タイトル:【決戦】バグア掃討戦マスター:近藤豊

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 25 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/10/31 06:36

●オープニング本文


※このシナリオを含む5本のイベントシナリオは、これまでのご愛顧に対する感謝の念を込め、無料シナリオとさせて頂きました。
 より多くのお客様にご参加いただくため、おひとり様1キャラクターまでの参加として下さいますよう、お願いいたします。
 また、大規模最終フェイズでの大破判定については強制力を持ちません。通常の機体データでの参加が可能です。
 なお、ロールプレイ上で、機体が大破したので〜という演出を行うことについても問題はありません。(10/20 2行追加)

 ――バグア本星の爆発。

 この事実は人類とバグアの長き戦いにおいて、趨勢を決定づけた。
 人類に降り掛かった異星人からの侵略という事件は、双方の多大なる犠牲を払いながらも人類側の勝利という決着を迎えた。
 だが、多くの戦争がそうであったように、戦闘行為はある一定のタイミングを持って集結するものではない。
 趨勢は決しても、戦闘は――終わる事はない。

「10時方向、敵増援を確認。宇宙キメラ多数です」
 UPCアジア宇宙軍遊撃部隊「破軍星」の旗艦「オニキリマル」のブリッジに、オペレーターの声が木霊する。
 バグア本星の爆発により、周辺宙域は本星の破片が散乱。UPC軍はこの宙域における調査及び救援者回収を行うべく、破軍星を派遣していた。
 しかし、同宙域にてバグア残存兵力と交戦。
 オニキリマルは、戦闘を開始する事になる。
「ちっ。本星墜ちても、まだやろうってぇのかよ。
 大場っ! 艦を旋回させろ! 艦砲射撃で敵を牽制するんだ」
「‥‥了解」
 土橋 桜士郎(gz0474)は、航海士の大場へ怒鳴るように叫ぶ。
 愛車を三台廃車にしている大場だったが、黙々オニキリマルを旋回させる。
「蛙っ!
 お前ぇの出番だ! さっさと大砲をぶっ放しやがれってぇんだ!」
 土橋は、砲術長の蛙に荒々しく指示を出した。
 お返しとばかりに蛙が、土橋に怒声を浴びせる。
「てめぇの大声は、さっきから聞こえているよ!
 バグアの連中に餞別をくれてやりゃあ、いいんだろ?」
 蛙の声が艦内へ轟いた後、オニキリマルから発射される数発の閃光。
 G光線ブラスター砲がキメラの群れへ突き刺さり、キメラの体を引き裂いていく。
「8時方向、敵影確認。オニキリマルへ接近中」
「今度はそっちかよ。
 デラード、聞こえるか! こっちに敵が迫ってる。止められるか?」
 苦々しい表情を浮かべながら、土橋はスカイフォックス隊のズウィーク・デラード(gz0011)を呼びかける。
「やってみせます」
 デラードは、リヴァティーの機首を旋回させてオニキリマルへ向かったキメラを追撃する。

 本星が失われても、戦い続けるバグア達。
 戦う事を運命付けられた存在は、母なる星を失っても戦闘本能は失われない。
 人類は、戦争の行く末が決した後も――戦いを強いられる。

「戦いは、まだ終わらないのですね。なら、バグアが消えるまで戦い続けます」
 デラードは、ブーストを使ってキメラへ肉薄する。


 一方、バグア側は――。
「まだだ。バグアに敗北は、許されない」
 攻撃により左腕を失ったカスタムティターンの中で、吉乃川は静かに呟いた。
 たとえ本星を失い、幹部が逃走したとしても。
 吉乃川の周囲には、多くのバグアが共に戦っている。

 そう、まだ自分はこんなにも戦える。
 このティターンも戦いを欲している。
 ならば、体が動く限り戦い続ける。
 バグアのプライドを賭けて、人類と戦い抜くのだ。

 吉乃川は、オニキリマルに向かって動き出す。
「人類よ。貴様らに、バグアの底力を見せてやる」

●参加者一覧

/ 榊 兵衛(ga0388) / 鳴神 伊織(ga0421) / 須佐 武流(ga1461) / レーゲン・シュナイダー(ga4458) / 佐竹 優理(ga4607) / 楓姫(gb0349) / 月島 瑞希(gb1411) / リヴァル・クロウ(gb2337) / 篠崎 宗也(gb3875) / 水無月 紫苑(gb3978) / ソーニャ(gb5824) / キヨシ(gb5991) / オルカ・クロウ(gb7184) / 夢守 ルキア(gb9436) / 綾河 零音(gb9784) / クリスティ・ボツリナム(gc0986) / ラサ・ジェネシス(gc2273) / レインウォーカー(gc2524) / 巳沢 涼(gc3648) / ミリハナク(gc4008) / ナイトジョーカー(gc4527) / 滝沢タキトゥス(gc4659) / BEATRICE(gc6758) / セラ・ヘイムダル(gc6766) / ミティシア(gc7179

●リプレイ本文

 青い空に、赤い月が現れたのは何年も前のことだ。
 あの日を境に、人々の生活は一変。
 地球を舞台に異星人と、壮絶な戦いを繰り広げてきた。

 多大なる犠牲を払ってきた双方。
 その戦いの果てに、人類はついにバグア本星を破壊する事に成功した。

 ――だが。
 戦争の終結は、簡単なものではない。
 まして、戦いに「特定の心情」を持ち込む者がいれば、事態はさらに複雑化する‥‥。

 戦いは、夢守 ルキア(gb9436)の一言から本格化する。
「艦隊が作戦の要かな。攻撃されないタメ、攻撃する。
 ‥‥土橋君、一撃をお願いできる?」
 ルキアは、遊撃部隊『破軍星』旗艦オニキリマルの艦長である土橋 桜士郎(gz0474)へ攻撃を打診した。
 バグア本星の爆発により、周辺宙域に本星の破片が散乱。この破片の一部はエアマーニェの1らバグア幹部によって回収されているものの、細かい破片までは回収する事が難しい。そこで、同宙域の調査及び救助者捜索を兼ねて偵察任務に就いていたのだが、運悪くバグア部隊と交戦。敵は本星が失われた今でも、戦闘を継続するつもりなのだ。
「ちっ。面倒くせぇが、仕方ねぇ!
 おい、蛙っ! お前の出番だ!」
 土橋はオニキリマルの砲術長である蛙に砲撃指示を与える。
「可愛いお嬢さんの期待があるってぇんなら、砲術屋冥利に尽きるってもんだ。
 おら、邪魔なラインガーダーを下げさせろ! 俺の息子の前に立つんじゃねぇ!」
 ルキアに頼られた事もあり、上機嫌な蛙。
 部下へ罵詈雑言を浴びせかけながらも、その声は何処か嬉しそうだ。
「いくぜっ!」
 蛙の声と共に、オニキリマルの主砲――35.6cmG光線ブラスター砲が火を噴いた。
 三連装砲は、次々と光を放つ。
 そして、バグアの群れへ突き刺さった後、小さな爆発が複数生まれる。複数のキメラが爆発に巻き込まれたのだろう。

 この爆発を切っ掛けに、各KVは一斉に行動を開始する。
「面倒だ。まとめてかかって来い」
 キメラの群れを前にした須佐 武流(ga1461)は、フィーニクスBis「カマエル」のプロトディメントレーザーを放つ。
 何処までも伸びていくかのような光が、突撃型キメラをまとめて薙ぎ払った。
 今は、キメラに構っている暇はない。
 倒すべき敵は、この先で待っている。
「ここがボクらの舞台。さぁ、踊りに行くぞ、ルキア」
 レインウォーカー(gc2524)は、ルキアへ前進を促した。
 バグアは、戦闘行為以外の生き方を知らない。
 それはレインにとっても同じ事。だからこそ、全力でバグアの相手をしやらなければならない。
「ルキアさん、KVでご一緒するのは初めてだったな。こいつは楽しみだ」
 滝沢タキトゥス(gc4659)は、やや緊張した面持ちでルキアに挨拶する。
 愛機「Scrap MountainII」が何処まで通用するのかは分からない。
 だが、そうだとしてもこの戦いに敗北は許されない。
 人類の希望を、決して壊してはならないのだから。
「敵は敗残兵‥‥でも士気は高いだろうね。彼らは、敢えて戦うコトを選んだのだから。
 ‥‥だからこそ、ここですべてを決めよう」
 ルキアはオニキリマル前方に展開した敵部隊へ向かって突き進む。
 この最終決戦を、完全な形で終結させるために。


 同時刻。
 佐渡京太郎(gz0335)撃破により一部で『LASTHOPE』と呼ばれ、英雄視されているリヴァル・クロウ(gb2337)。彼が所属する【Blitz】も行動を開始していた。
「余りご無理を為さいませぬ様‥‥と、言ってもするのでしょうが、程々でお願いしますよ?」
 ヴァダーナフに乗る皇 織歌(gb7184)は、リヴァルの身を案じていた。
 漠然とした不安が、織歌の心に降り積もっていく。
「‥‥‥‥」
 織歌の言葉に耳を傾けながら、リヴァルは沈黙を守っていた。
 バグアが戦いを挑んでくるのであれば、その都度、戦わなければならないだろう。
 バグアとの戦いは、こうして人類を蝕んできたのだから。

 ならば、この戦いはいつまで続くのか。
 その答えはリヴァルの中にも見つからない。

 心の晴れないリヴァル。
 そこへ、セラ・ヘイムダル(gc6766)が優しい笑顔と共に、リヴァルへ声を掛ける。
「バグア残存兵力掃討のお手伝いです。皆さんの足手纏いにならないよう、頑張りますね」
 リヴァルを兄と慕うセラは、どんな時でもリヴァルを支えるつもりだ。
 そして、それは仲間達も同様の想いだ。
「ボスは倒したケド、我輩の旅はバグアとキメラを全滅させるまでは終わらないのダ」
 毬藻・極式の中で、はっきりと断言するラサ・ジェネシス(gc2273)。
 その言葉には、仲間として頼もしさを感じさせてくれる。
「決戦は終わっても、戦いは終わらず‥‥と。まあ、今に始まった事ではありません。
 私達は、その度に困難を乗り越えて来た事を忘れてはいけません」
 リヴァルの影に隠れる形で、鳴神 伊織(ga0421)は言った。
 今までの戦いを思い出せば、この戦いもきっと勝利を掴み取れる、と。
 仲間達の言葉を聞いたリヴァルは、ようやくその口を開いた。
「機体は‥‥まだ動く。小隊の仲間もいる。
 まだ、戦える。終わっていないなら、何度でも提示しよう。俺達が得た進化の答えを。
 ‥‥【Blitz】各機へ、状況を開始する」
 リヴァルは行動開始を宣言。
 これを受けて、各機は敵部隊に向かって発進を開始する。
 最後の決戦と心に決め、各機は戦いの海へと赴いていく。

 ここで終わっていれば、実に格好良いの部隊なのだが‥‥。
 ――世の中は思ったよりも、もう少し複雑である。
「【Blitz】特戦隊、キヨシ!!!」
 ヴァイシュラヴァナIIの操縦席で力強くポーズを取るのはキヨシ(gb5991)。
 操縦桿から手を離し、両手を下げている。さらに右膝をシートの上に立ててバグアを威嚇するような視線を放つ。
 出撃前に何度も練習したポーズが、ここで発揮されたのである。
 それも、バグア部隊と接触する直前で。
「‥‥え? なに?」
 交戦前で緊張していた綾河 零音(gb9784)は、状況が把握できずに困惑する。
 それでもポーズを取り続けるキヨシ。
 同時に、仲間達にも同様のポーズを強要するオーラを放っている。
 放って欲しいのは、複合ESM「ロータス・クイーン」の観測データなのだが‥‥。
「【Blitz】特戦隊、優理!!!」
 キヨシのオーラに触発されたのか、いつの間にか部隊の右端へ陣取って佐竹 優理
ga4607)がポーズを決めている。
 今度は鶴を彷彿させるかのように、両腕を高々と上げている。
 キヨシの放った怪しいオーラを優理がキャッチ。ポーズを取るため、颯爽と前線まで駆けつけたようだ。
 類は友を呼ぶ。
 昔の人は、うまい事を言ったもんだ。
「やるな」
「そっちもな」
 二人で送り合うアイコンタクト。
 腐女子ならばフラグが立った瞬間なのだろうが、【Blitz】の女子メンバーは呆れを通り越して腫れ物のような視線を投げかけている。
 でも、二人は気にしない。
 だって、二人は【Blitz】特戦隊の仲間なんだから。
「おい、【Blitz】特戦隊って名乗っているけど、あんた【Blitz】にいつ入ったんだ?」
 二年前の初依頼で世話になったリヴァルへ自身の成長を見せたいと考えていた巳沢 涼(gc3648)が、思わずツッコミを入れる。
 その瞬間、優理は誤魔化すように叫んだ。
「あ、私の『どっしりしたヤツ』が練力切れを起こしそうだ。
 早く補給へ戻らなければ!」
 慌てて補給艦に向かってUターン。
 元々、ディスタンに宇宙フレームを装備して艦隊護衛をする予定だった優理。

 こうして、【Blitz】特戦隊の脅威‥‥ではなく、活躍は終わった。
 決戦前に緊張の糸を解したかったのかもしれないが、解すどころか余計に絡ませてしまったようだ。
「なんだったんだ、あれ」
 気合いを入れてバグアと交戦するつもりだった月島 瑞希(gb1411)も、緊張の糸がぷっつりと切れてしまった。

 戦闘前に揺るんだ空気を危惧したリヴァル。
 ここで、咳払いを一つ。
 そして、ゆっくりと、力強く声を発した。
「‥‥ぶ、【Blitz】各機へ。改めてもう一度言う。『状況を開始』する」


「動き出したな。キメラを右翼から攻めさせろ
 バグア部隊の中央で、カスタムティターンに乗る吉乃川は各部隊へ指示を出す。
 敵戦艦の砲撃が確認された後、おそらく敵の主力が攻撃を仕掛けてくるはずだ。ならば、正面から攻撃を受けると同時に敵戦艦を襲撃する部隊を組織して別方向から襲撃を掛けさせる。

 ――そうだ。
 まだ負けた訳じゃない。
 バグア本星が無くなったところで、自分のカスタムティターンは動く事が出来る。
 装備も死んではいない。人類と十分に戦う事ができる。

 ならば、バグアのプライドに賭けて、戦い続けるべきだ。
 今まで自分達がそうしてきたように。
「この戦い、勝つ!
 本星がなくなったとしても、バグアに敗北の二文字はない」


「各機、輸送艦とオニキリマルを護衛しろ。
 ラインガーダー隊は無理すんなよ。ここで死んだら、本星で頑張った意味がねぇからな」
 土橋の指示を受けて、各護衛部隊が防衛の為に動き出した。
 今、こうしているこの瞬間も、敵部隊へ突撃をかけた傭兵達が前線で活躍している。
 しかし、すべての敵を食い止めるには難しい。
 特に、戦線から漏れ出るように現れるキメラは、オニキリマルや輸送艦へと向かって来る。もし、輸送艦にダメージを受けるような事があれば、KV補給にも支障が出る。
 つまり、輸送艦は何としても守りきらなければならないのだ。
「ここには、あのバグア本星での戦いを生き抜いた精鋭が25人も揃っている。負ける道理は無いし、そもそも負けなどあり得ないぞ!」
 ナイトジョーカー(gc4527)は、空鷲のWS−4機関砲で突撃型キメラを撃墜しながらラインガーダー隊や輸送艦のクルーを励ました。
 彼らはバグア本星が破壊された事に喜んでいたが、今回の戦いを前に『本星を破壊したのに戦いが続く。それなら、いつ戦いは終わるのか』という不安を抱えていた。
 この不安を抱えたまま、バグアと戦闘すれば、不安が広がって士気に影響するだろう。
 それを避けるためにナイトジョーカーは、このような通信を行ったのだ。
 その甲斐もあって、各隊の士気低下を抑える事が出来たようだ。
「ふふ、やっぱり居ましたわね。この局面で諦めない敵が」
 ぎゃおちゃんの高分子レーザー砲「サンフレーア」で前線へ支援狙撃していたミリハナク(gc4008)は、一人ほくそ笑んだ。
 漏れ出た突撃型キメラに紛れる人型の影。
 バンザイアタックではなく、勝利を信じて艦隊への攻撃を仕掛けようとする存在。
 ミリハナクは、そのような敵の存在を待ち望んでいた。
 目標を見定めて動き出すミリハナク。
 その動きにナイトジョーカーが気付いた。
「ミリハナク?」
「戦争をしましょう。力だけがそこにある単純明快な戦争を‥‥」
 ミリハナクは、目標に向かって突き進んでいく。
 キメラの影に、こそこそと隠れる諦めの悪いバグアに向かって。
「!?」
 急速接近するミリハナクの存在に気付いた砲撃型キメラは、一斉にミリハナクを狙って攻撃を開始する。
 しかし、ミリハナクは砲撃を無視してそのまま進み続ける。
 ぎゃおちゃんの傍らを、砲撃型キメラが放ったエネルギー弾が通過していく。
「危ないっ!」
 ナイトジョーカーは、ミリハナクの身を案じてミサイルポッドで援護射撃。
 一時的にでも砲撃型キメラの攻撃を抑えなければならない。
「‥‥!?」
 ナイトジョーカーの攻撃を受け、砲撃型キメラは攻撃の勢いを弱めた。
 その隙をついたミリハナクは、ブーストで一気に目標の眼前まで近づく。
「追いつきましたわ」
 そこには、キメラの影に隠れながら輸送艦へ近づいていたタロスの姿があった。
 既に先の戦いで傷付き、左足は失われている。
 だが、まだタロスは敗北を認めていない。
 だからこそ、逆転を狙って輸送艦へ接近していたのだろう。
「諦めの悪い君だから、見せてあげますわ。
 技術などを用いず――暴力が産み出した、最高にして最悪な光景を」
 ミリハナクは砲撃型キメラを巻き込みながら、サーベイジ・パイクをタロスの胸部へ突き立てた。
 振るわれた力は、タロスの体を貫いて爆発。
 その爆発が去った後、そこには宇宙のゴミが漂うだけであった。
「ミリハナク、大丈夫か?」
 ミリハナクの身を案じたナイトジョーカーが、駆けつけてきた。
 だが、ミリハナクは振り返る事なく、タロスが四散したその場所を見つめ続けていた。
「戦争が、暴力だけがすべて‥‥。
 なら、戦争がなくなったら、私はどうすればいいの?」


「さぁ‥‥かもしカーニバルの始まりよ」
 クリスティ・ボツリナム(gc0986)は、ピュアホワイトXmasの複合ESM「ロータス・クイーン」を発動した。周辺の宙域にはバグア本星の欠片――デブリが漂っている。このデブリの影に隠れて敵が接近する事も十分に考えられる。
 そこでクリスティは、周辺宙域の情報を可能な限り集め、僚機へ情報展開。敵の動きを掴んで勝利へ導くべく行動を開始していた。
「‥‥かもされる前に、かもすの‥‥」
 視界に入った大型の欠片へヴィジョンアイを起動。
 クリスティの直感が、クリスティ自身に囁きかける。
(‥‥あの欠片‥‥かもすべき者が‥‥いる‥‥)
 かもすべき者――殺すべき者が、あの欠片に隠れている。
 仲間へ連絡している暇もない。
 倒すなら、クリスティ自身がやるしかない。
 その直感を裏付けるかのように、破片の裏側にレーダーの反応があった。
「‥‥!」
 直感が確信へと変わった瞬間、クリスティはピュアホワイトXmasを欠片の裏へ回り込ませる。
 そして、突撃型キメラを照準で捉え、機動砲「Gバードカノン」を放った。
 解放されたエネルギーは、狙い通りにキメラに命中。避ける暇も与えず、一気にキメラを葬り去った。
「‥‥‥‥かもし、かもされる者‥‥」
 クリスティは、そう呟いた。
 そして、新たなる目標を探すべく、レーダーへ視線を落とした。


 一方。
 ――オニキリマル、ブリッジにて。
「9時方向から突撃型キメラが接近!」
「デラード、聞いたろ。敵がこっちに迫ってる。やれるか?」
 土橋は、スカイフォックス隊ズウィーク・デラード(gz0011)へ迎撃を打診した。
 ナイトジョーカーやミリハナクらがオニキリマルへ接近する敵を叩いてくれているが、それでもキメラの数は多い。巡洋艦や輸送艦のような大きな艦船では、体の小さなキメラを追い払うだけでも厄介な事だ。
 可能であれば、接近される前にKVで撃破しておきたいところだ。
「ああ、任せておけ。
 アーサー、ウィロー、サジはオニキリマルを護衛。智久とジンウは輸送艦を守るラインガーダー隊を支援だ。こんな戦い、さっさと終わらそうぜ」
 デラードは、スカイフォックス隊の面々に指示を出していく。
 キメラの数を考慮して、部隊を分けて複数の目標を同時に防衛する作戦のようだ。
 そして、デラードの方と言えば――。
「一緒に、来てくれるよな?」
 デラードは、傍らに飛ぶレーゲン・シュナイダー(ga4458)へ声をかける。
 レーゲンも心の中では誘われる事を、期待していた。
 その期待が叶う事も予期していたが、改めて誘われると嬉しさも込み上げてくる。
「当たり前よ。大規模作戦の後片付けなんだから、少しでも宇宙を綺麗にしてやらなくては‥‥ねっ!」
 レーゲンは、Weltraumを加速させる。
 オニキリマルが位置を知らせてきた突撃型キメラへ正面から突っ込んでいく。
(特攻しかできない相手とチキンレースねぇ‥‥ドッグファイトの方が自信はあるんだけど)
 迫り来る突撃型キメラを射程距離に捉え、WS−4機関砲の引き金を引いた。
 相手は突撃だけが武器のキメラ。飛び道具が無ければ、射程距離に捉えて倒す事は難しくない。
 放たれた弾丸は、キメラの顔面を穿つ。
 顔面を潰された突撃型キメラは失速。その数秒後、派手に爆散した。
「突進しか能がないのも考えものだねぇ」
 余裕を見せるレーゲン。
 しかし、バグア側も必死の抵抗を見せる。
「まだ終わってねぇ!」
「!?」
 デラードの声でレーゲンは我に返る。
 爆炎の中から別の突撃型キメラが姿を現す。
「三下くせに!」
 Weltraumを側転させて回避を試みるレーゲン。
 自分への怒りと反省を込めながら、操縦桿を握りしめる。
 突然の回避行動でWeltraumに負担をかける形となったが――突撃型キメラの攻撃は、寸前で回避に成功。突撃型キメラは遙か後方へ飛び去っていく。
 その向かう先には‥‥。
「やってくれたな!」
 デラードのリヴァティーから放たれたホーミングミサイルは、突撃型キメラへ直撃。
 激しい爆発がキメラで包み込み、その体を木っ端微塵にする。
「やっぱりさすがだねぇ、金色狐」
「褒めるなら、戦いが終わってからにしてくれ。
 ビールを飲んでいる最中に俺の隣へ座って、そっと耳元で囁いてくれるなら最高なんだけどな」
 デラードの言う通り、まだ敵戦力は残っている。
 大規模作戦の後始末をきっちり終わらせなければならない。
 そして、この戦いが終わったならば――。
「‥‥考えておくよ」
 レーゲンは、一言だけ返す。
 その顔には、笑顔が溢れていた。


「それじゃもー、派手に殴り込みかけますか」
 零音は、【Blitz】の面々と共にバグアの陣へ突撃していた。
 【Blitz】が狙う目標は、敵指揮官機であるカスタムティターン。
 この目標を最優先に撃破し、今後の戦いを有利に進めようという訳だ。
「こっちも急がなきゃならないの。だから、退いてくれない?」
 眼前に迫る突撃型キメラをベテルギウス・フレイムの練機槍「旋」で引き裂く零音。
 既に敵陣の深くにまで、部隊は進軍している。ここで迷って立ち止まってしまえば、バグアに包囲されてしまう。
 早く、敵指揮官機を発見しなければ‥‥。
「行け! ガンナー!」
 接近する小型ヘルメットワームをフォビドゥンガンナーで早々に撃ち落とす涼。
 今は少しでも進路を確保しなければならない。敵に接近される前に、早々に倒し続ける訳だが、油断をすればカスタムティターンと出会う前に手痛いダメージを受ける事になる。
「キヨシさん、まだ敵の場所は掴めないの?」
 突撃型バグアをアサルトライフルで叩き落としながら、織歌はキヨシを呼びかけた。
 それに対して、キヨシは情報解析を続けながら答えた。
「だーっ、もう少し待てって!」
 キヨシは、明らかに苛ついていた。
 複合ESM「ロータス・クイーン」で情報解析を行っているが、キメラの数が多いために指揮官機発見に手間取っているのだ。レーダーで調べようにも、辺り一面キメラの大群。ここからカスタムティターン一機を探し出すのだから、簡単な話ではない。
「ちょっと! 早くしないと、こっちもヤバいわよ」
 零音は、突撃型キメラをカローナミドヴィエーチで叩き落としながら叫ぶ。
 先程からキメラの数が増えているように感じられる。敵陣に突撃しているのだから、当たり前なのだ。だが、カスタムティターンと出会う前に墜落だけは勘弁願いたい。
「そんな、焦らせるなって‥‥居たっ!
 10時方向! あの野郎、暢気に巡洋艦の方を見つめてやがる!」
 キヨシによる必死の捜索が功を奏したようだ。
 怪しいオーラを放って変なポーズを取るだけの男ではなかったようだ。
「敵の場所も分かりました。では、参りましょうか」
 伊織は目標地点を見定める。
 このキメラの群れの向こうに、倒すべき相手がいる。
 ならば、このキメラを打ち払って前に進むとしよう。少々数が多いが、多少のダメージを覚悟すれば、進めない道ではない。
 伊織は、伊邪那美を前へ進めようとする。
 ――だが、その時。
 後方から実戦試験型RCMが飛来する。
「‥‥Schnepfe‥‥」
 BEATRICE(gc6758)のミサイルキャリアから放たれたミサイルは、【Blitz】の前面に展開していたキメラを巻き込んで爆発。
 キメラ達を葬り去り、新たな道を産み出した。
「助けてくれたのか?」
 涼の言葉に対し、BEATRICEは静かに応える。
「エースと戦うべきなのは‥‥それに相応しき者‥‥」
 BEATRICEは、カスタムティターンを倒すべき者達の為に道を開いた。
 この戦いを終わらせ、未来へと続く道を――。
「格好良くて頼もしい仲間なのダ。
 じゃあ、さっさと行って敵指揮官をブッ倒すのダ」
 ラサの声を受けてカスタムティターンへ向けて動き出す【Blitz】。
 彼らがカスタムティターンを倒せば、この戦いは早々に終結する。
 ならば、BEATRICEが取るべき行動は一つ。
「‥‥彼らの‥‥邪魔は、させない」
 BEATRICEは、【Blitz】の後を追うキメラ達の前に立ちはだかる。
 彼らが指揮官との戦闘に集中するためには、周囲のキメラを足止めしなければならない。
 危険な賭けである事は理解している。
 だが、この賭けは人類側にとって有利な事も分かっている。
「‥‥最後の戦い‥‥負けられない」
 ミサイルキャリアからK−02小型ホーミングミサイルが放たれる。
 炸裂する爆発は、【Blitz】を送り出す花火にように宇宙で咲き乱れる。


「‥‥最後まで戦い抜こうとするその姿勢は賞賛に値する。だが、ここで生き残らせて後顧の憂いを残す訳にはいかぬからな。
 速やかに己が努めを果たす事としよう」
 榊 兵衛(ga0388)は、忠勝と共に敵部隊の中を突き進んでいた。
 目指すは、敵指揮官のカスタムティターン。
 この戦いは、あの指揮官機を倒せば、一気に趨勢が決する。
 敗北を認めず、未だ人類へ戦いを挑み続ける者を倒せば、敵の士気は落ちるはずだ。
 榊は、そう信じて敵部隊の真ん中を突き進む。
「雑魚に用はねぇ! あるのは親玉の首だ!」
 榊の後を追うように、篠崎 宗也(gb3875)も新星でカスタムティターンを追いかけてる。
 その傍らには、ミティシア(gc7179)の姿もあった。
「邪魔するなら、容赦しないよ〜」
 行く手を阻む小型ヘルメットワームに対して、ミティシアはピュアレッドの荷電粒子砲「レミエル」で攻撃。
 進路をこじ開けながら、目標のカスタムティターンを捜し続ける。
「奴らめ、降伏するなら許してもって思ったが、そんな奴らじゃねぇのはもう分かった!
 せめて戦士らしく地獄へ送ってやるぜ! ‥‥何だか悪役っぽいのは気のせいか?」
 ミティシアの開いた道に機体を滑り込ませ、集まるキメラを内蔵機関砲群「オーブラカ」で撃ち落とす宗也。
 宗也は、この戦いが一つの節目である事を直感的に感じ取っていた。
 もし、この戦いでバグアに人類との圧倒的な戦力差を見せつければ、バグア残党の戦いを少しでも抑えられるかもしれない。
 ならば、ここで指揮官と交戦し、徹底してバグアを叩かなければならない。
「前に立つならば、容赦なく斬る」
 機棍「蚩尤」で小型ヘルメットワームを叩き落とす榊。

 この戦いは短期決戦――余裕を見せている暇は、微塵もない。


 ソーニャ(gb5824)は、エルシアンを宇宙で疾走させながら、想いを巡らせていた。
 この戦いに戦略的価値がない事を理解している。
 ならば、何故戦いになっているのか――。
 
 バグア指揮官の気持ちも分かる。
 まだ戦う事ができるにも関わらず、その剣を置くという行為。
 それが戦士にとって如何に侮辱的な事なのか。
 しかし、それは自らのプライドと生きた証を求めて戦い続けているに過ぎない。

 自己満足。
 それは他人から見れば、そう言われてしまうのだろう。
 それでも、ソーニャはバグアの戦いに望む。
「‥‥ボクは、死に場所を求める者を否定しないよ」
 傷付いた本星ヘルメットワームに高分子レーザーガンを叩き込み、機動力を奪うソーニャ。さらに至近距離からGP−02Sミサイルポッドを発射して、ヘルメットワームを完全に破壊する。

 生き物は必ず死ぬ。
 如何に死ぬかを考える事は、如何に生きるかという事。
 死に場所を求める者は、絶望しない。
 死ぬ一瞬まで、一心不乱に生き続ける。
 かつて見た夢や希望を持ち続ける。

 ソーニャは、目の前で戦い続けようとする者の想いを受け止める。
 彼らが死ぬ、その時まで――生きた証を心に繋ぎ止めよう。
 それが、相手に敬意を払うという事なのだから。
「こんな出会いしか許されなかったけど‥‥それでも、出会う事はできたよ」
 ソーニャは、多くの戦士と出会うべく、エルシアンを旋回させた。


 カスタムティターンを倒そうと躍起になる傭兵も多いが、バグア部隊はカスタムティターン以外にも厄介な相手が存在する。
「甘いっ!」
 フィーニクスBis「カマエル」の残像回避でタロスの背後へ回り込み、フォビドゥンガンナーを撃ち放つ武流。
 側面、背後、上下からの同時攻撃を避ける術をタロスは持ち合わせていない。遠隔操縦兵器であるフォビドゥンガンナーを、近接戦闘の、オールレンジ攻撃へ転用。敵を確実に撃滅するための兵器として武流は、利用していた。
「次だ。次はどこだ?」
 レーダーで次の目標を探す武流。
 武流の狙いは、ティターンとタロス。
 カスタムティターンを倒しても、人型ワームが敵部隊の指揮を引き継ぐ恐れもある。カスタムティターンだけではなく、ティターンとタロスも確実に倒しておくべき相手なのだ。

「ナイトオブリベリオン‥‥。これが、最後の仕事だ‥‥」
 楓姫(gb0349)のNight of Rebellionは、『SES200改』スルトシステム・オーバーブーストを起動。
 突撃型キメラの奥に隠れるティターンとの間合いを詰める。
 この戦いは、バグアとの戦いにおいて『後始末』だと楓姫は考えている。
 バグアがプライドを持って戦うならば、それに応えるのが自らの役目。手を抜く事は、無礼に値する。
「だから、全力を持って敵を倒す‥‥」
 シェルクーンチクで敵の射程外から攻撃を仕掛ける。
 異星種族「クリューニス」の感応能力を解析してエミタに応用した遠隔操縦兵器――バグアとの戦いで人類が手に入れた技術で、敵を追い詰める楓姫。ティターンもこの距離で戦っていてはジリ貧だと感じたのだろう。楓姫に向かって発進、専用サーベルを携えて一気に間合いを詰めてくる。
「負けられないのは‥‥私達も同じだから!」
 楓姫は機人刀「緋華」を手に、ブースト。
 目指す先は、迫り来るティターン。
 猛スピードで接近する二機――手にした刃を振り抜くため、腕を大きく動かす。

 そして、交差。
 攻撃チャンスは一瞬。
 間合いへ入った瞬間、楓姫は緋色の刃を振るう。

 楓姫の傍らを、ティターンが通り過ぎていく。
 そして、遙か後方でティターンは爆発。
 楓姫の手には、ティターンを引き裂いた手応えが残っている。
「まだ。まだ、敵は残っている‥‥」
 感傷的になる事を許されない楓姫は、再び敵を探し始める。
 想いに答えるべき相手は残っているのだから。


「手〜薄〜なーあそこにっ‥‥フェードイン! イン! イーーン!
 ‥‥って、ここも結構ヤバくない?」
 輸送艦護衛に就いていた優理。
 輸送艦の近くに現れた砲撃型キメラをホーミングミサイルで撃墜しているのだが、どうしても練力が気になってしまう。他の機体と比較すれば、かなり旧式の機体であるため、致し方ない。
 しかし、練力を気にしなければならないため、キメラが複数の方向から登場させると対応に窮してしまうのだ。
「くぅ〜。いぶし銀の風合いを持ってしても、この危機を乗り越えるのは難しいか‥‥」 こうしている間にも、砲撃型キメラは輸送艦に向かって攻撃を開始しようとしている。 額から汗が滴る優理。
 しかし、そこへ一機のKVが颯爽と現れる。
「さーて、楽しい楽しい掃討戦の時間だー。ブッ潰されたいヤツから前に出ろ〜」
 水無月 紫苑(gb3978)のカラミティアークが、砲撃型キメラの後方から登場。
 後方から奇襲する形と水無月は、砲撃型キメラをロックオン。
「ロック完了、落ちろ落ちろぉ!」
 敵が振り返る前に、GP−9ミサイルポッドを発射。
 宇宙に放たれたGプラズマミサイルが、複数のターゲットへ直撃。
 そして――爆発。
 その爆発の間をすり抜けながら、カラミティアークは輸送艦に向かって飛来する。
「残念だねぇ。大人しく引き下がっていればやられなかったのに」
 ようやく、この戦いも先が見えてきた状況だ。
 輸送艦を落とされれば、再び戦いは混迷へと舞い戻る。
 それだけは何としても阻止しなければならない。
「これ以上、やらせるわけないじゃん!」
 水無月は、新たに現れるキメラの群れを前に、再びカラミティアークを走らせた。


 傭兵達の活躍もあり、バグアの戦力は大幅に低減していた。
 ティターン、タロスも一掃されている。
 キメラだけは相変わらず攻撃を続けているが、敵指揮官を倒せば逃げ出すだろう。
「派手に行こうか、滝沢ぁ。出来るだろ、お前にもさぁ」
 レインの言葉に、滝沢は力強く答える。
 レインとルキアは、新人傭兵だった頃の恩師である。
 この戦いで成長を見せる事は、ある種の恩返しでもある。
「レインさん、あなたに今までの戦いの成果を見せてやろうじゃないか!」
 飛行形態へ変形したScrap MountainIIは、本星ヘルメットワームの背後へ回り込み、
ホーミングミサイル「アルコバレーノ」で照準を合わせる。
「制圧射撃をする。奴らをビビらせてやろうか」
 放たれるアルコバレーノ。
 宇宙へ乱れ飛ぶミサイルの群れが、本星ヘルメットワーム周辺にばら撒かれ、付近に多数の爆発が巻き起こる。
 その爆発の間を縫って、ルキアのデュスノミアが飛行形態で飛来する。
「今の爆発で、付近のキメラ達が集まり始めた。
 叩くなら、一気に叩くべきだ」
 巡洋艦へ向かおうとする敵を率先して倒していたルキア達三人。
 彼らのおかげで巡洋艦を護衛するメンバーへ余計な負担が掛からずに済んでいる。しかし、無限にも感じられるキメラの存在は厄介者だ。
「お前は役目に専念しなぁ。邪魔するモノは全てボクらが潰すからさぁ」
 ルキアが電子支援を行い、レインと滝沢が二機で目標を叩く。
 このフォーメーションで、ティターンとタロスを沈めてきた。
 この三人なら、如何にキメラが集まろうとも、不安を抱く事は一切なかった。
「期待している」
「了解だぁ。一気に仕留めるぞ、滝沢ぁ」
「分かった。もう一働きってところだな」
 レインは、滝沢と共に再び宇宙を舞う。
 この戦いの終焉が間近であると感じながら。


「貴様らが、バグア本星を‥‥ここで叩き潰すっ!」
 カスタムティターンの専用サーベルと電影・改のウィングエッジが激しく交差する。
 バグア本星を失っても、未だバグア勝利を信じて戦う吉乃川。
 佐渡を撃ち倒し、この戦いを終わらせようとする【Blitz】。
 
 ――この一戦は、負けられない。

 その吉乃川の気迫は、刃を通してリヴァルへと伝わる。
「我々は、決して一人一人が突出して強い訳ではない。
 だが、仲間と共に戦う事で何よりも強くなれる」
「弱いから群れたのだろう。貴様の戯れ言に付き合っている暇はない」
 吉乃川はカスタムティターンのブーストを使って、力業で押し切ろうとする。
 電影・改もそれに負けじとブーストで押し返す。
 しかし、吉乃川はリヴァルに注意を向けていた事から、周囲に気を配れずにいた。
 そこに大きな隙が生まれる。
「ここで終わらせる。バグアと戦わなくてもいい世界のために」
 瑞希は、空蜜のSESエンハンサーver.2を発動。
 荷電粒子砲「レミエル」でカスタムティターンを背後から強襲する。
「避けて下さいリヴァルさん。射撃が行きます!」
 続けて涼もスナイパーライフルとフォビドゥンガンナーでカスタムティターンを狙い撃つ。
 合図を受けたリヴァルは、タイミングを見て飛行形態へ変形。
 垂直移動で仲間の射撃を回避する。
「ちっ、仲間の攻撃か!」
 吉乃川は、強引に体を捻って回避を試みる。
 直撃させる事はできなかったが、瑞希の狙い通り体勢を崩す事はできた。
「この程度で墜ちる訳にはいかないんだ。
 ここで、貴様らに負ければ‥‥今までの苦労がすべて無駄になる!」
 今までの戦いもすべて、バグアという種族を永遠とするためだ。
 だが、そのバグアの野望も人類という劣等種族によって敗れるのか。
 ――否、崇高なバグアが、人類に負けて良いはずがない。
 吉乃川は、その想いだけで再びカスタムティターンを動かす。
「まだ負けを認めないんだ。
 なら‥‥【LASTHOPE(最後の希望)】改め、【LASTPARTY(最後の宴)】、的なっ!」
 零音は体勢がまだ整わないカスタムティターンへブーストで接近。
 練機槍「旋」でカスタムティターンを斬りつける。
 吉乃川は、この一撃を専用サーベルで弾いた。
「この程度なら、まだっ!」
「‥‥既に貴様らの居場所など、何処にもない。
 速やかに塵へと帰るが良い!」
 零音の攻撃を弾いた隙を突いて、榊の機棍「蚩尤」がカスタムティターンを直撃。
 サーベルを飛ばし、胴体部分へ激しい衝撃を与える。
「今です」
 吹き飛ばされる吉乃川に対して、ミティシアは荷電粒子砲「レミエル」を放つ。
 胴体部分へ直撃した事を確認した上で、宗也がさらに追い打ちをかける。
「誘導補正付きだ! 弾幕の嵐を食らいやがれっ!」
 飽和攻撃「ミチェーリ」で内蔵機関砲群「オーブラカ」の砲門が開く。
 ばらまかれる弾丸は、カスタムティターンの体を一気に貫いていく。
「ぬぉぉ‥‥。
 まだ‥‥まだ、俺は‥‥生きている。まだ、やれる‥‥」
 既にカスタムティターンは五体満足ではなかった。
 稼働できない箇所も多数存在しており、これ以上の戦いは無謀である。
 それでも、吉乃川は戦いを挑もうとする。
 最早、憐れみすら感じするその姿に、人類の言葉が届くはずもない。
「もう、終わらせてあげるべきでしょうね」
 織歌は、そう呟いた。
 おそらく、吉乃川は生ある限り戦い続ける。
 好戦的な種族であるが故の宿命なのか、敗北が決まっても戦いを止める事ができない。
 ならば、ここで『ケジメ』を付けてやるべきだろう。
「賛成ですわ。
 すべては、ここから終わり‥‥ここから始まります」
「我輩の旅はまだ続くけど、あいつにはここで終わったもらうのダ」
 伊織とラサは、フォビドゥンガンナーの照準を宙に漂うカスタムティターンへ合わせた。
 交差する視線。
 吉乃川も、この後に起こる出来事は理解できる。
 だが――納得する事は、できない。
「‥‥何故だっ!
 何故、俺が‥‥バグアが、負けなければならないんだ! 【LASTHOPE】と呼ばれる男に‥‥」
 苦痛交じりの問いに、セラはリヴァルの傍らでフォビドゥンガンナーを準備しながら答えた。
「あなた、勘違いされてます。
 お兄様が【LASTHOPE】ではありません。私達一人一人が【LASTHOPE】なのです。
 そして、私達は独りじゃありません。だから、私達は負けないのです。
 それと‥‥」
 一呼吸を置いてから、セラは力強く断言した。
「お兄様との愛を、バグアに邪魔させないのです!」
「愛!? ‥‥そんなもので‥‥クソォォォ!!!」
 伊織、ラサ、セラ、織歌の各機から放たれた粒子の塊が、カスタムティターンへ突き刺さる。

 ――爆散。
 そして、この爆発が、戦いの終焉を知らせる光となった。


「なんでお前だけがモテるねん!!」
 戦いの後、輸送艦の中でキヨシは、リヴァルの首を絞めていた。
「くっ。その怒り方は、本気のようだな」
「やかましいっ! その余裕っぷりが癪に障るんだよ!
 目でピーナッツ噛んで、鼻でスパゲティー食べさせてやる!」
 首絞めに次いで、肩を揺すり始めるキヨシ。
「うーん、仲が良いのか。それとも仲が悪いのか。
 我輩には良く分からないのダ」
 二人のやり取りを見ていたラサが、首を捻っていた。
 実際、ラサにはキヨシがリヴァルの首を締める理由が分からないのだ。
 戦いの前にポーズを誘ったが、誰もポーズを取ってくれなかった事に対する怒りなのか。
 それとも、セラの告白に嫉妬を覚え、リヴァルの殺害を決意したのか。
「止めなくても良いのか?」
「大丈夫です。あの二人なら、放っておいても安心です」
 伊織はラサにそう答えた。
 喧嘩はしても、命を賭けて共に戦った仲間。
 この絆は、そう簡単に途切れはしないだろう。
「リヴァル! お前が結婚式を挙げるような事があれば、必ず殴りこんでやるかなら!
 今度はお前を倒して、俺が【LASTHOPE】だ!」
 キヨシの叫びが、輸送艦の廊下中に木霊する。
「本当に止めなくていいのか?
 本当に殴り込みそうダゾ?」
「‥‥安心なはずです。おそらく」
 伊織は、自分の言葉に疑いを持ち始めていた。


「この宇宙で散った英霊全員へ‥‥本当に、有難う」
 オニキリマルの甲板から、宇宙服に身を包んだナイトジョーカーが敬礼をする。
 この戦いで散ったすべての戦士達に感謝と哀悼の意を送る。
 先程まで激しい戦いを繰り広げていた宇宙は、星々の瞬きが溢れる静かな空間へと戻っていた。


 青い空に、赤い月が現れたのは何年も前のことだ。
 あの日を境に、人々の生活は一変。
 地球を舞台に異星人と、壮絶な戦いを繰り広げてきた。

 しかし、それも過去となった。
 人類は、この戦いを乗り越えて新たなる時代を迎える事となる。