タイトル:【千葉】NRT攻略Aマスター:近藤豊

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/12/05 15:56

●オープニング本文


 千葉のUPC精鋭部隊は、東へ進軍。
 目的としていた成田空港跡バグア基地付近まで近づいていた。

 習志野で出会った松戸昏一郎とDr.エリア。
 彼らを追いかける形で進軍を続けてきたが、敵の抵抗を見る限り、決着の時は確実に近づいている。
「増援部隊は間に合ったようだ」
 ブラウ・バーフィールド(gz0376)軍曹は、安堵の息を漏らした。
 千葉内陸に巣くうバグアの主力が成田空港基地を防衛するため、迎撃部隊を組織。UPC精鋭部隊と交戦する形となった。このままでは成田空港基地攻略が難しくなるのではないか、と危惧されていた矢先に本部から増援部隊が到着したのだ。
 命令違反を犯した軍曹の処遇を預かった広州軍区司令部の李若思中佐が、増援を手配してくれたのだ。
 ちなみに李中佐から軍曹の処分について連絡はない。
 成田空港攻略が終わるまでには何らかの連絡があると思われるのだが‥‥。
「おかげでバグアの増援部隊を食い止める事ができそうだ。既に部隊の一部は成田空港からの歩兵部隊と交戦している。
 そこで諸君らの作戦は‥‥」
「敵主力部隊を叩く、よね?」
 机に広げられた地図を見ながら、アン・ジェリクは呟く。
 味方が敵増援部隊を叩いている隙に、成田空港基地の主力防衛部隊を攻撃。成田空港基地を早々に破壊してしまおうという訳だ。
「うむ。俺は現在交戦中の部隊で指揮を執る。
 敵主力部隊の交戦は、お前達に一任する事になる」
「分かっているわよ。
 傭兵だけで敵主力部隊を攻撃。あたしがオペレーターとなって各KVへ情報伝達でしょ?」
 今回、敵主力部隊への攻撃は傭兵だけで行う事になる。
 増援が到着してくれたが、UPC軍は少数精鋭。敵迎撃部隊へ対抗した場合、どうしても敵主力部隊の相手は傭兵が中心となる。
 もっとも、相手は習志野で出会った松戸。
 傭兵達とは因縁の対決となる。
「KVが足りぬのだ。すまん」
「構わないわよ。あたしはKVより白兵の方が好みだから、オペレーター役で手を打ってあげるわ。それに――本当に頑張るのは出撃するメンツの方でしょ」
 アンは椅子に座って地図を見つめる松田速雄へ視線を移す。
 今回、松田はゼカリアへ乗り込み遠距離から成田空港基地本体を砲撃する予定となっている。敵基地にはプロトン砲も確認されている事から、このプロトン砲を潰す事が急務となるだろう。
「‥‥いくぞ」
 松田は、立ち上がる。
 習志野から続く因縁を断ち切るために。


 一方、成田空港の基地では。
「や、こいつぁピンチだねぇ。二人揃ってゴーレムで出撃とはねぇ」
 松戸は顎髭を指で弄りながら、敵の進行状況を見つめていた。
 バグア側の増援部隊が到着した為、成田空港へ押しかけたUPC軍戦力を分散する事ができた。
 しかし、戦力比で言えば圧倒的にUPC軍が有利。
 千葉の内陸にバグア側の最新兵器が配備されていない。ましてや、不遇の立場へ追いやられている松戸へ増援があった事だけでも奇跡的な出来事なのだ。
「ですが、想定範囲内でしょう?」
 バグア基地技術責任者のDr.エリアは笑みを浮かべている。
 勝った事のない松戸にとって、このような展開は幾度となく経験している。
 そして、今回もまた――負け戦が始まろうとしているのだ。
「まあ、そういう事だ。
 もっとも、今回は生きて帰れる保証はないがねぇ」

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
鈴葉・シロウ(ga4772
27歳・♂・BM
緑川安則(ga4773
27歳・♂・BM
古河 甚五郎(ga6412
27歳・♂・BM
錦織・長郎(ga8268
35歳・♂・DF
エリアノーラ・カーゾン(ga9802
21歳・♀・GD
美紅・ラング(gb9880
13歳・♀・JG
ドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751
18歳・♂・DF

●リプレイ本文

 眼下に広がる光景に、異質な存在がある。
 山間に陣を広げるは、成田空港基地に攻め入るUPC軍。
 このバグアの基地を叩く為に集まった敵陣を前に、松戸昏一郎とDr.エリアは満足そうに見つめていた。
「や、こいつぁ壮大だね」
 バグアとUPC軍の戦力差は強大。
 撤退路も存在しない松戸にとって、この成田空港基地が最後の砦となる。
「できる事なら、部下を逃がしてやりてぇんだけど‥‥」
「それは無理ですね」
 Dr.エリアは、遠くを見つめたまま呟いた。
 信じて付いてきてくれた部下を、生きて成田を脱出させたいという指揮官としての想いがある。
 しかし、UPC軍がバグアを見逃すはずがない。
「やっぱりダメか」
「ええ、ダメですね」
 寂しそうな松戸に対して、変わらぬ表情のままDr.エリアは答える。
 絶望と意地が入り交じった風は、成田空港基地からUPC軍陣地へと向かって吹き始めた。


「さぁ――始めようか、この戦いの最終回を。
 みんな、頼んだよ!」
 オペレーター役に回ったアン・ジェリクが各機に開戦を宣言する。
 習志野から始まった松戸との戦いを、この成田空港基地で終わらせる。それがUPC軍、そして傭兵達の想いでもある。
「まずは、厄介な地雷を何とかしないとね」
 UPC軍後方から颯爽と飛び出したシュテルン・G
 航空形態で一直線に成田空港基地へと突き進む。
 エリアノーラ・カーゾン(ga9802)の空飛ぶ剣山号だ。
「じゃあ、行くよっ!」
 エリアノーラは、成田空港基地へ並ぶゴーレムの前面に向けてフレア弾を投下。
 ゴーレム達の前にいくつかの火の手が上がる。
 そして、地面を抉るように連続爆発が発生していく。
「彼ら、地雷の破壊を優先しているようですね」
 ゴーレムに乗るDr.エリアは冷静に状況を分析する。
 この戦いでUPC軍にとって厄介なものは傭兵とゴーレムの間に設置された地雷原の存在だ。
 傭兵達にとっても進軍に邪魔な地雷原は排除したい。
 そこで派手に地雷を破壊する事にしたという訳だ。
「なるほどぇ。なら、こっちも厄介な奴を排除するとするかね。
 ゴーレム4機は地雷原を迂回、後方の戦車さんに退場していただこう」
 エリアノーラの攻撃を受け、バグア達も行動を起こす。
 バグア側の防衛戦力として稼働しているプロトン砲を遠距離砲撃で破壊する動きを察知していた松戸。このプロトン砲を失えば、バグアの防衛戦力は大幅に減る。そこで先にプロトン砲を攻撃するゼカリア改を排除しようという訳だ。
 各陣営が厄介者を排除に動き出す。
 しかし、戦場には戦乱を動かす者が必ず存在する。
「ええい、天の人型は燃費が悪い〜。一気に行くぞ〜!」
 ドクター・ウェスト(ga0241)は、天で出撃。人型の浮上走行で地雷原を回避していく。事前情報で旧式の地雷が設置されている事を掴んでいたため、プロトン砲の砲撃さえ避ければゴーレムへ接近する事は可能である。
「ありゃ、こいつぁやばいねぇ」
「大丈夫。こちらはお任せください」
 天の存在を懸念した松戸より先に、Dr.エリアが天に向かって動き出す。
 ウェストも接近するゴーレムの存在に気付き、ブーステッドソードを構えた。
「おお、君は地雷原を恐れないのかね〜。もしかして珪素生物を取り込んだバグアなのかもしれないね〜」
「おや、君も技術者という訳ですか。技術者が前線で戦闘とは‥‥らしくないですね」
 ブーステッドソードと強化サーベルが激しく擦れ、火花を散らす。
 専門は異なれど、お互い技術者という立場から戦闘相手に着目する。
 相手の行動を観察・考察しながら敵と交戦する二人。
 火花は次第に大きくなっていく。

 さらに、戦場を突き動かす存在がもう一人。
「こちらも負けじと参りますっ!」
 鈴葉・シロウ(ga4772)の飛熊から放たれた高出力レーザー砲「種子島」の一撃。
 巨大なエネルギーは戦場を真っ二つに引き裂くように放たれ、地雷原の地面もろとも引き剥がす。
「アンさん、種子島の通過箇所に地雷原はありません。
 敵陣への架け橋、確かに架けさせていただきました」
 シロウはオペレータ役のアンへ報告を入れる。
 この種子島の通過した場所には地雷原が存在しない。つまり、傭兵前衛部隊の突撃ルートが完成した事を意味している。
「聞こえたわね? 前衛部隊、出番よっ!」
「了解した。私は‥‥松戸の首を取る!」
 緑川安則(ga4773)の雷火龍が機盾「バックス」を片手に種子島が作ったルートを突き進む。
 目指す先は――松戸昏一郎の首、一つ。
「楯を構えて前進するのは鬼の四機の得意技なんだろうが、こっちも重装甲の雷電なんでな。これしかできんのだよ」
「張り切っているねぇ。だけど、張り切りすぎると、ロクな目に会わないよっと!」
 接近する雷火龍に強化サーベルを振り下ろす松戸。
 緑川はバックスでこの攻撃を受け止める。
「松戸。習志野からの因縁、ここで終わらせてやる」
 長く続いた因縁を断ち切らんとする緑川にとって、この成田は決戦の地。
 一歩も退く気はない。
 一方、松戸としても退路を失っている以上、前へ進む他ない。
「習志野の時に居た兄さんかい。いいねぇ、やってみなよ」
 人類とバグア。
 執念と意地が、成田空港で激突する。


「なかなか派手にやってくれますねぇ」
 飄々とした口調で戦況を見守る古河 甚五郎(ga6412)。
 しかし、この口調とは裏腹に、戦況全体の把握に注力している。
 フレアと種子島の一撃で地雷の存在しない地帯を築いたものの、それは特定の場所に他ならない。広い戦場にはまだ地雷が存在している。
 古河は未だ地中で獲物を待つ地雷の存在を探査していた。
「プロトン砲といい、地雷といい‥‥厄介物だらけですねぇ。
 あ、そういえばもう一つ厄介物がありましたねぇ」
 古河は前方に向けて十式高性能長距離バルカン。
 銃口の遙か先には、地雷を破壊しながら迫ってくる2体のゴーレム。
 プロトン砲を破壊するゼカリアを狙って動き出したものだが、このまま進ませる訳にはいかない。
「こちらを誘引せずに、ゼカリアを狙って前進ですかい」
 十式高性能長距離バルカンがゴーレムを射程内に捉えたと同時に火を噴く。
 打ち出される弾丸。数発がゴーレムの機体にヒット。
 慌ててゴーレムは盾を構える。
「いけませんねぇ。乗らず臆さず敵の戦力を無力化しないといけませんよ」
 古河はG−44グレネードランチャーを撃ち込んだ。
 地面と地雷と共に、ゴーレムにも一気にダメージを与えようという作戦だ。
 この狙いは見事に辺り、地面から火柱が上がる。
 ゴーレムにも打撃を与える事ができたようだ。
「それに叩くなら徹底的に、ですよね」
 古河の攻撃に呼応するかのように、シロウは強化型ショルダーキャノンを発射。
 着弾地点付近の地雷、そして手負いのゴーレムを巻き込んで派手な爆発を引き起こした。
「お手伝い、感謝しますよ」
「いえ。それより、砲台を破壊しましょう。
 ゼカリアを狙うゴーレムの存在で、予定よりも作戦進行が遅れています」
 シロウは第一目標をプロトン砲に据えていた。
 厄介なプロトン砲を破壊すれば、後はゴーレムの処理となる。
 しかし、敵側がゴーレムを狙ってきた事から一時的にゴーレムの排除に回っていたようだ。
「そうですねぇ。裏方の仕事はきっちりさせていただきますかね」
 古河もプロトン砲破壊に動き出す。
 戦乱は確実に終着点へと向かい始めていた。


「ゴーレムは美紅の好物。晩飯にちょうどいい、腹も減っているしなのである」
 美紅・ラング(gb9880)の天目一個は、緑川同様種子島で築いた進行ルートで敵陣へ突入していた。
 獲物を捕らえた美紅はストームブーストAで一気に肉薄。
 ゴーレムが強化サーベルを構えるよりも早く、バーストアグレッシヴファングを発動。 釈迦掌をゴーレムの腹部へと叩き込んだ。
 強烈な一撃は、ゴーレムを後方へと吹き飛ばし、先制攻撃に成功する。
「お前ら全員ぶちらばーす。さあ、死にたい奴から前に出るのである」
 猫背気味の特徴的なシルエット、重榴弾砲と抜き手武装のみという男らしい装備となったKVこそが美紅の意志を体現している。
 心ゆくまでゴーレムと超至近距離での戦闘を楽しむつもりなのだろう。
 一方、ドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751)は遠距離でゴーレムの戦闘に挑んでいた。
「それっ!」
 DC−77クロスマシンガンで離れたゴーレムへ確実に弾丸を叩き込んでいく。
 アサルトフォーミュラAとレーザーガン「フィロソフィー」で地雷設置外から遠距離攻撃を加えてダメージを与え続けていたが、敵陣の乗り込むチャンスと察知した事から徐々に距離を詰めていた。
「ドゥ、後ろだっ!」 
 美紅が叫ぶ。
 先程美紅が吹き飛ばした手負いのゴーレムがヤフーリヴァの背後にまで迫っていた。
 その声に反応したヤフーリヴァは、アサルトフォーミュラAとアグレッシブトルネード改を発動する。
「柳の双刃による鈴羽の狂舞‥‥凌げると思うな!」
 接近するゴーレムへ振り下ろされる真ツインブレイドの攻撃。
 双刃がゴーレムの体に傷を刻み込み、ゴーレムを地面へ引き倒す。
 そして、爆発。
「やるな、ドゥ。だが、残りの獲物は美紅のものである」
 美紅は新たな獲物を求めて探し始める。


「邪魔よっ!」
 エリアノーラの機槍「グングニル」が、ゴーレムを串刺しにする。
 爆撃後、ゼカリア改へ向かっていたゴーレムを撃退している。迫るゴーレムをエリアノーラの空飛ぶ剣山号が撃退していく。
「で。プロトン砲、そろそろ何とかしてもらえる?」
「くっくっくっ‥‥焦ってはいけません。敵の心を折るタイミングというのがあるのです」
 錦織・長郎(ga8268)は肩を竦めて見せる。
 警視庁警備部第四機動隊の松田速雄と共に、プロトン砲の破壊を試みる最中である。
 錦織は、射線上に存在していたゴーレムは障害物をア・シルバー・オヴ・スネークのスナイパーライフルD−02で排除。松田も味方へ砲撃支援を行いながら、プロトン砲に対する攻撃へ集中し始める。
「久しぶりに一緒の依頼になったと思えば、共同作業とは少々驚きます」
「‥‥‥‥」
 錦織の言葉に、松田は沈黙で応える。
 錦織は松田と何度か依頼を共に遂行している。その間に松田という人間は必要以上に言葉を発さない存在だと気付く。
 おそらく、そのように『躾けられて』きたのだろう。
 優秀な機動隊員は、言葉よりも行動で示す事を要求されるからだ。
 そして、同じ事を松田は錦織に求めている事も理解している。
「では、松田君。いきます。一撃で仕留めて下さい」
「‥‥ああ」
 松田は420mm大口径滑腔砲、錦織はスナイパーライフルD−02の照準をプロトン砲へ合わせる。
 そして、息を長く吐き出した後――二人の意識が最高潮に達する。
「‥‥‥‥!」
 二人は同時に攻撃。
 放たれた攻撃はプロトン砲へと突き刺さり、爆発。
 激しい炎に包まれる。
 バグア側で厄介な存在は、沈黙。残るはゴーレムの始末だけとなった。
「さすが、鬼の四機。下された命令は忠実にこなしてくれます」
 嫌味を込めながら錦織は松田のゼカリアへ視線を送る。
 おそらく、松田はその言葉に動じる事はない。
 その予想を証明するかのように、松田は一言だけ返答する。
「‥‥当然だ」


 戦乱は間もなく終わりを告げる。
 それはバグア側の敗北が近づく事を意味している。
「けっひゃひゃ、そこですね〜」
 ウェストのブーステッドソードがDr.エリアが操縦するゴーレムの胸部へ深く突き刺さる。
 一瞬の隙を突いた攻撃が、ウェストへ軍配を上げる。
「ま、松戸‥‥すいません」
 操縦席も激しく損傷、自らに後がない事を察知したDr.エリアは松戸へ最期の通信を入れる。
「別れは言うわねぇ。先に逝って待っていてくれ」
「ええ‥‥涅槃で待って‥‥ます」
 次の瞬間、Dr.エリアのゴーレムは爆発。
 跡形もなく吹き飛んだ。
 残るは指揮官、松戸昏一郎のみ。
「松戸、負け戦っていうのは辛い。それはよく分かる」
 刃を交えながら、緑川は松戸へ理解を示す。
 緑川だって、敗北が続いていた。
 習志野を奪われ、部隊は一度北海道で全滅している。
 それでも、緑川はすべてを取り戻すために松戸と対峙している。
「死を覚悟した兵士は一番厄介だ。今のお前さんの気迫はそう感じるぜ」
「そんな大層な気迫、持った記憶はないんだがねぇ。だけど、そうも言ってられないようだ」
 ゴーレムの強化サーベルを振り下ろす松戸。
 機盾「バックス」で受け止める緑川。
 意を決して勝負を挑む。サーベルをはじき返して盾を捨てた後、超伝導アクチュエータを発動した雷火龍は接近。ハイ・ディフェンダーを下から振り上げた。
「くっ!」
 避けきれない松戸は、サーベルを握っていた右腕を切り落とされる。
 更なる一撃加えんと緑川は接近する。
「緑川って言ったっけ? ‥‥悪いな」
 松戸は、接近する緑川を待っていた。
 残った左腕を雷火龍へ伸ばす。
 その場から逃がさないようにするための腕。
 それは松戸が次の攻撃が『自爆』である事を意味していた。
 ――しかし。
「負け戦を嫌うお前が最期に取る手段は、両者相打ちのドローってところだろうが、そうはさせん!」
 松戸との戦いの中、性格を見切っていた緑川。
 操縦席付近に目掛けてハイ・ディフェンダーを突き立てる。
 体を掴む事を先読みしていたのだ。
「ぐわっ!」
「終わりだ、松戸」
「‥‥み、みたいだな‥‥やっぱり今回も負け戦か‥‥」
 悔しさ交じりの言葉を吐き出す松戸。
 だが、その言葉に無念さは感じられない。
「緑川‥‥聞いておきたいんだけどよ」
「なんだ?」
「お前にとって‥‥この戦いで得た勝利は‥‥どんな価値があるんだ?」
 松戸はそう問いかけた。
 だが、緑川が答える前にゴーレムは爆発。
 松戸の勝ち負けに対する執念も永遠に失われてしまった。
「この戦の勝利の価値‥‥それは後の世の人間が決めればいい事だ。
 私が判断する必要はない」
 緑川は松戸が居た空間を黙って見つめていた。


「なんだとっ!」
 広州軍区司令部の李若思中佐からの通信に対して軍曹は声を張り上げる。
 印旛沼で起こした命令違反に対し、李は軍曹を『広州軍区教導大隊への異動』という形で決着を付けた。つまり、軍曹を元の新兵教育教官へ戻すという事だ。
「本当か?」
「勘違いしないで欲しいわ。あたしは必要だからあんたを戻しただけよ」
 以前は、前線へ派遣して部隊指揮を行うという考えもあった。
 しかし、UPC軍連勝の裏では多くの一般兵士が犠牲となっている現実もある。
「戦力の早期投入は急務なの。理解しているわよね?」
「ああ」
 寂しそうに呟く軍曹。
 インド北部のデリー、オセアニア。
 このアジアだけでも激戦は終わらない。
 我々は――戦場で倒れていった者達の存在を忘れてはならない。