タイトル:夏と海とにょろにょろマスター:紀藤トキ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/08/17 10:25

●オープニング本文


 見渡す限りの青空、そして足の裏が焼けるように熱い砂。寄せては返す波。夏といえば海、海といえば夏である。

 ――が。キメラが出るのも、夏の風物詩なのだ。あれだ、幽霊とかクラゲとかと似たような物で。

「ここが、キメラがいるという砂浜か。どこにいるんだ?」
 UPCから派遣された2人は、一見のどかな砂浜を見下ろしてそんな事を呟いた。キメラといっても、ピンからキリまである。今回報告されたのは体長50cm〜1m程度の小型キメラで危険度低だそうで、通報を受けた軍曹が休暇気分で退治を引き受けたらしい。
「よし、さっさと退治してのんびりしよう」
 油断なく、小銃を構えて歩き出そうとする歴戦の軍曹。その後ろから、おずおずと声が掛けられた。
「あの、質問の許可を願います」
「許可する、伍長」
 セパレートタイプの水着にすらっとした長身を包んだ女性軍人が、首を傾げる。
「何故、自分は水着で無ければならないのでありますか」
「ここが夏で、今が海だからだ」
 きっぱりと理解不能な返答を返した髭面の軍曹は、暑そうな野戦装備だった。釈然としないながらも、彼に続いて一歩を踏み出す伍長。と、その足元が動いた。
「で、出ました。軍曹‥‥!」
「何! 俺が通った時は気配も無かったというのに、どういう事だ!」
 振り返った軍曹が、小銃を向けかけて躊躇する。伍長の美脚にまきつくように、キメラがズルズルと這い上がっていたのだ。
「くっ‥‥、その位置では撃つ事ができん! 仕方が無い、もう少し近づいて‥‥」
「軍曹、鼻息がかかる距離で乙女の柔肌を観察するのはセクハラに該当すると思われます! って何か噛まれた!?」
 太もも辺りにちくりとした痛みを感じて、伍長は思わずキメラを叩く。赤いフィールドが輝き、キメラはあっさりと地面に落ちた。砂浜に落ちたキメラは、そのまま蛇行しつつ海へと逃げ去ろうとする。
「ああ! 痕が残りそうな噛み方を!」
 敵よりも、部下の安否を気遣った軍曹は、彼女の美脚を凝視して蹴られた。
「‥‥許さんのであります!」
 蹴り倒した軍曹の小銃を奪って、伍長はトリガーを引く。フルオートの連射は、弱っちいキメラをあっという間に砂浜の真っ赤なシミに変えた。
「‥‥キ、キスマークみたいです。嫁入り前なのに」
 がくりと項垂れる伍長の肩に、軍曹が手を置く。
「安心しろ。貰い手がいなければ自分が貰ってやる」
「軍曹殿‥‥」
 伍長が視線を上げ、そのまま固まる。
「‥‥後ろを、御覧下さい」
「何? ってうおお!?」
 2人は、砂浜の随所から沸いて出たキメラの群れから、大慌てで逃げ出した。なお後日、UPCの聴取に対して、2人はこう語っている。
「あのキメラ食えんのかな? コリコリして旨そうだぞ」
「失礼ですが自分にも選択の自由があるべきだと思います。あ、貰い手の話でありますが」

----

「というわけで、お前達に依頼が来たわけだ」
 白衣を着た痩せた眼鏡の男がそう言った。キメラ分析課に所属するウォルト=マイヤーには、妙な生態のキメラ事件になると仕事が回ってくる、らしい。
「砂浜にいつの間にか住み着いたキメラは、決して強力ではない。むしろ弱い。‥‥が、数が多数な上に、浜に潜って隠れると言う習性まであるのだから、始末に終えん」
 面倒だから爆撃しろ、と言う意見もあったらしいが、さすがに乱暴に過ぎるという事で一先ずは差し止められた、のだとか。
「見た目は海蛇みたいな感じだが、実際は血を吸うヒルのようなタイプだな。吸った後に逃げようとした辺りが気になるんだが、これまでの事例からすると‥‥」
 マイヤーは顎に手を当てて言葉を選ぶ様子を見せた。
「海中に母体、‥‥いや、本体というべきか。そんな感じの奴がいる可能性が高い。そいつを見つけて叩けば、触手は死ぬんじゃないかと思う」
 砂浜に潜む敵を全て退治するよりも、そっちの方が多分楽だろう、と男は付け足す。付け足しながら、くたびれたシュノーケルとかを並べ始めた。これで潜れ、というのだろう。
「キメラ‥‥、ですか。頑張ります」
 頷く加奈を見て、マイヤーは満足げに頷いた。
「お前なら、確かにこの依頼には向いていそうだ。実は、問題のキメラにはもう1つ特徴があってな」
 体温か、匂いか、それともそれ以外の超感覚か。キメラは血を吸いやすい、即ち肌の露出が多い目標を察知する修正があるのだという。
「そして、肌の固い男性よりも女性。そして血の綺麗な若者を狙う傾向がある」
「え、それってつまり‥‥。若くて女性の能力者が水着とか着て向かう‥‥べき、なのでしょう、か?」
 自信なさそうに言う加奈。
「論理的に考えれば、そうなるな。安心しろ、報告のあった伍長のキスマークは、翌日には消えていたそうだ」
 嗚呼、能力者の危険な夏は始まったばかりである。

●参加者一覧

鋼 蒼志(ga0165
27歳・♂・GD
リアリア・ハーストン(ga4837
21歳・♀・ER
佐倉・咲江(gb1946
15歳・♀・DG
九条・護(gb2093
15歳・♀・HD
レイチェル・レッドレイ(gb2739
13歳・♀・DG
直江 夢理(gb3361
14歳・♀・HD
ファーリア・黒金(gb4059
16歳・♀・DG
榊 菫(gb4318
24歳・♀・FC
鬼灯 沙綾(gb6794
13歳・♀・DG
澄川 雫(gb7970
11歳・♀・DF

●リプレイ本文

●白と黒の世界
「また変なキメラ‥‥。まぁ、今回はネバネバとか白濁とかが無い分まだマシなのです」
 溜息を漏らして、スクール水着の上にリンドヴルムを装着する鬼灯 沙綾(gb6794)。すぐに、少女は『ぷろふぇっしょなる』としては私情は挟めないと気を取り直した。年齢不相応な胸とかが布一枚向こうで冷たい装甲に擦られる感触に眉を顰めつつ、彼女は周囲を見回す。
「でも、綺麗なお姉さんがいっぱいなのは素直に嬉しいのですっ」
 ああ、儚きかなプロ根性。
「今年初の海がこれですか。さしずめ世界は、白と黒に分けられる‥‥という感じですねぇ」
 鋼 蒼志(ga0165)は哲学的な思考にふけりながら、今回の同行者達を眺めていた。何か足りない気もしますが、水中用ドリルの販売予定は多分ありません。

「ええと、御揃いで本当に良かったのかな?」
「はい。ありがとうございます」
 首を傾げる加奈の隣で、直江 夢理(gb3361)が頬を染める。飾り気の無いチューブトップのセパレート、色は大人っぽい黒。覚醒した加奈と夢理の凹凸の少ない体系ゆえに、色とのアンバランスさが際立っていた。

「流石に夏だね〜日差しが眩しいね〜〜本能が解き放たれてるね〜〜〜」
 砂浜の照り返しに目を細める九条・護(gb2093)からは、弾力とか重力とかお約束の力などによって、何かが今すぐにでも解き放たれそうだった。豊満な身体を包むのは、涙滴型の白く小さな三角布地と、それを繋ぐ線のみなのだ。

「触手ヒル‥‥つまり絡みつかれ吸い付かれいやんらめぇなコトになるワケだね!」
 可愛い女の子も一杯で楽しみ、とか無邪気に呟くレイチェル・レッドレイ(gb2739)の視線は、真夏の太陽も裸足で逃げそうなほどギラギラしている。そこ、エロオヤジみたいとか言っちゃ駄目。年齢不相応な肢体を包むのは白のタンクトップビキニだ。護よりも布地は多目なのだが、その分薄い、らしい。

「うう、皆さん、胸大きいです」
 華やかな女性陣で最年長の榊 菫(gb4318)は、羽織っていたパーカーの胸元を押さえた。パレオを巻いたの黒ビキニ姿の彼女は十分魅力的なのだが、破壊力の点で若者に及ばないのは悲しい事実である。

 対照的に白のビキニに身を包んだリアリア・ハーストン(ga4837)は、海の家から拾ってきたパラソルと畳んだチェアを担いで、準備万端だ。若い子の薄かったり少なかったりする布地に溜息をつきつつ。
「‥‥お姉さんはどうにも付いていけないわ。あ、オイル塗ってくださる?」
「はい、いいですよ」
 日焼け止めをカバンから出していた加奈が頷く。彼女と塗り合う約束だったらしい夢理も、何やら手に戻ってきた。
「‥‥リップクリーム?」
「え? 塗るってこれの事ですよね?」
 その後、真相を聞かされた夢理が茹ったり。

「最近、レイチーと海にばっかり来てる気がするね‥‥? とりあえず、さっさと退治して海を楽しもう」
 ワンピース姿の佐倉・咲江(gb1946)が無造作に服を脱ぎだした時、白と黒の世界の調和は乱れた。彼女が纏っていたのは、上は白、下は青白の縞の、‥‥下着。
「わ、濡れると透けちゃいますよ?」
「‥‥がぅ!? た、確かに水着を着てきたはずなのに」
 流石に慌てた感じの咲江にタオルを渡しつつ、蒼志の方をチラ見する加奈。この場に男性は彼しかいないので、視線が少し気になるらしい。
「うー‥‥このまま参加するしかない」
 俯き加減になりつつも、胸の前で拳を握るビーストマンの少女。
「目一杯愉しんでイこうね、サキ」
 その肩を後ろから抱くようにして囁いたレイチェルの笑顔は,とてもとても楽しそうだった。

●にょろにょろフィーバー
 さて、眺めていても始まらない。露出の多い美女、美少女の一団は、意を決したようにギラギラと熱い日差しの中へ駆け出した。
「‥‥わ、出ました!?」
 砂浜に、ぽこぽこと盛り上がる畝。這い出てきたピンク色のキメラは、見た目の印象より幾分早い動きで首っぽい場所をもたげて、戸惑ったようにしばし止まった。それも仕方があるまい。この日の浜はパラダイスだったのだから。

 そして、そんな楽園にあえて背を向けた男がここにいた。
「さすがに傷つけられてる女性を見て目の保養‥‥というわけにはいかんのでな」
 沖へと向かった青年は、とりあえず周囲の様子を見てみる。が、海底には怪しい影は見当たらない。本体も地中にいるようだ。
「俺を狙ってくる奴がいなかったのは予想通りだが‥‥」
 蒼志が息継ぎに浮上する頃、海岸はとんでもない事になっていた。

「ひゃんっ♪」
 足首に吸い付いたキメラに、高い声を上げるレイチェル。足首でこれとは、どれだけ敏感なのか。血を吸ってほのかにピンク色になった触手が、咲江に引っ剥がされる。
「乙女の敵は排除‥‥です」
 下着にタオルの彼女より、キメラは露出過多なレイチェルを目指していた。横合いから、素早く止めを刺していく咲江を、金の瞳がジト目で眺めている。
「‥‥あ、危ない、サキ」
「が、がぅ!?」
 棒読み。そして突き飛ばされた咲江の細い肢体はうねうねの只中へ。そして、危地に堕と‥‥、もとい落ちた友人を救うべく、レイチェルもその只中へと飛び込んだ。
「!? そんなたくさんにいっぺんに攻められたら‥‥っ」
 自分に向かってくるキメラが少ないリアリアが、その様子に息を呑む。比較的前衛のレイチェル達だけではなく、後ろに控えていた面々の足元からもキメラが沸いて出た。
「ああっ、前からじゃなく後ろも狙うなんて」
 リアリア先生の実況が真っ先にてらりんに引っかかりそうなのはこの際置いておこう。

「本当に数だけは多いな。面倒くさいが‥‥」
 そんな様子を横目に、よってくる触手を刻んでいく菫。
「あ、危ないですっ」
 全身を装甲に包んだ沙綾に向かう敵は皆無で、その分フォローへ回っている。
「‥‥翌日には消えるなら、そんなに気にする必要ないんじゃないですか‥‥?」
 そんな風に気軽に考えていた澄川 雫(gb7970)だが、現実は厳しい。その晩に眠れなくなる位に刺激的な任務になろうとは、若く純粋な彼女に想像できる筈も無く。
「きゃん? くぅ、んんんっ、あん♪」
 汚らわしいキメラが、真面目に働く雫、‥‥の隣の護の官能を呼び覚ましていく。頭のアホ毛は、今はどうやら感度を示しているらしくアンテナ2本の状態だった。容赦なく聞こえてくる声は、雫の頬を染めさせるに十分で。
「はひっ、ひゃん? ふぁぁ‥‥ら、らめぇぇぇぇぇ」
 布地の上から絡みついたキメラが、血を吸えなかった事に苛立ってきつく張り付いた。アホ毛が3本ともピンと立つ。一際大きく護が声をあげた瞬間、雫がイアリスで貫いた。
「‥‥し、仕事してください」
 余韻に浸っちゃってる年上の娘へ、雫は羽織った浴衣の前をきゅっと合わせて怒ったように呟く。
「あ、いや。実験だよ? 実験」
 触手キメラの攻撃パターンとか、行動を確認する為にあえて攻撃を受けていた、と力説する護。うん、まぁ物は言いようだよね。

●フィーバー続行中
 一方、遊ぶ気100%のレイチェルは、にょろにょろに楽しく責められていた。むしろ、物足りないとばかりにその辺のを摘んで、身体の上を這わせたりしている。自分ばかりではなく、時々咲江にも。ついでに色々とけしからん所を触ったり揉んだり擦り付けたりしているようだった。
「‥‥っ、ふぁ‥‥♪ そこ‥‥イイ‥‥♪」
 出来上がってる友人におもちゃにされている自覚があるのかどうか。狼というか犬っぽい咲江は、従順に後始末に奔走している。2人の周囲には、若い蕾に惹かれた毒虫が屍の山を築いていた。
「ん、レイチー今取るから待って。‥‥あ‥」
 ぷち、と何かが弾けるような音と共に、細いチューブが切れる。薄めの布地はあっさりと屈服し、育ちすぎた果実を晴天の下にさらけ出した。
「ふふ、サキにもお返し、しなくちゃね‥‥♪」
「じ、事故‥‥です」
 にじり寄る小悪魔に理屈は通じない。
「もっともっと、良くしてあげるね♪」
 片手にキメラを引っつかんだレイチェルが、咲江の細い身体を引き寄せた。

「私達が優先順位MAXかと思いましたが‥‥」
 夢理と加奈の下へ這って来るキメラは、実はさほど多くない。ターゲットが分散しすぎているのだ。絡まれまくっている娘がいるのは、自業自得か事故である。
「この調子なら‥‥」
 加奈がほっと息をつきかけた瞬間。
「加奈様、危ないっ!」
 足元のキメラから救うべく、夢理が彼女を思いっきり突き飛ばした。
「え、えええ!?」
 転んだ先の方が多数のキメラがいるのも、お約束。‥‥これは事故の範疇なのか微妙である。
「加奈様の初めては、絶対あげません!!」
 足に絡みつく触手を蹴り飛ばして、加奈を庇う様に押し倒す夢理。勢いあまって、唇が何処かに触れた。
「え、あの。今‥‥」
 口元を押えて、目を丸くする加奈。しかし、状況は思考の整理など許しはしない。
「わ、夢理ちゃん、離し‥‥っ!?」
 もぞもぞ。今度は肩口から来たキメラが背中の辺りに回りこむ。抵抗しようにも、眼を閉じてしがみつく夢理がそれを許さない。
「ぁ、ぁぅ‥‥」
 ちくっとさすような刺激の後、じんわりと広がる痺れ。血を吸って赤みがかったキメラは、にょろにょろと沖を目指して這いだした。そう、忘れられてるかもしれないが、触手を一匹くらいは生還させないと本体の場所がわからなかったりするのだ。

●お客さん、打ち止めです
「結構目立つわね、あれ‥‥」
 係員のいない貸しボート屋からは拝借した船で、海を行くにょろにょろを追うリアリア。少し沖に出た辺りで、海面近くを泳いでいたそれは急に海中深くへと潜りだす。
「キメラの本体は、この下よ。引導を渡してあげて?」
「‥‥そこか!」
 手を振るリアリアを、鋭い目で見る蒼志。そして、海岸でそれに気づいた沙綾も波打ち際へ駆け出してから、慌ててとまった。AU−KVのまま海中に入れば、後が大変だ。
「覚悟を決めるのです、頑張れボク。‥‥キャスト・オフっ!」
 がしゃっと脱ぎ捨てた鋼の鎧の中から、小柄ながら年の割りに豊満なボディが現れる。予想外の伏兵に、一部の触手が向きを変えかける。
「っと、お前の相手はボクだ! なんちゃって」
 実験をたっぷり堪能した護が、仕込みビーチパラソルとアロンダイトの二刀流で触手を攻め立てる。まだ頬の赤い雫は、護の様子をチラチラと横目で伺いながらククリナイフを縦横に振るっていた。
「髪、濡れたくない‥‥です、し」
 でも、何故か火照った身体に海水が気持ちよかったり。
「この下種が、このあたしにまとわり着くんじゃないよ? そんなに死に急ぎたいなら、引導渡してやるよ」
 年下の少女達のどこかを見てしまった菫は、普段より荒れていた。スレンダーな彼女の心の平穏を保っていたのは、揺れる部分の無い雫の存在かもしれない。もっとも、年齢が半分以下の雫の胸には、大人の菫が失ってしまった夢と可能性が秘められているのだが。
「い、行きます」
 仲間達の援護を受け、ざぶんと飛び込んだ沙綾。陸では統制の乱れた触手が、次々と蹴散らされていく。
「あん、駄目ぇ。もっと、頑張って♪」
「ぁ、がぅ‥‥、んっ」
 一方、やはり動きの乱れた別方面の触手は、無理やり元の流れに引き戻されていた。

(でかいな、化物め)
 蒼志は、海底から姿を現したキメラのサイズに驚いていた。磯巾着と一言にいうが、胴体部がふた抱え位それはもはや別物だ。海上に待機したリアリアから強化を受け、準備を整える。
(‥‥ここは、俺が先に)
 沙綾へハンドサインで意思を示してから、一気に突きかかった。
(この、変態がっ!)
 本体も性向は同じなのか、触手がいっせいに沙綾へ伸びるのが見える。数本を切り飛ばしたが、残る多数が幼い身体に絡みついた。
(‥‥っ!?)
 足をばたつかせればすぐに離れるようだが、数が多すぎる。
(これ以上、好きにはさせん‥‥!)
 水の抵抗に思い通りにならぬ腕へと力を込めて、蒼志はアロンダイトを突き刺した。青っぽい汁と、鮮やかな赤が海水に混じる。もう一突き、更に斬り付け、抉った。触手を振りほどいた沙綾も、海底近くまで潜って下側から得物を一閃させる。蠢いていた触手が、不意に動きを止めた。

●過ぎ行く夏とにょろにょろの日
 もはや触手が動かなくなった事にも気づかず嬌声を上げるレイチェルと、捕食される咲江。責められつつもレイチェルの水着の紐を結び直している辺りは、責任感があるのか意外と余裕があるのか。大人の都合の体現者として報告官に体よく利用されただけとかいう指摘をする奴は、この世界じゃ長生きできないぜ。
「食用には‥‥したくありませんね」
 とるものもとりあえず服を着込んだ雫が、砂浜に転々と転がる触手を横目に溜息をついた。
「私、加奈様の初めてを守れたのですね‥‥ぽっ」
 夢理的には、加奈のファーストキスを、事故とはいえキメラより先に自分が奪ったので守れた、事になっているらしい。
「‥‥ええと。よく判らないけど、守ってくれてありがとう」
 頬を染める夢理の頭を、加奈はそっと撫でる。覚醒を解いて本来の外見年齢に戻った加奈だが、悲しい事に胸周りは大差ないようだ。
「ん、可愛いですよ。海に来た甲斐があるというものです」
 当たり障りのない褒め言葉を口にする蒼志は、そんな加奈のスタイルを見るにつけ、スクール水着が手に入らなかった事を悔やんでいた。健全な成年男子のその辺りを司る脳は、少女達に犠牲を出してしまった事を悔いる真面目な部分とは別に存在するのだ。‥‥多分。
「ファーストキスもまだなのに、体中キスマークを付けられるなんて悲し過ぎますよぅ」
 スクール水着の沙綾は、本体との交戦で絡まれた下半身を気にしているようで、水際から上がってこない。
「傷の消毒とかは、私がしましょうか」
 等と言いつつ救急箱を開ける船上のリアリアは、不穏な笑みを浮かべていた。
「‥‥ぁぅ」
 年上のお姉さんに手招きされ、もじもじする沙綾。
「キメラに付けられたキスマークの、何が恥ずかしいのでしょう?」
 頭が冷えたらしい雫が、不思議そうに首を傾げた。
「その辺の恥じらいは、ボクが実地で教えてあげちゃおっかな?」
 ぐったりした様子の咲江を背景に、手をわきわきさせたレイチェルが無垢な少女に迫り。
「はい、ちょっと頭冷やしておこうねー」
 蒼志に水鉄砲で冷水をかけられていた。そんな様子を、いつの間にか用意した浮き輪に身体を預け、ぷかぷか浮かんだ菫が眺めている。
「はぁ、平和ですねぇ‥‥」
 だが、そんな平和も長くは続かない。
「お姉さん、噛まれた所とか無い? ボクが消毒してあげるよ」
 ビーチボールを抱えた護が、年上の女性の平穏をぶち壊そうとバタ足で近づいていた。そして、岸では。
「‥‥自分の事、ボクって言うようにしたら、大きくなるのかな」
 加奈が、間違った真理に開眼しかかっていた。