タイトル:【LP】島は潮風に揺れるマスター:近藤豊

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/01 01:26

●オープニング本文


「さて、次の任務ですが‥‥」
 菜陽空軍基地へ帰還したブラウ・バーフィールド軍曹(gz0376)にもたらされた通信。
 無線機の向こうから聞こえる冷淡な声に、軍曹は顔を歪める。
「キメラの掃討が完了したにも関わらず、労いの言葉一つもなしですか? 少尉殿」
 広州軍区司令部付事務補佐官ドゥンガバル・クリシュナ少尉。
 今回、北京解放作戦の支援として広州から軍曹を送り込んだ張本人である。現場でたたき上げてきた軍曹からすれば、実戦経験の乏しい少尉とは正直馬が合わない。
「与えられた任務を完遂するのは軍人として当然ではありませんか?」
「ぐっ、貴様‥‥」
 軍曹は奥歯を噛み締める。
 クリシュナは上官ではあるが、軍曹はクリシュナを一度も上官と考えた事はない。だからこそ、現場を軽視する発言は腹が立って仕方がない。
「今回の北京解放作戦はUPC軍にとって非常に重要な意味を持っています。我々は万一を考えて山東半島のキメラを掃討、後方の憂いを断つ事が要求されています」
「奴らは‥‥軍人ではない! 奴らは豚の汚物、否、それ以下の存在だ。銃を撃つことすら早すぎるっ!」
 軍曹は無線機に向かって怒鳴りつけた。
 未だ育成課程にある新兵たちを軍人として扱う事に無理がある。そもそも、先日もキメラと戦闘になったが、新兵たちは銃の取り扱い方を学んでいる最中だった。銃を一発も撃っていない新兵を連れてキメラを倒せというのだ。
 軍曹からしてみれば、人間にも満たない人型のクソをキメラにぶつけているだけに過ぎない。
「以前も申し上げましたが、現在は人類の存亡の危機です。彼らに十分な訓練時間を与えられない事が悔やまれますが‥‥能力者である以上、新兵であっても戦果を期待されている事を理解いただきたい」
 語気を荒げる軍曹に対して、クリシュナはあくまでも冷静に返答した。
 能力者はUPC軍すべての戦線からみても圧倒的に不足している。今でも普通の人間である兵士がバグアとの戦闘を繰り返しているという事は、つまり新兵であっても能力者として戦果を求められる状況にあるのだ。
「そこまで言い切るなら貴様も広州から出てきたらどうだ? 小蠅の戦いぶりを見れば、そのねじ曲がった根性も直るのではないか?」
「‥‥‥‥そうですね、今回は私も現地へ参ります」
 一拍置いた後、クリシュナは現地行きをあっさり受諾した。
「ほう。どういう風の吹き回しだ?」
「少々気になる事があります。
 ですが、それよりもあなたの上官に対する言葉遣いを直して差し上げないといけません。下品な言葉遣いは軍全体の品位を疑われます」
「うるさいっ!」
 軍曹は通信機のマイクを握りしめる。
 少尉は、戦場を見ていないからこのような発言をしているか。
 それとも、兵士は幾らでも量産可能と考えているのか。
 いずれにしても、軍人である以上命令に従わざるを得ない。軍曹の軍人としてのプライドが怒りに満ちた心に蓋をする。
「‥‥青島市の沖合に位置する小島にキメラが確認されています。目標は猿型キメラが2体、既に付近の漁師がその姿を確認してUPC軍へ通報しています」
 軍曹の怒りを無視しながら、クリシュナは次の任務を語り出した。
 クリシュナによれば、青島市にある地図にも載っていない島に猿型キメラが現れたという。青島市はUPC軍にとって非常に重要な地域であり、万が一北京解放作戦が失敗して中国大陸から撤退という事になれば山東半島の青島市が出口の役割を果たす。青島市及びその沖合に居る敵勢力は迅速に排除されなければならない。
「軍曹は部隊を率いて軍艦で島まで急行。上陸用ボートで島に上陸して猿型キメラを排除して下さい。それから、傭兵を雇うならば‥‥」
「自費で賄えというのだろう! 分かっている!!」
 軍曹は怒鳴り散らしながら無線機を切った。

●参加者一覧

緑川安則(ga4773
27歳・♂・BM
八葉 白雪(gb2228
20歳・♀・AA
八葉 白珠(gc0899
10歳・♀・ST
赤槻 空也(gc2336
18歳・♂・AA
ネオ・グランデ(gc2626
24歳・♂・PN
テトラ=フォイルナー(gc2841
20歳・♂・DF
悠夜(gc2930
18歳・♂・AA
エティシャ・ズィーゲン(gc3727
15歳・♀・ER

●リプレイ本文

●襲来
 青島市軍事基地に輸送ヘリが到着する。
 回転するプロペラが大量の風を巻き起こす中、ヘリからドゥンガバル・クリシュナ少尉が姿を現した。
「少尉、長旅お疲れ様です!」
「挨拶は結構。それより目標の小島ですが、封鎖は完了していますか?」
「はい、封鎖は完了しています。キメラ出現のため、近隣の漁師に通達しています」
「という事は、あの島は無人という事ですね。それは結構。
 急ぎましょう、軍曹の堪忍袋は堅くありませんから」

●戦場へ
 ブラウ・バーフィールド(gz0376)軍曹と新兵、そして傭兵達を乗せた軍艦は、猿型キメラ『ポテチョエラ』の待つ青島市沖の小島へと向かっていた。
 標的は猿型キメラ2匹。
 傭兵たちからすれば比較的簡単な任務と言える。
 しかし、軍艦のブリーフィングルームは重苦しい雰囲気に包まれていた。
「軍曹。状況の報告をお願い致します」
 クリシュナは手元の資料へ目を落としたまま、軍曹へ命令を下す。
 クリシュナがこの部屋に現れてから、誰も会話をしようとしない。訓練中のキメラ退治に新兵を導入しようと上層部に打診しているのは紛れもなくクリシュナなのだ。死の戦場へ放り込んだ男を前に、暢気に談笑する気は起こらないだろう。
「それは、今貴様が読んでいる資料にすべて書かれている」
「私が欲しているのはここに記載されていない情報です。聞けば、以前のキメラ掃討において不審な気配を感じた者が居ると聞いています。それについての報告をお願いします」
「その件については、私が適任だろうな」
 エティシャ・ズィーゲン(gc3727)がクリシュナへ歩み寄る。
 蟷螂型キメラ『フリークアウト』掃討時、怪しい気配を感じ取った事を報告していた張本人である。
「あなたが?」
「そうだ。怪しい気配を感じ取ったのは、私だ。もっとも、その気配は気のせいかもしれないが‥‥」
「その気配ですが、どの方向で感じ取りましたか?」
「海‥‥正確には北東の方角というべきか。何者かがこちらをじっと見据えている。まるでキメラと戦う我々を観察している、そのような印象だ」
「そう、海ですか」
 クリシュナはそう呟いた後、再び資料に目を落とした。
「少尉様か。まったくブリキの勲章と将来ある新兵。どっちが重要か考えてくれるといいんだがな」
 緑川安則(ga4773)が嫌味たっぷりに叫んだ。
 緑川は危険過ぎる新兵の動員に意を唱え続けていた者の一人だ。
「あんたにとっては新兵が補給の効く物資かもしれんがな。実践はシミュレーションゲームとは違うんだよ。生産コマンドで大量に生産出来るなら、今頃我々はバグアを追い出せるんだよ!」
 そう叫びながら、クリシュナに向かって拳を振り上げる緑川。
 だが、その拳は軍曹によって捕まれてしまう。
「離せ、軍曹」
「作戦前に騒ぎを起こせば、新兵たちも動揺する。今は堪えろ」
 冷静を保つ軍曹。
 しかし、緑川の手首を掴む手に込められた力の入れ具合で、軍曹も本当であればクリシュナを殴り飛ばしたい事を察した。
「‥‥んのクソ野郎が‥‥ヒトの血通ってんのかよ‥‥」
 ぼそっと悪態をつくのは赤槻 空也(gc2336)。
 どうやら、空也もクリシュナに好印象を抱いていないようだ。
「あまり雰囲気が良くありませんね」
「誰のせいだと思っているんだ!」
 クリシュナな冷淡な反応に、緑川はさらに機嫌を悪くする。
「先程あなたが言われていた主張は、意見の一つとして拝聴させていただきました」
「アン!? てめぇ、何言っているのか分かっテんのか?」
 今度は、空也は怒りのあまり机に拳を叩き付ける。
「ですが、我が軍の慢性的な能力者不足は看過できない状況です。ULTから傭兵支援を打診しても、世界規模で広がるバグアとの戦闘。無数に現れるキメラを前に、能力者ではないUPC軍人は倒れています。彼らの中には能力者でない事を嘆きながら、戦場で死んでいく者もいるでしょう。
 今回新兵を動員している理由も能力者かつ志願兵である事が理由です。少しでも戦えるものが居るならば、私は戦場へ赴くべきと考えています」
 それだけ言うと、再びクリシュナは手元の資料に視線を落とした。
 事実、傭兵たちに支援を打診しても広がる戦線は留まる事を知らない。本当であればすべてのUPC軍人が能力者であれば、新兵の動員をしなければ良いのかもしれないが、現実はそれを許してはくれないようだ。
「‥‥要するに新兵を支援しながら、キメラを倒す。
 それが今回傭兵に打診された依頼なのだろう。ならば、それを遂行するだけだ」
 一連のやり取りを聞いていたテトラ=フォイルナー(gc2841)は、そう呟いた。
 新兵だけでは不安、だからこそ傭兵にULT経由で招聘されたのだ。軍曹のポケットマネーという点には引っかかるが、依頼は達成するだけ。
 テトラは再び沈黙した部屋の中で、ゆっくりと瞼を閉じた。


●上陸
「たまちゃん、着きましたよ」
 八葉 白雪(gb2228)は八葉 白珠(gc0899)の手を引きながらボートから下りる。
 軍艦では小島に上陸する事ができないため、沖からゴムボートに乗っての上陸となっている。
「‥‥新兵さん。‥‥わたしと同じ新兵さんなんですね!」
 白珠は砂浜で待機する新兵を見つめながら元気よく叫ぶ。
 実際には白珠の方が能力者として先輩なのだが、同期と考える白珠はちょっと嬉しい様子だ。
「まあ、少し前の俺もあんな感じだったんだろうが‥‥」
 ネオ・グランデ(gc2626)も感慨深そうに新兵を見つめる。
 誰もが通る新人という道。それを歩む姿を見るだけで、ふと過去の自分を見ているかのような錯覚に捕らわれる。
「‥‥けっ、そんな事よりさっさと猿二匹をブチ殺して帰るとしようぜ」
 気怠そうに呟くのは、悠夜(gc2930)。
 今回、ポテチョエラ掃討に対して傭兵は二班に分けて捜索する形となった。
 空也、テトラと仲の良い悠夜だったが、今回は別の班として捜索する事になる。
「でも、そのお猿さんですが‥‥何処にいるのでしょうか」
「雪姉さま、あそこに人が居ます。もしかしたら、目撃しているかもしれません。聞いてみましょう」
「あ、たまちゃん!」
 白珠は砂浜の向こうに人影を見つけて走り出した。
 探索前に一人きりにするのはまずいと判断した三人は慌てて後を追いかける。
「うっ、なんだあいつ?」
 次第に近くなる人影に悠夜は思わず顔をしかめる。
 琥珀色の肌でパンツ一枚、額には『金』の文字が入った異様な出で立ちの男。明らかに漁師には見えない。
 それでも白珠は、礼儀正しく男に話しかける。
「あの、すいません。
 ピンクのお猿さんを見ませんでしたでしょうか?」
 しかし、男は白珠の方を一瞥。何故かグランデと悠夜の方をじっと見据えている。
 怪しさを感じたグランデが悠夜へ囁く。
「お、おい。何故かあいつ、こっちをじっと見ているぞ」
「なんだ、てめぇ。やんのかよ!
 こっちは単に猿が何処に言ったか聞きたいだけだ!」
 怒鳴る悠夜。
 それに対して男は、二人から視線を外す。今度は山の上をじっと見つめ始める。どうやら、猿を山で見かけたという事を伝えたいらしい。
「へっ、シャバ僧が。始めからそうすりゃいいんだよ。なぁ?」
「あ、ああ。そうだな‥‥」
 悠夜に話しかけながらも、男の怪しさに戸惑うグランデ。
「ありがとうございます。雪姉さまも行きましょう」
 白珠は振り向く二人の後を追いかけ始める。。
 白雪はその場を去ろうとする三人の代わりに、男に向き直ってお辞儀をする。
「お忙しいところ、申し訳‥‥え?」
 白雪が頭を上げる。
 そこには男の姿はなく、ただ波が静かに打ち寄せるだけであった。

●猿の悲哀
「所詮は猿か‥‥」
 グランデは目の前でレーションを貪るポテチョエラに言い放った。
 ポテチョエラの習性を活かし、地面にレーション「ビーフシチュー」をばらまいた見た。案の定、意地汚いポテチョエラは地面に散乱したビーフを穿りだしている。
「いいか。負傷兵は直ちに後方に下げ、適切な処置を施す。我々はアタッカーじゃない、リペアラーだ。攻撃は支援に留め、常に戦場を見渡せ。私達を求める声は、常にある。それを忘れるな」
 戦闘を目前にしてエティシャは衛生兵の新兵へ小声で声を掛ける。
 確実にこの場で戦闘が行われる。怪我をした者を迅速に交代させ、処置を施す。衛生兵として重要な任務である。既にグランデ、緑川、悠夜の三人には練成強化を施している。戦闘準備は万端だ。
「周囲索敵! 残り一匹に警戒しろ!」
 緑川は軍曹の代わりとばかりに、新兵たちに指示を飛ばす。
 軍曹は別班へ赴いたため、こちらの班に割り振られた戦闘要員は緑川が指示をしているようだ。
「いくぞっ!」
 小銃「S−01」を片手に突入を開始する緑川。
 それに続く形で新兵たちもアサルトライフル片手に突撃を開始する。
 突然の来訪者にポテチョエラは、手に握りしめるジャガイモを地面へと投げ捨てる。
 食事時間を邪魔されて怒るポテチョエラ。
「じゃあ、まあ久しぶりに‥‥近接格闘師、ネオ・グランデ。推して参る」
 緑川と新兵に意識を向けるポテチョエラをよそんじ、グランデは側面へ回り込む。
 そして、機動力の元とも言える足をステュムの爪で攻撃する。
「ギャっ!」
 引き裂かれるポテチョエラの足。
 痛みに反応してグランデの居た場所へ拳を振るう。
 しかし、グランデはバックステップで拳を避ける。
「いいか、こういう戦術もあるんだ。私に構わず撃て!」
 グランデの方を向いている隙に緑川は、瞬速縮地で間合いを詰める。
 ポテチョエラを背後から掴んだ。
「撃てっ!」
 新兵は指示通りにアサルトライフルの引き金を引く。
 撃ち出される銃弾。
 しかし、緑川は獣の皮膚のおかげで銃弾のダメージは軽微で済んでいる。
 弾丸から逃れようと、必死に暴れるポテチョエラ。
「少しはおとなしくしろ。すぐに済む」
 エティシャはポテチョエラに練成弱体を用いた。
 超機械の影響によってポテチョエラの防御力を削ぐ。
 そこに悠夜がガラティーン片手に飛びかかる。
「当たれば痛いんだなぁー、これが!」
 ガラティーンはポテチョエラの頭に突き刺さり、そのまま顔面を貫通する。
 脳を激しく損傷したポテチョエラ。
 体を痙攣させながら、地面へと倒れ込んだ。
「一体撃破。被害状況なしか?」
 自分の怪我を気にする事無く、他の皆を気遣う緑川。
「ああ、新兵も含めて大丈夫そうだ。
 あとは赤規とテトラの野郎か。まさかとは思うが大丈夫だろうな?」
 悠夜は別班が居ると思われる方角の空をそっと見上げた。

●猿の憂鬱
「風よ! お願い!」
 白珠は超機械「天狗ノ団扇」で風を巻き起こす。
 小さな砂粒や小石がポテチョエラの体を激しく叩き付ける。
 白珠は探査の眼を使ってポテチョエラを捜索。海岸で出会った男が言ったようにポテチョエラは山の中腹辺りで簡単に発見する事ができた。
「チャンスだ。猿に鉛玉をご馳走してやれっ!」
 軍曹の指示で新兵たちは一斉にアサルトライフルによる攻撃を開始する。
 撃ち出される弾丸。
 だが、体力だけは無駄にあるポテチョエラ。
 怒りに任せて手近に居た新兵を殴り飛ばした。
「ぐわっ!」
 吹き飛ばされる新兵。
 体を樹木の幹に打ち付け、その場へへたり込むように気絶してしまった。
「新兵は‥‥息はあるか。生きていれば、それは経験となるはずだ」
 テトラは鳴神を振るう。
 紫電を纏いながら、刃はポテチョエラに脇腹へと突き刺さった。
「しらたま、倒れた兵の手当を!」
「はい、雪姉さま!」
 覚醒して姿を現した真白。
 白珠へ殴られた兵の手当を命じ、手にした血桜の切っ先のポテチョエラへと向ける。
「悪いけどこれでお終い。その子達には指一本触れさせないわ」
 真白はポテチョエラへ二段撃を繰り出した。
 胸を引き裂き、大量の出血を促す。
 痛みに耐えきれず暴れるポテチョエラ。
「ギャギャギャッ!」
 さらに激高するポテチョエラ。
 顔を真っ赤にして傭兵たちをにらみつける。
「‥‥ッ! イッチョ前にキレやがって‥‥テメェよか、ずっと前から俺ぁキレてんだぞ‥‥」
 前に出る空也。
 激高するポテチョエラは空也に向かって鋭い拳を繰り出した。
 交差。
 拳は空也の頬を掠めながら後方へと逸れる。
「見えたぜ! 赤鬼・崩合拳ッ!」
 空也はカウンターで拳を突き出した。
 拳は真白が生み出した胸の傷を抉り、深く突き刺さる。
 心臓近くにまで達した拳が引き抜かれる頃、ポテチョエラはその命を既に失っていた。
「‥‥チッ、猿ぶん殴っても気ぃは晴れねぇか」
 絶命したポテチョエラの傍らで、空也はぼそりと呟いた。

●帰還
「キメラは無事殲滅されましたか」
 少尉は軍曹や傭兵を褒める事無く、あっさりと言い放った。
「オイ、ちったぁ褒めたって罰は当たらネェんじゃねぇか?」
 声を荒げる空也。
 だが、例の如くクリシュナは無視するかのうに受け流す。
「キメラ掃討中、何か気になる事はありませんでしたか?」
「そういえば、不思議な方がいらっしゃいました」
 そう答えるのは白雪。
「この島に人が居たのですか? 不思議な方とはどのような方でしょうか?」
「ああ、アレだろ? あの気持ち悪い男」
「あの筋肉質で額に『金』って入れ墨した男の事か。こっちをじっと見つめたりする辺り、そっち系の奴かと思ったぞ」
 悠夜とグランデの言葉を聞いたクリシュナは再び思案を巡らせた。
 状況が分からない軍曹は少尉に話しかける。
「おいっ、どういう事だ。説明しろ!」
「軍曹。あなたは山東半島での任務を継続して下さい。私は広州へ戻ります」
「なに?」
「私はこの島の閉鎖を要請していました。ですが、実際には我々以外の人物が島に居ました。これはどういう事でしょうか?」
「‥‥‥‥」
「さらに、青島市といえば中国大陸におけるUPC側の重要拠点です。小島とはいえ、この地域にキメラが現れる。おかしいと思いませんか?」
 クリシュナの脳裏には、エティシャの言葉が浮かんでいた。
 観察されている。
 もし、その男がキメラを送り込み、戦っている軍曹や傭兵を観察していたとしたら‥‥。
「ちょっと待て。その男がキメラを送り込んだとして、その目的は何だ?」
 話を聞いていたエティシャが口を挟んだ。
「分かりません。ですが、その男は何か行動を起こすでしょう。北京解放作戦を攪乱する事が目的と仮定した場合、広州も狙われる可能性があります。本当は軍曹に広州への帰還を要請したいところですが‥‥」
 今回、クリシュナが青島市に赴いた理由。
 それは軍曹の様子を見る事ではなく、煙台市で感じたという任務中の違和感をこの目で確かめに来るためだったようだ。
「もしかすると、傭兵に皆さんに依頼するかもしれません。そうならない事が一番なのですが‥‥」
 それだけ言い残すと、クリシュナは足早に部屋を退出した。