タイトル:【CE】MushroomHuntingマスター:コトノハ凛

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/26 12:07

●オープニング本文


●北限の空
 北極海と北大西洋に挟まれた、世界最大の島 グリーンランド。
 全島の約80%以上は氷床と万年雪に覆われている、北極圏に属する島。
 その凍れる大地の南西の空に、それは浮かんでいた。
 静かに、大量に、
 ただただ、それは浮かんでいた。

●要請
「と、言うわけでお仕事です」
 いつものように、生真面目に傭兵を向かえるオペレーターは、やはりいつものようにモニターを示し説明を始めた。
「今回の依頼内容は、グリーンランドの南西部に浮かぶ敵新型兵器の駆除。これが主な任務になります」
 モニターには、敵部隊の分布範囲が示された。
 ――主な? 他にもあるのか。
 オペレーターの言い回しが気になった傭兵の一人が疑問を口にすると、彼女は少し難しい顔をした。
「既に、先発の調査隊が出ていますが、まだ敵の情報が少ない為、その‥‥可能な限り情報を集めた上での撃破が望ましい‥との事です」
 報告書によれば、何らかの幻覚を見せる能力を有するらしい。
 なるほど、確かにそれは困難を極めそうだ。
「可能な限りで構いません。入学式の円滑な開催に向けて少しでも多くの敵を排除しておく必要がありますので。ですから、優先順位で言えば排除が優先です」
 分布範囲は広い、どこまで戦うか。また、どうやって戦うかが重要になって来るのかも知れない。
「現在確認できている情報も元にして、敵の排除に当たってください。敵の勢力圏も近いです、くれぐれも――気をつけて」
 そう言って彼女は頭を下げた。

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
御山・アキラ(ga0532
18歳・♀・PN
緋室 神音(ga3576
18歳・♀・FT
熊谷真帆(ga3826
16歳・♀・FT
ソード(ga6675
20歳・♂・JG
乾 幸香(ga8460
22歳・♀・AA
赤宮 リア(ga9958
22歳・♀・JG
フィオナ・シュトリエ(gb0790
19歳・♀・GD

●リプレイ本文

●接触
 北限たる氷原の上空は晴れやかに澄み渡っていた。
 時折起こるという、雪嵐も今はその影さえ見せていない。だからこそ、見渡す限りに広がる光景の特異さを誤魔化し様もなかった。
 空に浮かぶ、毒々しい色をした無数の――キノコ。

「数が多いですね」
 やや渋い顔をして目を細めたソード(ga6675)の言葉道理、目標は多かった。まだ、認識範囲外なのか目標に動きは無いが、レーダーの認識する範囲内は密度が薄いかわりに広範囲に展開されている。その数は50をゆうに越えていた。
「あぁ、思ったよりも広範囲に展開しているな」
 静かに頷いた御山・アキラ(ga0532)は、対策に繋がるものが見つかるといいが、と続けた。

 ――マインドイリュージョナー、通称MIと名付けられた新種のワーム。
 その調査と撃破が彼らの任務だった。

「長距離装備の算段を立てたのは、正解であったようだな」
 MIを見据え、雷電『忠勝』の持つスナイパーライフルを構えたのは榊兵衛(ga0388)だ。
 彼のライフルの射程距離は約600メートル――まだ、少し遠い。
「季節外れのキノコ狩りですね」
 彼に倣い、横で赤宮 リア(ga9958)もライフルをいつでも撃てるように、機械の腕で持ち直す。
 寒冷地だが、KVの動きはいつもと変わらない様に感じる。リアはそっと整備士のセッティングに感謝した。
「イビルアイズの動きも、問題ないようですね」
 乾 幸香(ga8460)の乗る機体は、まだ発売されて間もない。初期不良などの話は聞かないが、こんな所でエンストなんて洒落にもならない。
「キノコ狩りというには殺伐としてますけど、他の戦場で戦っているみんなの為に頑張っちゃいましょうね」
 そう、幸香が冗談めかしてみせるのは、未確認の兵力に対して強張る思考をほぐす為であったのかもしれない。
 フィオナ・シュトリエ(gb0790)と、熊谷真帆(ga3826)の乗る雷電も、それぞれ武器を構える。長距離戦では火力を温存する予定だが、不測の事態には備えたい。
「幻覚を見せるキノコとは、また妙な物って思ったけど‥‥本当にベニテングダケに似てるし」
「幻惑キノコ? いけません二十歳になっても駄目です」
 果たしてどんな幻を見るのか、それは掛かってみなければわからない。
「食べられないキノコに用は無いわ」
 そう、ばっさり切り捨てたのはロケットランチャーを構えた機体ディアブロに乗る緋室 神音(ga3576)だ。
 硬い氷原に機械の足跡が刻まれていく、8機分。
 それを掻き消すかの様に、強い風が吹き抜け――彼らは、射程に入った。

「まぁ、確かに。それじゃあ、作戦通りにいきますか」
 青いディアブロの乗り手の合図に、同じ依頼を受けた7人が応える。
 その瞬間、女神を抱いた機体から無数の白煙が解き放たれた――真直ぐに、目標へ向かって。

●排除
 ふわふわと浮く無数の赤い茸。ある種悪夢のような光景をみせるそれらは、風に煽られる事無く、さも当然のように他の動きを見せて居なかった。
 が、その一角が『何か』を察知して傘を動かそうとした、その時。
 ――無数のミサイルが、その一角の空域ごと爆炎で包み込む。

 カプロイア社が開発したホーミングミサイル。小型で、一度に250ものミサイルを放つ脅威の発射装置。
「何度見ても、壮観だよね」
 思わずそう、感想を洩らしたフィオナは、そのまま機体をMIの群れの方へ進めようとし、兵衛に呼び止められる。
「このまま、此処より狙撃してまずは敵兵力を削る事が上策だろう」
「生身でも倒せた機体。しかし、数が多い。囲まれると厄介だわ」
 兵衛の言葉に、神音も同意を示す。

 見れば、爆炎に飲まれたMIが浮上してくる。
「流石に、これだけで落ちてくれる程ではないですか」
 撃ち洩らした茸をソードはライフルで撃ちぬくが、多勢と言う事にうんざりする。
「でも、あの辺一体の『胞子』は焼き払えたようです」
 追撃するようにリアと、胞子を警戒しながらも、フィオナもライフルのトリガーを引く。トップクラスの飛距離を誇るライフルは、一方的に攻撃するのに適している。
 ただし、連射は利かない。厄介だ。
「一つ判った事がある。敵の足は遅いようだ」
 それを感じさせない熟練の落ち着きを、ただ行動で示してみせたのは、空の薬莢を排しライフルへ再装弾する兵衛だ。
 アキラがデータと照合すると恐らくはキューブワームと同じ程度の速度しか出ていないのではないだろうか。
「愚鈍と言う訳ですか、むしろそれは好都合っ」
 真帆は不敵な笑みを一瞬浮かべると操作盤へと指を滑らせた。
 重厚な外見とは裏腹に、素早く位置取りをした雷電から、ロケットランチャーが傘の閉じた茸へと続け様に発射される。
「いくら、装甲が熱くなろうとも、弾幕で綺麗さっぱり焼却消毒」
 更に兵衛の狙撃が茸の柄に突き刺さり、そのMIは地に落ちるまでも無く、爆散した。

 そこに来て、近寄ってくる茸たちに変化が見られた。
 最初に気が付いた、幸香が警鐘の声を上げる。
「待ってください、MIの形が――‥‥」
「‥‥傘を閉じると耐久性が上がるのか?」
 最初の攻撃を当てた目標は傘が開いている状態のもの。こちらに気が付いた一部のMIが傘を閉じて向かって来ていたのだが、撃破に掛かる時間が違っていた。

「傘は装甲と言う訳ね」
 神音はミサイルの効果が浅くなったのを、感じ取った。
 それは、望遠モニターで確認した様子、敵の動き、そして勘、数多くの戦場を翔けた経験がそれを確信させる。
 だが、それは同時に一つの不安要素も感じさせた。
「残弾数――か」
 同様の事をアキラも感じたらしい。
 敵のは歯多い。防御に徹された場合は此方のミサイルの類は弾数が底を尽きかねない。となれば、足の速さを利用して後方に離脱して距離を取ってからライフルで少しづつ落とすか――、
「総数の四分の一まで、持ち込めぬ場合は中距離戦闘も已む無しという事か」
 幻覚の危険性を考慮し、兵衛は滴る血涙を拭い思案をめぐらせる。
「ともかく、出来るだけ傘の開いてない茸を狙って攻撃しましょう」
「確かに。――その方が、効率が良さそうですね」
 真帆の言葉に従い、ソードが傘の開いた茸の茎を撃ち貫いた。
 ――長い戦いになる事は誰の目にも明らかだった。

●天翔地駆
 紫の閃光をソードは咄嗟に機体を捻らせ、装甲の厚い部分で弾いた。
「大丈夫ですか?」
「えぇ。それより、そろそろ良いんじゃ無いですか?」
 掩護をするフィオナに、ソードはMIへ気を向けつつ応える。
 数度の後退を経て、彼らはようやく次の段階へと至る条件をクリアしつつあった。思ったより時間は掛かっているが、幸い燃料の方はまだ持つと判断できる。
 そして、情報統制を担当していたアキラが望みの答えを告げる。
「敵の数、初期数の凡そ四分の一」
 いまだ未確認要素の多い敵の、情報収集。
 幻覚を操るという敵への、対抗策――何が有効で何が無効なのか。全てが次へと繋げる為の大事な情報となる。
 とはいえ、50を越える敵を相手に手探りで戦うのは危険と判断し、数を減らす事を優先していた。
 アキラの言葉で、漸く検証作業に入れる状況が整った事が知れる
「さて、次に戦う仲間の為にも、可能な限り敵の情報を収集しておかねばなるまい」
「やっと出番って事ですね。待ちかねました」
 ライフルを下げた兵衛の前に、後方待機をしていた真帆の機体が乗り出した。

 待機していて判った事がある。まず、攻撃は非物理より、ミサイルやライフルと言った物理攻撃の方が有効らしい。
 さらに、CWと違いジャミング電波も出して来ない。
 そして幻覚を見せると言う胞子だが。
 一度だけ胞子に側まで接近されたのだが、ソードのホーミングミサイルで広範囲を焼き払い事なきを得ていた。これにより恐らく胞子は爆炎などで焼き払う事が可能だという事も判明していた。
 ミサイルのSESに反応して誘導できるか? と言うものを検証したが、惹かれたモノとそうじゃないモノがあったように見えたので、確証には至らなかった。

「胞子の範囲は、少なくとも今の所400メートル辺りまでは胞子が届くみたいだ」
 遠距離を維持しつつ戦ったので、接近した場合どうなるのかはまだわからないけど、とフィオナは続ける。
 ――思案したのは一刹那。
「では、当初の予定通りまずは私と赤宮はラージフレアと」
「ロックオンキャンセラーですね」
 ブースターを焚き飛行形態になる神音の機体に、リアが続く。
 更に先を行く二人とやや距離を置いて幸香の機体も、風を斬るように飛び去る。
 ――レーダー類で使用している重力波を利用して、それに誘導させているのでは? 胞子の追尾機能の解明に効果を発揮すれば‥‥。
 その為には、彼女もMIの側による必要があるのだ。

「こちらも出るとしよう」
 兵衛の機体は『煙幕装置』の効果を確認するべく陸戦を選択し、それに真帆、ソード、フィオナが続く。
 MIは浮遊しているが、寄ってくる性質があるため、陸戦であっても影響は少ない。
 現時点での情報を確認したあと、彼らもまた地上を疾走する。四分の一となってもまだ多いと感じる茸の群れに向かって。


●幻惑
「突入します!援護をお願い致します!」
 まずスタビライザーとブーストを駆使した、音を超える速度で胞子を吐き出すMIの側へと突入したのはリアだ。
 報告のあった400メートル手前、胞子は着ていない。
 神音と幸香が追いついてくる。リアと胞子の距離は300メートルと迫った。
「胞子散布を確認。ラージフレア射出開始」
 そのタイミングで神音がリアを追い抜き、旋回するように機体を翻し、ラージフレアを投下する。
 ――ラージフレアは重力波を乱す装置。重力レーダーで認識しているのなら‥‥。
 さらに、同様の効果が望める装備が標準で付いている機体がある。それこそ、幸香の乗るイビルアイズだ。
「試作型対バグアロックオンキャンセラー起動!」
 ラージフレアに重なるように、幸香が装置を起動させた。
 目には見えない重力干渉が領域一杯に広がる。

「効果、認められません。このまま接触を試みますね」
 真直ぐに自機に向かってくる胞子を見て、3人は思考を切り替えた。
 幸い、ジャミングは無い。
 程なくして3人は幻覚に取り込まれた。


 その頃地上では、中距離での戦闘が行われていた。
「ソードさん、そちらお願いします」
 真帆はレーザーを横になぎ払う様にMIを叩斬ると、ガドリングを叩きこむ。そして横から近寄ってきた敵に対して、掩護を要請した。
 その時、見えた機体に違和感を覚える。
「はて? あの機体はおかーさんの? ‥‥って幻惑キター」
 僚機として組んでいた筈のソードに通信を開こうと操作盤を弄ると、何故か時代劇のテーマ曲がコックピットで流れ始めた。
「幻聴するとまで、聞いてないですよっ」
 そこへアラートが鳴り響く。
 確認する前に、機体が激しく揺れた。

 その異変に最初に気が付いたのは、フィオナだった。
「アキラ、きこえる? レーダー表示がおかしい。そっちでどうなってる?」
『おまえ達の位置は――』
 後方で全員の位置関係を把握していたアキラの答えはフィオナの見ていたものと、まるで違っていた――そう、レーダーまでも。
 そう思った時、アキラから警告が走った。
『フィオナ、左へ跳べッ』
 その声に、考えるよりも早く、確認するよりも疾く体で覚えた感覚が反応する。
 次の瞬間、真横を『何か』が薙いだ。
 続けざまに、『銃弾の雨』が降り注ぐ。
 衝撃で機体が僅かに揺れた――回避し切れなかったらしい。
 つまりこれは。
「――幻覚!」

『熊谷、聞えるか! それはフィオナだ』


「――成る程‥‥これが報告書にあった幻覚ですね‥‥」
 リアとの言葉に、共に胞子の効果範囲と思われる距離にいた神音は、『変わらない』風景に首をかしげた。
「こちらは変化が見られないな」
「抵抗‥‥出来ると言う事でしょうか?」
 唯一空戦班では、後方に控えた幸香の言葉に頷くが、判断するには材料が足りない。
「では、覚醒解除をしてみますね」
 リアが宣言する。
 そして、それは起こった。
 高速で飛行するKVは生身には酷な速度が出ている。そして、KVは覚醒していなければ動かせない。
 一瞬だが、主観ではそれよりももっと長く感じる時間、リアの華奢な体を凄まじいGが襲い悲鳴を上げる。
「ぐっっ‥‥かはっ」
「リア!」
 エミタが即座に強制的に覚醒を促し、肉体強化が行われたがその衝撃は拭い去れなかった。
 動転したのもあるのだろう、咄嗟に彼女は幻覚に掛かっていた事を忘れ――背後に現れたMIにトリガーを引いた。
『きゃあぁぁ』
 響いた通信にリアははっと我に帰る。
『リア、アキラの指示に従って後退して。体制を立て直すわ』


●駆除
 アキラの指示に従い『経験』から来る『感覚』を元に機体を操作し、真帆は後退した。
 幻聴と思われたのは、コックピットの操作盤まで歪んで見えた為の操作ミスで音声プレイヤーを動かしただけだった。
 MIの幻覚は乗っている人間の視覚に作用する。
 ――コックピットの中の風景とて、例外ではなかったのだ。
「あれが例の幻覚ですか‥やっかいですね‥‥」
 ソードも兵衛と共にアキラの指示で後退をしていた。
 いつの間にか、兵衛と同士討ちをしかけていたからだ。ここまでのダメージと相まって機体の損傷が大分酷い。
「どうやら、味方が敵に見えるという単純な幻覚では無いようだな」
 実際彼らは、幻覚に陥ったのに気が付くのにアキラからの通信が必要だった。報告書にあったように、味方が消える等のあからさまな違和感では無かったのも大きいだろう。
 見たものもそれぞれ違うという事も言えた。
 それは、いきなり始まる間違え探しのようなものでもあった。
 フィオナが直ぐに気が付いたというのは、常に位置関係に気を配り記憶していた事が有効だったからかもしれない。
「胞子を見過ごした場合は、厄介な代物だな。どうやら煙幕装置も役には立たぬようだ」
 未だ幻覚の中にある兵衛は、些か不快そうに目を閉じ、腕を組むと手に入れた情報を整理する。
「まだ解けない?」
「あぁ」
 それは真帆も同様で、フィオナに続きソードも既に幻覚かた解き放たれていた。
 ――やはり、回復に差がある。
『聞えるか? 空戦班も後退した。合流して遠距離からの駆除に当たるとのことだ』
「了解した。引き続き監視を頼む。また気付かぬ内に幻覚に引っ掛かっては立つ瀬が無い」
 空戦班によると、胞子は機体に張り付かなくても効果を発するらしい。極小のCWの様な物と想像すれば良いのかもしれない。
 効果は暫く続くという。

「回復次第、招かれざるお客にはそうそうにお引き取り願うとしよう」
 兵衛の言葉に異論が出る筈もなかった。