●リプレイ本文
既に打ち棄てられていた基地があるとされている場所――ジェッダ。
ここにバグア残党が集っているが、疑問も残る。
いくら生き残ったバグアを結集しても、アラビア半島にいるUPC軍を追い出す事は簡単な事ではない。
このジェッダへ集結する意味が他にあるはずだ。
「こちらが中国の広州軍区司令部よりいらした宣伝部隊の方です。
なお、彼らは能力者ではありません。護衛をお願い致します」
UPC艦隊のブリッジで女性士官が、傍らに居た青年を紹介する。
金髪で西洋人らしく端正な顔立ち。一般的に美形と呼ばれるタイプなのだろうが、少々経緯は変わっているようだ。
「僕の名は、クレイトン。
見ての通りの新聞記者さ‥‥もっとも、新聞記者だったのは一ヶ月前。今は宣伝部隊でみんなの活躍を伝える仕事をしている」
クレイトン、と名乗った青年は傭兵達に握手を求めてきた。
「随分と馴れ馴れしい新聞記者だな」
握手を求められたレベッカ・マーエン(
gb4204)は、促されるがままに右手を差し出した。
クレイトンの爽やかな笑顔は、相手に疑いを持たせない安心感がある。取材をする人間としては必要なスキルと言えるだろう。
「ふふ、君たちの活躍は余す所無く中国の市民へ伝えさせて貰うよ」
「ならば、美具がバグアを虫の如く捻り潰す様を報じるのじゃ」
自信満々の美具・ザム・ツバイ(
gc0857)は、威張りながら高笑い。
何せ、今回の戦いの様子が遠く中国の市民に流されるのだ。宣伝として使われる事に悪い気は起きない。
「ふふ、そうさせてもらうよ」
「‥‥あの、一つ良いですか?」
恐る恐る声をかけるのは金城 エンタ(
ga4154)。
初対面のクレイトンに少し緊張しているようだ。
「ああ、構わないよ。なんだい?」
「何故、中国から紅海へ取材にいらしたのですか?」
エンタは、素直な疑問をぶつけた。
もし、取材をするのであれば中国国内やデリー付近でもいい。上司命令とはいえ、紅海へ来る意味が見当たらない。
「そうだな‥‥アジアでも砂漠という特殊環境だから、という理由じゃ不十分かい?」
「なるほど、大した新聞記者さんだ」
湊 獅子鷹(
gc0233)は、そう呟いた。
今回、クレイトンら取材クルーをメインで守る役割を請け負った獅子鷹。重傷の体を張って、クレイトンを守りきる所存だ。
「期待しているよ、獅子鷹君。
僕の戦いは、君の護衛次第だからね」
「戦い?」
獅子鷹は聞き返した。
女性士官からは能力者ではないと聞いている。だが、クレイトンは『戦い』という言葉を使っている。
「僕は一般人だ。
君たち傭兵と違ってバグアと戦いと事はできない。だが、宣伝部隊として君たちの活躍を多くの市民に伝える事ができる。ペンで、ね」
クレイトンは存在しないペンを握り締めるかのような手つきをしてみせる。
「分かったよ。その戦い、俺が助けてやるよ」
獅子鷹は痛みに堪えながら、笑って見せた。
●
「撃てっ!」
UPC艦隊旗艦のブリッジに坂本勘兵衛の声が響き渡る。
その声を受け、紅海上で待機していたUPC艦隊の艦砲射撃が開始される。
敵拠点に付近に存在するのはゴーレムやタートルワームだけではない。敵拠点付近に敷き詰められていると思われる地雷も厄介な存在。戦闘中に踏んで隙を作らない為にも、艦砲射撃で一掃しようという訳だ。
UPC軍艦隊から発射された砲撃は、ジェッダに築かれたバグア拠点付近の地面を大きく抉る。仮に地雷が設置されていたとしても、吹き飛ばされている事だろう。
「依頼通り砲撃は行った。
だが、油断するな。すべての地雷がこの砲撃で駆除された保証はないからな」
「提督、ご安心を。残る地雷はこの僕が何とかしますから」
ヴァイオン(
ga4174)はNeverMoreのブースターで前進。
艦砲射撃が届かなかった付近を発見し、ガトリング砲「嵐」で地面に弾丸を叩き込む。
――ドンっ!
地響きと共に大きな爆発音。
地雷があったと思しき場所は、地面に半円状の跡が残されている。
「クレイトン君のジーザリオもありますから、慎重に地雷を除去します」
「心強いな、ヴァイオン。そして‥‥夜十字」
坂本は夜十字・信人(
ga8235)の名を呼んだ。
この艦砲射撃による地雷除去を具申したのが夜十字だ。傭兵からUPC軍艦隊への作戦提案という形式が取り入れられている事を、宣伝部隊経由で市民に知ってもらえれば傭兵の存在を強くアピールする事ができるだろう。
「ありがとうございます、提督」
「なーにが、『ありがとうございます、提督』だ」
ラリー・デントン(gz0383) が横槍を入れてきた。
口調から察するに、何か不満があるようだ。
「軍服なんか着てビシっと敬礼なんかしちゃってたけど、もしかしてカメラを意識しているのか?」
小馬鹿にするような言い方をするラリー。
だが、夜十字は軍服を着てUPC軍人のように綺麗な敬礼を決めて見せていた。
ラリーは夜十字のそのような格好など、一度も見た事はない。
「何を言っているのかな、ラリー君。俺はいつもこの姿だ」
「ラリー『君』!?」
いつも使わない敬称を使われ、鳥肌が立つラリー。
さらに夜十字の傍らに、芹架・セロリ(
ga8801)のウーフー2が寄り添った。
「お兄ちゃん、あんまり無理しちゃダメですからね」
笑顔で微笑み掛けるセロリ。
それに対して夜十字も穏やかな表情を見せる。
「分かってる。だが、良いかセロリ。お前は無茶するんじゃないぞ」
お互いの身を気遣い合う二人。
ラリーから見えればいつも見る姿と乖離し過ぎてついて行けない。まるでパラレルワールドへ迷い込んだかのような錯覚すら感じられる。
「お前ら‥‥」
「ふふ、これも良い記事が書けそうだ」
実情を知らないクレイトンは、二人のやり取りをみて満足そうに微笑んでいる。
傭兵達の後方からジーザリオで後を追いかけている。あまり近づき過ぎては傭兵達の邪魔になってしまう。クレイトンは安全なところから取材する事を肝に命じているようだ。
「傭兵同士の強い絆。テーマとしては素晴らしいものだ。
‥‥ん、どうした? ああ、テープチェンジか」
助手席に居たカメラマンが、カメラのテープチェンジを開始。
その事を無線で察知したセロリは、夜十字への態度を豹変させる。
「ちっ。近づくのはいいけど、触れるなよ。よっちー」
「セロリはこの程度でピンチになる奴じゃない事は分かっている。俺が守らなくても大丈夫だ」
カメラがないと分かった途端、いつもの姿に戻る二人。
その様子を見守っていたラリーは、この先心配になってきたようだ。
「お前ら‥‥」
「アリエイル‥‥アンジェリカ・アストレイア、出撃します!」
夜十字とセリカのやり取りをよそに、アリエイル(
ga8923)のレーザーガン「フィロソフィー」で牽制攻撃をしかける。
先程の艦砲射撃で敵の襲撃に気付いたバグア達は、ゴーレムの一団を差し向けてきたようだ。
アリエイルの牽制射撃に対して、ゴーレムもプロトン砲で応戦。
飛び交う銃撃の中、傭兵達は敵の弾から逃れるように散開。各々が前面の敵に対して攻撃を開始する。
「アストレイア…行きますよ!」
不用意にも単機で前進し始めたゴーレムを見つけたアリエイルは、愛機にそう呼びかけた。
青き機体が砂の上を疾走、プロトン砲を躱しながらゴーレムへと肉薄する。
「せいっ!!」
アストレイアが握り締めていた練槍「アイスバーグ」を振るった。
ゴーレムはその一撃をシールドで防ぐ。
睨み合う双方。
バグアと傭兵の戦いは、ジェッダを舞台に始まったのだ。
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「見つけた! 美具の獲物なのじゃ!」
タートルワームに狙いを定めた美具のスカラムーシュ・オメガは、中距離からGPSh−30mm重機関砲で攻撃を開始。
タートルワームの体へ面白いように銃弾が突き刺さっていく。
「美具さん、お助けします!」
エンタの真・韋駄天が、美具の後方からD−013ロングレンジライフルでタートルワームを狙う。
照準はタートルワームの頭部を捉え、エンタからの指示を待ち続けている。
エンタは緊張を抑えるために、一呼吸置く。
初めて美具と共闘する戦い。期待されている事は分かっている。
ここは一撃で仕留めたい。
エンタの腕に自然と力が籠もる。
「行きます!」
エンタの叫びと共に発射された銃弾。
照準で捉えられた頭部へ突き刺さり、タートルワームの頭部を派手に破裂させた。
「うむ、エンタ殿もやる男なのじゃ。
さぁ、次の獲物へ行くぞ。他の奴に渡してはならんのじゃ」
期待していただけあって、美具はエンタの活躍を心から喜んでいた。
その空気を察したエンタは、思わず照れ笑いを見せる。
「は、はい。共に参ります」
「早く、倒さなければ‥‥」
地雷の除去に見切りを付けたヴァイオンは、眼前のタートルワームに対してプラズマリボルバーで攻撃を仕掛けていた。
「敵は弱いようですが、油断する訳には‥‥」
そう言い掛けたヴァイオンだったが、次の言葉を喉の奥へと押し込んだ。
眼前のタートルワームが苦し紛れにプロトン砲を放ってきた為だ。
危機を察知したヴァイオンは、NeverMoreの体を旋回させながらプロトン砲を回避。
タートルワームを至近距離に捉えたNeverMoreの手には機剣「白虹」が握られている。
「あなた達が何を企んでいるのかは知りませんが‥‥潰させていただいます!」
白虹のブースターが点火、勢いを増してタートルワームの首へと振り下ろされる。
強烈な一撃はタートルワームの肉を切り裂いて絶命させる。
「ふぅ、これで一匹。まだまだ敵は残っていますね」
周囲を見回しながら、次のターゲットを捜すヴァイオン。
その視界にゴーレムと戦うアストレイアの姿が飛び込んできた。
「アリエイル君、大丈夫ですか?」
「お気遣い感謝します。ですが、心配は無用です」
練槍「アイスバーグ」を手に再び前進するアリエイル。
それに呼応してゴーレムも強化サーベルを横に薙いだ。
(‥‥ここです!)
アリエイルは、ゴーレムの一撃を先読みしていたかのようにアストレイアを屈ませて一撃を躱す。
ゴーレムに一撃を叩き込む機会である。
「システム起動!!」
アリエイルはSESエンハンサーを使用。
エネルギーがアイスバーグへと流れ込む。
「煌めけ光刃! 打ち砕きます‥‥その装甲ごと‥‥せぇぇぇっ!」
アイスバーグの刃がゴーレムの体を捉えて突き刺さる。
光の刃がゴーレムの体を焼いた後――爆発。アストレイアがゴーレムの断末魔とも言える爆風を浴びた。
「心配、無用でしょう?」
アリエイルは、ヴァイオンを安心させるかのような優しい口調で言った。
●
「もっと前に出す! シャッターチャンスを逃すなよ!」
興奮したクレイトンがジーザリオを運転しながら、カメラマンへ檄を飛ばす。
「おい、あんまり前に出るな! 戦闘に巻き込まれるぞ!」
ジーザリオを護衛していた獅子鷹も慌てて声を掛ける。
だが、クレイトンが退こうとする気配はない。
「君たちの戦いを、僕は伝えなければならないんだ!
この戦いで命を賭ける君たちの活躍を、間近で感じる事は伝える者としての使命なんだ!」
クレイトンは、叫ぶ。
傭兵達が戦うこの状況を余す所無くすべて伝えなければならない。
その使命感が、クレイトンに無茶な行動へと走らせる。
だが、この行為がジーザリオの眼前へとゴーレムを引き寄せる。
「‥‥ちっ、やるしかねぇか‥‥」
獅子鷹は、重傷の体を引き摺りながら覚悟を決める。
一発ぐらいゴーレムを叩きたかったという想いがあったのも事実だ。
だが、護衛対象がここまで無茶するというのは想定外。
傷が広がる事を覚悟の上でアストロフォーゼをゴーレムの前へと割り込ませる。
「くそっ! 今更反省文が増えたところで‥‥」
「竜牙、少し無茶するぞ」
レベッカの竜牙はいち早くジーザリオの元へ駆けつけると、CSP−1ガトリング砲をゴーレムに向かって放つ。
勢い良く放たれた銃弾がゴーレムの体へ突き刺さる。
堪らないとばかりに盾でガードしようとするゴーレムであったが、とても間に合わない。何発もの銃弾がゴーレムの体を穿つ。
その間に竜牙はゴーレムの至近距離まで接近している。
「オフェンス・アクセラレーター発動、一撃粉砕なのダー!」
機鎚「ギガース」へ持ち替えた竜牙は、渾身の力を持ってゴーレムの頭へと振り下ろす。
ブースターで加速された強力な一撃がゴーレムの頭部に炸裂。
頭部を拉げさせ、胸部にまでめり込んだ一撃は、確実にゴーレムの活動能力を破壊した。
「‥‥助けられちまうとは、な」
「礼は不要だ。
それより、クレイトン。戦闘の迫力は体感できたか? 出来たのなら、ここら辺りで退いてくれ」
クレイトンを窘めるレベッカ。
これ以上前へ出られては被害が出てもおかしくはない。
眼前でゴーレムの破壊を目にしたクレイトンも、その事は理解したようだ。
「すまない。だが、君たちのおかげで良い記事が書けそうだ」
そう言いながら、クレイトンはジーザリオをバックで後退させた。
「予定通り、逃走させる事に成功したようだ」
悪霊憑き(ゲシュペンスト)を駆る夜十字は、バグアを逃走させる事に成功した。
あとは逃げる方向を見極めて敵の目的地を掴むだけだ。少々ゴーレムの数が多い事は骨であったが、傭兵たちの連携もあって何とか成功させる事ができた。
「ふん、簡単に言いやがって」
夜十字の後ろでラリーがため息をつく。
突然夜十字から『背中は任せる』と言い残してゴーレムの群れに切り込んでいったのだ。ラリーは後方から慌てて援護射撃。夜十字の突撃を支援する事に必死だったようだ。
「お前、突撃するなら初めから言えよ」
「あれ、その割には楽しそうに見えたけど?」
ラリーと同じく後方からウーフー2のレーザーキャノンで支援していたセロリが茶化すように言った。
端から見ていれば、しっかりとした連携が取られているように見える。
長年のコンビにも似た連携は、セロリも驚かされたぐらいだ。
「俺はラリーを信用して背中を任せた。何か問題でもあるのか?」
真顔でそう言い放つ夜十字。
それに対してラリーは照れ笑いを必死で隠そうとしている。
「信頼って。
あのな、信頼されたらその分頑張らなきゃいけねぇじゃねぇか。慣れてないんだよ、そういうの‥‥」
――後日。
中国・広州軍区司令部発行の機関誌にジェッダで活躍した傭兵の様子が掲載された。
『‥‥ジェッダで交戦したUPC軍は、傭兵達の獅子奮迅なる活躍に勝利を収めた。彼らの命を賭けた戦いが、勝利を呼び込んだのである。なお、逃走したバグアはジェッダより南下。UPC軍によればアデン付近のバグア基地へ合流したと思われる。おそらく、最初からアデンへ合流するためのポイントがジェッダだったと思われる。
いずれにしても、傭兵達の戦いは更なる展開を迎える‥‥』