲笑を送っている。何かを言い返そうと顔を向けたキドンに、壁に掘り込まれた巨大な顔から蒼い稲光が放たれた。
「うっ‥‥」
 がくりと膝をついた男の隣を、跳ねるような足取りで進み出るモリン。相変わらずレオタード風の薄い衣装にロングブーツ、肩当てとマントという寒そうな格好だ。
「フフフ、次はこの私。麗将モリンの番‥‥」
 嫣然と笑ったモリンが口にしたのは、幼稚園バスの誘拐だった。悪の組織にとって伝統ともいえる作戦である。
「私の調査によれば、『なかよし幼稚園』年長組が体験学習としてパンの店『すぃ〜と』に出向くそうです。その時間を狙えば、子供達の誘拐は簡単に行えましょう」
 いつ手に入れたのか、モリンは『はるのおでかけのしおり』なる小冊子を手にしていた。
「馬鹿め。子供など誘拐してどうする。洗脳しても兵士にもならぬし、混乱を起こす役にも立たぬわ」
 どうせ誘拐するならば警察署長や県知事、市長などの重要人物を、と言うキドンをモリンは鼻で笑った。
「だから貴方は駄目なのよ、キドン。フフフ‥‥」
 前回に言われた台詞を言い返してから、モリンは壁のレリーフに向き直る。
「誘拐した子供達は我々の手で洗脳し、育て上げるのです。ゆくゆくはこの徳島の、いえ日本の中枢を支配するエリートとなるように」
 語るモリンの背景で、物凄い勉強して一流大学に入り、国会っぽいところや社長室っぽいところに入っていく人々の姿がイメージ映像として流れた。どの顔もみなうつろで、目の下には黒い隈が現れている。普通ならば議員バッジや社章とかがつくであろう襟元には、胡散臭い書体の『BAGUA』が輝いていた。
「‥‥そう、つまりこの策によって我々は世界の未来を征服するのです」
「むぅ‥‥」
 うっとりした様子でそう言葉を締めくくったモリン。隣では、キドンが悔しそうに唇を噛む。壁のレリーフがちかちかと点滅した。
『見事なり、モリン。‥‥キメラ獣こねこねを与えよう。存分に働くが良い』
「にゃー」
 鳴き声がした方へと目を向けると、そこには小さいパン延し棒を持った子猫っぽいキメラが直立していた。その数、10匹。やばくなると合体してねこねこになるという恐ろしいキメラ獣だ。
『パンが焼きあがるまでの待ち時間、退屈している子供たちをこの愛らしさで引き付け、我らの用意した偽バスへと誘い込むのだ』
 何か、この作戦の為にバスまで用意するらしい。カラーリングは黒で。モリンの変装用にバスガイドさんっぽい服も用意されるようだ。こっちも黒なので、露骨に怪しいが気にしてはいけない。
「はっ。必ずや、吉報を持ち帰りましょう」
 ばさりとマントを翻して出て行くモリンを、キドンは悔しげに見送る。色んな意味で負けた気分が、その顔にありありと浮かんでいた。

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 一方、所変わって喫茶ドラゴンの店内。
「体験学習の、応援ですか?」
 八木から話を聞いていた加奈が、かくりと首を傾げる。
「ああ。町内のパン屋さんに幼稚園から園児さんが来るそうでね。まあ、難しいことはないよ。子供達の相手をしてくれればいいんだ」
 お髭もスマートな中年のマスターは、昨年応援に行った際に子供に泣かれてしまったのだとか。パン屋『すぃ〜と』の店主はどっしりした赤ら顔のおっちゃんなのだが、そちらの方が受けが良かったらしい。
「ああ、加奈ちゃんだけじゃ大変だろうし。良ければ皆にもお願いするよ。バイト代は、ちゃんと出すからね」
 店内で思い思いに寛いでいた能力者達へ、八木は片手で拝んでみせた。

●参加者一覧

柚井 ソラ(ga0187
18歳・♂・JG
智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
クラウディア・マリウス(ga6559
17歳・♀・ER
夏目 リョウ(gb2267
16歳・♂・HD
斑鳩・南雲(gb2816
17歳・♀・HD
マグローン(gb3046
32歳・♂・BM
直江 夢理(gb3361
14歳・♀・HD
御崎 栞(gb4689
19歳・♀・DG

●リプレイ本文


 パンの店「すぃ〜つ」は、大勢の園児、少し年上のお姉さん達と、それ以外でにぎわっていた。
「子供って、元気ですね」
 パン生地で何かの形を作っては見せに来る子供たちに、加奈は振り回され気味だ。
「子供は大好きです」
 そんな加奈へと熱い視線を向ける直江 夢理(gb3361)。
「私、将来は加奈様や憧れのお姉さまと一緒に子供を作って‥‥」
 生物学的に困難な願望を述べる夢理へ、男の子が首を傾げる。
「また緑のおねーちゃんがぼーそーしてる‥‥」
「ばぁか、違うよ。もーそーっていうんだぜ」
 睨み合うやんちゃっ子に、普段は冷静な御崎 栞(gb4689)も勝手が違うようだった。
「ええと‥‥どうしましょう‥‥」
 しゃがみ込んだ智久 百合歌(ga4980)が男の子達の頭を撫でる。
「どっちも正解なのよ。だから、喧嘩しない。ね?」
「む、そうかー」
 素直な物である。
「いつか彼との間にも、こんな可愛い子供が‥‥」
 微笑みながら、園児を見つめる百合歌。しかし、冷静に考えると、産んだ子が年長さんに育つ頃にはよんじゅ‥‥いえなんでもありません。
「ありがとうございます」
 ほっとして言う栞に、百合歌は難しく考えずリラックスするようにと言う。あっちでは斑鳩・南雲(gb2816)が意外といいお姉さんぶりを発揮していた。
「はい、1つ作ったら、別の子に教えてあげようねっ」
「はぁーい」
 元気良く手を上げる園児を見て、栞はため息をつく。
「難しいことはないって‥‥。私にとっては十分難しいですよ‥‥」
 そんな少女の手には、『子供との接し方』なるタイトルの本が握られていた。

「ゆりりん、加奈ちゃんも一緒に作ろっ」
 園児と一緒に生地を丸めていたクラウディア・マリウス(ga6559)が手を振る。
「私はうさぎっ。ソラ君は何を作るのかな?」
 チラッと目を向けた先で、柚井 ソラ(ga0187)が真剣な顔で何かを作っていた。
「‥‥パンは食べるものでしょう?」
 普通のロールパンを手早く作る栞。目をやったクラウが目を輝かせる。
「ほわ、その形可愛いですねっ」
「え?」
 目をぱちくりする栞の前に、子供達の視線が集まった。
「寝てるアザラシ?」
「うちのパパー!」
 子供達の想像力は旺盛である。
「おばちゃんは、何作ったの?」
 そんな風に言われた百合歌は、輝くような笑顔を返した。
「お姉さん」
「‥‥ぁぅ‥‥」
 さぁ、言って御覧なさい、と微笑む百合歌に、振り子細工のごとく素早く頷き返す事3度。
「お姉さん、何を作ったんですか!」
 大変良く出来ました。
「‥‥おねえさんじゃないです。おにいさん、です!」
 向こうで、少年が流れ弾のダメージを受けていた。



 一方その頃。夏目 リョウ(gb2267)は怪しげな黒いバスから悪の匂いを感じ取り、追跡していた。
「嫌な感じがする‥‥ボルゲ一味に違いない」
 何となく生臭い気もする悪の匂いに眉をしかめつつ、停車したバスへと忍び寄る少年。
「この間のキドンとかって奴は居ないようだな‥‥。ん? あいつは」
 誰かと話しているマグローン(gb3046)に、リョウがさっと身を隠す。見覚えの有る青年の手には、何故かペンキ缶とヘラ。
「黒一色では美しさが足りません」
 腹側を銀に塗ったら美しさが増すと力説するマグローン。しかし、水中で見えづらくなるという理由は如何な物か。
「美しいのは良い事ね。見ない顔だけど、名前は?」
 黒いバスガイド制服に身を包んだモリンが、マグローンへと声をかけた。
「あなたに名乗る名などありま‥‥もとい」
 さすがにこのタイミングで喧嘩を売ってはまずい。その程度の常識は判断できる。
「強いて名乗るのであれば、ある時は固めの赤身肉、またある時はとろける最上級トロ肉。コラーゲン豊富な目玉は、常に正義を見据える眼。黒潮公爵マグロード。そう名乗って置きましょうか」
 別の意味で非常識な名乗りだったが、相手も非常識だからいいんだろう。多分。
「その調子で励めばキドンの後釜にしてやってもよくってよ」
 いないと思って好き勝手言うモリンの後を、膝丈程度の可愛い二足歩行キメラがちょこちょことついていく。‥‥あ、転んだ。
「あれは、キメラ獣。一体何を考えているんだ、バグアめ!」
 忌々しげに呟いたリョウの目の前に、ぬっと腕が伸びる。
「いい所に。少し手伝って頂けませんか?」
 爽やかに微笑むその手には、2つ目のペンキ道具一式。その一部始終を、遠くから百合歌が見つめていた。
「あれは、この前のコスプレ将‥‥名前は‥‥」
 脳の老化は30台から始まっています。適切な訓練で記憶力を保ちましょう。


 『すぃ〜つ』内では作業も一段落。焼けるまでの時間、駆け回ったりおしゃべりしたりと園児たちは騒々しい。
「少し時間があるみたいですね」
 飲み物の準備でも、という加奈を夢理が嬉しそうに手伝う。子供達の面倒は、仲間達が見てくれるのだろう、多分。
「暫く忙しくなるから、外の駐車場で遊ばせてもらえるかな?」
 店主はそんな事を残りの面々に頼んでいた。店内は食事用にセッティングしなおしたりするらしい。
「そのお手伝いは、加奈様と私が2人きりで‥‥。そんな、いけません加奈様」
 何がいけないのかはさておき、そういう分担になったようだ。
「じゃ、皆お外に出てねー」
 そう声をかけつつ、百合歌は更衣室へ。
「‥‥はぁ」
 緊張と動揺と混乱と諦念の四楽章を終え、栞はぐったりしている。けれども、子供達は敏感だ。栞のぎこちなさは自分達を嫌いだからではなく、不器用ゆえである事をちゃんとわかっていた。
「お姉ちゃん、これ」
 早く元気になってね、とおやつの飴を1つ。瞬きして見つめてから、口に含んだそれは爽やかなミント。
「‥‥仕方ありませんね」
 ほんの少し笑った栞の目が、外の怪しい黒バスに気づいて鋭く変じた。

「手作りのパンは浪漫だねー。あ、おなか減ってきた」
 元気娘の南雲も一足先に外へ出た所で、妙な一団を目の当たりにする。パンこね棒にエプロンとコック帽まで身につけている辺りが怪しすぎた。後者はモリン手製らしい。
「おー、ねこが立って歩いてる‥‥。ファンタジーだねぇ」
 聞きつけたソラもそちらに目を向けた。
「にゃ、にゃんこ‥‥っ」
 うにゃ? 等と首を傾げたりするキメラと、同じ角度に首を傾けるソラ。実に愛らしい。
「はわわ、可愛いです‥‥。触りたいかも‥‥」
 クラウはふらふらと立ち上がっていた。
「フ、容易いものね。さぁ、子供たちを虜にしなさい、こねこねーず!」
 駐車場の端にこそこそと隠れたモリンが声を掛けると、キメラは更に愛嬌を振りまく。
「キメラに近寄っちゃ駄目です! とりあえず、俺が注意を惹きつけておきますから‥‥っ」
 あわあわと叫ぶソラだが、園児たちから沸き起こるずるいコール。独り占めにしようとしていると思われたらしい。
「わわ、駄目ですったらー」
 ソラの声も空しく、子供達はこねこねに駆け寄ろうとする。
「クラウさんも、手伝ってーっ」
「ほわっ? キメラ?」
 一緒になって撫で掛けていたクラウは、危険に欠片も気づいていなかった。と、そこに大きく手を叩く音が響き渡る。
「皆、ちゅーもーく。もうすぐ、パンが焼けるよー」
 手が汚れるとパンをすぐに食べられないぞ、と言う南雲の声に、園児たちが振り返った。
「さぁ、こっちで手を洗おうねー」
 駐車場隅の水飲み場へ、子供達の半ばが誘導される。残りの人数ならば、ソラとクラウが何とか両手で抱え込めた。
「ほわっ、あ、暴れちゃ駄目、です」
 服とか引っ張られたり、大変なようだ。
「チッ、運転手!」
 黒いバスが、水飲み場の脇へとつける。歩み出てきたモリンが、営業スマイルでにっこりと園児達に微笑みかけた。
「皆さん、手を洗い終わったらバスの中で待ちましょうね? さ、こっちですよ」
 突然現れた大人に、園児が南雲を振り返る。
「猫ちゃんはー?」
 元気なお姉さんこと南雲は、バスの運転席に知っている顔を見つけていた。
「ねこさんは後から乗るからねー」
 南雲の声に、にぱーと笑う園児。急いで乗らないと思ったところに座れないぞー、等と言われて、クラウとソラの腕の中の園児も、暴れるのを止めてバスの方へ。
「何かくさーい」
「先刻まで魚市場で徳島の海の幸についてを学んでいましたので、その時に付いた匂いでしょう」
 今は桜鯛が旬だとか、妙な薀蓄を告げる運転手。いや、多分ペンキの匂いだと思うんだ。

「フ、見事に引っかかったな、ルブラエンジェルズ!」
 最後の園児が乗車した、その時。明らかな出待ちタイミングで、モリンが胸を張る。今回はそれでダメージを受ける顔ぶれはいなかった。
「あなたはあの時の変態の親玉こすぷれいやーさんっ!」
「そんなカッコで何をしてるの?」
 ソラとクラウが仲良く突っ込み。
「それで、今日は何の用です? おばさん」
 冷たい声で付け足した栞の言葉も、聞こえてないようだ。
「良くぞ聞いた。まさかこのバスが我々の策だとは思うまい」
 モリンは嬉しそうに勝利宣言した。ぷしゅー、ばたん、と扉が閉まる。彼女の背後で。
「ちょ!?」
「失礼、このバスは20歳以上乗車拒否です」
 運転席から、マグローンが涼しげにそう告げた。しまった、2歳オーバーか、などと舌打ちするモリン。
「ですが、子供たちが是非にというならば構いませんよ」
 どういう事だ、とモリンが問い返す。
「どうぞ、後ろを見てください」
「はーい、みんなー♪」
 バスに向かって手をあげる、パステルカラーのバスガイドさんがそこにいた。
「っ! 偽者だと!?」
「こっちの黒いお姉さんより、こっちのバスガイドのお姉さんが良い子は、元気良く『はーい』と手を挙げてー?」
 窓際に並んだ園児達の頭上にクエスチョンマークが浮かぶ。


 モリンがバスの方へ引き付けられた結果、こねこねは思う存分もふられていた。
「くっ‥‥、何て可愛いんだっ」
「魔性の魅力だね、ソラくんっ」
 かなり骨抜きになっているソラとクラウ。それを横目に、やりにくそうに特注超機械の『黒の書』を構える栞。戦わねばならないのは理解しつつも、攻撃はしにくいようだ。
「可愛いです‥‥。キメラにも、色々いるんですね」
 騒がしい様子に表に出てきた加奈も、こねこねーずを撫でている。
「魔性の魅力、ですか‥‥。確かに私には魅力的な光景です」
 夢理が見ているのは、多分キメラじゃないと思われた。
「うー、困った。余り残酷になったらまずいよねぇ」
 唯一、キメラ退治に前向きな南雲も、バスの中からの園児たちの視線が気になって中々踏み切れない。そんなのどかな時間を、鋭いギターの音が切り裂いた。
「外見に騙されるな、ルブラエンジェルズ」
「お。おお?」
 見上げた少女の視界に映るシルエット。高い位置の逆光を選ぶのがヒーローの嗜みだ。
「‥‥行くぞ騎煌、武装変!」
 バッと飛び降りながら、ミカエルを身にまとうリョウ。ギターが奏でるのは『インドの虎狩り』。曲調的に、身の危険を感じたらしいこねこねーずが身構える。
「化けの皮を剥ぎ、その正体を現せ‥‥!」
「うにゃー」
 リョウの声に誘われるように、大き目の4匹が踏ん張った背中を、別の4匹がよじよじと上りだした。
「わわ、どこに行くの?」
 掛けられた声に、振り返りかけ、それでもこねこねはもふり空間を後にする。さらば、憩いの時。これから彼らは修羅に入る。
「にゃうにゃう」
 4匹が足場に、その上に4匹が乗り、残った2匹がなんとなくその上に。それは、合体と言うかなんというか。
「組体操ですか?」
「‥‥っていうか、猫神輿?」
 合体したら、可愛くなくなるなんて誰が言ったんだ。その姿を、びしっと指差すリョウ。
「さぁ今だ、ルブラエンジェルズ!」
 今だって言われても、その、なんだ。困る。
「合体したなら、こっちも合体で対抗だね‥‥」
 ミカエルを装着する南雲も、勢いがなかった。元気なのは、合体と聞いて頬を赤らめている夢理くらいか。


 幸いな事に、バスの中は可愛らしい猫vsヒロイン達の姿が見えない程度に紛糾していた。
「あっちのおねーさんの方が可愛いよ」
「おかあさんみたいだから、僕はあっちのおねえさん」
「遅刻しないガイドさんのほうがいいガイドさんだと思いますっ」
 頃はよし、と見たマグローンが車内放送で園児達に挙手を促す。
「では、最初にあちらのカラフルで脂の乗ったガイドさんがいい皆さんは、手を上げてください」
 勢い良く、数人の手が上がる。迷っている子が2人位と、後はじーっと様子を見ていた。
「‥‥あ・げ・て?」
 百合歌がにこーっと笑う。車内の気温が、3度くらい体感で低下した。園児たちの背筋が伸び、ピッと揃えた指先を斜めにまっすぐ突きあげる。
「統制教育っ!?」
「フッ、勝負あったようね」
 モリンを鼻で笑い飛ばし、バスへと乗り込む百合歌。脂がどうとかで何か騒ぎが起きたかもしれないが、カメラは感知しません。


「く、おのれ。斯くなる上は! いでよ、ねこねこ!」
 猫神輿を前に、対処に困っていた能力者たちがホッと息をついた。
「良かった。このまま戦わなきゃいけないかと‥‥」
 一部涙目だったりする。にゃーにゃー言いながら、モリンの元へと戻るこねこねーず。モリンが指を鳴らすと、バスの車体の下から半分銀色に塗装された虎っぽい何かが這い出てきた。
「さぁ、行きなさい。合体キメラ、ねこねこ!」
 出てきた場所も違うとか突っ込んじゃ駄目なんです。特撮的意味で。
「とうとう本性を現したな、キメラめ!」
「‥‥おお、合体?」
 お約束的に突っ込んでくれるリョウと、横でポン、と手を打つ南雲。
「愚かですね、自ら利点を捨てるとは」
 薄く笑った栞が手にした本から、パリパリと黒い雷が漏れ出る。
「ちっちゃい方が可愛かったのに‥‥っ!」
「大きすぎると可愛さが台無し、って、誰かが言ってましたっ」
「私はもう少し大きい方が嬉しいです‥‥」
 きゃんきゃん吠える2名と、胸に手を当てて俯く1名。
「さぁ、みんな。悪い怪獣と戦うルブラエンジェルズを、応援してね!」
 マグローンからマイクを奪い取った百合歌が、園児達に声を掛ける。バスの窓から響く歓声をバックに、キメラ獣は色んな鬱憤をぶつけられて爆死した。
「‥‥く。おのれ、次を見ていなさい!」
 もぞもぞ動くスポーツバッグを抱えてモリンが逃げさる。
「じゃあ、さらばだ、ルブラエンジェルズの『お嬢さん』達。縁があったらまた会おうぜ!」
 走り去るリョウを背景に、一同は子供達の手を引いて店内へと戻っていった。
「さぁ、さっきの事は忘れて食べましょう」
 栞の両手にも引かれる園児達。彼らの夢と未来は君達の活躍で守られた。頑張れ微少女戦隊ルブラエ、ンジェルズ。
「‥‥微少女って何」
 えーと‥‥、負けるな微少女戦隊ルブラエンジェルズの中の男の娘。徳島の未来は君たちの肩にかかっている!

 ――この報告書は、楽しい時を作る報告官キトーと、御覧のPC様でお送りしました。