タイトル:【東京】横浜本営占領マスター:近藤豊

シナリオ形態: イベント
難易度: 難しい
参加人数: 25 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/04/22 17:14

●オープニング本文


 UPC軍が小牧基地を出発し、バグア軍・横浜前線基地を目指して動き出した。
 その報はすぐさま、長く東京に滞在している「ゼオン・ジハイドの14」こと、ミスターSにも伝わる。
「ふぅ〜ん、なるほど。あちらさんは数年来の悲願を達成しようって腹なのかな?」
 彼の飄々とした態度や仕草は、不思議と余裕を感じさせる。それを見た兵士は興奮を胸の奥にしまい、きわめて冷静に対応した。そしてハッキリとした口調で「いかがいたしますか?」と指示を仰ぐ。
「わざわざ名古屋から出てくるんだから、すぐに帰るとも思えないね。狙いは東京かな? とにかく前線基地である横浜は厳戒態勢だ。準備を急がせて」
 兵士は「了解しました、ミスター!」と敬礼すると、ミスターSは照れくさそうに微笑む。彼はすべての部下に「ミスター」と呼ばせており、本人もこの音の響きが気に入っていた。
 彼は通信に戻ろうとする兵士を呼び止め、慌てて指示を付け足す。
「ああ、横浜基地の幹部には無理しなくてもいいって伝えといて。危なくなったら、東京に撤退していいから」
 ミスターは兵士が立ち去るのを見送りつつ、ポケットから大きめのダイスを取り出し、それを手の上で何度も転がす。
「まだ早いでしょ、盛り上がるにはさ。横浜はジャブでいいよ‥‥」
 彼は不敵な笑みを浮かべながら、まずはUPC軍の出方を窺うことにした。

 一方、UPC軍の指揮を行う椿・治三郎(gz0196)中将は、横浜基地占領に参加する傭兵たちを集め、直々に作戦の内容を伝える。
「今回の作戦は、いわば奇襲だ。UPC軍が囮となり、諸君らが先手を打つ。それぞれが連携して動き、各基地の占領ならびに横浜本営の機能停止を目指す」
 椿は暗くなった部屋に映し出された地図を指しながら、作戦の概要をじっくりと説明した。
 厚木基地へはKVで空から、横須賀基地へは同じく陸から攻め、戦力を二分化させる。さらに浦賀水道に面する基地にも水中兵力で襲撃。混乱が最高潮に達したところで横浜本営になだれ込み、指揮系統を無力化する‥‥というのが今回の作戦だ。
「詳しい説明は担当の者に任せる。東京解放の第一歩だ、抜かりなく頼むぞ」
 椿がそういうと、兵士の間から自然と「おおー!」と雄叫びが上がった。

「‥‥貴様らには、横浜本営へ通じる四つの牌楼を同時攻撃してもらう。その後、一気に攻め上がり、横浜本営を落とす」
 遠い広州からモニター越しに作戦解説するのは、ブラウ・バーフィールド(gz0376)軍曹。
 横浜本営を囲むように、配置された牌楼がある。
 南の【朱雀門】。
 西の【白虎門】。
 東の【青龍門】。
 北の【玄武門】。
 これらの牌楼を傭兵達は兵力を分散させて同時に攻撃を仕掛ける。そして一気に進軍、横浜本営を落とすというものである。
 UPC軍が横浜近郊で支援しているとはいえ、横浜本営を傭兵中心の部隊で陥落させようというのだ。かなり危険な任務だ。
 ――だが。
「‥‥‥‥」
 松田速雄は軍曹が映し出されたモニターから視線を外した。
 作戦の概要は既に頭へ叩き込んでいる。
 だが、今の松田にとって作戦など、どうでもいい。北京攻略戦から始まった悲願成就、東京奪還は間近にまで迫っている。
 警視庁警備部第四機動隊。
 鬼と呼ばれ、東京の治安維持に尽力してきたというプライドは、バグアによって討ち滅ぼされていた。松田は東京奪還の日を夢想しながら、傭兵家業に身を投じてきた。
 しかし、プライドを潰された松田にとって屈辱の日々も間もなく終焉を迎える。
「‥‥バグアは殲滅する。桜田門に賭けて」

「‥‥そうか」
 その身を風に晒しながら、横浜本営から外をじっと見つめる朱胡楓。
 『朱』と書かれた旗が翻る横浜本営の守護を任されたバグアであり、今回の作戦において立ちはだかる最大の障壁と言えるだろう。
「ミスター殿は、無理はするなと仰っておりまする。
 しかしながら、父上――」
 赤き鎧を纏う息子の朱呂奇は、頭を下げながら叫ぶ。
「なんだ?」
「私と父上の武を持ってすれば、如何なる敵も打ち倒す事ができましょう。ならば、ここは討って出る事が上策。バグア全軍の士気も向上致しましょう」
「うむ、よくぞ申した。ミスター殿はそう言っておられるが、我らが殿は襲撃を想定して増援部隊を派遣したとの連絡があった」
「殿が増援を‥‥」
「我らがここから逃げれば、殿と合わす顔がない。我らは身命を賭して横浜本営を守護する。今こそ義の刃を振るう時ぞ!」
 胡楓は手にしていた偃月刀を振るった。
 振動が空気を伝わり、澱んでいた空気が一変。
 横浜本営は戦場の空気へと変わる。
「UPCの傭兵ども‥‥貴公らに生きる道なし。我が武によって滅ぼさん!」

●参加者一覧

/ 御山・アキラ(ga0532) / 須佐 武流(ga1461) / 愛輝(ga3159) / 不破 梓(ga3236) / 宗太郎=シルエイト(ga4261) / UNKNOWN(ga4276) / 緋沼 京夜(ga6138) / Letia Bar(ga6313) / 周防 誠(ga7131) / 六堂源治(ga8154) / 錦織・長郎(ga8268) / ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751) / 来栖 祐輝(ga8839) / 瑞姫・イェーガー(ga9347) / イスル・イェーガー(gb0925) / RENN(gb1931) / 孫六 兼元(gb5331) / 日野 竜彦(gb6596) / ラナ・ヴェクサー(gc1748) / ユウ・ターナー(gc2715) / 功刀 元(gc2818) / エティシャ・ズィーゲン(gc3727) / 犬彦・ハルトゼーカー(gc3817) / ミリハナク(gc4008) / トゥリム(gc6022

●リプレイ本文

 話は――数年前に遡る。
「何故、拙者がここの守護を? 殿の考えをお聞かせ願いたい」
 朱胡楓は、上水流(gz0418)へ問いかけた。
 バグア軍は長い時間をかけて横浜本営を構築。
 厚木、横須賀、浦賀といった主要基地を横浜本営で統括する。統括に上水流は胡楓に据えようとしていたのだ。
「では、あなたが誰が適任だと思われますか?」
「拙者よりもドレアドル殿の方が適任でござる」
 ドレアドル。
 ゼオン・ジハイドの一人であり、アジア・オセアニア軍総司令官ジャッキー・ウォンの配下で行動する人物である。
 しかし、上水流はその考えに同調する素振りはない。
「彼にはもっと広い別の戦場で戦っていただくべきでしょう」
「左様でござるか‥‥」
 胡楓は、押し黙った。
 横浜という拠点を護るよりも最前線で、UPCと戦いたい。武で争えば、ドレアドルに引けを取らない自信もある。
 ――だが。
 がっくりと気落ちするその姿に、上水流は声を掛ける。
「勘違いしないでください。俺はこの横浜本営をゼオン・ジハイドに任せたくない」
「殿?」
 胡楓に背を向けてゆっくりと歩き出す上水流。
「アジア・オセアニア軍にとって、この重要な拠点です。我々は本星へ示さなければなりません。アジア・オセアニア軍の実力を。
 そのためにも、俺はあなたの武を頼りたい」
 上水流は、胡楓へ振り返った。
「殿。拙者がこの横浜本営を護り続ける事が、殿の為になるのでござるか?」
「無論。ウォン様にとっても、私にとっても大切な事です」
 上水流は小さく頷いた。



 そして、時間は現在に戻る。
 UPC軍が発動した東京解放作戦は、順調に遂行。厚木、横須賀、浦賀水道の作戦に呼応する形で、ここ横浜本営の占領を狙った奇襲作戦が始まろうと。
「くっくっく。
 さぁ、松田君。それぞれに思惑はあるだろうが、まずは協力しよう。成功したら焼き肉でも食べに行くかね」
「‥‥‥‥」
 錦織・長郎(ga8268)の言葉を聞きながら、松田速雄は横浜本営へ視線を送っていた。
 今回の作戦は横浜本営を四方向から襲撃。バグア兵やキメラが守護する牌楼を抜けて横浜本営を陥落させる。横浜本営を守護するバグアに奇襲を掛ける形で攻撃を仕掛けるのだから、時間との勝負と言えるだろう。
「松田さん、無茶しなければいいけれど」
 遠目から松田を心配するのは、トゥリム(gc6022)。
 実は錦織とトゥリムは松田の救援に向かった事がある。その際、たった一人でキメラの群れに戦いを挑んでいた。無駄死にする気はないのだが、協調性がある人物には思えない。
(きっと松田は一人で先に行こうとするに違いない。ならば、少しでも松田を気に掛けなきゃ‥‥)
 トゥリムは松田を見つめながら、そう考えていた。
 一方、松田とは真逆で仲間との絆を戦闘前に確認しようとする者も居た。
「京夜おにーちゃん。絶対、絶対に勝って帰ろうねっ!」
 緋沼 京夜(ga6138)の手を握りながら、ユウ・ターナー(gc2715)は約束する。
 かつて緋沼の故郷である京都を共に解放した仲であり、緋沼の戦い振りを見ても恐れる事のない戦友でもあった。
「あれが鬼と呼ばれた男か。随分と寂しそうな男だ」
 銀色の武者鎧に、墜剣「ルシファー」を手にするのは孫六 兼元(gb5331)。
「キミ、単身指揮官へ挑む気だな? なら、ワシが露払いをしてやる。気兼ねなく戦うがいい。ガッハッハ!」
「‥‥‥‥」
 豪快に笑う孫六。
 それに対して松田は、何も話さない。
 それは松田が他の傭兵を信じていないからなのか。
 それとも――。



「敵基地攻略なんて素敵ですわ。強い敵が私を楽しませてくれるのでしょうね」
 玄武門でバグア兵の反撃が行われる中、ミリハナク(gc4008)は一人で微笑みを浮かべていた。
 作戦開始時刻と同時に、傭兵は各牌楼への攻撃を開始。ミリハナクの眼前にある玄武門はバグア兵と虎型キメラ『グズンタイト』3匹が防衛している。
 しかし、強敵と戦う事が至上の悦楽とするミリハナクの望む敵はこのような貧弱な敵ではない。
「だったら、目の前の邪魔者をさっさと排除するッス!」
 六堂源治(ga8154)はグズンタイトの一匹へ肉薄。
 グズンタイトの脇腹を引き裂くように、獅子牡丹を切り上げる。
「俺達は‥‥前に進むしかねぇッス!」
 動きを止めたグズンタイトに振り下ろされる獅子牡丹。
 グズンタイトの脳天を叩き割り、確実に仕留める六堂。
 東京解放作戦の前哨戦と位置づけられたこの作戦。かなり過酷かもしれないが、ここで足を止める訳にはいかない。後に続く傭兵達のためにも、この戦いは完全なる勝利が望まれている。
「そう。ここが、瑞姫の故郷なんだね‥‥」
 イスル・イェーガー(gb0925)は、ライフルで援護射撃を敢行。
 前線で戦う瑞姫・イェーガー(ga9347)の支援している。その支援している瑞姫の故郷が神奈川県という事は作戦前に聞かされていた。
 相棒であり、今は妻となった瑞姫が生まれた場所。
 それはイスルにとっても、重要な場所だったと言えるだろう。
「‥‥次」
 瑞姫は肩で息をしながら次の敵へと視線を移す。
 この戦いは自分もそうであるように、多くの傭兵にとっても大きな意味を持つ戦いだ。東京を、故郷をバグアに奪われるという屈辱は、傭兵達の心に深く刻み込まれた。
 必ず――東京を奪還する。
 それは瑞姫の心にもしっかりと刻まれていた。
「道は開けた‥‥行け、源治!」
 不破 梓(ga3236)は、大声で叫んだ。
「えいっ!」
 梓は傭兵達が玄武門を潜った瞬間、二刀小太刀「瑶林瓊樹」で周囲の瓦礫を破壊。玄武門にバリケードを築き上げる。
 六堂たちを先行させ、梓はたった一人で玄武門の敵を掃討するつもりだ。
「‥‥源治、私に何かあったら霞を頼む‥‥ああ見えて、まだ保護者が必要な歳だからな」
「縁起でもない事を言うもんじゃねぇッス。戦ってみんなで帰るッス」
 梓は鼻で笑った。
 「我が鞘」と信じた六堂ならその約束を実現してくれる。
 梓はその安心感が欲しかったのだろう。

 梓は傭兵達が走り去る事を確認した後、にじり寄るバグア兵達を一喝した。
「‥‥ここからの通行料は貴様らの命だ‥‥それで構わなら、かかってこいっ!」



 同時刻、青龍門。
「俺が相手してやる‥‥かかって来いよ三下共っ!」
 聖剣「ワルキューレ」を片手に前へ出るのは、来栖 祐輝(ga8839)。
「そらっ!」
 ワルキューレの刃を薙ぎ払う。
 眼前に居た虎は一瞬、後退り。攻撃を仕掛けるタイミングを失った。
「‥‥そこ」
 来栖の影から飛び出したのは、ラナ・ヴェクサー(gc1748)。
 ライトニングクローで虎の顔面を思い切り引き裂いた。
「悪いな。付き合わせちまってよ」
「‥‥気に‥‥するな」
 来栖とラナはお互いの背中を庇いながら敵と退治した。
 来栖はこの横浜出身。故郷を取り戻すために、この危険な任務に身を投じた。
「二人とも回復する身にもなって欲しいな」
 ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)は、ため息をつく。
「‥‥悪いが‥‥傷を気にしている‥‥暇はない‥‥」
「だよな? なら、いっちょ勝負に出るか!」
 ユーリの言葉が届かない二人は、危険を承知で走り出す。
「ラナさん、二人だけでは危険ですって! ‥‥宗太郎さん、追いましょう!」
「了解だ。‥‥ったく、あんまり走ると転んじまうぞー」
 ラナ達の行動に宗太郎=シルエイト(ga4261)と周防 誠(ga7131)が後を追いかける。
 瞬天速を使って移動すれば、二人に追いつくことは可能だ。
「まったく、二人が勝手に動けば‥‥」
「残りは引き受ける。先に行け」
 ユーリへ先に行くよう促すのは御山・アキラ(ga0532)。
 既に青龍門の護衛隊長と思しきバグアもドローム製SMGの近距離射撃で葬っている。後は三匹の虎が御山の前にいるだけだ。
「アキラ、俺は単独行動が‥‥」
「勘違いするな。この程度の相手、一人で十分だ。
 それより、任務はこの虎を倒す事じゃない。目的はラナ達が行った先にある」
 御山は至って冷静だった。
 敵の司令官を倒さなければ、任務は終わらない。
「‥‥アキラ、必ず後から来るんだ」
 御山が頷いた事を確認した後、アキラは他の傭兵達を追いかける。
 それを見守った御山は、ゆっくりと迫る虎達へ視線を移した。
「『疾風の黒』の通り名、伊達じゃない事を教えてやろう」



「遊撃班、参上っ!」
 DN−01「リンドヴルム」の車体をすべらせながら、日野 竜彦(gb6596)は玄武門へと現れた。
 たった一人で孤軍奮闘する梓の救援に駆けつけたのだ。
 遊撃班は戦況に応じて戦場を変えている。少しでも傭兵たちの戦力を十分に発揮させるため、遊撃班は過酷な戦いを続けていた。
「来たか」
 梓はぽつりと呟いた。
 無線で遊撃班を呼んだのは梓。苦戦をしていた訳ではないが、ここにいつまでも居る訳にはいかない。
 遊撃班の登場で玄武門は一段と派手な戦場となった。
「騎兵隊が到着したからにはー、もう大丈夫ー!」
 PR893「パイドロス」をスピンターンさせて停車させた功刀 元(gc2818)は、超機械「ブラックホール」で虎に強烈な一撃を浴びせる。
 エネルギー弾を受けた虎は吹き飛ばされた後、地面へと転がっている。
「生まれ故郷、必ず取り戻してみせます」
 柿原 錬(gb1931)は LL−011「アスタロト」を走らせながら、機械剣「莫邪宝剣」を振るう。
 すれ違い様に振るわれる剣。
 バグア兵はアスタロトの加速を受けた剣撃に倒される他なかった。
 柿原は生まれ故郷が東京である事を知っていた。記憶には微かながら間違いなくここで暮らしていた。その場所をバグアから取り戻そうとするのは、自分を取り戻す事と同義でもあった。
「‥‥蹂躙、か」
 四人の活躍により、玄武門に残されていた敵戦力は片付いた。
 功刀が遊撃隊と称するだけある。この戦いを各地で繰り広げれば、敵は間違いなく翻弄されるだろう。
「次は青龍門。アキラの応援に向かうんだ」
 日野は叫んだ。
 それに呼応して功刀、柿原も車体を青龍門の方へと向けた。
「待て」
 梓は声をかけた。
「どうかしましたか?」
「気をつけろ。遊撃はかなり危険な行為だ。いくら気をつけていても、やられる時は一瞬だ」
 梓は三人の身を案じていた。
 遊撃は効果的だが、戦場を飛び回る事になる。
 当然、敵陣を突っ切るような事も行うだろう。それは時に思わぬリスクを呼び込む事になる。
「大丈夫ですよ、僕も自分が可愛いですから」
 笑顔を浮かべる柿原。
 その傍らでは功刀も余裕そうな態度を見せる。
「敵が撤退した後で残党兵狩りー。東京を解放するためにできる事をしなくてはー」
 まだ体力的にも無理はしていないようだが‥‥。
 自分の考えすぎに違いない。
 梓は首を左右に振って、自分の中に生まれた不安を打ち消した。



 玄武門、青龍門が傭兵達に突破されている頃。
 朱雀門を攻撃した傭兵達も横浜本営へ向かって動き出していた。
「マナくん、怪我はない?」
「大丈夫。何処も怪我はしてません、レティアさん」
 Letia Bar(ga6313)は愛輝(ga3159)の身を案じていた。
 Letiaにとって愛輝は本当に大事な友達。だからこそ、この任務をLetiaを受けたのだろう。
「仲良くするなら、任務が終わってからにしてもらいたい」
 エティシャ・ズィーゲン(gc3727)は二人の姿を見て苛ついていた。
「エティシャは二人に妬いているの?」
 元気いっぱいの犬彦・ハルトゼーカー(gc3817)は、天槍「ガブリエル」を肩に乗せながら冷やかした。
「なに!?」
「別にぃ〜」
 冷やかされたエティシャは犬彦を睨み付けた。
 もっとも、戦いの最中で本気でからかう気はない。
「そんなに気張る事もねぇんじゃねぇか?」
 須佐 武流(ga1461)がエティシャへ声を掛ける。
「すまない。だが、気がかりな事があったんだ」
「気がかりな事だとぉ?」
「私の見間違えだと良いのだが‥‥」
 そう言い掛けたエティシャの言葉を遮るように、Letiaが声を上げた。
「何あれ?」
 Letiaが指差す方に視線を送ると、朱雀門の傍らから一匹の蜘蛛が走り寄ってくる。
 大型で背中には赤いランプのような物がある。
 その蜘蛛を見た瞬間、エティシャが呟いた
「あいつは!?」
 エティシャの言葉を無視するかのように、蜘蛛は一直線にこちらへ向かってくる。
「あいつを近づかせるな!」
「え?」
 犬彦は拳銃「キャンサー」で蜘蛛を撃ち抜いた。
 刹那、蜘蛛は一瞬にして爆ぜて霧散する。
「爆発かよ。エティシャ、知っていたの?」
 笑顔を浮かべながら犬彦はエティシャに視線を移す。
 だが、そこには先程よりも深刻な顔を浮かべるエティシャの姿があった。
「この蜘蛛が居るという事は‥‥」
 一抹の不安がエティシャの中に生まれつつあった。



「我が名は朱胡楓の子、呂奇!
 貴殿はぶ武人とお見受け致す! いざ尋常に、勝負っ!」
 赤い甲冑に双戟を呂奇は、眼前に立つ六堂に走り寄る。
 指揮官の息子である呂奇。真っ直ぐな性格らしく、目の前に居た六堂へ襲い掛かる。
「‥‥こ、こいつぁ」
 六堂の手に伝わる力と振動。
 横浜を守護する者の一人だけあって、鍔迫り合いだけで危険だと分かる。
「悪いッスが‥‥正面から向き合う気はねぇッス!」
 六堂は両断剣・絶を付与した前蹴りを、呂奇へお見舞いする。
「うぐっ!」
 甲冑の上からでも響く衝撃。
 呂奇は、危機を感じて六堂と距離を置く。
「貴殿の武、見事! 私も負けられん!」
 呂奇は双戟を握りしめて再び構える。
 呂奇は前面突破が得意なバグアのようだ。
 それは他の傭兵から見てもよく分かる。
「そこですっ!」
 イスルがライフルで呂奇を狙う。
 だが、呂奇は弾道を読んで双戟を使って弾丸を弾く。
「ええぃ! 飛び道具とは卑怯なっ!」
 呂奇が口にした言葉。
 その瞬間、呂奇の経験不足が露呈する。
 ここ戦場。つまり、命の駆け引き。生き残った者が正義なのである。
「君。興ざめだわ。さっさと親父の方を出してくれない」
「なっ!」
 呂奇は驚く。
 しかし、ミリハナクにとって呂奇の存在は弄る価値もない存在となっていた。
「聞こえなかった?」
「くっ、何と破廉恥な格好を‥‥卑怯なり、人類っ!」
 どうやら、呂奇はミリハナクの衣装を気にしているようだ。
 胸の谷間が少し見える程度の衣装なのだが、呂奇にとっては刺激的らしい。
「‥‥もう、がっかりだわ」
 ミリハナクは呂奇に向かって炎斧「インフェルノ」を振り下ろす。
「むぅん!」
 ミリハナクの一撃は胡楓の偃月刀に弾かれる。
 インフェルノから伝わる振動。そして、力。
「ついに来たわね」
 ミリハナクは待ち望んだ強者に心躍らずにはいられない。
「父上!」
「呂奇、おぬしは下がれ!」
「しかしながら、父上一人では‥‥」
 畏まる呂奇。
 だが、胡楓が呂奇を一喝する。
「おぬしはここで死ぬべきものではない!」
 周囲に響く程、大きな一喝。
 風圧をも感じる力にミリハナクの笑みは止まらない。
「きみだよ! 私はきみを食べたい! 早く掛かって来なよ」
 最高潮の興奮を感じるミリハナク。
 胡楓の武が、ミリハナクの心を刺激する。
 全身の血液が震え、抑える事ができない。
「‥‥武に惑いし者。人類の中にも狂者は居るか」



 朱雀門を抜けた傭兵達を襲った蜘蛛の存在。
 それは白虎門を抜けた傭兵達にも降り掛かっていた。
「もぅ、こいつしつこいっ!」
 ユウは特殊銃「ヴァルハラ」を連射。
 攻め寄る蜘蛛型キメラに命中。その瞬間、地面を抉りながら幾つもの爆発が発生している。
 中華街でも一番大きかった門である善隣門を通過する寸前、背中に赤いランプを灯した巨大な蜘蛛は傭兵達に近づいてきた。
「走り寄る蜘蛛が自爆ですか」
 錦織も蜘蛛に対して超機械「シャドウオーブ」で攻撃。
 蜘蛛は次々と爆発していく。
「どぅわっはっは! もっと来い!
 ワシが花火代わりに叩きつぶしてくれるわっ!」
 孫六は堕剣「ルシファー」を片手に高笑いをしている。
 事実、ルシファーが振るわれる度に蜘蛛の一団が、爆竹のような音を立てながら爆発していく。足止めにはなっているが、傭兵たちの敵ではなかった。
「‥‥思い知れ」
 孫六の傍らでは、京夜が竜斬斧「ベオウルフ」で蜘蛛を借り倒していた。
 空中で爆ぜる蜘蛛。
 その爆風を受けながら、京夜の瞳は次の蜘蛛へと移っていく。
 突如として現れた蜘蛛型キメラの一団。
 しかし、傭兵達にとっては単なる時間稼ぎにしかならない相手。
「バグアの狙いはなんでしょう?」
「‥‥‥‥」
 トゥリムの言葉に松田は応えず、眼前の蜘蛛を駆逐し続けていた。
 この蜘蛛型キメラは、上水流が胡楓に出した増援の一部だった。だが、すべての増援がこの中華街跡へ届くことはなかった。
 これはある場所で奮闘する一人の男の存在があった。



 横浜元町。
 かつて、多くの女性が女性達が最新流行の衣装に身を包んでいた時代もあった。
 だが、今は建物は崩れ、瓦礫の山に埋もれている
 見回せば周囲に人間は居ない。
 まるで、自分以外は誰も居ない空間。

 寂しい?
 ――否、ハードボイルドに生きる男達にとって寂しさはエッセンスだ。
 UNKNOWN(ga4276)は高級煙草に火を付けた。
 煙草の先にそっと灯る光。
 UNKNOWNの体に煙が染み渡っていく。
「ふぅ」
 UNKNOWNはようやく一息入れる事ができた。
 横須賀でKV戦を敢行した後、横浜本営占領へ参加。作戦開始時間へ間に合わない事は事前に分かっていた。現地で戦う仲間達には悪いと思う。だが、同時にUNKNOWNがするべき事も理解していた。
 これでも紳士の端くれ、紳士足るべき道は心得ている。
「この蜘蛛が燃えてくれれば、ライター代わりにはなったのだろうが‥‥」
 UNKNOWNは、地面へ視線を落とした。
 そこには蜘蛛らしく残骸とバグア兵。
 横浜本営へと向けられた増援の死骸だ。
 アジア・オセアニア方面軍幹部の上水流が送り込んだ増援は、UNKNOWNが撃退していたのだ。すべての増援をたった一人で押し止める事は難しい。それでも横浜本営付近で戦う者達を少なからず負担軽減する事ができる。
「‥‥やれやれ、至福の一服を邪魔するとは。無粋な連中だ」
 UNKNOWNは加えていた煙草を革靴でもみ消した。
 少し勿体ない気もするが、連中は煙草を吸う暇をなかなか与えてくれない。
 残念そうにため息をつきながら、エネルギーキャノンを抱える。
「たった一人の戦場。これもまた、男の故の業ってやつか‥‥」



「やらせませんっ!」
 機械剣「サザンクロス」を手にした周防が、胡楓に斬りかかる。
 胡楓は偃月刀で受け流し、攻撃を逸らした。
 二人の刃は火花を散らしながら、離れていく。
「むぅ!」
 眼前に広がる光景を改めて認識する胡楓。
 各牌楼を抜けた傭兵達は、既に横浜本営へ殺到。胡楓を護ろうとするバグア兵や虎は、孫六らによって食い止められている。呂奇へ退くよう命じ、上水流の増援もこれ以上期待できない今――胡楓の進退は極まっていた。
「ぬぇい!」
 胡楓は気合いを入れて傭兵達を睨み付ける。
 再び、サザンクロスの刃が届く範囲へ足を踏み入れる周防。
 当の周防もこのままいけば、胡楓の首を取れる自信がある。なにせ、胡楓を囲んでいるのでは傭兵でも各地で名を売った傭兵。力負けするだけの不安要素もない。
 ならば、横浜を奪還するのは時間の問題。
 そう考えていた。
「‥‥殿、拙者の不義理を許されよ!」
 胡楓は轟くように叫んだ。
 その叫びと同時に、胡楓の雰囲気一変する。
「汚辱に塗れようと、我が義の刃は変わらぬ。武人たちよ。いざ、参られよ!」
 偃月刀を構える胡楓。
 先程とは別人、周防の脳裏に警告音が鳴り響く。
「危険だからって、逃げられない! レティス、援護をっ!」
「ラナ、援護は頼んだぜっ!」
 危険である事は分かっている。
 だが、逃げる訳にはいかない。自分たちにも傭兵の意地がある。
 先陣を切った愛輝と来栖が胡楓へ襲い掛かる。
「待てっ、こいつはやばいっ!」
 思わず周防が叫ぶ。
 だが、胡楓の動きは一瞬早かった。
「ぐぶっ」
「なっ!」
 胡楓はレティスが放った弾丸を躱しながら、愛輝へ振り上げる。
 切り裂かれる愛輝の体。宙を舞いながら体液を迸らせる。
 さらに胡楓を回転させならが、来栖に向かって偃月刀を振り抜いた。
 聖剣「ワルキューレ」を防御に使って受け止めたが、それでも抑えきれない衝撃。身の危険を感じ取った来栖は、反射的に閃光手榴弾へ手を伸ばす。
「ちょ、やば‥‥悪い、奥の手を使わせてもらうぜ」
「むっ」
 来栖は吹き飛ばされながら閃光手榴弾を用いた。
 おかげでトドメの一撃を避ける事ができた。

 ――だが。
 偃月刀の一撃を食らって投げ出される愛輝。その様子を見てLetiaは走り寄っていった。
「よせ、あいつは限界突破を使っている!」
 周防はLetiaを止めようとした。
 胡楓が使った限界突破はバグアにとっての最終手段。命と引き替えに能力上昇をさせるバグアにとって屈辱な方法。
 それを使ってまで横浜本営を守り抜く。
 胡楓は覚悟を決めたのだろう。
「マナくん!」
 夢じゃない。
 地面に広がる赤い泉を見て、Letiaはある記憶がリフレインする。
 かつて恋人が己の身を盾にしてLetiaを護った記憶が‥‥。
 その思い出が再び脳裏に蘇る。
 そして、恋人がマナへと重なる。
「いやっ!」
 思い出への拒絶。
 LetiaはSMG「ターミネーター」を胡楓に向けて、の引き金を引く。
「‥‥二撃目はやらせない」
 胡楓は偃月刀を薙ぐ。
 弾かれる弾丸、ターミネーターの弾は胡楓へ届かない。
 Letiaの眼前に胡楓が迫る。
「やらせる訳にはいかないんだ」
 ランス「エクスプロード」を握り、宗太郎は胡楓の前に立ちはだかる。
 滑り込むように対峙する二人。
 猛烈な力に圧される宗太郎。
「どけっ! 残り僅かな時間、一人でも多く冥府へ案内してやるのだ」
「大した馬鹿力だ。けど、堪え忍んできた時間を考えれば‥‥この程度っ!」
 宗太郎は胡楓をにらみ返した。
 横浜本営を占領すれば、いよいよ北上を開始する。
 それは、東京奪還という多くの傭兵が夢想し続けた目標。
 その達成が間近まで迫っている。
「なんと!」
 胡楓は渾身の力を持ってしても耐える宗太郎に驚嘆する。
 二人の一進一退の攻防。
 それは、他の傭兵たちにとって絶好のチャンスでもあった。
「人類の力、思い知れ‥‥」
 京夜の竜斬斧「ベオウルフ」が背後より振り下ろされる。
「再び、封印されるべしっ!」
 上空からは武流の機械脚甲「スコル」が延髄目掛けて落とされる。
「これで終いッス!」
 右側から六堂の両断剣・絶が胡楓が炸裂する。
 強者三人の攻撃を一斉に受け、ふらつく胡楓。
「ぐっ、抜かったか」
「今だっ!」
 偃月刀から力が抜けた瞬間、宗太郎はエクスプロードで胡楓を押し戻した。
 バランスを崩す胡楓。
 偃月刀は持ち上げられ、胡楓の胸部は隙だらけとなった。
「あはは、君のすべてを喰らい尽くすわ。
 君のすべてを私に‥‥ちょうだいっ!」
 ミリハナクは、必殺の間合いから旋風の連続攻撃を叩き込む。
 両断剣・絶で強化され、「暴飲暴食」と呼ばれた攻撃は胡楓の体へ吸い込まれるように決まっていく。
「ぐふっ‥‥」
 いくら限界突破を使っても、無敵になる訳じゃない。
 命を削って身体を強化したに過ぎない。
 膝をつき、ゆっくりと倒れ込む胡楓。
 それでも、後悔はしていない。
 最期の戦場で、胡楓は全身全霊を持って武を振るった。
 武人が戦場で死ぬことのできる幸せを噛み締める事ができた。
 唯一の無念は、上水流への義理を果たす事ができなった事だろう。
「見事‥‥」
 前のめりに倒れ込む胡楓。
 倒れ逝く胡楓を前に、ミリハナクは満足そうな笑みを浮かべる。
「ふふ、義の力は人の欲望という利の力にいつも負けますのよ。御存知なかったのかしら?」




 胡楓が倒れた後、バグアは撤退戦を開始した。
 しかし、戦いは未だ終わらない。
「そらっ!」
 柿原と功刀は玄武門付近から逃げ出す敵勢力をAU−KVで追撃を開始。
 少しでもバグア側の戦力を削るため、敵目掛けて愛機を駆る。

 東京解放作戦は、まだ始まったばかり。
 横浜本営占領はそのプロローグに過ぎない。
 本番は――これからなのだ。
 ならば、次の戦いを考えて敵の戦力を削る事は間違っていない。
「行きます!」
 さらに柿原は騎龍突撃でバグアの群れに突進を敢行。黒いバグアの集団を真っ二つに割った。何体かのバグア兵を吹き飛ばした後、アスタロトを反転させる。 
「逃がしませんよ!」
 再び黒い一団を目指して走り出す柿原。
 だが、勝ち戦を意識したと同時に油断も到来する。
「!?」
 柿原がアスタロトを前進させた瞬間、赤き塊が飛び込んできた。
 交差。
 鈍色の何かが柿原の横を駆け抜ける。
「え?」
 柿原はその一言を呟いた後、柿原の体が地面へと投げ出された。
 体には大きな傷が出来上がっている。
「な!?」
 柿原と共に事態が把握できない功刀。
 反射的にブレーキを試みる。だが、焦るばかりでパイドロスを止める事ができない。
 いくら冷静を保って周囲を警戒しようとも、追い立てる敗軍の中から奇襲されるとは思ってもみなかった。
「ぐっ!」
 吹き飛ばされる功刀の体。
 絶命するには至らなかったが、無事と言えない怪我を受けていた。
「ここは父上が命を賭けて生み出された退路。
 再起するためにも、撤退するのだ!」
 二人を打ち倒したのは呂奇。
 双戟を手に撤退を指示する呂奇の手は僅かながら震えていた。
「父上、この無念。必ずや晴らして見せましょうぞ」
 双戟を力強く握りしめ、呂奇は東京方面へと走り去っていく。
 
 柿原と功刀は、後から追いかけてきた日野によって救出された。
 負傷したものの、命には別状なかった。
 東京解放作戦はこれからが本番。今は傷を癒しながら再起を図る時だ。

 こうして、横浜本営はUPC軍によって占領。
 第一幕は、人類側の勝利に終わった。
 しかし――戦いはまだ始まったばかりなのである。