タイトル:黄金の戦車を駆る戦士マスター:近藤豊

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/02/26 19:45

●オープニング本文


「報告のあった男についてですが、情報が入りました」
 ドゥンガバル・クリシュナ少尉は、ブラウ・バーフィールド(gz0376)軍曹へ書類を手渡した。
 先日のキメラ討伐任務において、軍曹へ接触を試みたバグア――キーオ・タイテム(gz0408)。彼の存在が気になった軍曹は、クリシュナへ事態を報告すると同時に情報収集を依頼していた。
 手渡された資料に視線を落とす軍曹。
「キーオ・タイテム‥‥やはりUPC軍人だったか」
「UPCアジア軍直属遊撃部隊『ベオウルフ』の隊長です。ゲリラ戦を得意とした部隊で、数々の危険な任務を遂行してきました。ラオス・カンボジア国境付近のジャングルにて任務遂行中に部隊は全滅。隊長も行方不明による死亡で処理されています」
「英雄の名を冠した部隊を率いた男が、今度は敵になって現れたという訳か」
 資料を捲りながら、軍曹は寂しそうに呟く。
 バグアという特殊な敵を相手にしていれば、このような事態は発生する。ヨロシロとしてバグアに選ばれた軍人が、かつての仲間に攻撃を仕掛けてくる。人類史上では裏切りという不義の行為があった上でのシチュエーションだが、バグアが相手なのだから常に起こりえる状況と言えるだろう。
「ええ、残念ながら‥‥。
 残念ついでにもう一つ、軍曹に話すべき情報があります」
「こいつの情報か?」
「ええ。長沙から数キロ北上した地点で、赤髪の男が引き連れたキメラによって山村が全滅しました」
 クリシュナの話では、深夜の寝静まった頃に紅い目の巨大な豹が山村を襲撃。村人の大半は死亡、唯一の生存者となった少女が救出されてからキメラの存在が明らかになったのだ。
 大きなため息をついた後、クリシュナは軍曹へ向き直る。
「このキメラの退治、お願いできますか?」
「この男は放置できん。よかろう。
 だが、新兵を現場へ連れて行く事は反対だ。相手がゲリラ戦を得意とするのであれば、尚更だ」
 クリシュナと軍曹の意見対立が再び勃発した。
 だが、今回の軍曹は一切折れる気はなかった。
 かつてUPC軍人だったという男が敵として現れる。それだけでも新兵にとっては負担だが、ゲリラ戦を仕掛けてくるのであれば新兵の犠牲は計り知れない。新兵を連れて行く事そのものが死を意味する作戦は、断固反対する。
 その想いとは裏腹に、クリシュナの反応は予想外の反応を示した。
「良いでしょう。ULTへ緊急依頼を打診して下さい。費用は広州軍区司令部で持ちます」
「なに?」
「聞こえませんでしたか? 今回は軍曹と傭兵の方々でお願いします」
 今までは新兵を戦える者として最前線へ送り込もうとしていたクリシュナ。
 しかし、今回は軍曹の意見を簡単に飲み込んだ。過去の対立がなかったかのような対応に、軍曹は一瞬呆気に取られる。
「どうしましたか? 事件は急を要します。急いで下さい」
「あ、ああ‥‥」
 怪訝そうな表情を浮かべた軍曹は、クリシュナの自室を出た。
 こつこつと廊下に響き渡る軍靴の音が部屋の中にまで入り込んでくる。
 独りの自室に残されたクリシュナは、そっと瞳を閉じる。
「スマートなやり方でない事は、私も分かっています。時間が限られていますから‥‥」


「おいっ、なんか割の良い依頼はねぇのかよ?」
 ULTのカウンターに肘を突きながら、ラリー・デントン(gz0383)は欠伸をする。
 最近の依頼は厄介者の護衛やキメラ探索といった物ばかり。決して実入りが悪い訳じゃないのだが、たまにはスリリングな依頼が欲しくなるのも退屈な日常故の悩みなのかもしれない。
「ラリーちゃんにぃ〜、ぴったりな依頼を回していると思うんだけどぉ‥‥」
 ラリーの傍らで旧知の仲となったオペレーターがコンピュータで検索している。ちなみに、外見はオールバックに髭、タンクトップという筋肉質のおっさんだ。
「俺にぴったり!? 阿呆な軍人のお守りがぴったりってぇのかよ」
「あれは仕方ないじゃない。急なお仕事だったし‥‥。
 あ、緊急で任務が舞い込んで来たわ。長沙市付近でキメラ退治みたい」
「またキメラかよ」
 その場で不機嫌そうな顔になるラリー。
 ラリーの様子に気を配りながら、オペレーターは依頼内容を読み上げる。
「えっと〜、長沙市から北上した山村で黒豹型キメラが出現。これを撃退する。なお、現場には赤髪で右目に傷負ったバグアが現れる可能性が高い。この男の情報も可能な限り入手されたし‥‥」
「おいっ、今なんて言った!?」
 先程まで不機嫌な表情だったラリーの顔が一変。
 驚愕と焦りの表情が浮かんでいる。
 ラリーはオペレーターのタンクトップを掴み、前後へと揺さぶった。
「え、『この男の情報も‥‥』」
「そこじゃねぇ! その男の話だ!」
「男って‥‥『赤髪で右目に傷負ったバグアが現れる可能性が高い』って、ところ?」
 赤髪で右目に傷負ったバグア。
 もしかしたら、自分が知っているあの男なのか。
 忘れようとしても忘れられない、あの裏切り者――。
「ちょっと、ラリーちゃん! この男が何なのよ!」
 ラリーがタンクトップを離した瞬間に床へ落ちたオペレーターは、頭を抑えながらゆっくりと立ち上がる。
「その依頼へ俺をねじ込んでくれ」
「‥‥‥‥‥‥」
 過去に何かがあった。
 そう感じたオペレーターは、ラリーの名前をキーボードに向かって打ち込んでいた。

●参加者一覧

夜十字・信人(ga8235
25歳・♂・GD
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
斑鳩・八雲(ga8672
19歳・♂・AA
紅月・焔(gb1386
27歳・♂・ER
ウルリケ・鹿内(gc0174
25歳・♀・FT
イレイズ・バークライド(gc4038
24歳・♂・GD
那月 ケイ(gc4469
24歳・♂・GD
滝沢タキトゥス(gc4659
23歳・♂・GD

●リプレイ本文

 ――数時間前。
「‥‥既に作戦は最終段階へ向かって動き出しています。今頃は上海へ送られた資材で準備が進められているでしょう」
 キーオ・タイテム(gz0408)は、雑踏溢れる長沙の街角である男と出会っていた。
 密会をする際、案外町中の方が発見されない事が多い。他人との関わりを持とうとしない都会という場所だからこそ、人混みに紛れた方が安全なのだ。
「あの執事か。任務は全うしたのだろうな?」
「彼を信じてあげてください。
 本題ですが、ブラウ・バーフィールド(gz0376)軍曹が傭兵を連れて村へ向かいました」
「そうか‥‥」
 キーオは、タバコの煙を吐き出した。
 今回、キーオに下された任務は、すべてこの男からの指示だ。そうでなければ軍事的拠点としても機能しない村を攻撃するはずもない。
「集まった傭兵の中にあなたの部下が居ます」
「‥‥‥‥」
「失礼、正確には元部下でしたね。
 ラリー・デントン(gz0383)。ご存じですよね?」
「そんな男も居た気がするな」
「彼はあなたに敵意を見せているそうです。この状況を利用させていただきましょう。可能な限り彼を挑発してください。そして、あなたが行っている任務の内容を教えてあげて下さい」
「なに?」
「すべてを教える必要はありません。ですが、ある程度開示した方が作戦達成するために効果的です」
 男が何を考えているのか。それはキーオにも分からない。
 それ以前にキーオには何の興味もない事だ。
 与えられた任務を粛々と全うする。
 それがキーオ・タイテムという生き方だ。
「了解した。奴らに聞かれた事は答えてやろう。
 だが、そうすればお前もただでは済まないはずだが?」
 男の事情を知るキーオは、敢えて聞き返した。
 男に作戦達成のために必要な「覚悟」が出来たのかを確認するために。
「心配は無用です。既に昨日までの私は役割を終えました。
 もう‥‥広州へ戻る事もないでしょう」


「今日の不幸はなんだ。そろそろ逆に楽しみになってきたよ」
 夜十字・信人(ga8235)は、暗闇の中を近づく黒豹型キメラ『イージーライド』に向かって仁王咆哮を使った。
 放たれた鋭い眼光は、宵闇の中でもイージーライドを捉える。
 赤く光った瞳は夜十字の方へ向けられる。
「分断成功だ。信トン、そっちは任せたぞ」
 薄紫色のオーラに包まれた龍深城・我斬(ga8283)。
 今回、傭兵達の作戦は夜十字の仁王咆哮で2体のイージーライドを分断、傭兵を2つに分けて各個撃破するというものだ。既に仁王咆哮で夜十字の方へ向かっていくイージーライドは、この場から引き離されていく。
「さて‥‥」
 龍深城は、改めてイージーライドへ向き直った。
 山村だったこの場所も、今では生きる者が失われた瓦礫の山が積み上げられただけの場所となっていた。この場所に人が住まいとして身をより合わせていた場所を目の前のキメラが無残にも破壊したのだ。
 その想いが龍深城の心に火を付ける。
「お前らが‥‥やったんだな、この、この惨状はぁ!!」
 激高、小銃「AX−B4」の引き金を数回引く。
 撃つ出される弾丸。
 だが、巨体に似合わずイージーライドは龍深城を飛び越えて背後へと回り込む。
「見た目よりも素早い、か」
 イレイズ・バークライド(gc4038)は、斬馬刀を振り下ろした。
 しかし、その一撃は長い尻尾で阻まれて十分な力を出す事ができない。
「正面から行けば炎、背後に回れば尻尾‥‥。
 ならば、側面からはどうでしょう?」
 ショットガンを片手に斑鳩・八雲(ga8672)は側面から攻撃を加える。
 背後に居たイレイズに意識を向けていたイージーライドにとって、ショットガンの一撃は予想していなかった。空中で散らばる弾丸が、イージーライドの体へ突き刺さる。
 痛みに反応したイージーライドは、斑鳩の方へ顔を向ける。
「どちらを見ているのですか‥‥。貴方の相手は私が勤めさせていただいておりますのに‥‥」
 イージーライドが向き直った事によって、ウルリケ・鹿内(gc0174)が背後へ回った形となる。
 この機会を逃さず、鹿内は薙刀「清姫」でイージーライドの足を攻撃。
 暗闇の中でも血飛沫がはっきりと分かる。
 足に負ったダメージ。これでイージーライドの機動力が落ちる事は間違いない。
 さらに――。
「こっちを忘れているぞ。そらっ!」
 イレイズの斬馬刀が残されたもう一本の足を攻撃。
 4メートル以上ある斬馬刀を目にも留まらぬ速さで抜き放ち、イージライドの足を吹き飛ばした。
 横転するイージーライド。
 痛みに耐えながらも、イレイズと鹿内を追い払うべく尻尾を鞭のように振るい始める。「いけませんね。そんな風に何度も尻尾を振るっては‥‥。
 弱点を露呈するようなものですよ」
 斑鳩は尻尾を躱しながら、横たわるイージライドへ肉薄。
 尻尾で唯一稼働領域が小さい根本へ向かって剣を振り下ろした。
 切り離される尻尾。
「ギヤァァァァァ!!!」
 獣らしい声を上げるイージライド。
 横たえた身を引き起こしながら、大きく息を吸い込む。
 火炎放射で三人を薙ぎ払うつもりだ。
「止めなさいっ」
 声を抑えつつ、鹿内は薙刀でイージーライドの顔面を引き裂いた。
 赤く光る瞳の一つを潰し、炎の吐息を寸で押し止める。
「ぶち殺してやるぜ、お前らがやってきたようになあ!!!」
 痛みに悶える瞬間を逃さず、龍深城は明鏡止水を振り抜いた。
 切り裂かれる顔面。
 二つに割られた顔面を地面へ落としたイージーライド。
 体を痙攣させているものの、動き出す様子はなかった。
「一体は仕留めたか‥‥」
 イージーライドを倒した四人の元に軍曹が現れる。
 軍曹はキメラと一緒に居たというキーオを警戒して周囲を索敵していたが、今のところ発見できていないようだ。
「ああ、あと一匹だが‥‥信トンと一緒に居たあのおっさんが気になる」
 龍深城に言うおっさんとは、ラリーの事である。妙に殺気立っているのが気がかりなのだ。
「そうだな。一度、合流した方が良いだろう。
 あの男が足を引っ張っていなければいいが‥‥」
 軍曹は、残る部隊に一抹の不安を感じていた。


「くっ、射線に入るな!」
 夜十字は叫ぶ。
 眼前に居たイージーライドに対して弾幕を展開しようとしていたが、大口径ガトリング砲の射線にラリーが入り込む。先程から、ラリーはイージーライドに対して単身突撃を繰り返しているのだ。
「さっさと消えろ!」
 ガラティーンを振るうラリー。
 だが、ガラティーンは空振り。
 代わりにイージーライドの尻尾の一撃が腹部へと直撃する。
「ぐっ‥‥」
 吹き飛ばされるラリー。
「無謀だ。あんたの突撃は俺たちの身まで危険に晒す」
 滝沢タキトゥス(gc4659)は吐き捨てるように言った。
 イージーライドへ確実にダメージを与えているものの、ラリーの無謀な突出でイージーライドを追い込む事ができない。
「分かってるさ!
 だが、俺はあいつを捜さなきゃならないんだ! こんな奴にいつでも構っていられねぇ!」
 立ち上がりながら、叫ぶラリー。
 その言葉には明らかな焦りと憤りが感じられる。
「ラリーさんは、依頼にあった赤髪のバグアについて知っているみたいだねぇ」
 スキュータムを片手にイージーライドへ対峙する那月 ケイ(gc4469)。
 那月は先日の化学工場でキーオと関わりを持っていた。だが、それ以上にラリーとキーオの接点が気になっている。
「‥‥‥‥」
 答えようとしないラリー。
 そこへ夜十字が声を掛ける。
「例の裏切り者か」
「!?」
 夜十字の一言で、ラリーは夜十字の方へ向いた。
「裏切る者って?」
 練成強化を傭兵達へ施しながら、夜十字の言葉に食いついた紅月・焔(gb1386)。
「‥‥ラリーは元々UPCの軍人だったらしい。だが、仲間の裏切りで部隊は全滅。ラリーは銃を捨てて逃げ出したそうだ。おそらくその部隊を裏切った奴が、その‥‥」
「そうだ。キーオ・タイテム。俺の元上官だ!」
 キーオの名前を叫ぶと同時に、再び突撃を開始するラリー。
 その後を慌てて滝沢が追いかける。
「待てっ! 俺が同伴する」
 ラリーと併走するような形で滝沢は前に出る。
 そして、横へ回り込みながら拳銃「ヘリオドール」を撃って注意を引く。
「同伴? 死神が憑いている俺に同伴とは‥‥夜十字もそうだが物好きだな!」
 滝沢に注意が集まっている隙に、ラリーはイージーライドとの間合いを詰める。
 薙ぎ払うようにガラティーンを振るう。
 引き裂いた傷口から大量の体液が流れ落ちる。
「元上官‥‥つまり、部隊長ってところか。
 部隊長自ら裏切るとは‥‥」
 イージーライドの後方から機械剣「莫邪宝剣」で後足を狙う焔。
 ラリーの作った傷の痛みで焔に気付いていなかったイージーライド。焔の超圧縮レーザーブレードがイージーライドの腱を切断。体を支えきれなくなったイージーライドは横転する形で地面へと転がった。
「ああ。あのジャングルでは無残なものさ。普段なら敵とさえ認識していなかった犬型キメラの群れに奇襲を受けて全滅したんだ。それをあいつは黙って見つめていたんだ」
 ラリーは奥歯を噛み締める。
 今でも仲間が襲われる夢を見るというラリーは、普段とは見せない悲痛な表情を浮かべる。
「その上官、バグアに体を奪われたとは考えられないかい?」
 焔に襲いかかろうとする尻尾をスキュータムで防ぐ那月。
 衝撃を吸収したスキュータムから尻尾が離れる瞬間、下からカミツレを切り上げる。
 切断される尻尾。
 イージーライドは悲痛な叫びを上げる。
「さあな。だが、それだったら尚更あいつを殺さなきゃならない。
 俺の悪夢はあいつを殺して初めて解放されるんだ」
 ラリーは呟いた。
 本当に悪夢が醒めるのかは分からない。
 だが、それだけキーオの存在が重くのし掛かっているのは事実だろう。
「‥‥気持ちは分かるが、こういう時こそ――クールに行くぞ。ハードラック」
 横たわるイージーライドの胸部へクルシフィクスを突き刺した夜十字。
 力を失ったイージーライドは、持ち上げていた首を投げ出すかのように息を引き取った。
「‥‥‥‥」
 ラリーは再び沈黙した。
 頭では理解しているのだが、心が、体が勝手に動いてしまう。
 らしくない。
 夜十字の言うようにクールにならなければ。
 だが、キーオの顔が浮かぶ瞬間、怒りの炎がまた燃え上がってしまう。
「くそ‥‥やっぱり俺があいつが‥‥」

 ――ブワンッ!
 
 ラリーの言葉を遮るように、周囲へ響くエンジン音。
 おそらく、川にあったボートのエンジンが稼働されたようだ。
 音に惹かれて視線を送る傭兵達。
「‥‥おや、ようやくのご登場か」
 那月は待ち人が現れた事にある種の安堵を感じていた。
 赤い髪にクリーム色のコート。
 右目に大きな傷を負った軍人風の男。
 先日、化学工場で遭遇したこの男こそ――。
「キーオっ!!!」
 ラリーが雄叫びのような声を上げる。
 憎悪の炎は殊更燃え上がり、キーオに向かって走り出す。
「落ち着け、奴の背後をよく見ろ!」
 前に立ちはだかるように、滝沢はラリーを押し止める。
 キーオの背後にはバグア兵らしきものが数名、銃を向けて立っている。下手な動きをすれば、こちらもただでは済まないだろう。
「ラリー、夜十字も言っていたはずだ。クールになるんだ」
 ラリーに落ち着くよう促す焔。
 ここでラリーに突進されれば、イージーライドの以上の存在を相手にしなければならない。
 悔しさを滲ませながら、ラリーはキーオに向かって言葉を浴びせかける。
「キーオ! 俺を忘れたとは言わさねぇぞ!」
「さぁ、記憶にないな。
 俺が知っているのは戦場に立つ軍人だけだ。銃を捨てた捨て犬に興味はない」
「て、てめぇ‥‥」
「慌てるな、ラリー。あいつがそのつもりなら、とっくに俺達は蜂の巣だ。
 だが、攻撃してこない。おそらく、こちらと話がしたいのかもしれん。
 そうじゃないか? キーオとやら」
 那月は振り返りながらキーオに話しかける。
 だが、キーオは黙って那月を見つめているだけだ。
「返答なしか。寂しいねぇ。
 だったら、こちらから一方的に質問させてもらおう。
 一つは今回の襲撃の目的。こんな山村を襲撃するのが目的とは思えない。もう一つはあんたに任務を下した奴は誰かって事だ」
 那月もキーオが話すとは思っていない。
 話せば敵に情報を流す事になる。そのような事をしても何の利益にもならないからだ。
 だが、那月の予想と反してキーオの口から答えが語られ始める。
「この山村を襲撃する目的は、ブラウ・バーフィールド軍曹を広州から引き離すためだ」「あ? なんだって?」
 那月は思わず聞き返した。
 それを無視するかのように、キーオは言葉を続ける。
「あの軍曹が広州に居れば、作戦の邪魔をする可能性が高い。作戦を進めるためには、あの軍曹の目を逸らす必要があった」
 キーオの言葉を信じるならば、軍曹の目を広州から逸らしたい何かがあったという事だ。
「もう一つの質問だが‥‥俺に任務を下したのはUPC軍内に居る。それもある程度の地位を持つ者だ」
「なに?」
 キーオの言葉に夜十字は耳を疑った。
 任務を下したのがUPC軍部内に居るという事は、バグアと内通していたという事になる。つまり、バグア側に情報を流す裏切り者がUPC軍部内に存在していたのだ。
 その言葉を聞いた滝沢が口を挟む。
「ちょっと待て。ある程度の地位とは士官という事か?
 もし、士官学校を出ているならば過去も調べられるはずだ」
「いや、ここは中国だ。親バグア派の人間も居る。金を払って過去をでっち上げるのは難しい事じゃないだろうな」
 滝沢に答える夜十字。
 確かに、この中国ならば親バグアの人間が多い。過去をでっち上げて士官学校を出れば疑うものは少ないはずだ。
「で、その任務を下した者の名前は?」
 那月は確信をついた。
 おそらく、キーオは嘘を吐かない。
 那月はそう直感していた。
「‥‥‥‥‥‥ドゥンガバル・クリシュナ少尉だ」
 それだけ呟くとキーオは踵を返してボートへ乗り込んだ。
 追いかけようとすれば、バグア兵の銃弾がこちらに向かって飛んでくる事は明白。傭兵達はこの場を見送る他なかった。


「馬鹿な! あいつが内通者だと!」
 那月からの話を聞いた軍曹は怒声にも似た声を上げる。
 だが、キーオからの話を詳細に聞くにつれて顔色が変わってくる。
「UPC軍に裏切り者とは‥‥」
「UPC軍も万能じゃない。だが、身内に裏切り者とは衝撃的だ」
 その後、軍曹は広州軍区司令部へ連絡を入れるもクリシュナは行方を眩ましていた。おそらく、正体が露見する事を予想していたのだろう。
「くそ‥‥次に会ったら‥‥」
 悔しさを滲ませるラリー。
 その様子を見ていた夜十字は、ラリーに声をかける。
「奴らは作戦と言っていた何かをするつもりだ。
 そう遠くないうちに再会する事になるだろうな、あいつとは」