●リプレイ本文
熱い戦いが続くアフリカ大陸。
バグアと人類の存亡を賭けた戦闘が、こうしている今も繰り返されている。
その戦いの余波は、ギニアビサウ共和国コントゥボエル郊外の小さな村にも及んでいる。もっとも、少々毛色が異なる戦いのようだが‥‥。
「おほほほほ。愉快、愉快」
白い羽扇を片手に村を散歩しているのはタッチーナ・バルデス三世。
彼は後ろについているマグロ型キメラ、鮭型キメラと共に村を制圧。村人を恐怖で支配するという典型的な支配者として君臨。我が世の春を謳歌していた。
「ほれ、ちゃんと歩くにゃー」
タッチーナの足下には首輪を付けられた少女が這いつくばっていた。
手足はすり切れ、顔は砂で塗れている。
「も、もう無理です。手足が痛くて‥‥」
「あぁん? 犬は喋らないにゃー。
おかしいにゃー、朕の聞き違いかにゃー」
少女の頭上で叫ぶタッチーナ。
その声に呼応するかのように、少女の周りにキメラ達が取り囲む。タッチーナの言う事を聞かない村人は村の中央部に作られたとろろのプールに放り混まれる。通常の三倍は痒くなる特製配合のとろろは、村人を恐怖で縛るには効果的であった。
「‥‥わ、わんっ!」
「そうそう。お前は卑しい無様な犬っころだにゃー」
タッチーナは、少女の顎を手にして自分の顔へ近付ける。
恐怖に怯える少女。それに反して村人は誰も少女を助けない。
非情とも思える現実――しかし、救世主はどの時代にも必ず現れるのである。
「卑しく無様なのは、あなたですよ。
築地で逃がしたと思ったら、アフリカにいるとは‥‥」
タッチーナの姿を目にした途端、ため息をつくのは夏 炎西(
ga4178)。
何故かタッチーナとの遭遇率が高い炎西。毎回食べ物を粗末にしているタッチーナに怒り心頭しているのだ。
「あー、お前っ! いつもいつも現れおって!」
「そんな事より、いつになったらソーセージをくれるのじゃ?
観念してわらわによこすがよい!」
正木・らいむ(
gb6252)がタッチーナを指差した。
らいむはタッチーナからソーセージをゲットすべくアフリカ大陸へ赴いていた。もっとも、そのソーセージはタッチーナにとって一本しかない大切な代物。
らいむに渡してこんがり焼かれては堪らない。
自然とタッチーナの右手は股間をガードしている。
「こ、今度はソーセージ娘っ!
おにょれ、我が世の春を邪魔しにきたにゃー!?」
村に現れた傭兵達。
この時点でタッチーナは嫌な予感を察知していたのだが、諦めたらそこで試合終了。支配体制維持のためにも、ここは何としても踏ん張りたい。
危機的状況を察知されないよう、タッチーナは懸命に平静を取り繕う。
「お、おほほほ。良いのですか? 朕と戦って。
私の戦闘力は53万ですよ?」
「何、訳の分からない事を言っているのですか?
それより村を占拠して王様気取りとは。何処かの映画に感化されましたか?
まったく、頭痛薬が欲しくなりますね」
額を押さえながら頭を左右に振る緑川 めぐみ(
ga8223)。
毎度の事ながら、阿呆なタッチーナを前にして頭痛が止む様子はない。
しかし、これも任務。村人達を救うため、ドブに手を入れて掃除してやる事も時には必要なのだ。
「ふん、余裕なのも今のうちだにゃー。
サーモンさん、ママグロさん。殺ってしまいなさい」
白い羽扇を傭兵達へ向けるタッチーナ。
それに呼応して、マグロ型キメラと鮭型キメラが銛を片手に集まってくる。
その様子を見ていた炎西の心に、怒りの炎が燃え上がる。
「性懲りも無く地球の食材を無駄にしおって‥‥!
貴様など、隊長の手を煩わせるまでもない! アフリカ奪還作戦の手始めに蹴散らしてくれる!」
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「ったく‥‥重体復帰のリハビリを兼ねて転職後の慣らし運転がコレかよ」
湊 獅子鷹(
gc0233)は、獅子牡丹とショットガン20を片手に鮭型キメラと渡り合っている。
リハビリを兼ねて受けた依頼だったが、目標はマグロと鮭のキメラ。そして頭がおかしいとしか思えない強化人間。
戦闘前に薬を打っとくべきだったと後悔しても今更遅い。
「ん? 貴様、そのタスキは何かにゃー?」
タッチーナは獅子鷹の肩から下げられたタスキに気がついた。
戦闘中に不似合いなタスキが気になったようだ。
「これか? 上からゆっくりと読み上げれば分かるさ」
「なになに‥‥タッチーナの、ア、ホ‥‥タッチーナのアホ‥‥。
なんですとー! 朕の事をアホを書いてあるにゃー」
「今気付いたのか」
「くぅ、変身をあと2回残している朕に対してアホとは!
サーモンさん、ママグロさん! そのタスキの男を集中攻撃するにゃー」
どうやら、阿呆呼ばわりされた事でタッチーナは獅子鷹をターゲットに据えたようだ。
「へっ、そりゃどうも。体を動かさないと、鈍っちまうからな」
右手の獅子牡丹で鮭型キメラの銛を捌き、突きを後方へ逸らした獅子鷹。体を入れ替えて鮭型キメラの側面へ回り込むと、左手のショットガン20を至近距離から撃ち抜いた。
――ドンッ!
地鳴りのような轟音が周囲へと響き渡る。
次の瞬間、頭部を吹き飛ばされた鮭型キメラの体は地面へと横たわっていた。
「喰えないキメラなんかに存在する価値はない!」
フール・エイプリル(
gc6965)は、獅子鷹の傍らでハルバートを手に奮戦していた。
マグロ型キメラの足をハルバートの柄で薙ぎ払い転倒させる。姿勢が崩れた瞬間を狙い、マグロの眼目掛けて刃を突き立て抉り取取った。
「まだまだっ!」
痛みに悶えるマグロ型キメラに対し、フールの攻撃は収まらない。
マグロの頭部に目掛けてハルバードが振り下ろされ、深々と刃が突き刺さる。
レイバックルを施されたハルバード。
凶刃と化したそれは、何度も振り下ろされてマグロを絶命させる。
気付けば、フールの顔には大量の返り血が付着していた。
「へぇ、面白い戦い方だな」
「褒め言葉と受け取っておきます」
獅子鷹はフールに背中を預けながらそっと話しかける。
その周囲にはマグロと鮭が銛を片手に取り囲む。本来であれば危機的状況、という奴なのだろう。
だが、背中を預けた相手が居れば、苦戦する事もない。後は派手に暴れるだけ。
獅子鷹はそう感じていた。
「畑は手出しさせないよ」
村の畑をバックに立ちはだかるのは、トゥリム(
gc6022)。
この村の唯一の収入源であり、食料を確保している畑。もし、ここが荒らされるようであれば、明日から村の生活は一気に困窮する。ここをキメラ達に手出しさせる訳にはいかない。
「鮪に鮭‥‥食えと言わんばかりの構成だけど、料理は村を守ってからだね」
ライオットシールドを片手にクルメタルP−56で牽制射撃を行うトゥリム。
今はキメラ達を畑に近付けない事が第一。キメラ達とは戦闘後、料理という形で戦う事になる。
問題はマグロの酢味噌臭と鮭の油だ。
酢味噌臭は強烈で、如何にして取り除くかが重要。鮭の油もそのまま焼けば、身と皮の焼け具合が異なってしまう。問題だらけの食材程、料理人は燃え上がるもの。
既にトゥリムの脳裏には、如何にして食べにくいキメラを調理するかでいっぱいのようだ。
「うわっ、か、かゆいのじゃぁ‥‥っ。べとべとなのじゃぁ」
マグロの吐きかけてきたとろろを被ってしまったらいむ。
とろろが触れた部分は猛烈に痒く、掻き毟ってどうにかできるレベルではない。おそらく、村の中央部にあるとろろプールはこれと同じものだろう。
「ぬわっはっは。どうだ、ソーセージ娘。とろろの味は?
痒いでのではないかにゃー? もうギブアップして敗北を認めるにゃー。今なら、あのとろろプールにグラン・ブルーするだけで許してやるにゃー。あと朕のソーセージを諦めるにゃー」
高笑いを決め込むタッチーナ。
「コレがとろろの威力ですか。最悪ですね」
とろろに塗れたらいむに駆け寄った緑川。
キュアを施してらいむの痒みを抑えようとする。
「チャンスだにゃー!
ママグロさん、黒いお姉さんもとろろ塗れにするんだにゃー。二人をネバネバ塗れにして、画的なサービスカットを挿入だにゃー!」
獅子鷹に向けていた戦力を緑川とらいむへ差し向けるタッチーナ。
戦力バランスも減ったくれもないタッチーナではあるが、マグロと鮭は二人ににじり寄る。
緑川までとろろの餌食となってしまうのか。
だが、緑川も傭兵。この程度の修羅場は幾度となく潜っている。
「眠りに誘う、この音色。貴方の夢はどんな夢?
私は知りたい、だけど分からない。夢の中で会いたい人は誰?」
緑川の口を通して紡ぎ出されるメロディー。
奏でられるメロディーは穏やかにして眠気を誘う。睡魔という暴君に誘われたキメラ達は、次々と地面へ突っ伏すように倒れ込んでいく。
緑川の子守唄が予想以上の効果を発揮しているようだ。
「ゲェー! おまい達、起きろ!
朕の危機がたった今到来ですよ?」
「残念ですね。あなたの頼りになるキメラは夢の中で戦っているでしょうね」
余裕の笑みを浮かべる緑川。
その膝の上ではらいむも眠り込んでいるのだが、危機を回避したという意味では大きな結果だろう。
「くっ、こうなったら‥‥」
徐に己のオムツへ手を突っ込んだタッチーナ。
局部の傍にあったと思われる謎の物体を次々へと地面へ投げつける。
物体は大量の煙を吐き出しながら、視界を徐々に奪い去っていく。
「うっ、煙が‥‥」
獅子鷹が必死で目の前の煙を払う。
しかし、次々と生み出される煙が獅子鷹の体を包み込んで覆い隠していく。
「ぬわっはっは。
こんな事もあろうかと準備していた煙玉が役立ったわ。それじゃーねー」
煙に紛れて逃げ出すタッチーナ。
裸足であるため足跡を聞き分けるのは困難。それでも、傭兵達はタッチーナを逃がす訳にはいかない。
「フールさん、タッチーナはそっちだよ」
探査の眼を使ってタッチーナの居場所を特定したトゥリム。
一番近くに居たフールへと叫んだ。
その言葉に反応したフールは、ハルバートを手にしたまま意識を集中する。
空気の流れを肌で感じ取り、聴覚を最大限に発揮する。
ホワイトアウトした世界の中で、たった一つの目標を発見する。
――そして。
「そこだっ!」
フールはその空間へハルバート振り上げた。
タッチーナが居ると察した空間が切り裂かれ、ハルバートの柄から目標を切り裂いた感触が手に伝わる。
確実に捉えた。
フールの経験と勘がそれを伝えていた。
だが、その結果は大きく異なっていた。
「なっ!」
フールは狙い通りタッチーナの足の腱を切り裂いた。
だが、当のタッチーナは煙に紛れてそのまま走り続けている。
「馬鹿な、確実に足の腱を切ったはずだ」
「それでは駄目ですわ」
緑川が話しかける。
「タッチーナの頭はどうしようもありませんが、回復能力は一流。大抵の傷は瞬時に回復する強化人間です。KVの攻撃にも耐えたのですから、通常の攻撃で捉えようとするのは無理です」
タッチーナを見てきた緑川が、初見のフールに情報を与える。
知能が追いついていないためにロクな被害はないものの、タッチーナの回復力だけは侮る事ができない。
「だったら、どう捕まえたらいいんだ!?」
フールの声に応えるかのように、緑川は軽く微笑みを浮かべる。
「その心配はありません。
既に手は打たれていますわ」
●
「こ、こんなはずじゃなかったにゃー」
タッチーナは壁に手を当てながら息を切らせていた。
夢の王国が傭兵達の活躍で崩壊。タッチーナの絶対王政は簡単に滅んでしまった。
もっともっと続けたかったのに、潰えてしまった夢の国。
こうなるのだったら、もっと我が侭を尽くせばよかった。
「お、おにょれ。傭兵達!」
「恨み言は村人の方が多いでしょうねぇ」
タッチーナの背後からゆっくりと現れたのは炎西。
ゆっくりと歩み寄り、笑みを浮かべる炎西。だが、眼鏡の奥にある瞳は鋭く光っている。怒りの炎を滾らせる炎西は、タッチーナをビビらせるには十分過ぎる迫力を醸し出していた。
恐怖と不安が入り交じり、大慌てのタッチーナ。
何故か鼻を摘んで訳の分からない言葉を口にする。
「おかけになった番号は現在使われておりません。番号をお確かめの上‥‥」
「間違っていませんよ。あなたは間違いなくタッチーナ・バルデス三世」
タッチーナのカイゼル髭を思い切り引っ張る炎西。
いつもより数倍増した迫力は、タッチーナの抵抗心を削ぐだけの力を持っていた。
髭を握るその手には、今まで貯めてきた怒りの炎が込められている。
「さぁ、食べ物を無駄にした罰を受けていただきますよ!」
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「ぎゃぉぉぉん! 朕に消失イリュージョンは無理だにゃー!」
縄で縛られて身動きが取れないタッチーナ。
それを抱え上げるフールと獅子鷹が、タッチーナを顔面からとろろのプールへ叩き込む。
「お前を引き裂いても回復するなら、全身とろろで痒くなればいい」
「あ、そーれっ!」
派手に放り投げられるタッチーナ。
声も上げられず、プールの上で足をバタつかせるタッチーナ。
顔面の痒みは足の速度で自ずと分かるだろう。自業自得である。
しかし、衝撃的な出来事はそれだけではなかった。
「!?
これは、うまいのじゃ!」
らいむは、驚嘆していた。
トゥリムが調理していたマグロ型キメラと鮭型キメラを口にしたのだが、想像以上の美味さなのだ。
事前にマグロは酢味噌臭い、鮭は脂臭いと聞いていたのだが‥‥。
「こ、これは‥‥。一体、どうやったのですか?」
同じくトゥリムの料理を口にしていた炎西は驚きを隠せない。
傍に居るだけで酢味噌臭が漂うマグロだったのだが、目の前に出された料理は普通の物より油が乗っていて濃厚なのだ。
「どうって‥‥臭みを消すためにズブロフを使っただけだね」
持参したズブロフを手にするトゥリム。
実は、トゥリムはマグロと鮭を切り分けた上、酒に浸す作業を工程に入れていた。アルコールを弱火で飛ばした後、マグロはステーキに鮭は塩焼きにしていたのだ。
酢味噌臭と油を消すために行った行程なのだが、ここまで美味くなるのはトゥリム本人も予想をしていなかったようだ。
「話を聞いていただけなのですが‥‥」
そう前置きして話し始めたのは緑川。
「このキメラ、アルコールで味が変化するのではありませんか?
もし、そうであるならば、アルコールを飲ませれば刺身も楽しめるのかも‥‥」
緑川が口にした可能性。
それは十分に考えられる。相手はキメラ、普通のマグロや鮭ではない。もし、アルコールを飲ませる事で美味くなるキメラならば、傭兵達が何度大宴会を繰り広げても足りない程の食材を確保できるだろう。
――しかし。
残りのキメラは食べられないと判断して畑の肥やしにしてしまった。
村人達は村と畑を取り戻して喜びを隠せない様子なのだが、何故か残念な気持ちに包まれる傭兵達であった。