●リプレイ本文
最終決戦。
戦いにおける終止符を打つべき戦い。
バグアとの戦いは、あの本星が崩壊した瞬間に趨勢は決した。
しかし、傭兵達にはもう一つの戦いが待っている。
タッチーナ・バルデス三世(gz0470)――バグアの紳士を自称する強化人間。
カイゼル髭に紙オムツを着用するその姿は、見る者に嫌悪感を抱かせる。頭の方はさっぱりを通り越して残念。唯一の特技は切られても叩かれても復活する超回復。その回復力を少しでも頭の方に回せていれば、残念ぶりも軽減できたはずなのだが‥‥。
この変態は、バグア本星が崩壊した事実も理解できていない。
『バグアの最終兵器』と称し、呼ばれないブルペンで永遠に肩を温め続けている。
そろそろこの馬鹿に『戦争終わったよ』と教えてやらないと、アジア界隈で永遠に嫌がらせをし続けかねない。
そこで、UPC軍は『馬鹿を捕縛せよ』という命令を渋々発した。
正直、馬鹿にそこまで労力を割きたくない。割いても差し支えない戦力を派遣する事になる訳だが――馬鹿の相手は馬鹿以外にあり得ない。
「曽徳鎮戦闘大隊、戦場へ推参であ〜るっ!」
ポニーに跨がった曽徳鎮(gz0499)は、タッチーナが現れたという香港の市場へ到着していた。
UPC軍中尉でありながら、漢王室から続く名家を自称する軍人。
ちょび髭で、髪にポマードをたっぷり付けたオールバックは黒光りする昆虫のようだ。おまけに小学生並の身長を気にしてチビ扱いされると機嫌を悪くする。簡単に機嫌を損ねる名家という時点で、タッチーナを捕縛する為に現れたUPC軍人らしい存在だ。
「香港‥‥普通に観光で来たかったなぁ‥‥俺なんでこの依頼を受けたんだろうな‥‥」
ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)は、早くも依頼を受けた事に後悔を始めていた。
通常、キメラが現れた場合、一般人は退避。傭兵もしくはUPC軍がキメラの掃討を行う。しかし、香港界隈ではタッチーナが芸人という認識をされている上、マグロ型キメラの弱さが知れ渡っている。この為、一般人が退避するどころかお祭り騒ぎになり始めている。
商店も閉店するどころか屋台まで出始めている。その通路を多数のマグロ型キメラが徘徊するというかなりシュールな画が出来上がっていた。
「このイカれた風景はあいつが原因か‥‥。
そもそも、あの強化人間はまだ生きていたのか。‥‥しぶとい奴だ」
大剣「ブロッケン」を携える鎌苅 冬馬(
gc4368)は、殺意に満ちた眼差しで周囲を見回した。
ユーリ同様、この依頼に巻き込まれた事を後悔しているのか。
それともタッチーナという強化人間に恨みでもあるのか。
いずれにしても、冬馬のブロッケンが吼える時間は間もなく訪れそうだ。
「オウ、ここデスネ!
マイブラザーのコンサートツアー千秋楽会場は!」
元銀幕スターのマイケル=アンジェルズ(
gb1978)は、一人で興奮。近くの屋台に駆け上り、アリーナ席と称して己の気持ちを叫びへと昇華している。その傍では屋台の店主が怒り狂って怒鳴り散らしているが、コンサート前の興奮でマイケルの耳にはまったく届いていない。
タッチーナをマイブラザーと呼んでいる時点で同類の香りが‥‥。
「ふぅん、タッチーナちゃんは相変わらずのようねぇ。
これはまたお姉さんが遊んであげないといけないようね」
雁久良 霧依(
gc7839)は、お祭り騒ぎの市場を前にして怪しい微笑みを浮かべる。
何やら持参した付録には下仁田ネギやとろろ芋が入っているようだ。
マグロ型キメラを倒して料理を振る舞うつもりなのだろうか。
「ええぃ! 何を言っておる!
我が宿敵をこの香港の地で倒す為に曽徳鎮戦闘大隊は出動したのだ。私は先日の雪辱を果たさなければ、悔しさでまた枕を涙で濡らしてしまう」
曽が一人で喚き始める。
ちなみに先日の雪辱とは、カンボジアでタッチーナと出会った際に行われた鶏のモモ焼き大食いで破れた事を指している。
「まあまあ。
既に作戦は開始されてますから、大丈夫ですよ」
今回の依頼において先手を打っていたしっと団総帥の白虎(
ga9191)だ。
「ほう、我が軍の軍師はもう策を巡らせておったか。して、どのような策を巡らしたのだ?」
「軍師になった記憶はないんだけどな。‥‥まあ、いっか。
この騒ぎですからお祭りイベントとします。UPC軍からも『お笑い対決ショー』を開催すると宣言していただき、市場の人達に舞台装置の協力を要請しました」
「オゥ! ファイナルツアーは、このフェスティバルの終焉を飾るのデスネー!
最後は電気を消して空に向かって蛍を放ち、幻想的な空間を演出。その隙にマイブラザーを遠距離からくないで狙撃するんデスネー!」
屋台から飛び降りながら割り込んできたマイケル。
発言もタッチーナの影響を受けているようにも聞こえるが、そこは敢えて触れないようにしよう。
「違います。
タッチーナの襲撃をイベントにすり替えた上で、目立ちたがり屋の変態達を舞台に上がってきたところで罠たっぷりのゲームに誘い込んで捕縛するんです。
うまくいけば三人ともゲットだぜっ! って感じです」
ここで閣下がある事に気付いた。
普段ならあっさり聞き流しているところだろうが、何故か今日に限って頭が冴えている。冴えなくても良い時に冴え渡る辺りが馬鹿の余計な能力だ。
「三人? 何故、三人なのだ?
タッチーナと目撃されている筋肉質の強化人間だけなら二人だぞ」
「え? 三人って聞こえました?
ボクはちゃんと二人って言いましたけど」
「‥‥そうか。私の聞き間違えか。
ならば、良い。それにしても見事な作戦だ。舞台があれば、我が威光も民達へ轟かせる事ができるではないか。ぶわっはっは!」
白虎の説明にあっさり引っかかる閣下。
おまけに勝手に自分が目立つ事も考えていた。これだから馬鹿は扱い易い。
「ほう。なら、俺は『香港三大変態大決戦』を『映画撮影』として撮影してやるよ。みんながマグロ型キメラと戦っている姿もばっちり撮ってやるから期待しとけよっ!」
村雨 紫狼(
gc7632)は用意させたビデオカメラを抱えながらサムズアップ。
実は紫狼はタッチーナに敬意を払う希有な傭兵だった。何度も傭兵達にボコボコにされ、時に自爆したとしても各地で騒動を巻き起こす不屈の闘志は評価に値すると考えているようだ。
――もっとも、それ以外は擁護のしようもない惨状である事も紫狼は認めていた。
「舞台に撮影‥‥滾らせてくれるではないか。
曽――じゃなかった閣下、ここはマグロを蹴散らして奴を探す事が先決だぜ」
紫狼の嫁、ビリティス・カニンガム(
gc6900)は、バルディッシュ片手に息巻いていた。
あのタッチーナに決着を付ける事は当然だが、マグロ型キメラを酔わせて倒して調理する事で祭りを更に盛り上げようつもりだ。ちなみに傭兵達の前で女性のスカートを覗き込んだり、子供にゴムボールを投げつけられて逃げ回っているマグロ型キメラは、普段酢味噌の香りを放っている。しかし、酒に酔わせてから倒せば絶品のマグロに早変わりするのだ。
ビリティスに煽られて、閣下はポニーの腹を蹴って市場へ突撃を敢行する。
「私も民達へ良いところを見せねばならんっ!
曽徳鎮大隊、全軍突撃であるっ!」
●
傭兵達はタッチーナ捕縛の為だけに香港へ現れた訳ではない。
前述通り、絶品のマグロ型キメラを追い求めて現れた者も存在する。
「‥‥あっ!
ダメだって! お酒を飲ませてから倒さないと!」
大剣「ブロッケン」でマグロ達を弾き飛ばす冬馬へ、龍深城・我斬(
ga8283)が駆け寄ってきた。その手にはズブロフがしっかりと握られている。
「あ? キメラなんか倒せば同じだろ?」
「違うっ! 酒を飲ませて酔わせてから倒さないと酢味噌の匂いが取れないんだ!」
我斬の悲痛にも似た叫びが木霊する。
マグロ型キメラはびっくりする程弱い。プラスチック製のバットで連打すれば簡単に倒せそうなぐらいに弱い。しかし、美味しく食べようと思うとちょっと手間がかかる。酒を無理矢理に飲ませて酔わせてからでなければ酢味噌臭くて食べられたものではない。
だからこそ、我斬はズブロフをマグロのエラへ注ぎ混んで倒し続けている。
「彼奴らを食べるのか!?
あの気色悪い手足が生えた奴らだぞ?」
面倒臭そうに冬馬が呟く。
あのマグロ型キメラにそこまでの労力を割く事に納得できない。
さっさと斬り殺してしまった方が早い。
何より、あの気色悪い手足が生えたマグロを食す気は起きない。
「‥‥俺は食べる瞬間、その姿を記憶から消す事にしている」
「でしょうね」
冬馬同様、マグロを酔わせずに始末しているユーリ。
料理用のマグロは他の者が確保してくれると信じて、マグロの処理を優先している。今回はタッチーナの大盤振る舞いなのか、マグロ型キメラの数は減っていかない。バグア本星が崩壊してマグロ型キメラの維持が難しいはずなのだが‥‥。
「マグロを一般人にも振る舞うつもりだから、少し多めに料理用を確保して欲しいんだけどなぁ」
エドワード・マイヤーズ(
gc5162)が調理の準備をしながら言い放つ。
エドワードは市場の人達がお祭りと称して浮かれ騒いでいる事から、絶品のマグロ料理を準備するつもりのようだ。
その手には上野大根が握りしめられている。
「おや、その大根もマグロ料理に使うのですか?」
「いや、これは料理には使わない。もっと別な事に使うんだ」
ユーリの問いに、エドワードはそう答えた。
料理に使わないという事は――。
ユーリはあの変態強化人間達に絡むつもりはない。
質問の答えを聞かなかった事にして、機械剣「ウリエル」でマグロを斬り続けた。
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うふふふふふ。
このあいだは、おしりをけってあげられなかったなー。
ごめんね? きょうこそ――ぜんりょくでけってあげるね♪
ほかにもへんたいさんがいるみたいだけどぉ、かんけいないの。
きゃはははは!
せんそうもおわっちゃったから、あたしがあたらしいみちをしめしてあげるんだ。
たのしみにしててね、かれーまにあさん!
●
「くっ‥‥あの変態おむつ男だけでも厄介なのに、さらに馬鹿が揃い踏みとはな!」
マグロ型キメラが多数徘徊する市場で、ルーガ・バルハザード(
gc8043)は苛立ちを隠せなかった。
弟子であるエルレーン(
gc8086)がタッチーナと接触させれば異常な精神状態となる。その事を危惧してエルレーンを止めたかったのだが、マグロ型キメラを蹴散らしている隙に行方を眩まされてしまった。
「邪魔だっ!」
苛立ちを目の前のマグロへぶつけるように、烈火を一閃。
衝撃で跳ね飛ばされるマグロを踏み越えて周囲を見回すが、エルレーンの気配はまったくない。
「何処へ言ってしまったというのだ?」
「あらやだ、イケメンじゃない!?」
声に反応してルーガが振り返って見れば、褐色の肌にブリーフを着用したおっさんが一人。筋肉質の男がなよなよしている様子は、はっきり言って気色悪い。
「誰がイケメンだっ!」
「え? 女なの? なーんだ、つまんない」
がっかりした顔のおっさん。
男性と間違えられた事にルーガは怒り心頭なのだが、ここで怒りに任せて暴れればエルレーンを見つける事はできない。深呼吸して怒りを堪忍袋へ押し込めながら、再び口を開く。
「貴様、件の強化人間か?」
「あら? あたしの事を知っているの?
そう、イケメンハンターのバラゾックよ。それよりそんなにツンケンしてたらモテないでしょ? あたしがイケメンゲットしたら分けてあげようか?」
「いらんっ!」
全否定するルーガ。
変態強化人間がゲットしてきたイケメンを分け与えられたとあっては、自身のプライドが許せない。何より、目の前の変態がルーガを哀れんでいるという事実が許せない。
「もう、そんなに否定しなくてもいいのに」
「おい、貴様は見逃してやる。だから私の邪魔をするな。
それから‥‥イケメンだったらあっちにいたぞ」
ルーガは適当な方向を指差した。
この筋肉ダルマよりも先に相手にすべきは、あの紙オムツの変態だ。
エルレーンを見つけてからゆっくりバラゾックを始末すればいい。
そうとは知らず、バラゾックは歓喜の声をあげる。
「ほんとっ!?
あなた、いい人じゃない! ごめんねー、モテないとか婚活必死とかBBA無双とか言って‥‥」
「いいから早く行けっ!」
こめかみに血管を浮き立たせながら、ルーガは必死に我慢する。
すべては弟子を守る為だ。
エルレーンを止めた後は、この筋肉ダルマをゆっくり料理すればいい。
「エルレーン‥‥正気でいろよ!」
●
「ちにゃーーー!?」
市場の人達が用意してくれた舞台の上で、タッチーナの悲鳴が木霊する。
白虎の作戦通り挑発に乗ったタッチーナは、舞台の上で閃光手榴弾ゲームに興じていた。
お題に沿ったキーワードを答えながら、ピンを抜いた閃光手榴弾を隣の相手に手渡していくというゲームなのだが‥‥。
「三回やって三回とも朕で爆発は、朕の威厳を貶めんとする傭兵達の陰謀だにゃー!」
「古今東西『UPCとバグアの兵器名』をお題にしても意味不明な兵器名ばかり答えるからだよ」
タッチーナを交えてゲームをするが、タッチーナの回答は毎回聞いた事もない妄想兵器ばかり。ギリギリ通った回答が『マグロ』という時点で駄目さ加減は全開MAX。
だから、馬鹿に頭を使わせるゲームはダメなんだって。
「ええぃ、プロトン兄弟も知らぬ愚か者が朕と一緒に合コンゲームを興じようという時点で間違っているにゃー」
「いい加減、この私の威光を前に敗北を喫したと認めるのだ。宿敵よ」
タッチーナが喚き散らす横で腕を組んで余裕の笑みを浮かべる曽。
こいつもゲームの最中は『八門遁甲の陣』を上げて却下されたりと、何度も回答を言わされていたはずなのだが、自分が勝ったと分かって余裕をぶっこいているようだ。
「‥‥くっ、軍人と妄想が悪魔合体したような奴に負けてねぇにゃー」
「なんだと!? 貴様のようなバグアの失敗作を前に敗北を喫した覚えはない」
同レベルの馬鹿が、早速口喧嘩でヒートアップ。
曽は負けてないと胸を張るが、あんたカンボジアで鶏のモモ焼き大食いして負けたんじゃ‥‥。
「こうなったら、朕が育て育んだ刹禍亜でビビらせてやるにゃー」
徐に舞台の上へサッカーボールを置くタッチーナ。
そういえば、このサッカーボールで攻撃するって息巻いてたね。
「ぶわっはっは。そんなボールで私を傷つけるというのか。笑い草だな、滑稽だな、笑っちゃうな」
「そのセリフはこの一撃を食らってからほざくがいいにゃー!」
勢い良く放たれたタッチーナのシュート。
ボールは珍しく狙い通りに放たれ、曽に向かってまっすぐ飛んでいく。
「ぶべっ!」
ボールは曽の顔面に命中。
しかし、ボールにゴムが付けられていた為、再びタッチーナの元へ戻っていく。
「ぐへっ!」
曽同様、ボールは顔面を捉え、タッチーナの体を後方へと吹き飛ばした。
馬鹿二人の顔面にダメージを与えた結果に終わったのだが、面倒なのは――この後である。
「ひえぇぇぇ! 私の鼻から血がっ!
名家が負傷した! 痛い痛い痛いっ!」
ボールがぶつけられた曽は、鼻血を出したらしく舞台の上で駄々っ子のように大騒ぎ。 そこには名家の威厳も減ったくれもない。
「早く衛生兵を! いや、それよりも私を護る為に大隊すべてを招集させろ!」
今時小学生でも鼻血一つで大騒ぎをする事もないのだが、プライドばかり高い馬鹿はひと味違った。
一方、タッチーナの方も鼻血は出ていたのだが、超回復で治っているようだ。
「ふふ、朕の刹禍亜を前に致命傷のようだにゃー。
さすが、朕が開発した殺人競技。恐ろしい事だぜ?」
いや、お前さっき後漢末期の武将が使ってたって説明してたじゃん。
「とにかく、タッチーナ師匠はゲームに負けたので罰ゲーム!
二人とも、お願いしますっ!」
これ以上、曽の醜態を舞台で晒せばUPC軍の沽券に関わると判断した白虎は、強引にショーを進行させる。
白虎の指示を受けて現れたのは、エドワードと霧依の二人だ。
「え?」
事態を把握し切れていないタッチーナは事態を見守っていたが、エドワードが思わぬ行動に出る。
「それでは最大級のプレゼントといこうか!」
そう叫んだエドワードはタッチーナの紙オムツを一気に膝まで下げると、信州諏訪地方の伝統野菜『上野大根』を一気にケツへブッ刺した。
脱がしてから刺すまでの速さは、タッチーナに防御させない程の素早さ。おそらく相応の練習を重ねて来たに違いない。
「ぎぇぇぇぇ!」
突然の衝撃で、舞台に転げ回るタッチーナ。
見ていた観客はその無様な姿に爆笑。こいつがバグアの強化人間だと誰も信じていない様子だ。
「‥‥くっ、罰ゲーム‥‥恐ろしいにゃー」
「はぁい、タッチーナちゃん。相変わらずねぇ」
折れた大根を引き抜いて紙オムツを戻すタッチーナに霧依が優しく話し掛ける。
「私は故郷に平和が戻った喜びを伝えに来たの♪
故郷の下仁田ネギと蒟蒻を振る舞ってあげる」
「ほほう。先程朕が受けた罰に対して優しく労ってくれるという訳かにゃー。
いやー、傭兵の中にも朕へ優しい者がいるんだにゃー。これって人徳かにゃー」
「じゃあ、味わってね」
そう言いながら、霧依はタッチーナの紙オムツに熱々の蒟蒻を流し込む。
蒟蒻芋から作った蒟蒻は、熱さと同時に痒みも与える。
「え!? ちょ、おま‥‥朕を労うんじゃ‥‥」
「労うなんて言ってないわよ。下仁田ネギと蒟蒻を振る舞うって言っただけだもの。
じゃあ、次はネギね♪」
下仁田ネギにはとろろ芋が塗されている。
霧依は再び紙オムツを引き摺り降ろすと、ケツに向かって突き刺した。
「ぎぇぇぇ! 再び朕の尻に攻撃をっ!
つーか、お前等なんで朕の下半身ばかり集中攻撃? 朕の栄光ある下半身は、既に崩壊寸前ボロボロですよ」
再び転げ回るタッチーナ。最早、周囲の誰一人も哀れんでいない辺り、一流の芸人なのかもしれない。
一方、この舞台を撮影し続けている紫狼は‥‥。
「さすがにテレビ放映は無理だろうが、モザイクぶち込んでネット配信ならいけるだろ! いや、思い切ってDVD販売するって手もあるな。問題は編集で何処をカットするか、だな」
既に放送に向けて思案を始めているようだ。
馬鹿を晒し続ける阿呆どもは、確かに一見の価値はある。予定ではネット配信するだけだったのだが、マグロ無双と三大変態いぢりを収めた貴重映像に金の匂いが放ち始めている。
「タイトルは『タッチーナ Sky 〜香港でマグロっちゃいました♪〜』だな。
こりゃ、行けるな!」
●
舞台を含めて市場中がお祭り騒ぎになっている最中、エドワードによるマグロ解体ショーが開催されていた。
「‥‥そこでワイフが言うんです。『あなたの包丁はそんなに小さかったの?』って。そりゃ事ある毎に私と一緒に研ぎ続ければ小さくもなるってもんです。
おい、スティーブ。あんまり笑うとお前の所に包丁持ったワイフが訪ねてくるぞ」
軽快なジョークを交えながら、観客を楽しませる事を忘れないエドワード。単に調理作業を見せるのではなく、調理そのものをショーへと変貌させる。一昔前の料理ショーを即興で演じて見せているのだ。
もっとも、エドワードの傍らにある巨大な木目調のミルが異彩を放っているのだが。
「では、ここで小麦粉を‥‥」
「ぶるぅわぁぁぁっ! ベリーナイスなクッキングですネー」
突如現れたのは、マイケル。
どうやら、ランチビュッフェと称して付近の屋台を食べ歩きしていたようだ。
食べ歩きする前にキメラ退治とか、タッチーナ止めるとか、いろいろあるじゃん?
「ノープログレム!
拙者の熱き魂はキッスで目覚め、素っ裸で宇宙を駆け巡るのデース!
そして、このマグロにはグッドなスメールが不足してマース!」
意味不明なテンションでキッチンに乱入したマイケルは、エドワードが用意していたマグロに茶褐色の調味料を振りかける。
「あー! 何してくれるんだ、スティーブ!」
「HAHAHA! 拙者はマイケルデース。
振りかけたのは全国のショップで話題沸騰、お取り寄せナンバーワンのオリジナルフレグランス『折衷案〜お前の物は俺の物〜』デース!」
マイケルはお取り寄せ商品のように言っているが、実際はマグロに酢味噌を振りかけていたようだ。
マグロの酢味噌臭いを取るために酔わせて倒したのに、わざわざ酢味噌を掛けて風味を戻す辺りがタッチーナに近い属性を感じさせる。
「スティーブ! 余計な作業を増やすんじゃない! 本当にワイフが殴り込んでくるぞ」
酢味噌を掛けられたらマグロを、エドワードは一生懸命洗い流す。
その傍らで酢味噌を掛けた張本人が腕を組んで考え込んでいる。
「‥‥もしかしたら、分かったかもデース!」
「何が?」
既にあきれ気味のエドワード。
こういう展開の場合、思い付く事はろくでもないと相場は決まっている。
「あの香しいフレグランスこそが、マグロさんが踊り続けられる秘密デース!
あの香りが元気の源‥‥だったら
その香りを体に取り込めば人類は新たなる進化を遂げるに違いありまセーン!」
「酢味噌臭いマグロ? だったら、その裏に積んであるけど」
エドワードが指差す先には、冬馬やユーリが酔わさずに倒したマグロが積み重なっている。酢味噌の香りが充満し、もの凄い数の蠅が殺到していた。
見るからにヤバいマグロの死骸。マイケルは臆する事なく突撃していく。
「ぶるぅわぁぁぁっ!
拙者に吸収されたい奴は誰だあぁぁぁぁぁ!」
そう叫びながら、酢味噌臭いマグロに食らい付く。
蠅と格闘しながらマグロの身を頬張るその様は、タイ北部のジャングルで育った野生児を彷彿させる。
己の妄想を育むマイケルの将来は、タッチーナのような紳士になりそうだ。
「スティーブ、あっちの世界へいっちゃったんだね。
‥‥じゃあ、料理の続きといこうか」
エドワードは、マイケルと視線を合わせないようにしながら料理ショーを継続した。
●
「見つけたっ!
やだー、超いけめん揃いじゃなーい!? あのおばさん、やっぱりいい人じゃないの」
バラゾックの前には、冬馬、ユーリ、我斬の三人。
どうやら、ルーガが適当に指差した先に、偶然この三人が戦っていたようだ。もっとも、我斬は酔わせて倒したマグロ達を捌いて屋台の親父に渡している最中なのだが。
「おい、なんだアレは?」
冬馬は、傍らにいたユーリへ小声で話しかける。
おっさんの手足が生えたマグロを斬り続けてきた彼らの前に、屈強で毛だらけの親父が体をくねらせているのだから、悪夢同然だ。
変態と関わり合いになりたくないユーリも、返答に困っているようだ。
「聞かないで欲しい」
「そうか」
言葉をかわした冬馬とユーリ。
バラゾックを視界に入れないようにしながら、マグロを確実に仕留めていく。
嫌悪感全開で寄ってくるなオーラを放出しているのだが、如何せん相手は残念な強化人間。そういう空気を読むのは得意じゃない。
「あらやだ、二人とも照れちゃって。あたしの魅力的なバディを前だから仕方ないわね」
「‥‥‥‥」
沈黙を守る二人。
心なしか冬馬の殺意が更に増しているようにも見える。
「まあ、いいわ。
じゃ、そこのあなた」
「ん? 俺?」
バラゾックは、ターゲットを我斬へと切り替えた。
「そう。あなた。
そんなマグロの切り身を弄り倒すよりも、あたしの豊満バディを弄り倒して見ない?
あたしの魅力的なバディを一度弄れば‥‥」
「パス」
バラゾックの言葉を遮って、我斬はあっさり否定した。
「なによ! あたしよりもマグロの方が大事だってぇの?」
「当たり前だ! このチャンスを逃したら、いつ食べられるのかも分からない絶品マグロだぞ。今ここで食べなきゃいつ食べるんだ」
我斬の瞳が、キラリと光る。
今までタッチーナ絡みの依頼に飛び込んで来たのも、すべては絶品マグロを食すため。しかし、戦いが終わっていざ食べようと思っても、一般市民に食べられて我斬の分け前が減った事もあった。
今回、絶品マグロを思い切り食べられる最後のチャンスかもしれない。そこで我斬は屋台のおやじに料理を作らせ、出来た料理から片っ端に食べていく戦法に出た。
このマグロを食べられさえすれば、タッチーナやバラゾックや閣下なんてどうてもいい。
すべてはマグロの為だ。
「最後かもしれないしなー、まあオーソドックスに刺身とづけ丼が良いかなあ、カブト煮も捨てがたい。親父、とりあえず頼むぜ」
トレイに乗せられたマグロのブロックを屋台の親父へ手渡す我斬。
バラゾックの魅力は、我斬にとってマグロブロック以下。我斬に限らず、一般人に聞いても同じ答えだろうが、バラゾックには許されない事件であった。
「ちょっと、失礼じゃない!?
このダイナマイトなハニーを、でもいいんじゃない? みたいな扱いするなんて」
「うるさい。黙れ」
我慢の限界だったのか、冬馬は迅雷で一気に詰め寄るとブロッケンを薙いだ。
ブロッケンの刃がバラゾックの体を捉えた――はずだった。
「!?」
「あら、いきなりとは失礼しちゃうじゃない」
刃はバラゾックの体を切る事なく、通過した。
手に残るのは、何かに滑らされた奇妙な手応えだけ。
「残念だったわね。あたしの体は特殊なワセリンが分泌されているから、直接攻撃は効かないのよ」
説明らしい説明をありがとう、バラゾック。
直接攻撃が通用しないのであれば、バラゾックを物理的に攻撃するのは難しい。冬馬は、次なる攻撃を思案しながらゆっくりと距離を取った。
「何処へ行こうと言うの?
これから、魅惑のバラゾックルームでエキゾチックジャパンな時間が始まるというのに」
現在の状況を有利と判断したバラゾック。力士のような摺り足でゆっくりと冬馬へ近付いていく。
「‥‥やれやれ」
冬馬の対応を見ていたユーリは、眼前のマグロを斬り伏せると、バラゾックの方へ向き直った。
「今度はそっちのイケメンが相手してくださるのかしら?
いいわよ、お姉さんがいろいろ教えて、あ・げ・る」
調子に乗った馬鹿は、何処までも上っていく。後から急降下にするお決まりパターンなのだが、学習しない辺りが馬鹿たる所以だ。
「それっ!」
「へぶぅ!」
体に衝撃が走るバラゾック。
思わぬ異変にハートもブレイク寸前。バラゾックの鼓動も高鳴る続ける。
「‥‥なにこれ!?
これがラヴって奴? 痺れるような感覚は、恋の呪文で雷を呼んだのかしら。いや、つーかむしろあたしの体が雷と化したパワーあるヴィジョン?」
「ふん。要は物理攻撃をしなければ良いだけだ。相応の武器を使えば問題はない」
ユーリの手に握られているのは天剣「ウラノス」。
攻撃はすべて非物理攻撃と化す。おまけにバラゾックはワセリンに頼って攻撃を避けるという行為をサボってきた。そんな変態筋肉ダルマの馬鹿に攻撃が躱せるはずもなかった。
「ちょっ、ちょっと待って!
こんな攻撃って狡くない? あたし、単なるサンドバッグじゃない?」
「こっちは人生の貴重な時間をあなたに割いている。正直、大切な時間をコンマ一秒でも割きたくはないが‥‥短時間ですべてを終わらせる事に全力を掛けよう」
ユーリはウラノスを改めて握り直す。
実際、多くの者がこの筋肉オカマに絡む事を拒否している以上、誰かがこいつを処理しなければならない。そのお鉢が自分に回ってきたと覚悟したユーリは、短期決戦をバラゾックへ挑む。
つまり、筋肉オカマへ引導を渡すつもりだ。
「ぶぇぇぇぇぇぇ!」
為す術もないバラゾック。
こうして、変態の一匹は捕縛された。
残りは二人――あれ?
●
舞台の上では、馬鹿を弄るショーがな未だに続いている。
「刹禍亜にもう一つのルールがあるんだけど、知ってる?」
「なにぃ!?
刹禍亜の名手にして最強の遣い手たる朕の知らないルールが存在するだと!」
白虎の策略にあっさり引っ掛かるタッチーナ。
そもそも、刹禍亜ってお前の妄想が生み出した悪ふざけなのに。
「もう一つのルール‥‥それは『悲異傾』――交互にボールを蹴り合い、最後まで立っていた方が勝者というデススマッチ!」
「おおっ! 互いが結んだ約束を曲げることが出来ない不器用な漢達。その約束を掛けた意地と意地のぶつかり合い! こりゃ、腐女子の皆様に受けること間違いなしだにゃー」
白虎の新ルールで更なる妄想を膨らます馬鹿。勝手に盛り上がってくれるから、詐欺師でなくても騙すのは簡単だ。
「では、ボクから蹴りますねー」
「おしっ、来い!
朕は二度と約束を違わん! お前はお前の約束を守り抜いて‥‥死んでいけっ!」
中腰で身構えるタッチーナ。
いや、そのセリフは蹴る側が言うセリフじゃないのか。
「いっきまーすっ」
白虎は、元気よくボールへ駆け寄っていく。
ボールの目の前で足を振り上げるかと思ったが、両足とも地面へ貼りついたまま。代わりに手にはショットガン一丁。
「それっ!」
「ごふっ!」
至近距離から放たれたショットガンは、タッチーナの腹に炸裂。腹部に大きな銃創を作りながら後方へと吹き飛ばす。
「あれ?
ボールとショットガンを間違えちゃった♪」
有り得ない勘違いを白虎は、可愛さ全力アピールで乗り越える。
どう考えても間違えようがないのだが、当の本人は事態を正常に理解できていない。
「あ、間違えたなら仕方ないにゃー。誰にだって間違いはあるにゃー」
早くもタッチーナの傷が治りかけている。このまま頭の方も修復できれば良いのだが、そればかりはバグアの技術でも無理のようだ。
「おい、タッチーナ」
次に姿を現したのはビリティス。
バルディッシュでソテーしたマグロを摘みながら舞台に立つ。
「お前、さっき漢がどうとか言ってなかったか?
漢だったら、ゲンコツ一つで語り合うもんだろ!」
手にしていたバルディッシュを舞台に置き、ビリティスは拳を握り締める。
「朕は漢である前に紳士なんだが、挑まれた勝負を逃げられないのが紳士の辛いところ。良いでしょ。懐の大きな朕が豊満な胸を貸してあげるにゃー」
タッチーナもビリティスの挑戦を受けるべく拳を握り締めた。
漢と漢による、拳の語らい。
熱き魂が激突し、猛り、更なる高見へと誘っていく。
――だが、それは同じレベルの強さがぶつかった時の話である。
「ぶげっ! ‥‥へぶっ!」
ビリティスの猛烈な拳撃はタッチーナの体へクリーンヒット。
一方、タッチーナの拳はビリティスへ届く前に力が抜けて貧弱なものとなる。
結果、タッチーナがビリティスへ殴られ続けるサンドバック状態。漢を感じさせる部分は欠片もなかった。
「なんだ、こりゃ?」
バラゾックをUPCへ引き渡した冬馬は、舞台近くまでやってきた。
タッチーナをブロッケンで切り刻んでやろうとしていたが、舞台の上では傭兵達による馬鹿弄りが続いている。切り刻むよりも酷い惨状が繰り広げられている現実に呆れるばかりだ。
「むっ、やはりここに居たか。あの変態は」
息を切らせながら冬馬の傍らへやってきたのは、ルーガだ。
「ああ、さっきから終止この調子だ。筋肉オカマも捕まえたから、残るはあいつだけだ」
「そうか、あのオカマは捕まったのか。
それより、弟子のエルレーンを見なかったか?」
ルーガは、未だにエルレーンを発見出来ていなかった。
早く見つけて止めなければ、また弟子が暴走しかねない。
「エルレーン? 見てな‥‥いや、見つけた」
言い直した冬馬に、ルーガは顔を見上げて問い掛ける。
「どこだ!?」
冬馬は、黙って舞台の方を指差した。
そこには、タッチーナの背後に忍び寄る影が――。
「かれーまにあさぁぁぁん!
私が来たよ! 急いで来たよ! エルレーントレインは定刻通りだよ!」
久しぶりのタッチーナを捉えたタッチーナは、大興奮で駆け寄った。
既に瞳孔は開きっぱなし、鼻息を荒げての登場。明らかに精神状態は普通じゃない。
「ぶげぼばべだ‥‥」
ビリティスに殴られ続けるタッチーナは、まともに声を発することもできない。
しかし、エルレーンに取ってはそんなもの些細な事である。
「ああ、後ろに倒れそうなんだね?
ダメだよ、漢は常に前向きなんだから。倒れるときは前のめりじゃないとね!」
その言葉と同時に放たれる、尻への猛烈な蹴り。久しぶりに蹴ったタッチーナの尻に身を振るわせながら、連続キックを繰り返す。
「オラオラオラオラ」
「あっはははははははは」
前からはビリティス、後ろからはエルレーンによる攻撃を同時に受け、倒れる事も出来ないタッチーナ。
攻撃は10分以上続き、ルーガと冬馬が止めるまで攻撃をが止まる事はなかった。
そして、攻撃が止んだ後――タッチーナは、立ったまま気絶していた。おまけに紙オムツも失禁。紳士らしさも失われ、そこにはただの変態が立ち尽くしているだけだった。
●
タッチーナとバラゾックは捕縛され、UPC軍の施設へと搬送された。閣下の方は鼻血を出しただけなのに、すべて自分だけの力で捕縛したと勘違い。意気揚々と基地へ戻っていった。
残された傭兵達は、調理したマグロを観客へ振る舞いながら祭りを堪能していた。
「ふぅ〜、食った食った。
マグロの食い納めとしては、最高だ」
我斬は、マグロの余韻に浸っている。キメラが減少していく状況では、このマグロを食す機会は極端に減っていく。ならば、ここで食べるだけ食べておくしかない。
「うむ、確かに満足だ。市民にとって最高の祭りになったようだな」
愛用のバルディッシュでマグロを調理をしていたが、一段落して休憩に入っていた。マグロ型キメラを倒し、調理して配る。その最中にタッチーナを殴り続けていたのだから、大した体力だ。
「で、そっちの撮影はどうなのだ?」
ビリティスは紫狼が撮影していた映像が気になっていた。
自分がどう映っているかも気になっていたが、この祭りがどのように作品へ仕上げられるのか、興味深々だった。
「任せとけっ!
最高の作品に仕上げてやるからな!」
紫狼は、自信たっぷりに答えた。
●
その後、紫狼が撮影した映像はネットへアップされたものの、曽の醜態まで晒すことにUPC軍内部で問題視されるに至った。
慌ててネットから削除したも誰かが再びアップしてしまうため、馬鹿達の勇姿と恥はネットで永遠に息づいていく事だろう。
そして、あの超弩級の馬鹿はというと――。
「見事密航成功だにゃー」
UPC軍に捕まった後、施設から脱走したタッチーナは、月面へ向かう貨物船の中に居た。
「やはり、朕のようなビックな紳士が青い星に閉じ込められているなんて財産の喪失。エラい人がげきオコスティックファイナリアリティぷんぷんドリームだにゃー」
こいつ、宇宙へ来てから何するかも考えていない。馬鹿の行き当たりばったりな行動は、始末に負えない。
「まあ、行けば何とかなるにゃー。
‥‥ん? この音はなんにゃ?」
タッチーナが潜んでいるのは月面基地へ届けるコンテナの中。そのコンテナの外から聞こえる金属音。何か金属同士が擦れ合っているように聞こえる。
「何の音かにゃー」
そっとコンテナの扉を開けて外の様子を伺ってみる。そこにはデビルズTを引き摺ってさまよい歩く女性が一人。
「うふふふふふ。どこかなー、かれーまにあさん」
貨物室に響くエルレーンの声。
明らかに精神状態はやべぇ。完全にホラー映画のワンシーンだ。
「隠れてもむだだよぉ〜。
ばぐあも帰っちゃったし、やることないんだよね。
だからねえ、私がおうちで飼ってあげるよぉ‥‥。だいじょうぶ、ルーガはちゃんとせっとくするから‥‥」
どうやら、エルレーンはタッチーナをペットとして飼い慣らすつもりのようだ。
(ゲェ! あんなのに捕まったら朕の尻がキャッチャーミットのように腫れ上がるにゃー)
狭い貨物室で体を震わすタッチーナ。
エルレーンに捕まったらエンディングはどのルートを通ってもバッドエンディング確定だ。
「おさんぽだって連れてってあげるよ。おこづかいもあげるよ。
だから、私のお尻を蹴らせて。
嫌って言っても、だめなんだよ?
だって私強いもん。無理矢理捕まえたら‥‥張り付けにして‥‥うふふ。うふふふふふふ」
その後、タッチーナは行方不明となる。噂では火星へ逃れた末、バグアの技術で分裂。群を成したタッチーナが梁山泊を名乗ってUPCに攻撃を仕掛けたとも、月面基地と一体化したタッチーナへKVで単身突撃した少女が『お前が好きだ! お前が欲しい!』と言わせた等、様々である。
しかし、真実は誰にも分からない――。