タイトル:マグロと薔薇の輪舞曲マスター:近藤豊

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/06/09 09:09

●オープニング本文


「ええぃ、何故にゃー! 何故なんだにゃー!」
 タッチーナバルデス三世(gz0470)は、ちゃぶ台を怒りに任せて思い切り叩いた。
 テーブルの上にあった緑茶が煎餅の上に溢れ、煎餅は一気に水分を吸収していく。
「朕の作戦が失敗するかが問題なんだにゃー!
 完璧なボディと放たれるフェロモン、さらにカリスマ性を兼ね備えた完璧超人。
 それが朕‥‥おおぅ、我ながらあまりの格好良さに気を失いそうになったにゃー」
 立ち上がろうとした瞬間、頭を抑えて屈み込むタッチーナ。
 それってただの立ちくらみなんじゃ‥‥。
「否、これは朕の光輝く肉体が引き起こした奇跡。
 そんな事より予定では、傭兵達は紙オムツ装着で朕の近衛兵として活躍しているはず。
 なのに、何故朕の前には緑茶がかかって食べ頃になった煎餅があるだけ。
 絶対におかしいにゃー!」
 確かに立ちくらみもタッチーナの肉体が引き起こした事だから間違ってはいない。
 タッチーナはM属性に加えて厨二病まで発症してしまったのだろうか。
「誰が厨二病だにゃー。
 この頭脳明晰な名軍師にして、第三の目である魔眼を開いた朕を痛い子扱いするのは良くねぇにゃー。朕が怒りを抱えて封印を解き放てば、ハムの特売日にだけ通常の三倍のスピードで安眠する事が‥‥」
 失礼。こいつが厨二病な訳ないです。
 もっと酷いものを発症しているようです。
「と、とにかく!
 朕は何かとコラボレートしてパワーアップするにゃー!
 ‥‥ノープランだけど」


 香港――某植物園。
 UPC軍広州軍区に所属していた軍人が眠る墓地から程近い場所にある植物園は、都市の雑音から切り離され、閑散とした場所にあった。
 葉は朝露に濡れ、新鮮な空気が植物園全体を包み込む。
 太陽が地平線から生まれ、木々に新たなる光を分け与える。
 
 そんな厳粛な場所に――馬鹿は堂々とやってきた。
 それも、空気も読まずに。

「にゃーはっはっはっ!
 朕に足りなかったのはこの薔薇。沸き上がる朕のフェロモンに加え、この赤い薔薇を紙オムツにさせば妖艶さもアップ。これで何処に出しても恥ずかしくない最強の紳士が爆誕だにゃー」
 静かな公園に響き渡るタッチーナの声。
 雰囲気も台無しだが、せっかくの薔薇がタッチーナの紙オムツに刺されるなんて薔薇の方は無念だろう。
「さて、早速この薔薇を手折って‥‥って、あれ?
 この薔薇、なかなか折れないにゃー」
 薔薇の棘に悪戦苦闘しながら、薔薇を折ろうとするタッチーナ。
 幾ら弱いといっても、薔薇の茎も折れない程弱体化しているのであろうか。
「朕の手を患わせるとは、恐れ多い薔薇めっ!
 こうなったら、マグロの皆さーん!」
 一人ではどうにも出来ないと気付いたタッチーナは、護衛役であったマグロ型キメラを呼び寄せる。
 マグロの体におっさんの手足を生やしたキメラだが、タッチーナには従順なキメラなんです。
「さ、この薔薇を‥‥あれ? 薔薇が勝手に朕の周りを回り始めたにゃー。
 ‥‥もしかして、この展開は‥‥」
 気付けば薔薇のツタはタッチーナの体を捕まえるように回り始める。
 さすがに馬鹿のタッチーナでも、この薔薇が普通の薔薇でなかった事に気付いたようだ。


「‥‥ん? なんだよ、騒がしいな」
 ラリー・デントン(gz0383)は、ベンチで横たえていた体を起き上がらせた。
 普段は静かな場所で、酒に酔って帰れなくなった時には別荘代わりに使っている。いつもなら昼ぐらいまで静かな植物園なのだが、今日に限ってやたら騒がしい。
 眠い目を擦りながら騒がしい場所へ足を向ける。
「おい、朝から騒がしい‥‥」
 そう言い掛けたラリーだったが、目の前の光景に唖然とした。
 中央に大きなある薔薇の花が、自分の蔓を使って数体のマグロを捕縛。空中に持ち上げて自由を奪っている。仲間を奪還すべく地上では手足を生やしたマグロが銛で迎撃しているのだが、薔薇のツタに太刀打ちできない。
 薔薇とマグロの戦い。
 夢ならさっさと醒めて欲しい悪夢の光景だ。
「なんだ、こりゃ?
 もしかして、キメラか?」
 首を傾げながらも、キメラを警戒するラリー。
 薔薇の上では体の自由を奪われたタッチーナが悶え苦しんでいる。
「にゃー! 朕のフェロモンが薔薇をこんな風に変えてしまうとは‥‥。
 まさか、朕にはキメラ合体の才能が?
 それより、さっきから朕のタンクに限界が‥‥。否、紳士である以上、人前でそんな真似は‥‥」

●参加者一覧

メアリー・エッセンバル(ga0194
28歳・♀・GP
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
正木・らいむ(gb6252
12歳・♀・FC
未名月 璃々(gb9751
16歳・♀・ER
雁久良 霧依(gc7839
21歳・♀・ST
エルレーン(gc8086
17歳・♀・EL

●リプレイ本文

 東の空から姿を現した太陽と共にやってきた、生まれたばかりの朝。
 清々しい空気が満ち溢れ、地球の生物に活動開始時間を知らせている。太陽の光は、眩しさと同時に心地良い温かみを降り注いでくれる。
 
 素晴らしい朝。
 この最高の時間を過ごせる事に感謝を‥‥。

「こらっ! 訳の分からん事をポエミーに語ってないで朕を助けるにゃー!」
 タッチーナ・バルデス三世(gz0470)の、悲鳴にも似た叫びが木霊する。
 お約束も無視した登場だが、今回は謎の巨大植物に捕縛され、蔓に巻き取られる形で宙吊りにされている。大の字で吊されるプレイなのだろうか。
「そんな訳ねぇにゃー!
 こいつはおそらく視聴率低迷に喘ぐ奴らが投入した悲劇の怪物。得意技は先制ダブルオリーブです」
 タッチーナを捉えて離さない怪物とは、この香港の植物園に現れた巨大な薔薇である。意志を持ち、近づく者を蔓で巻き取り締め上げている。
 どう考えてもバグアが産み出したキメラなのだが、アフリカの地平線並みに果てしないバカには理解できないようだ。
「ええぃ! そろそろ朕がピッチに上がってゲームを組み立てる時間だにゃー!
 マグロの皆さん、早く朕を助けてーっ!」
 意味不明な言葉を発するタッチーナ。
 それに応えようと、暴れる薔薇からタッチーナ奪還を目指すマグロ型キメラ。
 次々と薔薇に捕まっていくが、マグロは集団で薔薇に挑んでいく。
「なんだ、これ」
 マグロと薔薇が織り成すハーモニー――否、悪夢を前にラリー・デントン(gz0383)は、呆然としていた。
 昨晩は歓楽街で浴びる程、酒を飲み、早々にボロアパートへの帰宅を断念。別宅として利用していた植物園の芝生をベットに眠っていた。
 だが、目覚めて見れば、この惨状。
 夢なら早く醒めてくれ、と願うラリー。安心しろ、既に目は醒めている。すべては馬鹿が引き起こした状況に過ぎない。
「薔薇とマグロと変態‥‥まあ、よくあるカオスだな」
 異様とも言える光景を、龍深城・我斬(ga8283)はカオスの一言で表現した。
 タッチーナのマグロ型キメラは気色悪い上に酢味噌の体臭を放っているが、酒を飲ませればマグロとしては絶品。それを目当てにマグロ退治を行ってきた我斬だが、毎回異様な光景を目撃してきたせいなのか、既にこのような状況を見慣れてきているようだ。
「お前‥‥絶対にやばいぞ」
「おや、いつぞやのおっちゃん。久しぶり」
 ラリーの呼びかけを、我斬はあっさりとスルー。
「おおっ、たっちーなよ! ここで会ったがひゃくこうねん!
 今日こそはそなたから『そーせーじ』をもらい受けるゆえ、かくごいたすのじゃ!」
 捕縛されるタッチーナを正木・らいむ(gb6252)は、指差した。
 今回こそ、ソーセージをゲットするとやる気満々だ。
「‥‥げぇ! 傭兵じゃとぉ!? このクソ忙しい時に!」
 らいむの呼びかけでタッチーナは傭兵達の存在に気付いた。
 自由を奪われ危機的状況を迎えている中で傭兵と遭遇。タッチーナにとって最悪なタイミングと言えるだろう。
「うふ、かれーまにあさん。こんなところにいたんだぁ‥‥」
 怪しい笑みを溢すエルレーン(gc8086)。
 タッチーナの尻にドライブシュートを決め続ける事に執念を燃やしてきた。既にタッチーナの尻を蹴り上げるスポーツがあるのであれば、国の代表を要請されるクラスになっている。
「またタッチーナちゃんで遊べるのね‥‥楽しみ」
 エルレーンとはまた別の怪しい雰囲気の雁久良 霧依(gc7839)。
 快楽主義者にして博愛主義者を自称する霧依。ビキニの上に白衣を着用するという思春期の男子中高生には刺激が強すぎる姿で登場だ。
「‥‥あれ? なんかやばい展開になりつつあるにゃー‥‥」
 馬鹿のタッチーナでも、一部の傭兵がタッチーナへ投げかける視線に危険なものがある事を察知したようだ。
 空気を読めるようになっただけでも成長したのかもしれない。
「此方はリポーター兼カメラマンの未名月です。
 香港の植物園にキメラが出現した模様。捕らわれているのはアイドルっぽいバルデス三世さんです」
 カメラをズームさせ、未名月 璃々(gb9751)はタッチーナの恥ずかしい姿を撮影し続けている。
 一体、タッチーナのどの辺りがアイドルっぽいのかは分からない。
 タッチーナにアイドル的要素があるとは思えないのだが‥‥。
「彼を巡るエルレーンさんと雁久良さんの愛憎劇。香港の地には愛の薔薇が咲く、お見逃しなく!」
 現状況に対してドラマ風な煽りを入れる未名月。
 おそらく、その煽りは事態をより悪化させる事にしかならない。事実、エルレーンはどのようにタッチーナの尻に蹴りを放つべきかシミュレーションを始め、霧依に至ってはこれから起こるであろう状況を妄想して小刻みに体を震わせている。
「ふむ。朕の魅力に心を奪われて格好良い写真を撮っていると見た。写真集の発売を許可してやるので、早く助けるにゃー!」
「そうですね。確かにタッチーナさんをこのままにしておく訳にはいきません」
「そうじゃろ? だから、早くこの薔薇を‥‥」
 未名月は、手を前に出してタッチーナの言葉を遮った。
「‥‥だが、断る!」
「なんじゃと!?」
「私、カメラマンなので戦闘できませんし。
 あ、危なくなったらデントンさんが盾になってくれますから」
 未名月はそれだけ言うと、ラリーの背後に隠れた。
 
 静かだった植物園は、多くの者が現れて騒がしさが増していく。
 静寂は破られ、植物達は騒音の中でも風に揺られている。
 ここで戦闘すれば、植物達にも被害が及ぶかもしれない。

 そう――この戦いにおいて、たった一人で心に正義の炎を滾らせる者が居た。
「一片たりとも残すもんですか。この庭園の花達の命は‥‥守りきってみせる!!」
 握り拳を作って決意表明するのは、本業庭師で趣味がマグロのメアリー・エッセンバル(ga0194)。
 趣味がマグロという点が引っかかるが、今回は本業である庭師として花達を守るべく立ち上がった。まさか、タッチーナ絡みの依頼でそこまで頑張ろうとする傭兵がいるとは‥‥。
「あ、璃々さーん。写真を撮るなら薔薇達の姿も撮っておいてあげてくれる?
 この時期、最高に綺麗なのよね」
 表情が一変して笑顔を浮かべるメアリー。
 真面目に依頼へ取り組むように見せかけ、ちゃっかり薔薇の写真も欲しいという願望は捨てられないようだ。


「はいはい、忙しそうなところ悪いけど、酒飲んで酔っ払ってねー」
 我斬は、マグロの背後に回り込み、手慣れた手付きでマグロの口にスブロフを流し込む。
 既に何度もやってきた行為。
 迷う必要もない上、この後どうするべきかも熟知している。
「あー、酔っぱらっちゃったねー。
 それじゃ‥‥」
 千鳥足でフラつくマグロの後頭部をアーミーナイフの柄で小突いた。
 アルコール度数の高い酒を飲まされた後、後頭部への衝撃はマグロの意識を喪失さける。
 我斬に限らず、マグロの始末は傭兵達も経験済み。各々、酒を飲ませて手早く片づけているようだ。
「お前、手慣れているな」
 アサルトライフルで周囲のマグロを片付けるラリー。
 ラリーもマグロと関わる事が多い方だが、我斬のようにうまく処理する自信はない。
「よしっ。後は安全圏へ持って行って捌くだけだ。
 ‥‥あ、薔薇に捕まっている奴も捕まえるか。建前では薔薇退治が目標になっているし。
 おっさん、このマグロをよろしくっ!」
 いや、薔薇だけじゃなく、マグロも目標なんですが‥‥。



「ば、薔薇のキメラ!?
 はぁぅ、キメラでさえも‥‥かれーまにあさんにご執心なの?」
 巨大な薔薇型キメラを前に、エルレーンはその身を震わせた。
 タッチーナを捉えて離さない薔薇を、エルレーンはストーカー認定していた。
「この薔薇、ちょっと剪定が必要ね」
 荒れ狂う蔓の前に、メアリーはエーデルワイスを構えた。
 棘を持つ蔓である事から負傷の可能性はあるものの、致命傷を受ける事はまずないだろう。
(私は‥‥女である前に、庭師‥‥。あの薔薇を剪定するのは、私の役目)
 自分へ言い聞かせるように心の中で呟く。
 覚悟を決めて前へ出ようとするメアリー。
 だが、その前に思わぬ人物が前に出る。
「仲間を攻撃する事は許さないわ。私がみんなの盾となる」
 霧依は白衣を脱いで、水着姿のまま薔薇へと近づいていく。
 薔薇の攻撃を一身に受けるつもりのようだ。
「霧依さん、ダメっ! 危険‥‥」

 ――バシッ!

 蔓は鞭となって、霧依の白い肌を痛打した。
 攻撃を受けた箇所は赤く腫れ、棘で傷が出来上がる。
 白い地に赤い線。
 その傷を見つめ続ける霧依。
「‥‥いい」
「え?」
 震える声で漏れ出した霧依の独り言を、メアリーは聞き逃さなかった。
「オゥ! オゥ! ‥‥いいっ、すごくっ!」
 汗ばんだ体をくねらせて色っぽい声を上げる霧依。
 薔薇は打撃では効果ないと考え、霧依の体に蔓を巻き付けて締め上げる。
「ああ、今度は締められちゃう!
 ‥‥棘が、食い込んでっ‥‥らめぇ‥‥」
 仲間の為に盾となる、とカッコ良い前で出たが、実際は蔓の攻撃で己の欲望を満たそうという裏があった事は間違いないようだ。
「みんな‥‥今のうちに、攻撃よ‥‥アゥ!」
「‥‥‥‥」
 霧依の行動に呆然とするメアリー。
 その間に、らいむが行動を起こす。
「それ、いくのじゃっ!」
 迅雷で間合いを詰めたらいむは、薔薇の茎にハミングバードを突き立てる。
 この瞬間、傭兵達は攻撃のチャンスである事に気付く。
「きれいな薔薇にはご用心‥‥てねっ!」
 魔剣「デビルズT」で蔓を払いのけるエルレーン。
 その脇をメアリーが薔薇の根元へ向かって走り抜ける。
「また、綺麗な花を咲かせるよう‥‥土へ還りなさい!」
 エーデルワイスの一撃は、薔薇の太い根元へ炸裂。
 薔薇の巨体を支えきれず、バランスは大きく崩れた。
「相手が植物って事で、わざわざチェーンソーまで用意するとか、俺ってマジ真面目」
 仲間の支援に戻ってきた我斬は、【OR】ギアーズ【M:GoW01】の銃身下部に付けられたチェーンソーで反対側の茎を切り裂いた。
 緑の体を掻き毟り、轟音と共に地面へ倒れる薔薇。
 その美しい顔に向けて我斬は銃身を向ける。
「こいつも飽きたな。つまらねぇから終わらせてもらう」
 【OR】ギアーズ【M:GoW01】から放たれた貫通弾は、薔薇の顔面へ直撃。
 花弁は、派手に散った。


「気分は如何でしょう?」
 縛り上げられたタッチーナへマイクを向ける未名月。
 地面には薔薇の蔓で縛り上げられるタッチーナが転がっている。
 傭兵達はラリーと我斬が準備した焼いたマグロを堪能している。付近の屋台に持ち込んだのだが、味付けも絶品。霧依の発泡酒との相性も抜群のようだ。
「恋愛運と仕事運は星二つじゃが、金運は星は星五つってところかにゃー。
 やった、朕は今日ラッキーボーイだにゃー」
 気分を聞いたのに、自分を占うタッチーナ。
 ラッキーな根拠は皆無なのだが、こいつが幸せなら好きにすればいい。
「でも、健康運は星がないみたいですわね。‥‥ほら」
 発泡酒を口にしながら、霧依はタッチーナの下腹部を踏みつける。
「ぎにゃー! 今、下腹部はダメぇ!」
「我慢して、我慢して‥‥それでもダメで‥‥でも、それが何ともいえずに快感なのよね」
 薔薇で負傷した体を敢えて治療せず、タッチーナの悲鳴を聞いて体を震わせる霧依。
 どうやら霧依はタッチーナの体に異変が起こっている事に気付いたようだ。
 Mっ毛の次にSっ毛も発動しそうな雰囲気に、周りは一瞬気圧される。
「かれーまにあさん‥‥こんなのできもちよくなっちゃうの? へんたいだ!」
 危ない方向にトランスし始めるエルレーン。
 霧依の責めに何か感じる物があったのだろうか。
「あは! あはは! ほぅら、お待ちかねの時間だよぅ!
 これでしょ!? これが欲しかったんでしょ、あはははは!」
 エルレーンにとってお待ちかねのケツを蹴る時間の到来だ。
 タッチーナを裏返し、エルレーンは片足を思い切り振り上げる。
「まつのじゃ! 今日のたっちーなは何も悪いことはしておらぬ。いじめるのはかわいそうなのじゃ」
 タッチーナに思わぬ救世主。
 なんと、らいむがタッチーナを庇ったのだ。
 こんな馬鹿でも強化人間なので恨む奴もいるのだが、確かに今回は悪さをしていない。だって、悪さをする前に失敗しているんだから。
「朕を助けてくれるのかにゃー?」
「そうじゃ。だから、そーせーじをよこすのじゃ」
 らいむは堂々とタッチーナのソーセージを要求する。
 なお、タッチーナのソーセージはタッチーナにとって唯一無二の存在。それを奪われたら第三の性を目指すしかなくなってしまう。
「それはダメだにゃー!
 朕のソーセージはナンバー1じゃねぇが、元々特別なオンリー1なんだにゃー!」
 縛られたまた走り出すタッチーナ。
 しかし、何故か内股走りでスピードは出ない。おまけに顔面は涙と涎と鼻水で満載。だ「にがさないのじゃ! 早く、そーせーじを!」
 逃げるタッチーナを、らいむは迅雷で追いかける。
 今日こそ、ソーセージをゲットするために。
 しかし、タッチーナのその行く手を、エルレーンが阻む。
「さぁ、今日の尻キックターイム!」
 素早くサイドに回り込み、足を振り上げるエルレーン。
 慌てて蹴りを躱そうとするタッチーナ。
 不幸な出来事はここで発生する。
「‥‥あ」
 エルレーンの蹴りは尻ではなく、タッチーナの下腹部に炸裂したのだ。
 予定と違う場所を蹴り上げて焦るエルレーン。
 次の瞬間、タッチーナは膝から崩れ落ちる。
「今の衝撃で‥‥間に合わなかったにゃー‥‥」
 そのまま俯せで地面に倒れ込む。
 涙を流し、起こってしまった悲劇に絶望しているようだ。
「おう‥‥?
 な、何故ないておるのか‥‥?」
 突然泣き出したタッチーナに、らいむは問いかける。
「朕は‥‥汚れてしまったにゃー‥‥。
 紳士の朕は‥‥漏らしては‥‥ダメなのに‥‥」
「あ、かれーまにあさんが漏らしてる!」
 エルレーンの言葉を受けてタッチーナを見れば、紙オムツからじんわりと漏れる液体。
 紙オムツでも処理しきれなかった量のため、脇から漏れ出したようだ。
 らいむとエルレーンは、思わず後退った。
 
「ま、あいつは放っておきましょ。
 ‥‥あ、この赤身の味付けは、ちょっと良いかも」
 タッチーナが庭園内で用を足そうとすれば烈火の如く怒るが、それをしなければギリギリまでマグロ料理を楽しもうというメアリー。
「だろ? 作ってくれた屋台の親父もマグロそのものがいいって言ってたぞ。
 あの馬鹿は‥‥あとでUPCにでも引き渡してくるか」
 朝からタダ酒が飲めてご満悦のラリー。

 その後、ラリーが酔い潰れた為、タッチーナは悠々逃走。
 しかし、タッチーナの心には深い傷が再び出来上がっていた。