タイトル:【極北】白い空でマスター:紀藤トキ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 9 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/02/25 22:45

●オープニング本文


 旧北極基地は、昨年冬の【BV】作戦の際に、参番艦の突撃によって破壊された。しかし、UPC潜水艦隊も、その際に戦力の多くを失い、北極海の掃討を行う事が出来ぬまま、1年。司令部を失いつつも、稼動し続けた生産設備のために、北極の海は再びバグアの勢力が増しつつある。荒れる気配の見え始めた冬の海を、少数の輸送艦隊が航行していた。
 一方、時を同じくして、防御戦力の必要に迫られたチューレ・バグア軍も戦力の糾合の動きを見せている。事態は、競争の体を示し始めていた。

−−−−

「また北周りか‥‥。よりにもよって、こんな季節になあ」
 揚陸艦「カシハラ」の甲板上、待機所の中で篠畑はため息をつく。艦内はまだ暖かいが、外は氷点下20℃ほど。風もあるので体感気温は更に低いだろう。北京解放作戦の為、ユニヴァースナイト参番艦に随伴してアジアに回ったのが昨年の今頃。今回は、参番艦よりやや先行しての行程になる。作戦目標が北半球の目の上のコブ、チューレ基地であろう事は、推測の範疇だった。
 無論、単艦では無い。前方に護衛艦が2隻。後方、中型の輸送艦6隻と共に「カシハラ」。後方に護衛艦が1隻、という陣形だ。ベーリング海峡から北西航路を抜ける輸送船団の護衛を兼ねてゴットホープへ寄航した後は、欧州軍への合流を予定している。
『前方、護衛艦より入電。海中にキメラの群れを確認。迂回は可能。なれど警戒は密にせよ』
 格納庫側に待機しているサラ曹長から、報告が伝えられてきた。
「‥‥今日は随分、多いな。まあ、迂回できるならそれに越した事は無いが」
 昨冬の『偽りのバレンタイン作戦』で北極海基地を失い、この方面のバグア戦力は落ちたと予想されていたのだが、蓋を開けてみればそうでもない。もっとも統制が取れていないため、迂回も容易なのがありがたいところだ。幾度かの転進を挟んでも、ここまでの行程は順調に消化されている。既に、SES技術のお陰で推進力は十分とあって、砕氷に手間取る艦がないのも、一昔前であれば考えられない事らしい。
「順調なのは良い事ネ」
「そうだな。ボブ。交代したらコーヒーでも飲まないと、外の景色を見てるだけで凍えそうだ」
 苦笑を交わしたところで、警報が鳴った。
『前方よりヘルメットワーム1。こちらを確認後、後退。斥候と思われる。空中部隊の攻撃に備え、防空部隊は出撃を』
 サイレンに混じって、別方面の情報も流れてくる。
『海中にも動きあり。キメラの転進を認めた。傭兵部隊各機は防戦を開始せよ』
「‥‥やれやれ。忙しくなりそうだな」
 ぼやきながら、篠畑は愛機へと駆け寄った。

●参加者一覧

伊藤 毅(ga2610
33歳・♂・JG
フィリス・シンクレア(ga8716
12歳・♀・DF
鹿島 綾(gb4549
22歳・♀・AA
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
ジリオン・L・C(gc1321
24歳・♂・CA
ゼクス=マキナ(gc5121
15歳・♂・SF
追儺(gc5241
24歳・♂・PN
リーリヤ・スターリナ(gc6341
27歳・♀・SF
ユーリー・ミリオン(gc6691
14歳・♀・HA

●リプレイ本文

●ヘッドオン
 上空、迎撃に上がった傭兵たちはバグア側と合わせるようにフォーメーションを組んだ。3機と3機、正面からのぶつかりあいだ。最北の逆デルタのD班は、篠畑と部下のサラが前衛に、電子戦機の夢守 ルキア(gb9436)はやや後方に位置どる。
「ジャミング中和あるし、届くかな?」
 イクシオンと名づけたルキアの骸龍、それに後方の艦隊からの支援もあり、情報はクリアだ。各機の相互通信に支障は無い。もっとも、空戦における交戦距離は数百メートルのオーダーで、戦闘開始以後は通信よりも肌で感じる感覚の方が物を言う。
「リーリヤ君のIRSTのデータは‥‥、確認しきれそうにない、か」
 最南端のA班をちらりと見るが、その姿は視界に入らなかった。追儺(gc5241)の提案で、やや高度をとって飛行しているのだ。
「追儺さん、ボブさん、初戦だし足を引っ張るかもしれないけれど宜しく頼むわね」
 丁寧に言うリーリヤ・スターリナ(gc6341)だが、追儺とて経験豊富という訳ではないようだ。
「わた‥‥いや、俺もたまの空戦だ‥‥」
 ぶっきらぼうな口調は、少し作っているような不自然さが見える。追儺と共に前に出ていたボブは「大丈夫、問題ないネ」などとイイ声で笑った。
「あらあらまあまあ〜、楽しそうですわね」
 リーリヤ達の北、B班のフィリス・シンクレア(ga8716)はおっとりと言う。少女のような外見だが、とうに成人しているらしい彼女の機体はディアブロのBDB II 。同じくディアブロ、白主体の塗装のモーニング・スパローを駆る鹿島 綾(gb4549)と共に、攻撃的なツートップを紅白で形成している。
「えーと‥‥無理はしない。突出しない、協力する。警戒中は手分けして‥‥初期注意はこんな具合だったかな」
 教本の内容を復習するように呟くユーリー・ミリオン(gc6691)も初陣だ。過酷な寒冷地での航空任務を、つい勢いで引き受けてしまったのだが、「ここは思いっきり頑張るしかないよね」と前向きである。

 中央北側に位置するC班は、バグアも含めて全ての編隊が逆デルタの中で唯一デルタ編隊をとっていた。その頂点、やや先行していた伊藤 毅(ga2610)が、敵を最初に視認する。
「チャーリー1、エネミータリホー」
 今回の編成では最年長でもある彼は、元自衛隊員らしく端的にそう報告したが、ジリオン・L・C(gc1321)には判らなかったらしい。
「伊藤、勇者の俺様に判る様に‥‥」
「安全装置解除、システムオールグリーン」
 わかる側だったらしいゼクス=マキナ(gc5121)がそう告げるに至って、ジリオンも敵影を察知したようだ。
「む、見通したぞ! 真! 勇者アイズがッ! 立ちはだかる敵の動きを今! うぉぉお、勇者パーティー! 出撃だ!」
 騒々しい彼に対して、同僚の二機は付き合いが悪かった。
「マスターアーム点火、チャーリー1エンゲイジ」
「‥‥さて始めるか」
 交戦距離に入った事を告げる毅に、ゼクスも極めて冷静に追随する。多分、2人ともそういう性格なだけであって、意図的にスルーしているわけではないだろう。もっとも、そうだとしてもそれに気づくほどの感受性は、自称勇者には多分無いが。
「んー、変な奴だね」
 そんな会話を耳にしていたルキアは端的にそう評した。直後、彼女のいるD班も交戦に入る。いや、正確に言えば入らされた。バグア側のプロトン砲が、長射程に物を言わせて先手を取ったのだ。しかし、前衛8機の芸の無い一斉射撃はリーリヤ機、ゼクス機を捕らえるに留まる。そのまま各機は距離を詰め、それぞれの戦闘距離に入った。

●交戦開始
「先手は取られたが。まずはこれでも食らっておけ!」
 射程ギリギリから、綾が十六式螺旋弾頭ミサイルを撃ち放つ。惜しげなくスキルを載せた雀の嘴は、右前方にいた敵機を一撃目で抉り、二撃目で貫き、三撃目で砕いた。
「同数であれば先に数を減らしたい‥‥のは向こうも同じですよね〜」
 逆側の敵機に、フィリスの放ったパンテオンが着弾。続いてユーリーのミサイルが後を追う。更に追撃を浴びせられたヘルメットワームは、撃墜まではいかないにせよ、手痛いダメージを受けた。お返しに、と敵も近接フェザー砲で弾幕を張り、二機を牽制。その後方に健在だったヘルメットワームはフリーになった綾機に向かって機首をめぐらせる。

「真ん中、動きが怪しいよ。セオリーどおり過ぎるけど、有人機じゃないかな?」
 ルキアが指摘したとおり、北側端の隊、後方にいた機はパイロットが操作していた。動きになまじ無駄が無い為に、観察に回っていたルキアには早々に見分けられたのだ。
「有人機か。こいつは抑える。援護を頼む」
 篠畑が左側から突っ込み、1機の頭を抑える位置に割り込みつつ、有人機へ牽制のミサイルを放つ。
「早めに片付けたかったけど、そうもいかないかな‥‥?」
 ルキアは篠畑が抑えた無人機の方へ牽制をかけ、右の前衛機にはサラが格闘戦を挑んだ。

「チャーリー1、FOX2」
 淡々と交戦状況を報告する毅。そこから一手遅れてゼクスもミサイルをばら撒く。毅の目標は当てる事だったが、ゼクスの目標は相手の編隊を崩す事だ。崩れた隙に、近接して格闘戦を挑む。
「馬鹿正直な反応だな‥‥」
 近接フェザー砲の弾幕を目前に、ゼクスが零した。とはいえ、彼の天雷は知覚攻撃には比較的弱い。
「うおお! 未来勇者固有結界! 発動!!」
 ぽち、と騒々しくジリオンが未来予測演算装置を作動、敵への最適な突入角度を指示してくる。僅かに機体位置をずらしてから、アプローチを開始。敵の側面を衝いた。
「‥‥っ、そう簡単にはいかないか」
 照準機の中のワームが、慣性制御機特有の魔法のような旋回軌道で正面に向き直る。予想よりは手ごわい敵を前に、ゼクスの左頬の十字が朱色を増した。

「OK、突っ込むヨ!」
「ん‥‥行くか‥‥」
 左翼。ボブと追儺、二機のシラヌイが急降下で敵へ向かう。慣性制御を利用するバグアに対しては、古典的空戦でいうほど上空の優位は絶対では無い。が、それでも強襲としては勢いが有るに越したことが無いのもまた事実。弾幕を張る敵の左右をそれぞれ担当し、近接する。後ろにいたヘルメットワームが急加速に急旋回を加え、追儺機の側背へ回り込んだが。
「注意、後方に付かれてるわ!」
「‥‥っ、感謝する」
 リーリヤの警告で機を捻り、かろうじて回避した。続く二発目は食らうが、そこでリーリヤが割って入り、それ以上の連撃を阻む。ワームは鮮やかな反転を見せ、そして近接距離にも拘らずプロトン砲を撃ち放してきた。右翼に直撃、装甲が融解して一部センサーが反応を無くす。その反応のよさは、無人機の物では無い。そして何より、
「――こちらも指揮官機らしき敵機を発見! あんな飾り、無人機にはしないでしょうね」
 敵機の機首に翼を広げた鳥のエンブレムを見たリーリヤが、回線にそれを報告。
「ワオ」
「‥‥了解」
 僚機は思い思いの表現でそれに頷く。今回の編成的に、最も弱い場所はこの3機だった。強みは有る。シラヌイ、ワイバーンで固めた編成は、速度の点で他隊にアドバンテージがある。が、それを活かすには彼らが遊撃に回る側である必要があった。


「嫌な状況ですね〜。すぐに援護に向かいます、少しの間頑張ってくださいな」
 A班の様子を気にかけていたフィリスが言う。彼女の編隊は、綾という突出したアタッカーがいたため、早々に敵の1機を撃ち落していた。あいた余裕でカバーに入れば、予定通りにA班が突破への抑えに回れるはずだ。しかし、不利な戦況は敵も確認している。

●転機
 戦闘開始後も、やや下がった位置で援護に回っていたジリオンが、それに最初に気づいた。
「勇者アイズが敵の動向を感知したぞ!! 敵は強行突破を狙っているな!」
 敵機のうち前衛の生き残り7機の出力が上昇、同時にそのカバーに回る位置へと、初期配置中央の機体が滑るように動く。が、その動きは警告を受けた傭兵達にとっては、隙に他ならない。
「好機だな。一気に落とすぞ!」
「了解‥‥です!」
 綾が痛打を与えていた機体に、正面から突っかけたユーリーがショルダーキャノンを撃ち込む。大きく煙を噴き上げて光を失った機体は、落ちながら二度爆発して四散した。突破を試みようとしていた一機も、フィリスが阻む。
「羽根よ。舞い踊れ」
 フェザーミサイルが装甲を叩き、ひしゃげた隙間にさらに刺さる。初手で受けていたダメージと合わせて限界を超えたらしい敵機は数箇所火を噴くと爆散した。

「‥‥く、冗談じゃないわよ!」
 リーリヤ機オボロートニが、彼女を無視して旋回した有人機に、ロシア語で狼男を意味するその名のとおり喰らいつく。果敢な攻撃は、有人機のそれ以上の行動を阻害したが、プロトン砲の一発を側面に受けたボブの機体が火を噴いた。
「シット! 抜かれた!」
 消化作業の間に、ボブが相手していたワームが急加速を開始する。同様に突破しようとした隣の一機へ、背後を取った追儺がレーザーライフルを連射した。しかし、被弾しつつも落ちはしない。
「ここは俺の持ち場だ‥‥逃がすわけにはいかないな‥‥」
 追い、更に攻撃を加えるも、ヘルメットワームは加速を続ける。ワイバーンの速度であれば追随は可能だったが、それも戦闘空域の端まで。離脱する敵の深追いは厳禁だった。

 自身の正面を叩きのめしたB班だが、救援に入る前に役目を終えたA班有人機は後退を開始している。ならばと逆のC班を見ると、毅がちょうど担当の敵を危なげなく落とした所だった。もう一機の前衛機も、出血しつつも近接戦に持ち込んだゼクスが健闘している。ジリオンはそのやや後ろからちょっかいを出し、敵の頭を抑えるのに貢献していた。
「この勇者ジリオンがいる限り、お前達の企みを許しはしないぞ!」
「もう一度、仕掛ける。援護を頼む」
 声だけ聞いているとどちらが主体か判らないが、主に頑張っているのはゼクスである。天雷からの機関砲を雨あられと浴びたヘルメットワームががくんと失速し、石の様に落ちていった。

 D班の正面は、篠畑とサラが担当の敵をそれぞれ何とか抑えている。ならばと有人機が篠畑に揺さぶりをかけたタイミングには、それに備えてブーストを作動させていたルキアが飛び込んだ。そのまま叩き込んだピアッシングキャノンは、既に損傷していた敵機に止めを刺す。
「撃つ方が速いかなーって」
 舌を出して言うルキア。失敗を悟った有人機が遅ればせながら離脱しようとするが、
「逃げるつもりか? つれない奴だな‥‥もっと相手をしていけよ」
 その側面に綾とフィリスが突撃する。サラも敵を撃墜し、気がつけば周囲には人類側の機体しかいない。程なくして、北極海にまた一つ残骸が落ちた。

●作戦終了
「敵機、二機突破。損傷は大きいから阻止は簡単だと思うよ」
『了解だ。任せとけ』
 ルキアの報告に、配置についていた第二陣の学生が威勢良く応えてくる。程なくして、敵機の撃破が確認された。
「レーダークリア、チャーリー1、RTB、カシハラCIC、リクエストフォーランディング」
 毅が淡々と帰還と着艦の申請を送る中、ジリオンの誘導を受けて、綾が爆雷を投下して行く。上がる水柱を背景に、一同は寒々とした空を後にして、母艦へと機首を巡らせた。ダメージの大きいボブが先行し、それ以外の機体は後方を警戒しつつ下がっていく。
「やれやれ、意外と肩が凝るものだな。空戦は」
 などと年寄りじみた事を言うゼクス、15歳。初陣にも拘らず有人機相手に健闘したリーリヤは、少し悔しそうにため息をつく。自身では、もう少しうまくやれる予想をしていたようだ。こちらは傭兵としての初陣だったユーリーは、その興奮がじわりと身体にしみてくる感覚を味わっていた。その横を、にこにことフィリスが飛んでいる。
 低い陽に照らされた母艦とその航跡が、白に閉ざされた眼下に小さく見えてきたのは、それからすぐのことだった。