タイトル:【竜宮LP】恵みの海へマスター:近藤豊

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/30 14:48

●オープニング本文


 ――人が闇を恐れるのは、そこに何かが潜んでいると想像するからである。

 人の体内を走る血管の様に、『そこ』の内部は入り組んでいた。
 四方八方に広がる通路は薄暗く、続く道の先は暗闇しか見えず、人の本能に根付く闇への恐怖を目覚めさせる。
 時折、遠くから届く爆発音と振動が、君達の不安を掻き立てる。
 その薄暗がりの中、白衣を身に纏った少年が酷薄な笑みを浮かべていた。
 白衣を翻し振り返る少年の視線の先には、巨大なキメラプラントが広がる。

「さぁ‥‥歓迎してあげるよ。僕の可愛いこの子たちがねぇ」

 ――だが、闇を恐れてはいけない。例えそこに何が潜んでいようとも。


 UPC軍進行中の作戦『竜宮攻城作戦』。
 水中移動要塞『竜宮城』の攻略を開始したUPC軍は、UK3を始めとした大部隊を組織。北京攻略戦と同時進行、つまりUPC軍は極東アジアにおいて大きな勝負に出た事になる。
「獲物はなるべく引きつけるんだ。確実に、的確に相手の土手っ腹に槍を突き立てられる」
 XS-09A『オロチ』の操縦席でビクラム・バラミ曹長が呟く。
 漁師の家系であるビクラムにとって、海という場所は特別だ。生きる糧のすべては海に存在し、海から頂戴して生きてきた。獲物が一匹も獲れない日も珍しい事ではない。
 獲物が獲れない理由。それは、海が漁師に恵みを施さないからだ。
 いつ海が施してくれるのかは分からない。
 だから、漁師は獲れる事を信じて毎日海に潜る。
 そして、今日の獲物は――。
「今日の漁はデカい。城を一つ釣り上げようというのだからな。
 そのためにも俺たちは、雑魚を炙り出す必要がある。竜宮城へ投入した連中の支援のために、入り口付近で陽動作戦を実施する」
 竜宮城内部に突入した部隊を支援するためには、敵の戦力を突入した部隊から引き剥がす必要がある。つまり、ビクラムたちがKVで竜宮城入り口で派手に暴れれば、竜宮城内部にいた戦力もビクラムたちの元へ集う。
「言うのは簡単だが、こいつは危険な任務だ。
 暴れる事が任務だが、暴れれば暴れる程‥‥敵は俺たちに殺到する。だが、それだけ中の連中は大物を釣り上げる準備ができる。ギリギリまで俺たちがここで踏ん張るだ」
 そういうビクラムの声は震えていた。
 恐怖‥‥ではない。
 死と隣り合わせの戦場において、巨大な獲物と対峙する興奮。
 生の再認識と、獲物を手にした際の優越感。
 様々な感情が入り交じり、ビクラムの心を刺激する。
「早速お出ましか」
 竜宮城入り口付近に現れた2匹のサメ型キメラ。
 口から覗く鋭い刃。
 体に付けられた無数の傷。
 こちらをじっと見据える瞳。
 サメ型キメラの風貌を見るだけで、ビクラムは興奮を抑えきれない。
「‥‥行くぞ」
 ビクラムは、水空両用撮影演算システムで解析を開始した。

●参加者一覧

終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
砕牙 九郎(ga7366
21歳・♂・AA
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
ガーネット=クロウ(gb1717
19歳・♀・GP
イーリス・立花(gb6709
23歳・♀・GD
カーディナル(gc1569
28歳・♂・EL
秋月 愁矢(gc1971
20歳・♂・GD

●リプレイ本文

●接近
 進行中の竜宮攻城作戦。
 バグア側との激戦は開始されており、傭兵たちの活躍により竜宮城の主砲を破壊する事に成功していた。次なる展開は竜宮城内部への侵入となる訳だが、バグア側もそう簡単に竜宮城侵入を許してくれるはずもなかった。
「各機、異常ありませんか?」
 イーリス・立花(gb6709)は、各機への状況確認を行う。
 今回、傭兵たちに課せられた任務。それは、竜宮城付近に存在する敵を可能な限り引きつけて、竜宮城内部へ侵入する部隊の活動支援をする事である。
 要するに囮役という訳だ。
 危険を伴う任務。だからこそ、イーリスはいつものようにモニターを拳で小突いて願掛けを行う。
「今のところ異常はありません。ソナーも設置完了しました」
 愛機Walrusの中で赤い髪を掻き上げるのは、ガーネット=クロウ(gb1717)。
 ガーネットの提案で海底付近から竜宮城へ接近すると同時に、KV用ソナーブイを設置していた。これは退路付近に予想外の敵が存在していた事を警戒しての事だ。
「頑張りますか。もっとも、無理はできないがね」
 自らの名前を冠したKVの中で、UNKNOWN(ga4276)は呟いた。
 今回の竜宮攻城作戦はUPC内部でも比較的重要作戦とされている。だからこそ、UK3まで投入されているのだが、そのような重要作戦で暇を持て余す訳にはいかない。UNKNOWNは、怪我を押しての出撃となっている。
「UNKNOWN、香港観光忘れてないだろうな? ‥‥援護するぜ」
 秋月 愁矢(gc1971)は、UNKNOWNを牽引している。
 以前の依頼で香港観光を行う約束をしていたが、未だ実現はしていない。こんな海の中で死なれては香港観光は夢のまた夢となってしまう。
「分かってる。‥‥分かっているさ」
 UKKNOWNは古美術風の本革肘掛シートに体を預けた。
 UNKNOWNもここで死ぬつもりはない。だからこそ、『頑張る』という言葉を口にした。普段は使わない、無責任な言い回しとも捉えられる言葉を使う事で自らを奮い立たせるためだ。
「宜しくお願いしますね」
 終夜・無月(ga3084)は、随行するビクラム・バラミに微笑みかけた。
 挨拶のつもりで魔皇の操縦席から微笑んでみたが、海中のためビクラムからはよく見えない。だが、それ以前にビクラムは終夜へ向くことなく、サメ型キメラが映し出されたレーダーに視線を固定させていた。
「‥‥滾るな。漁師の血が‥‥」
 ビクラムは呟く。
 その言葉を聞き取った終夜は、ビクラムの言葉の意味に不安な何かを感じ取った。
「ビクラムさん、待って!」
 終夜が制止したと同時に、ビクラムは密集陣形を抜け出してサメ型キメラへ突進を開始した。
「馬鹿野郎! オロチ乗りが敵の撃破に拘ってどうするよ!」
 龍深城・我斬(ga8283)が叫ぶ。
 だが、ビクラムの耳には龍深城の言葉は届いていない。海の中では獲物と漁師が対話する時間が存在し、獲物と自分以外は誰も居ない世界が広がる。既にビクラムの意識は、獲物であるサメ型キメラにのみ向かっている。
「やべぇぞ! あのおっさん一人でやる気だ!」
 砕牙 九郎(ga7366)は、この状況を危険視した。
 今まで危険な任務ばかりを遂行していたビクラムは、暴発するタイプだったようだ。このままではビクラム一人のお陰で、サメ型キメラを奇襲する予定が狂ってしまう。
「任せて下さい!」
 イーリスはRandgriz NachtのアサルトフォーミュラAを使ってビクラムの後を追いかける。
 とにかくビクラム単独にするのは、部隊全滅の可能性も孕んでいる。このまま放っておく訳にはいかない。
「獲物は可能な限り引きつける。手にした銛で獲物を確実に仕留めるために‥‥」
 ビクラムは独り言を呟く。
 既にサメ型キメラ二匹はビクラムの存在に気づいており、回避行動を開始。しかし、ビクラムのレーダー上にはサメ型キメラの一匹を完全に補足していた。
「行けっ!」
 ビクラムは水中用ホールディングミサイルを発射。
 至近距離からの発射であるため、サメ型キメラは回避する事ができない。
 命中、しかしその一撃でサメ型キメラを倒す事はできない。
「ちっ、弱かったか」
「まだです!」
 後から追ってきたイーリスは、533mmSC魚雷「セドナ」をサメ型キメラに撃ち込んだ。
 ホールディングミサイルのすぐ後に高速で推進する魚雷を撃ち込まれ、サメ型キメラも回避する事ができなかったようだ。
「ビクラムさん、単独行動は危険です。漁師であっても、それはご存じでしょう?」
「‥‥‥‥」
 イーリスはビクラムの行為を責めた。
 だが、ビクラムは答えようとしない。その視線はサメ型キメラへ注がれたままだ。
 予定とまったく奇襲となってしまったが、攻撃が始まった以上は戦闘を本格化させる他ない。
「派手な撒き餌に食いついてくれよ!」
 龍深城は獣魂から七十式多連装大型魚雷を発射した。
 10発の大型魚雷が注水、付近の海域にばらまかれる。
 竜宮城城壁、サメ型キメラに衝突。派手な爆発で周囲の敵をこちらへおびき寄せる。これで黙っていても増援はやってきてくれるだろう。
 だが、サメ型キメラもやられたままではない。
 怒りに任せて突撃を試みる。
「まだやるってぇのか? 仕方ねぇ、こいつは特別だ」
 マルス・リッターAに乗るカーディナル(gc1569)は、向かってくるサメに照準を合わせる。
 全力で向かっているサメだが、まっすぐ泳いできてくれる分には命中させる事は容易い。カーディナルは一呼吸を置いた後、多連装魚雷「エキドナ」の発射ボタンを押下した。
 次々と発射される24発の魚雷は、手負いのサメ型キメラを直撃。
 サメ型キメラは泳ぐ力を失い、海底に向かって沈んでいく。
「一匹仕留めたが‥‥漁はまだまだ続くみてぇだな」
 先程の戦闘で、小魚型キメラが集合し始める。既に海を埋め尽くすかの勢いで集まり始めたが、囮役としては上々の滑り出しだ。もっとも、戦闘開始は予定外だったが、ここまでくれば戦い通すしかない。
 カーディナルは、覚悟を決めてマルス・リッターAを旋回させた。

●交戦
「終夜! 九時方向から敵だ!」
 秋月は水空両用撮影演算システムで周囲状況を各機へ発信しながら、声を上げる。
 眼前に居るサメ型キメラは一匹だが、行く手を阻むかのように小魚キメラが傭兵たちを襲う。的が小さいだけではなく、衝突すれば自爆するという厄介な相手だ。
 そのような相手に周囲を囲まれてしまっているのだから、傭兵たちは死闘を強いられている。
「了解です」
 終夜は小魚キメラに向かって小型魚雷ポッドを発射した。
 炸裂する魚雷。爆破に巻き込まれる形で周囲の小魚も自爆を繰り返す。
「左舷、弾幕薄いぞ」
 近づく小魚型キメラをなぎ払うかのように、UNKNOWNは水中用ガウスガンを連続掃射。次から次へと増援がやってくるのだから、油断する暇もない。
「囮役としては十分ですが、このままでは撤退に支障が出ます。せめて、サメ型キメラだけでも片付けられれば‥‥」
 ガーネット=クロウも小魚型キメラに対して水中用ガウスガンとM−25水中用アサルトライフルで確実に倒していく。時折、弾幕を抜けて自爆を成功する小魚型キメラも存在するが、危険な状況に追い込まれた訳ではない。内部へ突入する部隊のためにもここで踏ん張らなければならないのだが、退路は確実に確保しなければならない。
 この状況を打破するために動き出したのは龍深城だった。
「獣魂、悪いが無茶をさせてもらうぜ」
 獣魂の剛装アクチュエータ『インベイジョン』Bを発動、龍深城は小魚型キメラの奥に居たサメ型キメラへ突貫を開始する。
「なるほど、無茶だな。だが、それぐらいやらないとやばいのも事実だ」
 カーディナルは龍深城の行く手を遮っていた小魚型キメラを水中用ガトリングで潰していく。それでも、獣魂の機体に衝突して自爆する小魚型キメラが多数。その度に機体が揺れ、悲鳴を上げる。
 だが、止まる事はできない。
 あのサメ型キメラを叩くまでは‥‥。
「これでも食らえ!」
 サメ型キメラの至近距離まで近づいた獣魂は、変形してレーザークローの一撃を加える。
 腹部への一撃にサメ型キメラは悶絶。
 さらに獣魂が生み出したサメ型キメラへの道は、まだ小魚型キメラで阻まれていない。攻撃を加えるなら今がチャンスだ。
「テメェはさっさとはんぺんの具にでもなりやがれ!」
 砕牙はサメ型キメラへ近づき、M−042小型魚雷ポッドで狙い撃った。
 発射される魚雷は、サメ型キメラへ命中。だが、倒すまでは至らない。
 逆にサメ型キメラは砕牙へ突進を開始。サメ型キメラの鋭い牙がアルバトロスの機体へ突き立てられようとする。
「させません!」
 砕牙の機体を狙うサメ型キメラの横から、イーリスは高分子レーザークローを見舞った。
 光の爪はサメ型キメラの腹部へ突き刺さり、引き裂く。
 海中へ漏れ出る赤い血が周囲へとばらまかれ、腸が海中で揺れている。
 サメ型キメラが絶命するまで、そう時間は掛からなかった。
「悪いな」
「礼は不要です。それより、増援が来る前に体勢を立て直さないといけません」
 そう言いながら、イーリスは小魚型キメラに向かって水中用ガウスガンを撃ち始めた。
●増援
「ソナーに反応があります。後方から増援のようです」
 ガーネットが設置していたKV用ソナーブイに反応があった。
 後方から何か接近しているのは確かだ。
 そして、それはUPC軍の増援ではなさそうだ。
「魚じゃないな。この動き、移動というより流されているに近い」
 秋月はオロチのレーダーで敵の動きを確認していた。
 魚であれば、意志を持った動きをするはずだ。だが、レーダーを見る限りは海流に乗って移動しているという表現が正しい。
 徐々に見え始める敵影。
 その姿を見て最初に声を上げたのは砕牙だった。
「あ、あいつ!」
「知っているのですか?」
 ガーネットは砕牙へ質問をぶつけた。
「ああ。先の戦闘で現れたくそったれなクラゲだ。
 白いクラゲは自爆、赤いクラゲは触手で捕まえて電撃攻撃だ。見たところ、白いクラゲだけみたいだな」
 先の戦闘を脳裏でリフレインさせる砕牙。
 白いクラゲは傘の部分に衝撃が加わると爆発を生じさせるタイプだ。小魚のそれに似ているが、体が大きい分爆発も大きい。
「白いクラゲは海流に乗っているだけ‥‥このクラゲ、使えるかもしれません」
 思案していた終夜は、小魚型キメラを引き連れる形で白いクラゲの群れに向かっていった。
「お、おい!」
 秋月は思わず声をかける。
 だが、冷静な終夜も腹案あっての事。ビクラムのような危険な特攻をするような人間ではないはずだ。
「これでどうです!」
 白いクラゲの中を進む魔皇。
 その後方から小魚型キメラが追いかける。
 匠にクラゲの群れをすり抜ける魔皇に対して、小魚型キメラの一匹はクラゲの傘に衝突。
 爆ぜる小魚型キメラ。
 この爆発を受けて、白いクラゲも自爆。その爆発に巻き込まれる形で小魚型キメラの群れも一掃される。
「やはり、大きな爆発に巻き込めば、的の小さい魚相手でも一掃できます」
 予想通りの結果に終夜は安心する。
 幸いにも白いクラゲは自力で移動する事はない。海流の流れさえ見ていれば、白いクラゲを避ける事は難しくなさそうだ。
「なるほど、敵戦力でありながら我々への増援というところか」
 UNKNOWNは咥えていたタバコを灰皿へもみ消した。

●一斉攻撃
 白いクラゲの登場で、小魚型キメラの一掃が楽になった。
 大きな爆発に巻き込む事で小魚型キメラの自爆を促せば、付近の敵を一気に片付ける事ができる。
 だが、それでも敵の数が多いことは事実。
 各機も敵の攻撃を大分受けており、この海域を出るならば頃合いと考えた方がいいだろう。
「皆さん、最後に竜宮城へ向けて一斉攻撃はどうでしょうか? 敵が出てくる前に撤退すれば、竜宮城内部へ侵入した皆さんにも少しは時間稼ぎとなります」
 ガーネットは、各機へそう提案した。
 一秒でもこの海域へ敵の目を引くことがこの任務。ならば、撤退が決まったとしても派手な攻撃を加えて目を引く事は正しい選択と言えるだろう。
「いいねぇ! 最後にでっかい花火を打ち上げてやるか!」
 砕牙もガーネットの案に同意しているようだ。
 やるならば派手な方がいい。小型魚雷ポッド発射の準備を進める。
「ビクラム、そろそろ撤退だ。もう狩りは欲張り過ぎても駄目だ」
 ビクラムの暴走を危惧したカーディナルは、ビクラムへ制止を求める。
 事実、ビクラムの機体は既に傷だらけとなっており、これ以上の戦いは危険だ。ここで無理して死んでしまっては無理もない。
「今日は大漁だ、港へ帰っても十分に戦果を報告できる。いいだろう」
 ビクラムもカーディナルの提案を受け入れたようだ。
「三十六式1番2番注水‥‥行け!」
 秋月は竜宮城へ向けて三十六式大型魚雷を発射した。
 この発射が号令となり、各機が竜宮城へ向けて一斉攻撃を開始。
 多数の魚雷が竜宮城の城壁で炸裂、大きな爆発を見せる。これで竜宮城が陥落するとは思っていないが、中に居る敵をこの海域へ引っ張り出せれば成功だ。
「任務完了。後は‥‥勇気ある皆さんに任せるとしよう」
 UNKNOWNは、遠ざかる竜宮城を見つめながら独り呟く。
 自らの役目は終わったものの、竜宮攻城作戦はまだまだ継続する。
 あの城を陥落させるか否かは、突入した部隊の活躍次第。
 もし、怪我が完治していれば‥‥そう思わずには居られないUNKNOWNでだった。