タイトル:亡き記憶を辿ってマスター:香月ショウコ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/10/28 04:17

●オープニング本文


 その日ULTに送られてきた映像データは、北アメリカの小さな廃墟都市で質屋のような金貸しをやっている男からの相談だった。内容は、人探し。

「貸した金の代わりに物は貰ってるからね、別に取り引きが終わりゃ客が消えようが死のうが何も関係ねぇんだけどね。取ったもんの中にこんなもんがあっちゃ、売るにしても何にしてもやりづらくってね」
 中年の男が映像の中で出して見せるのは、少し大きめで実用向きでなく、美術品と言えるような金の懐中時計。細部の装飾などは非常に凝っており、その無駄なゴテゴテ感はバグア襲来よりずっと前の、無駄さ加減がステータスだった時代の時計なのだろうと推測させる。
「この時計のここんとこにね、小さいボタンがあるんだよね。こいつを押すと時計の文字盤のとこが起き上がって‥‥っと」
 映像を撮っているカメラによく見えるように、文字盤を起こした懐中時計をカメラに近づける。大きく映し出された文字盤の裏には、30台半ばくらいの男性と、男性の腕に抱かれた小学生ほどの少女の写った写真。
「困ったもんだよね。借金のカタに出すならこういうもんは取っといてもらわないとね。いやまぁ、軽く調べてみたけど、写真取り出すには時計ぶっ壊すしかないんだけどね。切羽詰って仕方なく思い出の写真ごと売っ払ったのか、この時計のギミックに気付かなかったのか分からないけどね、どうにかしたいわけなんだよね」
 金貸しの男が言うには、この懐中時計を売りに来たのは15、6歳の少女だったという。その年頃で少女というべきか女性というべきかは判断の分かれるところだが、この男いわく「世の中を知らない奴は全てガキだ」とのことで。
 それはともかく。
「髪の色・癖、瞳の色、顔の特徴ね。この写真の子と時計売りに来た子は同じ子だと思うんだよね。顔のパーツ見てみると、きっとこの兄ちゃんはこの子の親父さんだね。‥‥さっきも言ったけど、このまんまどうこうすんのは性に合わなくてね。一度、ホントに売っちゃっていいのか確認したいんだよね」
 一応、男は男で少し捜してはみたらしい。しかし、少女の足跡は廃墟都市の中古品ショップで、どこかから流れてきたSES搭載武器を購入したところで切れているという。
「そんなもんを買うってことは、きっとエミタ適合の能力者なんだろうね。そんで、バグアと戦うために武器が欲しかったが、手持ちの金では足りない、だから売った、って流れだと思うんだよね。能力者のことだ、ULTさんの方で誰だか調べられませんかね? 見つかったら、一度確認しろって伝えてほしいんですがね」

 ・ ・ ・

 この件についてULTが調べたところ、程なくして少女の情報は見つかった。クララ・アディントン。身寄りの無い少女で、自身がエミタに適合する人間だと知って、自らの意志で身を置いていた孤児院から出、ULTの傭兵となった人物。クララが孤児院に入る前にいた唯一の肉親であった父親は、孤児院入居の3ヶ月前に蒼く巨大なドラゴンを模したキメラに襲われ亡くなっている。
 そして、そのクララの現在の居場所は。
「あれ? 依頼受けてそれに出て‥‥一人だけ未帰還。場所は‥‥この映像データの出処とほとんど同じ」
「その依頼、どんな仕事だったんだ?」
 ULT職員が互いにクララ周辺の情報を調べつつしていたそんな会話が、途絶える。
「‥‥ん? どうした?」
「いや、これって‥‥向かった能力者じゃ解決出来ないからって帰還指示出した依頼で‥‥」
「解決不可能‥‥あー、あれか。ロシアで最初確認されて、ロシア軍の戦線に風穴開けたっていう。そこに1人残ったってのは‥‥ん? ちょっと待て、もしかしてクララの親父さんをやったのって‥‥」
「『ドラゴン・オブ・ストレイタブルー』‥‥こいつだ」

●参加者一覧

鋼 蒼志(ga0165
27歳・♂・GD
烈 火龍(ga0390
25歳・♂・GP
スケアクロウ(ga1218
27歳・♂・GP
クレア・フィルネロス(ga1769
20歳・♀・FT
真壁健二(ga1786
32歳・♂・GP
フォーカス・レミントン(ga2414
42歳・♂・SN
ヴァルター・ネヴァン(ga2634
20歳・♂・FT
玉置 智史(ga2836
26歳・♂・SN

●リプレイ本文

●亡き記憶を辿って
 廃墟都市を出発して1時間。問題の村は普通にそこにあった。
 ドラゴン・オブ・ストレイタブルー。そこらの駆け出し能力者風情では太刀打ち出来ないようなキメラが徘徊しているはずの地区にありながら、村は運よく無事だった。

 村に到着後、とりあえずは手分けしてクララの捜索と情報収集に当たることになった。彼女の特徴である髪型や得物、そしてスケアクロウ(ga1218)はULT本部から借りてきたクララの写真を手がかりとして、村人達に尋ねてまわるのだが‥‥
「いないそうですよ」
 真壁健二(ga1786)の報告。ということは、既にドラゴン退治に出立してしまったということだろうか。
「そんな女の子は知らないってさ」
 鋼 蒼志(ga0165)の報告。ということは、クララはこの村には立ち寄らず、まっすぐドラゴン退治に?
「いえ、帰還者の話では、クララ様も含め全員で一度この村に立ち寄っているそうでおざります」
 ヴァルター・ネヴァン(ga2634)の証言。ということは‥‥ということは?
「村の連中がクララを匿ってる、ってことはないだろうかな」
 そう話すフォーカス・レミントン(ga2414)に注目が集まり、少しのち、皆がそれぞれにその推論の根拠に気付く。
 この村は、今現在キメラの脅威に晒されている。それも、軍の部隊や能力者がいさえすれば安心、というレベルではない、ずっと恐ろしい脅威に。そんな中で、この村はおろか村よりずっと規模の大きい廃墟都市にも、軍による庇護は無い。バグアと日夜激しい戦いを繰り広げている軍には、戦略的に価値の少ない場所の防衛に戦力を回す余裕など無い。そのためにULTに依頼をして寄越してもらった能力者も、引き上げ指示が出て撤収してしまった。村人の安心出来る生活はこの村に無い。
 そんな時に、かのドラゴンのキメラを倒したいと能力者の1人が戻ってきたら、村人はどう思うか。一般人から見れば、能力者は凄まじい力を持つ存在だ。その能力者に村に残ってもらい、可能ならば脅威を排除してもらえたら。
 そこに、戻ってきた能力者をも連れ戻そうとする一行がやって来たなら。村人は。
「どうするアルか? 村の人の協力が得られないとなると、手当たり次第に探す他ないアルよ」
 烈 火龍(ga0390)の言葉に、しかしクレア・フィルネロス(ga1769)は首を振って。
「村人は、クララさんを連れ帰ってほしくない。とすれば、私達がクララさんを発見しそうになった場合、そのことを伝えて逃がそうとするはずです。それを利用して、探しましょう」
 そして、その意図が全員に伝わったのを確認してから、クレアはわざと大きめの声で。
「それでは、手分けして村の中を虱潰しに探しましょう! クララさんは村の中にいるはずです!」
 直後。付近を通りかかった風を装って何度も近くをうろついていた男が、早足でどこかへと去っていく。その後を、シメたもんだと気配を消したフォーカスを先頭に、追跡する。

●発見釘バット少女
 村人の通報を受けて民家の一つから出てきた釘バット少女、クララを、能力者達は予め逃げ道を塞ぐように囲んで待ち構え、取り囲んだ。村人は何が起こったのかすぐには把握出来ず、クララは彼がつけられたことに気付いて歯噛みする。
「やっと出会えましたね。釘バットのクララさん」
 蒼志がそう言って、その反応から本人かどうか推察する。さすがに特徴は全て合致しているので人違いは無いと思うが、まあ念のためだ。その間、クララを取り返されたくない村人が暴挙に出ないか、フォーカスは周囲の様子を警戒する。
「クララ様。勝算は、いかほどにおざりますか?」
 ヴァルターが、開口一番そう問うた。思い出の写真の入った時計を売り飛ばして手に入れたバット一本で、ドラゴンスレイヤーとなれるものかと。
「勝てる。そう思ってなけりゃ、あの時計を売ってまで武器を手に入れようとは思わない!」
「ということは、時計のギミックについては知っておったのですな。‥‥本当に、「勝てる」と言うなら止めは致しませぬが‥‥もう一度尋ねますが、勝算はいかほどにおざりますか?」
「父親の仇を討ちたいのは分かるアルが、実力が伴わなければ犬死するだけアルよ。ドラゴンの力と自分の力にどの程度の差があるのか、君は知っているアルか? ‥‥ひとつ、私と手合わせしてみないアルか? もし私を倒せるだけの力すら無いのなら、あのドラゴンに挑むなど百年早いアルよ」
 火龍がそういい終わるや否や、クララは瞬時に覚醒し、自身の身長とは不釣合いな大きさの釘バットを火龍に振り下ろす。が、その動きは遅い。火龍も覚醒すると、縦に振り下ろされた釘バットをさらりと回避してみせる。地面を強打する釘バット。
 釘バットを構え直すと、今度は横薙ぎに一度、二度、三度、火龍に迫りながら振るう。それらをクララの歩幅に合わせて一歩、二歩、三歩、下がって避けてやる。肩で息をし始めるクララが最後に放ったヘロヘロのひと薙ぎを、余裕をもって飛び越えて後頭部に寸止めの拳を突きつける。
「これで、分かったアルか? クララ君、君はまだまだ弱いアル。無謀と勇気は紙一重、修行を積んで、強くなり、強くなって雪恨報復することを勧めるアル‥‥よっ!?」
 ブン、と腰を落とした火龍の頭上を釘バットが通過する。振り返ったクララの目には、もう火龍は見えていなかった。彼女の目に映るのは、いかにしてこの場を切り抜け、父の復讐を果たすか。そのための脱出口のみ。
 クララの視線が、健二を捉えて止まった。そして、彼目掛け一直線に走る。おそらく、健二の体格を見て一番突破しやすそうだと踏んだのだろう。得物も銃であるため、接近すれば自分が有利とも思ったかもしれない。だがしかし、その見込みは大きく外れる。
 健二の左肩から右脇腹へ、袈裟に振るわれた釘バットは、軽く身を引いた健二には当たらない。それどころか、健二が釘バットが地面を擦る隙を突いて一歩踏み込むと、そこはもう釘バットの射程外。腕を動かす余地も無く、クララの眼前に突き付けられる銃口。
「俺は食うために傭兵やってますからね。自分の命を守る技術と、全体で最大の戦果を挙げることの重要性を理解するだけの頭は持ってますよ。武器、下ろしてください」
 健二の言葉に、クララは素直に釘バットを持つ手から力を抜き、腕を下ろし。しかし次の瞬間小さく跳び退り、再び健二を殴り倒そうと肉薄する。健二は仕方ないとばかり足元の地面に威嚇発砲の構えを取り、引き金を。

 ドガン!!

 と、スケアクロウが手近な民家の壁を蹴り飛ばす。その大音響に大騒ぎだった一団は一瞬にして静まり、そしてスケアクロウ自身は民家の中から聞こえるガチャンパリンという音に「ありゃりゃ」とおどけて驚いてみせる。
「ハイ、深呼吸ー。‥‥貴女がしたいのは復讐ですか? 犬死ですか? 今遊んでもらってみて分かったでしょう。今の侭じゃあ一矢も報いられずにドラゴンのご飯になっちゃうでしょうねぇ? 力量の差を鑑みて、落ち着いてもっと現実的に考えてみなさい」
 皆が戦闘の構えを解いて、一息。誰も口を開かないのを見て、クレアが話し始める。
「貴女が復讐を願う気持ちは分かります。私も大切な人をバグアに殺された過去がありますから‥‥ですが、一人であのドラゴンに向かっても勝てないことは分かるでしょう。私達と同程度の能力者が10人でやって来ていたのに、勝ち目は無いからと撤収させられたんです。私達の一人にも勝てないようでは、犬死しか道はありませんよ。命と引き換えの一太刀も、そんな小さな傷すぐに癒えて消えるでしょう。そうしてドラゴンがまた元気に地球を飛び回るのを見るのが望みではない筈です」
 そうですよ、と、俯くクララに蒼志が追い込みをかける。視線を外し、反論をしてこないのは、真っ向からクレアの意見に対抗出来るだけの意見や意志をもっていないからだ。一度に完全に追い込むのは危険かもしれないが、復讐という目標が心に残っているうちは妙な真似もしないだろう。
「俺もあなたと同じように、家族を奴らに殺されています。だからあなたの気持ちも分からなくはないですよ。ですがね、今クレアさんが言ってたように、今のあなたではあのドラゴンを倒すことは出来ない。それに、あのドラゴンは所詮奴らの尖兵。真の復讐を果たしたいなら、ドラゴンの上の上まで叩き潰さなきゃなりません。‥‥出来ますか?」
 無言。しかし、否定の表現は無い。それもそのはず、さっきのケンカで実証されている。
「ですが、それは今の時点での話です。焦らずに自分を磨き、仲間と共に戦えば、絶対に想いを果たせる時がやってきます。ですから、悔しいでしょうが今は耐えてください。遠回りに見えますが、それが一番確実な道だと思います」
「そうですな。幸いと言うべきか、あのドラゴンは簡単に殺される相手ではなさそうやし、考えようによってはそれだけ時間の猶予はあるということにおざりましょう」
 クレアの言葉を、ヴァルターが補足する。ULTですら簡単には手を出さない相手。となれば、クレアの提案する気の長い話も、夢物語ではないと思える。
「あのドラゴンだけなら、近道もありますがね。ナイトフォーゲル使うとか」
「‥‥‥‥い」
「はい?」
 蒼志の一言に、スケアクロウのキック以降初めてクララが口を開いた。その小さな声を聞き逃し、ヴァルターがもう一度と促すと。
「ナイトフォーゲルを、使ったりする許可を得ていない」
「‥‥まあつまり、あなたがしたい事というのはそれだけ準備と覚悟が必要な事なのです。それが出来ないならやめておくことです。時計の中の写真を見てから、もう一度考えるんですね」
「ふふふ、まずはアルバイトからだぁ」

●命の使い道
「復讐を否定する気は在りませんがねぇ。当事者でも何でもない私からすれば如何でもいい話であるのも事実なんですよねぇ」
 依頼を終え、まずは廃墟都市へ戻るために車を停めていた場所に戻る道すがら。スケアクロウは誰にともなくそう言った。
「そうですね。どうでもいいと言うか、自分の命は自分の好きなように使えばいい。俺はそんな考え方をする人間ですから。責任をとる覚悟があるなら、放っておいてもいいんじゃないかと思いますよ」
 そう健二が返すのを、スケアクロウはうんうんと大げさに頷いてみせる。始めから互いにこのことについて語り合おうなどと思ってもいない二人の間に、短い沈黙。
「俺も家族がいれば、復讐に駆り立てられてしまうものなのだろうか」
 フォーカスの自問が沈黙を掻き消す。スケアクロウはやはり「当事者でも何でもない」から何も答えず、健二は同じ問いを自分にかけてから、自分が死んだ方の立場ならと前置いて答える。
「俺が戦死してから身内が俺の仇をとってくれたら‥‥。正直嬉しい展開だとは思いますよ。もっとも身内が楽しく生き続けてくれた方が嬉しいですけどね。人生は一度切りですから。身内とはいえ自分ではない『他人』に縛られた時間を過ごすなんてのは、勿体無いと思いますよ。俺の死の復讐がしたくてたまらないなら、それもアリではあるんでしょうけど」
「まあ‥‥そういう考え方もあるんだな。やっぱり実際のところは、そういう事態に現実に直面してみなけりゃ分からんか」
「アァ、人の心って複雑で面倒だぁ」