タイトル:【AS】海賊の逆襲マスター:紀藤トキ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/12/08 01:21

●オープニング本文


 ラストホープの西方、海中を灰色の巨体が航行していた。「グレイハンマーヘッド」のコードでUPCにも知られている戦闘用のビッグフィッシュだ。灰色のカラーリングと、左右に張り出した艦首構造物が名前の由来だろう。この艦は、つい先ごろラストホープ近郊へ強襲をかけ、迎撃に出た傭兵主体の部隊との交戦から退却してきた所だった。

『なんだ、戻ってきたのか』
 画面の向こう側、エビのような異星人は髭をフラフラと揺らしている。以前と違うのは、その半身が黒ずんでいる事だろうか。良く見れば、半分壁面と同化している。
「そういうお前さんは酷い面だな。機械融合か?」
 ラストホープへの強襲を企てた彼らは、陽動と攻撃に分担を分けて作戦を行った。陽動に回ったエビバグアの部隊は髭面のバグアがラストホープへ近接できる隙を作るだけの成果を上げはしたが、代償は支払わざるを得なかったようだ。
『そうだ。人間は予想通りに手ごわかった。それより、君はリリアに殉じると言っていたから段取りを組んだのだが、また会えるとは驚きだ』
「あー、気が変わった。すまんな」
『そうか。ならば仕方が無い』
 答えるエビの声に怒りの様な気配は無かった。男の部隊も、先の傭兵との戦いで大きな損害を受けている。中でも、カスタムゴーレムのうち二機は、艦の設備では修復が不可能な被害を受けていた。修復を行うにはフロリダの工廠に回る必要がある。量産型のゴーレムならその辺りの自動工場から出てくるものがあるのだが、髭の男の部下の操縦について来れるようなものではない。
『そのルートは補給か。という事はまだやる気か』
「ったりめぇだろうが」
 半減、までは行かずとも3割は減った戦力を気にした様子もなく、男はうそぶく。いつまで戦うのか、と問われれば死ぬまでと答えるタイプのバグアは、少なくはない。一見冷静そうに見えるエビバグアも、根の部分は同様なのだろう。
『ならば合流するのが良い。私の艦は沈み掛けだが、囮に程度はなるだろう』
「おお、そりゃありがてぇ‥‥が、お前はどうするんだよ。部下も、つき合わせるつもりか?」
 艦と同化したエビは、しばらくは分離できない。機械融合の代償は限界突破ほどではないが、重いものだった。ましてや、この場合は沈みかけの艦との融合だ。
『部下はもう残っていない。それに、こんな屈辱的な姿も晒したのだ。もとより最終的な生還は考えていないさ。遅いか早いかの違いだよ。君もそう考えているのだろう?』
「‥‥フン」
 髭面の男は床へと唾を吐く。艦内清掃用の小型キメラが、かさかさと床を這ってきた。


 揚陸艦カシハラは、先の戦いで艦載KV隊の指揮官である篠畑が重傷を負い、サラ曹長が代行していた。
「隊長はまだ戻られない、か」
「だいぶ酷い怪我だったしネ。奥さんに看病されてるんじゃない? ニシシ」
 書割を読み上げるかのように笑うボブを、サラはじろりと睨む。その時、艦内に警報が鳴った。哨戒機が敵艦を発見したのだという。
「西方15km地点にバグア艦の反応があった。‥‥敵艦は二隻。繰り返す、敵艦は二隻だ」

『今の戦力で戦うとは、君も物好きだ。付き合わせられる部下が憐れだな』
「知るか。部下どもも納得してるし」
 ゴーレムのコクピットからは、三者三様の笑い声が返る。艦内からも、不満の声は上がっていなかった。
「キメラ覚醒作業終了。放出はいつでも可能」
「左舷プロトン砲、準備良し。ミサイルはどうだ」
「問題ない」
 死地へ向かうに意気軒昂、という形容が似あうのは何故だろうか。あるいは、艦長の思いが伝染していたのかもしれない。死を望むというような単純な物ではない、しかし。
「この間は見逃したんだ。満足させてくれなきゃ、今度はやっちまうぞォ。クク‥‥」
 本星型ヘルメットワームに乗り込みながら、男は笑う。次こそ、イェスペリが見ていた戦場が見えることを期待して。

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
セシリア・D・篠畑(ga0475
20歳・♀・ER
鯨井昼寝(ga0488
23歳・♀・PN
ケイ・リヒャルト(ga0598
20歳・♀・JG
シャロン・エイヴァリー(ga1843
23歳・♀・AA
櫻小路・なでしこ(ga3607
18歳・♀・SN
美海(ga7630
13歳・♀・HD
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
マグローン(gb3046
32歳・♂・BM
天原大地(gb5927
24歳・♂・AA
イーリス・立花(gb6709
23歳・♀・GD
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA

●リプレイ本文


『クハハ‥‥、こっちの手が読まれやがったか』
 水中を彩る赤い炎と鉛色の弾丸の中、髭面のバグアは笑った。
『前にいたキメラがだいぶ減った。盾に使うまでも無く』
 ゴーレムのパイロットからの報告に対して、後ろのを回せと艦から指示が飛ぶ。が、キメラの足では数百mもの艦の前方に回りなおすのにも一苦労だ。おそらくは、再配置する頃には勝負はついているだろう。

「‥‥前面のキメラ、半減しました。敵艦まで距離40。反撃、来ます」
 セシリア・D・篠畑(ga0475)が淡々と言う。ミサイルの照準は相変わらず異常なまでに正確だが、備えていれば不覚は取らない。
「さて‥‥。準備も終わりましたし、始めますわね」
 位置は仲間から離れたやや南方。ソナーブイを切り離したミリハナク(gc4008)が舌なめずりすらしそうな様子で囁いた。発射した大型魚雷の目標は、他の仲間と異なりグレイハンマーヘッドだ。雷撃を阻止するべく配された生きた壁は、もういない。
『‥‥迎撃。射撃開始』
 弾幕が張られ、幾許かは途上で爆発する。その網を潜り抜けた魚雷は、灰色の艦体を揺らした。
「では‥‥こちらも、行きましょうか」
 キメラ相手に砲戦を挑む仲間の中から、するりと抜け出すマグローン(gb3046)。
『‥‥くっ。プロトン砲撃て!』
「なんの、これしき‥‥貴方を討つには多少の犠牲は覚悟の上です」
 着弾の衝撃に揺れる機内で、マグローンは微笑する。目標を捕らえるまでのダメージは覚悟の上、と。鈍重な灰色の巨体は突進中に回避しようとはしなかった。
「アンカー」
 ズン、と鈍い音を立ててテイルアンカーを艦首に突き立てる。しかし、固定した筈の機体は直後に引き剥がされた。
『無謀な奴もいたものだ』
 エビ型ビッグフィッシュの巨大なアームがリヴァイアサンを払い落としたのだ。が、そのままつかみ掛かろうとした所へ、射撃に加わった分だけ遅れた美海(ga7630)が突貫してくる。
「負けてからこそが、シスターズの本領発揮なのであります。敗戦をバネに成長した美海達に驚くが良いのです」
「‥‥と、言うわけだ。少々私怨かもしれないが、取り逃がした敵をそのままにしておくのは業腹だしな」
 同じく、間を詰めた榊 兵衛(ga0388)がぐるりと旋回、側面を取ろうとする。小回りは利くエビだが、操っている意思は一体。牽制を浴びせれば注意が分散した。

「あれがグレイハンマーヘッドか。受けに回っても対応が早い。厄介だね」
 ため息をついた赤崎羽矢子(gb2140)の進路に、ゴーレムが割り込む。
「おまけに、直衛も目が良いと来た」
 仲間の魚雷の爆発に紛れて潜航しようとした彼女だったが、その動きは見通されていた。おそらくは、母艦の突起による空間把握だろう。目論見を阻止した敵機の動きは、やや鈍い。
「なら強行突破と行こうか。なでしこ、頼むよ」
「はい。お任せください」
 櫻小路・なでしこ(ga3607)のリヴァイアサン『青騎士』がガウスガンを放つ。そちらに盾を向けた一瞬に、羽矢子が切り込んだ。即座に変形、レーザークローを盾に叩きつけて固定し、返すソードフィンで胴部に蹴り付ける。
『ぬお‥‥ハハ!』
 ズン、と鈍い響きが伝わり、ゴーレムは爆散した。
「やはり手負い‥‥のようですね」
 先に戦ったよりも、反応が遅かったとなでしこは思う。その理由は、既に受けていた損害のみ、というわけではなかった。


『くそ、また取り付かれているぞ』
「今度は、最初からあなただけを食べる為に参りました故、今しばらくお付き合い願いますよ」
 エビを美海と兵衛に任せて、マグローンが再び艦に取り付いていた。水中練剣「大蛇」の一撃で右の突起が火を噴き、反撃の火砲が位置を固定した彼に集中する。その隙に、
『く、もう一機、接近中!』
 敵艦の中で叫び声が響くと同時に、マグローンの機内に煩く響いていた警告音が消失する。初手からの無理がたたり、マグローンの機体はボロボロだった。射出されたコクピットから、突っ込む鯨井昼寝(ga0488)機『モービー・ディック』を見送る。
「フジツボも付けば完璧ですが、流石にKVにそれは無茶というものですよね‥‥」
 どこかうっとりとした呟きは彼女の耳に入ったかどうか。
「‥‥潰す」
 短く、そう言い放った昼寝の水中練剣「大蛇」が、左側の突起の基部に刺さり、切り裂いた。

『‥‥チッ、あいつら今回は無視かよ。つれねぇな、おい!』
 本星型の髭男が、苦戦する母艦を見て舌打ちする。前回は自分に向かってきた為にアタッカーを封殺できたが、今回はそうもいかない。
「ボロが相手で悪ィね。勘弁してくれよ、大将」
 天原大地(gb5927)の水中用ガトリングが装甲を舐めた。
「小隊長のリベンジの邪魔は、させないわよ」
 交差位置からは、シャロン・エイヴァリー(ga1843)が射撃してくる。フィールドを張らずに耐え、本星型を横滑りさせるバグア。
『‥‥チッ』
 もう一度舌打ち。寸刻前までは確かにいた手駒が、辿り着いた時には死んでいた。
「キメラを盾にしようとしたのでしょうが、そうは行きませんよ」
 ブラストシザースでキメラを片付けたイーリス・立花(gb6709)が言う。
『クソ。こんな奴がいやがったとはな。この間は手を抜いてやがったのか?』
 こっちにも事情があってな、と苦笑する大地へ、本星型から反撃のプロトン砲が飛んだ。
「全速で行くぞ、コラァ!」
『避ける気がねぇのか、こいつは? ‥‥ハハ!』
 大地は、その砲撃を受けつつもそのまま前進。そのルートを予測したハンマーヘッドの主砲が、側面から大地機『紅蓮天』を狙い撃つ。
「砲撃、行くわよ大地!」
 ケイ・リヒャルト(ga0598)の鋭い声が飛ぶも、『紅蓮天』は先のマグローン同様に進路を曲げない。違ったのは、彼が単独でない事だった。
「それも、させません」
 盾を構えて割って入ったイーリスが真紅の光線を阻んだ。行き過ぎざまに大地のソードフィンが本星型の装甲を叩く。
『ええい』
 たまらず、赤いフィールドがバグア機を覆った。
(海戦だと格闘でケリを付けたくなる心情は、読まれてるわね‥‥!)
 シャロンは考える。決定力のある格闘攻撃に持ち込まなければフィールドすら張らない本星型の、次に取る手は。
「距離を開けようとする、でしょ? ビンゴ!」
 大地から距離を取ろうと動きかけた本星型の側面に、シャロンのガウスガンがヒット。赤い閃光と共に本星型のエネルギーを削り取っていく。
『チッ、一機見落としていたか‥‥!』
 三度目の舌打ち。序盤の強攻で母艦の管制支援を失った代償は、こんな場所にも出ていた。


 執拗に喰らいつく『紅蓮天』を機体そのものの頑丈さと特有のフィールドでしのぐ。本星型はヒットアンドアウェイを止めて正面からの打ち合いに転じていた。最も手ごわい機体をまず倒そうというのだ。この局面の打開策としては悪手とはいえない、が。
『なんてェ頑丈さだよ、ったく』
「生憎と――往生際は悪いほうでなァ!!」
 髭面のバグアの計算違いは、『紅蓮天』、そしてイーリス機『Randgriz Nacht』の硬さだった。これが他の機体であったら、既に撃破されていただろう。あるいは、イーリスがカバーに徹していなければ、大地機を先に片付けるという目論見も適ったかもしれない。
『クハハ。そうだ。これだよ』
 髭面が楽しげに笑った。笑う間も正面の大地と打ち合い、カバーに入るイーリスもろとも撃つ。側面に回ったシャロンへの反撃はない。というよりもそちらに手出しする余裕が無い。絶対的な防御力を持つ赤いフィールドを併用し、距離をとっての回避を織り交ぜつつ悠々と時間を稼いでいた先の交戦とは状況が違っていた。
「‥‥こっちの攻撃が効いてない訳じゃないみたい、だけど」
 さすがに手が回らないのだろう。彼女は、グレイハンマーヘッドが本星型の背後になるような位置取りを心がける。エミタによりフォースフィールドを打ち破る方法の都合上、両方に有効な攻撃はしかけられないのだが、
「次はあっちを狙おうかな」
 どちらにダメージを与える攻撃を放つのかの選択肢はシャロンの側にある。母艦を庇うなら、本星型は彼女の攻撃を受け止めざるを得ない。
「うふふ、工夫は弱者の義務ですわ」
 別方向からボディブローのように雷撃を続けるミリハナクが楽しげに笑う。灰色の巨体に撃ちこむだけなら意識を向けてしっかり狙うまでもなく、浮いた分の余力を彼女は別の部分に使っていた。
「南南西から、キメラの集団が2つ。北側はしばらく寄ってきていませんわ」
 ソナーを用いた広域監視と、情報の提供がそれだ。
「左舷側のミサイル、発射体勢よ。気をつけて」
 母艦の砲撃状態を監視しているケイからの情報も加わり、その恩恵は2対2となったなでしこ、羽矢子組へ届いている。
「こっちの担当の2機、差はあるかい?」
「ええ、遅れている方が少し動きが鈍いようですわね」
 了解、と返して羽矢子は正面の敵ではなくその後ろへと射撃を送った。やや分かれた位置から、なでしこの『蒼騎士』もガウスガンを重ねる。


 初手で大きな打撃を与えた昼寝は、機体をやや下げて射撃戦を挑んでいた。バグアにしてみれば、いつ切り込んでくるか判らない、抜き身を目にして居るようなものだ。
『あっちの機体を近づけるな。主砲、よく狙え』
 避けて、避けて、追い込まれた所へ放たれた一撃が当たる。昼寝は動じない。
「3射撃たせたか。まずまず、ってところね」
 ハンマーヘッドからの砲撃は当たれば脅威だが、当たらなければどうという事はない。距離の防壁は敵にも味方にも等しく恩恵を与えている。が、元の回避能力の差から結果はKV側にとって一方的に有利だった。
「こちらにも、目を向けて下さらないと寂しいですわ」
 側面からは、ミリハナクが付かず離れずの攻撃を繰り返している。昼寝が注意を惹いているとはいえ、彼女の方を疎かにしているわけではない。横腹から水中用ミサイルが射出された。その一部は、ゴーレムと交戦中の羽矢子、なでしこを目標としている。
『ミサイル、第三波斉射。‥‥着弾、今。半数は回避された』
 煙の漂う艦内で、淡々と報告するバグアの声。ハンマーヘッドのミサイルは未だ健在だったが、艦首の装置を二基とも破壊した状況では、有る程度の回避能力を持つKVなら回避はできる。
『後備のキメラはどうした!?』
 副長格のバグアが呻く様に言う。

「‥‥次の爆撃はポイント3H。よろしく!」
 2対1で優勢にゴーレムを追い込む合間、ミリハナクの連絡を受けた羽矢子が優先順位をつけ、上空の2機へ連絡した。
「オーライ。これで最後、ネ!」
 要請を受けたボブのシラヌイが爆雷を投下。水面に水柱が立った。
「‥‥」
 無言のまま様子を見ていたセシリア機『アズィル』が、爆撃の混乱から一瞬早く立ち直った個体を判別、狙撃していく。スナイパーは一機ではない。
「次はどれ? セシリア」
 彼女の指示を受けたケイ機『リファルジェンス』も、着実にキメラ集団の『頭』を奪っていた。
「キメラ、全体の40%を撃破。前面にいた集団は、ほぼ駆逐しました。」
 セシリアの声が回線を渡る。


 バグア側の反撃も、熾烈だ。
「‥‥そろそろ機体ダメージが8割に達するのであります。美海は次が仕掛け時と考えるのであります」
 回避能力が低い彼女のパピルサグ『超獣巨蟹猛進撃滅騎士団』は、目の前のエビの鋏だけではなく、精度の落ちたミサイル攻撃もすべて喰らい続けていた。
「‥‥そろそろ、こっちの動きに慣れてきたか」
 答える兵衛は、数度目の一撃離脱を仕掛けた後の反転を行う。美海が正面からエビとやり合っている事もあり、目だった損傷は無い。
「よし。‥‥行くぞ、『興覇』」
 愛機にそう声を掛けて、またもエビに側面から切り込んだ。エビは、撃破寸前の美海を追い込むのに専念している、かに見えた。
『ふむ』
 射撃し、そのまま離脱していた先までと違い、変形して切りつけた『興覇』の一撃は、エビの横腹に深く刺さる。
『なるほど、何かあると思ったが‥‥。重い牙を隠していたか』
 無感動に言う、エビバグア。先の戦いにおいても射撃戦を行っていた兵衛の白兵攻撃は、意表はついていた筈だ。あるいは、驚きという感情が無いだけかもしれない。
「‥‥し、しつこいのであります!」
 爆発を起こしたエビが、そのまま鋏を振り下ろす。限界近かった美海機『超獣(略)』がついに大破した。
『これで、善し』
 ぐるりと艦体を回した正面から『興覇』がベヒモスを叩きつけた。構わずに鋏を振り回そうとしたが、その側面に爆発が生じる。
「援護に入ります」
 なでしこが凛と声を響かせた。羽矢子のアルバトロス改が、先に兵衛がつけた横腹の傷へレーザークローを叩きつける。血のように何かを吹き出しながら、エビは震えた。
「終わりだ。雪辱を果たさせてもらおう」
 『興覇』の振り下ろした斧が、艦首部分へ深く食い込む。


 昼寝、ミリハナクと時折シャロンに攻撃を受けつつも、周囲全域へ砲撃を続けていたハンマーヘッド。艦自体の頑丈さもあり、また初手の艦首破壊以後は腰を入れた攻撃が無い事もあり、更にはダメージコントロールが優秀であるのも理由なのだろう。いまだ、行動に支障が出るようなダメージは受けていないようだが。
『ゴーレム隊全滅。僚艦も沈みました。次はこちらに来るでしょう』
 淡々と言う砲撃手のバグア。キメラも組織立った動きは取れそうも無い。脱出するという選択は最初から誰も口にしなかった。
『ハハハ、先に逝ってろ。すぐに合流する』
 とうとうフィールドを張り切れなくなった本星型は、いまだ大地とイーリスに決定打を与えられずにいる。個体としていえば、バグアがやや勝っていただろうが、母艦という『目』を失った状況では、3対1という数の差がダイレクトに響いていた。

 それほど長くない時の後で、まずハンマーヘッドが爆沈する。本星型が撃破されたのは、そのすぐ後だった。満足したか? と胸中で問う大地に、戦いの中でも饒舌だったバグアは言葉を返さない。
「‥‥」
 昼寝もまた、言葉を投げずにただ視線だけを、敵だったものに向ける。
「楽しんでいただければ幸いですわ。私は楽しめましたもの」
 同じく、沈み行く灰色の巨体を見送ったミリハナクが微笑した。


 ――数日後、ラストホープ。ULTの付属施設にいた篠畑は、なでしこに依頼の報告を受けていた。特に具合が悪いという訳ではなく、事後検査と共に宇宙適性も確認されたりしていたせいで戻りが遅れたらしい。
「‥‥やれやれ、肝心な時に動けずに任せる事になるとは、情けない」
 聞けば、若妻のセシリアとその親友のケイも参加していたという。被撃墜者も出た激戦に、何も出来なかったのが歯痒いようだ。
「教えてくれてありがとう。感謝する」
 最後まで聞いて頭を下げた篠畑に、なでしこは微笑んで頷いた。