タイトル:忍び寄る恐怖マスター:古賀 師堂

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/26 00:19

●オープニング本文


「――緊急事態です」
 その女オペレーターは感情を感じさせない事務的な声で続けた。
「とある廃坑の中から出現した三体のキメラが人が住む街へと進行を開始した、との報告が入りました。ただちに、その処理へと向かってください」
 そのキメラは体長三メートルほどの蟻に似た外骨格を持っているのが確認されており、荒地を一直線にふもとの街へと突き進んでいるという。
「その外骨格はかなりの強度があるものと考えられます、生半可な攻撃では弾かれるのがオチでしょう。作戦は、キメラの進行上での迎撃戦となります。あなた方が攻撃力に自信があるのならよし、さもなければ――こちらの荒地の地形を利用しての各個撃破を推奨します」
 女オペレーターがスクリーンで指し示すのは、キメラの進行ルート上の二つの点だ。
 一つは比較的障害物の少ないA地点。ここでならば、火力を利用した真正面からの戦闘が展開しやすい。
 もう一つは、A地点よりも更に山奥に進んだ岩や複雑な地形をしたB地点。遮蔽物などを利用する事により戦況を有利にコントロールしやすい。
 そこまでの状況説明を終え、女オペレーターは視線を戻し告げた。
「どのような作戦を立案し、遂行するかはあなた方次第です。過程はどうあれ、必要なものは戦果です――どうか、ご武運を」

●参加者一覧

セシリア・D・篠畑(ga0475
20歳・♀・ER
古郡・聡子(ga9099
11歳・♀・EL
鳳 螺旋(gb3267
16歳・♀・ST
堺・清四郎(gb3564
24歳・♂・AA
宵藍(gb4961
16歳・♂・AA
八尾師 命(gb9785
18歳・♀・ER
9A(gb9900
30歳・♀・FC
ユウ・ターナー(gc2715
12歳・♀・JG

●リプレイ本文

●開戦
「‥‥どうやら、来たようですね」
 見渡す限りの荒野。なだらかに続くその平地で、双眼鏡を覗き込んでいたセシリア・D・篠畑(ga0475)が呟く。
 彼女の双眼鏡越しの視界には、三体の巨大な蟻型キメラがまっすぐに自分達の方へ向かっているのが確認出来た。
「キメラ3体が相手か‥‥各個撃破したいところだね」
「街にたどり着く前に何とかできればいいのですが〜‥‥」
 微笑を浮かべながらも目視出来る距離まで近付いてきたキメラを油断なく観察した鳳 螺旋(gb3267)がこぼし、ゆっくりとした口調ながら八尾師 命(gb9785)は背後を振り返り言う。
 その金色の瞳が見つめる先には、今も人々が生活を営んでいる街がある。
「キメラが人里に到達すれば被害が出かねない。その前にきっちり倒さないとな」
「そうですね――ここで止めなければ、多くの人が犠牲になります」
 その艶のあるよく通る声に強い決意を込めて宵藍(gb4961)が言い放ち、古郡・聡子(ga9099)が静かに凛と告げた。
「相手はキメラで、しかも虫‥‥そして後ろに小さな街、か。ふふ、手加減の必要、全くなし! 思いッ切り、暴れられるね!」
 物騒な笑みと共に装着式超機械を手にはめその髪を鮮やかな金髪に染めていく9A(gb9900)を横目に、こちらも太刀を引き抜きながら堺・清四郎(gb3564)が吐き捨てる。
「久しぶりにただ敵と戦う依頼だ‥‥あの硬い骨格で我が剣の腕試しとさせてもらおう」
「街の人達の安全はユウ達が護るんだカラっ☆」
 ツインテールを揺らしながらユウ・ターナー(gc2715)が言えば、もうキメラ達は目と鼻の先だ。
『キチキチ‥‥ッ』
 近付けば、その巨大さが嫌でも目立つ。鋼のような強度を持つ外骨格を鈍く輝かせながら、待ち受ける彼等を障害と判断したのだろう、その速度が増した。
 その間にも、布陣は完成している。A班に9Aと聡子、ユウ。B班に宵藍と螺旋、命、C班に清四郎とセシリアというチーム分けだ。
「此処からは通行止めだよッ☆」
「ふん、小細工は無用‥‥ただ斬るのみ‥‥いくぞ!!」
 ユウがヴァルハラを構え、清四郎が刀を肩に担ぎ飛び出す――ここに、蟻型キメラとの戦いが幕を上げた。

●蟻型キメラAVS9A・聡子・ユウ
「よぉしっ! ユウ、頑張っちゃうんだからッ」
 ユウの撃ち放つ銃弾の雨が蟻型キメラへと降り注いだ。キンキンキンキンキンキンッ! という硬質の音が蟻型キメラの外骨格を鳴らすが、貫通したものは一発もない。
 だが、その動きは確実に止まる――そこへ、弓を引き絞った聡子がエネルギーに包まれた矢を射った。
「これで――どうですか!?」
 ガンッ! と鈍い音と共に聡子の矢は蟻型キメラへと突き刺さる。それに蟻型キメラは一瞬だけビクリと震えた。
「頑丈な身体でも、このビリビリに耐えられるかッ!?」
 真正面ではなく真横から迅雷によって回り込んだ9Aが青白い電光の輝く腕で殴りつける。その外骨格の硬さに拳が痺れはするが速度の乗った一撃は電磁波を伴い蟻型キメラの巨体を揺るがした。
『キチキチ――!』
 だが、揺れるだけで蟻型キメラは踏み留まる。巨体でありながら素早く旋回すると9Aへとその牙を向けた。
「おっと、そのぐらいじゃボクには届かないよ?」
 ザッ、と地面を蹴ってその大振りなナイフのような鋭い牙を9Aは掻い潜る。そこに、再び聡子が布斬逆刃を施した矢を放った。
「今です、ユウさん!」
「OK! 聡子おねえちゃん! えーいッ、当たれーっ!!」
 その手はネツァクに武器を持ち替え、ユウは蟻型キメラの足関節へと射撃――その一撃に、ガクリと蟻型キメラが動きを鈍らせた。
「ユウ君、ナイスッ!」
 9Aはその隙を見逃さない。再び横へと回り込み、拳と共に電磁波を蟻型キメラの脇腹へと叩き込んだ。
 ――それは、さながら闘牛士のような光景だった。ユウと聡子が射撃で援護と共にダメージを積み重ねていき、乾いた大地に砂埃を上げながら9Aは蟻型キメラの攻撃をかわし、真横から着実に攻撃を叩き込んでいく。
 交差する事、数度――ついにその時は訪れた。
「二人を傷つけたら許さないんだから!」
「――今です!」
 ユウの援護射撃が降り注ぎ、聡子の矢が突き刺さる――それで、大きくぐらついた蟻型キメラへと9Aは地面を強く蹴った。
「これで――終わりだよ!」
 振りかぶった青白い電光に包まれた拳が繰り出される――その電磁波による一撃が蟻型キメラを殴打し、その巨体がズン‥‥と地面へと転がった。

●蟻型キメラBVS宵藍・螺旋・命
「ここはボクが抑える」
 螺旋が撃ち込む銃弾の雨に、蟻型キメラが動きを鈍らせる。キンキインキンキンキンキンッ! とその硬い外骨格は銃弾を弾くが、その衝撃までは殺しきれない。
「見た目からして固そうですね〜。何処かに弱点があるのかな〜?」
 命の黄金の瞳が仲間達の武器を見やれば、練成強化によって強化が施される――その力強さを感じながら、宵藍はその手にある片刃の直刀を蟻型キメラの足関節へと振り上げた。
『ギチギチ‥‥!』
 蟻型キメラがその攻撃を嫌うように身を低くすると宵藍に向かってその牙を向ける。
「簡単に捕まってやる程、俺もぬるくはない‥‥はず」
 その牙を宵藍は直刀で横回転しながら受け流した。だが、その牙は受け流してなお直刀の柄を握る手に痺れを残す。
 そこに、蟻型キメラの意識を宵藍から逸らすために、螺旋の射撃が着弾した。それにわずらわしげに蟻型キメラが頭を振る。
「残念だったね‥‥その動きは想定範囲かな?」
「むむ〜‥‥本当に固いですね〜‥‥でも〜」
 輝く金色の瞳を蟻型キメラへと命が向ける――そこへ、ザッ! と大きく踏み込んで宵藍の体が舞うように横回転した。
 もっとも遠心力の恩恵を受けた振り払う直刀の切っ先は蟻型キメラの外骨格を浅くながら切り裂いた。
 命の練成弱体の援護を受けての一撃に、宵藍は確かな手応えを感じる。
「中国武術の理は、十分に通用する!」
 蟻型キメラへと宵藍が舞うように挑みかかっていった。その間も冷静に状況を見極めた螺旋が射撃によって援護し、命がビスクドールでの攻撃の傍ら、キメラの攻撃を受けた宵藍を癒し、蟻型キメラを翻弄する。
「頃合ですか――ッ!」
 螺旋が地面を蹴った。その手には、大鎌へと変形した武器を構え蟻型キメラの側面へと疾走――その一本の足へと大鎌を振り下ろす!
「Ain Soph Aur‥この大鎌は、眼前の敵を撃ち砕き‥‥斬り伏せることもできるんだよ?」
『キチキチ‥‥!?』
 蟻型キメラの足が宙を舞う――大きくバランスを崩した蟻型キメラへと命がビスクドールを向けた。
「これでどうかな〜?」
 その電磁波を受けて、蟻型キメラがズンッ! と地面へとつんのめった。だが、まだ蟻型キメラは動こうとする――その瞬間、宵藍が跳躍した。
「俺達が来た時点で、お前達に先は無い」
 グルリ、と宵藍の体が回転する――その直刀の一撃は深く蟻型キメラの首の関節を切り裂き‥‥蟻型キメラはズルリ、と糸が切れた人形のように地面へと倒れ伏した。

●蟻型キメラCVS清四郎・セシリア
「ふふ、なかなか斬り甲斐がありそうだな」
 自分の前に立つ蟻型キメラを見やり、清四郎の髪が白く染まりその身が一回り大きくなっていく。
「我が一刀‥‥受けてみよ!」
 小細工なしの真っ向勝負――己よりもはるかに巨大な相手へと強く地面を踏み締め太刀を大上段へと構えた。その清四郎の構えを見て、タイミングを見てセシリアが右手をかざす。
「‥‥練成超強化を」
 その瞬間、清四郎が大きく踏み込んだ。
「うおおおらああああ!!」
 ミシリ、とその背筋が軋みをあげる。全身のバネを太刀へと伝え、太刀が蟻型キメラの外骨格へと振り下ろされた。
「――ぬぅッ!!」
 ギィンッ! と刃が火花を散らし外骨格から弾かれそうになる――その瞬間、後背筋の力押しで一気に振り抜いた。
 そこに残るのは、浅い一直線の切り傷だ。硬い――己の手に確かに残る蟻型キメラの外骨格の感触に清四郎が歯を剥いて吼えた。
「ふ、ふふ‥‥面白いッ!」
 蟻型キメラが清四郎の喉元を狙いその鋭い牙を向ける。だが、清四郎はその牙を真正面から受け、振り払った。
「それでこそ、俺が剣を振るう価値がある!」
「‥‥練成弱体を」
 セシリアが淡々とその赤い瞳を蟻型キメラへと向け、その外骨格の強度を下げる。そして、愚直なまでに清四郎が大上段の太刀を蟻型キメラへと振り下ろした。
 ――それは、他の戦いとは違う剛と剛のぶつかり合いだった。ただ己の剣に全てを込めて大上段の斬撃を繰り返す清四郎に、セシリアがブラックホールの射撃で援護する。
「違う‥‥こうか!」
 数度目かの斬撃。だが、その一撃も振り抜くには至らない。だが、確実に蟻型キメラに刻まれる傷は深くなっている――そこへ、不意に銃弾の雨が降り注いだ。
「援護に来たよ〜、セシリアおねえちゃん、清四郎おにいちゃん!」
「お待たせっ」
 ユウの制圧射撃と螺旋の援護射撃――その瞬間、セシリアのブラックホールの射撃が蟻型キメラの触覚を撃ち抜いた。
「‥‥今です」
 淡々と事実のみを告げるセシリアの言葉に、清四郎が再び大上段の構えを取る。
「信じるは我が剣閃――!」
 ザンッ! と荒地を踏み砕き、清四郎が太刀を振り下ろした。体中のバネを一点に集中させ、太刀の切っ先を加速させる――幾度目かの蟻型キメラの外骨格の感触に、清四郎がこれ以上ないタイミングで全体重をかけた。
 斬線、膂力、軌道――全てが己が放てる最高の一撃を持って、清四郎の太刀が蟻型キメラを切り裂き振り抜かれる。
『キチ、キチ‥‥ッ』
 ビクンッ! と蟻型キメラは一瞬その身を大きく震わせると、やがて地響きを立てて荒地へとその身を横たえた。

●――戦闘終了
「何とか倒せましたね〜。お怪我はありませんか〜?」
 救急セットを手に仲間達を気遣う命に、ようやく全員が緊張の糸を解いた。
「これで、街の方も安全だね」
「ええ、そうですね」
 やりとげた、その実感を持って宵藍が笑みをこぼせば聡子も嬉しそうにうなずく。
「うんうん、大きな怪我した人もいないし、よかった!」
「そうだね」
 ユウが満面の笑顔で言えば、螺旋も柔らかな微笑を浮かべた。戦いを終えた、その疲労感こそあるが怪我らしい怪我もない――的確に相手を対処できた証明だと螺旋は満足を得る。
「ま、なかなかに楽しめたかな」
「――そうだな」
 9Aの言葉に、清四郎も野太く笑う。共に敵に相対し、手応えを感じられたからこその言葉だ。
「‥‥戻りましょう」
 淡々とセシリアが告げる。それに仲間達もうなずくと、彼等は荒野を後に帰還した‥‥。