タイトル:マグロ養殖場を叩けマスター:近藤豊

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/02/14 12:12

●オープニング本文


 丸い月が空から神秘な光を降り注ぐ。
 その中で波は心地よい音を定期的に生みだし、聞く者に安らぎを与えてくれる。
 風は冷たいが、それを忘れてしまいそうになる不思議な空間がそこにあった。

 そんな空間で、一人の男が浜辺に作られた桟橋をスキップしている。
 カイゼル髭に浮いたあばら骨。何故か上半身はビキニ、下半身は紙おむつという異様な出で立ちの男――タッチーナ・バルデス三世。外見からは完全な変態であり、町中を歩けば三秒で逮捕される事は間違いない。だが、こう見えてもタッチーナは強化人間。まさにバグア側の人間であった。
 そんなタッチーナの腕にはザルの上に乗せられた長ネギの山が大量に積まれている。
「あっ、そーれだにゃー」
 タッチーナは徐に海面に向かってザルの中身をぶちまけた。
 直後、そのネギの周りで水面が慌ただしくなる。
 見れば、複数の魚が水中でネギを奪い合っているようだ。
「ぐふふ、育ってる育ってる。
 武力一辺倒の阿呆な軍人と違って、知性派の朕はこのマグロ型キメラで大儲けするにゃー。このマグロ型キメラを食用として売り捌き、人類側から資金をふんだくる。
 この瞬間、人類の資産はバグアへ流れた証拠!
 朕はこの調子で人類を経済的に追い詰めていくにゃー」
 タッチーナはマグロ型キメラを食料として人類へ販売する事で、経済的侵略を開始しよう企んでいるようだ。既にこの生け簀の中にはかなりの数のマグロ型キメラが捕獲されている。幾らこのマグロ型キメラを販売したとしても、それで経済的侵略が成せるとは思えないが‥‥。
「先日、一匹逃がしたのは失敗だにゃー。
 でも、あれを誰かが食べれば朕のマグロを買おうとするかもしれない‥‥って、ぎゃぉぉぉん!」
 独り言を呟くタッチーナの背後から巨大な犬がのし掛かってきた。
 タッチーナが番犬として連れてきた犬型キメラである。
 タッチーナ曰く、番犬はタッチーナに懐いていると吹聴しているようだが。
「あ、お前の餌はマグロの後だにゃー。
 ちょ、何を‥‥。
 そ、そんな、ところを‥‥舐めては‥‥駄目、にゃー」
 妙に甲高い声を上げるタッチーナ。
 見れば、犬型がタッチーナののど笛に食らい付き、流れ出る血を啜っている。
 普通の人間であれば確実に死亡フラグなのだが、強化人間であるタッチーナにしてみれば怪我の内にも入らない。
「焦ったら、嫁の貰い手がないにゃー。
 まずは商品であるマグロの餌であるネギをやって‥‥って、朕はネギじゃねぇにゃー!」
 番犬はタッチーナを海へ叩き込む。
 ネギと勘違いして群がるマグロたち。
 だが、ネギでない事を知るや尻尾でタッチーナを殴り始める。
「‥‥くっ、今は耐える時だにゃー。金が入れば、朕の計画も本格的に進めるにゃー」

 翌朝。
「‥‥なぁ、頼むよ。この間の宴会で酒を差し入れてやったろう?」
 マグロ型キメラを倒したラリー・デントン(gz0383)に漁師の一人が頼み込んでいる。
「そんな事言ったってなぁ」
「無理を承知で言っているんだ。沖の無人島で、犬型キメラがずっと吼えていやがるんだ。おまけに怪しい網があったりしてよ。みんな気味悪がって漁に出られねぇんだ」
 どうやら、漁港から南へ行った場所にある無人島に犬型キメラが出現したようだ。さらに謎の網で何かをやっている節もあり、地元漁師では様々な噂が飛び交っていた。
 もしかすると、バグアがキメラの実験をしているのかもしれない。
「でも、なんで俺なんだ? ULTへ依頼すればいいじゃねぇか」
「それもするけどよ。知っている傭兵が参加してくれた方が安心じゃねぇか。
 な、金は出すから、頼むよ」
 必死に頼む漁師。
 島までは漁師自らが漁船で連れて行ってくれるらしい。もっとも、近くまで運ぶだけで、島からはゴムボートで接岸する事になるのだが。
「‥‥マグロだけじゃなく、ネギまでご馳走になっちまっているからなぁ。
 厄介事に巻き込まれちまったんだよな、これって‥‥」

●参加者一覧

番 朝(ga7743
14歳・♀・AA
夜十字・信人(ga8235
25歳・♂・GD
マグローン(gb3046
32歳・♂・BM
フローラ・シュトリエ(gb6204
18歳・♀・PN
禍神 滅(gb9271
17歳・♂・GD
ヨダカ(gc2990
12歳・♀・ER
ツバサ・ハフリベ(gc4461
14歳・♂・FC
サーシャ・クライン(gc6636
20歳・♀・HA

●リプレイ本文

●マグロとネギの関係性
 傭兵たちがその島に上陸したのは、太陽が真上に差し掛かった頃だ。
 漁船からフローラ・シュトリエ(gb6204)の用意したゴムボートで接岸。今のところ、バグア側には傭兵達の存在は気づかれていないようだ。
「マグロの養殖って‥‥。
 バグアが何をやっているのか分からないけど、叩きつぶすとしましょうか」
 ゴムボートをしっかりと係留しながら、フローラは力強く呟く。
 今回の任務は養殖マグロ型キメラの殲滅だが、それを護るように犬型キメラが放たれている。おそらく、マグロ型キメラだけを殲滅するのは難しい。そこで傭兵たちは戦力を二つに分ける作戦を立てていた。
「つい最近までこの養殖場でたっぷりネギを与えられているとするならば‥‥ここのマグロキメラもネギに集まってくると見るべきでしょう」
 マグローン(gb3046)は力説する。
 マグロを普及させようという点においては、敵に賛同してもいい。だが、売る為にマグロをキメラにした上でネギを食べさせる。マグローンからすれば、その時点で最早マグロではない未知の存在となっている。
 その事で、マグローンの心中は怒りの炎が静かに燃え上がっている。
「へぇ〜、マグロってネギを食べるんだね。初めて知ったよー」
 サーシャ・クライン(gc6636)が明るい口調でボケる。
 ネギを食べるのはマグロ型キメラであるからなのだが、サーシャの真面目な性格は明後日の方向からボケを引っ張ってくる素養がある。
「サーシャ‥‥普通のマグロはネギを食べない」
「え!? そうなんですか?」
 夜十字・信人(ga8235)の言葉に、サーシャは驚く。
 天然ぶりの反応を見ながら、夜十字は気を取り直して言葉を続ける。
「餌のネギは大丈夫だ。今回は最高級の下仁田ネギを用意させた」
 マグロ型キメラの餌がネギだと聞きつけた夜十字・信人(ga8235)は、早々に撒き餌となり得るネギを発注していた。マグローンからの意見も取り入れて、下仁田ネギをゴムボートに満載して島へやってきた。
「ほー、いつもと違って気が利くじゃねぇか」
 ラリー・デントン(gz0383)は夜十字の行為に関心している。
 それに対して夜十字はラリーへ冷たい視線を浴びせかける。
「そうだな。ちゃんとこのネギの代金はお前に回しておいたぞ」
「なに!?」
「この間、姉さんから回されたバイトを逃げた罰だ。今回の報酬からしっかり返すんだな」
 戦闘前から跪くラリー。
 傭兵として稼いだ報酬をすぐに使い切ってしまう万年貧乏なラリーにとって、今回のような罰は一番堪えるのだろう。
「何というか‥‥相変わらずのようだね。ラリーさんは‥‥」
 ラリーの様子を見ていたツバサ・ハフリベ(gc4461)。
 不運ぶりはまさに健在。
 まるで不運をもたらす指輪が、指から抜けなくなっているのではないかと思えてしまう。
「皆さん、そろそろ行動を開始しましょう。
 敵がこちらを気づけばやりにくくなります」
 メイド服に身を包んだ禍神 滅(gb9271)が、傭兵達を急かした。
 緊張感にやや欠けるが、ここは間違いなくバグアの拠点。
 早々に敵を倒さなければ、敵がこの場へ現れる可能性もある。
「ぎゃぉぉぉぉん!」
 突然、遠くから甲高い声が木霊する。
 どうやら、禍神の懸念は当たったようだ。
「貴様ら、何者!?
 さては朕の魅力たっぷりな肉体が目当てじゃにゃ?」
 ガリガリにやせ細った体。
 カイゼル髭に紙おむつ、上半身にビキニを身につけた風貌。
 情報が間違っていなければ、今回のマグロ型キメラ養殖を企てた強化人間のタッチーナ・バルデス三世だ。
「うわ、これはまた‥‥予想以上に残念なのが出てきたですよ」
 走り寄ってくるタッチーナの姿を目にしたヨダカ(gc2990)は、げんなりした様子で呟く。
「予定通り、二班に分かれて戦おう。
 信人君、マグロキメラの対応は任せた!」
 樹と呼ばれる大剣を構える番 朝(ga7743)。
 同じくアクティブ・ガンナーへ所属する夜十字へ声をかける。
「了解。無理は禁物だ」
 夜十字の返答に軽く頷いて、覚醒する番。
 樹を握りしめてタッチーナとの間合いを詰める。
「ぎゃおっ!? 朕と事を構える気かにゃー
 曲者じゃ! 者共、出会えっ! 出会え〜!」
 大声で叫ぶタッチーナ。
 その呼びかけに応じるように、付近から犬型キメラが顔を出し始める。

 マグロ型キメラを対処する者達を邪魔させる訳にはいかない。
 犬型キメラを対処する者達は、壁となるように立ちはだかる。


●犬と飼い主の関係性
 マグロ型キメラの生け簀から少し離れた海岸。
 犬型キメラを誘導する事にした四人は、己の背をより合わせるように敵と対峙していた。
「朕の蒼い果実を摘み食いはさせないにゃー!
 お前ら、やっておしまい!」
 一人興奮するタッチーナ。
 犬型キメラへ命令をしてみるものの、犬型キメラは傭兵へ飛び掛かろうとしない。
 それどころか、タッチーナの方へ向き直って唸り声を上げる。
「あ、あれ? 皆さん、敵はあっちですよ。朕は強化人間で‥‥」
 後退るタッチーナ。
 しかし、犬から飼い主として敬われていないためか、タッチーナへ牙を向ける。
「ぎゃぉぉぉぉん!」
 タッチーナの悲鳴と同時に飛び掛かる犬達。
 タッチーナには悪いが、このチャンスを傭兵たちが逃す訳がない。
「強化を配るのですよ、頑張って下さいなのです」
 傭兵達に練成強化を施すヨダカ。
「皆さん、油断は禁物です」
 促された注意に感謝を示すように頷き、番の握る樹が振り下ろされる。
 背後から攻撃を仕掛けられた犬は、避ける暇も与えられない。
 刃を叩き付けられ、犬型キメらは一撃で拉げている。
「よし、今がチャンス!」
 フローラは離れた位置からエネルギーガンを連射。
 タッチーナへの攻撃で夢中となっている犬型キメラ。
 直撃させる事は難しい事ではない。
「お犬さんには残念だけど、早々に消えてね」
 フローラの銃撃に続く形で、禍神は拳銃「ジャッジメント」で狙い撃つ。
「ギャワン!」
 影撃ちによって的確に狙われる犬型キメラは、次々と倒れていく。
「やるね。でも、俺も負けてられない」
 ツバサはシュバルツクローで構える。
 瞬間、迅雷で犬達との距離を詰める。
 犬達が気づいた時には、右手のシュバルツクローが犬の体を引き裂く。
 振り下ろされる右手。
 その反動を利用して、体を反転。
 左手に握られたフォーリングスターは、背後に居た犬型キメラを捉えている。
「終わりは消滅じゃない。きっと始まりさ」
 放たれた弾丸。
 犬の眉間を貫き、思考を停止させる。
 傭兵達の活躍で既に何匹かの犬型キメラが一掃されていく。
 さらに攻撃は続く。
「‥‥吹けよ風、轟け嵐、仇為すものへの烈風の裁きを。‥‥これでも食らえ−!」
 襲いかからんとする犬たちに向けて、サーシャは超機械「扇嵐」で竜巻を発生させる。
 群れの真ん中に生まれ出た竜巻は、犬たちを上空へ巻き上げる。
(よし!)
 内心、頷いて番は樹を回転させる。
 重量に加えて遠心力を乗った樹は、犬型キメラの群れの真ん中へ振り下ろされる。
 地響き。そして、生み出される風。
 仮に空振りだったとしても、反動を生かして再び回転を始める番。
 その姿はまさにサーシャが生み出したもう一つの竜巻だ。
「危ない!」
 竜巻を逃れた犬が禍神を牙で引き裂こうとする。
「仲間に手は出させないよ!」
 禍神へ攻撃を仕掛けた犬を、フローラは機械剣「ウリエル」で切り払う。
「大丈夫?」
「はい、心配は無用です」
 礼をする禍神。
 その背後から悲鳴にも似た声が木霊する。
「気づけば壊滅ですと!?」
 いつの間にか復活したタッチーナは、驚き慌てふためく。
「最初からプランBを発動するべきじゃったにゃー!」
 猛スピードで撤退を開始するタッチーナ。
「あの強化人間はボクに任せて。みんなはマグロキメラをお願いするよ」
 ツバサはそう言うと、こっそりタッチーナの後を追いかける。

●天然と養殖の関係性
(前回は力で競り負けましたが‥‥今回は綺麗に捌いて、否裁いて差し上げましょう!) 海中を漂うマグローンへ向かってマグロ型キメラは向かってくる。
 海中ならば最高速度で100キロを超える物も居る。猛スピードで体当たりをされれば、相当なダメージを覚悟しなければならない。
 だが、マグローンも引きつもりはない。
 網の中で餌を与えられて温々と育った養殖マグロに、天然マグロが敗北するなどあってはならない。
 護られ続けた者は、そう簡単に戦ってきた者には勝てない。
(ここです!)
 マグローンは海中で素早くマグロ型キメラの側面に回り込む。
 すれ違うと同時に試作型水中剣「アロンダイト」の刃をマグロ型キメラの体へ突き立てる。
 流線型の体に打ち立てられた刃は、マグロ型キメラのスピードも手伝って一気に引き裂く。
 その瞬間、海中に赤い花が咲く。勝負の決した事を知らせる彼岸花であるかのようだ。
(あなたのような生物は存在してはならないのです‥‥むっ、あれは?)
 マグローンの視界に入るのは、別のマグロ型キメラ。
(ならば、誘導させていただきましょう)
 マグローンは、懐から取り出した下仁田ネギで岸まで誘導する。
 地上に居る仲間達の元へ連れて行けば、確実に仕留めてくれるだろう。
(さて、後は地上の皆さんが上手く対応してくれると良いのですが‥‥)

「俺は支援射撃に徹する。釣り竿は任せた」
 夜十字はラリーへ釣り竿を手渡す。
「はあ!? なんで、俺が釣りを‥‥」
「じゃあ、お前が代わりに支援射撃をするか?」
 愚図るラリーに夜十字は聞き返した。
 ラリーが銃を撃てない事を理解した上で言った意地悪である。
「ちっ、しょうがねぇ」
 舌打ちをしたラリーは、餌代わりにネギをぶら下げて海面へ糸を垂らした。
「それでいい。後は、マグロがネギに食いつくのを待つだけだ」
「まさか、ここまで来て釣りをさせられるとはなぁ」
 地面へ座り込み、肩肘を付くラリー。
 向こうでは犬型キメラを退治しているにも関わらず、こちらでは暢気にマグロ釣り。これも立派な任務なのだが、どうにも緊張感に欠けてしまう。
「夜十字」
「なんだ?」
 傍らでライフルを構える夜十字。
 餌に食らい付いて海面から頭を覗かせた瞬間、アサルトライフルでヘッドショットするつもりのようだ。ラリーに視線を向けず、夜十字は海面を睨み付けている。
「お前、俺が銃を撃てない事。聞かないって言ってたな」
「過去に踏み込むつもりはないからな」
「‥‥悪いな。お前には言っておくが、これでも俺はUPCに所属していたんだぜ?
 それなりに腕が立つって評判だったんだ。アイツが裏切るまでは、な」
「裏切る?」
 思わぬ告白に夜十字は視線をラリーへ向けた。
「アイツはジャングルで俺達を‥‥」
 ラリーが言葉を続けようとした瞬間、竿が大きく撓る。
 弧を描いた釣り竿の先が、今にも折れんばかりの勢いだ。
「き、きた!? おい、マグロなんかこの竿で釣れるのかよ!」
 竿を立てるラリー。
 一気に現実へ引き戻された夜十字は、アサルトライフルを水面に向けて再び構える。
「釣り上げる必要はない。海面に顔を出させればそれでいい」
「そんな事言ったってよぉ‥‥くそっ!」
 ラリーは力いっぱい竿を天に向かって掲げる。
 その瞬間、海面近くに姿を見せるマグロ。
 夜十字は狙いを定めて――引き金を引いた。
 次の瞬間、ラリーの竿から力が一気に抜ける。力を失ったため、ラリーは後方へ思い切り投げ出される。
「仕留めたようだな」
 夜十字は満足そうに呟く。
 みれば、水面にマグロ型キメラだった物が水面へと浮かび上がってきた。
「見事だな。でも、こんなのをあと数十回繰り返すつもりか?」
「大丈夫だ。その心配は不要だ」
 夜十字の視線に促され、岸の方へ視線を送るラリー。
 そこには、犬型キメラを掃討し終えた傭兵たちが姿を現した。
「あとはマグロ型キメラだけなのです。早速、釣りの開始なのですよ」
「生け簀にネギを放り込んで顔を出したところをエネルギーガンで狙い撃つわ。養殖だけあって、警戒せずに浮かんでくるでしょ?」
 ヨダカ、フローラもマグロ型キメラ退治に手を貸してくれるようだ。
 
 多くの傭兵がマグロ型キメラ退治に力を貸してくれたおかげで、生け簀とその付近にいた物はものの数時間で壊滅させる事に成功した。

●計画と実行の関係性
「なんだこれ?」
 タッチーナを追跡していたツバサ。
 怪しい小屋へ逃げ込んだタッチーナの後を追って飛び込んだものの、既にその姿は消えていた。その代わり、テーブルに上に置かれていた一枚のメモを手にしていた。
 そこには蛇がのたうったような独特の筆跡で、文字が書かれている。

「プランB

 マグロの武装化計画「超大型マグロ育成」
 2.マグロの体に武装を施し魚雷発射
 3.口から怪光線を放ち、人類を恐怖のずんどこに‥‥」

 メモはそこで途切れている。
「あいつ、養殖だけじゃなく武装化も考えていたのか。
 でも、本当に超大型だったらKV戦って事になるのか?
 ‥‥まさかな」
 自分の発言の非現実性に、思わず笑みが零れるツバサだった。


●マグロと食事の関係性
 マグロ型キメラを殲滅させた傭兵達。
 目の前でマグロがあるのに放置するのも勿体ない。
 そこで臨時のマグロ試食会が開催された。
 もっとも、すべてのマグロをこの場に居る物だけで食べきるのは不可能。そこで、一匹だけ食べてみる事になった。
「‥‥ふぅ、マグロをアーミーナイフで捌くのは無理があったんですね」
 禍神が疲労感たっぷりで座り込んでいる。
 一人前の板前でも、出刃包丁一本で捌くのは簡単ではない。
 フローラにも手伝ってもらい何とか形になったような状態だ。
「臨時だから、仕方ない」
 禍神を労うマグローン。
 禍神が必死になって捌いたマグロに舌鼓を打っている。
「あ、あたしは遠慮するわ。いくらマグロでもキメラを食べようとは思わないな」
「私も‥‥」
 サーシャとフローラはマグロから距離を置いている。
 さすがにマグロを食す気にはならないようだ。
「大丈夫ですよ、火を通せば。ほら!」
 サーシャに炙ったマグロを突き出すヨダカ。
 それでも、二人には食欲が沸いてこないらしい。
「信人君、マグロってなかなかイケるね」
 出された物は残さない、という心情で番はマグロの刺身をほいほい口へと運んでいく。
「そうでしょう? 俺も前回食べましたが、なかなか美味しかったです」
「あれ? そう言いながら、食べないの?」
 番は夜十字の皿にマグロが乗っていない事に気づいた。
「あ、いえ。俺も食べてますよ」
「そう? ならいいんだけど」
 夜十字の回答に満足したように、番は再び目の前のマグロを頬張っている。
 一方、夜十字はラリーが言った言葉が、脳裏から離れてくれない。
「裏切り、か」
 ラリーと付き合う中で、避けては通れない何かを夜十字は感じ取っていた。