タイトル:【EF】緋色の残り香マスター:紀藤トキ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/13 23:09

●オープニング本文


 足並みの揃わぬ欧州メガコーポレーションが重い腰を上げたのは、1つにはドローム主体の軍用KV市場への参入に、協調が不可欠と判断したためだ。プロジェクトチームの発足は半年前。軍部への販路を開く前に、まず傭兵からの意見集約を試みた彼らからの提案書は、計画自体の骨子となっている。
 汎用機の概念からするとやや大型のフォルムは、特異な前進翼とカナードのせいで優美ながらも攻撃的な印象を与える。しかし、ユーロファイターの革新的な部分は、外見にはなかった。メインフレーム以外の大胆なブロック化。それは、生産の最適化においても現場レベルの補修交換においても、計り知れぬアドバンテージになるはずだ。
 その目指すところは、ブロック交換による真の意味でのマルチロール化だった。メインフレームを共同で開発し、任務や装備に最適化したプランによって各社の特質を活かし、欧州の技術力の土壌であった競争関係を維持するのが、その意図だ。

 英国製のエンジンをプチロフのフレームに組み込み、クルメタルの機体制御システムを走らせる。最終調整は、職人揃いのカプロイアの技術者達を以ってしても困難を極めた。様々なトラブルを乗り越え、製造工場にてテスト用のベース機がくみ上げられたのが、つい先日の事になる。

「どうかな、調子は」
「データ上では、操縦者の操作に対する追随能力が格段の向上を見込めるはずですわ」
 イタリア北部、ミラノの工場を訪れた伯爵に、ソーニャはモニターから目を上げずに答える。ワイヤフレーム化された機体は、空中を高速で飛ぶ際のシミュレーションが行われていた。
「あとは、実機を取り寄せて検証するしかない、か」
 各社から送られたパーツを、南部の工場で組みあげて完成したモスグリーンのテスト機は3機。4機目以降もくみ上げられているが、今日の時点はこれが全ての『ユーロファイター』だ。
「‥‥では、我らが鷲の初飛行を」
「まさか、御自身で行かれるんですか?」
 ソーニャは、独断先行には定評のある男をじろっと睨んだ。が、伯爵は軽く肩を竦めただけで。
「迷惑をかけるのは一度で充分だ。それに、この間の件で目処はついたからね」
 ファームライドの流出についての社内調査の結果、関連会社のモルゲン社の社長、アーネスト以外にも内通者がいる疑いが現れたのだ。該当者を慎重に絞り上げ、状況証拠を集めていく地道な作業の末、1人の被疑者が浮かび上がったのがつい先日。随行者も無く競合地を抜けようとした伯爵の専用車が工作を受け、キメラに襲われた事件で、容疑は確信に変わる。ニコル・マリオッティ技術主任。ミカエルの開発にも関わった人物だが、欠点も多い男だった。旺盛な野心に足元を掬われたのだろうか。
「ニコル君は、まだ見つからないのかな? とすると、輸送への妨害も考慮しないといけないね」
 ポツリと、伯爵が呟いた。フィレンツェにて、彼がユーロファイターの公式発表を行った頃、ニコルは単身で姿をくらましたのだという。イタリア半島は南部を中心にバグアが勢力を盛り返しており、捜索は手詰まりとなっていた。

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「‥‥な、何でこんな事になっちまったんだ」
 ニコルは、伯爵の予想を超えてサルデーニャにまで逃れ、バグアに身柄を確保されていた。彼はもともと、目先の利益に釣られて社内情報を売っていただけの小物である。しかし、自身が関与する開発データの持ち出しはしていなかった。技術者としてのプライドが理由ではない。自分しか知りようの無い情報が流出しているとあれば、犯人が特定されるという怖れからだ。だが、そうしている間に、彼の持つミカエルの情報は鮮度を失っていた。それはつまり、彼自身の価値が失われた事を意味する。
「くそう、あの若造め‥‥っ」
 舌打ちする。もう、手段は選んでいられない。幸い、新型の輸送計画についての情報を彼は握っていた。バグアが人類側のKVを鹵獲したがる理由は彼にはわからない。しかし、ファームライドを売った時の報酬は高かった。ユーロファイターを手土産にすれば、バグアも彼を粗略には扱えまい。そのはずだ。
「‥‥見ていろよ。見ていやがれ‥‥っ」
 中型ヘルメットワームの機内で、彼はブツブツと呟く。いや、彼だったもの、というべきかもしれない。バグアの、価値の無くなったゴミへの扱いは人道的ではないのだ。ニコルは、カプロイアへの憎悪だけを増幅され、意識の最後の一滴まで利用されていた。

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『‥‥で。結局は御自身も出るんですか』
「私は伯爵ではない。1人の傭兵として、輸送任務に携わるのは問題ないだろう?」
 回線の向こうで、ソーニャが苦笑する。輸送の刻限までにニコルが捕まえられなかった以上、様々なものがバレているはずだった。ユーロファイターのテスト機の所在が知られたと思しき現状で、輸送を急がぬ理由は無い。
「何、護衛についてくれるのは優秀な能力者の諸君だ。必ずや、この翼を無事に届けることだろう」
『首を長くして待たせていただきますわ』
 肩を竦めて、ソーニャは通信を切った。モニターの向こうの数字と文字の世界へ、再び没入する。それが彼女の戦うフィールドだった。

●参加者一覧

スコール・ライオネル(ga0026
25歳・♂・FT
霞澄 セラフィエル(ga0495
17歳・♀・JG
リゼット・ランドルフ(ga5171
19歳・♀・FT
ステラ・レインウォータ(ga6643
19歳・♀・SF
佐伽羅 黎紀(ga8601
27歳・♀・AA
ヨグ=ニグラス(gb1949
15歳・♂・HD
斑鳩・南雲(gb2816
17歳・♀・HD
直江 夢理(gb3361
14歳・♀・HD
佐渡川 歩(gb4026
17歳・♂・ER
トクム・カーン(gb4270
18歳・♂・FC
舞 冥華(gb4521
10歳・♀・HD
愛梨(gb5765
16歳・♀・HD

●リプレイ本文

●黄金仮面は誰でしょう
「これが、欧州の各社がドロームという強敵に対抗するがために生み出したユーロファイターか」
 やや大柄な機体を前に、トクム・カーン(gb4270)が腕を組む。
「パーツ、武装のブロック化で整備効率をあげ、最終的に真のマルチロール機となるようなコンセプト。ある意味欧州の意地と誇りを見せてやるって感じかな?」
「人類の、と言うべきかもしれないが、ね」
 仮面の男が涼しげにそう答えた。
「1人のパイロットとして、共に飛べる事を嬉しく思います」
 会釈する霞澄 セラフィエル(ga0495)へ、青年は優雅に返礼する。陽光の下、黄金の仮面を恥ずかしげもなく身につけたこの男こそナイト・ゴールド。カプロイア伯爵の世を忍ぶ姿である。
「自身で輸送だなんて、相変わらず自由人ね、伯しゃ‥‥」
 愛梨(gb5765)が、言いかけてから瞬き一つ。どうやら、世を忍ぶ姿である、というテロップが目に入った訳ではなく、単に仮面に絶句しただけのようだ。
「ん? なんでかめん、つけるの?」
 幼さゆえか、舞 冥華(gb4521)は直球だった。その疑問にヨグ=ニグラス(gb1949)が答える。
「うん。まさか素顔を出してはいけないとはこれ如何にー」
 かくいう彼も仮面着用だ。
「えっなに、仮面が流行ってるの? ハロウィーンのイベント?」
「んと、偉い人も仮面被ってるみたいなので僕も被る事にしました。という事で僕はマスクド・ヨグ」
 かわいい仮面にAU−KV。どうせメットもかぶるのだから仮面の意味はない、などと言ってはいけない。意味がないと言えば、そもそも伯爵の仮面も正体を隠すには不向きだった
(僕は貴方の正体を見抜いてますよ。ナイト・ゴールド。‥‥いえ、カプロイア伯爵!!)
 青年を囲む輪からやや離れて、佐渡川 歩(gb4026)が眼鏡を光らせる。
「いつか、仮面の下の素顔を白日に曝してあげましょう。真実を知った人々の反応が今から楽しみです!」
 内心を思い切り口に出してしまっている歩だが、周囲は誰も頓着していなかった。
「はぁ? ナイトゴールドぉ? なにそれ芸名? 源氏名? 渾名?」
「伯しゃ‥‥ないと・ごーるどって名前だとすっごくよびにくい」
 呆れた様子の愛梨と、口を尖らせる冥華。言葉がたどたどしい冥華は、カタカナが好きではないらしい。
「‥‥ん、ごーるどだから‥‥おーさま? 冥華、おーさまって呼ぶことにする それと、その仮面ちょっと欲しいかも?」
「ふむ。この仮面はあげられないが、予備でよければ差し上げよう」
 青年はマントの中からマスクを取り出す。他の面々には、騎士の証が後日送付されるらしい。意外とまめな男だ。
「‥‥まー何でもいいわ、今回もよろしくしてあげる。撃墜されたら承知しないからっ」
 顎を突き出す愛梨に、青年は軽く頷いた。

 護衛対象のEFに乗る事になった斑鳩・南雲(gb2816)は、機体の周りをうろうろとしている。
「新型機‥‥! 更に試作機ときたら、これはもう浪漫だね!」
 誕生日を迎えたばかりの南雲にとっては、プレゼントになるのだろうか。彼女以外の2機は、歩と伯爵が乗る事になった。
「ミスターの腕前は見たいが、そうもいかないか。残念だな」
「EFの試乗は楽しんで頂きたいですが。ソーニャさん達はきっと激しく心配している事でしょうね」
 スコール・ライオネル(ga0026)の言葉に、佐伽羅 黎紀(ga8601)は苦笑する。「あのロシアで入手したデータも何処かに使われているんでしょうか?」
 リゼット・ランドルフ(ga5171)は、初夏のロシアでの回収作戦に同行している。カナードと前進翼という組み合わせは高機動を売りとするKVでは珍しくないが、その前の時代の基礎データは珍しい。
「良い機体になりそうですね」
 微笑を浮かべた霞澄も、リゼットと同じ日の事を考えているのだろう。リゼットは寒くなってきただろうキーロフの光景を思った。
「これを機に、欧州軍の結束もより高まれば良いのですけど」
 ステラ・レインウォータ(ga6643)がふと呟く。メガコーポと同様、欧州ではUPCも一枚岩とは言い難い。バグアへ裏切る者すらいるのだから、困ったものだ。カプロイア内部にも火種があったと聞いた傭兵達の表情は締まっている。
「ニコル氏というのですね。彼は、加奈様と私が出会う切欠となった人物でもありますので、そういう意味では懐かしい人物ですが――」
 伯爵を裏切ったとあっては、許すわけにはいかないと直江 夢理(gb3361)が気炎をあげる。
「見に来ただけのつもりだったが、こりゃタダじゃすまないだろうな」
「無事に機体とゴールドさんを送り届けるぞっ」
 スコールが不敵に笑い、南雲が気合を入れる。彼女は、ブリーフィングで聞いた機体の特性から、KVに不慣れでもいい動きができるのではないかと期待していた。
「勿論頑張りますが‥‥無茶をせずに済むかは伯爵次第でしょうねぇ」
 黎紀のため息は、どこか楽しげに聞こえる。向こうでは、ヨグが自機にカメラを搭載するよう伯爵に交渉していた。

●空を舞う鳥達
 編隊は、3機のEFを10機で守る形だ。遊撃に両翼の3機づつ、強敵へ2機が控え、護衛対象の直衛に残る2機という配分は、出撃前に相談していた。
「2人とも空戦の経験が豊富そうね。‥‥あたしは今回が初めてよ」
 右翼側、新鋭機不知火の機内で愛梨が偉そうに言う。共にゆくのはリゼットのシュテルンとステラのロビンだ。
「にしても、晴れていい天気だと思ったけれど、上に来ちゃうと関係ないのね? 遠くまで見えていいと思ったのに」
「雲の上ですからね。ですが、下が海面だと反射で目が眩んだりもしますから‥‥」
 無意味ではない、とステラが丁寧に言う。微笑しつつ、リゼットは空に随分慣れてきた自分を感じていた。
「そろそろ中間地点かね?」
「んと、多分そうじゃないかな、とか」
 スコールとヨグの会話を耳に、冥華がEF直衛の黎紀をコールする。
「敵、来てない? うーふー、電子機だから。はやく見えるのに、きたい」
「いえ。まだ‥‥。あら?」
 レーダーを見直した黎紀が瞬きした。進行方向斜め後方に、未確認機が7つ。
「敵影確認! 中型1に小型6!」
 同じくEF直衛班のトクムからも報告が入る。と同時に、バグアからの通信が全機へ届いた。
『ふふ、総帥。いやカプロイア。来ると思ってたぜェ』
「貴方は、ニコル氏ですよね?」
 以前に聞いた時と毛色の違う口調に、夢理が眉をひそめる。帰ってきたのは、笑い声だった。
『そうだぜ、平べったいお嬢ちゃん。あんた達や、最初のテスターの子のデータを売ろうと思ったが、貧乳はお呼びじゃないとさァ』
「‥‥っ! 私はともかく、加奈様のデータを売るなんて許せません! 私なら高く買‥‥い、いえ」
 思わず漏れかかった本音をごまかしつつ、キッと敵を睨む夢理。
「誇りよりお金を選ぶなんて、技術者失格ね。つまらない男」
 鼻で笑った愛梨へ、微妙にエコーがかかった声が言い返す。
『世の中には、乳に釣られて誇りを売り渡した奴もいるがねェ。俺は認めない。フェイルノートだろうがロングボウだろうがァ!』
「敵、射程外で散開‥‥。半包囲にかかるつもりですね」
 黎紀が淡々と報告した。後方からとはいえ、彼我の速度差は数倍。位置取りは敵にアドバンテージがある。
「‥‥ろっくおん、しにくい」
「さすがはカプロイアの技術者。ミサイルの対策はしているということですか」
 2機のフェイルノートが射撃位置の確保に苦しむ中、3方に別れた敵が殺到する。
「1班、EFと護衛機は後退してください。左右の小型には2班と3班、中型には4班で当たります。突破には注意してくださいね」
 ステラの指示で、味方の隊形も迎撃シフトへ変わった。
「とにかく、乙女の純情を売るような真似は許しません!」
「みさいる、はっしゃ。‥‥あたれー」
 夢理と冥華の2機から、四桁に上るミサイルが白煙を引きながら青空を裂いて飛ぶ。5機を捉えるのは難しかったが、片翼の3機と中型に割り切れば、長大な射程のおかげで容易だった。
「全弾命‥‥いえ、これは」
 直撃の寸前に、激しい対空砲火がその半ばを叩き落としている。驚きを言葉にするより早く、プロトン砲の応射が空を赤く染めた。

「ボウズとお嬢ちゃん、俺の背中任せたぜ!!」
「えと、真ん中のが傷、大きいみたいです」
 近接仕様のスコール機に、ヨグが続く。彼我の数に差は無いが、1機でも減らしておかねば後がきつい。
「ん、ふぇいるのーとは紙そーこーだから護ってもらお」
 全力で狙撃を敢行した冥華は一歩出遅れたが、それが幸いだった。ソードウィングを展開した2機に、HWが真っ向から機体をぶつけてくる。
「チッ、対カプロイア仕様って事かよ」
 舌打ちするも、引く気は無い。角度をずらして突っ込んだスコールとヨグの両機にHWのAIは一瞬迷った。その瞬間に、2対の翼が装甲を引き裂く。
「‥‥慌てさせてくれるぜ」
「よこ、あぶない」
 冥華の淡々とした報告に気づいた瞬間、スコールの機体が揺れた。別のHWが翼を引っ掛けていったのだ。
「慌てた様子も無い、か。上等!」
「んと、そっちはお願いです」
 ヨグがもう1機のHWの頭を押さえ込む。

●ニコル
「推定では中型は有人機だ。有人機にはロックオンキャンセラーが効かないのでよろしく頼む!」
 中型機の正面を塞ぐように、霞澄のアンジェリカが機体を滑らせる。激しい放電と真紅の光線が交差し、敵機が小爆発を起こした。霞澄機には目立った損傷は見えない。
『な、なんだ。あのクソ乳の機体が、こんな‥‥』
 そこしか見えてなかったらしいニコルの悪態が通信をわたる。撃ち合いで不利とみたのか、敵機の周囲に赤い輝きが増した。
「‥‥体当たりですか? いえ」
 大加速で振り切ろうという腹だろう。しかし、後方にはまだ夢理が控えていた。一気に突き抜けるなら知らず、僅かでも足を止めれば後ろから霞澄に撃たれる事になる。
『そこをどけ、乳無しの小娘!』
「誤算でしたね‥‥貴方は私達の、最新のデータを持っておくべきでしたね」
 夢理が言う。ちなみに、最新のデータでも胸は更新されていないらしい。そして、ニコルの意図しない方面にも、その発言は波紋を広げていた。
「‥‥」
 冷たい微笑を浮かべた霞澄が、更にG放電装置を射出する。距離を詰めた今、躱せるはずも無かった。
『クソがぁ!』
 進路を塞がれたニコル機が、爆発する。思いの外もろかったのは、敵が対ミサイルを念頭に置き過ぎて光学兵器への備えが甘かったからかもしれない。

 左翼の少女達も、初手は集中攻撃で数を減らしていた。ステラの指示で、敵の動きを阻害する事を第一に動く。様子が変わった事に最初に気づいたのはステラだった。
「敵の動きが、単調に?」
 ニコル機の早々の脱落で、時間稼ぎから突貫へと敵のAIが切り替わる。
「突破しかけています。注意を」
 その動きを予期していた分、ステラの指示は早い。
「抜かせませんっ」
 ブーストを作動させたリゼットが、振り切られかけた間合いを詰めなおす。背後からのミサイルを受けたHWは、あっさりと四散した。
「くっ」
 ステラが相手をしていた敵は、累積ダメージも少ない。放電を叩き込んでなお、動きが止まらない。
「頭、抑えるから。仕事はお願いね」
 控えていた愛梨が回り込んだ。慣性移動を駆使するとはいえ、移動速度が劇的に変わる訳ではない。ジグザグ移動で彼女の機体をパスしたところを、取って置きの88ミリが貫いた。

 近接戦を挑んでいたヨグとスコールを、右翼の敵は無理やり振り切った。振り切る過程で1機が失速し、海面へ落ちる。が、もう1機は後方へ。その動きを、黎紀が即座にEFへ伝える。
「逆側は安全だねっ。じゃあ、下がれば‥‥っと」
 退路を意識していた南雲が、半径の小さい見事なターンで切り替えした。が、伯爵と歩の初動は一歩遅れる。
「にゃんこみさいる‥‥。はっしゃ」
 冥華のミサイルの只中を、対空機銃で減殺しながら突っ切るHW。
「させるか‥‥!」
 前に出たイビルアイズとウーフーごと、プロトン砲が火を噴いた。2機のEFが、赤い火線に曝される。
「凄い。機体サイズが違うといえ‥‥」
 ハヤブサと同等の追随性を見せる機体は、遠間からの射撃を躱して見せた。続く一撃は命中したが、さほど重いダメージではない。
「ミサイルを撃ちます。ダメージを受けているあの機体に攻撃を集中させましょう!」
 意を強くした歩が、ミサイルを撃ち込んだ。トクムの弾幕が止めを刺す。

●戦いの後
 その後、敵の襲撃はなく。一同はイタリア半島の付け根へと着陸していた。
「ミラノだったんですね。行き先」
 温かい空気を大きく吸い込んで、ステラが言う。
「ここまで来れば、まぁ安心と言う事か」
 トクムが腕組みをしたまま頷いた。バグアの基地の近いイタリア南部と違い、ここは人類側の勢力下だ。
「加奈様‥‥貴女の身体は私が護りましたっ!」
 遠くへ向けてそんな事を言う夢理。身体データ、と言いたいのだろう。多分。そんな発言を聞いて、隅の方で歩が何やら呟いていた。
「ふむ。見事な旋回。ただものではないです!」
 データといえば、撮影データを確認しながら、ヨグがコクコク頷く。映っていたのは南雲の勇姿だった。
「そーいえば、ユーロファイターの通称って決まってるんです? これから募集なんですかね?」
「ユーロファイターというのも愛称だね。相応しい名前があれば、良いのだが」
 一応、そんな辺りも考えているらしい。そんな彼へ、霞澄が一礼した。
「『彼』の件ではいろいろご尽力頂きましたから、少しでもお返しできたのなら幸いです」
「いや。こちらこそアーネスト君の件では、世話になっている。私も彼に会いたくはあるが、ファームライドの悪夢を過去のものとしてからでなければ、合わせる顔が無い」
 答える青年の、仮面を忘れているかのような様子に黎紀が微笑する。
「彼にも会ってあげて下さいね? やらねばならない事も、あるのでしょうけれど」
 伯爵の友人、アーネストに残された時間は短い。後で後悔しないようにと言う彼女に、彼は黙って目を閉じる。
「やらねばならない事の1つだったのでしょうか、アレは?」
 黎紀の言葉に、彼はふと我に返ったようだった。
「彼らしくは無い、終り方だったな」
 小さく呟く。裏で策謀を巡らせるのが彼の得意分野だ。これまで尻尾を掴ませなかった『敵』が、最後は自分から前線に出てきた理由までは、伯爵にもわからない。
「思えば哀れですね、一時の欲にかられたばかりに‥‥」
 霞澄は、ふとそんな言葉を口にしていた。
「俺は同情はしない。自業自得だからな」
 言い捨ててから、スコールは年少組へ誘いの声をかける。
「ん。ぴざ?」
「んと、プリンもピザあるです?」
 この後で本場のピザを食べに行きたいらしい。
「こっちも、晴れてるのね」
 愛梨は、青い空を見上げた。この空を、鷲が飛べる日が遠く無い事を祈って。