●リプレイ本文
●右舷の攻防
邪魔者を排除し、UK3を押し通す。
これが本作戦の目的となる。
移動要塞『竜宮城』へ主戦力を送り込むという支援作戦ではあるが、『竜宮城』攻略の布石となる作戦でもある。この支援作戦の結果如何では、『竜宮攻城作戦』への影響は計り知れない。
「お前ぇら、頼んだぞ!」
UPC軍航空母艦『亀山』の艦長である荒木弥太郎の声が通信機を通して響き渡る。
UK3の行く手を阻むは、クラゲ型キメラ「サグライフ」と「スプラング」。
サグライフは傘部分に触れれば爆発、スプラングは触手からの電撃攻撃を仕掛けてくる。単体ではそれ程強い相手ではないが、クラゲという事もあり出現するは海を埋め尽くすかのような勢いで集結しつつある。
「艦長、味方はこれ以上やらせない。バックアップを頼みます!」
深穿のコックピット内で狭間 久志(
ga9021)は荒木に語りかけた。
今回の作戦では、亀山の護衛として10隻の潜水艦が随行していた。しかし、KV出撃直前で潜水艦『マリエル』がキメラの攻撃により轟沈。久志としては遊軍に対してこれ以上の被害を抑えたいのだろう。
「索敵状況、お送りします」
レイミア(
gb4209)は、アムリタよりUK3通過予定海域の情報を送信する。
今回の支援作戦では、UK3通過予定海域に対してUK3の右舷、左舷海域で戦力を二分。レイミアは右舷索敵を担当、同海域駆逐任務に当たるメンバーへ情報を展開している。
「荒木のおっさん、聞こえるか?」
レイミアからの情報を目にしながら、砕牙 九郎(
ga7366)は、荒木に話しかける。
「なんだ?」
「亀山からも情報はもらえるのか? 本隊の進軍状況や仲間の状況を支援して欲しいんだ」
九郎は、亀山に対して情報展開を要望していた。
索敵状況を整理、UK3や仲間の状況をいち早く知る事は、それだけ作戦の成功率を向上させる。何より、遊軍の潜水艦で被害が出る事を回避する事ができるかもしれない。
「可能な限り支援するつもりだ。お前らは目の前の敵に集中してくれ」
「だったら‥‥やってみる!」
アーク・ウイング(
gb4432)はリヴァイアサンより対潜ミサイルR3−Oを発射した。
クラゲと距離はあるが、時間は限られている。
「早い! 早過ぎます、アークさん!」
アークの仕掛けた攻撃に、レイミアは一瞬焦る。
30分で可能な限り敵を駆逐しなければ、今後の作戦に支障を来す。
だが、残弾に限りがある以上、博打のような攻撃は難しい。
「外した!?」
対潜ミサイルは狙ったサグライフの横を通過した。
しかし、すり抜けたミサイルはその後方に居た別のサグライフへ命中。
数秒遅れて、幾つかの爆発が確認される。
「ふぅ、結果オーライ‥‥」
「負けてられない! アルバトロス、行くよ!」
爆発を確認したマリオン・コーダンテ(
ga8411)。
次なる一団に向けてM−042小型魚雷ポッドを撃ち出した。
狙いはサグライフ。
傘の部分に当たれば爆発をするという事は、サグライフ同士で誘爆を引き起こす事が可能だ。ならば、可能な限り誘爆を狙うのが定石。少しでも多く誘爆させる事が、駆逐への鍵となる。
「当たれ!」
マリオンは叫ぶ。
魚雷はサグライフの傘を捉え、爆発。
それを受けた付近のサグライフは、弾けたポップコーンのように誘爆していく。
その様を見ながら、マリオンは次なる敵を求めてアルバトロスを旋回させた。
予想通り、相手が少数であれば傭兵たちの敵ではない。
――しかし。
「右舷、敵増加確認。その数、およそ50」
レイミアが各機に新たな情報を発信する。
どうやら、海流にのって新たな敵が現れたようだ。
「九郎さん、弾幕を張ります」
久志は海流の流れを計算して、水中用ガウスガンとM−042小型魚雷ポッドで弾幕を形成した。
所詮相手はクラゲ。海流の流れを計算すれば、ある程度の動きを予想する事は簡単だ。移動先を予測して弾幕を形成すれば、高確率で敵に命中させる事ができる。
生み出される爆発。
海流も手伝って、生き残ったクラゲたちは新たな一団を形成し始める
「よし! 連鎖のラインは整った!」
九郎はM−25水中用アサルトライフルで、サグライフを狙い撃った。
中心に居るサグライフに直撃させれば‥‥。
新たな爆発。
水中という事を忘れさせるかのような振動が、爆発を生み出した九郎にも伝わっていく。
右舷の敵は、傭兵たちの活躍により減少傾向にある。
遊軍である潜水艦も、この活躍に触発されて活動を開始する。
「こちら『オスカー』、諸君らの支援行動を開始する」
潜水艦『オスカー』からの通信が各機に入った。
オスカーは海流を横切る形でクラゲの群れへと進軍を開始する。
「オスカー、危険だ! 前後は我々がやる。中盤を支えて下さい!」
久志はオスカーを制止すべく叫んだ。
だが、闘志に火が付いたオスカーは進軍を止めようとしない。
それは、傭兵ばかりに任せてはおけないという戦士のプライドなのかもしれない。
そのプライドが新たな危機を招く。
「うわっ!」
オスカーの通信から悲鳴にも似た声が漏れる。
明らかに何かあったと思われる声に、久志の顔が曇る。
オスカーを視認できる位置まで深穿を走らせる久志。
そこにはスプラングの触手に絡め取られたオスカーの姿があった。
「各機へ通信。遊軍の一機がスプラングに捕縛された模様。救援願います」
再びレイミアから入電。
このままではスプラングの電撃でオスカーが破壊されてしまう。
「任せて!」
アルバトロスを走らせるマリオン。
電撃が放たれる前にスプラングを墜とさなければ。
アルバトロスの機動性を活かし、ブーストを掛ける。
「あんたの好きにさせないんだから!」
マリオンはM−25水中用アサルトライフルを連射。
弾丸はスプラングの触手を破壊。囚われの身となっていたオスカーは呪縛から解放される。
「お返しだよ!」
滑り込むようにリヴァイアサンを駆ったアークは、スプラングの至近距離に水中用ホールディングミサイルを撃ち込んだ。
赤い傘に炸裂したミサイルは、轟音と共にスプラングの体を海底へと沈めた。
「荒木のおっさん、UK3通過まで後何分だ?」
九郎は荒木に話しかける。
「あと15分だ。お前ぇら、持ちこたえてくれよ‥‥」
家族を水中へ放り込み、自らは声を掛ける事しかできない。
荒木はそっと目を瞑り、傭兵たちの無事を願った。
●左舷の攻防
「おい、左舷の連中! そっちは大丈夫だろうな!」
『亀山』のブリッジに荒木の声が木霊する。
「カカカッ、クラゲが爆発するのじゃ! 海の中は知らないことばかりで楽しいの」
パピルサグの機内でキロ(
gc5348)は、高笑いが響く。
左舷で戦う他の機体や『亀山』からの情報を元に、敵影に対してM−042小型魚雷ポッドを撃ち込んでいく。
キロにとっては、海流に乗ってやってくるクラゲを的に見立てての射撃遊戯なのかもしれない。
「浮遊物‥‥本当にただの的ではないですか。面白くないですね」
如月・由梨(
ga1805)はスプラングの触手を高分子レーザークローで引き裂いた。
由梨も久志同様、海流を考慮。常に増援の存在を気に掛けていた。
早期発見、早期対応を心がける事で、左舷を守る傭兵達の負担を軽減する事ができるはずだ。
更に、戦況を把握しようとしているのは由梨だけじゃない。
「わ、数いっぱい‥‥全部捌かなきゃいけないの‥‥。
でも、出来るよね、デルフィーノ。君と僕なら」
左舷索敵担当のアンジェロ・アマーティ(
gc4553)は愛機デルフィーノに話しかける。
最終防衛ラインを艦周辺50メートルと規定、状況に合わせて敵を危険度別にランク分け。それを優先度として各機へ通知していく。
銃を撃つばかりが戦いではない。
運動音痴のアンジェロらしい戦い方と言えるだろう。
「マーカー送りました。14番の敵、お願いします!」
アンジェロの通信を受け、乾 幸香(
ga8460)は指示された方向へ注意を向ける。
「は、はい」
幸香はセイレーンを右へ旋回させる。
キロと同じく初めての水中戦。
自信たっぷりなキロと対照的に、幸香は慎重そのもの。水深200メートル付近の水圧に手間取りながらも、機体を安定させようと必死に頑張っている。
「ここですね!」
セイレーンから撃ち出されるM−042小型魚雷ポッド。
海流を彷徨うサグライフに目がけて一直線。
サグライフの傘に接触。
そして――爆ぜる。
「撃破成功しました。
Lolandさん、敵がそっちに行きました」
「了解! こっち、俺も負けてらんねぇな」
Loland=Urga(
ga4688)は、愛機マン・キラー・ビーストBSを駆った。
そして、目指す先には赤い傘のスプラング。
触手が、Urgaの機体へ伸び寄る。
「壊す事も、人を救うための使命とは‥‥皮肉な現実です」
側面から由梨のリヴァイアサンが水中用ガウスガンが攻撃。
触手はUrgaの機体へ到達する前に砕かれる。
その後を通過するUrga。
指は既に水中用ホールディングミサイルの発射ボタンに掛かっている。
「どけっ! 俺の前に立つんじゃねぇ!」
発射される水中用ホールディングミサイル。
スプラングの傘を直撃したミサイル。
爆発の寸前に横を通り過ぎるマン・キラー・ビーストBS。
「まだまだぁ!」
後方で発生する爆発に背中を押されるかのように、Urgaは新たな群れを目指した。
眼前で一際大きな群れを成すサグライフ。
そして、その中で傭兵たちを捕獲せんとするスプラング。
限られた時間の中、任務達成のためにも相手の戦力をより多く削らなければならない。サグライフの群れにセドナをサグライフへ叩き込んで誘爆を狙う。
「こりゃ、おぬし!
そいつは我が狙っておった奴じゃ! 抜け駆けは許さぬぞ!」
キロはUrgaへ直撃しないように注意しながら、M−042小型魚雷ポッドを撃った。
魚雷はUrgaの脇をすり抜けて、眼前に居たサグライフへ直撃。
爆発。だが、Urgaのターゲットはさらに先。
より中央に位置するサグライフだ。
「如月さん、乾さん。
10番の敵、Urgaさんの進行方向に居る目標を排除して下さい」
「分かった」
「Urgaさんの援護、了解です」
アンジェロの要請を受け、由梨と幸香はUrgaの進路上に居る敵に対して攻撃を仕掛ける。2機から放たれる水中用ガウスガンは、スプラングの触手を千切り、サグライフを爆発させる。
振動で揺れるマン・キラー・ビーストBS。
「うぉぉぉぉぉ!」
Urgaの視界に飛び込んできた一匹のサグライフ。
限界ギリギリまで引きつけて放つ一発のセドナ。
高速推進で海中へその身を晒したセドナは、命じられたままに突き進む。
――そして。
サグライフと接触したセドナは一際大きな爆発を生み出した。
爆発は他のサグライフを巻き込み、新たな爆発を引き起こす。
「見たか! マン・キラー・ビーストは誰にも止められねぇぜ!」
乱れる海流の中、Urgaのマン・キラー・ビーストBSは駆け抜ける。
次なる獲物を求めて。
●通過
「UK3、間もなく通過します!」
傭兵達、そして『亀山』のクルーが待ちに待った瞬間が訪れる。
サグライフ、スプラングの駆逐に尽力してきた傭兵達に、終わりを告げる使者がやってくる。
その巨大な体を『竜宮城』へと向けて前進させる。
これから死闘を繰り広げる戦士たちを運ぶ希望の――UK3。
「UK3到着まで、30秒」
レミリアの通信が各機へと流れる。
30分と簡単に口にしてみても、戦闘中では何時間にも感じられる時がある。次々と現れる敵影に限りある弾丸を放ち、回避行動をとり続ける。
それは決して簡単な事ではない。
「UK3、視認しました」
左舷を守るアンジェロが、UK3の姿を捉える。
水中という視界が揺れる世界でも、はっきりと見える雄大な姿。
敵要塞破壊という大義を持った戦士たちを乗せて、突き進む。
「UK3、通過まで‥‥3‥‥2‥‥1‥‥」
『亀山』のオペレーターが秒読みする。
読み上げる数を心の中で唱える傭兵達。
瞬間、UK3の巨大過ぎる有志が眼前を通過する。
視界いっぱいに広げるその姿に、息を飲まずには居られない。
時折、撃ち漏らしたサグライフが爆発を起こしているようだが、その巨大の前では大きなダメージにはならない。もっとも、この程度の状況にまで持って行ったのは、この場で戦い続けた傭兵たちの活躍があってこそだ。
「後は頼んだよ、参番艦‥‥『亀山』、味方は無事か!?」
通り過ぎるUK3を見つめながら、久志は呟いた。
傭兵達に課せられた任務はここまで。
敵要塞『竜宮城』を叩き潰す役目は、UK3の乗った連中が果たしてくれるだろう。
「よくやったぞ、任務は達成だ!」
荒木の声が傭兵たちにコックピットに鳴り響く。
「おっさん、声がでけぇよ」
声の大きさに九郎が苦言を呈す。
「馬鹿野郎ぉ! お前らは見事やり遂げたんだ。喜びで声もでかくなるってぇもんだ」
九郎の意見をまったく聞かず、荒木の声は喜びに満ちあふれる。
『亀山』と傭兵は無事。
遊軍潜水艦は『マリエル』ら数隻が沈んだものの、その多くは健在していた。本来であれば、潜水艦は全滅。最悪、『亀山』も沈んでいたかもしれない。
「ふふふ、我をもっと褒めるが良い。それだけの事を成し遂げたのじゃからな」
パピルサグの中で、キロはご満悦のようだ。
「お前ぇら、帰投しろ! 今日は俺が飯ぃ奢ってやるからよ!」
多くの家族が無事に帰ってくる。
帰ることができなかった家族には申し訳ないが、今は無事を素直に喜びたい。
そして、竜宮城での死闘を繰り広げて勝利を導く戦士たちが、再び戻ってくる事を願いたい。
荒木は、そう考えていた。