タイトル:【HD】北に集う翼マスター:紀藤トキ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/30 21:53

●オープニング本文


 千歳基地の篠畑隊にあてがわれた一室。まだ殺風景な室内に、3人の新しく配属された部下が揃っていた。彼らの救出劇からしばしの時が経ったが、篠畑が急遽LHに戻った為、前回は顔合わせ程度の事しかできていない。実質、今日が隊長としての初任務だった。
「あー、楽にしてくれ」
 こんな台詞を自分が言うようになるとはな、と内心で思いながら篠畑は形式的にそう告げる。形式的に、というのは3人のうち1名は既に楽にしていたからだ。
「俺はロバート・サミュエルソン。ボブって呼んでくれヨ、ボス」
 HAHAHA、と笑いながら握手を求めてくる大柄な黒人は、微妙にイントネーションこそ違うが綺麗な日本語を話す。
「ああ、よろしくな、ボブ。しっかし日本語、上手だなぁ」
「俺は日本研究したからネ。日本では黒人、ガムをいつも噛んでいつも陽気。それから歌も歌う、デショ? 俺、頑張りマース」
 会話には問題がないが、何か微妙な勘違いがあるようだった。自機のハヤブサにも『七生報国』とかペイントが入れてある辺り、かなり重症だ。
「‥‥榊原資郎、です」
 3人の中で最年少の少年は、おどおどと口を開く。ごく普通の家庭の高校生だったのが、適正があったばかりに戦場へ出る事になったのだとか。傭兵にならずに正規軍に在籍する事になったのは、父親のコネによるものだと言う。戦いに送り出すのが避けられないならば、せめて安全な場所を‥‥、という親の愛情なのだろうか。配備された機体も、後方につくことが多い岩龍だった。
「軍は、辛くないか?」
「‥‥辛い、です。でも、頑張らないと」
 能力は、エミタが与えてくれるとしても、心構えまではそうはいかない。青白い顔でそういう少年に、篠畑も頷き返す以上のことは出来なかった。そして、真ん中に立つ最後の1人。
「サラ・マシューズ曹長であります。篠畑隊長」
「ああ、よろしくな」
 資郎少年の1つ上で19歳。年齢こそ若いが、きびきびとした所作だった。米陸軍の出身だと言う。これはまともか、と安心しかけたのも一瞬。
「失礼します。先任下士官としての務めを怠っておりました」
 くるりと横を向いた少女の足が宙を舞った。ぶげっ!? と妙な声をあげたボブの首が横を向く。噛みかけのガムが床に落ちた。
「上官殿の訓示中にガムなど噛むな」
 それから逆側に向いたサラは、猫背気味の資郎の姿勢を手際よく修正していく。口汚い罵りこそないが、直前のデモンストレーションを目の当たりにした資郎は、同年輩の少女に為すがままだった。
「‥‥オーウ、白、ね」
 蹴られた当人は余り応えていない様だが。
「では、隊長。訓示の続きをお願いいたします」
 折り目正しく立つ少女と、泣きそうな少年と、陽気な大男の視線が篠畑に向く。
「あー、うん。訓練は明日からだ。今日は‥‥」
 懇親を深めよう、と思っていたのだが、この面々で何をしたらいいのか、篠畑には想像もつかなかった。
「これで解散、だ」
 淡々とした敬礼と、ホッとした様な顔と、大仰な和風のお辞儀。3人が部屋から退出した後、篠畑は大きくため息をついた。
「こ、これは‥‥困った。困ったときは‥‥」
 腕を組み、天井を見上げる篠畑。


 数時間後。
「‥‥と、言うわけだ。知恵を貸してくれるとありがたい」
 篠畑は、困ったときの傭兵頼みを実行していた。なにせ、空を飛ぶ以外はとことん不器用な男である。唯一のとりえは、それを自覚している事くらいだろう。
「ボブ‥‥、ロバート軍曹とサラ曹長はまぁ、顔をあわせると喧嘩だ。いや、曹長が一方的に攻撃してるだけなんだがな」
 黒人軍曹は、非常にマイペースで、規律第一のサラとは合わないのだろう。
「資郎は、なかなか喋ってくれない。自分の事も、それに俺たちをどう思ってるのかも」
 まがりなりにも交渉のある2人より、こっちの方が大変かもしれない、と篠畑はため息をついた。
「‥‥空では、お互いしか頼れる相手はいない。その事を実戦で知るのはまずいんだ」
 知った時には、既に遅い。戦いの場とはそう言うものだ。
「その前に、お互いに敬意を‥‥、は無理でも、せめて認め合うくらいにはなって欲しいんだよな」
 ただ、その為の方法が思いつかない、と篠畑は言う。
「変な頼みばかりで悪いんだが、明後日の出撃までに何とか状態を好転させたい」
 力と知恵を貸してくれ、と篠畑は頭を下げた。

●参加者一覧

幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
国谷 真彼(ga2331
34歳・♂・ST
伊藤 毅(ga2610
33歳・♂・JG
蓮沼千影(ga4090
28歳・♂・FT
南部 祐希(ga4390
28歳・♀・SF
リゼット・ランドルフ(ga5171
19歳・♀・FT
柊 理(ga8731
17歳・♂・GD
神撫(gb0167
27歳・♂・AA

●リプレイ本文

●First impression
「戦場は千歳の上空、状況はケース3です」
 オペレート役の神撫(gb0167)の声がシミュレーター内の面々へ届く。状況設定はバグア襲来へのスクランブル。防衛側は篠畑の部下3名で、攻撃側を演じるのは傭兵達だった。篠畑自身は参加せずだ。シミュレーターは彼の無茶機動を再現できないので嫌なのだとか。
「柊です、よろしくお願いしますね」
 柊 理(ga8731)の挨拶に応じる余裕は、篠畑の部下達には無い。KVでの飛行経験がまだ数度の理にしてみれば、その状況は少し前の自分を見ているようなものだ。
「悪くはない、けど‥‥」
 典型的な新兵だ、と伊藤 毅(ga2610)は思う。数度の訓練を経れば、そこそこ戦えるようにはなるだろう。が、篠畑の頼みに応じてわざわざ千歳まで出向いてきた彼は『そこそこ』で教練を終えるつもりは毛頭ない。
「すばやく動く、戦闘機乗りは拙速が重要だよ」
 彼らが自機位置の確認を終えた辺りで、毅は一気につっかける。S−01の理とエレメントを組み、斜め上からの奇襲攻撃だ。
「オー! 夜討ち朝駆け、勘弁デース」
 少し突出していたボブがあっという間に落とされる。残る2人が何とか態勢を整えた頃には、傭兵側の2機は距離をとって反撃に備えていた。

「この人達が、篠畑さんの部下‥‥。個性的、だよね‥‥」
「確かに、個性豊かな3人、だ」
 毅達の次に対戦する予定の幡多野 克(ga0444)、蓮沼千影(ga4090)が言葉をかわす。無表情ながらも、緊張した様子で目を瞬かせる克と、どこか楽しそうな千影。2人が軽く身体をほぐす間に、第一戦は終了していた。
「私達の実力からすれば、妥当な結果です」
 そう告げるサラに、模擬戦の様子を記録していたリゼット・ランドルフ(ga5171)の手が一瞬止まる。憂う様な少女の目に気付いたサラは、ぷいっと視線をそむけた。

 克と千影の戦闘も、傭兵達の完勝で終わった。最後の模擬戦は南部 祐希(ga4390)との交戦だ。傭兵中でも屈指の実力者であろう祐希に対して、3倍の数の差はさしたる優位にはならない。
「ワオ!?」
 ボブ機を切り裂いた彼女の本命は、後方にいた資郎機だった。一瞬でやわな電子支援機は撃墜されている。
「実際にスコルピオが行った機動です。後で報告書を読んでおくように」
 各個に撃破された3人へ短く告げる祐希。

 昼食を一緒にとりながら反省会、という傭兵達の申し出には特に異論はなかった。
「グレイト。流石は隊長のフレンドね」
 屈託なく笑いながら、ボブが大盛りカレーのトレイを手に席につく。
「だが、最後の攻撃は、軍曹が一歩早ければ止めることができた」
 鋭く言うサラに、ボブは肩をすくめた。
「ソーリィ。次は頑張るよ」
「実戦で次があると思うな!」
 バン、と音を立ててサラが机を叩く。一瞬、場の空気が静けさに包まれた。
「サラさん、一緒に座りませんか?
 リゼットがフォローするように声をかける。彼女の手招きに、サラが戸惑ったように瞬きした。
「あ、俺もカレーねっ。よろしく!」
 のんきな声をかけてから、千影がそんな2人の正面の席に着く。
「大変だったようですね」
 リゼットが水を向けると、サラはため息をついた。元一般人の少年に自由人過ぎる軍曹、不在の上司という、これまでとかけ離れた環境におかれた彼女のストレスは大きかったらしい。
「この3人では、あの結果で当然でしょう。私も含めて、です」
 相手が同年代の少女とあって、多少垣根がおりたようだ。サラの弱気が垣間見える。
「東京にはシェイドがいます。遭遇の危険は皆無ではない。叶わぬ敵であったとしても、生き延びる為には自分達ができる事を考えるべきだ。それが、貴方達の義務です」
 祐希が言葉を投げて席を立った。彼女は食事の席には同席せず、3人のデータを洗いなおす為にシミュ室へと戻るつもりだ。
「‥‥はい、ありがとうございます」
 むっとした様子のサラだったが、言いかけた言葉は喉もとでとどめて祐希を見送る。訓練前、篠畑が『皆の言葉は俺の言葉と思え』と言っていたのを、おそらくそのまま受け取ったのだろう。無理をして軍人たらんとしている様子は想像通り、と国谷 真彼(ga2331)は考え込む。

「そう言えば、昇進並びに‥‥隊長就任、おめでとうございます‥‥」
 少し離れていた篠畑に、克が頭を下げた。
「いやいや、苦労ばかりだ」
「苦労、かけてごめんなさい」
 篠畑の斜め前、気配もなく座っていた資郎が呟く。
「っと、そう言う意味じゃない。失言だった」
 篠畑の隣りから、克が身を乗り出した。
「‥‥君は、榊原君、だね?」
 軍隊は辛いけれども頑張る、と言う少年に、克は興味を持っていた。辛くとも覚悟しているならばそれを貫けばよい。覚悟の理由が強ければ、少年は強くなれるはずだ。
「‥‥僕が、強く?」
 意外な言葉を聞いたように瞬きする少年に、克は頷く。
「迷いがない分、君は強くなれる‥‥はず」
 だから、自信を持って頑張れ、という克のポーカーフェイスは、慣れぬ役回りに緊張したように少し上気していた。
「岩龍は重要なポジションです。その情報を信じて僕らは戦いました」
 おすすめ定食を食べながら、理が口を挟む。
「どういう事情にせよ、KVに乗ると言う時点で最前線に立っているのは同じです」
 もしも、両親の意向で今の場所にいるのだとしても、という理の声に、資郎は唇を噛む。そんな少年の前に、神撫が一枚のディスクを置いた。
「大規模作戦の俺の部隊のデータです。参考になるんじゃないかと持ってきました」
 自分本位なボブの動き、杓子定規過ぎるサラの動き、そしてそれらを統率すべき資郎の動き。いずれも問題はある。その事は、第一戦が終わった時点で、毅にも指摘されていた。
「‥‥統率。僕に、そんな役割はできるのかな」
 呟いた少年へ、理が元気付けるように頷く。
「皆を信頼し、自分を信頼して貰う。胸を張りましょ?」

●バスケの服装はお好みで
 体育館に、ボールの弾む音が聞こえる。昼食を終えた傭兵達は、奇妙な提案をしていた。
「飛行訓練の代わりにバスケットボール、とは‥‥」
 呆れを通り越した口調で言うサラ。
「オーケィ。俺は黒人だからバスケも得意デース。マンガで学習しましタ」
 普通に上背があるボブは、やる気満々だ。資郎も、神撫に促されて輪に入った。傭兵側からは、神撫、千影と真彼、それにリゼットの姿がある。ランニングの神撫はともかく、残りの面々は運動向きの服装ではないがそれはそれ。スーツの真彼は上着だけ脱いで腕まくりの臨戦態勢だ。
「さ、まずはチームを分けようか?」
 キラリと輝く眼鏡は、この一戦にかける意気込みを表していた。多分。

 一方その頃。シミュ室では、毅と祐希がそれぞれの目でさっきの模擬戦を再分析していた。向上心のある者は相談に来るだろう、と待ちに入った毅の声に、祐希が目を閉じて俯く。
「だとしたら、私と同じ場所だったのはまずかったかもしれません」
 突き放すような言動にあえて終始した彼女と一緒では、来る物も来なくなる、と言いかけたところで、部屋の扉が開いた。
「よう、邪魔するぞ」
 片手をあげて入室してきたのは、篠畑。
「君が来るとは予想外だったね、ミスターベア」
「私が呼びました」
 毅の声に、祐希が短く答える。その手のメモには、彼女の目から見た3人の動きの特徴が書かれていた。
「彼らが実戦に入るまでに取り得る対策を、相談したいと思いまして」
「それは、南部から言ってもらった方がいいんじゃないか?」
 篠畑の言葉に、祐希は小さく頭を振った。
「部下に助言をするのも隊長の仕事です。‥‥教官は鬼に徹した方が具合が良い」
「なるほど。君にも仕事をしてもらわないとね。ベア隊長」
 毅もデータを手に向き直る。
「お前らが上官の方が、連中も幸せだったろうになぁ」
 だが、現実は斯くの如し。苦笑しつつ、篠畑も椅子に座った。

「こっちならパス通るよ〜」
 切り込んだ神撫に、真彼からのパスが通る。
「俺のディフェンスを突破する気ですカ?」
「いや、全然」
 そこから逆側のサラへ素早いパス。
「わ、私か!」
 慌てつつも、少女の放ったシュートはリングを捉えていた。
「よし、いいぞ。サラ君」
 真彼の言葉に、少女の顔がほんのすこし緩む。
「よし、まずは1つ。取り返していくぜ、だ」
 千影が投げたボールは資郎の手へ。人数的に3on3となった為、パスを回す相手は千影かボブしかいない。
「皆を信頼し‥‥自分を、か」
 呟く資郎。
「行くよ、ボブさん!」
 上げた声は、サラやボブが目を丸くするほど大きかった。
「オーラィ、本場仕込みのダンクを見せてやりマース」
 進路上に神撫とサラが回るが、強引に突っ込みかけるボブ。
「千影さんが空いてる! ボブさん、そっちに回して」
 資郎の指示で、ボールが後ろに返った。絵になりそうな綺麗なフォームから、3点シュートがネットを揺らす。
「誰か、点、‥‥つけてる?」
「‥‥あ、忘れてました」
 克の声に、理が困ったように笑った。コートの6人は、そんな事を気にせずに飛び回っている。

「空戦技術は後の話、か。まずは相互で協調が取れるようになるのが先決だな」
 篠畑が納得したように頷く。2人も、それに模擬戦で相手をした他の面々も、主にその部分を見ていたようだ。
「難しいな」
「ですが、それを考えるのも隊長の仕事です」
 縁があった以上、死なせたくは無い。祐希の言葉に、毅も同意した。
「やはりこのままじゃいかんか」
 篠畑が腕組みをした所で、背後の扉が開く。
「あ、ここにいらしたんですね、中尉」
 少し息のあがったリゼットがそこにいた。少女は、篠畑が3人へ取っている微妙な距離にも気付いていたのだろう。
「今後の方策も必要でしょうけれど、今は中尉と3人とのコミュニケーションも必要な気がします」
 無用な心配かもしれませんが、と言うリゼットに、大人達は首を振った。
「‥‥行ってくるか。ありがとう」
 立ち上がった篠畑へ、ひらひらと手を振る毅。祐希はただ一度、強く頷いた。

「交替、えーと、サラさんと、リゼットさん」
「あ、じゃあ俺も。篠畑さん、代わって」
 理の声に、千影がサッと挙手してアピールする。
「よろしくお願いします、隊長」
 大きく声をあげる資郎。
「頼むぜ、ボス!」
 背中を叩くボブの手の平。
「‥‥こういうミーティングがあってもいいんじゃないですか、篠畑さん?」
 敵陣の真彼は、汗もかかずに微笑んでいた。
「上等だ。まずは1点取ってくか」
 と言った篠畑の正面を、神撫がかすめていく。
「うっ!?」
「隙有り、ですよ篠畑さん」
 ポン、と投げたボールはワンピース姿のリゼットへ。資郎が片手を振って指示を投げた。
「ボブさん、マークを!」
 スカートを翻しながら駆けるお転婆少女の正面に、ボブが回りこむ。
「きゃっ」
「ボスのミスは俺達がカバー、ネ!」
 ボールを奪いざま、ウィンク1つを残していく陽気な黒人。そんな様子を外から眺めるサラの横に千影が座る。2人の手には、克が準備していた飲み物の缶があった。
「なぁ、サラはボブのこと、どう思ってる?」
「どうと言われても。同僚です」
 コーラのプルタブを引くのに悪戦苦闘するサラ。
「喧嘩しても嫌いあってる、ってわけじゃない、だろ?」
「私は‥‥、別に。ですが軍曹には嫌われていると思います」
 そんな返事を聞きつつ、千影は缶を取り上げてから、開けて返した。
「あ、ありがとう」
「そういう言葉は、いい物だよな。相手も自分も不快にならないために、よ」
 サラへ千影がニッと笑い返す。自分の言葉で相手がどう思うか、サラには少し考えて欲しいと千影は思っていた。
「礼を言われれば嬉しいし、また頑張ろうって思う。そう言うのも大事だと思う」
 もちろん規律も大事だけれど、相手を認める事。信頼する事。いい部分を見つける事。千影の呟きに、少女は俯いて耳を傾けていた。
「‥‥信頼、か。私は彼らに信頼、されているのでしょうか?」
 考え込んだ様子のサラに、千影は笑顔を向ける。

●変化の後、成長の跡
 バスケの後、一行は再び模擬戦を開始した。前半と違う所と言えば、編成だ。
「悪い、俺も入ってみたいんでな。そっちも編成を変えてくれんか?」
 自分からそう言い出した篠畑に、傭兵達の側から否はでない。
「本気で‥‥、行きますよ」
 そう言う克に続いて、リゼットも手を上げる。理と毅も続投希望のようだ。
「希望者多数、か。じゃあ俺は見に回る。頑張って、だぜ」
 さらっと大人の気遣いを見せる千影のお陰で4対4。数の上では、互角だ。
「最初の指示は、僕が出します。‥‥失敗するかもしれませんが、従ってください」
 言い出した資郎に3人が少し驚いたような目を向けつつも、頷いた。
「頑張れヨ、俺も適当に頑張るからヨ」
「軍曹!」
 ボブにサラの声が飛ぶ。が、そこで少女は1つ深呼吸を挟んだ。
「‥‥左翼は任せた。分かっているな? 私達の仕事は時間稼ぎだ」
「イエス。こっちのポイントゲッターはボスだからネ」
「俺か?」
 篠畑へと、部下達の目が向く。初めて共に飛ぶ隊長の技量を、彼らは信頼しているようだった。
「隊長が来てくれて、折角、勝てるかもしれないんです。期待していますから」
 見上げる資郎に、篠畑が照れくさそうに鼻の頭を掻く。

 さすがに、団結だけで経験を覆せるわけでもなく。それでも、篠畑隊は傭兵達の予想よりは善戦した。
「軍曹、君のポジションは左翼だったはずだ。作戦は思いつきで変えていいものじゃない」
「‥‥ソーリィ」
 毅の指摘に、ボブが項垂れる。
「その前の一斉攻撃で、反応が遅れた私のせいでもある」
「僕も、攻撃目標の指示が間違っていました」
 次に指摘しようとしていた事を先取りされた毅はほんの少しだけ笑った。他にいくつかあるポイントも、自分で気付ければその方がいい。
「ベア隊長、君の部下はいい成長をすると思うよ。それまで無事に育ててあげればね」
 少し和やかな空気を裂く様に、コツコツと足音が響いた。シミュレーターの前に立つ祐希の鋭い視線に、3人の表情が引き締まる。
「さて、最後に私ともう一度手合わせ願いましょう」

「‥‥これだけの個性が団結したら物凄く心強いと思うぜ」
 シミュレーター画面を見ながら、千影が篠畑へ聞こえるように口を開く。
「俺ではどうしたらいいか分からなかった。礼を言う」
 これからの篠畑たちを応援している、と千影が告げた所で、その日最後の模擬戦が始まった。
『‥‥ほう』
 祐希が頷く。彼女の突進を前に、岩龍は全力で後退を開始していた。一方、強引に突破をかけた祐希機の後ろを取るようにサラとボブが回りこむ。彼らの生き残る為の工夫は、逆襲の牙を研ぐ方向だった。
『将来が、楽しみです』
 3機の撃墜を示すコクピット内部の表示を見ながら、覚醒を解いた祐希は微かな笑みを浮かべた。