タイトル:その倉庫危険地帯につきマスター:香月ショウコ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/25 23:28

●オープニング本文


 その日、ULTに持ち込まれた一つの依頼。それは、比較的よく見かけるキメラ退治の依頼だった。しかし一点だけ、比較的よく見かけない点もあって。
「遂行には大きな危険を伴う。また失敗すれば多くの物資を失うことにもなってしまう。人数は少なくて構わない、選りすぐりの能力者達をよろしく頼む」
 依頼を持ち込んだのが、アメリカ空軍中佐(現・UPC北中央軍中佐)ジョエル・バーネット当人。しかも直接赴いての依頼だったのだ。

 ・ ・ ・

「普通、こういった依頼は下っ端が直接来るか、お偉いさんから文書か何かでぴょんと飛んでくるものですから、驚きましたよ」
 ULT職員、部下 平がそんなことを言いながら依頼の詳細について書かれた紙を配る。時々後ろを気にしているのは、隙あらば彼の上司である上司 課長が彼を遊びに引っ張り出すからだ。部下としては、こうした本来の仕事を普通に出来ていることが幸せで仕方ない。少々不謹慎な考え方ではあるが。
 さて、そんな与太話はともかく、本題に入ろう。今回ジョエル中佐が持ってきた依頼というのは、北米のとある空軍基地にキメラが侵入し、地下倉庫内に立て篭もっているのを排除してもらいたいというものだった。体長は50cmほどのリスのようだというこのキメラ、能力者(中佐本人)が入ると物陰に逃げ込んで出てこなくなり、普通の兵士など自分より弱く見える者が入ると途端に出てきて噛みつくのだという。どうにも卑怯くさいキメラだが、その歯は鋭く、足を噛まれれば骨も砕け、搬入出用の小型車両はタイヤを噛まれればホイールごと破壊されてしまうらしい。
「護衛をつけて荷物だけ運び出せればいいんですけど、中佐一人で運び出し要員全員をカバーは出来ないし、中佐一人で荷物を出してたら隙だらけで攻撃してくるし。そんな状態らしいです」
 そんなわけで兵士達は倉庫から物資を運び出せない。よって、この基地の様々な任務が滞っているのだという。
「あ、そうそう。注意事項なんですけど、その倉庫内は火気厳禁です。何でも弾薬の類が満載されてるから、火が点いたりしたらとんでもない大事故になるかもしれないそうで。あと、キメラは外見と習性と牙しか詳細は分かってないんですけど、どうやら倉庫内の物を少しずつ食べてるらしいんですよ。もしかしたら動く爆竹になってるかもしれないんで、倒す時は気をつけてください」

●参加者一覧

鏑木 硯(ga0280
21歳・♂・PN
獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166
15歳・♀・ST
蓮沼千影(ga4090
28歳・♂・FT
シーヴ・王(ga5638
19歳・♀・AA
美海(ga7630
13歳・♀・HD
白・羅辰(ga8878
17歳・♂・DF

●リプレイ本文

「よっしゃ、これで準備完了! ウォームアップとしちゃまあまあかな!」
 最後の鉄パイプの束を運び終え、白・羅辰(ga8878)は大きく伸びをする。地上から地下へと続くその通路には、万が一キメラが逃げ出しても問題が起きないよう設置された堅牢な壁。
「‥‥ああっ!!」
 問題発生。
「俺らが中に入れねえじゃねーかっ!」
 もう一仕事頑張って。
 そんな苦労の裏で、この依頼を受けた他の5人は、ジョエル・バーネット中佐から倉庫の中の様子を詳しく聞いていた。
「通路の幅は、奥まで小型車両が入れる程度の広さは確保されてるんスよね?」
 蓮沼千影(ga4090)の問いに、中佐は頷く。
「ただし、キメラが食い荒らした分は散らかっているだろうから、場所によっては足場が悪いかもしれない。囮班のメンバーは充分に注意してほしい」
 今回の退治作戦。それは、自分より弱そうな者だけを襲うキメラに対し、こちらは弱そうに見せかけた囮を放ち、倉庫から引っ張り出して倒そうというもの。
「美海、こんなに大きい武器持って囮出来ますか〜? 強そうに見えたりしませんか?」
 なるだけ小さい武器として美海(ga7630)が選定した小太刀。その長さ何と40cm! ちなみに美海は108cm。縦に2本積み上げればほぼ美海の目の高さまでやってくる。
「強そうに見せかけてキメラを避けようとする非力な少女に見えるから大丈夫だよー。逃げ足に自信あるなら武器にならないもの持って行くとか丸腰ってのもアリだと思うしねェー」
 獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166)が的確な指摘をし、美海は落ち込むようなホッとするような。ついでに護身用の武器も持たずに囮に出るのも空恐ろしいので、「小太刀も持たない方がいいんじゃ?(意訳)」という冒頭の疑問は撤回。
「確かに、下手にSES付武器を持ち込んじまったら、それで能力者って見当つけられちまうかもしれねぇです。選択は慎重にやりやがれですよ。‥‥ところで中佐、やっぱしアレはありやがらねぇですか?」
 シーヴ・フェルセン(ga5638)が右腕をぶんぶか振る仕草で尋ねると、中佐は若干申し訳無さそうに。
「さすがに、メトロニウム合金パイプはこの基地には無かったよ。使うなら、普通の鉄パイプで容赦してくれ」
 倉庫内で使用する武器としてシーヴが所望した『出来るだけ硬い金属パイプ』だが、やはり限界は鉄パイプ。もっと硬いのが欲しかったら、自分のKVを分解してこよう。
「あの、すいません。兵士の服、借りたいとは言いましたがこっちじゃなくて‥‥」
 隣室から出てきた鏑木 硯(ga0280)の姿に一同爆笑。胸の部分余りまくりの上着と、さすがに穿くわけにもいかず両手に捧げ持つスカート。やっぱり勘違いされたかと呟く中佐。

●Mission01:華麗なる囮作戦
 こっそりこそこそ、硯が倉庫内を進む。囮なのだから気付いてもらわないといけないのだが、怖がっているという設定上歌いながら行くわけにもいかない。服装は、残念ながら普通の一般兵用軍服だ。
 目的の地点までは何事も無く到達し、床に木屑などが散乱している中で、棚上部の軽めの荷物を中段に移す。
 と、気配。物音。振り返ると、反対側の棚の影から覗き込んできている何かデカいの。
 目が合う。が、キメラは襲ってこない。何か超常的な力によって硯が能力者であると見破りそうなのか、その荷物火薬だろさっさと下に降ろしてくれよ俺ら届かねーんだよとか訴えかけているのか、実は目を開けたまま眠っているのか。さあどれだ!?
 とか思っていると飛び出してきた前歯全開げっ歯目。さあ逃げろ、ミッションスタート!


 その頃。
「興味深いねェー‥‥あのデカい前歯は、床の火薬をショベルカーの如くすくい上げるのに非常に有効‥‥しかしそのくせ咀嚼の時には邪魔くさくて口からポロポロ食べこぼし‥‥未だ進化途上、この先どんな姿になっていくのか退治すると見られなくなってしまうのは惜しいんだよー‥‥」
 様子見されていた硯と対照的に、獄門は様子見の最中。小動物の食事シーンは可愛くて見とれてしまうが、この元小動物現中動物はあんまり可愛くはない。あくまで、獄門が見とれているのはこいつの生物としての非効率性。
「もう少しだけ観察を続けたいんだけどねェー」
 しかしそうもいかないのが世の常というもので。
「うわあー、助けて、キメラだーっ!!」
 多分に芝居がかった声で目前を駆け抜けていく影。大騒ぎで食事を吹き出したキメラが、音の方向を睨みつけると偶然見つかってしまう獄門。さらにおまけで、さっき走っていった奴を追っかけていたキメラも丁度よく見つけた新たな獲物の前で足を止める。
「に、逃げるが勝ちー!」
 一目散に出口目掛け走る!
「鏑木 硯、いつかスピニング寿司の餌食にしてやるんだよー!!」
 両手の指先に絆創膏を貼りまくっていた部下 平の姿を脳裏に思い浮かべながら、出口の光を求め。
 ‥‥出た!
 ぼふり。と勢い余った獄門はキメラを持ち構えていた中佐に激突し鼻を打つ。
「ぃよし来たぁー! ここに出てきたが最後、ぶっ飛ばしてやるぜっ!!」
 リス型と聞いていたキメラが可愛かったらどうしようとか少し思っていた羅辰、可愛くなかったため安心して全力流し斬り。大きく弾き飛ばされながら逃げ道を探すキメラに常に先回りし、トドメの前に出来るだけ倉庫入り口から離そうと追い込んでいく。
 もう1体のキメラは、前を走っていた奴がいきなりぶっ飛ばされたことで急ブレーキをかけたが、さらに後から走ってきた硯にぶん殴られバトルステージへ強制移送。
「爆発すんなよ、頼むから‥‥!」
 送られてきたキメラに向け、千影が思い切り爪を振るう。一撃は見事にキメラを捉え、その衝撃で羅辰特製の壁に叩きつける。
 次の瞬間。
「光った?」
 硯がそう確認したのと同時に、キメラの身体が爆発を起こす!

 すぱん。

 と。
「‥‥あれ?」
 誰もが拍子抜けた。炎も煙もほとんど無く、爆発音も風船が割れたレベル。キメラの首根っこを掴んでこれからどう安全に処理するか悩んでいた羅辰は、悩んで損したとばかりに容赦無く壁へ投げつける。すると。

 どっかーん!!

 大爆発。幸い壁の構成物の幾つかが各々の体を打っただけで大した被害は無かったが。
「‥‥個体差があるみたいだねェー」
「そのようだな」


 そして、外でそんな爆音が響いた時の倉庫内。シーヴは非常に迷っていた。
 外では2匹倒すことに成功し、残り4匹。自分と美海で1匹ずつでも持ち帰れればこの先随分楽になるが。
「た、助けてですよー!!」
 また目の前を通過する美海。そして彼女を追うキメラ1匹。
 見事キメラを引っ掛け、出口へと誘導しにかかった美海だが、どうにも運が悪く出口到達直前で別のキメラに遭遇して進路変更倉庫内もう1週コースへ。かれこれもう3週目だ。それに気付いたシーヴとしては助けてやれないこともないのだが、下手な手出しは自分の囮としての価値をなくしてしまう。どうするべきか。
「またゴール出来ないですか〜!?」
 早くも4週目に入ろうとする美海。真後ろにくっついて来るキメラは先ほどのままで、別の1匹は出口のすぐそばにぴょんと出て来て美海と仲間の通過を見送り、自分もついていこうとする。
 そこを。
「ぶっ飛べですよぉっ!!」
 先を行ったキメラの視界に入らないよう注意しながら、後ろのキメラを思いっきり蹴り飛ばすシーヴ。サッカーボールより柔らかく重い感触が脚に伝わる。横っ腹に強烈な一撃を喰らったキメラはそのまま出口のほうへぶっ飛んでいくが、しかし外に放り出すには至らず。それでも。
「これで終わりと思うなです!」
 駆け寄ってきたシーヴの2度目のシュート。それは今度こそゴールの枠内に入りキメラを叩き出す。
 既に充分なダメージを受けたんじゃないかと思わせるほどぐったりしたキメラを、硯がスキルを使うまでもなく首根っこを掴んで摘み上げる。念のために千影が水をかけておいて。
「さあ鏑木 硯、ちょっとそのまま動かずにそいつを持っておくんだよー」
 と、未だ硯が持っているキメラ目掛け、獄門が超機械で攻撃。目の前で攻撃がヒットする様は硯にとってはかなりの恐怖。ひぃぃ、と怯える硯を見た獄門の目には、いつかの恨み今晴らしたりとばかりの光が。

●Mission02:秀逸なる追い込み漁
 さすがに外で4発も花火が打ちあがると、キメラも馬鹿ではなく囮に引っかかってくれない。
「かと言って、これを着る必要性は無いと思うのだが‥‥」
 こんなもの着せても中佐はヤバい道には堕ちない! そう基地の兵達が信頼して預けてくれた女性用の軍服(スカート標準装備)を前に、中佐は愕然とする。
「でも中佐を見るとキメラは逃げやがるです。本格的に追い込み作戦が始める前にぎゃーすか騒がれてイレギュラーな動きされると面倒過ぎるですよ」
 作戦第2弾は、中佐をはじめ能力者を見ると逃げるというキメラの特性を逆手に取り、弱そうに変装した中佐らが倉庫最奥部まで行き、一気に正体を現して入り口までキメラを追いかけるもの。変装する者が最初の囮と同じ姿では中佐にスカート履かせてまで万全を期した意味が無くなるので、今度は趣向を変えて硯(スカート仕様)と千影(フンドシ一丁仕様)が中佐と共に囮を務める。
「は? ちょ、そんな話聞いてねーっす!!」
 千影がごねるので仕方ない、牛乳瓶底メガネの鉄パイプ青年として出撃で勘弁してやろう。


 こんな涙ぐましい変装努力もクリティカルな効果は出なかったようで、奥へ向かう3人にキメラは着いてくるものの、遠巻きに見ているだけ。警戒しているのは当然で仕方ないのだが、早く食いついて集まってきてもらわないことにはいつまでも変態変人のままだ。
 ならば、とばかりに牛乳瓶底千影が転びそうになる振りをして見せても、これといって反応なし。
「これを餌としてばら撒いてみるのはどうかな?」
 最奥部で中佐が示すのは、棚の上部にあってキメラが手をつけていない弾丸。試しにライフル弾を一つ放ってみると、即座に飛びつくキメラ。なので。
「おっとすまない、落としてしまった」
 片腕でライフル弾の箱を持とうとして落とす中佐。散らばる弾丸、おろおろしてみせる硯と千影。するとようやくリス達も駆け寄ってきて。
「追い込み開始!!」
 そう来ない全体に響く千影の合図で、3人は一斉に覚醒する。突如として変わったその雰囲気に、キメラは急ブレーキ急ターン。2匹とも別々の方向に逃げようとするが。
「残念だったな、ここは通行禁止だぜ!」
 声だけで相手を弾き飛ばしそうな羅辰と、
「偏食の直らない悪ガキは矯正でありやがるです」
 ずーん、と仁王立ちのシーヴに阻まれる。
 怖いおにーさんおねーさんに追いかけまわされ、向かわされるのは倉庫出口。待ち受けるのは獄門と美海。
(「そろそろこの食料庫も捨て時かな、外には弱そうなのしかいねーし強行突破だぜ」)
 とかキメラが思ったかどうかは定かではないが、2人に突撃する2匹。
「しかーし、世の中そううまくはいかないんだよー!」
 キメラが外に出、入口に後続の5人が到着したのを確認して、獄門が超機械での攻撃を開始、1匹の足を止める。もう1匹は美海に飛び掛ったが、守りの構えに入った彼女にあっさりと受け止められた。さっきまでとは立場が完全に逆転している。
「残念だったな、バイキングで食べ放題の時間は終わりだぜ!」
 獄門の攻撃を受けているキメラに、腕の爪をわざと刺さらない角度で叩き込む羅辰。それでも充分力の乗った一撃はキメラを大きく弾き。
「準備は任せろ」
「ああ、トドメだっ!」
 水の有効性が実証されたためバケツに幾つか用意された水を中佐がぶっかけ、千影がキメラの急所を狙った一撃を繰り出す。宣言どおりの一撃必殺で、残るは美海の前にいる1匹のみ。
「こっちも、これでトドメにします!」
 覚醒した故に武器との比率がさらにおかしくなった美海が、飛び掛ってきたキメラをダガーで受け、小太刀で貫く!
「あ、水」
「え?」

 ・ ・ ・

「ま、倉庫も無事だったし皆も頭チリチリにならなかったし、成功か?」
 全て終わって基地の中。千影は頬を指先で掻きながら言うが。
「頭はチリチリじゃねぇですけど」
「皆、顔とか腕とか羅辰さんみたいになっちゃいましたね」
 シーヴと硯が話す、一人もともと小麦色の羅辰はちょっと離れたところで筋トレ中。
「ほんとにごめんなさいですー!」
「この程度で済んだんだから、幸いと考えるべきだよー。そういや、中佐はどこに行ったんだろうねェー?」
 美海の頭をペシペシやりながらの獄門の問いには、硯が答える。
「中佐は、また別の基地に行ったみたいです。ここの配属じゃなくて、何かの事件を追いかけてる最中だったそうですよ」
「事件? それはまた興味深いねェー」
「殺人だそうです。手口が全く同じ、能力者だけを狙った」
 新たな動乱の予感‥‥