●リプレイ本文
●南瓜よ南瓜
空高く雲が流れ、典型的な秋空が広がっている。
ここは南瓜が特産のある中国の街。
今日は祭りの日。この街では、南瓜の豊作を祝う昔ながらの祭りは近年、若者達の手によって、外来の祭りであるハロウィンを混ぜ込まれた独特の催事が行われる。
「はい、イベント是非参加してね〜」
「よいこのみんな〜見つけたら教えてねーー」
人懐っこい笑顔でチラシ配りをしているのは、新条 拓那(
ga1294)と坂井 胡瓜(
gb3540)だ。
「‥‥南瓜祭りのスペシャルイベントだよ。はい、どうぞ」
ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)も深みのある微笑を浮かべながらチラシを配る。
――数時間前、高速移動艇にて。
「闇雲に探すよりはいいかなと思いますよ」
鳳覚羅(
gb3095)はそう提案した。
一度、能力を開放すれば墨色に染め上がる髪も今は輝くほどに白い。
「そうですね、スタッフさんには観客席とのあいだを十分とって貰って」
その、覚羅に同意をしたのは羽衣・パフェリカ・新井(
gb1850)。
まだ幼い風貌をより幼く見せるのは、どこと無くぽやんとした雰囲気だからだろうか。
しかし、依頼の内容を確認して対策を練る姿にはサイエンティストの知性が垣間見える。
「って訳だからよ、ヨロシク頼むぜ!」
にっかりと屈託無く笑った屋井 慎吾(
gb3460)は、『彼』に向かって手を差し出す。
熱血とか、ヒーローとか、男の子の永遠の浪漫だよねっ。あと、食欲。
同じく食欲に動かされてる人がもう一人、この依頼には参加していた。
「美味しいー南瓜が、食べられるとー、嬉しいですね〜」
坂井 胡瓜(
gb3540)が本を片手に、のんびりと『彼』をみる。
『彼』――依頼主代表として、出迎えに来た、黄金の南瓜怪人。
パンプキン・オブ・ジャスティス、街で人気の地域密着型正義のヒーローにして、傭兵のエクセレンター(新米)である。
「では、スタッフには我輩から説明と協力を仰いでおくとしよう」
ジャスティスはくわんと黄金に輝く南瓜頭で頷いた。
「既に原稿は用意してありますよ」
覚羅は、優しげな――容赦の無い微笑を浮かべる。
『ソレ』を受け取るパンプキン。
しばしの沈黙。
「‥‥ちょっと良いであるか?」
「さぁ、一刻も早くキメラは排除しないとね」
確かに、間違いない。
「いや、確認したい事が‥‥」
「‥‥早く倒せば、俺達も祭り楽しめるしね」
祭りの手伝いの予定だったしそれも間違っていない。
「我輩の知らぬ所で、勝手に‥‥」
「頑張ってくださいね、南瓜さん」
とどめの一言に、南瓜怪人は素直に『ソレ』を大量のコピーを了承した。
ついでにスタッフにも声を掛けようと、高速艇の出口付近へ足を向けた。その時、ジャスティスの足に何かが引っかかる。
「だぁあっ!」
「‥‥あ、すまん‥寝てた」
派手に宙を舞いすっ転んだジャスティスに詫びたのは、影で足を伸ばしてぐっすり寝ていた紅月・焔(
gb1386)だ。
今日も今日とて、寝不足らしい。
「だ、大丈夫なのである。では諸君、また後ほど‥‥である」
よろりと立ち上がり、片手を上げて退場する。
始まる前から、既にボロボロに見えるのは気のせい。
「ヒーローっていうのも、大変なんだな」
北条・港(
gb3624)の言葉が妙に哀愁を誘った。
でも、南瓜、泣かないっ。
●南瓜行進曲
『―ヒーローショー案内―
秘密結社の怪人が街中に紛れてしまいました。
黒カボチャを見つけたら、すぐに本部へご連絡を。
見つけたお友達には、ジャスティスから豪華なプレゼントがあるよ!』
お祭りは夜からが本番ではあるが、やはり子供などが多く参加する祭りな為か、まだ日のある時刻でも人出は多い。
出店も軒を連ね、街全体が祭りの空気で華やいでいた。
その中に、黒の小さな影があっちとこっちに紛れている。
誰もその影に気がつかない――訳ではなかった。
子供達が足早に駆けていく。手には、チラシが握られていた。
祭りの本部で、ステージの用意をしながら報告を待つ覚羅は、持ち込んだ携帯の圏外表示を改めて確認する。
「携帯、此処は使えないんですね」
「こんなお祭りが行える街でも、こういう事を見るとー改めて認識しますね」
羽衣も、作業の手を止め少し悲しげな顔をした。
彼女が産まれるよりも数年も前、バグアが襲来して世界は一変した。
普通の事は、普通には出来なくなり、携帯も――あまり一般には普及していない。
チラシには、最初は携帯に連絡をと書く所だったのだが、圏外である事と普通の人の所有率の低さに本部で報告を受ける事になったのだ。
と、世界を憂う話題をしているのだが傍から見ると、どこまでも悪の幹部と解説のお姉さんだったりするのは触れちゃいけない。
そこへ、赤いマントを翻して慎吾がやってくる。
「ステージの細工は終わったぜ」
何故か口をもぐもぐと動かしている。
気がついた羽衣がじっと慎吾を見た。思わずついっと目線を逸らす。
「な、なんだよ。どうか、し‥したのか?」
明らかに動揺する慎吾の後ろから、港が無言で中身の無い飴の袋を掲げる。
覚羅と羽衣も無言でそれを確認し、次いで慎吾に視線を戻す。
沈黙。
「わ、悪かったって!」
沈黙に耐え切れなくなって、謝った時――本部にチラシを握り締めた少年達が訪れるのだった。
潜みし祭り、招かれざる影。
集いし者達、勇猛なる戦士。
果たして、子供達に安全な祭りを届ける事が出来るのか!!
●南瓜ヒーローズ・場外
人込みの中を小さな影が陽気に踊る。
橙のマントを翻し、黒南瓜の妖精は踊る。
ふらりふらりと何かを探すようにしていたソレは、噴水の前に溜まっていた少女達を見つけると、テケテケと近寄った。
少女達はその姿に歓声を上げる、余りにも無防備に。
「わぁ、かわいー」
「ほんとー、マントがいいね♪ ジャスティスの真似?」
「あれは金じゃん」
「‥‥‥」
沈黙していたそれが、ゆっくりと少女の一人を見つめる。
「な‥なに?」
その空洞の目から不気味さを感じた少女が思わず、後ずさる。
開いた距離を無言で詰めるソレ。
一緒にいた少女達も雰囲気に呑まれ動けない。
おかしいおかしいおかしい、これは一体‥‥ナニ!
少女が我を失いかけたその瞬間――
「ふはははは、我が名はトワイライトバロン! 闇夜の帳に生きる者!」
全ての空気を打ち壊す高笑いが響いた。
声の場所は、屋根の上。
ファントムマスクにスーツを着込み、手にはランタン。
マントが無いのがいっそ惜しいほど、何処からどう見ても――怪しげな仮面紳士がそこに居た。
「まだ昼じゃん、とかいう無粋な突っ込みは無しにしてくれたまえよ諸君!」
それ以前の問題な気もするのだが、少女達は幸いな事に呆気に取られて言葉も無かった。
「平穏なる闇を乱す怪物め、覚悟するがいい! とぉうっ!!」
ぶわりと、屋根からバク転混じりに飛び降りる。
その姿はまさに、映画に出てくる怪人のように格好良い。
ぐきゃり。
ちょっと、痛そうな音が響く。
挫けずに立ち上がる、バロン。
ちょっぴり、へっぴり腰になって痛みを堪えるバロン。
「‥‥おふざけはこれ位にして、真面目にいこう真面目に」
「ゲロゲロゲロ♪」
「あはは、がんばってーバロンー」
結果として、愉快なアトラクションの様に見えたのか、少女達が声援を送る。
落下したのも報われるというものだ。
「我が剣、止められるものなら止めて見よっ」
キンッ―と、瞬く間に距離を詰めるとブラック★パンプキンの足元を払うように薙ぎ払った。
その瞬間、軽傷を受けバランスを崩しただけのはずのブラック★(以下略)が、大きく後方に吹き飛ぶ。
常人の目には、それはバロンが何かをしたかの様に映っただろう。
しかし、 バロン――に扮した拓那は、ちらりと背後の茂みを確認すると僅かに頷く。
「狙撃の魂を受け継いだ!SO〜GE〜KI〜二世〜!」
茂みの中から、SOGEKI二世こと、胡瓜が現れた。
手にはたった今、敵を撃ち落した銃が握られている。
「必殺、‥‥です」
仮面の下でこっそりとはにかむ。
慣れない事はやっぱり少し、恥ずかしい。
「もう大丈夫ですよ、お嬢さん達。悪い妖精は我らが倒したゆえ、安心して祭りを楽しむが良いぞ。
はーはははは」
傭兵として後輩のサポートに努めるバロンこと拓那は、最後まできっちり怪しさを振りまくのだった。
見習うべきか、迷う所である。
一方その頃、同じくブラック★と対峙を果たした者が居た。
紅のコートに、紅のデビルカチューシャを付けたその影は、黒い南瓜を否定するかのように、ブラック★を紅いペイント弾で真紅に染め上げていた。
幸いペイントは、催事用に一杯在ったので思う存分使える。
「予の目が赤いうちは、黒カボチャなど認めぬ」
ミスターレッドデビルと名乗り、既にギャラリーは遠巻きに突如始まったイベント観戦という形が出来上がっていた。
世界中の南瓜を赤く染め上げたい『紅い悪魔』は、スラリと長剣に持ち替えると、赤く染まった小さなキメラに斬りかかる。
――ふざけたカボチャども‥‥昨年もお世話になったな。
太刀筋に、再び現れたキメラへの『挨拶』を込めて貫いた。
『紅い悪魔』――ホアキンは、去年現れた同種のキメラの対処にも当たっている。
祭りを邪魔するあのキメラ、今度こそきっちりと引導を渡したと思いたいものだ。
ブラック★を倒したホアキンは、そう思うのだった。
●南瓜ヒーローズ・舞台
煌びやかに飾られた舞台。
今舞台に上がっているのは仮装であっても、本当のヒーロー達と言えた。
「ふはは ジャスティス我が秘密結社Jack−Oが創り出した怪人オレンジジャック貴様に倒せるかな?」
「黒渦のパンプキンダーク、貴殿の好きにはさせないのである!」
「あたしも居る事を忘れないで貰いたいな」
舞台の上には、南瓜マスクを付けた黒い男。それに敵対するように、
そして、オレンジ☆パンプキンが2体。事前に用意した舞台に引き寄せる為に設置した山の様に積み上げられたお菓子にに釣られてやってきていた。
如何にしてステージショーらしく撃破するか?
その問題を、彼らは『悪役に説明役を用意する』という思い切った作戦に出たのだ。
そして、その役目をかってでたのは――覚羅、その人であった。
全身黒皮製のツナギに黒皮コート手には大鎌、眼に傷の入った南瓜マスク。更に、黒いオーラをその身に纏ったパンプキンダーク。ジャスティスの好敵手な設定で、立ちふさがりし者。
これ以上無い程、燃える設定である。
大仰な身振りでダークが笑えば、オレンジ☆も真似して笑ってみせる。
「‥‥ちょっと、可愛いかも‥‥じゃなかった、みんな! ジャスティス達が大変だよっ!」
司会のお姉さんな羽衣が、サクラちっくに呼びかけると子供達が口々に応援の声をあげる。
「ひきょーだよ、じゃすてぃすは二人なのに、だーくは三人じゃないか」
「そーだそーだ」
子供達の指摘に、思わず納得しかけるダークこと覚羅。
そこへ力強い言葉が響く。
「二人じゃないぜっ! とぉお!!」
翻るマントは、バーニングカラー。
頼れる援軍、熱く燃えるは正義の心!
「熱血、爆熱、大爆発! バーニングパンプキン、ただいま参上!」
ジャジャーンとばかりに、効果音もばっちりだ。
颯爽と舞台を見回したバーニング。
しかし、何故か動きが止まるバーニング。
「‥‥って、どれがジャスティスだ!?」
がくりっ。
慌てて自分を指差す、ジャスティス。
その動きを真似するオレンジ☆パンプキン。
「ま、真似をしては駄目なのである!」
必死に訴えるジャスティス。
それをも真似するオレンジ☆パンプキン。
よくよく見比べて、バーニング――慎吾は漸く判別完了する。
「助けにきたぜェ、ジャスティス!」
親指をぐっと立てて、ナイスに笑う。
「う、うむ、嬉しく思うである。バーニング」
気を取り直して、3人はオレンジ☆とダークに向き直った。
「わぁ! やったね、これで正義の味方は3人だよ。
さぁ、皆今こそ心を一つにして応援しようね! さあ、みんなで一緒に!!」
ここぞとばかりに、羽衣が子供達へ呼びかけて盛り上げる。
応援の言葉にのせて、3人に練成強化を施した。
「決着をつけようぞ、ダーク」
「望む所だ、ジャスティス」
ダークは漆黒のオーラを広げ、大鎌『パンプキンスライサー』を構える。
負けじとオレンジ☆が『真似』をし、更に手に鋭い爪を出し、ジャスティス達へ襲い掛かった。
「くっ、美味そうな菓子‥‥オレにもよこせェ!」
「いや、それじゃ駄目だろっ」
それを迎え撃ったのは、慎吾と港。
「!」
慎吾の『漢の勲章』の名を冠した拳が唸りをあげ、キメラの小さな体は衝撃で浮き上がる。
追い討ちをかけるように港の槍が風切音と共に、その身を切り裂き、舞台の袖へ弾き飛ばす。
「頑張れ! あともう2匹だ」
子供達が声援を上げたその時、残った一体が覚羅へ襲い掛かる。
咄嗟に身を捻り、斬撃を避けた覚羅は想定していた台詞を叫ぶ。
「制御不能になっているではないか! 教授め不良品を渡すとは!」
「ははは、運にも見放されたようであるなっ。バーニング、スピア、一気に決めるである」
長剣を抜き放ち、ジャスティスが駆ける。
「必殺、槍脚風陣!!」
「いくぜぇ! 激熱、百烈ナントカ南瓜拳!!」
「デッドエンドパンプキン!!」
港の槍撃が追い詰めた隙に、慎吾の重い拳が突き刺さる。
ジャスティスの白く輝く攻撃が会場を眩しく照らした後には、小さな脅威はその場から消えていた。
●南瓜の宴
「悪魔の料理を食すがよいぞ」
悪魔な料理はベリーシロップで赤く染まったケーキにマフィン、そしてパイ。
甘い香りに、子供達は喜んでホアキンの側に集まっていた。
「食うぜ食うぜ、超食うぜぇ!」
その横で慎吾が猛然と食べ物を美味しそうに食べる。
「良い子はまねしちゃいけないぞ」
そう言いながら、お菓子を配るのはダークとして、最後に爆発炎上の演出までした覚羅だ。
今は仮面を外しているのだが、子供達にダークだ、悪だと言われると、仮面を被り高笑いをしてあげるのだった。
バロンの格好をしていた拓那は、何故かダークの仲間だと思われ追いかけられている。
とはいえ、子供の相手が嫌いではないので笑って相手をするのだった。
そして、寝坊をしすぎた南瓜モドキは西瓜のような仮面を被ってスタッフを手伝わされていた。
美人スタッフさんに指示されて、幸せそうに見えるのは気のせいだろうか。
「‥南に瓜があれば西にもある、正義の味方‥‥南瓜モドキ! 女の子の警備異常ありません! えへへ、うふふ」
祭りは黄昏に染められて、黄金色の夢を見る。
今宵ひと時、豊饒の平穏に感謝を。
戦いし戦士にしばしの休息を。
明日はまた、戦場が彼らを呼ぶのだから。