●オープニング本文
前回のリプレイを見る「敵の揚陸部隊、だと? ふむ、そういう手で来たか」
ツーロンを発した人類側の艦隊。その報告を受けたカッシングは冷静だった。数度に渡り、敵が要塞への接近を試みたという事はわかっている。この場に守るべき民がいると思えば、彼らはその為に来るだろう、と老人は予測していた。
「民に守るべき価値があるかどうかは、甚だ疑問だがね」
微笑するカッシングの前で、その報告を持ってきた黒服の男は微動だにせず返事を待っていた。彼は、数名のメイド風女性と共にルーマニアから、老人に従ってきた一人である。死地であると理解した上でこの場にいる彼らの忠誠に、いまさら惑いは無い。
「いかがいたしましょうか?」
尋ねた声に、老人は笑みを消して首肯を返した。
「‥‥無視する訳にもいくまい。歓待してやりたまえ。今度は全力で、な。動作パターンの調整ができたアレも、持って行くといい」
「かしこまりました。ご主人様」
深々と一礼してから、男は踵を返す。彼の行く先、格納庫には黒く塗装を変えた鹵獲機がいた。堅牢な装甲に加えて、大口径のプロトン砲を積載したディスタンは、蠍座のFRの最期を見届けた機体に他ならない。
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揚陸艦が立て続けにロケット砲の直撃を受け、また1隻轟沈する。海岸線を臨んでわずか数分の間に、赤いヘルメットワームによる被害は増え続けていた。
「直衛機はどうした。このままじゃ全滅だぞ!」
絶好の上陸地点には、相応の門番が配されていたのだ。漆黒のディスタンと、真紅のカラーリングの中型ヘルメットワームが4機。たった5機の敵機に阻まれて、彼らはいまだ一兵たりともイベリアの地を踏めていない。
「これ以上好きにさせるかよ‥‥っ」
「待て、迂闊に近づくな!」
隊長機の制止を振り切って漆黒の鹵獲機へ向かったKVの機内に、警報が鳴り響く。ロックオンを示す耳障りな音を知覚した直後に、撒き散らされた多弾頭ミサイルが彼と僚機を粉砕した。かろうじて回避した隊長機が機首をめぐらせる。
「くそ、ワームの分際で目立つ色しやがって、エース気取‥‥うおぉ!?」
自機に迫る、真紅のヘルメットワーム。交差反転を試みようとした隊長が最期に目にしたのは、敵機の左右に展開した輝く刃だった。ソードウィング、そして多弾頭ミサイルとロケット砲。真紅の機体。
「‥‥その装備。やっぱり、あのファームライドの‥‥」
敵の詳しい情報を耳にしたエレンが、遠くマドリードの作戦本部で唇を噛む。彼女も、その敵とは長い付き合いだったから。
「たちの悪い残り滓か。いずれにせよ、艦隊の航空部隊に余力は無いはずだ。彼らへ支援を仰げ」
モース少将も舌打ちをしてから、吐き捨てるように指示を出した。彼も彼なりに、空の戦士としての蠍座へ敬意を払ってはいたのだ。その記憶を土足で踏みにじるような敵に、嫌悪感を抱くのも当然といえよう。
「‥‥わかりました」
依頼を掲示し、傭兵達向けのブリーフィングルームへと彼女は向かう。
そして。
『‥‥来るがいい、傭兵。あの方の障害は、私が除く』
イミテーションの赤い悪魔を従えて、黒い門番は静かに敵を待っていた。
●リプレイ本文
●最後の戦いへ
「最終回は新型機と相場が決まっとる。『デンドロビウム号』花言葉は我侭な美少女! 出撃〜」
新調した雷電の機内では、三島玲奈(
ga3848)が威勢良く声を上げていた。乗りなれたバイパーと違って、調整もまだ殆どされていないコクピットは新品の匂いが漂っている。彼女が言うように、グラナダの攻略戦も終局を迎えていた。
「いろんな事があったね‥‥。今まで付き合ってくれてありがとう。そしてこれからもよろしくね、イシュタル」
愛機に向かい、リーゼロッテ・御剣(
ga5669)はそう語りかける。この空は、彼女に戦う事への恐怖と乗り越える意志を教えた。そして、何の為に戦っているのかに、再び気づくきっかけを与えたのも。
「思えばリーゼさんと初めて一緒に飛んだのもこの空でしたね」
霞澄 セラフィエル(
ga0495)が、そんな親友の隣に上がってきた。南から臨むシェラ・ネバダは見慣れた景色とは少し違う。それでもそこは紛れも無く、2人の少女や仲間達がさまざまな思い出を刻んだあの空だった。
「グラナダを飛ぶのも、最後ですか。‥‥この空も、広くなった物だ」
南部 祐希(
ga4390)がポツリと呟いた。覚醒によって感情が削げ落ちた彼女は、いつものように無表情だ。ただ、北を見る目の輝きだけが鋭い。
「これが最後で、そして負けられない戦いですね」
ソード(
ga6675)も鋭い目を同じ方角へ向けていた。マドリードの正面戦線から、緊急呼集に応じて駆けつけてきた彼の愛機は陸戦仕様のままだが。今できる限りの事をする為に、彼はここにいた。
「後は余計な物を潰すだけ」
囁いた祐希の機体には、真紅の蠍のエンブレムが刻まれている。この空で彼女達と幾度も死闘を演じた、あの男の紋章だ。
(‥‥僕には、よく、判らない。軍人だから‥‥?)
そんな祐希の心情に、ラシード・アル・ラハル(
ga6190)は思いを馳せる。強敵だった男の記憶を戦地へ伴う意味。
(それとも、女の人だから、かな‥‥)
ふと、左の手首へ視線を落とす。そこには少年にとっての心のよすががしっかりと結ばれていた。
「いずれ彼が来る舞台だ。掃除しておくか」
アルヴァイム(
ga5051)が集めた敵の戦闘データは、各人の下へ分析と共に送付されている。
「武器を真似て、パターンを真似て、性能も近づけて‥‥ご苦労なこった」
チラリと一瞥して、エミール・ゲイジ(
ga0181)は肩をすくめた。
「彼があの敵を見たら激昂するでしょうね」
霞澄の言葉に、一同は微かに笑う。
「アレは似て非なる物だ。FRに比べれば小回りの効かぬ機体を無理に取り回そうとしているのだからな」
攻撃の鋭さも本家には遠く及ばず、蠍座が好んだ紙一重の回避には不向きな機体サイズだ。ただし、図体ゆえに耐久力は多いかもしれない、とアルヴァイムは言う。
「カッシングの性格を鑑みるに、兵器として非効率な部分の再現も抜かりは無いのでは?」
獄門・Y・グナイゼナウ(
ga1166)の指摘したのは、敵の戦闘機動の好みなどだ。相手の動きが予測できるなら、大きなアドバンテージになる。
「ま、器だけ真似たとこで無駄だってこと、思い知らせてやらないとな」
そう言うエミールに同意するアルヴァイム。
(しかしなんだねェー、彼も雰囲気が変わったと言うか‥‥)
そのやり取りを聞きながら、獄門は青年の変容を興味深げに分析していた。
「そろそろ予定の位置ね‥‥。皆、無事の凱旋を」
シャロン・エイヴァリー(
ga1843)の声に、鏑木 硯(
ga0280)は気を引き締める。幾度も任務を共にした彼女と、並んで飛ぶのは初めてのことだ。青いイルカのエンブレムをつけたナイチンゲールの隣へ、シャチのエンブレムつきの黒いディアブロが並ぶ。
「さて、手札を見せて貰おうか、カッシング」
愛機の空調に負担をかけつつ、UNKNOWN(
ga4276)が横隊を組んだ傭兵達の一歩前へ出た。身軽な彼の機体の脇へ、アルヴァイムの重厚なディスタンが布陣する。揚陸地点上空に居座る敵まで1km程で、青い2機が制動をかけた。ラシードの『ジブリールII』はイスラムの告知天使、そしてソードの愛機は女神フレイアの名を冠している。
「‥‥よろしく、『女神の剣』‥‥」
ラシードにかけられた声に、ソードが頷く。守りについた敵へと残りの10機が近接、注意を引いた上で反転し、ソード達の地点までひきつける、と言う作戦である。迎撃のカプロイアミサイルは用意できなかったが、蠍を模したHWと鹵獲改造機を引き離せるならば悪くない手だと思われた。
「赤外線、レーダーとも感無しですね」
「‥‥うん。伏兵は、無さそう」
周辺警戒に回る彼らを置いて、傭兵達は間合いを詰める。真紅のヘルメットワームが、チカチカと表面装甲を変色させながら回頭するのが見えた。横隊を迎え撃つように広がった敵の上部ハッチが開く。
「煙幕を射出する」
報告と同時に、アルヴァイムの指は引き金を引いていた。霞澄もタイミングを合わせて煙幕を投射し、正面にいた敵の視界を阻害する。が、左右からのミサイルとあわせれば4機分、大空を埋め尽くすミサイルは容易に避けきれるものではない。
「‥‥ターン」
短く告げて、先行していたUNKNOWNが漆黒の自機を急転回させる。爆風にあおられながらも致命傷は避け、ふわりと舞う黒翼。アルヴァイムも堅牢な装甲で爆圧に抗しつつ後退した。一歩前に出ていた彼らが目標になってくれたお陰で、僚機の退避は容易なようだ。
「セフィさん、今!」
「ええ、蠍座の戦術はさんざん見て来ましたから」
追い討ちを避けるべく退避機動に入った霞澄とリーゼ他、各機にもさしたる被害はない。真紅の輝きを纏って、ヘルメットワームが下がるKVへ向かう。煙幕を突っ切って、ディスタンが姿を見せたのはその時だった。
「持ち場を離れるのか!?」
驚いたような硯に、淡々とした若い男の声が通信回線越しに答えた。
『私が守るのは場所ではない。あの方に相応しからぬ客人の排除こそ、門番の役目だ』
背を向けたKV群にプロトン砲の砲口が向く。赤い光線がKVの間を貫いた。
「‥‥っ」
機動性に重きを置いたとはいえぬ待機中のソードとラシード機までを、真紅の光条が舐める。しかし、2射目は無かった。敵の視界を遮るように、祐希が煙幕を放っている。
●蠍座のフォーカード
距離を取って分断すると言う作戦は、ディスタンベースの鹵獲機とヘルメットワームの戦闘速度の差を考えれば有効だった。しかし、それは十分な距離を引き回した場合、だ。1kmというのは、いささか短きに過ぎる。
「くっ」
ブーストで引き離し、旋回機動を取った傭兵達の眼前にヘルメットワームの不気味な赤光が迫っていた。2度の旋回を余儀なくされた為、反撃体制の整わぬ傭兵達の只中に、残りの多弾頭ミサイルがばら撒かれる。
「アルヴァイム君には恩があるからねェー。それを返すまで、落とされてやれないんだよー」
獄門のディスタンをミサイルが直撃するも、揺れる機内で彼女の視線は揺るがない。敵の手に渡った鹵獲KVのうち、いまだ堕ちぬアルヴァイムの元愛機。それを屠る為の援護役を、獄門は自らに課していた。
「最終回は特別レシピ、リロード兵器特盛の三島スペシャル。貴様の最後の晩餐だ」
守勢に回って包囲される事を警戒していた玲奈も、被弾しつつも反撃に転じる。彼女のライフル弾の軌跡をなぞる様に、UNKNOWNの漆黒の機体がワームへと宙を滑った。接近、そして素早い一撃を交えてふわりと離れる。
「‥‥こんなものか」
アルヴァイムの声。飽和射撃を受けていた初手と違い、今度の被弾はアルヴァイムの機体にさほどのダメージを刻めない。ミサイルを撃ちつくした4機のワームは、ロケット弾を撃ち放ちつつ突進を開始した。ギラリと輝く光の翼が左右に展開する。
「‥‥どちらが『本物』に相応しいか、試してみる事にしましょう」
全身の骨が軋むようなGの中、祐希が囁いた。機動力に物を言わせてミサイルを振り切り、ロケット弾の射撃軸線を回りこむようにターン。慣性制御を駆使する敵の光翼から直前で軸をそらし、真紅の翼で敵の装甲を切り裂く。
「偽物相手に相打ちを許す程、安い身の上ではありません」
囁く祐希機の後ろから、反転したワームがロケット弾を放つ。その下側を抉るように急上昇し、エミールが高分子レーザーの3点射を腹へと叩き込んだ。
「悪いけど、この間合いは俺も得意分野だ。勝ちたきゃ蠍座以上の機動をするんだな!」
ロッテ本来の運用よりも攻撃に偏った機動だが、共にエースの両名にしてみればそれで十分な相棒であり、――その程度の敵だった。
「硯、行くわよっ」
正面にいた敵機に、シャロンはライフルで牽制弾を撃ち込む。
「‥‥はい」
息を1つついてから、青空を裂いて黒いディアブロがダイブした。機首の白い塗装が細かな機動に合わせて目まぐるしく踊る。多弾頭ミサイルの雨に晒された機体は、まだ硯の操縦に良く応えていた。
「‥‥リーゼ、と霞澄も、追い討ち、お願い」
ラシードが指示を飛ばす。敵のディスタンが煙幕の向こうから姿を現す前のこの瞬間に、1機でも沈めておきたいというのが、傭兵達の思惑だった。残る2機がロッテに押さえ込まれているのを確認して、ラシード達も前へ。
「牽制くらいは、させて貰います」
ソードが長距離バルカンでワームの鼻面を撃つ。機銃とはいえ、ディアブロの放つ弾丸は無視するには剣呑だ。かくん、とソードの側へ向きを変えるワームの横に、青き告知天使が喰らいつく。集積砲の直撃が、光学迷彩に覆われた敵機の表面にスパーク交じりの波紋を生んだ。
「セフィさん、行くわよ!」
隙を晒したワームへと、リーゼ機がまっすぐ向かう。斜め上方へ駆け抜けるような軌跡を描きながら、イシュタルはソードウィングを展開した。
「今日は出し惜しみナシ! マニューバ! いっけぇぇぇ!」
掛け声と共に、敵機を切上げる。行過ぎた機体はそのまま半径の小さなループを描き、逆落としに返す刃を叩きつけた。
「これで、止めです」
迷彩も効果を失い、炎を上げたワームへと霞澄が追撃をかける。鹵獲機のプロトン砲も凌駕するような紫電が大空を裂いた。攻撃は敵機内部の誘爆に拍車をかけ、滞空不能となったワームは斜めに墜ちていく。
●そして、ジョーカー
「まずは、1機ね。この調子で‥‥」
言いかけたシャロンや硯、追撃をかけていた傭兵達のいた一角を、赤い光が貫いた。射線に捉えられていた機体の装甲が灼ける。
「くそっ、煙幕の中からか!」
激しい空戦の最中にもディスタンの動きに警戒していたエミールや祐希だったが、敵が視認できないのでは警告の出しようが無い。命中精度は大幅に落ちているはずだが、それでも。彼らやUNKNOWNのような高機動機ならいざ知らず、普通のKVの動きでは回避は困難なようだ。
「向こうから来ないならこっちから、だ」
痛打を与えたヘルメットワームから離れて、エミールは薄れつつある煙幕へと機首を向けた。意図を察した祐希が彼に追随しつつ、うっすらと見える敵影を狙撃する。煙の向こうからの反撃は、紫色の光のシャワーだった。正確に2人の周囲を刻むフェザー砲の弾幕が、煙幕越しで甘い一角をついて更に近接する――、そぶりを見せる。
「そちらの相手はまだ先だな。‥‥突っ込みすぎるなよ、祐希」
「‥‥大丈夫です。落ち着いていますから。許すつもりは、ありませんが」
敵から見ても脅威であろう2人が牽制を打つ間に、集中攻撃を受けて更にもう1機のワームが散っていた。
「さっさと片付けて、本命にかからんとな」
二丁のライフルを装弾しつつ、玲奈はアルヴァイムの後ろを取ろうとした敵機に横撃をしかける。彼女とUNKNOWNがすれ違いざまに叩いた敵へは、獄門が大型ミサイルを撃ち込んでいた。ロッテ単位のスイッチが綺麗に機能していたのは、アルヴァイムの徹底させたサインと共に、管制役を務めていたラシードの存在による所も大きい。
「‥‥次、硯とシャロン‥‥、お願い、ね。カバーは僕らが」
攻撃以外に注意を割かれる分、本人の手数は少なくなるが、乱戦の渦中に的確な指示が飛ぶ事は前線のアタッカーにとってこの上なくありがたい事だ。
「よし、また1機!」
暁の女神が翼端で切り裂いたワームを、熾天使の炎が焼く。シャチとイルカが交互に跳ね、名も無き黒翼と謳われざる存在が、紛いの蠍を大空から消し去った。黒い鹵獲機は祐希とエミールの阻害で多数を巻き込む射撃位置を確保できずにいる。
『40秒‥‥、思ったよりも持たなかったか』
「自己を証明する為に戦った蠍座と、それの無いAIの差です」
機首を返し、最後の敵を照準に捕らえる霞澄。無傷の機体こそ皆無だが、交戦を危ぶまれるほどのダメージを受けた者はまだいない。
「――アルヴァイム。お前の手で眠らせるといい」
上空を飛ぶUNKNOWNが、鹵獲機のかつての主にそう促した。瞬間。
『‥‥まぁいい。お前達ならばあの方を退屈させる事はあるまい』
妙に生物的な動きで大型プロトン砲を格納し、敵はバグア機が加速する時に特有の発光を始める。
「ここまで来てフォルド、かね」
『当然だ。私はエルリッヒ・マウザーのように目の前の戦いに生きているわけではない』
放たれた弾丸を敵は横滑りで回避した。そのまま降り注ぐ攻撃を受けつつも急加速を開始する。鋭角な機動で弾の隙間を縫い、ある物は堅牢な装甲で弾きながら。
「慣性制御。今まではわざと切っていたのですか」
北へと遠ざかる機影を更に追う余力までは、傭兵達に残されていない。短期決戦を志向した作戦ゆえブーストも特殊能力も惜しげなく使った結果、練力ゲージが撤退ラインギリギリまで落ちている機体もある。
「揚陸艦の到着ぐらいは見届けたいのだけど‥‥厳しいかな?」
シャロンが自機の様子を確認して、ため息混じりに首を振った。だが、この戦域に敵の姿はもうない。周辺の制空権も人類側に移りつつある今、無理に滞空を続ける必要も無いだろう。それに、一部の面々にとってはこの後にまだ要塞への突入が控えている。
(しかしあの相手、何者なんだろう‥‥? カッシング直々の御出馬では無かったが、それなりのバグア幹部なのかねェ?)
声だけしか聞こえなかった相手を慮るように、獄門が目を細めた。
「パパ‥‥、私諦めないよ。宇宙への夢のために、空を守るために飛ぶわ‥‥そして優しさを忘れないために‥‥」
リーゼが同じ方角を見ながらそっと呟く。この世にはいない父と、そして母へ。
「‥‥マ・アッサラーマ。また、いつか、空で‥‥」
空母へ着艦すべく降下するエミールたちを、ラシード達が見送る。グラナダ要塞を巡る戦いはまだ佳境なのだ。それぞれの場所で、それぞれができる事を。それでも、翼を並べた戦友たちが再び一堂に会する機会が遠からず来る事を少年は願っていた。