タイトル:【BV】海峡封鎖マスター:紀藤トキ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/03/28 22:42

●オープニング本文


「‥‥ロンドンだけかと思ったら、基本的に陰気なんだな、この国は」
 イギリス南部、ダヴェンポート海軍基地から海を眺めて、篠畑は深く溜息をついた。空戦部隊のアグレッサーとして一仕事を終えてきた後だけに、疲れているのだろうか。
「それがいいんじゃないか」
 サラッと返した白衣の男は、ウォルト・メイヤーという。キメラ関係の研究部門の彼の母国など、腐れ縁の篠畑にとっても興味はなかったのだが、実は英国人だったらしい。二人が並んでみている海峡へ、数日後には人類史上最大の艦が入ってくる予定だった。
「ちょっとやそっとでどうにかなるような艦じゃないらしいがな。せめてここにいる間位は、のんびりして貰いたい。‥‥と、上が考えたらしい」
 参番艦の到着に先立って、近海の大掃除に手をつけた英国海軍だがバグアも傷ついた巨艦を見過ごすはずもなく。英仏海峡はにわかに招かれざる客人でごったがえしているらしい。とはいえ、ドーバー海峡はその狭さもあって警戒はしっかりしている。大西洋側はこの数日で、定置ソナーブイの数が倍に増やされ、哨戒機も普段よりも密なスケジュールで飛んでいた。最初のうちは散発的だった襲撃は各個に撃破され、すぐに間遠になる。
「ま、戦力の集結中、だろうな」
 次のタイミングでは、キメラやワームがどっさりと押しかけるだろうとウォルトは言った。海岸沿いには既に避難命令も出たようだ。そして、近隣の連絡がつく能力者に非常呼集が掛かったのも、当然の流れだろう。
「ま、出撃命令が出るまでは、こうしてのんびり海を見てればいいだけだ。気楽なもんだろう」
 ウォルトの言葉に、篠畑は微妙な表情を向ける。その理由はといえば。
「で、なんで俺がこっちに呼ばれてるんだ。俺は空屋だぞ。部下と一緒に上に回るのが妥当じゃないのか」
 陸戦も自信は無いが、海戦などやったことも無い、と言う篠畑。能力者である以上、一通りの動きは出来るはずなのだが、動きの面で得意や不得意はどうしても出るものだ。彼は、その差が極めて顕著な男だった。
「実家は漁師と聞いたぞ。撃墜されても泳げるだろ」
 さらっと、本気かどうかわからぬ一言を告げてから、ウォルトは肩を竦める。
「ま、一つはこっちの方に指揮官が足りん。もう一つは、お前さんも教官なんぞになったからには、苦手は言ってられんだろうってことだ」
「それはそう、だが」
 まだ困ったように呟く篠畑の肩を軽く叩いてから。
「ま、頼りになる連中を呼んである。せいぜい経験を積ませてもらうことだ」
 彼はニタッと笑った。と、大きなサイレンの音がなる。海峡へ向かっている敵集団を哨戒が捉えたらしい。海峡へ到達するのは30分後と言う予測だ。それまでの間に、高速艦で出向いて迎撃に入るのだと言う。
「‥・・意外と、余裕なんだな」
 こんな所にも、空との差を感じる篠畑だった。

●参加者一覧

ゴールドラッシュ(ga3170
27歳・♀・AA
勇姫 凛(ga5063
18歳・♂・BM
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
ヤヨイ・T・カーディル(ga8532
25歳・♀・AA
憐(gb0172
12歳・♀・DF
須磨井 礼二(gb2034
25歳・♂・HD
リスト・エルヴァスティ(gb6667
23歳・♂・DF
ゼンラー(gb8572
27歳・♂・ER

●リプレイ本文

●封鎖海峡
 輸送艦上から見えるは青い海、青い空。
「ドーバー海峡、か」
 はるか東の彼方を見やって、リスト・エルヴァスティ(gb6667)が呟いた。今回防衛線を敷くのは英仏海峡の西側だが、有名なその海峡も含めて、この海域には多くの船が沈んでいる。人間同士の、海を巡る争いの末に。
「全部片付けたらボーナス10万ってのはどうかしら」
 強気にそんな事を言うゴールドラッシュ(ga3170)の声に、リストは微笑した。今回の敵は、片付けるにしても悩む必要は無い。流れるのは、異星人の血だ。
「海を護るのはマリーンの役目だから、な」
 歩兵出の自分はLHに来てから海での経験を積んだと思う。この地に眠る彼らの誇りを継げる様な海兵になれたかは、分からないが。

「‥‥やれやれ」
 浮かない顔で海を眺める篠畑を、ヤヨイ・T・カーディル(ga8532)が遠慮なく笑う。
「ぷっくくく‥‥空戦屋が翼をもがれて海に沈められるなんて無様ね」
「全くだ。詳しいならコツを教えてほしい所だが」
 そう問われて、はたと固まるヤヨイ。よく考えずとも、彼女も同じ様なモノだった。
「何、水中戦なんて抵抗が大きい代わりに変形して近接戦闘も出来る空戦と考えれば難しい事はねえよ、空戦に慣れてるなら三次元機動が取れる分陸戦よりはやりやすいんじゃね?」
 見かねた龍深城・我斬(ga8283)が、即席の講義を始めると、ヤヨイだけでなく傭兵の幾人かも注意を向ける。
「訓練はしましたけれど‥‥、水中用機体での実戦は‥‥初めてなのです」
 新品のリヴァイアサンのコクピットから、憐(gb0172)の黒猫ヘアバンドがぴょこんと覗いた。微妙に距離を保ったまま、話を聞く態勢らしい。
「まあ、拙僧もこいつで海の依頼に出るのは初めてだねぃ」
 隣のビーストソウル『髭』から這い出てきたゼンラー(gb8572)は、TPOを考えたのかちゃんと衣服を装備していた。
「リヴァイアサンはいい機体ですよ。例えば‥‥」
「ふむふむ」
 ニコニコと笑いながら、須磨井 礼二(gb2034)がスキル関係の説明をしていく。新鋭機だけあって、ハヤブサよりも随分扱いやすそうだというのが篠畑の感想だ。
「‥‥まあ、基本は同じよね。基本は」
 空から海へと視線を移しつつ、自身を納得させるように呟くヤヨイ。ばしゃっと上がる波飛沫の味は、辛かった。

●緒戦の優位
 十数分後、KVで海中に展開した傭兵達は、最初の遭遇戦をほとんど一瞬のうちに終えていた。ここまで瞬殺されてしまうと、後から来るであろう敵は、増援というよりは別部隊といった感じに思える。
「案外、手ごたえが無かったな」
 勇姫 凛(ga5063)が首を傾げるが、第一陣の大型キメラの群れは、さほど弱くは無かった。KVの雷撃でも一撃や二撃では倒せないほどに耐久性もあった。が、いかんせん足の遅いキメラでは、遠距離からの連続攻撃の前には為す術もなかっただけのことである。
「聞いた数よりも少ないし、ただの様子見だろうねぃ」
 諸般の事情で照明の落ちた暗いコクピットから、ゼンラーの声が響いた。防衛線の突破を図る敵が、本格攻撃の前に一当てするのは不思議な事ではない。先鋒の全滅を、敵はどのように受け取っただろう。
「あー、これで諦めて帰ってくれれば良いのに」
 ゴールドラッシュの口調は軽いが、油断はなかった。これで諦めるようなバグアではないと知っているが故に。それに、手ごたえの無い敵ではボーナスも期待できないというものだ。
「今回の大規模作戦は始まる前から終わった後まで、ずっと轟竜號絡みですねぇ、僕」
 そういえば、というように後方の礼二がそう言う。
「この間の大規模では、参番艦の周りが一番の激戦だったようだし。無事に応急処置を受けれるよう、がんばりまくるのにゃー」
 憐が、気合を入れるようにレーザークローをがしゃがしゃ動かした。彼女を初めとした傭兵達の半ばは守備範囲の中央辺りまで前進し、次なる敵へ圧力をかける形だ。
「キメラもMWも僕らの後ろには漏らしませんよ」
 礼二や篠畑、ゼンラーとヤヨイが後方から撃ち漏らしを処理する、二段構えの作戦だった。

●第二陣
「ん、新手が来た」
 短く、リストが警告を発する。どちらかといえば今回の面々の中では経験の少ない部類の彼が最初に敵に気付いたのは、好運の賜物だった。
「動きは早いし、マンタワームを含む本命だな、こいつは」
 同じく戦線をあげていた我斬の言葉に、空気が引き締まる。
「行こうみんな、まずは近づく前に出来るだけやっつけるんだっ!」
 凛の掛け声と共に、各機の魚雷や水中用のミサイルが暗い海中に放たれた。彼我の距離を時間が埋め、次々に着弾の音と衝撃が伝わってくる。
「おや、ほとんど命中した筈だけど‥‥?」
 礼二が笑顔のまま眉を顰めた。水中用レーダーに映る敵影は、その数を減らすどころか倍近くに増やしている。その理由は、前衛からははっきり見えていた。
「ん、子持ちししゃもだにゃー」
 どこかのんきに、憐が言う。キメラを曳いていたマンタワームが撃沈したせいで、キメラがバラけたのだ。
「‥‥って、足の速いのは急いで潰さないと抜けられるわよ!」
 ゴールドラッシュがラックに残る魚雷を放ちながら警告した。仲間達の魚雷やミサイルも無限ではない。仲間の幾人かはガウスガンに切り替えていた。その射撃をうけつつ、残るワームもキメラを前に回す。あわよくばキメラを盾に突破する作戦に切り替えたようだ。
「上に逃げられるかもしれませんよ」
 礼二が言うように、マンタワームは短距離であれば飛行できるという厄介な特徴をもっている。しかし、その為にこの空域には軍の航空部隊が展開していた。
「もしも飛んじゃえば、上に連絡を入れますよ」
 ヤヨイがそう言って片目を瞑る。敵もその辺りは理解しているのだろう、水面に向かうよりは、むしろ深度を保ったまま直進してきた。
「さて、海の危険なお魚っぽいモノを狩って狩って狩りまくってやるにゃー」
 乱戦の予感に、憐が目を輝かせる。猫的には生モノなキメラは狩りの対象なのかもしれない。確かにお魚っぽい敵ではあるが、食べるには色々と障害があるのが残念なところだ。

●覚悟、あるいは捨身
「ここから先は、凛が絶対通さないんだからなっ!」
「じゃあ、御邪魔な御魚ちゃんは拙僧が相手をするよぅ」
 変形し、マンタワームの進路へ仁王立ちした凛のリヴァイアサンを、ゼンラーの『髭』が援護する。
「ふぬぅぁあぁぁっ! この! みなぎる! 筋肉!!」
 武装といえばガウスガン一丁とレザークローのみ。中に乗る人は褌一丁ですらない危険な組み合わせだ。ひたすら人工筋肉を積み込んだビーストソウルは、むんむんと漢臭いオーラを放っている、‥‥ような気がした。
「逃げるのなら、早い方がいいよぅ。逃げ時を逸したら、怖いアニキ達はお前さんたちを殺さざるを得ないからねぃ」
 磯臭いキメラの群れが僅かに怯んでから、それでも果敢に突進を開始する。

「敵は完全に突破狙いですか。いっそ潔いですね」
 突っ込んできたキメラを迎え撃つリストの脇を、マンタワームが抜けようとした。しかし。
「援護しますよ」
 軽やかに言う礼二と。
「これで2万? 5万くらいかしら」
 反転したゴールドラッシュの射撃が傷ついたマンタワームを前後から穿つ。全速で追撃を振り切ろうとしていた敵は、制止海域の東端に遠く及ばぬ位置で爆散した。ワームの残骸から、直前に切り離されたキメラが泳ぎだす。しかし、さほど距離を往かぬうちに、その身体を弾丸が貫いた。
「このレベルの敵に梃子摺るようじゃ、隊の皆に合わせる顔が無いって言うか」
 ガウスガンを構えたまま、ゴールドラッシュが笑う。

「もう1機、来てるよぅ」
 ゼンラーの警告に凛は悔しげに唇を曲げる。目の前のマンタワームを放ってそっちに向かうわけにもいかない。
「潜って下から抜けようとしたって、見え見えなんだからなっ!」
 目の前の敵に水中用の大斧『ベヒモス』を叩きつけながら、叫ぶ。しかし、最後のマンタワームは仲間の犠牲に頓着する様子も無く彼の足下を抜け、東を目指していた。所詮は機械のワームに、仲間意識などあるはずもないが。
「逃がさないよ‥‥っと」
 そこを、我斬が照準に捉える。とっておきの大口径魚雷『セドナ』が勢いよく泳ぎだし、敵の側面に刺さった。更に、横合いからミサイルが着弾して白い泡を立てる。
「簡単には抜けさせないのにゃー」
 マンタワームが大きくぐらついた所へ。
「確かに空とは違うが、似たところも有るか」
「来ましたよ、篠畑さん」
 後衛にいた篠畑とヤヨイが追い討ちをかけた。ややあって、鈍い爆発音が鼓膜を揺らす。マンタワームが沈んだのは、凛が相手をしていたマンタワームとほぼ同時だった。

●数の暴威
「って、これで終わりなら楽なんだけどね」
 ゴールドラッシュが舌打ちする。突破を狙ったマンタワームは、それが失敗に終わってもキメラを制止海域の奥へ運ぶという目標を達していた。この時点でのキメラの残存数は、20を下らない。どうやら、ボーナスは厳しそうだ。
「突破されそうなのは中央、続いて北側ですね。南は少し余裕があるようです」
 大まかな分布を告げる礼二は笑顔を崩してはいない。苦境にあってこそ笑いは絶やすべきではないと言うのが、彼の信条なのだろう。
「全滅は、厳しいですね」
 渋い顔を一瞬見せてから、ヤヨイは意識を切り替えた。大物は、もういない。彼女の位置からすれば、あとは北側に追い立てれば良いのだ。
「消費はデカイがこいつが噂の無消費変形か、便利だな、おい♪」
 追撃に当たっていた『獣魂』を素早く変形させ、我斬がご機嫌で頷いた。ぐるりとそのまま愛機を反転させる。変形が高速化しただけでなく速度もあがっているのだ。既に弾切れの篠畑も、我斬同様に抜けてくる敵に備えて剣を構える。

 一方、中央では。
「んふっふー、猫の爪が鋭いのは当たり前にゃー」
 お魚っぽいキメラをざっくり切り裂いた憐が、ご機嫌で笑う。間合いを詰められて格闘戦に移行する際にも、彼女の『シンガプーラ』は隙らしい隙をみせていない。
「ここは銃の間合いですね‥‥!」
 水中用アサルトライフルをリストも手近な敵へ撃ち込んだ。中央はマンタワームの突進によって半ばまで突破されており、生き残ったキメラを背後から追い討つ形だ。
「蒼き燐光が、お前を逃さないんだからなっ!」
 追いすがった凛が振るった斧がキメラの血が混じった渦を作る。もはや、あるのは時間との勝負だけだ。皆惜しみなくスキルを注ぎ込み、手数の限りに武器を振るっていく。瀕死のまま東へ抜けかけていた敵を、ゼンラーの一撃が貫いた。
「ほんじゃま、今度はあっちにいってくるよぅー」
 そのまま間合いを詰め、別の敵を裂く。相手が各下の追撃戦であれば、手数はそのまま力となる。他のKVが1匹始末する間に、ゼンラーの『髭』は2体を屠っていた。北側の一部の敵は、射撃に追いやられて目標を見失ったようだが、それ以外のキメラは仲間の死体を掻い潜って、ただただ愚直に東へ向かう。

●作戦の終わり
「抜けたのは3匹、か」
 後尾に居た篠畑が舌打ちをした。反転し追いすがれば倒せそうな気はする。いや、間違いなく倒せるだろう。が、展開中の守備位置を大きく離れるわけには行かない。
「まだ敵は来るかもしれないんだからなっ」
 凛がそう言って向きを変える。魚雷やミサイルは尽きたが、僚機の幾人かは長期戦に備えたリロード可能な武器を持っていた。
「随分ラインが崩れていますから、今のうちに態勢を整えましょう」
 礼二の指示で、再び攻撃的な二段構えを見せた傭兵達。犠牲の多さに辟易したのか、それとも戦力があれで全てだったのか。しばしの後、探査を行っていた哨戒機が敵影の不在を告げていく。
「やっぱり上の方が良さそうですね」
 交信を切ってから、ヤヨイは羨ましげに上を見上げた。暗い海の天蓋の更に上に空がある。
「今回は大漁だったのにゃー」
 途中で弾を撃ち尽くし、最後は白兵戦で敵を沈めていた憐は少し楽しそうだ。猫っぽい少女には、満足の行く狩りだったのかもしれない。
「手出しせずに突撃って、妙に思い切りが良かったけど‥‥。指揮機でもいたのかしらね」
「どうだろう。‥‥いや、いたんだろうな、きっと」
 このメンバー中では1、2を争う戦闘経験を持つゴールドラッシュと我斬は、そう言いながら彼方を見やった。
「何度来ても、同じなんだからなっ」
 今1人の経験者、凛が決然と言い放つ。結果を見ればワームは完封、突破されたのも手負いのキメラだけとあれば指揮官がいたとしても生きてはいないだろう。リストは、名も知れず散ったバグアに、一度だけ目を伏せる。異星人であり、敵ではあるが。
「‥‥この海に沈む者が、また増えた」
「まあ、今はとりあえず任務完了だねぃ」
 やはりまだ暗いコクピットの中、ゼンラーの声が響く。9機で、数にすれば5倍ほどの敵を食い止めた彼らの働きが、海峡に束の間の平和をもたらす一助となったのは間違いない。