タイトル:【黄鳥】制するものの路マスター:コトノハ凛

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/04 23:50

●オープニング本文


●其れは飽くなき、挑戦心
「‥‥やはり、大規模な作戦における‥‥DM‥天‥‥脈‥大小様々の‥」
 モニターからの灯りのみが照らす、薄暗い部屋にぶつぶつと呟く低い女の声が響く。
 それに応える物はなく、彼女をそれを期待している訳でもない。
 カタカタとキーを叩く音だけが、彼女に応える唯一のものだ。
 ――と、そこへとパタパタと軽い足音に次いで、バタンっと勢い良く扉が開かれる音が鳴る。
 その瞬間ぱっと部屋の明かりがつけられた。
 そこには、髪を二つのお団子に結い黄色のリボンで纏めた若い――女の子と言った方が適切かもしれない、少女が入り口にいた。
「主任〜、何故こんな真っ暗な部屋にしてるアルかー?」
 よく言えば、明るい。はっきり言えば、騒々しい声で訪問者はモニターから顔を上げない彼女の元へと近寄った。
 直ぐ横まで少女がやってきて漸く、彼女はキーボードを打つ手を止め少女の顔をチラリとみる。
「――煩い、香鈴」
 ボブの長さで切り揃えた髪がさらりと流れ、眼鏡に掛かるのを直し彼女は、部下の報告を待った。

 奉天北方工業公司―朱雀第24支部開発機構情報課・黄鳥(おうちょう)
 それが、その部屋、僅かディスクが6つ程納まった研究室の名称であり、主任と呼ばれた彼女――白蘭の任された領土だった。
 南方に支部を置く開発機構のデータやシステムの開発や情報を扱う機関ではあるのだが、直属の部下が香鈴という新人研究員一人に、お下がりのお下がりのようなマシン環境を与えられた黄鳥ははっきり言えば雑用の窓際部署である。
 新人の香鈴こそ、何も気にしていないのだが(恐らくは、性格だろう)白蘭は、こんな部署へ追いやった上層部への反骨心を常に持っていた。
 そして、その為の一手を今正に打とうと手筈を、香鈴に託していた。

「えーっと、大規模作戦を経験した傭兵を雇うして、実際の情報を揃えるで良いのヨネ?」
「違う、情報戦を扱いたい傭兵を――だ」
 情報戦、これこそが彼女が目を付けたポイント。
「追加兵装か、オプション機能としてのスペースに、情報処理特化のサブマシンを開発して載せる事で情報処理能力を格段にアップさせる‥‥デスネ」
「あぁ、少なくとも操縦者も、KV駆動処理系のメモリーも負担を減らせるのは、在り難い事だと思わないか」
 電子戦を目的とした機体を、いつでも揃える訳にもいくまい。それに年々、否――戦火の度に情報戦の規模は大きくなり、能力者が情報処理をする負担が大きくなってきている。
 何らかのサポートシステムの用意は需要がある。

 これは、KV開発などとても不可能な黄鳥にも出来る小型マシーンでありながら、上層部をあっと言わせる可能性を秘めた開発計画。
「箱モノしか目の行かぬ凡愚ども、引きずり落としてやる」
「はわわ、主任、落ち着くっ落ち着くのヨ! はい、梅茶ヨー」
 声音こそ静かで変わりは無いのだが、物騒な白蘭の物言いに慌てて香鈴がお茶を出す。
 こんな時が一番怖いのだと良く知るからだ。
 お茶を啜り、一息ついて気が落ち着いたのを見てから香鈴が切り出した。若干の怯えをお茶汲みのお盆を抱えて隠しつつ。
「取り合えず、傭兵さんの意見を聞く為の予算は取ってくるしたのヨ。ULTさんに提出する文章、どうするカ?」
「そうだな、‥‥では」
 優秀で柔軟な発想と、鋭い着眼点を持つが、コミュニケーションに難ありの主任白蘭と、
 暢気で忘れっぽく、あまり頭の回転は速くなく迂闊だが、お金が絡む方面に滅法強い香鈴。
 彼女達は、戦場に新たな波紋を投げる事が出来るのか。
 まずは、その第一歩を踏み出したのだった。

●依頼
「と、言う訳でお仕事です」
 何故だか、随分久々に聞く気がする声の主は、オペレーターの蔡。
「今回は戦闘ではなく、開発協力になりますので、危険は一切ありません」
 モニターには奉天の文字が映し出される。
「具体的な話は流石に届いてませんけど、KV戦――それも、大規模作戦を睨んだ電子戦をサポートする開発を進める為に、皆さんの意見を聞きたいと言う事だそうです
 KV開発ではなく、武装に部類するみたいですね」
 電子戦、目には見えないが特に最近重要視の動きが見られる。
「あまり多い報酬ではありませんが、意見次第で今後の開発が変わってくると思います。参加、されますか?」

●参加者一覧

アグレアーブル(ga0095
21歳・♀・PN
メアリー・エッセンバル(ga0194
28歳・♀・GP
篠崎 美影(ga2512
23歳・♀・ER
北柴 航三郎(ga4410
33歳・♂・ER
秋月 祐介(ga6378
29歳・♂・ER
カーラ・ルデリア(ga7022
20歳・♀・PN
錦織・長郎(ga8268
35歳・♂・DF
白岩 椛(gb3059
13歳・♀・EP
橘川 海(gb4179
18歳・♀・HD
テト・シュタイナー(gb5138
18歳・♀・ER
Observer(gb5401
20歳・♂・ER
佐賀十蔵(gb5442
39歳・♂・JG

●リプレイ本文

●集合
 比較的雨の多い土地柄通り、その日も細い雨がしとしとと降り続いている。
 重慶の南に位置する、貴州は貴陽市にその部署はあった。
 奉天北方工業公司―朱雀第24支部開発機構情報課・黄鳥(おうちょう)常勤僅か2名の開発とは名ばかりの、窓際部署である。

 黄鳥の置かれた建物は、建築当初こそ主要な業務ラインを想定して作られた為設備はしっかりしていた。
 しかし、度重なるバグア軍の侵攻の影響――特に、インド方面の不安定化と西安が落とされた事による奉天への経済的ダメージ。その他諸々諸々。それらが重なり新設部署は、盥回し的に施設内の他部署の雑用を廻され、そのまま定着してしまった。
 奉天には、この様な小さな部署が実は一杯ある。
 なので、珍しい話ではないのだが、そこに赴任した人間が折れずに本来の開発を行うのはそこそこに珍しい。


「私が、朱雀第24支部開発機構情報課・黄鳥の主任を務める張白蘭だ」
 彼女達の計画に集まった傭兵は12人――定員まで埋まった事に、黄鳥の主任・白蘭は内心満足を覚えた。
(やはり、私の読みに狂いは無かった)
 ピシリと糊の良く効いた白衣を纏い、割と長身な姿にその言葉遣いも相まってキツイ印象が強い。
 もう一人の――香鈴の方は、挨拶を一人一人しながらプリントを手渡している。丈の余る白衣に、低い身長、やや童顔でもたもたと用意する姿は、必要以上に頼りない印象だ。
 こちらも、話の通りと言った所なのだろう。

 綺麗とは言い難く、日当たりの悪そうな小会議室に案内された面々は、改めてその境遇を認識させられた。
 ――なるほど、これは大変そうだ。
 心の声で感想を述べ、テト・シュタイナー(gb5138)は配られたプリントをざっと見る。募集要項以上の目新しいことが書かれてない、つまり自分達の発言如何で変えていけると言う事だろう。
 言うべき事と気が付いた点を簡単にメモをとりながら、今回の参加者に思いを巡らす。参加者の中にはテトも名前を聞いたり見かけたりした事のある顔が居た。
 ――『情報は力』って言うからなぁ。こういう代物が必要とされるのも当然だよな。
 口調や振る舞いはさばさばした彼女も、日々多方面への知識を納めるサイエンティストだ。
 全ては、大切な家族の為に。自分達のような境遇の子供がこれ以上増える世界を終わらせる為に。
 新しい開発はその手段の一つに違いないのだ。
 ――ともあれ、形にしてもらわないとな。
 そう、過る過去のイメージを振り払い、白蘭からの説明に意識を切り替えたのだった。

●集積
「では、簡単な自己紹介と説明が終わった所で、早速本題に入りたい」
 顔と名前が一致した所で、白蘭が切り出した。
 その態度と言葉は相変わらず高圧的ではあったが、先ほどよりはマシな印象に見えなくも無い。
 理由は、各々の前にちょこんと用意された甘い香り――紅茶とブラウニーによる所が大きいだろう。
「ん、おいし♪」
 思わずメアリー・エッセンバル(ga0194)の声が漏れた。口に広がる甘さ控えめでほろ苦い味に、自然と眦が和む。
「それは良かったです。糖分は脳の運動を良くするし、お腹に物が入れば苛々も引っ込みますから」
 感想に反応したのは、柔和な笑顔を浮かべた北柴 航三郎(ga4410)だった。
 少しでも和めばと、持参したのだが、その効果はあったようだ。――もっとも、一番和んだのは隣の金髪の知己であるかもしれないが。
「確かに美味しい」
 隣で、やはりブラウニーを口にした錦織・長郎(ga8268)が唸る。
 それを見たメアリーは、妙な既視感を覚えた。
 何処かで――それも極最近見たような‥‥
 ――あ。
「くず鉄ぶつけたくなる、ってよく言われません?」
「‥‥で、くず鉄を何故僕に向けるのかね?」
 憮然とした顔で長朗が呻く。見れば、航三郎も口元を押さえて、失礼にならぬよう笑うのを堪えている。
 某くず鉄博士に似てると言われても、何の血縁関係も無い訳で。こんな所で責任を押し付けられても大変に困る訳だ。
 当の長朗とて某博士に投げたくなる事もあったりなかったり‥‥。
「こほん、で、本題に入りたいのだが?」
 折角マシな印象になった筈の白蘭の冷たい声に、長朗は更に呻いた。
 ――脱線した際のフォローに務める予定が、僕自ら脱線するとは。
 とはいえ、会議はこれからだ。そう、自分に言い聞かせ用意してきた機器をセットした。


「さて、募集要項で知らせて在った通り、諸君等の忌憚なき意見を聞かせてくれ」
 一瞬、誰から意見を言うかの譲り合いの沈黙があり、最初に発言をしたのは優雅な立ち振る舞いと見事なスタイルをスーツ姿で纏めた篠崎 美影(ga2512)だった。
「コンセプトとしては、賛成です。情報のバックアップサポート、と言う事でしたけど、現状だと航空戦に比べ市街戦での情報網は、障害物によってセンサーが十分に機能しないなどで空白になる区域が発生しているんです」
 それには、一同が首肯した。
「そこでKVから投下出来る設置型の小型センサーを提案します」
 流動的に動くKVからの情報と、定点からの観測データ、双方を取る事でセンサー網の死角を減じる事が出来まいか。
 複数の子機を設置する事で特定範囲内の探知能力の向上も期待できるかもしれない。
 美影の言葉にテトが同調を示した。
「子機といえば、AU−KVでも情報を扱いたいって人がいるようだぜ」
 現在はAU−KVに情報をメインに扱う機体はない。機体特性と言ってしまえばそれまでかもしれないが、彼らしか行く事が出来ない戦場がある以上、そこでの情報も無視は出来ないかもしれない。
「あ、そうです。救護・支援だけでなく、より明確な情報が必要な作戦も増えてきましたのでっ」
 テトの言葉に緊張した面持ちの橘川 海(gb4179)がドラグーンとしての意見を言う。
 生身での通信は、現状は大きな設備が在る場所じゃない限り市販のトランシーバしか無いような状況だと。 
 ま、サブシステムがきっちり完成させた後のお話になるだろうけどな、とも付け加えて白蘭の方を見る。
「確かに。子機の話は面白いが、シュタイナーが言ったとおりサブシステムの開発が済んでからの形が現実的であろうな。美影の案も、戦場での設置型の形を取る以上使い捨てが理想だろう。
で、あればコスト面も考慮にせねばなるまい」
 白蘭の言葉に、美影、テト、そして海が頷く。

「やね。出来る限り余裕持たせた方、後から追加したいなと思った時に、1から作りなおさないけないしね〜」
 そう『釘』を刺したのは、特徴的な口調と涼しげな瞳をしたカーラ・ルデリア(ga7022)だった。
 彼女はこのシステム開発に対して、過大な期待はせずに参加していた。より、正確に言えばこの開発チームにそれだけの事が出来るのか、現状のシステムとの相互させる事で生じる問題を解決できるのか? 実用レベルまで持っていけるか懐疑的であった。
 しかし、
『このシステム、上手く行けば戦術を一変させることが出来る』
 目の付け所としては、面白いと思いだからこそ、欲張って破綻させないようにする――そこが一番の参加理由だったのかもしれない。
「とにかく、限定的な機能でもいいから、情報処理・配布をサポートできる物を作って欲しいやね」
 彼女の隊では、補給関係に重きを置いて情報を扱っている。物資の収束・管理、そして必要になる物の予測、それらを円滑に行う為に莫大なデータを扱う必要がある。
 そう、膨大な量の情報だ。
「必要となる情報は役割によってそれぞれ違うし、結局、情報収集・処理・配布を効率よく行ってくれるシステムがあれば、役に立つんじゃないかな? かな?」
「ふむ、使い手にとって応用の利くものにするか、限定化する代わりに一点特化するか‥‥と、言った所か」
 これこそ、現場の人間じゃなければ解らない『生きた情報』であり、満足げに白蘭は頷く。

「特化‥‥になってしまうかもしれませんが。より多くの意見、と言う事で、兵舎等に足を運んでそちらの話も拝聴してきたので」
 眼鏡をついっとあげ、Observer(gb5401)が発言する。
 要点を絞っての説明に白蘭が頷く。
「抗ジャミング能力を持たせるとなると、サイズやコストが嵩むだろうな。ふむ、指向性長距離通信というのも面白くはあるな」
「レーザー等の利用になると思いますが」
 それは、どれに関しても言えるのだが、全体に関わる事になりかねないだけに、壁は高そうだ。
「伝達の体系にも変化が起きると思います。出来ればそれを見越して開発出来れば良いのですが」
 現状ですら多くの体系が混在している状態だ。それを総括し、効率と精度を上げられないものかと苦心している人も居るのだが、傭兵全体の意思疎通は中々に難しい。
 Observerはちらりと、その『苦心している人』を見た。
 その意味を正確に読み取ったのか、秋月 祐介(ga6378)は苦笑で答える。
「これは、サブシステムの概要とは外れるかもしれませんが、目視をサポートする、望遠カメラの画像データを処理する機能を持った機器を作っては? と思います」
 『情報の処理』よりも『情報の質と量、確実性』の向上を求める形だ。
「またその機器は『武装』として軽量に扱えると利用者が増えるかと」
「面白い‥‥が、先ほどの意見じゃないが、余裕のある開発と言うよりは特化型になりかねないな」
 分析処理のサポートは良案だが、両立させると難易度が上がりそうだ。

「画像といえば―」
 言葉に、反応したのはアグレアーブル(ga0095)の抑揚の薄い声だ。
「空間ビジュアル化の話がありましたね」
 無表情を変える事無く、言ったアグレアーブルに白蘭が聞き返す。
「状況を示すマーカーの表示が出来ないかっていう話さ。ぱっと見で状況が解るだろ」
 つまり、味方機のコードを受信し、そのアイコンの横に『交戦・補給・撤退』等をマーカー表示の処理を負担させられないか、と言う事だ。
「並列処理の案もあったよな」
「はい、御座いましたですね。搭載機同士でリンクさせて処理能力を上げる事は出来ないかと言うものですね」
 頷いたのは、香鈴と共に議事録を取っていた白岩 椛(gb3059)だ。と言うよりは、議事録の殆どは椛が書いている。香鈴だと、速度に付いて来れず書き漏らしが生じる所だっただろう。
 とは言え、そんな時の為に長郎が機器――ボイスレコーダーを用意しているのだから、抜かりは無い。
「私からの提案としては、折角の電子戦機の演算能力ですし、いくつかソフトウェアの方向性を提案ですね」
 和柄の愛用のメモ帳をぱらりと捲る。
 搭載KVから情報を受け取り、自動的に収集した情報を送る。集まった情報の整理、取捨選択。
 それに、先ほどの搭載KV同士の並列処理も書き加えられた。
「奉天には、旋龍に搭載したアンチジャミング装置がありますので、あれを応用した広範囲レーダーの様な効果の得られる物が出来ると思います」
「確かに、他社製品より融通が利くな。開発チームに協力の説得が必須だろうが」
 KV開発チーム、それは奉天におけるエリートにあたる。何かを思い出したのか、白蘭は苦々しい表情を作った。
 それを見た椛は、用意してきた助言をする。
「その閃きを大切にしてください。ただし、もう少し熟慮が必要かと」
 コミュニケーションは、勢いだけでは成立しない。
「‥‥善処、しよう」
「えぇ、今回の判断に関しては、私個人としてはかなり正解だと思いますので、この機会に存分に腕を振るうと良いかと」
 励ますようにそう告げると、白蘭は少し驚いたように椛を見返し、頷き返した。

●解析
 意見交換は進み、頂点の辺りにあった太陽が、ゆっくりとビル間に沈んでゆく。
 電子戦機の行き届いてない水中機にも搭載可能が望ましい。尤も、既に開発されている話もある為、其方との兼ね合いも課題になるであろうが。
 並列処理の可能性として、データを自動で共有する事で万が一、収集した機体が撃墜されてもバックアップが取れる。敵位置情報や交戦記録から、敵部隊の能力など予測が出来れば有り難いなどの意見や、ライブラリーを自動で照合する作業を当てられないか等の意見が出た。

 その中で特に大きく取り上げられたのが、祐介の意見だ。
「旧時代の空戦も、無線で仲間に視界外の状況を知らせ、指示・管制役を配し、交戦したという例も聞きます。それをシステムで発展させ実現できないか、と」
 この依頼に参加した12名の中でも取り分け、強い思いをもって参加した彼は、自作のHEXMAP表示式状況分析プログラムを提供したほどだ。これには、白蘭も驚き、ビジュアル化の方針として、上を説得する良い前例が手に入ったと、礼を言ったほどだ。
「黄鳥に賭けるのも面白いと思いましてね。All−In、全力で協力させて戴きたい」
 その言葉には、言葉以上の想いがあったのだろう。
 ここまで、傭兵全体の連携を図れないかとあちこちに顔を出し、声をかけて苦心してきたのが祐介だ。数度の大きな戦いで着実に成果上げてきている。
 ――この男、この男も私と同じく情報に命を懸けていたのか。
 独自開発をしようとして、『傭兵』という立場の限界にぶつかった事もあるのかもしれない。
「解った、これからも協力を頼む。私は私の出来る限りを尽くして開発しよう」
 だからそう、言った。
 彼女は『開発者』だから。

 また、メンバーの中では一番大きな部隊の隊長であるメアリーの言葉も強く響いた。
「隊長と言っても、私自身は然程強くありません。だからこそ【ガーデン】の事を好きと言ってくれる皆の命を守り、攻撃をサポートする力が欲しいんです。大好きで、大切な仲間達の為に」

 ――その為の、手段が欲しい。

 これは、難しい事が苦手な香鈴の心にも響いた。
 自分達が何をしているのか。どんな期待を受けているのか。
「そう、ですヨネー」
 自分達の先にあるもの――改めて、自覚させられた。
 戦場で戦うのが傭兵なら、それを支えるのが開発、技術者の戦争だろう。

 黄鳥は開発に必要な情報以上の物を得たに違いない。
 戦場を、情報を、開発を、戦況を――制するモノの心を。
「期待に応えるよう、出来る限り早く次の形を見せるようにしよう」
 長朗と椛の纏めた議事録と、祐介の私的な開発情報を受け取った白蘭はそう強く宣言した。


 傭兵達が外に出た時、空はすっかり群青に染まっていた。
「わしの提案も悪くは無いと思うのだ」
 帰りにそう洩らした佐賀十蔵(gb5442)は、一蹴された提案を思い返えす。
「未だ『倫理』はわしの邪魔をするか。この未曾有の危機を以てしてもっ」
 科学者、そして能力者として彼もまた一つの路なのかもしれない。
 ――どれを、選び往くのか。その連続の集積が、世界の結果なのかもしれない。