タイトル:【SL】チョコ奪還指令マスター:近藤豊

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/02/20 20:50

●オープニング本文


「これは陰謀だ!」
 曽徳鎮中尉は、ラリー・デントン(gz0383)を呼び出して怒号を浴びせかけた。
 曽専用踏み台をテーブルの上に設置。その上から見下ろすように怒鳴られているのだが、不思議と貫禄がまったくない。威厳は高さと比例しない事の良い例だろう。
「え? 陰謀って何かあったのですか?」
「そうだ。優雅かつ華麗な、この名家の私にチョコレートが一つも来ないのだ!」
 女子からチョコレートが一つも来ない事に憤慨する曽。

 そもそも、曽は女子受けするような容姿ではない。
 ポマード臭を放ち続けるオールバック。
 プライドの象徴として噂されるチョビ髭。
 踏み台が無ければ目も当てられない短足。

 その上、前回のキメラ退治でも散々ラリーを振り回して起きながら、当の本人は転んで膝を擦りむいただけで戦意喪失。傭兵達が敵を撃破したと知った途端に『勝利は名家たる自分の采配が導いた』と自画自賛。
 金払いも良かった事から、再び召喚に応じたのだが‥‥早くラリーは後悔し始めていた。
「はぁ‥‥そうですか」
「これは何らかの陰謀が働いている。
 そう考えて調査を開始したところ、原因が判明したのだ」
 そう言いながら、曽が手渡してきた資料には『桂林市付近にて、象に乗ったバグアがチョコレートを強奪している事件が発生』と記載されていた。
 つまり、曽にチョコレートがもたらされない理由は、妬んだバグアがチョコレートを奪っているためと考えているようだ。どう考えてもチョコレートが集まらない理由は曽自身のスペックにあるのだが、曽は自分が完璧をさらに超越して神の領域へ到達した賢者と思い込んでいるようだ。もっとも、そのような人物がチョコレートに一喜一憂するのもおかしな話なのだが‥‥。
「バグアがチョコレートって。一体何のために?」
「おそらく、私の威光に気づいたバグア達が私を恐れて行動を開始したに違いない。
 バグア兵は都市部でも堂々と象型キメラに乗り込み、チョコレートを象の鼻で吸い込んでいるらしい。
 許せんっ! 私に献上されるはずのチョコレートを淑女達から奪っていくとは!」
 勘違いもここまでくれば、あきれ果てる。
 本来であればこのまま部屋を退出したいところだが、曽が呼び出したという事は次の言葉は容易に察しがつく。
 それに気づいた瞬間、ラリーは思わず頭を抱えたくなった。

「私に献上されるはずだったチョコレートを奪還する。
 ――曽特別機動隊、出動だっ!!」

●参加者一覧

緑川 めぐみ(ga8223
15歳・♀・ER
夜十字・信人(ga8235
25歳・♂・GD
芹架・セロリ(ga8801
15歳・♀・AA
白鳥沢 優雅(gc1255
18歳・♂・SF
高梨 未来(gc3837
19歳・♀・GD
沙玖(gc4538
18歳・♂・AA
BEATRICE(gc6758
28歳・♀・ER
ショルター・ペンウッド(gc6814
15歳・♂・GP

●リプレイ本文

●チョコを奪還せよ
 何故、そのような真似をするのかは分からない。
 そもそも、愛情と呼ばれる神聖な感情を物に変換するという行為自体が神を冒涜している。

 そう、バレンタインという祭を開催すること自体が愚かしい。
 潰れてしまえ、バレンタイン!
 ファッキン、バレンタイン!

 そんな独り身の男性の叫びを耳にしたのだろうか、桂林市に現れた象型キメラとバグア兵はチョコレート収奪を開始。 
 都市部を疾走する二頭の象。
 その巨体は、遮る物を踏みつぶして破壊する。
 チョコレートを発見すれば、己の鼻を掃除機のようにして吸い込む。
 一部には歓迎されるキメラだろうが、キメラである以上、排除しない訳にはいかない。
「全軍、索敵を開始! 朕のチョコレートを奪還せよ!」
「いけません、閣下。もっとエレガントに命じなければ」
 曽の護衛役である白鳥沢 優雅(gc1255)はニヒルな微笑みを浮かべている。
「ほう、エレガントとな?」
「そう。今時の女子がチョコを渡したい男、ナンバーワンは‥‥後方で司令を下せる冷静な男です」
 曽の眼前へ指を突き出し、何処からか聞きつけた怪情報を伝える白鳥沢。
 怪しすぎる情報なのだが、曽は素直にその話を聞いているようだ。
「そ、そうなのか?」
「閣下は傭兵たちに司令を下しながら、ティータイム。戦闘中に紅茶の香りを楽しむ余裕を見せて英国紳士のような振る舞って下さい」
 白鳥沢が案内する先には、テーブル上にセッティングされた紅茶と菓子。
 実際には単身突撃しかねない曽を後方へ留めるための方便なのだが、白鳥沢の思惑は効果絶大。
「良い香り。これは最高級のブルマンだな?」
「閣下、今回はダージリンです」
「おお、そうか。これで朕の威光が轟くならば何でも良いぞ」
 珈琲と紅茶の違いも分からない曽。
 白鳥沢に任せておけば、曽の横やりは皆無と考えて良いだろう。
「しかし、バグアも酔狂な方がいらっしゃるのですね。戦闘用の象ですか。インド方面では昔からよく使われる戦術ですが‥‥」
 緑川 めぐみ(ga8223)は、周囲を警戒しながら呟く。
 緑川の言うとおり、戦闘用の象はタイやインドでは良く使われていた。馬のような移動力は持たないが、その巨体から繰り出される突進はかなり厄介だ。
「初めての戦闘依頼で象と戦闘‥‥とはいえ、それは私の都合。
 傭兵として依頼を受ける以上、一人分の働きをしなくては‥‥」
 自分の言い聞かせるのは、BEATRICE(gc6758)。
 今回は依頼を通して戦闘経験の蓄積、先輩傭兵の考え方や行動を見て学習する事が目的である。そして、それは同じ境遇でこの任務を受けたショルター・ペンウッド(gc6814)にも言える事であった。
「BEATRICEも初戦闘ですか。
 実は僕もです。気を抜かないように頑張ります」
 ショルターの緊張する後方では、曽が紅茶をおかわりしながら高笑い。
 正直、こんな頼りない軍人に仕えるのは嫌なのだが、脳裏には執事だった実家の思い出が蘇る
「大丈夫ですよ、二人共。
 誰でも初戦闘があります。でも、何とかなるものですから」
 前向きで元気一杯に話すのは高梨 未来(gc3837)。
 象の数は二体。傭兵達の戦力を二分して戦えば、決して倒せない相手じゃない。
 未来はそう考えていた。
「心配するな。自分に課せられた役目を果たせば良い」
 沙玖(gc4538)は、ぶっきらぼうに言った。
 経験上、自分の能力を超える任務を行わなければならない時もある。だが、決められた役回りをしっかりと遂行できれば、危険会は回避できるはずだ。

 戦闘前とあって緊迫する傭兵達。
 そんな中、バレンタイン気分を満喫しようとする者もいた。
「ラリーたん。
 貴方には義理チョコでもあげる事は屈辱なので、代わりにキャンディーを上げます。有り難く受け取りなさい。それで、白い日には30倍でよろしくっ!」
 芹架・セロリ(ga8801)は、ラリー・デントン(gz0383)へキャンディーを投げつける。受け取ったラリーの掌には、「酢味噌味」と表記されたキャンディーが一つ。
 この時点でセロリのラリーに対する想いが垣間見られるのだが、セロリの行動は更に続く。
「お兄ちゃん、いつもセロリのために頑張ってくれてありがとー。今日は、セロリのチョコレートだけを食べてねっ!」
 先程、ラリーと話していた口調とは一変。
 丁寧にラッピングされたチョコレートを夜十字・信人(ga8235) へ手渡す。
 それを目撃していたラリーは、夜十字へ嫌味を浴びせかける。
「本命の夜十字はラッピングされたチョコレートって訳か。こりゃ、300倍返しだな。式の日取りが決まったら教えてくれ」
「ハードラック、お前分かっていて言ってるだろう」
 無論、夜十字へチョコレートはセロリからの嫌がらせである。
「大体あいつ‥‥」
 そう言い掛けた夜十字だったが、次の言葉を飲み込んだ。
 視界に飛び込んできたのは、大通りをこちらへ向かって突き進む灰色の巨体。
 今もチョコレートを捜して彷徨っているように見える。
 そして、手にしているのはチョコレート。
 ならば、格好良く象型キメラを惹きつけるしかない。
「よし、俺に任せろっ!」
 そう言うなり、象へ向かって走り出す夜十字。
「任せろって‥‥お前まさかっ!」
 引き留めようと一緒に前へ出るラリー。
 以前より夜十字は敵を惹きつける役を買って出るのだが、毎回不幸な展開が待っている。堪らないとばかりに止めに掛かるが、ラリーの行動は一足遅かった。
「こっちだ!」
 夜十字はチョコレートをかざすと同時に、仁王咆哮を発動。
 象型キメラ一匹の注意を惹きつける事に成功した。
 こちらへ向かって走り寄ってくる象。
「よし、あとは誘導して‥‥」
 踵を返して走りだそう夜十字。
 だが、次の瞬間――ラリーと夜十字の間に自動車が通り過ぎていく。
「え?」
 振り返ると、象型キメラが停車中の車をはじき飛ばしながら突進。
 その飛ばされた車が二人に向かって飛んできているようだ。しかも、不幸な事に弾き飛ばされた自動車の大半が二人に向かって飛んでくる。
 象の思わぬ攻撃に焦るラリー。
 内容はともかく、結果的には当初の予定通り、象型キメラ2匹を分断する事に成功。
 傭兵たちの象退治が、今から始まろうとしている。
 
●象退治1
「機動兵器を壊すには足回りを壊す。特に馬や象相手なら有効な手段ですね」
 象の足を躱しながら、緑川のイアリスが両断剣を持って足の皮膚を切り裂く。
 巨体を誇る象であるが、その体を支える四本の足を攻撃すればバランスを失って地面を倒れるはずだ。傭兵達が考えた対象型キメラ用の攻略方法である。
 血を撒き散らしながらも、足踏みをする象。
 既に怒りで我を忘れている様子だ。
「象の上から見下ろされるのは我慢ならないんだが‥‥剣の錆にしてくれる」
 隙をついて沙玖が忍刀「颯颯」を突き刺した。緑川が攻撃した足に対して、更なる一撃が加えられる。傷口を押し広げ、大量の血を撒き散らしている。
 この時点で、騎乗のバグア兵も傭兵達の狙いに気付いたらしい。
 手にしていた弓を番って、沙玖へ狙いを付ける。
「させませんよ‥‥」
 BEATRICEはスコーピオンで牽制射撃。
 弓を撃とうとしていたバグア兵は、狙いを定める事ができずに明後日の方向へ弓を撃ちだしてしまった。
「チャンス!」
 バグア兵に隙が出来る事を待っていたショルター。
 瞬天速で近づき、疾風脚を使って象の体を駆け上がった。
 瞬く間にバグア兵の傍まで近づいたショルターは、忍刀「颯颯」振るった。
「お、ち、ろー!」
 ショルターの一撃は、バグア兵の胸を切り裂くも寸でのところで避けられしまう。
 だが、ショルターの目的はこの一撃を加える事ではない。
 バグア兵を象型キメラの上からたたき落とす事にあった。
「!?」
 バランスを崩すバグア兵。
 重力に引かれて無様に頭から地面へ落下する。
「こいつでどうだっ!」
 それに促されるかのように、沙玖は手にしていた忍刀を振り抜いた。
 同時に吹き飛ばされるは象の足。
 予想通りバランスを失った象。自力で立ち上がる能力を失い、地面へと倒れ込んでくる。
 それも、バグア兵の上に。

 ――ドシーン。

 大きな地響きと共に、象は横たわった。
 下敷きになったバグア兵。
 象の巨体によって身動きを取る事ができない。
「ダークファイターのスキル、意外と少ないですからねぇ。そろそろ転職を考えましょうか?」
「某ゲームでは‥‥乗っている人の方が強いのですけどね‥‥」
 バグア兵に突きつけられたのは、緑川のイアリスとBEATRICEのスコーピオン。
 自由が効く部位が首だけのバグア兵に二人の攻撃を避ける術はない。
 数発の銃声の後、剣が肉を引き裂く音が木霊する。
 呆気ない幕切れとなった戦闘。
 後は立ち上がる事ができなくなった象型キメラにトドメを刺すだけ。

 想像よりも簡単な戦闘だったが、象型キメラはもう一体。
 もう一班は無事なのだろうか‥‥。

●象退治2
「うおっ!」
 ラリーに象の鼻が激しく衝突。
 エルガードで直撃を避けているが、その力を押し止める事ができない。
 後方へ投げ出されたラリーは駐車中だった車へ直撃する。
「あたた‥‥」
「だ、大丈夫ですか!?」
 慌てて駆け寄る未来。
「‥‥大丈夫、お嬢ちゃんの笑顔で立ち直りました。
 さぁ、戦いましょう。二人の将来のために」
 未来の手を取って取って置きのスマイルを浮かべるラリー。
 どうやら、未来の心配に反してそれ程のダメージを受けていないようだ。
 未来がGoodLuckを使っていた事から車への直撃で済んだのだろう。コンクリートに直撃であればダメージはかなり大きかったかもしれない。
「そ、そうですか。なら、もう戦闘できますよね?」
 ラリーを引き起こした未来はそのまま背中を押して象の方へと向かわせる。
「ハードラック、遊んでいる暇は無いぞ」
「ちぇ、先に戦闘を終わらせるってか?」
「当たり前だ」
 夜十字は苦無を取り出し、象の関節部分へ攻撃を仕掛ける。
 四肢挫きで象を跪かせようというのだ。
「これ以上、暴れるな」
 象へ肉薄する夜十字。
 すれ違う形で片方の前足、続いて後ろ足を斬りつける。
 関節を狙われた象は、一瞬バランスを失って巨体を大きく揺らす。
「ごめん、よっちー」
「え? ‥‥ぶぎゃっ!」
 突然夜十字の背中を踏みつけたセロリ。
 夜十字を踏み台にして象に乗るバグア兵をたたき落とすつもりのようだ。
「人の恋路を邪魔する同志よ、お前だけは馬に蹴られて地獄に墜ちろ! ちょいさー!!」
 強刃を発動させた脚甲「ペルシュロン」の一撃がバグア兵に加えられる。
 槍で防御を試みようとするも、バランスの崩れた象の上ではうまく振るう事ができない。
 セロリの一撃はバグアの首を捉える。放たれた衝撃と共に、バグア兵はオフィスビルの壁へ激突させる。
「バグアタインなんて、死んじゃえば良いよ」
 着地と同時に決めポーズを取るセロリ。
「悪いな。不運につけ込ませてもらう」
 バグア兵の立ち上がる瞬間を狙ってラリーは、ガラティーンの剣先をバグア兵に突き刺す。
 容赦なく放たれた一撃がバグア兵を絶命に追いやる。
 そして、象型キメラについては――。
「ゆっくり眠ってくれ」
「これでトドメ!」
 夜十字のフォルトゥナと未来のサーペンティンが象型キメラの顔面へ叩き込まれて生を全うしていた。一度膝を突いた象の頭部は、攻撃しやすい高さに固定されてしまう事が大きな要因だろう。

 無事バグアを倒した傭兵達。
 だが、騒ぎはこれで終わらない。

●チョコの行方
「な、なんだって!? 朕のチョコがないだと!」
 曽は傭兵から報告を受けて顔面蒼白となった。
 奪われたチョコは既に象の体内で消化されていたらしく、腹部からチョコらしきものの残骸が確認された。
「ち、朕への貢ぎ物が失われるとは‥‥おのれ、バグア!」
 理由はどうあれ、バグアへの怒りを燃え上がらせる朕。
「その意気ですよ。ではモテな‥‥くはない閣下にプレゼントです!」
 未来は朕にハートチョコを手渡した。
 朕が一つももらえないと考えた未来は、哀れんだためかチョコを持参していた。
 受け取る朕。
 その足は生まれた子鹿のように震えている。
「ち、朕がついにチョコレートを‥‥」
 感動を隠せない曽。
 さらにセロリが追い打ちをかける。
「バ閣下。忘れてた‥‥コレやるよ」
 そういって曽の前に投げ出したのは象型キメラの鼻だった。
「俺の実家では想いを寄せた相手にプレゼントするんだ」
 明らかな嘘である事はこの場の誰もが気付いた。
 だが、曽に取っては女子からのプレゼントという時点で疑う術を無くしていた。
「そうか。貴様の家は象の鼻をプレゼントか。良いぞ、朕が有り難くいただくぞ」
 満面の笑みを浮かべる朕。
 冷凍保存で半世紀は保存しかねない勢いだ。
「さて、私からですが‥‥」
「おお、貴様も朕にプレゼントを!?」
 緑川が曽の前に出る。
 期待が高まる曽。
「ええ。私からはお説教をプレゼント差し上げましょう」
「は?」
「私から見て、閣下ははっきり言って無能なのです。漢王朝の末裔であるなら、何故先陣切って戦わず、少しの怪我で逃げ出し、あまつさえ部下の手柄を奪うのですか? そのような‥‥」
 緑川は曽に向かって一気に捲し立てる。
 気付けば、緑川の剣幕に負けて正座させられる曽。
 緑川の言う事はもっともなのだが、曽の処理能力を遙かに超えた情報量のため、理解する事は難しい。おそらく、一晩落ち込んだ末に起きたら綺麗さっぱり忘れているだろう。

「大騒ぎだな」
 少し離れた場所で、夜十字はラリーに缶コーヒーを手渡した。
「あの説教、かなりきついな」
 ラリーは空に向かってタバコの煙を吐き出した。
 曽には悪いが、戦闘中と違ってゆっくり進む時間に平穏を感じ始めていた。
「ところで、この間の話だが」
「あん?」
「‥‥裏切られて、どうなった?」
 夜十字は缶コーヒーを一気に飲み干した。
 ラリーは以前、UPCに所属していた。だが、裏切りにあったという事を夜十字は聞いていたのだ。
「その話か。哀れな話だ。
 俺の部隊は裏切られて全滅。仲間を救うために銃を撃とうとしたが、裏切りと敵の襲撃に頭がパニック。気付けば、銃を捨てて逃げ出したって訳だ。今でも苦しむ仲間の顔が夢に出る」
「‥‥‥‥」
 夜十字は黙って聞いていた。
 口調はいつもと変わらないが、強く握りしめられた缶が変形していた事を見逃してはいない。ラリーが銃を撃てなくなったのも、その事件が原因なのだろう。
「それから不運続きの人生って訳だ。俺はあの裏切り者を殺さない限り、死神に取り憑かれたままだろうな」
「そうか。一つ教えておいてやる」
 立ち上がる夜十字。
 見下ろすような視線でラリーを見つめている。
「俺は仲間を絶対に裏切らん。‥‥帰るぞ、ラリー」