タイトル:蒼天已死マスター:近藤豊

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/01/24 12:56

●オープニング本文


「きゃぁぁぁぁ!」
 女性の悲鳴が周囲に木霊する。
 だが、いくら泣き叫んでみても、誰も助けには来ない。
 畑の上で転倒、顔を土だらけにしながら必死に藻掻く女性。

 ある日突然襲った女性の悲劇。
 何故、自分がこのような目に遭わなければならないのか。
 一体、自分が何をしたというのだろうか。

 女性は嗚咽を漏らしながらも脳裏に不幸な自分の身を呪う。
 そんな女性の感情を無視しながら、追いかけていた者たちは女性の上半身へと手を伸ばす。
 派手に破かれる女性の服。
 服の一部だったと思われる青い生地が宙を舞い、雪のようにひらひらと舞い落ちる。

「ウキキー!」
 舞い落ちる生地を見ながら、戟を手にした猿型キメラが一人で大興奮。
 その傍らではもう一匹の猿型キメラが、女性の頭に黄色い頭巾を巻いている。
「ウホッ!」
 別の場所では羽扇を手にしたゴリラ型キメラが、青い屋根の家を殴り続けている。
 その傍らでは家屋の主が泣きながら祈っているが、猿に言葉が通じる訳もない。ただ、家が壊される様を黙ってみている他はなかった。
 ゴリラはトドメとばかりに、柱に向かって渾身の一撃を加えた。
 瞬間、家は崩壊。家屋だったものは瓦礫の山と化す。

 破壊活動を繰り返す猿たち。
 その様子を遠くから見つめている者が居た。
 額に白い模様を有した馬型キメラに騎乗するバグア兵。三国時代の鎧に身を包み、『黄』と描かれた派手な旗を手にしている。
 バグア兵は猿型キメラの破壊活動に満足しながら、馬を反転。
 駈歩でその場を後にする。


「これは勅命である!」
 曽徳鎮中尉は、眼前に居たラリー・デントン(gz0383)を怒鳴るように叫んだ。
 ちょび髭にオールバック、異様なまでに甲高い声が印象的。
 一度見ればそう簡単には忘れない曽中尉だったが、漢王室から続く名族だと自称している。もっとも、本当に名族の家柄であれば中尉のままであるはずがない。おそらくそう思い込んでいる妄想癖だろう。
 ラリーはそう考えていたが、さすがに本人の前ではそれを差し控える事にした。
「‥‥私に何か、文句でもあるのか?」
「あ、いや、別に‥‥ちょっと足下の台が邪魔だなぁと」
 ラリーは曽の足下に視線を落とす。
 そこには階段状の台があり、曽は台の最上段に上ってラリーへ話しかけていたのだ。
「貴様、最初に言ったはずだ。私は身長について触れる事は許さん、と。
 もしかして、貴様も私を馬鹿にしているのか?」
「と、とんでもない!」
 必死で否定するラリー。
 ULTから報酬の良い依頼が入ったという事で喜び勇んでやってきた結果がこの始末だ。どうやら、ULTに厄介払いされたようだ。
「ふん、まあいい。
 今回、我が栄光ある特別機動部隊は、敵工作部隊と交戦。これを撃破する命が下った。貴様はたった今から特別機動部隊へ編入となった。有り難く思え」
「あ、あのー、中尉‥‥」
「中尉ではない! 我が部隊に配属された以上、私の事は『閣下』と呼べ。そう呼ばなければ返事をしてやらんぞ」
 ラリーの質問を遮って曽は一方的に捲し立てる。
 そもそも、ラリーは傭兵だ。UPC軍へ入った記憶はまったくない。だが、曽の中では既に直属の部下という扱いのようだ。もっとも、現段階で曽の特別機動部隊は曽とラリーの二人だけなのだが‥‥。
「では、閣下。
 敵工作部隊を撃破する作戦を教えていただけないでしょうか」
 ラリーは曽の機嫌を損ねないよう、可能な限り下手に出た。
「うむ、良い質問だ。
 名族である私の作戦はこうだ。
 まず、現地へ赴き索敵。その後、敵と遭遇。この敵を撃破する」
「は?」
「これ以上完璧な作戦はあるまい。ふふ、どうだ? 緻密かつ隙のない作戦を前に何も言えまい?」
 満足げな表情を浮かべる曽。
 本人は完璧だと考えているようだが、あまりの無計画な作戦立案にラリーは頭を抱える他なかった。
「ふむ、ラリーと言ったな。
 名族である私が率いる光り輝く部隊で活躍できる事を子々孫々まで語り継ぐが良い。ぶわっはっは!
 ‥‥あ、それから現地には私も行く。しっかり護衛するように」
 曽はラリーの肩をぽんと叩いた。
 これから曽と一緒に戦闘しなければならない。
 そう思うだけで、置かれた手がずっしりと重くなった気がする。
「‥‥ツイてねぇ。これはかなり強烈だな‥‥」

●参加者一覧

夜十字・信人(ga8235
25歳・♂・GD
芹架・セロリ(ga8801
15歳・♀・AA
紅月・焔(gb1386
27歳・♂・ER
橘 咲夜(gc1306
18歳・♀・ST
姫川桜乃(gc1374
14歳・♀・DG
ヨダカ(gc2990
12歳・♀・ER
夏子(gc3500
23歳・♂・FC
エティシャ・ズィーゲン(gc3727
15歳・♀・ER

●リプレイ本文

●名族の威光
「決戦である!」
 曽徳鎮中尉が高らかに宣言する。
 成都市郊外の農村に現れたバグア兵の一団を排除せよ、というUPCから下った指令。 曽はこの指令を『勅命』と考え、特別機動部隊を勝手に設立。依頼で集まった傭兵たちを編入させていた。
「閣下の作戦に情報部も唸っておりました。流石です、閣下」
 少し古びたUPC軍の軍服に袖を通しているのは、エティシャ・ズィーゲン(gc3727)。
 秘書役のようにエティシャが付き従って煽てている事から、曽はいつもよりご満悦だ。
「うむ、私の天才的頭脳から生み出された作戦ならば勝利は約束されたようなものだ」
 エティシャにおだてられて高笑いをする曽。
「閣下、今戻りました」
 ラリー・デントン(gz0383) は、沢山の荷物を持って山村へやってきた。
 曽は私物がぎっしり入ったアタッシュケースをラリーに運ばせていたのだ。
 荷物を抱えて汗だくのラリー。
 だが、曽は労いの言葉一つもない。
「‥‥‥‥閣下」
「なんだ、その顔は。
 それより喜べ。私にも秘書が付いたのだ。軍部も私の威光が轟き始めたようだ」
「へぇ〜。秘書ねぇ‥‥って、お前‥‥」
 ラリーはエティシャの顔を見て驚嘆した。
 ラリーとエティシャは別の任務で一緒だった事がある。その顔見知りがUPC軍の服を着て秘書をしているのだ。どう考えても正式な秘書ではあり得ない。
 だが、エティシャはラリーの言葉を遮るように近づいてくる。
「‥‥後で埋め合わせはする。今は黙ってろ」
 小声で囁きながら脇腹を小突く。
 どうやらエティシャは曽を上手く操縦するために秘書役を買って出たようだ。
「なんだ、私を放って相談事か?
 あんまり私を放っておくと拗ねてしまうぞ?」
「あ、閣下でゲスね?
 いや−、お会いできる事を楽しみにしてたでゲスよ」
 拗ねかけた曽の傍らに現れたのは夏子(gc3500)。
 初めて出会う相手という事で軽く煽てておこうと考えた夏子であったが、その一言が曽を増長させる。
「楽しみ? つまり、名族である私の名が売れているという事だな!」
「はい。ヨダカが必ず閣下に吉報をもたらせて見せます!」
 ヨダカ(gc2990)は力強く答えた。
 ヨダカの脳裏にはバグアの特性を活かしたある妙案が浮かんでいる。
 おそらく、この作戦ならば必ず勝利へ導けるだろう。
「中尉さん‥‥っていうからもっとお堅いイメージがあったんすけど。
 あだ名はかっかー、っすか。
 なんだか楽しい人っすね!」
 煽てられていた曽に水を差したのは橘 咲夜(gc1306)。
 閣下、という呼び名をあだ名と考えているようだ。
 これには曽もご立腹だ。
「貴様、名族たる私を馬鹿にするのか!
 私は漢王朝から続く名族の出であるぞ!」
「そうだ! 閣下を敬わないアルバイトAは私が蹴散らしてやるにゃ!」
 姫川桜乃(gc1374)も、曽の傍らで興奮している。
「閣下。この不届き者は放っておいて、バグアを成敗するに」
「ふん、有能な部下のおかげで私の心が傷つかずに済んだ。
 先程の無礼は許してやろう。その代わり、しっかり働くのだぞ」
 曽は咲夜を一瞥する。
「あ、ラリーさん。よっちーは来たかにゃ?」
「‥‥よっちー‥‥よっちーって‥‥」
 姫川の言葉を繰り返し呟くラリー。
 繰り返す中で脳裏に蘇る一人の男。
「ラリー。お前だけでも十分濃いのに、また珍妙なのを連れてきたな」
 呆れた顔でラリーを見つめるのは夜十字・信人(ga8235)。
 その傍らには芹架・セロリ(ga8801)、紅月・焔(gb1386)の姿もある。
 実は、ラリーと三人はそれぞれ別の任務で一緒だった事がある。その際、様々な不幸が巻き起こり、騒動が発生している。
 三人の登場に、ラリーは軽く頭を抱える。
「やっぱり不幸のブラックホールか。しかもオプションまで引き連れて‥‥」
「誰がよっちーのオプションよ! この二人と一緒の扱いなんて屈辱です。慰謝料を要求しますわ! 餃子を腹一杯食べさせて下さい」
 セロリは鼻息荒く言い放った。
「ああ、悪い。お前は胃袋がブラックホールだったか」
 以前、セロリに好きなだけ食事を奢ると約束した事があったが、財布の中身が空になるまで食い尽くされた上、借金まで背負わされたラリーが寂しそうに呟いた。
「ああ。こちらが、ば閣下ですね。初めまして!」
 焔も夏子同様初めて会った曽に対して挨拶をする。
 しかし、閣下の前に付けられた『ば』に強くアクセントを置いている。
「ん? 私は曽だ。馬ではないぞ?」
「すいません! 『ば』閣下!」
「だから私は‥‥」
 焔の嫌がらせに気づかない曽。
 あまりの鈍さに夜十字が間へ入る。
「つまり、こいつは‥‥閣下が『馬鹿』と言いたいのであります、サー」
 元軍曹である夜十字は、下士官の虫が疼いてはっきりと言い切った。
 その言葉を聞いて、曽は焔を睨み付ける。
「貴様、本当なのか! 私を馬鹿にしているのか!」
「とんでもない! 紅月家一族では尊敬する人には『ば』を付けるです。
 ねぇ、ばかよっちー?」
 『ば』だけではなく、はっきり聞こえるように『か』まで付けた焔。
 自らが馬鹿と言われた夜十字だったが、それどころではない。
 天使の羽のようにナイーブな曽がいじければ、また面倒な事が起こりかねないからだ。
 しかし、曽は予想以上にも馬鹿だった。
「そうなのか。それは疑って済まない」
 どうやら、焔の言葉をそのまま信じ込んだ。
 焔だけは閣下の前に『ば』を付与する権利を得たようだ。
「あー、閣下。
 そろそろバグアを倒しに行きませんか?」
 痺れを切らしたラリーは申し訳なさそうに曽へ話しかける。
「そうだな。栄光なる我が部隊の初陣を勝利で飾ろうではないか!」

 こうして、曽徳鎮特別機動部隊は初戦闘へと赴くのであった。

●閣下、華麗に宙を舞う
 バグア兵の一団と遭遇する事は、簡単だった。
 実は初陣という事もあって、曽は部隊の旗印を用意していたのだ。 
 本来であれば、黄色地に黒い文字で『曽』と書かれる予定だった。
 だが、発注ミスで青色地に黒い文字で書かれてしまったのだ。
 おかげで『曽』の文字はよく見えず、ただの青色の旗にしか見えない。
「私の威光が‥‥」
 曽の字が読めない事もあり、曽はがっくり項垂れている。
 バグア兵を呼び寄せて対峙する事に成功したのだが、曽にとってはそれどころではないようだ。
「閣下、気に病んでは駄目にゃ。ここで勝って汚名返上だにゃ」
「閣下、お立ち下さい。此度の作戦が成功すれば、閣下の評価は上がります。そうなれば、如何なる『蛮族』であっても閣下を無碍には出来ますまい」
 体育座りでいじける曽に、姫川とエティシャが励ました。
「‥‥そうだ。私はこんなところで留まる器ではない!」
 猛然と立ち上がる曽。
「ヨダカと言ったな。貴様、先程妙案があると申したな」
 曽専用踏み台、通称『ガイア』の最上段に飛び乗った曽はヨダカに声をかける。
「は、はい!
 青い色に反応するのであれば、青色のペイント弾で敵を撃てば同士討ちを始めるはずです」
 ヨダカによれば、敵は青い物を破壊する修正がある。
 ならば、敵を青い色で染め上げれば仲間同士でつぶし合いをする、というものだ。
「うむ! その案は私も考えていたものだ。早速、準備せよ!」
 見栄っ張りな曽は自らの発案を装って指示を出す。
 もっとも、ヨダカの案を事前に聞いていた夜十字によって準備は既に完了しているのだが。
「さぁ、開幕だ。踊れ!」
 夜十字はペイント弾が装填された大口径ガトリング砲を発射。
 睨み合いを続ける形で対峙していたバグア達に青い塗料が大量に付着する。
 あっという間に青色に染め上げられていく。
「ムキー!」
「ムキキー!」
 ヨダカの予想通り、猿型キメラ、ゴリラ型キメラは青に染まった仲間達へ攻撃開始。
 馬型キメラも、バグア兵を振り落として大暴れの様子だ。
「成功か。これなら楽できそうだ。ヨダカには感謝しないとな」
 同士討ちを開始するバグア達を見ながら、ラリーは夜十字の傍らに立った。
「さて、俺たちも仕事を‥‥って何しているんだ?」
「ほら、貸してやる。これで猿の一匹でも片付けて来い」
 夜十字はペイント弾から実弾を装填したガトリング砲を手渡した。
「‥‥‥‥」
 ラリーは手渡されたガトリング砲を手にしたまま押し黙った。
 その様子を不安そうに見守る夜十字だったが、その不安は姫川のある一言によって掻き消される事になる。
「閣下! 先手必勝にゃ!
 ここは突撃を仕掛けるべきです。あのバグア兵に向かって!」
 突如、姫川は曽自ら突撃を申し出た。
 つまり、曽が格好良く突撃してバグア兵を打ち倒せばUPC軍内部で話題になる事は間違いない。
「よくぞ申した!
 名族の威光を轟かせるため、曽特別起動部隊は突撃を仕掛ける!
 私に続け!!」
 慌てて夜十字と咲夜が止めに入る。
「閣下、バグア兵に突撃は危険です。まずはキメラを掃討しましょう」
「かっかーさんがここで怪我したら、独りで台に立つ簡単なお仕事ができなくなっちゃうよ?」
 今回の任務には曽の護衛も兼ねている。
 護衛対象が突撃されては、護れるものも護れなくなる。
 だが、曽に二人の言葉は届かない。
「うるさい! 突撃と言ったら突撃だ!
 行くぞ、皆の者!」
 剣を片手にガイアから飛び降りる曽。
 短い足を必死で動かしながら、バグア兵に向かって走り出す。
「あ、ば閣下。ごっめーん」
 突然、走る曽に対して焔は体当たり。
 先に謝罪している時点でわざとなのは間違いない。
「げひぃ!」
 曽はバランスを崩して地面で派手に転がった。
 起き上がろうとする曽だが、膝小僧を擦りむいた事に気づくと大騒ぎを始める。
「ひぃ、負傷した! 死んでしまう!
 皆の者、私を護れ! メディック、早く!」
 甲高い声で情けない台詞を吐き続けている。
「閣下、私が治療致します」
 曽の元へエティシャが駆け寄った。
「閣下、ここは戦場になります。村人の避難誘導を行います」
 治療しながら、エティシャは言った。
 しかし、大騒ぎをする曽は我が侭を口にする。
「駄目だ。お前は私を護れ。村人よりも私を優先しろ」
「‥‥仕方ない。こうなったら早急にバグアを処理するとしますか」
 曽の様子に夏子は、ため息をつく。
 ヨダカとエティシャに練成強化を施された傭兵達は、短期決戦を挑む。

●討伐
 青いバンダナを巻いた夏子は、超機械「天狗ノ団扇」でゴリラ型キメラを吹き飛ばした。
「夏子がまともにやり合うとでも?」
 方天画戟を片手にゴリラを挑発、夏子に向かって突撃させたところを「天狗ノ団扇」で吹き飛ばしたという訳だ。
 地面に転がるゴリラ。
 起き上がる隙が、傭兵たちにとって最大のチャンスとなる。
「もう一回寝てな!」
 持ち上がるゴリラの頭に、夜十字のガトリング砲を思い切り振り下ろす。
 大重量のガトリング砲が頭に落とされ、ゴリラの頭が割れて血が流れ出す。
「チャンスは最大限に活かす。敵を倒すのも、女子のパンチラを見るのも一緒だ」
 滑り込むように飛び込んできた焔は、手にしていたエナジーガンを撃つ。
 割られた脳天を、貫かれたゴリラ。
 羽扇が手からこぼれ落ち、ゴリラは絶命する。
「ゴリラが羽扇を持っている姿がシュールでしたが、案外呆気なかったねぇ」
「ヨダカの作戦が良かったんだろうな」
 夏子の言葉に、ラリーが返した。
 ゴリラは既に猿型キメラから受けたと思われる傷があった。
 同士討ちの効果は確実に上がっている。

「それじゃ、そろそろ真面目に‥‥show a corpse」
 超機械「ケイティディッド」のスイッチを入れるヨダカ。
 猿型キメラの周囲に電磁波を発生、強烈な衝撃が猿の体を襲う。
「キキー!」
 悲鳴を上げる猿。
 既に仲間からの攻撃を受けていた猿は全身傷だらけ。
 ヨダカの一撃で意識が飛びそうになっている。
「それ、今だ!」
 動けない猿に、咲夜は脚を狙ってエネルギーガンを撃った。
 撃ち抜かれる脚。
 力を入れられずに猿型キメラは地面へ倒れ込んだ。
「おさるさんはどんな気分っすか?
 今の選択肢は地面に伏しているか、おうちに帰るかの二択なんすよ」
 微笑む咲夜。
 傍らに居るもう一匹の猿も同じように脚を撃たれて倒れ込んでいる。
 嫌がらせを兼ねた攻撃だったが、倒すよりも効率的だったかもしれない。
 だが、そこへ新たな馬型キメラが駆け寄ってくる。
「ヒヒーン!」
 馬は地面に転がる青色の猿に向かって踏みつける。
 馬の蹄は猿の顔面を捉えて捻り潰す。
 痙攣する猿の体。
 仲間だった肉塊に目もくれず、馬はもう一匹の猿を思い切り踏みつぶしている。
「もう、逃げちゃ駄目にゃ!」
 馬の後を追って姫川が追いかけてきた。
 姫川のスカーフを見て攻撃を仕掛けていた馬だったが、青く染まった猿が地面で這いつくばっているのを見かけてやってきたようだ。
「こうなったら‥‥奥の手だにゃ!」
 叫んだ姫川は馬の眼前へ一枚の布を投げる。
 空気抵抗を受け、ゆっくりと舞い落ちるのは一枚のパンツ。
 青と白の縞模様が風に揺れながら、地面へ着地。
 別にパンツである必要はないが、パンツの青色部分は馬を刺激するには十分。
 馬はパンツに向かって走り出す。
「ヒヒーン!」
「偉大なるパンツの力、見せてやるにゃ!」
 馬と交差する瞬間、名刀「薄」は馬の腹部を引き裂いた。
 しなやかな太刀筋は、馬の腸を飛び出させて派手に転倒させる。
 
 馬型キメラも倒され、残るはバグア兵のみ。
 そのバグア兵も夜十字とセロリの二人に追い詰められていた。
「そろそろ終わらせる。これで‥‥」
 夜十字はクルシフィクスを横に薙いだ。
 十字架のようにも見える大剣は、バグアの胸板を掠めながら空を切る。
 バグア兵は槍を片手に後方へジャンプ、夜十字の一撃を間一髪で躱していた。
 だが、着地の瞬間に大きな隙が生まれる。
「頭が高ーーーいっ! ちょいさーーっ!」
 セロリは強刃を発動、菫をバグア兵に向かって思い切り叩き下ろす。
 空中で方向転換する事もできず、バグア兵は背中から切り裂かれる。
 前のめりに倒れ込むバグア兵。
「さすがのバグア兵も、貧乏神には勝てなかったか」
「ちょっと、どういう事?」
 夜十字の一言にむくれるセロリ。
 だが、夜十字の視線はラリーへ向けられていた。
(やはり‥‥銃を撃てない理由があるのか)

「夜十字、こいつを返す」
 ラリーはペイント弾の残骸を清掃する最中、借りていたガトリング砲を夜十字へ返した。
 銃を撃てない傭兵に如何なる結末が待っているのか。
 夜十字はその結末が気になり出していた。
「ハードラック」
「なんだ?」
「俺は、お前の死神ぐらいでは死なない。安心しろ」
 夜十字の言葉を聞いたラリーは、そっとタバコに火を付ける。
「頼もしいねぇ。だったら、見せてもらおうか。
 死神に打ち勝つ傭兵の生き様ってヤツを」