タイトル:【LP】北京伏兵殲滅・地マスター:近藤豊

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/01/16 15:34

●オープニング本文


 北京周辺のバグア主戦力が事実上敗退したことで、日和見な者たちもバグアを見限り始めた。それは、至極単純な形となって現れる。
「祭門の連中は知らないでしょうがね」
 ある者は『UPCにうまく取り入った』別勢力への対抗意識も露に。また、別の者は自分達の安全を代償に。場所こそ違えど、もたらされた情報は概ね同様のものだった。
「‥‥『人民の海のなかに埋葬する』ですか。なるほど、ウォンとやらは勉強家ですね」
 孫少尉は呆れた様に首を振る。UPCの反攻の主力は、特殊作戦軍だ。強力な軍が去るまでは周辺に隠れひそみ、その後退を待って再び出現、八門を確保しようと言う策だったのだろう。しかし、隠れるべき人民に見放されれば、潰える策でもある。
「いずれにせよ、看過はできません。傭兵に連絡を」
 かくて、本部にまた一つ依頼が並ぶことになった。

 ウォンの用意した伏兵の士気は高い。
 再び八門を奪還するための攻撃拠点として、彼は過去に手下のバグア・陳小龍に寂れた村を丸ごと与えた。そこには十分な兵力に加え、キメラプラントも完備している。
 そして作戦遂行の時になれば、この村は本当の姿を現すのだ。痩せた土地をその背で壊し、意思を持ったかのように動き出す。そう、この村全体が作戦遂行の要と位置づけられた地上戦艦なのである。これを計画通りに実行されたなら、戦況はますます不安定になっていただろう。
 しかし、この戦艦の存在はあっけなく明るみに晒されてしまった。ここしばらくの戦況を注視し、独自の判断でバグアを見限ったある組織が保身を目的に、地上戦艦『天雷』の情報をUPC軍にリークしたからだ。
 もちろんバグア側も協力者の変化には非常に敏感で、陳も「すでに地上戦艦の存在は人間側に露見した」と判断していた。
 だが進軍しても孤立無援は火を見るよりも明らかで、自分に課せられた作戦の遂行するには難しい。そして不幸にも士気が高いことが災いし、強行出撃を進言する部下が大半を占めているという現状‥‥今さら搦め手を使う空気でもない、というのが現状である。
 指揮官は腹を括った。
「地上戦艦『天雷』、死門に向けて出撃! 全軍奮起せよ!」
 陳は村の本当の姿を晒し、手近な距離に位置する北の天津市を攻めるべく動き出した。地は震わせんばかりの戦力と、天をも貫かん士気だけを頼りに‥‥
 かくして、地上戦艦『天雷』は動き出した。

 UPC軍はすぐさま作戦本部を設置し、撃破命令を遂行せんと動き出す。
 敵が軍事的安定のある天津市を目標にしてくれたおかげで、しばらくは足止めできるだろうと判断。まずは情報をかき集める。
 さっそく偵察機から、戦艦後部に超長距離対空プロトン砲が一門あるとの報告があった。さらに戦艦上空は小型ヘルメットワームと無数のキメラが飛来し、防御を固めているという。
 村だった場所、つまり戦艦上にはゴーレムやレックスキャノン、タートルワームなどの地上兵器の姿を確認。地上戦艦で迎え撃つ敵を蹂躙するだけでなく、そういった兵器で戦艦上からも攻撃を仕掛けることができるようだ。進軍に躊躇がないことから、おそらく士気が高いと思われる。
 ある将校は嘆息した。
「八門奪還は、UPC軍の士気を高揚させた。一時的とはいえ再度の支配を許せば、すべてがマイナスにしか働かないだろう」
 彼がそう言うと、隣の男が前に出てある作戦を口にする。
「高空にて飛行状態のKVが空の敵を惑わす間に、傭兵を満載した軍用輸送機が地上戦艦に強行着陸。突入部隊は速やかに、指揮官の撃破と地上戦艦の設計図を目指します。その情報を足止めを行う地上KV部隊に伝え、駆動部分を破壊して戦艦を止める‥‥これでいかがでしょう?」
 勢い任せの相手に負けず劣らずのパワープレイだが、早期決着を目指す以上は贅沢なんて言ってられない。
 すぐさま作戦は承認され、それぞれの担当者を選出。すぐさま傭兵に説明するために走った。


「俺が今回貴様らをバックアップするブラウ・バーフィールド(gz0376)軍曹である!」
 ULTからの緊急任務を受けた傭兵たちは、UPC軍基地内部のブリーフィングルームに集められた。
 軍曹は今回KV地上部隊に対しての後方支援及びオペレーターを担当するという。本来、新兵の教育指導を任務としているのだが、それだけ今回の作戦は時間も人材も不足しているのかもしれない。
「地上KV部隊に課せられた任務。
 それは、敵勢力を排除しながら突入部隊を支援。さらに突入部隊からの情報を元に敵地上戦艦の駆動部分を破壊する事である」
 軍曹から告げられた内容は既に書面として、傭兵たちにも配布されている。
 だが、改めて軍曹の肉声から説明された内容は、任務が過酷である事を思い出させた。「敵の士気は高く、相当な反撃が予想される。
 また、強化型ゴーレムを始め、敵勢力も強大である。
 つまり、KV地上部隊は本作戦の要であると同時に、激戦区となるはずだ」
 軍曹は机を思い切り叩いた。
 部屋中に響き渡る音が、傭兵たちの肌へと伝わっていく。
「だが、忘れるな!
 貴様らの後ろには北京解放を求める多くの者がいる事を――。
 お前達は人類の希望となるべく出撃するのだ!」
 今回の作戦についてはUPC軍としても負けられない一戦となる。
 仮に傭兵達がこの戦いで散ろうとも、その活躍は人類の未来を繋げてくれる。
 北京解放作戦の成否は、この一戦次第と言っても過言ではない。
「行け! KV地上部隊は、明日の未来のために‥‥馳せ参じるのだ!」

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
篠崎 公司(ga2413
36歳・♂・JG
マリオン・コーダンテ(ga8411
17歳・♀・GD
美空(gb1906
13歳・♀・HD
ランディ・ランドルフ(gb2675
10歳・♂・HD
アンジェラ・D.S.(gb3967
39歳・♀・JG
日野 竜彦(gb6596
18歳・♂・HD
奏歌 アルブレヒト(gb9003
17歳・♀・ER
片柳 晴城 (gc0475
19歳・♂・DF
高林 楓(gc3068
20歳・♀・CA

●リプレイ本文

●危険な扉
 地上戦艦『天雷』。
 それを止めるのが、今回の任務である。
 言ってしまえば簡単な任務にも聞こえるが、現実はそれ程甘くはない。
「俺は‥‥お前達に生きて帰れ、と命令できない。
 だが、北京解放を喜ぶ市民達のために‥‥その命を賭けてくれ」 
 通信機の向こうに居るブラウ・バーフィールド(gz0376)軍曹の声が震える。
 今回の任務は天雷を地上と航空から攻撃。さらに天雷への突入部隊を組織、突入部隊が天雷内部にて設計図を入手する。その情報を元に、外部から天雷の駆動部分を破壊して停止させるというものだ。
 軍曹が担当する部隊は、地上にて天雷の侵攻を食い止める部隊だ。
 地表より少し浮きながら天津へと向かう天雷を、何としても止めなければならない。
 さらに天雷の外部にはゴーレム、タートルワーム、Rex−Canonらがひしめき合っている。この勢力も10機のKVだけで殲滅する。
 決して簡単な任務ではない。
「謝るならば自分です」
 篠崎 公司(ga2413)はフェンリル01のコックピットで奥歯を噛み締める。
 先日の戦闘で重傷を負った篠崎は、完治しないまま戦闘参加となった。今回は情報管制をメインとして、各機に戦況を伝える事が主な任務となる。
「気に病まないの。
 アンタは奥さんいるんでしょ。怪我が増えてもちゃんと生きて帰らなきゃ!」
 篠崎の護衛役を買って出たマリオン・コーダンテ(ga8411)。
 今回の相手は眼前に居る敵だけとは限らない。付近の敵も天雷へ合流する事も考えられる。マリオンは付近のキメラを掃討しながら、篠崎を護衛しなければならないだろう。
「‥‥来たな。北京を護るため、多少無理してでも排除せねばなるまい」
 赤漆の塗装を施された忠勝に乗るは、榊 兵衛(ga0388)。
 機槍「千鳥十文字」の指し示す先には、地上を行く巨大な戦艦の姿があった。今から兵衛たちは、あの巨大戦艦を止めなければならない。
 傭兵達は天雷前面を護る形で扇形に敵部隊が展開されている事を知るや、側面から奇襲を計画した。側面からの攻撃で敵の陣形を崩しながら、航空部隊への対空網に穴を開けようというのだ。
「依頼としては初出撃だな。何処までやれるか‥‥」
 高林 楓(gc3068)は一人呟く。
 大規模作戦は経験があるが、今回のような依頼は初参加となる。
 大規模作戦とは違った緊張感が楓を襲う。
 しかし、この作戦の戦勝報告を多くの市民達が待っている。
 負ける事は、絶対に許されない。
「高林楓、いざ参る!」
 肩をダークブルーに彩ったパラディンは、ゆっくりと動き出す。
 それに合わせて他の傭兵達も行動を開始する。
「姉様‥‥ご武運を。
 奏歌シュワルベ、出る」
 突入部隊として天雷へ突入した姉を気遣う奏歌 アルブレヒト(gb9003)。
 その傍らを一機の破曉が駆け抜けていく。
「野郎ども、遅れてきたバグアに目に物を見せてやれなのであります」
 阿修羅・聖堂騎士団で敵機目掛けてブーストする美空(gb1906)。
 目標は隊長機と思われる強化型ゴーレム。
 雑魚にと視線を合わせる事無く、一直線に隊長機へ突撃していく。
「ああ、美空さん! 待って!
 単機では危険です!」
 美空の後を追いかけてランディ・ランドルフ(gb2675
 美空と共にゴーレムを担当、美空が狙う対強化型ゴーレム支援を行う予定だった。だが、美空の突撃に慌てたランディは、『シュトルム・ウント・ドランク』を加速させる。
「接敵! 狙い撃つ!」
 機盾「ウル」を掲げながら、美空の進路を塞ぐゴーレムにプラズマリボルバーで牽制を掛けるランディ。
 敵までかなりの距離があり、ゴーレムに当たるとは思っていない。
 美空の進路を開けてくれればそれで良い。
「やってみるか、出来る限り!」
 覚悟を決めた片柳 晴城(gc0475)。
 ゴーレムと相対するべく、シラヌイS2型を起動させる。
 自分にゴーレムの相手が何処までできるのかは分からない。
 だが、ここでやらなければ不幸な人間はもっと生まれるに違いない。
「せっかくバグアを追い払ったっていうのに、また滅茶苦茶にされてたまるか!」
 日野 竜彦(gb6596)は日竜を発進させる。
 竜彦は、タートルワーム、Rex−Canonといった大型陸戦兵器が担当となっている。
 ゴーレムと比較すれば容易な相手だが、数は油断できない。
「コールサイン『Dame Angel』、最後の足掻きたる地上戦艦『天雷』撲滅に際し、地上より強襲の任を担うわね」
 貴婦天使の名を持つアンジェラ・D.S.(gb3967)も、竜彦の後を追って移動を開始した。
  
 こうしてバグアへと奇襲をしかける傭兵達。
 少しでも早く人類の憂いを断つべく、彼らは少数精兵で奇襲を敢行したのであった。
「うらうらぁなのであります」
 美空が振り下ろした真ルシファーズフィストを、強化型ゴーレムは特殊強化サーベルで受け止めた。

●禁じられた遊び
 傭兵達は主に三班へ戦力分散されている。
 情報解析。
 タートルワーム、Rex−Canonといった大型陸戦兵器。
 ――そして。
「邪魔だ!」
 片柳はシラヌイS2型の手にしたレーザーライフルML−3を連射する。
 ゴーレムの目掛けて放たれた光の筋は、体を反転させたゴーレムを掠めながら伸びていく。
 片柳の狙いは、強化型ゴーレムの付近に居る5体のゴーレム。
 戦闘中の強化型ゴーレムへの支援を妨害するため、他のゴーレムたちを攻撃しておこうというのだ。
「簡単には討たせてくれない、か」
 片柳の射撃をギリギリで躱すゴーレム。
 ゴーレムは片柳へ反撃すべく、収束フェザー砲を片柳の方へ向けようとする。
「貫けっ!」
 片柳へ向き直ろうとした瞬間、側面から高林の機槍「ゲルヒルデ」が突き刺さる。
 がっくりと項垂れるように、ゴーレムの体から力が抜けていく。
「助かりました」
「礼は、戦闘が終わってからでいい」
 片柳の礼に対して、高林は貫通したゲルヒルデを引き抜きながら呟いた。
 ゴーレムを対応する班は戦力的にも多く割り振られている事から、戦闘は順調。
 確実にゴーレムは倒されているようだ。
「そらよっ!」
 兵衛の忠勝は、機槍「千鳥十文字」を切り上げる。
 その流れに乗るように、ゴーレムが握っていた特殊強化サーベルを上空へ跳ね上げた。
「これでも食らいなっ!」
 忠勝は切り上げた千鳥十文字の軌道を変えて再び振り上げられる。
 千鳥十文字の刃は、ゴーレムの体を捉えて引き裂いた。
 地面へ引っ張られるように後方へ倒れ込むゴーレム。
「こいつで残るゴーレムは2体。そろそろ、助勢に向かうとするか」
 兵衛は強化型ゴーレムを相手にしている美空の方に視線を送った。
 見れば、強化型ゴーレムに肉薄する阿修羅・聖堂騎士団の美空。
 その美空を援護すべく、ゴーレム撃破に奮闘するランディの姿があった。
「そのうち出る知覚特化型KVの購入予算のために‥‥散れ!」
 ビームコーティングアクスを横に薙ぐランディ。
 プラズマリボルバーで牽制射撃を行った上で、ゴーレムへ肉薄。
 その勢いを見るや、美空も本格的にエンジンがかかる。
「さぁ、これからが本番! いっくぞーであります」
 美空は超限界稼働を発動。
 防戦一方に追い込んでいた強化型ゴーレムを、一気に追い込み始める。
 その様子を見ていた兵衛はぽつりと呟く。
「ああ、こりゃ‥‥だったら‥‥!」
「あ、兵衛君!?」
 兵衛はランディに集中していたゴーレムに向かって槍を振り抜いた。
 思わぬ方向からの攻撃に、ゴーレムは避ける術はない。
 千鳥十文字はゴーレムの体を切り裂き、腹部から首にかけて大きな傷を刻み込んだ。
「酷いです。まるで横取りみたいじゃないですか」
「悪いな。あっちに手助けは不要だったんでな」
 ランディは、美空を見た。
 そこには真ルシファーズフィストを掲げて飛び掛かる阿修羅・聖堂騎士団が居た。
 ワイヤーの先で踊る無数の棘は、ゴーレムの頭部目掛けて振り下ろされる。
 棘は強化型ゴーレムの体を削り取りながら、叩きつぶしていく。
 真ルシファーズフィストが通過した後、強化型ゴーレムはゆっくりと地面へ倒れ込んだ。
「美空の敵ではないのであります」
 強化型ゴーレムを無事倒す事ができた美空。
 ゴーレム撃破を担当した班も、担当分は任務を果たした事になる。
 だが、戦況は思わぬ形で流れ始める。
「此方フェンリル01、友軍機1機行動不能!
 対大型陸戦兵器の支援願います!」
 情報管制を行っていた篠崎より各機へ通信が入る。
 危機的状況を察知した前衛のゴーレム班は、救援のために動き出した。


●翼をください
「日野殿、無事か!」
 アンジェラは仰向けに倒れた日竜に向かって叫んだ。
 竜彦はタートルワーム、Rex−Canonの前で囮役として奮闘していた。
 同じ敵を相手にするアンジェラ、奏歌の支援を受けながら接近。能力を回避に集中する事で、驚異的なフットワークを見せていた。
 しかし、大型陸戦兵器対応に編成された傭兵は三名。
 さらに接近戦を挑んだのは竜彦一人。
 結果、大型陸戦兵器のターゲットをたった一人で受ける事となってしまったのだ。
 可能な限り敵の攻撃を回避していたのだが、Rex−Canonの拡散プロトン砲を回避した先に待ち受けていたタートルワームの近接防御用ブレードと激しく衝突。
 さらに別のRex−Canonから砲撃を受けた事で、日竜は翼をもがれた天使のように地面へと墜落した。
「騒ぐなって」
 辛うじて生きている通信回線で、竜彦は答えた。
 日野自身も負傷しているが、それ以上に日竜は立ち上がる事ができない。
「日竜が動かなくても、生身でキメラぐらいは‥‥」
「待て! 負傷している日野殿に無理はさせられん。
 奏歌、日野殿回収はお願いできないか?」
「‥‥すまない‥‥すぐには動けない」
 奏歌は、レーザーガン「フィロソフィー」で竜彦を行動不能にしたRex−Canonに弾丸を叩き込んでいた。
 竜彦の囮役もあり、大型陸戦兵器の数もかなり減っている。
 だが、竜彦を救助している隙に残った戦力が奏歌を襲う事は目に見えている。
 そして、それはアンジェラにとっても同じ事だ。
「くっ、マリオン殿!」
 眼前のタートルワームの頭部に向けて、スナイパーライフルLPM−1の引き金を引くアンジェラ。
「救助したいんだけど‥‥」
 ナイトハルトのガトリング砲で、群がるキメラを薙ぎ払うマリオン。
 天雷の移動を受けて集まってきたキメラの一部は、篠崎とマリオンに殺到していた。相手は虎型キメラや猿型キメラで、一匹一匹は大した事はない。だが、多数が群れになってやってこられると進路を確保するだけでも一苦労だ。
「既に他の方へ連絡済みです。間もなくそちらへ救援が‥‥」
「待たせたな」
 篠崎の前へ高林のパラディンが滑り込んでくる。
 ゴーレムを倒したその足で、篠崎の元へ助勢にかけつけたようだ。
「お前達の相手は‥‥この俺だ。
 機槍「ゲルヒルデ」の槍、存分に披露しよう」
 その言葉通り、高林が持って突進を開始。
 槍の先に居たキメラ達が次々と貫かれて倒れていく。
「なら、こっちも護衛役として負けられない!」
 マリオンもウェイフアクス片手にキメラたちを薙ぎ払っていく。
 さらに増援は、アンジェラたちの元へも駆けつける。
「今度は外さない! 当たれっ!」
 片柳のレーザーライフルML−3が再び火を噴いた。
 一直線に伸びるレーザーは、タートルワームを貫く。
 直撃を受けたタートルワームは、地響きと共に横転した。
「‥‥増援‥‥これなら‥‥問題ない」
 奏歌はぽつりと呟いた。
 片柳の登場により、大型陸戦兵器を相手にしていた部隊も持ち直し始める。
 そこへもたらされる――新たな通信。
「突入部隊からの入電!
 敵戦艦の設計図だ! 今からお前達に送信する」
 叫びも近い軍曹からの通信。
 それは、天雷を止めるために必要とされていた設計図だった。

 天雷を止める。
 傭兵達は任務の終焉を感じ取っていた。

●僕の生きる道
「此方フェンリル01、設計図を元に攻撃目標を解析。目標は敵戦艦後部の駆動機関!」 篠崎からの通信を受け取る各機。
 この戦いを無駄にしないためにも、天雷はここで止めなければならない。
「天雷を狙えるヤツは撃て下さい! 残りの敵はこちらにお任せを」
 眼前のRex−Canonを撃破しながら、通信を入れる高柳。
 その声を受けて、攻撃可能な傭兵達が動き出す。
「撃て撃て撃てー、であります」
 美空は指定された箇所に対してレーザーガン「デルタレイ」を撃ち込んだ。
 さらに奏歌がDFスナイピングシュートを発動。レーザーガン「フィロソフィー」で追撃を加える。
 撃ち出された光と弾丸が、同じ箇所を直撃。
 派手な爆発が巻き起こる。
「‥‥どうだ?」
 奏歌は期待を込めてモニターを凝視した。
 しかし、二人の攻撃では天雷に傷を付ける事はできたものの、完全に止めるまでには至っていない。
「火力が足りないのか」
 アンジェラは悔しさを滲ませた。
 他の傭兵達は大型陸戦兵器の撃破には成功したのもの、集まってくるキメラの対処に追われていた。既にかなりの数のキメラが集結しており、天雷への進路を完全に塞いでいる。今も兵衛やランディも加わってキメラ退治に奔走しているが、もうしばらく時間がかかりそうだ。

 このままでは――。

 そう感じた瞬間、アンジェラのすぐ近くで一本の長い棒が地面から伸びている事に気づいた。
「‥‥本当、惜しかったな‥‥」
「日野殿!」
 アンジェラから少し離れた場所に居た竜彦。
 戦闘不能なって地面に仰向けで倒れていた日竜。その上体を無理矢理引き起こし、スナイパーライフルG−03で目標に狙いを定めている。
「俺を倒していれば‥‥逃げ切れたかも‥‥しれないな」
 強がってみせる竜彦。
 実際、出血のためか視界は霞み、計器故障で照準も正常に定まらない。
 それでも、ここで当てなければならない。
 当てて見せねばならない。
「美空と奏歌に負けられない‥‥ここからでも、止めてみせる‥‥」
 竜彦はトドメの一撃を放った。
 飛び出した弾丸は、破損していた天雷の駆動部分へ直撃。
 刹那、攻撃した箇所は大きな爆発した。
 天雷は黒煙を吐きながら、土煙を巻き上げて地面へと不時着。
 天雷の前面は、めり込むかのような勢いで地面を抉っている。
「止まった‥‥やったぞ、日野殿!」
 歓喜の声を上げるアンジェラ。
 その声を耳にしながら、竜彦の意識はゆっくりと遠のいていった。

 その後。
 竜彦は無事傭兵達により救助。今は怪我の治療に集中している。
 北京解放後の平和を護れたのも、傭兵達の活躍があっての事だろう。