タイトル:【LP】死の夕暮れマスター:近藤豊

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/01/01 20:02

●オープニング本文


 ブラウ・バーフィールド(gz0376)軍曹は、後悔していた。
 偵察を兼ね、新兵数名を連れて寿光市郊外にて訓練を行っていた軍曹。そこに寿光市に向かって移動するキメラの一団を発見。幸いキメラに気づかれてはいないが、このまま通過させれば住民たちを巻き込んでの市街戦が行われる事は間違いない。
 もっと多くの兵を連れてきていれば‥‥。
 その考えが軍曹の中を駆け巡っていた。
「Sir、攻撃を開始されますか? Sir」
 訓練のために同行した新兵がアサルトライフルを手に軍曹へ声をかける。
「誰が貴様に攻撃を行うと言った? 俺はまだ貴様らクズに攻撃準備を言い渡した記憶はないぞ」
「Sir、すいません、Sir」
 新兵は素直に謝罪する。
 本来であればもっと踏み込んで新兵を叱り飛ばすところだが、非常事態である事を考慮して叱り飛ばすのを止めた。
(「既に援軍要請は行っている。だが、撤退して本体と合流している暇はない‥‥この場で食い止める他はない、か」)
 軍曹は連れてきた味方に視線を向けた。
 この場に居る兵は3名。キメラとの戦闘経験はあるが、未だ新兵の領域を脱しきれない未熟者。手にはアサルトライフルと照明弾。
 貧弱な装備である事は否めない。
 それでも、この場で奴らを留めなければ寿光市の戦場化は避けられない。
「Sir、キメラと思しき一団を確認しました、Sir」
 双眼鏡で敵影を捉えた新兵が軍曹に報告する。
 その報告を受けた軍曹は、新兵から双眼鏡を引ったくった。
「‥‥あれは!?」
 双眼鏡に飛び込んできたキメラには見覚えがあった。
 以前、新兵訓練を行っていた基地に襲撃を掛けた蜘蛛型キメラだ。自爆が唯一の武器であるが、その破壊力は侮れない。現に自爆に巻き込まれていた新兵が爆死したのを軍曹は目撃している。
「クソったれの蜘蛛が相手か。それに虎型キメラの姿もある」
 正直、新兵3名を連れての戦いは無謀だ。
 だが、この防衛ラインが抜かれる訳にはいかない。
 何としても援軍が到着するまで持ちこたえなければならない。
「貴様な微生物の糞に重要な任務を与える。
 命に代えても、奴らをここで食い止めるぞ。援軍が到着するまで、UPC軍の意地をバグアに見せつけてやるのだ!」
 時刻は夕暮れ――夜の女王が帳を下ろす中、蜘蛛と虎の足音が廃墟と化した市街地へと足を踏み入れる。

●参加者一覧

新居・やすかず(ga1891
19歳・♂・JG
ランディ・ランドルフ(gb2675
10歳・♂・HD
鳳 螺旋(gb3267
16歳・♀・ST
秋月 愁矢(gc1971
20歳・♂・GD
ユウ・ターナー(gc2715
12歳・♀・JG
エスター・ウルフスタン(gc3050
18歳・♀・HD
エティシャ・ズィーゲン(gc3727
15歳・♀・ER
滝沢タキトゥス(gc4659
23歳・♂・GD

●リプレイ本文

●会敵
 寿光市から数キロ離れた地点。
 廃墟と化した市街地でブラウ・バーフィールド(gz0376) は、新兵と共にキメラの一団を待ち受けていた。
 間もなく現れる虎型キメラ『グズンタイト』と蜘蛛型キメラ『ギーグ』の群れ。
 ここより先は民間人が生活する都市部へと繋がっており、キメラが都市で暴れれば大惨事は免れない。
 何としてもこの場でキメラの侵攻を食い止める必要がある。
「少数で多勢を防ぐ‥‥なら、奇襲が常套だな」
 エティシャ・ズィーゲン(gc3727)は、軍曹へ話しかけた。
 数回に渡って軍曹の危機を救ってきた傭兵の一人である。
 エティシャは傭兵たちの武器に練成強化を施し終わり、戦闘開始を待つだけとなっていた。。
「そうだ。お前ら傭兵からの援護はあるが、数だけで言えば圧倒的に奴らの方が上だ。おまけに、こちらには人の形をしたクソが三体居る」
 軍曹が悪態をつきながら、新兵三人へ視線を送る。
 今回の会敵もアクシデントだ。
 本来であれば、部隊を率いてキメラの侵攻を食い止めるべきなのだが、斥候兼訓練としてこの場を訪れていた軍曹達にとって、十分な準備を行う事ができなかった。基地から援軍が来るまで、耐えきらなければならない。
「その分、俺たちが体を張ればいい。それだけの事だ」
 軍曹の心中を察した秋月 愁矢(gc1971)は話に入ってきた。
 秋月も育ての親からCQB、CQCを始めとする軍特殊部隊の戦闘技術を叩き込まれた。その際、教官は厳しく地獄の方が優しいと思える程だった。
 反面そうした人物の方が、教え子を可愛く思っているものだが、軍曹がそのような心情を本当に持っているのかは謎であるが。
「奴らは後方で援護射撃をさせる。未だUPC軍人として一人前でない以上、勝手な行動はさせん。そもそも、奴らは自由に呼吸する権利すらない!」
 どうやら、軍曹は傭兵たちの援護に徹するようだ。
 傭兵たちとしても、その方が安心して全面の敵に意識を向ける事ができる。
「援軍が来たとしても‥‥暗くなる前に終わらせたいネ‥‥」
 鳳 螺旋(gb3267)はそっと呟く。
 暗くなれば、ギーグのような小さく素早い的を見逃す可能性もある。
 一体でも逃がせば、民間人が犠牲となるかもしれないのだ。出来る限り夕暮れの光がある間にすべてを終わらせたい。
「暗視スコープは用意したけど‥‥可能な限り、明るいうちに終わらせたいよねー」
 ユウ・ターナー(gc2715)は螺旋の意見に同意した。
 今回の作戦は奇襲を掛ける部隊とグズンタイトを狙う部隊に分けられる。
 奇襲班の主体は遠距離からの射撃となり、グズンタイトまでの道を空ける事にある。戦線を維持するためにもグズンタイトは早期に倒したい。
「ルーキー、キツい状況でも慌てるな。冷静になっていれば道は見えるものさ」
 肩に手を置き、新兵を安心させようとする滝沢タキトゥス(gc4659)。
 フレンドリーファイヤーの可能性が高いのは、戦闘に慣れていない新兵の三人だ。新兵に気を配っておいて損はないだろう。
「安心しろ。僕のバハムートは現行のAUKVの中でもっとも重装甲強襲仕様だ。僕に構わず撃ち続ければいい」
 ランディ・ランドルフ(gb2675)は自信たっぷりに笑う。
 その自信は己の装備と、今まで乗り越えてきた修羅場の数から来るのだろうか。
 エティシャは一人で状況を分析する。
「こっちが偵察なら‥‥連中も斥候の可能性もあるか。本体が通過するための露払いのつもりなのかもしれんが‥‥」
「‥‥敵、市街地への接近を確認。皆さん、持ち場に着いて下さい」
 エティシャの思考を遮るかのように、双眼鏡でキメラの群れを確認した新居・やすかず(ga1891)が声を上げる。
 これより始まるバグアとUPCの戦闘。
 戦場の空気に肌が触れ、否が応にも気持ちが高ぶってくる。
 もう、目の前のキメラへ意識を集中させるしかない。
「‥‥まあ、いい。そういう事は上が考えれば良い事だ」
 エティシャは口にしていたニンジンを噛み千切った。

●強襲
 奇襲の狼煙は、新居が上げた。
「さぁ、行きますよ!」
 道路脇の廃墟にて隠密潜行していた新居。
 手にしていた小銃「ルナ」と SMG「スコール」の引き金を引く。
 目標はグズンタイト付近のギーグ。
 虎退治班が突入する道を生み出す為には、付近のギーグを可能な限り排除しなければならない。
 ――ドンッ!
 打ち上げ花火の如く爆発音が数発轟く。
 この時点でキメラ側も敵襲があった事を察知。警戒体勢に入りながらも、市街地への移動速度が上がった。
「目標確認‥‥作戦を開始します」
 GunScythe「Ain Soph Aur」で足下のギーグを狙う螺旋。
 全長2000mm、装填数160発という銃から撃ち出された弾丸は、強弾撃で強化されながらギーグを貫いた。
 撃ち出される弾丸の前に、爆発していくギーグ。
 だが、その歩みが止まる気配はない。
「ここは通行止めなのっ!」
 ユウの特殊銃【ヴァルハラ】を手に、キメラの群れへ立ちはだかる。
 その名の由来を感じさせるセフィロトの模様に彩られた【ヴァルハラ】から発射される弾丸の雨。
 制圧射撃による広範囲射撃は、押し寄せるギーグたちを次々と爆発させる。
「爆発にクソったれ蜘蛛が誘爆したか‥‥。
 よし、奴らに鈍弾のフルコースをご馳走してやれっ!」
 ユウの制圧射撃を援護するように、軍曹と新兵たちがアサルトライフルを撃ち始めた。 多くのギーグは傭兵達の前で爆発しているが、次々と後続のギーグが到着している。
 だからこそ、早めにグズンタイトを撃破する必要がある。
 奇襲班の攻撃開始を受け、虎退治班も本格的に動き出す。
「ハイドラグーンになって初めての戦闘‥‥やってやる。
 ベルセルク‥‥参る!」
 バハムートに身を包み、竜の鱗を施したランディが廃墟から飛び出しながら突撃を敢行した。
 竜の息で小銃「S−01」の射程を伸ばしながら、竜の翼で間合いを詰めていく。
「アサルトライフルにグレネードランチャーがあれば、らしくなるんだがなぁ。まあ、そうなると銃剣も欲しくなるのが武器マニアの悲しい運命か」
 突撃しながらもランディは笑みを浮かべる。
 それに対して単身突撃という無謀にも見える行為を目撃した軍曹。一瞬、顔色に焦りが見える。
「あいつ、また無茶しやがって! 打ち方、や‥‥」
「構うことはない! 撃て! とにかく手傷を負わせろ!
 AUKVの装甲は、伊達じゃない!」
 軍曹の焦りを察したのか、ランディは声を張り上げる。
 新兵や傭兵の士気向上を狙い、ある程度の被弾を覚悟しているようだ。
 軍曹は奥歯を噛み締める。
「くそっ、皆こいつら半人前を信用しすぎだ。
 ‥‥撃てっ! 傭兵たちには当てるなよ!」
 軍曹はアサルトライフルによる射撃再開を指示した。
 射撃訓練は行っているが、動く標的は止まっている攻撃と違って命中させる事は難しい。おまけに知能は低くとも、ギーグはその場で判断もする。新兵たちがうまく働いてくれれば良いが‥‥。

「ランディは単身突撃かよ、まったく」
 ランディの突撃に合わせて滝沢がクルメタルP−38片手に間合いを詰める。
 グズンタイト付近のギーグはある程度一掃されているが、このままではランディ一人でグズンタイト2体を相手にしなければならなくなる。
 少しでもランディを支援しなければ、危険な状態になりかねない。
「一匹、こちらへ引っ張る!」
 秋月は小銃「ブラッディローズ」でグズンタイトの一体を狙った。
 元々、グズンタイトは人間を発見すれば寄ってくる習性がある。グズンタイトのうち、一匹にこちらを認識させれば、向こうから寄ってきてくれるはずだ。
「‥‥‥‥!!」
 自らに向けられた銃声に気づいたグズンタイト。
 その瞳に秋月の姿を視認したらしく、こちらへ向かって走り始めた。
 足下に居たギーグを蹴散らしながら、一直線。ギーグの爆発も無視して、突き進む。
「こっちも無視するなよ!」
 滝沢がスキュータム片手に割り込んだ。
 グズンタイトの突進を受け止める滝沢。
 一瞬、後方へ吹き飛ばされそうになるが、辛うじてその場で踏ん張る。
「出来るだけ早く楽にしてやる」
 滝沢はクルメタルP−38の照準をグズンタイトに額に合わせた。

●駆逐
「制圧射撃‥‥実行します‥‥」
 GunScythe「Ain Soph Aur」で制圧射撃を開始。
 広範囲にばらまかれる弾丸は、受けたギーグを爆破させる。本来であれば、接近するグズンタイトを狙うべきなのだろうが、後方から次々と現れるギーグを抑える事で手一杯。
 そのため、螺旋は突撃したランディ付近に居るギーグを中心に撃破していた。
「そらっ!」
 ランディは機械剣αを横に振り抜いた。
 レーザーは、グズンタイトの胸部を捉えて派手な火花を散らす。
 先程から幾度かグズンタイトを斬りつけてはいるが、相手はギーグと違って自爆するタイプではない。その牙と爪で獲物を引き裂き、食らい付くキメラだ。油断をすれば、バハムートの装甲であってもダメージを負う可能性がある。
「‥‥ちっ」
 ランディは舌打ちをした。
 グズンタイトを分断できた事はよかったが、結果的に一人でグズンタイトを倒さなければならない。
 一瞬だけ後悔をするランディ。
 その隙をグズンタイトは逃さなかった。
「ぐっ!」
 グズンタイトはランディの左腕に噛みついた。
 度重なる知覚攻撃で意識を失いかけているのだろう。比較的緩く噛まれているようだが、それでもグズンタイト食らい付いて離してくれそうにない。
「‥‥死に損ないが」
「えーいっ!」
 ランディの危機を救うように、ユウが後方からロングボウで弾頭矢を撃ち込んだ。
 グズンタイトの顔面に突き刺さった鏃は、破裂。
 顔面は抉られ、付近に血飛沫が舞った。
 痛みのあまり、グズンタイトはランディの腕を口から離す。
「‥‥まだまだだね」
 地面に転がるグズンタイトの傍に近づくランディ。
 小銃「S−01」の銃口を、グズンタイトの抉られた顔面へ突きつけた。
 そして、グズンタイトが反応する前に――発射。
 ギーグの自爆音に混ざりながら、数発の乾いた音が鳴った後、グズンタイトの体は動かなくなった‥‥。

 ランディがグズンタイトを倒した頃。
「ガウっ!」
 巨体を素早く動かしてジャンプした、もう一匹のグズンタイト。
 その攻撃を間一髪避ける秋月。
「これでもくらえ!」
 すれ違いざまに小銃「ブラッディローズ」を近距離で叩き込む。
 散弾はグズンタイトの腹部を直撃。腹に風穴を開ける事に成功はするが、絶命するに至ってはいない。
「思ったよりもタフだな‥‥」
「ヤツを自由にさせれば、戦線が保てん‥‥なら、多少の無理は!」
 駆け込んできたエティシャはグズンタイトに練成弱体を実行。
 一時的ながら防御力の低下させる事に成功する。
「あまり長くは保たない。早くっ!」
「なら、遠慮無く」
 滝沢はクルメタルP−38を撃ちながら接近を開始。
 可能な限りクズンタイトにダメージを与えて一気に殲滅しなければならない。
 そう考えたのは滝沢だけではなかった。
「イビルとターキーは、蜘蛛を狙え! イップス、貴様は俺と共に虎狩りだ!」
 滝沢に呼応するかのように、軍曹と新兵の一人がアサルトライフルで狙い始める。
 三人からの一斉射撃で、グズンタイトは明らかにダメージを負っている。
 その証拠に秋月へ向けたグズンタイトが放った爪の一撃は、弱々しく避ける事はあまりも容易な作業だった。
 秋月の手にあるブラッディローズの銃口は、既にグズンタイトの額に押しつけられている。
「幕引きだ」
 銃声と共に崩れ落ちるグズンタイト。
 容赦なく下された一撃は、虎を完全に絶命させていた。

●援軍
 二匹の虎を狩ることに成功した傭兵たち。
 だが、キメラの群れが止まる様子は見えない。
「‥‥後方から敵の増援を確認!」
 SMG「スコール」でギーグに向けて掃射する新居。
 先程から虎退治班も加わってギーグ退治を行っているが、ギーグの侵攻が収まる気配がない。傭兵達は持参している弾丸の残りも、決して無限ではないのだ。
 新居は軍曹に向かって振り返った
「軍曹、援軍は未だ到着していませんか?」
「‥‥くっ、まだだ。まだ、到着していない!」
 軍曹は苦虫を潰したかのような表情を浮かべる。
 一時撤退も考えたが、基地へ戻る頃にはギーグが寿光市まで押し寄せているだろう。民間人に被害が出ないように戦い続けてきた意味を失ってしまう。
 しかし、新兵も傭兵もこの場で失うわけにはいかない。
「傭兵は新兵を連れて援軍を呼びに行け。俺はこの場で敵を食い止める」
「ば、馬鹿を言うな!」
 エティシャは軍曹に詰め寄った。
 10人でギーグを倒し続けていた状況だ、たった一人でこの場を抑える事などできるはずもない。
「全員撤退する訳にはいかん。俺一人でもここ戦線を守り通す。民間人を守るのが軍人たる者の勤めだ」
「ふざけるな! 衛生兵が動けるうちは、無駄死になんぞさせんからな!
 お前が残るなら、私も‥‥」
 エティシャが言い掛けた瞬間、辺りに今までにない音が響き渡る。
 笛にも似た、高音。
 音は徐々に近づき――そして、着弾。
 ギーグの進行方向を狙った何かが爆発、それに巻き込まれて多くのギーグが自爆する。「軍曹、後方だ! 後方を見ろ!」
 新居に促されて後方を確認する軍曹。
 そこには、灰色に包まれた420mm大口径滑腔砲がこちらへ向かって接近していた。
「あれは‥‥ゼガリア改! 援軍か!」
 ついに待ち望んでいた援軍に、傭兵たちも士気を取り戻す。
 遠距離からの砲撃、正確には徹甲散弾があればギーグを一気に排除できるかもしれない。
「Sir、援軍を連れて帰還しました、Sir」
「テラー! 遅い、遅すぎるぞ!」
「Sir、申し訳ありません。今から戦列に復帰します、Sir」
 援軍を呼びに行っていたであろう新兵を叱る軍曹。 
 新兵も軍曹の指示を受けて攻撃を開始。
 援軍を加えたUPC軍による反撃が今、開始された。

 15分後。
 残ったギーグは撤退を開始。
 UPC軍側は傭兵の活躍もあり、被害らしい被害もなく生還する事ができた。
 基地へ帰還する道中、滝沢は軍曹にそっと声をかける。
「どうやら、何とか凌げたようですね、軍曹」
「ああ、そうだな‥‥」
 疲れたような表情を浮かべる軍曹。
 一時は死を覚悟していたのだから、無理もないのだろう。
 そんな軍曹に対して滝沢は優しく語りかける。
「‥‥あなたのような絵に描いた鬼軍曹、なかなか居ないんですよ。そんな上官が自分のそばにも居ればよかったんだが‥‥」
 滝沢の言葉に、思わず壁に寄りかかっていた体を引き起こす軍曹。
 他人から優しい言葉を掛けられる機会が少ない軍曹にとって、衝撃的な言葉だったのだろう。
 だが、その反応も一瞬のみ。
 再びいつもの軍曹へと戻っていた。
「ふん、俺に媚びを売っても無駄だ。俺は万人に対して公平に厳しい。それを忘れるな」