●リプレイ本文
●砲撃
「‥‥あそか」
『聖地』と呼ばれし場所を見つめるは、サムソンを名乗る旅人。
老人からプロテインを奪う男をを退治したサムソンは、聖地と呼ばれる場所に巣くうマッスルキングなる人物の退治を買って出た。
筋肉こそがすべてとされるこの時代、文明人としての理念はすべて失われていた。
筋肉こそが正義。
それが唯一のルールだと信じていた人々の心は飢え、心に贅肉が付いていた。
「真の強さ。それを彼らに教えて差し上げるという訳ですか」
白衣を靡かせながら、辰巳 空(
ga4698)は視界に入る聖地を見つめる。
砂漠のような砂だらけの場所にぽつんと立つ古めかしいビル。
あのこそビルが、村人から『聖地』と呼ばれ崇められている場所であった。
外見こそはボロビルだが、筋肉年では失われしボディービルグッズが満載のフィットネスクラブ。聖地の名にふさわしい場所だ。
そこに悪党のような男達が占拠しているという。
「俺の拳は己の正義の拳。断じて悪は許さない!」
特徴的な金の冠と腕輪を身につけている秋月 愁矢(
gc1971)。
悪の巣窟となった聖地が一人睨み付けている。
「ん、兄貴。間に合ったか」
「待たせたな、サムソン。俺も力を貸してやろう」
どうやら、サムソンと秋月は知り合いあったようだ。
きっと、ここに来るまでに幾つもの修羅場をくぐり抜けた、組んず解れつの仲なのだろう。
「兄貴、相手は多勢。やはり正面突破が良いのだろうか」
「悩む事はない」
UNKNOWN(
ga4276)は、サムソンの背後からゆっくりと現れる。
筋肉を誇示する事が是とされるこの時代にあっては、ロイヤルブラックのフロックコート、兎皮の唾広黒帽子も極端に珍しい。
利き腕にはアタッシュケースを握りしめている。
「悩む事はない、とはどういう意味だ?」
UNKNOWNに問うサムソン。
それに対して、UNKNOWNは懐よりゆっくりとタバコを取り出した。
「‥‥この時代、正義や悪という概念は失われた。
だが、実際には文明が滅びた時点でそう見えるだけだ。
人が居る限り、正義と悪は存在する。
ならば、正義と悪とは‥‥なんだ?」
UKNOWNは咥えたタバコに火を灯す。
立ち上る煙は、線を描きながら上空へと向かう。
刹那、UKNOWNはアタッシュケースからエネルギーキャノンを素早く取り出した。「そんな物は立場を正当化する詭弁に過ぎん。
今はっきりしている事――それは、あのビルに居る事は汚物という事だ。
そして‥‥‥‥汚物は消毒だ!」
UKNOWNはエネルギーキャノンの引き金を引く。
中に誰が居ようが知った事ではない。
容赦ない連射が聖地と呼ばれたビルを襲い、穿ち、破壊する。
「お、おい。あれは聖地と呼ばれる場所だ。
そこを破壊しては‥‥」
「違うな。見かけ倒しの筋肉を製造する場所だ。
ナチュラルマッスル派の俺からすれば、邪道の城に過ぎん」
邪道の城。
UKNOWNは聖地をそう言い切った。
筋肉とは薬品等に頼るものではない。自然の力を得て初めて育まれるもの。
あのような場所が聖地と呼ばれる事に、UNKNOWNは我慢できなかったのだ。
「‥‥くそっ、なんだってんだ!?」
瓦礫の山から顔を出すブーメランパンツの男達。
聖地は蜂の巣のような惨状となるもの、中の男達は無事。
やはり、武器に頼るだけでは倒す事は難しそうだ。
「あっ! きっと奴らの仕業だ!」
出てきた男たちがサムソンの方を指さした。
それに促されて、男達がサムソンに向かって走り出す。
「今日を懸命に生きる者を踏みにじる行為‥‥見逃すわけにはいきません」
向かってくる男たちに向かって構える空。
医者である空の表情は、既に武人のそれへと変化していた。
●戦乱
「ふん、拳銃なぞ俺の筋肉には効かないぞ!」
サムソン達とビキニパンツの男達の乱闘が開始。
その最中、一人の男が高笑いを決め込む。
ムーグ・リード(
gc0402)が撃ち放つ弾丸を、躱し続けているのだ。
「‥‥力、ハ、弱き、者、ニ、振るウ、物デハ、無い」
片言のムーグリードは銃を連射しながら呟く。
右手に拳銃ケルベロス。
左手に番天印。
二丁の拳銃で撃たれているが、その弾丸は男の体を捉える事はできない。
「ふはは。貴様の弾丸など、恐れるに‥‥」
そう言い掛けた男だったが、次の言葉を思わず飲み込むしかなかった。
何故なら、ムーグは銃で撃ちながら近づいていたのだ。
脳みそまで筋肉となっていた馬鹿な男は、間合いを保つ事を忘れて弾丸を躱していたのだ。
「そんな馬鹿な!」
「‥‥馬鹿、ハ、お前」
ムーグは銃のグリップで男の後頭部を強打する。
男は筋肉が弛緩し、頭から地面に倒れ込んだ。
「お、俺様も、いくぞ‥‥! ゆ、勇者パーティ、レディーゴー!」
ムーグの活躍に続けとばかりに戦場へ殴り込みをかけたのはジリオン・L・C(
gc1321)。
だが、ジリオンは参戦したばかりにも関わらず既に危機的状況。
実は飢えの上に重体という絶不調。それでも、勇者として村人を助けるべく聖地へ現れたという訳だ。
「俺様を、キズモノにした責任。取って、もらうぞ‥‥」
拳を握りしめるジリオン。
「はぁ? そのボロボロな体で何をするってんだ?」
ジリオンをあざ笑う男。
だが、ジリオンも引く訳にはいかない。
飢えに苦しむジリオンを助けてくれた村人たち。
その暖かい笑顔と心に報いるためにも、このような場で負ける訳にはいかない。
「うぉぉぉ!」
眼前の男に対して渾身の力を込めて殴り掛かるジリオン。
重傷の身とは思えない右ストレートは、男の左頬を捉えて貫く。
瞬間、轟音と共に生まれる衝撃。
男の体は吹き飛ばされ、聖地だった瓦礫に激突する。
油断仕切っていた
「こ、これは‥‥」
「ソレが‥‥拳ノ‥‥力デス」
ふらつくジリオンをムーグが支えた。
拳の力。
つまり、ジリオンの想いが力となって炸裂したのだ。
「つまり、見せかけだけの肉体では『己の意志と覚悟』を超えられないという事ですね」
殴り掛かる男の力を利用して、投げ飛ばす辰巳。
筋肉で無法を行う者に、決して負ける事はないという事だろう。
「何を言ってやがる! 俺たちは毎日聖地で鍛えてきたんだ!」
焦りながら、別の男がUKNOWNへと向かっていく。
だが、当のUKNOWNは不敵な笑みを浮かべている。
「ふっ‥‥それがマッスルだと?
作り物は不細工だな」
UKNOWNはコートを取り、ネクタイを緩めてシャツを脱ぎ捨てた。
そこには鋭いカッティングのビキニパンツ、引き締まった腹筋、逆三角形の肉体が現れる。
「なにっ!?」
「プロテインだと‥‥ササミを食え。米をよく噛んで食べろ。
筋肉も勉学。むやみやたらに鍛えるなど――愚の骨頂!」
ダブルバイセップス・フロントで筋肉を強調するUKNOWN。
作られた筋肉に正義などあるはずもない。
薬に頼らず、己の体を一つで鍛え上げる筋肉。
それこそが、正当なるマッスルと言えるはずだ。
「くっ、見事な肉体‥‥」
UKNOWNの筋肉を目撃した男は、その場でへたり込んだ。
どうやら、自らの筋肉理論だけで男を屈服させたようだ。
「サムソン、こちらも負けていられん。アドンを呼ぶんだ」
秋月はサムソンに叫ぶ。
アドンとは、秋月がサムソンに居るはずだと考えた兄弟である。
「あ、兄貴。俺に兄弟は‥‥」
「いいから呼べ!」
居る! と言い張る秋月の迫力に押し負けるサムソン。
仕方なしにサムソンはアドンという名を口にしてみた。
「あ、アドン‥‥」
「朕を呼んだかにゃー」
アドンの名に反応して現れたのは、カイゼル髭に紙おむつを装着した怪しい男。
筋肉全盛の最中で、悲惨を通り越して肋が浮き出る哀れな体を晒している。
「アドン改め、タッチーナ・バルデス三世だにゃー」
そう言いながら、胸を押さえるセクシーポーズを取るタッチーナ。
この瞬間に、秋月はジョーカーを引いた事に気づく。
「お、おい」
「兄貴、見ていてくだせぇ。こんな奴ら、朕一人で殺ってやりますぜ」
タッチーナは紙おむつからサバイバルナイフを取り出すと、舌で刀身をなめ回す。
「朕がモテるために‥‥死ねぇ!」
タッチーナはナイフ片手に飛び掛かった。
だが、男は臆する事無く、タッチーナにストレートを叩き込む。
「ぶべぇ!」
吹き飛ばされるタッチーナ。
半ば予想通りではあったが、秋月は心配してタッチーナへ駆け寄った。
「アドン!」
「‥‥朕は殺りましたぜ‥‥朕自身を‥‥」
秋月に抱きかかえながら、タッチーナは息絶えた。
(くそっ、怪我がなければ。‥‥言い訳なんて焼きが回ったか)
エシック・ランカスター(
gc4778)は急所を守りながら、奥歯を噛み締めた。
ジリオン同様、先の戦いの傷が癒えないまま、戦いに赴いたエシック。
己の想いに動かされて戦場へ赴いたが、体が思うように動かない。
「敵の攻撃を腕で払わなければ‥‥」
そう言いながらエシックは自らの腕に視線を落とす。
自分の腕は普通だが、村に居た老人のものはどうだったか?
こんな健康的だったか?
細く、骨だけの状態だったはずだ。
何故?
それは、目の前の敵がプロテインを奪ったからだ。
あのおじいさんも。
雑貨屋のおばさんも。
農家のお兄さんも。
すべて目の前の敵が奪い、破壊していった。
その想いがエシックの中で、怒りを通り越して悲しむへと昇華する。
「貴様らの魂‥‥」
防戦一方だったエシック。
その呟いた一言に、攻撃した男が反応する。
エシックの体が小刻みに震える。
「脂肪にすら劣る!」
エシックが叫ぶ。
男にはエシックの体が複数へ分身して見える。
「おおっ!」
周囲を見回す男。
しかし、エシックの本体を見極める事ができない。
気づけば、エシックの頬に熱い物が流れる。
悲しみを強さに変えたエシックは、拳を男目がけて振り下ろす。
「ごべぇ!」
数十発の拳を全身に浴びる男。
男は吹き飛ばされる事も許されず、その場へ崩れ落ちた。
「こ、この力は‥‥」
エシックは無我夢中で放った拳に戦いた。
多数の男達が拳で殴り合う中、自らの発揮した力に震える他なかった。
●師匠
サムソンたちの活躍で、聖地を占拠する男達を排除する事ができた。
だが、この男達を率いていたマッスルキングの姿を発見できていなかった。
「くそっ、マッスルキングはどこだ」
秋月は周囲を見回す。
戦闘を放棄した無法者の男達以外に、敵を確認する事はできない。
「わしはここだ! ここにおる!」
辺りに響き渡る男の声。
声の方向に視線を送れば、瓦礫の上に一人の男が立っている。
僧衣に身を包み、弁髪が印象的な男だ。
「あなたがマッスルキングですか?」
辰巳は男へ声を掛ける。
その声に対して、男は軽い笑みを浮かべた。
「如何にも。このわしこそが筋肉を競い合う祭典『マッスルファイト』の覇者。ボディを愛する事には誰にも負けないBL不敗である!」
BL不敗を名乗った男はその場からジャンプ。
辰巳の近くへと着地する。
「見たところ‥‥それなりに楽しめそうですね」
辰巳の武人としての魂が何らかを感じ取ったようだ。
今まで倒した無法者とは何かが違う。
BL不敗を前に、本能が警鐘を鳴らし続けている。
「ふんっ、わしに挑むか。
ならば、その力を存分に示すが良い」
「言われなくても!」
辰巳は一足飛びでBL不敗との間合いを詰める。
同時に左腕はBL不敗の首を刈り取るように振るわれる。辰巳は首取って一気に締め落とすつもりだ。
――だが。
「‥‥だから、お前は‥‥阿呆なのだ!」
BL不敗は刈り取りにきた腕を掴み、辰巳を後方へと投げ飛ばす。
辰巳の体に乗っていたスピードも加わり、辰巳は地面へと叩き付けられる。
「貴様も武人ならば、己の生き様を拳で表現してみせい!」
「ならば‥‥俺が‥‥未来の、勇者と呼ばれる所以! ‥‥見せて、やるぜ!」
BL不敗へと立ち向かおうとするジリオン。
しかし、飢えと重傷を負った体で先の戦いを戦い抜いたのだ。
既に体は限界を超えている。
「‥‥無理ハ、駄目デス‥‥」
ムーグはジリオンを止めようとする。
だが、ジリオンは手でその行為を制止する。
「これは‥‥俺の、勇者としての戦い‥‥最後まで、戦い抜く」!
「よくぞ、申した我が弟子よ。
ならばわしも全力でそれに答えるとしよう」
BL不敗は右手の拳をジリオンへと差し向ける。
勝手にジリオンを弟子呼ばわりしている辺り、ジリオンの事を気に入ったのかもしれない。
「滾れ、俺の拳!
震えるぞ、ハード! 萌え尽きる程、ヒート!」
力を振り絞ってストレートを放つジリオン。
想いの乗った拳は炎に包まれ真っ赤に染まる。
しかし、BL不敗の拳も紫炎に包まれている。
拳と拳。
赤と紫の衝撃は、波となって周囲へ伝わっていく。
「これは‥‥」
衝撃波を受けながら、サムソンは後退りした。
渾身の力がぶつかり合い、想いと魂が火花を散らす。
同時にジリオンの体も悲鳴を上げ続けている。
「うっ‥‥」
ジリオンの体から一瞬力が抜け、片膝を付いた。
限界を超えていたジリオンの体では、BL不敗との戦闘は無理なのだろう。
すかさずBL不敗が叱り飛ばす。
「どうした、馬鹿弟子!
立ってみせい! ここで立たねばただの負け犬。腰に力を入れて立ち上がらんか!」
「うるさい!」
BL不敗の言葉を受け、再び立ち上がるジリオン。
迫害を受ける村人たちに報いるためにも負ける事は許されない。
その想いが赤い炎を激しくさせる。
「おおっ!」
思わぬ衝撃に、BL不敗は感嘆の声を上げる。
危機を察したBL不敗は体を捻ってジリオンの拳を受け流した。
押し止められた衝撃は、BL不敗の後方にあった聖地を吹き飛ばして完全破壊した。
「見事だ、我が弟子よ。
わしが『メンズ・オブ・ハード』の称号を譲り渡しただけある」
BL不敗は呟いた。
ジリオンからすればそんな称号を受けた記憶はまったくないのだが、BL不敗の中ではきっとそういう事になっているのだろう。
「貴様ならば、この世界を変える事ができるかもしれん。
しばし、その命を預けるとしよう」
BL不敗は大きくジャンプ。
ジリオンから間合いを取った。
「待て! 逃げる気か!」
「マッスルの道を歩めば、いずれ再び交わる事もあろう。
その日まで‥‥さらばだ!」
猛スピードでその場を去るBL不敗。
その姿を見送りながら、ジリオンは地面へと倒れ込む。
想いだけがジリオンの体を突き動かし、支えていたのかもしれない。
聖地は破壊されるという思わぬ形で、事件の幕は閉じた。
無法者たちはサムソンたちの登場で逃げ出し、聖地付近は無人の荒野へと戻った。
だが、BL不敗の目的は今を持って謎のままである。
いずれ、旅を続ければBL不敗と再開かもしれない。
その時こそ、再び魂の戦いはゴングが――鳴り響く。