タイトル:【JL】夢は深淵に染まるマスター:近藤豊

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/03 13:21

●オープニング本文


 エンターテイメント性を要求される業種は、世の中に沢山ある。
 人々に夢と希望を与えるという行為は、バグアに攻撃されている人類にとって大きな糧となる。今のような世の中だからこそ、一見無駄のようなエンターテイメントが求められる時代なのだ。過酷な時代を生き抜くには、人々は何かに頼らなければ辛すぎる・・・・。

 遊園地『ジョイランド』。
 夢と希望を売り物にした10月31日にオープンしたばかりの娯楽施設。マスコットキャラであるジョイ君が『ジョイ!』と叫ぶ度に、周囲の観客が歓声を上げる。アトラクションに興じる人々は、大人も子供も笑顔ばかり。現実から来る不安も吹き飛ばし、夢の時間を満喫している。
 オープニングセレモニーに加え、『ジョイランド』は更なる集客を狙った。
 世間はハロウィンのシーズン。
 これを受けて園内でのハロウィンイベントを開催。一部アトラクションもハロウィン仕様へ変更。園内は空想上の怪物やテレビに登場するヒーローに仮装した人々で、いつも以上に園内は混雑していた。
 夢の時間は――これから佳境を迎える。
「あっ!」
 園内の歩道で、吸血鬼姿のギュンターは派手に転んだ。
 足の縺れによる転倒は、齢6歳になったばかりの少年の体を激しく地面へと叩き付ける。ギュンターの膝は負傷し、朱に染め上がる。この頃の少年にはよくある光景であり、ギュンターも他の少年の例に漏れず、目に涙をいっぱい貯めている。
「・・・・もう。傭兵になって私を護ってくれるんじゃなかったの?」
 バンシーに仮装したアンネの言葉にギュンターは、ハッとした。
 廃棄物処理場で傭兵に助けられてから施設で生活を送る二人。大人の憎み、ゴミを漁る毎日から――ベッドを与えられて人並みに生活できるようになったのも、助けてくれた傭兵たちのおかげだ。施設のシスターはあまり良い顔はしていないが、ギュンターは傭兵となってアンネを護れる傭兵になる事を夢見ているのだ。転んだぐらいで泣いていては、いつまで経っても大人の男にはなれない。
「うん」
 ギュンターは、立ち上がる。
 目に貯めた涙を腕で拭い去り、姉の前で決して泣きまいと堪えている。数週間前からすれば考えられない事だ。今までであれば、すぐに泣き、姉を頼っていたギュンターだ。姉という立場からすれば、成長を楽しみながらも少し寂しい気持ちもあった。
「ほら、早くしないとアトラクションの待ち時間だけで今日が終わっちゃうわよ。アトラクションに並びましょ」
 ギュンターの手を引くアンネ。
 今日は施設のみんなが楽しみにしていたジョイランド訪問日。
 指折り数えて待ち望んだ大切な日。
 少なくとも廃棄物処理場でゴミを拾っていた日々から考えれば、ハロウィンなんて考える余裕もなかった。このジョイランドに来られる夢のような時間なのだが、ハロウィンというお祭り雰囲気がアンネをいつも以上に興奮させる。
「何処のアトラクションに行こうかしら・・・・。
 私、『ローランド城』なんか気になっているのよね。城主のローランド・ホーナーに招待された西洋の城を探検できるの。しかも、今はハロウィン企画として、晩餐会に招待してくれるらしいわ。
 『ジャングルサバイヴ』も捨てがたいわ。ジャングルを探検できるなんて、本の中の話でしかないもの。
 でも、『フォールランダウン』で格好良く地底人を光線銃で倒すのもいいわ。今なら地底人の顔がジャックランタンになっているのでハロウィン気分も楽しめちゃう。
 うーん、どれにしようか迷っちゃうなぁ」
 アンネの腕力に導かれるままのギュンター。
 アンネが施設に居る時でもここまで楽しそうにする事はなかった。ギュンターの存在から何処かで気が張っているようにも見えるアンネだったが、ジョイランドへ来たアンネは無邪気にはしゃいでいる。
 楽しみにしていた光景であり、ハロウィンを満喫する姉。
 そのすべてがギュンターにとって思い描いたものであり、望んだものでもあった。

 だが――何かが違う。
 言い知れぬ違和感がギュンターを襲う。
 何かがおかしい。理由も、問題点も挙げる事はできない。
 しかし、何かがおかしいのだ。
「わ、わかったよ」
 答えが見つからぬまま、ギュンターはアンネに連れられて人混みの中へ消えていった。
 二人の傍らで、狼男の顔面が緑色に溶け出している事を気づかずに・・・・。

●参加者一覧

花=シルエイト(ga0053
17歳・♀・PN
宗太郎=シルエイト(ga4261
22歳・♂・AA
α(ga8545
18歳・♀・ER
和泉譜琶(gc1967
14歳・♀・JG
御剣 薙(gc2904
17歳・♀・HD
秦本 新(gc3832
21歳・♂・HD
那月 ケイ(gc4469
24歳・♂・GD
安原 隼(gc4973
19歳・♂・HG

●リプレイ本文

●ジャングルの死闘
「はぁ〜。船、気持ちよかったね」
 ジョイランド内のアトラクション『ジャングルサバイヴ』のボートから下りた和泉譜琶(gc1967)は、リトルデビルの仮装のままで思い切り背伸びをした。
 黄緑色の川をボート型の乗り物で進み、水気混じりの風を胸一杯に吸い込む。木々の間だから見える動物たちが、ジャングルでの生活をそっと垣間見せてくれる。
「‥‥あの、和泉さん。もしかしてキメラ捜しを忘れていませんか?」
 和泉の後を追ってボートを下りたα(ga8545)。
 二十歳という年齢とは思えない身長、ダボダボのアオザイが異様さを際立たせている。
「え? 調査してますよ〜。楽しみながら調査しているんです」
 腰に手を当てながら威張ってみせる和泉。
 和泉とαは幾つかのアトラクションに潜んでいるというキメラを探索する任務を受けていた。それも一般客に見つからず、秘密裏に始末して欲しいというものだ。遊園地だから楽しみたいという気持ちも分かるが、楽しむのはキメラを退治してからでも遅くはないはずだ。
 そう考えるαは、和泉を急かしてみる事にした。
「遊ぶなら、キメラを倒してからでも良いとは思いますよ?」
 ボートから下りた後は、徒歩にてジャングルを探検する事になっている。
 案内役のスタッフは2人を置き去りにしたまま、他の乗客を連れてさっさと先へ行ってしまったようだ。依頼を聞いたスタッフがキメラを捜索しやすいように2人をわざと残してくれたようだ。
「でも、このジャングルって無駄に本物っぽいよね」
 和泉は探査の眼を使って周囲を警戒する。
 相手のキメラはスライム型。何らかの形に姿を変える事ができる。厄介な相手だが、知能は低い。姿を似せられるだろうが、必ずミスがあるはずだ。
 ――そして。
「そこだっ!」
 和泉は地面に落ちていた小石を、目の前に居たヒョウに向かって投げつける。
「キメラを見つけたの?」
「いやー、あの辺が怪しいかなぁと思って投げつけてみただけなんだけどね」
 あっけらかんと笑う和泉。
 怪しい気配を感じ取って石を投げつけてみただけのようだ。
 だが、こうした直感は意外と当たる物である。
「あれ? さっき石を投げたヒョウは?」
 αがさっきまでヒョウがいた場所に近づいてみる。
 そういえば、あのヒョウだけ機械音が聞こえなかった。遊園地である以上、本物のヒョウをここに置くわけにはいかない。だからこそ、高性能ロボットが客を楽しませる訳だが、ロボットから聞こえるべき音をヒョウから聞いていない気がする。
「やっぱり、あれがキメラ!?」
 慌てて覚醒するα。
 先程までダボダボだったアオザイは、αの体にピタリとフィット。豊満な胸はより強調され、アオザイの上からでも腰のくびれが強調される。
 戦闘準備を完了するα。
 しかし、キメラの方が先手を取る。
「αさん、上っ!?」
 和泉はαの頭上を指差した。
 いつの間にか木の上に登っていたヒョウは、αの頭上に向かって飛び降りた。本物のヒョウと一点違うところは、その体の一部を緑色のゲル状へと変化させながらαの体に向かって飛び降りた事だ。
「きゃあ!」
 思わず悲鳴を上げるα。
 ひんやりとした感触が生理的嫌悪感を引き出し、体から聞いた事もない怪音が耳の奧へとこびり付く。どうやら、αのアオザイはスライムの強酸によって溶かされ始めているようだ。緑色に帯びたスライムの体ではあったが、覚醒で急成長したαの肉体がシルエットとして浮かび上がる。
「αさん!」
 和泉は洋弓「アルファル」で的を狙った。
 的は――今だヒョウの形を留めるヒョウの顔面。
「当れっ!」
 弓から解き放たれた矢は、水気混じりの空気を裂きながらヒョウの顔面へと直撃する。 横からの力を受けてはじき飛ばされるスライムの一部。致命傷を与えたのかは分からないが、αが脱出する時間を稼ぐには十分だ。
「もう、お返しですよ‥‥えいっ!」
 迫力のない声と対照的に、αは牛頭馬頭による容赦無い拳撃を加える。
 強烈なストレートがスライムを捉え、後方へ吹き飛ばす。
 スライムは背後にあった大木に激突。幹に叩き付けられたスライムはそのままゲル状の物体へと戻り、動き出す事はなかった。
「一時はどうなるかと思いました」
 安堵を浮かべるα。
「αさん。それ‥‥」
 和泉はαの胸部から下を指差した。
 促されるままに視線を下ろすα。
「え? ‥‥いやぁぁん!」
 覚醒したαの肉体は豊満なボディへと変化していたが、スライムの酸により無残な姿となったアオザイはそのボディを隠しきる事もできない状態となっていた。
 思わず胸を両手で押さえるα。
「あはは。さて他の方々はどうでしょうかね?」

●地底の死闘
 一方、キメラが潜入したと思われる『フォールランダウン』。
 地底人と戦うアトラクションで、屋内の迷路を歩きながら登場する地底人を光線銃で撃つというシューティングアトラクションだ。
「宗太郎君、ボクを護ってくれるよね?」
 ゴスロリ衣装の月森 花(ga0053)は甘えた声で宗太郎=シルエイト(ga4261)に囁きかける。
 花は宗太郎の腕に絡みつくように体を寄せている。当の宗太郎も花とのデートは久しぶり。浮ついてしまう気持ちを必死で抑えながらも、その顔はどうしても綻んでしまう。
「もちろんだ。仕事中だけど仕方ないよな。楽しくても」
「あの、すいませんがキメラを捜索してますか?」
 2人の後ろからLL−011「アスタロト」を纏って歩くのは御剣 薙(gc2904)。
 アスタロトをハロウィンの仮装という形で押し切っている御剣。だが、共に行動する花と宗太郎のカップルに余計な疲労を抱えている気がしていた。
「ボクたちは囮なんだ。ね、宗太郎君?」
 どうやら花は宗太郎といちゃつく事で囮役を買って出ているつもりらしい。
「そ、そうだな。それで、勘弁していただけませんか?」
 御剣に軽く詫びる宗太郎。
 その顔は悪気は感じられず、花とのデートによる笑顔が零れている。
 それを見るだけで、御剣は思わず溜息をついた。
「まったく‥‥ん、あれは?」
 御剣の視界に入ったのは迷路の廊下で立ち尽くす1人の少女。
 あの少女には見覚えがある。確か、以前廃棄物処理場に現れたキメラを退治する任務で護った――アンネという少女。
 少女の眼前には、ゆっくりと歩いて迫る地底人。
 このアトラクションでは現れた地底人を撃つもの。歩いて迫る地底人は存在しない。つまり、アンネはキメラに襲われている事になる。
「‥‥あ、あ‥‥」
 アンネは叫び声一つあげず、その場で立ち尽くすしかなかった。
「間に合ってくれ!」
 御剣は竜の翼で一気にアンネの元へ駆け寄った。
 幸いにも迷路の直線距離阻む物は何もない。
 ――ジュッ!
「くっ!」
 アンネの前に滑り込んだ御剣は、盾となってキメラの攻撃を阻む。
 強酸混じりの一撃が、御剣の右手に振り降ろされて消化音が響き渡る。
 その異常なる音でアンネは我に返った。
「あ、あなたは!?」
「無事で何よりだ。こいつの相手はボクらがする」
「御剣君っ!」
 心配して駆け寄ってくる花と宗太郎。見たところ、腕以外に負傷箇所はなさそうだ。
 御剣が間一髪でアンネを救った事は良い判断と言えるだろう。
「もう! デートの邪魔した罰だ!」
 囮役ではなく、はっきりと『デート』と認めた花は超機械「ビスクドール」をスライムに向けた。
 産み出された電磁波はスライムの体を包み込み、多湿なその体を振るわせる。
 一瞬、動きが止まるスライム。
「宗太郎君、頼むっ!」
 御剣はスライムの地底人部分が残っていた腹部に向かって竜の咆哮を叩き込む。
 スライムは宗太郎の方に吹き飛ばされる。
 宗太郎の手に握られているのは一本の模造刀。
「我が刀に斬れぬ物はなしっ!」
 吹き飛んだスライムに対して、カウンターのように刀を振るう宗太郎。
 だが、よく見れば模造刀を握りしめる手でスライムを殴りつける。
 宗太郎に殴られたスライムは四散。床や天井に緑色の体をぶちまけて飛び散らせた。スライムは宗太郎の一撃で完全に倒したようだ。
「アンネ君だっけ? 大丈夫だった?」
 花はアンネに話しかけた。
 その一言で戦いが終わった事を察したアンネは、心配そうな表情を浮かべて御剣の方へと向き直った。
「どうしよう。ギュンターとはぐれちゃったの!」

●魔城の死闘
 喧噪溢れる園内において、不釣り合いな漆黒の城。
 宵闇の中ではランプと城内部からの漏れ出た光が鈍い光を放っている。

 ここはローランド城。
 かつて『真紅のオーガ』と呼ばれ、圧政を引いていた暴君ボブ・ローランド王。逆らう者は濡れ衣を着せてでも処罰し、その処刑を見ながら晩餐を楽しむのが日課だったという。最後は民衆や臣下の反逆にあって、小さな檻に入れられたままその身を焼かれた。だが、ローランド王の怨念は今でも城に残り、自分を楽しませて死の苦痛を和らげる事の出来る客人を求めている。楽しませる事のできる客人はローランド王に永遠の命を与えられ、未来永劫ローランド王を楽しませる運命が与えられる‥‥。
 恐怖を求める来園者は、またローランド城へと足を運ぶ。

「ちっ!」
 デスローブを纏ったミイラ男姿の那月 ケイ(gc4469)は盾で身を護りながら舌打ちをした。
 スライムを発見するのは簡単だった。ここはスタッフがモンスターの扮装をして驚かすアトラクション。ならば、モンスターに化けて人に接触すれば良い。人を発見した段階で脅かして見せ、驚かなければ飴玉などを投げつけてフォースフィールドを確認すればいい。
 そして、キメラはゾンビの姿で発見された。
 問題は――その後である。
「先輩!」
 尻尾まで付けた狼男姿の安原 隼(gc4973)は小銃「ブラッディローズ」でゾンビに向けて撃つ。
 城内に木霊する銃声は響き渡り、付近に居たスタッフを驚かせる。さすがに銃を連射するのはパニックを引き起こす結果になりかねないようだ。
「銃は撃つな! それに、跳弾があの子に当るかもしれない」
 那月は苦々しそうにゾンビの腕を睨み付ける。
 そこには、ゾンビの体内へ取り込まれるように捕まったギュンターの姿があった。実は那月はゾンビに飴玉を投げつける事はなかった。投げつける前にゾンビがキメラである事が分かったからだ。なにせ、意識を失っていたギュンターがいたのだから確認する必要はない。
「じゃあ、どうすれば‥‥」
「まずは、新さんに連絡だ」
 那月は別行動を取っている秦本 新(gc3832)への連絡を呼ぶ事にした。
 人手があれば、ゾンビの隙を付けるかもしれない。
「あ? 私をお呼びかい?」
 ゾンビは背後から聞こえた声に対して反射的に振り向いた。
 そこにはPR893「パイドロス」の上から無理矢理に狼男の着ぐるみを着た新の姿があった。狼男というよりはロボット型狼男に近いのだが、今の新はまさに救世主とも言うべき存在であった。
 ゾンビは反射的に腕を伸ばそうとする。
 しかし、腕と頭部をスパークさせた新は機械槍「ロータス」をギュンターの少し上を狙って斬り上げる。

 ――ザシュッ!
 鈍い音と共に、ゾンビの腕を切り落とす新。
 ゾンビの腕は緑色のスライムに戻り、ギュンターの体を放出する。
「よし、息もある。こっちは大丈夫だ」
 新はギュンターへ近づき生存を確認。ギュンターの命に支障はないようだ。
 こうなれば、後はゾンビを退治するだけだ。
「感動の再会を邪魔してくれて‥‥お礼をしないといけないよな?」
 那月は新の攻撃で慌てるゾンビに向けてカミツレを突き立てる。
 カミツレによって貫かれたゾンビ。徐々に体は元のスライムのものへと変わりつつあり、緑色の物体に近づいている。
「満足したかい? 俺のお礼。だったら、さっさと消えちまいな!」
 那月はカミツレを引き抜かず、そのままカミツレを横に薙いだ。
 カミツレはスライムの体を斬りながら、スライムを地べたへと這いつくばらせる。
 そこへ隼が素早い動きでスライムに駆け寄ると、「ブラッディローズ」を至近距離まで近づけた。あまり銃を撃ち続ければ騒ぎに発展する可能性もあるが、ここでスライムを片付ければ被害は最小限に抑えられる。
「Trick or treat?」
 準はスライムの反応を見る前に引き金を引く。
 再び鳴り響く銃声。
 数発の弾丸を飲み込んだスライムは致命傷となったのか、床に自らの体を横たえて動く気配を見せなかった。


●死闘の後で
「ちょっと! もう少し宗太郎君から離れてよ!」
「そ、そんな事言ったって」
 宗太郎の傍らに居た花は、同じように寄り添う和泉に向かって吼えた。
 花としては宗太郎とデートのやり直しをするつもりだったのだが、何故かローランド城へと集まってきた傭兵達のおかげでデートどころではなくなってしまった。
「そ、そんな事言ったって。私もお化けとか怖いし」
 傭兵のみんなと遊ぶ事を望んでいた和泉だったが、まさかホラー系アトラクションに集まるとは思っておらず、恐怖のあまり宗太郎の袖を必死で握りしめていた。
「だからって」
「でも、花もだって」
 宗太郎の言葉を遮るように3人の周りは暗転。
 一瞬にして闇が辺りを支配する。
 何処からともなく聞こえてくる低く鈍い声。ホラーアトラクション独特の雰囲気に花の背筋は凍り付く。
「ちょ、ちょっと‥‥」
 先程と変わって花の声が恐怖に震える。
 宗太郎の腕を必死に掴む花。もう限界は目前だった。

 ――ガタンッ!
 突如、天井からゾンビが登場。
 花と和泉の前に突き出された動く死体は、崩れ落ちた体を気にせずに腕を2人に向かって突きだした。
「きゃー!」
 2人の悲鳴は城内へ響き渡る。
 半泣き状態の花は、宗太郎の手を握りながらその場にへたり込む。
「やだ。もう‥‥帰りたい」

 キメラ退治の後、ジョイランドという娯楽施設を満喫する事にしたのだ。
 密林戦を経験した事のない新は、ジャングルサバイヴでジャングルを堪能。他の傭兵も各々でゆっくりと閉園までの時間を楽しむ。
「君たちも一緒に行こうよ!」
 隼がアンネとギュンターを誘ってローランド城へと誘う。
 2人の手を握る隼の横から魔女の衣装に身を包んだ御剣も現れる。
「行こう。特に勇敢になったギュンターの勇姿をボクは見たい」
 隼と御剣に誘われるまま歩き出すアンネとギュンター。
「ああ、ちょっと待ちな」
 那月は2人の側まで駆け寄り、中腰になるとアンネとギュンターの手の中に何かを握らせる。
 そっと手を開くと、そこには小さな飴玉が一つ。
 まだ那月の温もりが残る飴玉は、夢の国で生まれた宝石の如く光り輝いて見える。
 飴玉を見つめる2人に那月はそっと微笑みかける。
「ハッピーハロウィン! 夢の時間はまだまだ終わらないぜ」